殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 一年前の時間、スタート!


 嘔吐表現あり!


一年前の時間
南雲雅の時間 一時間目


 俺は、六人の中で一番遅かった。

 俺より前を走ってた浅野は、俺を見向きもせず、すぐさま卜部が運ばれた保健室に向かっていった。

 堀北先輩と金石先輩は、眩しそうに一年生共を見ていて。

 綾小路と赤羽は、楽しそうに笑い合っていて。

 俺だけが、取り残されてた。

 

 不意に、いつかの言葉達が、顔を出す。

 

『ごめんなさい。南雲くん』

『ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい。南雲くん。ごめんなさい』

『ごめん、なさい………』

『…………すまなかった。南雲。俺は、きっと間違えた』

『ごめんね。雅』

 

 その言葉達と共に、俺が吐き出し切ったはずの感情達が、腹の底から湧き上がって来て、気道を叩いて、塞がっている喉が開いて、閉じていたはずの口が開いて、()()()()()()()

 

「───おぇぇ」

 

 そうしてぶち撒けてぶっ倒れて。

 堀北先輩達が走り寄ってくるのを、薄らと感じ取って、俺の意識は、一年前に飛んだ。

 

 

 

 自己評価ではあるが、俺は天才だ。

 少なくともこれまでの一生で、俺は自分に並ぶ人間を見たことがない。

 ずっと退屈で、ずっと暇だった。

 この学校に来た時も、そう思っていた。

 俺に並ぶ人間はいない。超える人間なんて尚更だ。

 

 ………ただ、入学初日に、入ろうと思って体験したサッカー部で。

 

『やっほー先輩。初日から、いつものやつ、頼んでもいいかい?』

『───ハッ、今度こそテメェを止めてやるよ』

『いつも通り、オールインだ』

 

 あっさりと全財産を賭けた、サッカー部の部長でGKとその先輩のPK勝負は、その先輩の圧勝だった。

 

『………はぁ、くっそ。何で毎回読み逃すんだよ』

『はっはっはっ。PKは基本的に、二者択一のギャンブルだ。………ギャンブルで、僕が負けるはずはない』

『………やれやれ。相変わらず、二年生は化物だな』

『僕よりもよっぽど、学の方が化物さ』

 

 興味が湧いたから、その先輩に挑んでみた。

 

『………名前、聞いていいっすか、先輩』

『ん?僕かい?僕は、金石博。君は?』

『南雲雅。一年生っす。………PK勝負、してみたい、です』

『───いいだろう。後輩から巻き上げる趣味はないからね。今回は、賭けはなしで頼むよ』

 

 俺と金石先輩のどっちがより多く点を決めるかの、PK勝負は。

 結局、真夜中になるまで続いても、決着が付かなくて。

 金石先輩は、笑っていた。

 

『───凄まじいガッツだ。南雲。今年の一年生は、とても面白そうだね』

 

 この人は確かに凄くて。

 今までで、一番凄い人だと思って。

 次の日、もっと凄い人に、会った。

 

 部活動紹介の時、その人が壇上に上がった。

 ただ、上がっただけだ。

 ただ、立っただけだ。

 ただ、それだけなのに、全員が押し黙った。俺も含めて。

 その人の、名前は。

 

『私は──堀北学。一年前から生徒会長を務めている、現二年生だ。生徒会は、一定の実力があるものを歓迎する。そして同時に、生徒会と部活動の両立はできない。留意してほしい。

 ───もう一度言おう、我々は、一定の実力があるものを、歓迎する』

 

 俺には、その一定の実力がある、自信があった。

 

 だから、入るつもりだったサッカー部じゃなくて、生徒会の扉を叩こうとして。

 生徒会室の廊下に入ったところで、生徒会室から出てくる、ちんちくりんを見つけた。

 そいつは、俺の顔を一瞬だけ見た後、興味を失ったかのように、そのまま去った。

 …………何だか、腹が立ったけど、俺は気にせず、生徒会室の扉を叩いた。

 

『入れ』

『失礼します』

 

 生徒会室に居たのは、堀北先輩と、お団子ヘアの小動物みたいな女子と、片目を隠した男子。

 片メカクレは、少し見所がある気がするけど、お団子ヘアは雑魚だと思っていた。

 

『一年生のようですね。名前とクラスを聞かせて下さい』

『南雲雅。一年Bクラスです』

 

 お団子ヘアは一瞬固まったけど、堀北先輩とメカクレの先輩は自然体だった。

 

『成程、それで、どうして生徒会に?』

『無論、生徒会に入りたいだけです』

 

 テストでも受けさせられるのだろうか。

 ただ、何が来ても、自分は合格できる自信があった。

 

『一つ聞きたい。南雲雅』

 

 堀北先輩の、声が響く。

 自然と、姿勢を正して、緊張した。

 

『────お前は、自分が幸運だと思うか?』

 

 …………?何を、言っているのだろう。

 

『………まぁ、恵まれては、いるでしょうね』

 

 才能に恵まれた。容姿に恵まれた。色々なものに恵まれた。

 だから俺は、きっと幸運だ。

 

『………そうか』

 

 堀北先輩は、少しだけ、()()()()()()()()()()()()()()

 …………何で?

 

『────態々足を運んでくれたところ申し訳ないが、君を生徒会に入れるわけには行かない』

 

 その言葉に、俺は、とんでもない衝撃を受けた。

 何で?何のテストも受けていない。もしかしてさっきの問答か?

 でも、問題があったような、気はしないけど。

 

『…………その、理由を教えてくれませんか』

『単純な話、()()()()()()()()()()()()。それだけだ』

 

 俺が、世界を知らない?

 何を言っているのか、分からなかった。

 ただ、少しだけ、気に入らなかったから。

 

『……………分かりました。また今度、来ます』

 

 それだけ言って、俺は生徒会室を後にした。

 

 神田元は、堀北学に話しかけた。

 

『────彼には、中々に見所がある。まぁ、卜部には流石に劣るがな。別に入れてもよかったんじゃないかい?』

『…………彼は、自分が強いと、そう思っている』

『南雲雅、彼の入試の順位は、次席。首席こそ卜部に譲ったが、それでも、十分に強いだろう?』

『…………精神的な話だ。彼はおそらく、()()()()()()()()()()()()()()

『ふむ。君や私と生徒会で過ごす中で、崩れると言いたいのか?彼なら、その程度いくらでも踏み越えて来そうだが』

『…………いや、卜部の話だ。先輩なら、奴はリスペクトしつつも、踏み越えようとするだろうが。同年代で、格上には会った事がないだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

『…………?入試の点数は、確かに卜部が上だが………』

『入試では、な』

 

 堀北学は、よく知っている。

 卜部藤乃という少女の、化物ぶりを。

 彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────そう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実の息子の、浅野学秀よりも。

 

 

 数日後、俺は、この学校の仕組みに気付いて。

 だから、俺は生徒会に入れなかったのだと、そう納得した。

 生徒会に入る為に、俺は、Aクラスに上がることにして。

 

 まずは、CクラスとDクラスを支配した。

 

 まぁ、刃向かわれたら面倒臭いからな。力を削ぐことと、Aクラスへの攻撃も兼ねて、中間テストの時、別の問題を混ぜた過去問を、CクラスとDクラス、それからAクラスにばら撒いて、最終的に、Dクラスから、三名の退学者が出た。

 

 …………ただ、Aクラスは、俺たちBクラスと同じく、平均百点だった。

 俺がばら撒いた毒は、容易く飲み下されたわけだ。

 逆に燃えて来た。これだけのやつらを倒せたなら、俺は間違いなく生徒会に入れる。

 そう信じて、闘志を燃やしていたときに。

 

『ごめんなさい。少し良いかしら』

 

 俺たちの、一年Bクラスの教室に、生徒会室から出て来たあのチンチクリンが、来た。

 交友関係の広いなずなは、そいつのことを知ってたらしい。

 

『あっ、卜部さん!どうしたの?』

『朝比奈さん。一昨日ぶりね。そうね。南雲雅くん、いるかしら』

 

 何だ?告白か?生憎こんなちんちくりんに、そんな感情を抱くわけないんだが。

 

『俺が南雲だが。何か用か?』

『────ふぅん。あなたが、南雲くんなの』

 

 奴の視線は、俺の全身をくまなく観察しているようだった。

 

『告白なら勘弁してくれ。幼児体型は俺の守備範囲外だ』

『雅さいてー』

『それはコンプレックスなの。あまり触れないでくれる?』

『はいはい。悪かったな。で、何のようだ?』

『これ返すわ。使()()()()()()()()

 

 サラッと、ちんちくりんが俺に手渡して来たのは。

 

『…………はっ?』

 

 ()()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いや、いやいやいやいやいや。

 ────何で俺だと分かった。

 

『───おいおい待ってくれよ。俺は別に、Aクラスに過去問なんて渡してないぜ?』

 

 どこから漏れた。誰が漏らした。

 複数人の手を介して、Aクラスに買わせた筈だ。

 万が一にも、俺に行きつかないように。

 

『………そう。私の勘違いなら良いのだけれど』

 

 卜部は、俺の全てを、見透かしているようだった。

 

『………嘘をつくとき、少しだけ、左唇の端が、上がるのね』

 

 ───何を言われたのか、分からなかった。

 

『………じゃあね。南雲くん。()()()()()()()()()()()()()

 

 それだけ言って、卜部は教室から出ていった。

 

 

 Aクラスを陥れる為に、俺は、俺に考えつく限りの手を、一学期の間、切り続けていた。

 

 Dクラスの奴らを操って、複数人で、Aクラスの生徒、特に卜部を襲おうとして。

 そいつらは全員、襲撃の為に待機していたところで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、叩き潰された。

 

『───全く。君でなければ、こんなことするつもりは無かったのだがな』

 

 九重九十九は、いつかの未来で、浅野学秀にこう言った。

 

『藤乃の指揮の元、一年Aクラス、つまり私と桐山と鬼龍院は、南雲率いる一年Bクラスと互角だった』

 

 ───そう。鬼龍院楓花は。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()

 

『────藤乃からの伝言だ。こういうのは()()()()()()()()()()。だとさ』

 

 ()()、だって?

 どこまでも、コケにしやがって………!

 いいさ。お前が、その気なら……!

 徹底的に、やってやる……!

 

 何人かの三年生の先輩を通じて、卜部の悪評を流して、孤立させようとして。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それなりのポイントで、操っていた筈だったのに。

 

 Dクラスの奴らに、卜部を含めたAクラス女子連中を、バレないように着け回させて、精神的に疲弊させようとして。

 ()()で、D()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 バレないように、証拠は握らせないように、動かしていた筈だったのに。

 

 ポイントでAクラスの生徒を釣って、卜部の私物を盗ませて、クラス内の分断を煽ろうとして。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まだ、私物が盗まれた訳ではなかったのに。

 

 何度も、何度も何度も何度も何度も。

 俺の攻撃は、悉く防がれて。

 何より、腹が、立ったのは。

 アイツが一度も、攻撃してくることは、無かったことだ。

 

 

 そう。九重九十九は、一つ勘違いしていた。

 完全に互角だと、九重九十九は思っていた。

 卜部藤乃は、防ぐので精一杯だと思っていた。

 

 真実は、違っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だって、これまでの南雲の攻撃は全部。

 卜部藤乃にとっては、片手間でどうとでも出来る、面倒事だったのだから。

 

 

 そして、期末試験の数週間前。

 卜部が、生徒会室に訪れるのを、目にした。

 

 俺は思わず、その後を追って、生徒会室に飛び込んだ。

 

『───何のようだい。南雲くん』

 

 メカクレの先輩が、俺に話しかけてくるが、そんなのよりも、俺は、卜部を睨んでいた。

 

『………お前、生徒会、入るのか』

『えぇ。まぁ。堀北先輩のためなら、多少の()()()()、構わないもの』

 

 俺が、入れなかった生徒会に。

 卜部は、簡単に入れる。

 堀北先輩は、卜部は認めて。

 俺を、認めなかった。

 

『───勝負しろ!卜部!期末テストの順位で!』

 

 俺は初めて卜部に真正面から挑んだ。

 

『───勝った方が、生徒会入りだ‼︎‼︎』

『………えぇ?何でそんな面倒なことしないといけないのよ。ていうか、生徒会に入れるかどうかは、堀北先輩が決めることよ』

 

 堀北先輩は、俺を、見据えながら。

 

『───良いだろう。勝利した方の、生徒会入りを認める』

 

 そう、受諾した。

 

 卜部は、とても面倒臭い、という顔を崩さなかった。

 それが何よりも、腹立たしかった。

 

 初めて、俺は、全力で対策した。

 クラスでの勉強会にも参加せずに。ひたすらに、自分を鍛え続けて。

 

 そして、期末テスト当日。

 

 俺は、確かに問スターどもを蹂躙していって。

 …………でも、どの科目も、最終二問スター(二問)難易度(強さ)だけは、異次元だった。

 触れることすらできずに、一方的にその問スターに殺されて。

 俺は、負けたと思った。

 

 生徒会室で、俺たちは、それぞれの答案用紙を、堀北先輩に見せて。

 堀北先輩は、勝者を告げた。

 

『───()()()。お前の生徒会入りを認める』

 

 何を言っているのか、一瞬分からなくて。

 でも、俺は勝ったと思ったから、心から、嬉しくて。

 ………………直ぐに、全てが幻想だったことに、気付いた。

 

 メカクレの先輩が、答案用紙を覗いて。目を見開いて、そして、戦慄していた。

 

『────…………君は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何を言っているのか、分からなかった。

 

『────()()()()

 

 何を言っているのか、分からなかった。

 

『………………ここまで、とはな。……………学。本当に、彼女を生徒会に入れなくて良いのか。

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『────確かに必要だ。しかし、結果は結果。勝ったのは、確かに南雲だ』

 

 何を言っているのか、分からなかった。

 

『待っ、て下さいよ。何、言って、るんですか。───勝ったのは、俺なんでしょう⁉︎』

『…………学。話した方が良いと、私は思うよ。南雲なら、そう簡単に折れはしないだろう』

『────そう、だな。………南雲。お前に取って、辛いことだろうが、構わないな』

『な、にが………?』

 

 メカクレの先輩が、俺に、卜部の解答を、見せてくる。

 

『─────は?』

 

 そこにあったのは、惨憺たる結果。

 どのテストも、赤点スレスレで。

 ─────いや、違う。これは、嘘だろう⁉︎

 そんなこと、出来るのか⁉︎

 

『卜部。確か、一年Aクラスには、季節外れのインフルエンザで、()()()()()()()()()()()()()()()()()

『…………まぁ、はい。流行病は、どうしようもないですから』

『その生徒が、まともにテスト対策出来たのは、良くて二日。この高育の難易度を考えたら、赤点は免れない』

『…………その、あの子が退学になるのは、嫌だったので』

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

『テスト前に、クラスで勉強会をしておいて良かったです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

『それに、授業の進め方、板書の取り方、教員一人一人の好みから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、小テストの形で、雀、インフルで倒れちゃった子に、覚えさせました』

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

『最終二問の難易度が少々厄介だったのも、好都合でした。()()()()()()調()()()()()()()()

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

『──────一つ聞きたい。卜部』

『何でしょう。神田先輩』

『………この最終二問、君なら、解けるのか』

()()()()

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

『その、南雲くん。ごめんなさい』

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

『私は、あなたとの勝負よりも、()()()()()()()

 

 ────何を言っているのか、分からない。

 

『だから、その。改めて。ごめんなさい。南雲くん』

 

 ただ、分かったのは。

 俺は、天才なんかじゃ無かったってことだった。

 

 

 最近の天気は荒れがちだから。

 突発的なゲリラ豪雨の中を、それでも俺は、傘もささずに、歩いていた。

 生徒会に入れたから、何だ。

 偶々だ。偶々。

 運良く卜部の友達が倒れたから、勝てただけだった。 

 俺が、問題文を理解することすらできなかった最終二問を。

 卜部は、完全に理解して、()()調()()()使()()()()()()()()()

 

 ………今なら。堀北先輩の言葉が、分かる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()

 自分よりも圧倒的に強い、()()()()()()()()

 俺は、会った事がなかった。

 ……………それは、ある意味幸運で。でも、ある意味不運だった。

 ……………どう転んでも、いつか必ず、卜部は生徒会に入る。

 ……………あんなのを見せられた後で、俺の方が卜部よりも優れているなんて、口が裂けても言えなかった。

 ……………俺が入れるなら、卜部が入れないとおかしいんだ。

 

 差が、ありすぎるから。

 

 なぁ。おい。嘘だろう。

 

 アイツと、やり合えってのか。

 Aクラスになる為には、アイツに、勝たなきゃなんないのか。

 …………無理だろう。

 

 雨に打たれながら、俺は絶望する。

 

 俺一人で、どう勝てって、言うんだよ………。

 

 不意に、傘が、俺を守った。

 

『───風邪を引くわよ。南雲くん』

 

 そこに、いたのは。

 一年Bクラスの担任、翡翠(ひすい)(めぐみ)だった。

 

『───何か悩みがあるなら、聞くけれど』

 

 薄い緑の目を細めて。生徒を思う教師のように、翡翠は笑った。

 

『ほら、冷えているでしょう。少しでも温かいものを飲みなさい』

『ありがとう、ございます』

『────それで、何があったのかしら』

 

 ポツリポツリと、南雲雅は話し出す。

 卜部藤乃という化物には、勝てる気がしないということを。

 

『…………俺一人で、アイツに勝てるわけが………』

 

 ────でも、そうだよな。

 なずなもいる。殿河もいる。溝脇もいる。影乃もいる。

 俺が、一人じゃなかったとしても───。

 そうだ。それに。卜部は、俺のように、誰かを利用して、罠に嵌めるようなことを、一切しなかった。する必要がなかった。

 きっと、堀北先輩もそうだ。金石先輩だってそうだった。

 …………もしかしたら、俺は、間違えていたのかも───。

 

 温かい飲み物を飲んで、落ち着けたから、そう、考え始めて。

 

『あなたなら一人でも勝てると思うけれど』

 

 そんな言葉に、衝撃を受けた。

 ……………知っている筈だ。この人は。

 だって、教師なんだから。

 

『───何を、言ってるんですか。卜部ですよ。あの、………っ、化物ですよ⁉︎

 俺なんか、逆立ちしながら片手間で負ける………!アイツは、それだけの………!』

 

 毒蛇(言葉)が、南雲雅の中に入り込んでいく。

 

『あなたが今回負けたのは、あなたの努力が足りなかったからよ』

『足りない………⁉︎寝る間も惜しんで勉強した!それ以外の全てを切り捨てた!これ以上何をどうしろってんだ‼︎』

 

 毒蛇(言葉)が、南雲雅の中に入り込んでいく。

 

『私が足りないと言ったのは、()()()()()の話よ』

『………害する、努力………』

『えぇ。あなたのそれは、まだ生温い。やるなら徹底的にやりなさい』

 

 毒蛇(言葉)が、南雲雅の中に入り込んでいく。

 

『…………徹底的に、ですか』

『えぇ。彼女の弱点、それを見つけて、徹底的に突きなさい。

 正面からじゃ勝てないなら、()()()()()()

 彼女を弱らせて、弱点を突いて、隙を作って、殺しなさい』

 

 毒蛇(言葉)が、南雲雅の中に入り込んでいく。

 

『───実力とは結果。強さとは勝利。結果が勝利でさえあれば、過程はどんなものだろうと肯定される。

 勝利の前に他の全ては無価値。

 この世界の唯一絶対の正義は、勝利のみ』

 

 毒蛇(言葉)が、南雲雅の中に入り込んでいく。

 

『…………っ、がっ、………』

 

 南雲雅は、圧倒された。

 目の前の教師の、狂気に。

 

『───まだ足りない。中途半端に残った善性も、目覚めかけた良識も、芽生えかけた罪悪感も、全て余分なもの』

 

 南雲雅が、壊れていく。

 

『───彼女に、天才に勝ちたいのなら、余分なもの(良識)は捨てなさい。荷物(仲間)なんて要らない。

 どこまでも、強く(孤独に)

 どこまでも、正しく(悪辣に)

 どこまでも、美しく(勝利しろ)

 良いかしら、南雲くん。

 あなたのこれまでは、決して、()()()()()()()()()()()

『………俺は、間違えて、ない』

『えぇ。あなたは、何も、間違えてなんか、いないわ』

 

 これまでの南雲雅は壊れて、新しい南雲雅が生まれた。

 

『────ありがとうございます。翡翠先生』

『────お役に立てて何よりよ。南雲くん』

 

 

 そして。

 

 

『これまですまなかった。卜部さん』

『別に、気にしていないわ』

『生徒会に入るってなったからさ、今、迷惑をかけた人たちに、謝って回っているんだ』

『………そう、なの』

『あぁ。俺も、()()()()()()()()()()()()()()()()()

『………!そう、なの。その、良かった、わ』

 

 あぁ。やっぱりそうなんだな。卜部。

 

『えぇ。まぁ。堀北先輩のためなら、多少の()()()()、構わないもの』

 

 お前の、一つ目の弱点。

 

『────あぁ。凄い理想だよ。()()()()()()退()()()()()()()()()()()()

『────えぇ。本当に。中学の頃から、何にも変わっていないんだもの』

 

 分かりやすいな。本当に。

 お前は、懐に入れた人間には、とことん甘い。

 とても単純な話だ。お前の懐に入りさえすれば、簡単に殺せる。

 嘘はつくな。そうしたら、バレる。

 あぁ。凄いよ。凄い理想だよ。本当に。

 

 凄い────くだらない理想だ。

 

『───そろそろ映画の時間だよ!藤乃!』

『行きましょう!藤乃さん!』

 

 卜部を呼ぶ、二人の女子。

 九重九十九。と、()()()

 

 なぁ、卜部。

 

『また後で、お話ししましょう。南雲くん』

『───だな。会長の中学時代。聞かせてくれ』

『もちろん』

 

 俺との勝負よりも優先するような友達がさ。 

 俺を懐に入れたが為に壊されたらさ。

 

 お前は、どんな顔をするんだ?

 

 なぁ、そうなったら、お前は俺を、()()()()()()()

 それとも────。





 次回。南雲雅の時間 二時間目

 
 
 過去編練ってる最中に、私卜部藤乃にどんな設定でどんな描写してたっけ、て思い出していたら、想像以上にやばい設定と描写してたような気がして、改めて確認したら、記憶通りの内容で引いた。キャラ設定にもっとやばいこと書いてて過去の私に引いた。
 これに勝った南雲にも引いた。
 
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