私は好きなものを沢山盛り込む人間なのです。
借り物競走の後の保健室で。
龍園翔は、天久天馬の治療を受けていた。
『医者志望としては、この後の四方綱引きと男女合同二人三脚、それからリレーも、辞退してほしいんですけれど』
『四方綱引きは無理だな。二人三脚もリレーも参加する予定は無いから安心しろ』
『何も安心できません。一番手首に負担がかかるのは、四方綱引きなんですよ』
だとしても。
プロテインでの底上げ分を踏まえても、綾小路と高円寺、それから須藤のいるBクラスに、単純な身体能力で勝てるとは思えない。知恵を使うのは勿論だが、それ以上に。
一人でも減らすわけにはいかない。
『………代役を立てるという手もあります。ポイントが足りないなら、私が出しましょう』
至極あっさりと。
十万ポイントを負担するとか言い出した。
同じクラスでも同じ学年でも先輩でも無い、会ったばかりの一年生の後輩に。
何の見返りもなく。
龍園翔は、目の前の黒髪ゆるふわツインテールの先輩に、訝しげな視線を向けた。
『………あんた、いつもそんな感じなのか?』
『割と色んな人に言われるんですよね。やり過ぎだって。でも、どうしようも無いんです』
別に、自分の価値を低く見積もっているとか、そういうわけじゃない。客観的に見て、自分はまぁ、優れている方だ。上には上がいるというだけで。
だから、安い自己犠牲とか、そんなものじゃない。
医者として、多くの命に向き合い続けた父に憧れた。
現実的に、人を救い続けるために動き続ける叔父に憧れた。
病院という組織を回すために、裏で動き続けている姉に憧れた。
天才的な頭脳で、人の全てを見通していく兄に憧れた。
天才的な頭脳と行動力で、人を救い、事件に診断を下す姉に憧れた。
人を救う医師たちに憧れてきて、自分もそうなりたいと思ったから、今も、少しでも誰かを救えるように、学び、働き、戦い、挑んでいる。
どこでも変わらないし、どこも変えられない。
『ただ、どうしても放っておけないんです』
言葉にするなら、それで十分だ。
『───ハッ、だったら、俺を止めるのは、道理に反してるぜ?』
どこまで突き詰めても、この二人の行動原理はただそれだけで。
天然ポヤポヤで小柄な女子の三年生と。
バリバリ不良の大柄な男子の一年生は。
実は、そっくりだったりする。
『………みたいですね。みんなが、りったんがどうして私をあんなに止めたのか、ちょっと分かった気がします』
『そうかよ。なら、勉強になってよかったじゃねぇか』
『随分と生意気な後輩ですね。りゅーたんは』
『随分と天然な先輩だな。天馬先輩は』
先輩と後輩は、楽しそうに笑っていた。
『………まぁ、折衷案です。怪我が悪化したら、すぐに呼んでください。五秒で行きます』
『そうかよ。頼りにしとくぜ』
そんな数十分前の会話を思い出しながら、龍園翔はゆっくりと綱を持ち上げる。
四方綱引きは推薦競技。参加するのは、男子四名、女子四名の計八名。
Dクラスから参加するのは、龍園翔と、赤羽業、山田アルベルト、石崎大地、伊吹澪、木下美野里、矢島麻里子、奥田愛美。
Bクラスからは、綾小路清隆、高円寺六助、須藤健、幸村輝彦、堀北鈴音、櫛田桔梗、小野寺かや乃、松下千秋。
Cクラスからは、神崎隆二、柴田颯、潮田渚、星穹拓人、雪村あかり、一之瀬帆波、網倉麻子、姫乃ユキ。
Aクラスからは、浅野学秀、葛城康平、橋本正義、鬼頭隼、神室真澄、森下藍、テニス部の元土肥千佳子、弓道部一年生レギュラー星穹
一番の強敵は、間違いなくBクラス。
学年最強綾小路清隆と、同等の高円寺六助、女子最強の堀北鈴音に、身体能力トップクラスの須藤健と小野寺かや乃、高い知力と筋力を身につけた幸村輝彦、バランスの取れた高スペックの櫛田桔梗、同じくバランスの取れた高スペックの松下千秋。
一人一人が粒揃いで、連携の練度も最高クラス。
「ぶっちゃけさ、アイツらに勝てると思ってる?」
「………さあな。ただ、挑まなけれりゃ可能性も生えない」
「だね」
「………それに。………お前もいるし、他の奴らもいる。案外、どうにかなるかもな」
「……………なぁに龍園?さっきの先輩に頭も治療されたの?キモイよ?」
「ね。あの龍園が、私たちがいるなら勝てる、とか」
笑い声を漏らしながら、伊吹は揶揄う。
Dクラスは、いつの間にか笑っていた。
無人島試験で、Dクラスはこれ以上ないくらいに無様に敗北した。
きっと、
でもこのバカはすぐに立ち上がりやがった。ならしょうがない。
一蓮托生だ。こいつに全部賭けると決めた。なら、少しでも勝つ確率を上げるために。
自分は自分で、出来ることを。
そうして、Dクラスは、この体育祭に備えてきた。
「────ハッ。かもな。………だったら、治療の礼も兼ねて、三年Dクラスも祝勝会に招待してやんねぇとなぁ?五億だぞ?五億」
「言えてる。じゃあさ、三年Bクラスも呼ぼうよ。金石先輩のお陰で、俺たちは美味しい思いができるわけだし?」
「はい!黒井先生には、いつもお世話になってるので、少しでも恩返しがしたいです!」
「ま、そうね。そうしましょう」
取らぬ狸の皮算用。なんて、そんなものじゃない。
勝利以外するつもりがないのだから。これはもはや、確定した事実だ。
勝つ。何としても。必ず。
「さぁ、行くぞ」
坂上先生の合図とともに、四方綱引きが、始まった。
四方綱引き開始から数分、完全に均衡状態だ。
だが、全員が理解している。この均衡状態は、薄氷の上に成り立っているものだと。
(………ま、そうなるよね)
カルマの予想通り。露骨に合わせているわけではないが、どのクラスもBクラスのいる西側の反対、すなわち東側方向に力を加えている。
単純な引き合いで、肉体スペックの暴力Bクラスに勝てるわけがない。
だからこそ、実質的な三対一。だが。
「………それでも尚、互角か」
浅野は噛み潰すようにその言葉を紡いだ。
どのクラスも決して弱くはない。特に浅野とカルマは、綾小路高円寺堀北と比べても見劣りしない基礎スペックを誇る。
一人一人相手ならまだ勝機はあるが。
流石に、三人まとめては、厳しいと言わざるを得ない。
「………やっぱやばいね。あの三人」
渚は改めて認識する。クラス間競争という舞台で、個人でも一つのクラスを相手にし得る化物が、三人同じクラスで、そのうち二人は、高度な連携を見せてくる。
まず間違いなく、最強のクラスはBクラス。
唯一合った欠点である、その他の生徒の能力の低さ、は、徐々に徐々に消え始めている。
誰も見捨てず、一人一人に真剣に向き合い、時に厳しく、時に優しく、常に前を歩き続け、常に正しくあり続ける。言葉にするだけでも難しくて、実際に行動するのはもっと難しくて、でも、堀北鈴音はそうあり続けている。
手探りで、時々失敗しそうになりながら、それでも、綾小路清隆は、常に寄り添い続けている。
人に寄り添い、笑顔を絶やさず、されど、時に強い言葉で引き留めながら、櫛田桔梗は、常にクラスメイトを思っている。
多くの人を受け止め、多くの人に寄り添い、常に最大多数の最大幸福を考えて、平田洋介は、全体の融和を目指し続けている。
誰よりも自分を鍛え続けて、誰よりも自分から学び続けて、幸村輝彦はそうやって、ふらつきながらも走り続けている。
………こんな奴らのそばにいるから、みんな、変わろうとする。強くなろうとする。
………ほんと、ずるいクラスだ。
───でも。
(………俺の)
「僕の」
「僕たちの」
僕たちのクラスだって、負けてない‼︎
「行くよ!みんな!」
一之瀬の号令と共に、Cクラスは本格的に引き始めた。
そう、Cクラスの狙いは持久戦。東側に引いていたのは、少ない力で均衡状態を作り出し、他のクラスの力を削ぐため。
徐々に徐々に、印は、Cクラスの陣地である南側へ。
誰よりも明るく、誰よりも優しく、誰よりも眩しく、クラスを照らし続ける太陽、一之瀬帆波と。
「もうちょっと!頑張ろうっ!」
柔らかくて、静かで、それでも、確かに安心できる、そんな真夜中の満月のように、クラスを照らし続けるのが、雪村あかりで。
そんな光の影に隠れて、潮田渚は、研ぎ澄まされていく。
(波長が、少しだけ乱れたね。綾小路くん!)
ドン、と、力強く地面を踏み鳴らす。
一瞬だけ、綾小路清隆は固まった。櫛田桔梗は心から驚愕する。波長が見える自分だからこそ、分かる。今のは。麻痺も本当に一瞬で、受けた本人も自覚さえしないけれど。
(───嘘でしょ。嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ⁉︎遠隔でクラップスタナー⁉︎⁉︎手も使わずに⁉︎⁉︎)
三年E組、首席卒業生、潮田渚。
その進化は、止まることを知らない。
「───舐めるなっ!」
Cクラスと向かい合うAクラスは、限界を超えて引き始める。
これまでの試合での消耗は激しい。浅野も鬼頭も神室も、Aクラス身体能力上位陣は、そろそろ限界寸前で、それでも尚、限界より一歩先の力で弾き始める。
「引き絞れっ!」
坂柳有栖と、浅野学秀。
この二人は間違いなく、Aクラスどころか学年でも隔絶していて、おそらく、単身で渡り合えるのは、赤羽業か、綾小路清隆、堀北鈴音、高円寺六助のみ。
彼らを相手にしても十分に勝ちの目はあるだろう。
そんな考えに陥りそうになったクラスメイトたちを、正面から殴り付けるように、正気に戻したのは、葛城康平だった。
入学五日目にあった、カラオケでの会議。
たった五日で、それでも、自身を遥かに超えると確信する怪物が、二人。
正直なところ葛城は、この二人がいるのなら、自分はいらないのだと思ってすらいた。
………しかし、
………
坂柳有栖も人間で、浅野学秀も人間だった。
だったら。
俺も、同じ人間なのだから。
やれる事は、ある。
葛城に引っ張られる形で、Aクラスは一人一人が本気で戦い始めた。
だから───。
(お前には感謝している。葛城!お前がいてくれたから、このクラスは、ずっと強くなれた!)
浅野学秀は、今までずっと、幸運だ。
最初から隣に坂柳有栖がいて、中学で堀北学に出会い、綾小路清隆と赤羽業と、堀北鈴音とE組に出会い、この高育で、葛城康平と、一之瀬帆波と、龍園翔と、吉田健太に出会った。
ずっと出会いに恵まれて。ずっと
だから、浅野学秀は、誰よりも強い。
Cクラスに寄り始めた印は止まり、今度は北側、即ちAクラスに流れ始める。
「───勝つわよ!みんな!」
堀北鈴音の号令に、Bクラスは腰を入れ始める。
最初から全力で、これからは全力以上だ。
「おい!正座のしすぎで弱ってねぇだろうな高円寺ぃ⁉︎」
「君の方こそ!少し疲れているんじゃないかねレッドボーイ‼︎」
「喋る暇あったら力入れろ馬鹿どもっ‼︎」
「ナイス一喝、啓誠!」
「あっはっはっはっ!」
「っくそっ、笑うなよ櫛田っ、私もつられるだろうが!」
「っ、でも、今っ、私最高に楽しい‼︎」
「奇遇だね櫛田ちゃん。私もっ‼︎」
「なんだ松下もか。私もだっ」
みんなバラバラだ。
それはそうだ。
どれだけ堀北鈴音が優れていようとも、それだけで、何かが変わるのかと言われたら。
きっと、何も変わらない。
でも、変わったのは堀北鈴音だけじゃなくて。
ビッチ先生に肯定されて、E組に寄り添われて、過去を乗り越え、強くなった櫛田桔梗と。
殺せんせーに導かれて、E組と笑い合って、松雄に見守られて、堀北鈴音と櫛田桔梗に、一度
孤独にして孤高にして最強にして最高で、このクラスで、生まれて初めて、自分と並び立つ強者たちに出会い、彼らが変えたクラスの中で、確かな友情を育み、より完成した、高円寺六助。
そして、綾小路清隆という、友にして憧れにして師にして目標にして、相棒に出会い、新しい自分に変わり始めた、幸村啓誠が。
E組で築き上げた縁が、
いつの間にか、頂点の一歩後ろまで来た。
なら、後は、辿り着くだけだ。
「勝つぞ!皆!」
初めて響く、綾小路清隆の号令に。
みんな笑って、答えた。
「おうっ!」
須藤が。
「無論だともっ!」
高円寺が。
「勝つぞっ」
啓誠が。
「一番っ」
松下が。
「強いのはっ」
小野寺が。
「「私たちよっ」」
鈴音と桔梗が。
そう叫び、縄の印は、徐々に、西側へ。
そんな中で、伊吹澪は心から叫んだ。
「負、け、ん、な、ぁああああ‼︎」
悔しかった。悔しかった。
龍園の下につくことを選んで、アイツの言う通りに動き、アイツの言う通りに戦っていた私にとって。
綾小路の力を借りるでもなく、堀北の力を借りるでもなく、櫛田の力を借りるでもない。
自分で考え、自分で戦い、自分で勝った山内春樹が、ずっと羨ましかった。
『自慢できるから。最初にコイツに騙されたのは、私なんだって』
───自分で言ってて、腹が立った。
あぁ、クソ、クソ、クソ、お前のせいだからな山内。
こんなに勝ちたいのは。
こんなに超えたいのは、全部お前のせいだ。
「覚えとけよ!山内ぃぃぃぃぃ‼︎」
「えっ、何急に。怖い怖い怖い⁉︎」
休憩所で声の限り応援していた山内春樹は、心からビビった。
「ガンバリ、マショウ!」
覚えたての拙い日本語で、力の限り縄を引きながら、アルベルトはそう声をかける。
三年Aクラスとのバレーで、途中で外れることができた時、本当は、安心していた。
あんな化け物たちに勝てっこないって、そう思ったから。
でも、あそこに立ち続けた彼ら彼女らは、勝つために戦い続けて、どれだけ傷つこうとも、挑み続けて。
最後に、龍園翔が、決めた。
だから、アルベルトは、自分を恥じた。
自分を恥じて、強くなろうと、そう決めた。
「勝つぞぉぉぉ‼︎」
石崎大地は、龍園という男に憧れて。
憧れた人間が恐れる、赤羽業を、尊敬した。
龍園と対等に渡り合う赤羽業が、羨ましかった。
龍園の目標になった赤羽業が、妬ましかった。
自分はどこまで行っても龍園を信じてついていくことしかできなくて。
龍園さんの先を歩くことなんて出来なくて。
龍園さんを止めることなんて、もっと出来なくて。
だから、せめて、強くなろう。
強くなって、いつか、最初は、龍園さんに、頼られるようになろう。
いつかは、止められるようになろう、と、そう決めた。
「勝つよっ!」
「うんっ!勝とうっ!」
木下美野里と、矢島麻里子は、陸上部で。
二人の化物を、ずっと見てきた。
翔子先輩に勝てるわけない。詭々先輩に勝てるわけない。
だから、負け続けるのも、仕方ない。
そうやって、あの二人の影すら踏めなかった自分たちを、慰め続けて。
堀北鈴音たちは、翔子先輩に勝った。
認められなかった。受け入れ難かった。
そこから、強くなろうと決めたのが、麻里子で。
そこから、アイツらは強くなかったんだって、私が弱いわけじゃないんだって、そう言い訳したのが、私だった。
ポイントも、理由の一つで、でも、気付かなかった私の心の中に、そんな気持ちがあったことに、今日、やっと気付いた。
…………赤羽業に殺されかけたあの時、走馬灯みたいに、これまでが過って。
私は、弱い自分を隠す為に、誰かを害そうとしたことに、気付いた。
だから、まぁ。
ぶっちゃけ普通にトラウマだし、これからも、顔合わせるたびに足震えそうになるけど。
でも、一応、感謝はしとく。
…………それに、椎名様に許されたあの時に、弱い私が、認められた気がしたから。
弱い私を、心にちゃんと、抱えたまま。
私は、強くなるって、今日、そう決めた。
「勝ち、ましょう‼︎」
私は、ずっと、後悔しています。
カルマくんに、あのウィルスを渡したあの時。
私は、あの時はまだ、心から、一年Cクラスが好き、というわけではなかったんだと思います。
だから、別に止めるつもりもありませんでした。良くないことだとは、分かっていたんですけどね。
でも、椎名さんは、違いました。
良くないことだとは分かっていて、でも、止める事はできなくて。
だから、自分で毒を飲むことを、選択しました。
…………今なら、分かります。椎名さんは、その身を持って、カルマくんに教えたかったんです。
こういう、誰かを傷付けるやり方は、巡り巡って、いつか自分も傷付けるって。
…………でも、カルマくんにそれを選択させたのは、私たちでした。
私たちが、一年Cクラスが弱かったから。………きっと、龍園くんも、含めて。
『実力が全て』、『強さが全て』、『結果が全て』。
この学校の教えは、確かに、必要な事で、大切な事、だと思います。
でも、実力って、何でしょう。
強さって、何でしょう。
結果が良ければ、過程は、どうでもいいんでしょうか。
────そうじゃないことを、私は、殺せんせーから、教わったはずです。
…………きっと、あの時のカルマくんは、冷静じゃなかったんだと、思います。
勝つことを求められて。
でも、クラスを、仲間を信じられなくて。
何より、相手には、
自分も、クラスも、誰も彼もを傷付けることでしか、負けない方法を、見つけられなくて。
でも、それは、上手くいってしまいそうでした。
上手くいって、その先で、カルマくんは、どうなってしまったのでしょう。
きっと、良くない未来が待っていたような気がします。
だから、私は、形のない、でも、良くないものだと分かりきっている未来よりも。
私は自身の手で関わって、少しでも、綺麗で、かっこいい未来を、手繰り寄せようって、そう思いました。
だから、クラスの為に、私の力を使うと決めて。
色々と、効能のヒアリングだったりを繰り返す中で、いつの間にか。
このクラスが、好きになりました。
我ながらチョロいですね。
ちょっと、その、それで張り切りすぎちゃって、ゾンビを沢山生んじゃったのは、反省点です。
次に活かしましょう。
そうです。次です。
私達は、未来ある学生なんです。
何度転んでも、何度失敗しても、何度死んでも。
そこで終わらない。終わりじゃない。
それも、殺せんせーから、教わりました。
最近だと、黒井先生からも。
はい。だから。
いつかの次で、勝つ為にも。
いいえ、今この時、勝つ為にも。
私は、強くなります。
「───ハッ、だよな。勝とうぜ」
俺にとって、赤羽業は、卒業までに殺すべき
んで、まぁ、悪いこと、させちまったやつでもあった。
今から思い返しても、無人島試験の0ポイントスパイ作戦は流石に無理があった。
Dクラスだと、幸村には初手から完全に見抜かれて、山内に騙され通して利用されて、Aクラスは椎名じゃなきゃ逆に全部抜き取られて、Bクラスからは何も引き出せなかった。いやまぁ、化物がいるってことが分かったのは、でかいんだけどな。
ていうか多分化物は潮田だろ。棒倒しとか見る限り。
いやまぁ、あの感じ、分かったところでまだどうしようもなさそうだけど。
とにかく、あん時の俺は、きっと弱かった。
弱い癖に、一丁前に歯向かって、真正面から止められても、どんだけ殴り倒されても、きっと、止まらなかったから。
だから、アイツは、毒を飲んだ。
自分も他人も、ひたすらに巻き込んで。
……………上手くいっちまったら、俺もアイツも、ドンドン暴走し始めたんだろうよ。
でも、そうはならなかった。
椎名のお陰だ。アイツが、自分と奥田を犠牲にして、赤羽のやつをぶん殴ったから。
アイツは、そこで止まれた。
……………俺が、最初から強けりゃ、椎名と奥田が犠牲になる必要も、無かったんだろうが。
まぁ、過ぎたことを、いつまでも追ってちゃ、変わるもんも、変わんねぇ。
反省はしろ。後悔もしろ。でも、
…………問題は、今勝てるかってことなんだよな。
勝つつもりは勿論あるけど、ぶっちゃけ勝てる気はしねぇんだわ。
まぁ、やるだけやるか───。
「───勝つよ。…………勝つ、ぞ‼︎」
赤羽の叫び声が、聞こえた。
あぁ、くそ。
お前が、『勝つぞ』、とか叫ぶんなら。
もう、勝つしかないだろ‼︎
『龍園くんとカルマくん用に作ったこのプロテインには、もう一つの効能を持たせています。………まぁ、正直、上手く効くかは、分かりませんが』
『………?どういうことだよ?』
『『火事場の馬鹿力』、あるでしょう?あれ、脳のリミッターが外れて、大体三十六倍くらいの力が出せるようになるって、医学的にも証明されているものなんですが、この『脳のリミッター』を外すってのが難儀でして。『火事場』、とあるように、命の危機でもないと、『脳のリミッター』は外せないんです。………で、まぁ、このプロテインなんですけど、脳を錯覚させて、『リミッター』を外させることが狙いの効能を、持たせています。正直上手くいくかは、分かりませんけどね』
『………なんで?』
『実験とか出来ないので。『リミッター』は、力に体が耐えきれないから存在してるんです。で、実験で『リミッター』を外したりしたら、その』
『怪我するってこと?』
『まぁ、はい。怪我した状態で、本番で、『リミッター』外しちゃったりしたら、その………』
最悪、命に関わるかもしれません。
今がっ、その時だろっ。
大丈夫だ。もし手首ぶっ壊れても。体のどこかがぶっ壊れても。
天馬先輩は、五秒で来るって言ってたし‼︎
「うっらぁぁぁぁああああ‼︎」
実は奥田愛美のプロテインには、そんな効能は無い。
奥田愛美の狙いは、『プラセボ効果』。
丸めたティッシュを薬だと思い込ませて飲んだところ、本当に体調が良くなる実験に基づいた心理学用語である。
プロテインの他の効能は、確かに存在するので。
『プラセボ効果』も狙えるかもしれないな、という、1%の期待と、99%の賭けである。
そして、奥田愛美は、賭けに勝った。
Aクラスは驚愕する。
Bクラスも驚愕する。
Cクラスも驚愕する。
何だったらDクラスも驚愕する。
気合いと根性と思い込みで、『脳のリミッター』をぶっ壊した龍園翔は、大体三十六倍の力で、印を一気に、Dクラスの陣地の、西側に持ってきた。
四方綱引き、一年Dクラスの勝利である。
勝利に沸きそうになって、次の瞬間。
左手首を抑えながら、盛大にぶっ倒れた龍園翔に、Dクラスは、唖然として。
「はーい。ごめんなさい。ちょっと通りますね〜」
ゆるふわな声が響いて、いつのまにか龍園の傍で、片膝をついている。小柄な黒髪ゆるふわツインテの、女子生徒がいた。
「…………とに、五秒で来んのかよ」
「はい。医者志望として、患者に嘘はつきませんから。それで、どこが痛いですか?」
「…………痛いっつーか、左手首が死ぬほど熱い。あと、右足首も、同じくらい熱い」
「あちゃーー、この腫れ方、多分どっちも折れてますね。取り敢えず保健室行きましょう。れおたん。運ぶの手伝ってください。りゅーたん重くて私じゃ無理です」
「良いだろう」
手首と足首に万が一にも触れないように注意しながら、獅子上玲央は、龍園翔を肩に担いだ。
ぺこりと一年Dクラスに一礼して、保健室に向かおうとする獅子上玲央に着いて行こうとする天久天馬に、カルマが声をかけた。
「───ねぇ、龍園は、大丈夫なの?」
振り向きながら、天久天馬は、笑う。
自慢げに、堂々と。
「御安心を。私は東京都東久留米市全域の地域医療を支える、病床六百を超える大病院、『天医界総合病院』の、院長一族の末っ子」
天久天馬、ですから。
天久鷹央の推理カルテ、面白いですよね。
読んでる人います?いたら教えて下さい。