殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 一から試験考えるのは面倒なんで、流用します。

 キャラ崩壊注意!

 嘔吐表現あり!


南雲雅の時間 二時間目

 豪華客船で、俺は、卜部をエスコートしていた。

 

『全く。どういう風の吹き回しかしら。幼児体型は守備範囲外何でしょう?』

『別にそんなつもりじゃないんだが?男子は女子をエスコートするものなんだが?』

 

 何だこいつ図々しいな。

 

『はいはい。ま、さすがはプレイボーイと言っておきましょうか。実に完璧なエスコートだったわ』

『はいはいそうですか。───ところで、約束の品は?』

 

 卜部は、得意げな笑みを浮かべながら、ハンドバックからある写真を取り出した。

 そこに映るのは。

 

『────お宝写真、No.11。学園祭での執事喫茶で、執事衣裳に身を包んだ堀北先輩よ』

 

 橘先輩なら、喉から手が出るほど欲しがりそうな写真だ。

 何せ、うち文化祭とかないからな。

 

『今回のエスコート、とても悪くない気分だったわ。報酬として、差し上げましょう』

『ありがたく頂戴します』

 

 別に要らないけどな。本当だぞ?本当に要らないからな?

 

『───それにしても、随分と、その、明るくなったのね。南雲くん』

『ん?そうか?』

 

 まぁ、そうだな。

 お前に勝つ為に、無駄なものは全部捨てたからな。

 

『…………まぁ、その、あなたとの勝負に負けた訳だし。私は、生徒会に入れないもの。その、堀北先輩のこと、頼んだわよ』

『良く言うぜ。あんなの殆ど俺の負けだよ。………ま、頼まれといてあげますけど』

 

 あぁ。頼まれといてやるよ。

 お前に勝ったら次は、堀北先輩の番だからな。

 

 にしても、コイツちょろいな。

 ま、そう言うところも弱点なんだろうけど。

 チャンスが来たら、突いてやろう。

 

 

 無人島試験。

 俺は、幸運だった。

 こんなにも、お誂え向きなんだから。

 

 立花とのパイプは確かに切った。卜部の懐に入る為には、本当に、この一学期で手に入れたパイプを殆ど捨てる必要があったから。

 でも、クラスじゃなくて、個人での関係なら。

 いくらアイツでも、そこまでは気付かない。はず。もし仮に気付かれていたとしても、今、俺は心を入れ替えて、堀北先輩の理想のために邁進しているって認識だし、多分大丈夫。

 

『うっわ、スッゲェな卜部。良くこんな穴場見つけたなぁ』

『ふふん。私の観察眼を舐めないで頂戴』

 

 あぁ。やっぱり凄いわ。コイツ。

 海辺に面した洞窟の影。完全に日陰になってるから、程よく涼しくて、洞窟の中だから、テントとか要らなくて。  

 夜になれば、潮がある程度のところまで満ちてくるから、そのおかげで涼しい。つまり、冷房要らず。

 ほんと、どうやってこんな場所見つけたんだか。

 

『───潮の流れと、島の地形から逆算して、この辺りに多分洞窟があるはずって計算したの』

『ふぅん。やっぱり凄いな。卜部は』

『何よ。そんなに褒めても、とってきた果物ぐらいしか上げないわよ』

 

 あぁ。本当にすごいなぁ。

 やっぱ。正面から勝つのは無理だわ。

 

『あーそうそう。Bクラスでも何人か受け入れてんだけどさ、やっぱAクラスも?』

『…………はぁ。調子の良いこと言って。殆どあなたのせいじゃない』

『うん。それは、本当にごめん』

 

 一学期で俺がズタボロにした一年Dクラスは、名目上のリーダーの立花の指示を一切聞かず、無人島に散り散りになった。

 そんで、Dクラスの生徒たちは、ABCクラスのテントに、散り散りに押しかけてきた形になる。

 ま、俺の責任だし、Bクラスが一番多い数の生徒を受け入れた訳だが。

 

『ま、こっちは何とかやってるけど、そっちはどうなんだ?』

『………住む場所は分けているわね。男子ばかりだし、万が一があったら怖いもの』

 

 まぁ、そうなるよな。

 

『………これに関しては俺の責任だ。他の生徒も受け入れようか?』

 

 なんて、コイツがどう答えるかは知ってるけどさ。

 

『別に良いわ。面倒だけれど、受け入れると決めたことだもの』

 

 ───そう。だから、御し易い。

 

 二日目、三日目、四日目、五日目、六日目。

 

 俺のクラスも、卜部のクラスも、大きな問題もなく、順調に進んでいった。

 そして、六日目に、事件が起きた。

 

 俺は、二人の男子生徒を殴り倒して、そいつを助け出した。

 

『…………大丈夫、じゃ、ない、よな』

『…………うぅん。助けて、くれて、ありがとう』

『…………助けられてなんかない。俺、全然、間に合ってない』

 

 殆ど全裸で、俺の上着で身を隠しているその女子生徒は、震える身体で、可哀想なぐらいに声を振るわせながら、それでも、助けてくれた俺に、礼を言ってきた。

 

 何が起きたのかなんて、語るまでもないだろう。

 

『────雀!心配した、の、よ…………』

『……あっ、はははははは。………ごめんね、藤乃さん。心配、かけて』

 

 身綺麗にして、川で水浴びして、服装も整えて。

 自分の身に何があったのかを、藤乃に知られてしまったら、きっと藤乃は、自分を、責めるだろうから、と。彼等を受け入れると決めた、自分のせいだから、と。

 そうして、俺が見張りに立つ中、青井雀は、頑張って、証拠を隠滅しようとして。

 卜部藤乃は、一目見て、青井雀に何があったのか気付いた。気付いてしまった。

 

『─────ごめんなさい。ごめんなさい。雀。ごめんなさい。ごめんなさい───』

 

 縋り付くように、卜部藤乃は青井雀を抱き締めながら、泣いていた。

 

 容疑者のDクラスの生徒二名は、自分達はある生徒に指示されただけだと、最後まで訴えていたけれど。

 その生徒の顔も名前も知らない上に。

 第一発見者で、青井雀を助けた張本人の南雲雅の、『指示役と見られる生徒はいなかった』と言う証言が信じられ。

 その二名は、即刻、退学処分となった。

 

 その二人は、六日目に。

 青井雀の鞄に、もし、この時間にこの場所に来なければ、卜部藤乃を襲う、と書いた手紙を、仕込んでいた。

 

 六日目の夜。

 最後まで、試験を戦いたい、とそう訴える青井雀の懇願を聞き入れて。青井雀は、卜部藤乃に一晩中付き添われていた。

 鬼龍院楓香は、そのテントの前から、一晩中離れず。

 九重九十九と、桐山生叶は、Dクラスの他の生徒を、一晩中見張り続けて。

 

 ()()()()()()()B()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 深夜の合流地点で、俺は、影乃が撮った写真を、確認していた。

 

『───成程。コイツがリーダーなわけね。さんきゅ、影乃』

 

 影乃蓮は、どうしても、一つ、確認したいことがあった。

 

『………一つだけ聞かせてくれ。南雲。青井雀の一件に、お前は関わっていないんだよな?』

『あーそれ?()()()()()()()()?』

 

 衝撃の余り、息が、止まった。

 

『────お、前、自分が何をしたのか、分かっているのか!』

 

 影乃は、思わず、南雲の胸ぐらを掴み上げてしまった。

 

『────じゃあさ、お前なら、どうやって卜部に勝つ?』

『勝ち負けの話じゃない!人として、超えてはいけない一線の話を俺はしている!』

『超えてはいけない一線?それ、勝利になんか関係あんのか?』

『────お前、何を、言っている………?』

 

 目の前の男は、本当に、南雲雅なのか………?

 

『この世の唯一絶対の正義は、勝利だぜ?卜部に勝てんなら、それで良いだろ』

 

 入学当初からは考えられないぐらいに。

 南雲雅の瞳は、暗く、澱んでいた。

 

(────あぁ。

 きっと、俺たちのせいだ。

 これは、クラス間競争、なのに。

 俺たちは、全部。南雲に、背負わせていた。

 卜部藤乃に勝たなければならない。そのプレッシャーに、きっと、押し潰されて。

 南雲雅という、手段を選ばず、けれど、最後の一線は決して超えてこなかった、確かに輝いていた生徒を、壊してしまった)

 

 そう、この学校は、クラス間競争。

 クラス全体で、協力、協働することが前提なのに。

 その前提を、無視してしまった。

 

(──────ならば、俺は、影となろう。

 お前の望みを果たす為に、俺は、何もかもを捨てよう。

 罪悪感も、良識も、全てを。

 心の痛みなど、無視しなければならない。

 お前に与え続けてしまった痛みに比べれば、ずっとマシだ)

 

 影乃蓮は、南雲雅の忠実な僕だ。

 決して裏切ることはなく、決して失敗することも無かった。

 最も大きな裏切りも。最も大きな失敗も。

 もうすでに、犯してしまった後だったから。

 

 試験の結果は、C、Dクラスからクラスリーダーを当てられて、Aクラスは、最下位に終わった。

 九重九十九と、鬼龍院楓香は、全ての犯人に、大まかな見当が、ついていた。

 

『何のよう?』

『………見舞いだ。まぁ、流石に、男の俺が、今青井を見舞うのは、配慮が足りなかったな』

『………そ。そう思うんなら帰って。───そんで、二度と、藤乃にも雀にも近付かないで』

『………ま、そうだよな。俺が、Dクラスを荒らさなければ───』

()()()()()()()()

 

 …………うっわ。今年のAクラス、層厚すぎんだろ。

 

『………この為に、藤乃に近づいたんでしょ。藤乃に、Dクラスの生徒たちを、受け入れさせる為に………!』

『おいおい。幾ら何でも怒るぜ俺でも。人聞きの悪いこと言うなよ』

『じゃあ何でお前らBクラスはC()D()()()()()()()()()()()()()()()‼︎南雲!アンタの言ってたパイプはもう切ったってやつ、嘘だったんだろ‼︎』

『勘弁してくれ。卜部を騙せるわけないだろう?』

 

 そう。騙してはいない。

 クラスに通じるパイプは切った。

 個人に通じるパイプは、残した。

 そんで、あの一晩。青井雀のそばから決して離れなかった一晩で、そのパイプを通じて、CDクラスのリーダーを聞いた。

 流石の卜部でも、自分の知らない場所で行われてたら、察知なんかできるわけがない。

 

『………少し、落ち着いて頂戴。九十九。雀、寝たばかりだから』

『………ごめん。藤乃。でも、南雲とは、一旦距離を置いて。───コイツは、危険だ』

『………えぇ。そう、なの、かもね』

 

 そうだよなぁ。

 卜部なら、そう考えるだろうよ。

 俺が、黒幕なんじゃないかってさ。

 

『………ま、してきたことがしてきたことだし、信じてくれとは、言わないけど。

 これ渡すぐらいは、頼んでも良いか?』

 

 やれやれ。豪華客船様々だな。花屋まであるなんて。

 花束を、渋々と受け取った卜部は、俺を信じるべきか、疑うべきか、訝しみながら、それでも。

 

『………その、ありがとう』

 

 とりあえず、礼を言った。

 

 その場を去りながら、俺は新しい収穫を整理する。

 もしかしたら卜部のやつは、思ったよりも、メンタルが弱いのかもしれないな。

 よし。ならもっとメンタルを揺らしていこう。ターゲットは継続して、青井雀で。

 

 ───それに、卜部と九重が、俺を疑っているとしても。

 ───俺は、青井の恩人なわけだし。

 

 あぁ。ほんっとうに。

 俺は、恵まれている。

 

 船上試験で、俺は。

 

『───よろしくね!南雲くん!』

『おう。その、大丈夫か、青井?』

『ぶっちゃけまだきついけど、でも、私も頑張らないと!』

 

 青井雀と、同じグループだったんだから。

 

『──ヒッ、あ。いや、その、何でもない、て、いうか』

 

 青井は、男子が近付くだけで、露骨に震えて。

 近付いても大丈夫な男子は、俺だけだった。

 そんで、この試験の話し合いの間は、九重も卜部と、割って入ってこれないから。

 

『───大丈夫だ。青井。今度はちゃんと、何かが起きる前に、守ってやる』

『───南雲、くん』

 

 あぁ、本当に、運が良い。

 

『なぁ、優待者って、その、青井なんじゃないか?』

『ヒッ、あ、あ、いや、その、これは、違って………』

『おいおい。例の事件の話は聞いてんだろ。男子が迫ったらそうなるに決まってるだろ配慮が足りないぞ?』

『………まぁ、その、悪い』

『う、うん。気にしないで………』

 

 順調に、青井は、俺に惹かれていった。

 だから。

 

『───実はね。南雲くん。───本当は、私が優待者なの』

『はぁ。全く。他のクラスのやつに話すとか、本当に』

『………その、南雲くんなら、大丈夫かなって』

『分かったよ。結果2、目指すぞ』

『………!うん!』

 

 最後の材料が、揃った。

 

 鼠グループの優待者は、青井。

 牛グループの優待者は、なずな。

 

 どちらも五十音順で、前の方。

 本当に、運が良い。

 あとは、他のクラスに当て嵌めていけば。

 

『───く、くくくくくくくく。はっはっはっはっはっ。はははははははは‼︎』

 

 きっと、卜部が万全の状態でさえあったなら、こんな試験、一日で終わっていたんだろうよ。

 でも、無人島試験の『一年Aクラス女子脅迫事件』で、アイツは、追い詰められていた。

 そして。

 

『取引しようぜ。須知。お互いにリーダーを教え合って、マイナスを無しにするんだ』

『はいはい。分かったよ。南雲くん』

 

 Cクラスの須知と、お互いに指名し合う、と見せかけて。

 お互いに、嘘の優待者を教え合っていたから。

 法則に基づいて、俺たちBクラスだけが、正解した。

 

 総額、四百五十CP。

 無人島試験と併せて、七百近い追加で、そんで、Aクラスへの、二百五十近いマイナスで、俺たち一年Bクラスは、Aクラスに昇進した。

 

 試験終了からしばらくして。

 青井は、俺の部屋を訪ねてきた。

 

『………………ねぇ。……………いつから、裏切ってたの』

 

 ────ハッ。

 伊達に、Aクラスじゃないってわけか。

 

『────最初から』

 

 青井雀は、息を呑んだ。

 息が荒くなって、胸を抑えて、いつの間にか、座り込んでいた。

 

『……………何で、………なん、で、私、だっ、たの………?なん、で、君、は、ふじ、のさん、に、勝った、のに………』

『あぁ。生徒会入りを賭けた期末テストの話をしてんのか?』

 

 ()()()()()

 ────ばっかじゃねぇの。お前のせいだぞ。

 

『………なぁ、何で卜部が、期末で俺に負けたか、教えてやろうか』

 

 青井の瞳は、暗い絶望で染まっていた。

 その瞳を、覗き込むように。

 座り込んだ青井に併せて、しゃがんでやった。

 

()()()()()()()

『──────わ、たし?』

『お前が、季節外れのインフルに引っかったから。

 お前が、赤点取りそうだったから。

 だから、卜部は、俺との勝負よりも、お前を優先した』

 

 あぁ、もう、マジで。

 ────腹立つわぁ。卜部のやつ。

 

『………私のために、点数、落としてたんだね』

『あぁ。腹立たしいことにな』

 

 そうだ。卜部のやつは、俺のこと、()()()()()()()()()()()

 

『なぁ。分かるか?挑もうとしていた相手に、お前との勝負なんかよりも、お前を見ることよりも、別のことの方が大事なんです〜って言われる気持ち。

 ────ほんっとうに!腹が立って仕方無かったわ‼︎‼︎』

 

 青井は、大きく目を見開いて、息を呑んでいた。

 

『お前のせいだ!お前のせいだぜ青井雀ぇ‼︎お前が倒れなきゃ、こんなことにはならなかった‼︎

 俺を責めるのはお門違いだぜ青井!

 怒るんだったら自分に怒れ!恨むんだったら自分を恨め!

 だって、全部、お前のせいなんだから‼︎』

 

 青井雀は、震えながら、口を開いた。

 罵声が来ると、思っていた。それか、泣き言言ってくると思っていて。

 

『ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい。南雲くん。ごめんなさい』

 

 ───なんで、謝るんだよ。

 

『………、わた、私の、せいで、ごめん、なさい………』

 

 いや、いやいやいや。

 何言ってんだよ。何謝ってんだよ。

 悪いのは、どう考えても俺で。

 

『あなたは、何も、間違ってなんか、いないわ』

 

 …………そう、だ。

 俺は、間違って、いない。

 

『あぁ、お前のせいだよ』

 

 壊れたレコーダーのように謝罪を繰り返す青井を放置して。

 潮風に当たりたくなったから、部屋を出ようとして。

 開いた扉が、人を叩いた。

 

 尻餅をついて、俺を見上げるのは、卜部藤乃。

 涙すら浮かべて、俺を、見ていた。

 

『───んだよ。聞こえてたのかよ』

『………あ、なたは………』

『おいおい。見抜けなかったお前の問題だぜ?お前、頭良いくせに、何で信じちゃいけない人間を信じたんだ?

 お前が俺を信じたから、Aクラスは負けて、青井雀は、壊れちまったんだぜ?

 悪いのは、お前だろ?』

 

 そんなわけ、ない。

 

『あなたは、何も、間違ってなんか、いないわ』

 

 俺は間違っていない。だから、悪いのはコイツらだ。

 

『………ごめん、なさい』

 

 だから、何で謝んだよ。

 

『………わ、私、あなたが、そんなこと思っているなんて、考えてもいなくて……』

 

 何でお前は、俺を敵だと思わない。

 俺を憎め。俺を恨め。俺を攻撃しろ。

 なんで、なんで、なんで。

 

 お前は、俺を見ない。

 

『………なんか用か?鬼龍院』

『まぁ、ただの負け犬の遠吠えだ。気にする必要はないが、ぜひ聞いていってくれ』

 

 甲板で、鬼龍院と俺は、向かい合っていた。

 まぁ、勝ったのは俺だしな。

 

『良いぜ。聞いてやるよ』

 

 鬼龍院は、俺に憐れみすら滲ませながら、口を開いた。

 

『───さて、君は今回、藤乃の弱点である、人を容易く信じてしまうこと、それから、青井を徹底的に突いて、見事勝利したわけだが。

 気分はどうだ?』

 

 そんなの、決まってる。

 

最高(最悪)に、決まってんだろ?』

 

 だって、俺は、卜部に勝った。

 

『勝ったやつの表情では無いな。まぁ、それもそうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────思い、上がってる?

 俺が?

 

『───おいおい。確かに俺は、卜部に勝った。

 俺は強い。俺は強者だ。俺は、思い上がってなんか、いない‼︎』

『その時点で、貴様は思い上がっているんだ。

 本当の強者は、勝ち負けなんか気にしない。

 どんな手を使っても、どれだけ卑怯な手を使っても勝とう、なんて、そんなことしない。

 藤乃がそうだったように。堀北先輩がそうであるように。

 どれだけ負けようと、誰に負けようと、それで自分の価値が落ちるわけでは無いと、知っているから。

 だが、貴様は違う』

 

 ────黙れ。

 

『貴様は、勝利に執着した。勝利以外に、自身の価値を見出せなかった。

 その時点で、貴様は既に負けている。それが認められなかったから、いや。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、貴様は、全力で足を引っ張った』

 

 ────黙れ。黙れ。

 

『───手段を選ばない人間には二種類いる。

 自身の勝利の為に、()()()、手段を選ばずに戦える、孤高の者。

 自身の勝利の為に、()()()()()()()()()()、手段を選ばない、孤独の者。

 そして、前者の者は、総じて、そんなことしなくても強い。

 だが、後者は、総じて弱者だ』

 

 黙れ!黙れ!黙れ!

 

『────そして、貴様は、後者だ。

 ここに入学するまでは、自分を前者だと錯覚できていたんだろう?良い夢を見ていたようだな。

 だが、ここに入学して、本物の前者に会った。───本当の、強者に。

 夢から醒めてしまったからさあ大変。現実を受け止めなくては、前に進めず、勝利もない。

 ────だが、貴様は、無理矢理眠った。

 無理矢理眠って、現実を無視して、溺死する寸前まで、夢に溺れた』

『黙れ!黙れ!黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ!』

 

 俺は間違っていない!俺は間違っていない‼︎

 

『おいおい。お前が言ったんだろう?聞いてやるって。

 ちゃんと、最後まで、聞けよ。

 本物の強者ではない貴様が、何をすべきだったのか、この私が、懇切丁寧に教えてやろう。

 ────話せば良かったんだ。なずなに、殿町に、溝脇に、影乃に、全てを話して、弱さを認めて、正面から、藤乃に挑めば良かったんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

『俺は間違っていない!俺は強い!俺は勝ったんだ‼︎』

『だが、貴様は、自分を強者だと思い上がっていたから、一人で、手段を選ばずに戦うことに、固執した。

 手段を選ばないと言えば聞こえは良いが、その戦い方は、悪辣と言われる類のものだ。

 ()()()()()は、その悪辣に()()()()()()

 そして、貴様は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『違う違う違う違う!ここが現実だっ‼︎俺は、現実に、卜部に勝ったんだ‼︎

 ───俺は、特別なんだ‼︎』

『そうか。どうやら貴様は、()()()()()()()()()()()

 そのままずっと、自分すらも騙して、夢に溺れ続けると良い。

 ────自分を騙して、夢の中で、溺死しろ。

 今の貴様には、お似合いの末路だ』

 

 負け犬の遠吠えだ。

 気にすることはない。

 だって、俺は、間違えて、いない。

 

『あなたは、何も、間違ってなんか、いないわ』

 

 そうだ。翡翠先生は、そう言ってくれたから。

 俺は、間違って、いない。

 

 

 二学期の始め、青井雀は自主退学して。

 俺は生徒会室で、堀北先輩と、二人きりで。

 

『───南雲雅。お前を、本日付けで、生徒会副会長に任命する』

 

 嬉しかった。

 認められた気がした。

 俺は、卜部よりも、強い。

 

『…………すまなかった。南雲』

『…………は?』

 

 何、で、謝る。

 

『────俺は、きっと間違えた』

 

 やめろ。やめろ。

 あんたは間違えてなんかいない。

 間違えたやつがいるとしたら、それは───。

 

『あなたは、何も、間違ってなんか、いないわ』

 

 そうだ。あんたは間違えた。

 卜部よりも、俺を認めるべきだった。俺を優先するべきだったんだ。

 だって、俺の方が強いから。

 

 それから、体育祭で、より確実に勝つ為に。

 CクラスとDクラスの奴らを操って、Bクラスから怪我人を出した。

 卜部のやつは、学校にも来なくなったから、これまでが嘘みたいに、簡単に成功した。

 

 俺は、間違っていないんだ。

 

『あなたは、何も、間違ってなんか、いないわ』

 

 そうだ。そうだ。

 俺は、正しい。

 この世の唯一絶対の正義は、勝利のみ。

 実力とは結果。強さとは勝利。結果が勝利でさえあれば、過程はどんなものだろうと肯定される。

 だから、だから、俺は、間違ってなんか、いない。

 

 その日、なずなが、部屋に来た。

 

『………なんか暗いな?どうしたんだ?』

『………ねぇ、雅』

 

 なずなは、そっと、端末を取り出して、ある動画を再生して、俺に見せてきた。

 その、音声は。

 

『───ほ、本当に、そうすれば、Aクラスに、引き上げてくれるのか?』

『もっちろん。俺は、嘘なんかつかないぜ?』

 

 加工していたはずの、俺と、退学になったDクラスの二人との、通話だった。

 いつの間にか、加工ははずされていて、俺の声だと、はっきり分かるようになっていた。

 

『…………本当、なの?本当に、雅が、裏から操ったの?…………勝つ、為だけに、卜部さんに近づいて、青井さんを傷付けて、…………全部、雅が、やってた、の?』

 

 だから何だよ。

 

『───そうだけど』

 

 誰だ?こんなの探って、なずなに送り付けたやつ。

 

『……………なん、で?』

『なんだって、そりゃあ、卜部に勝つには、こうでもしないと』

 

 あいつは化物だ。

 どうしようもないぐらいの化物だ。

 俺なんか、逆立ちしながら片手間で打ち倒せるような、化物だ。

 だから、暗殺しないと。

 弱点を突いて、徹底的に弱らせて、隙を見つけて、殺さないと。

 なぜだか、なずなは、泣きそうだった。

 

『…………そっか、そうなん、だね』

 

 また、影乃みたいに糾弾してくんのか?

 それとも────。

 ……………待って、くれ。

 

『………私、たちの………ううん。私の、せいなんだね』

 

 違う、違う、違う。

 

『───私が、弱かったから』

 

 違うんだ、なずな。

 

『雅は、一人で全部抱え込んで、それで、こんなこと、しちゃったんだね』

 

 やめろ。やめてくれ。それ以上言わないでくれ。

 

『────ごめんね。雅』

 

 全部俺が選んだんだ。間違えたのは俺一人なんだ。なずながそんな顔しなくて良いんだ。

 やめてくれ。なずな。泣かないでくれ。

 

『───ろ』

『ごめん、ね』

『──めろ』

『ごめん。ごめんね。雅』

『やめろ‼︎』

 

 俺は何をやっている。

 俺は何をやっていた。

 

『雅、ちゃんと謝ろう。許してもらえなくても、謝って、もう一度』

『やめろ!やめてくれ!頼むから帰ってくれ‼︎』

『雅、待って、話を───』

『話すことなんかない!頼むから帰ってくれ‼︎』

『雅、雅───』

 

 部屋を追い出された朝比奈は、扉を叩きかけた腕を、力無くおろした。

 

(────強く、ならないと。

 もう、雅が、こんなことしなくても良いように。

 運動も、勉強も、全部、頑張らないと。

 頑張って、頑張って、頑張って。

 強く、ならないと)

 

 朝比奈なずなは、努力した。

 南雲雅に、今度は頼られるように。

 今度こそは、力になれるように。

 寝る間も惜しんで勉強した。疲労を訴える身体を無視して、鍛え続けた。

 どれだけ辛くても、苦しくても、毎日毎日、自分を鍛え続けた。

 今度こそ、南雲雅と、一緒に戦えるように。

 

 

 

 俺は何をした。何をしている。

 

 尊敬する先輩の理想を利用した。

 友愛を向けてきた相手を、徹底的に裏切った。

 一人の女子の尊厳を破壊して、救ったふりをして、裏切って、徹底的に壊した。

 俺は、何の、為に。

 

『あなたは、何も、間違っていないわ』

 

 そうだ。俺は間違っていない。

 実力とは結果。強さとは勝利。結果が勝利なら、過程はどんなものだろうと肯定される。

 だから、俺は間違っていない。

 勝つ為だ。全部、卜部に勝つ為にやったんだ。俺は強い。俺は勝った。俺は特別だ。だから、俺は───。

 

 いつかの言葉達が、頭をよぎる。

 

『ごめんなさい。南雲くん』

『ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい。南雲くん。ごめんなさい』

『ごめん、なさい………』

『…………すまなかった。南雲。俺は、きっと間違えた』

『ごめんね。雅』

 

 ああ。ああ。

 頭の中が、ぐちゃぐちゃだ。

 めちゃくちゃのドロドロでぐるぐるしてグラグラしてしろくろになってはちゃめちゃでぐちゃぐちゃでべちゃくちゃでちみどろでごちゃごちゃでしっちゃかめっちゃかでイライラしてくるくるしてせわしなくてゴロゴロして────。

 

 いつの間にか、部屋は、ぐちゃぐちゃだった。

 

 あまり、記憶にないけど、多分、暴れ回ったんだと、思う。

 

『あなたは、何も、間違っていないわ』

 

 ────そうだ。

 俺は、何も…………。

 

『────ぉえ』

 

 色んなものが、込み上げてくる。

 咄嗟にゴミ箱を捕まえて、全部、ぶちまけた。

 

 罪悪感も、後悔も、良識も、全部。

 

 だって俺は間違っていない。

 俺は間違っていない。

 間違っていない。

 

『────俺、は、間違って、ない』

 

 その日、南雲雅は、崩壊した。





 制作秘話という名の言い訳タイム。

 本当は、南雲先輩はもっと小物でもっと悪役してました。
 でも、感想読んでいるうちに思ったんです。南雲先輩が全部悪いって、つまんなさそうだな、と。
 じゃあ、南雲先輩壊そうって思いつきました。
 で、どういう風に壊すかってなった時に、いっそのこと、一年生の負の要素全部載せいってみるか、てなりました。
 まぁ、その、あれです。
 今作南雲雅は、理事長の教えに屈した浅野学秀で、椎名ひよりひいてはE組に出会えなかった赤羽業で、土壇場でちゃんと綾小路清隆に勝てなかった堀北鈴音になりました。
 後はまぁ、行くとこまで行っちゃった山内でもあり、って感じです。

 この展開にするにあたって、卜部藤乃は、最低でも綾小路レベルは無いとダメだよなってなって、でもこの子そんなに強くして良いかな?って思って、どんな描写でどんな設定にしてたのか振り返ってみたら、自分でもびっくりするぐらいに盛ってるなってことに気付きました。
 何だよ鬼龍院が従うレベルかつ浅野理事長が堀北学の次に目をかけるレベルかつ(キャラ設定であっさりと書いちゃったんですけど)浅野理事長が学校に残ってもらう為に態々新制度作るレベルって。
 あの浅野理事長やぞ?めっちゃくちゃ優秀で本校舎の生徒と比べても普通に優等生の部類の磯貝をかなり同情の余地のある校則違反でE組に落とすレベルの合理性な浅野理事長やぞ?
 それがこんな合理性も何も無いあからさまな特別扱いするレベルってなんだよ。
 やり過ぎだよ盛りすぎだよばかやろー。
 でも書いちゃったものはしょうがない。しょうがないので人をあっさり信じちゃうって弱点付けて、そこを徹底的に南雲先輩に突かせようってなりました。
 南雲先輩へのダメージが大幅に加算されちゃいました。

 連鎖的に影乃と朝比奈先輩へのダメージも加算。今読み返すと準備編と体育祭編ちょっと引く。

 あ、後翡翠の設定も大分弄りました。元々は南雲の導き方を間違えてしまった人って設定なんですけど、この人は浅野学秀にとっての浅野理事長でなくちゃいけないので。
 元々のコンセプトはやらかした雪村先生だったんですけど、今となっては女体化浅野理事長がコンセプトですね。

 さて、予告した通り『一年前の時間』は七話を予定してます。
 次回は『九重九十九の時間』です。
 この人は一体何をしでかしちゃったのか。
 明日をお楽しみに。
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