納得できなくて何回か書き直してたら時間過ぎてました。
ごめんなさい。許してつかぁさい。
体育祭から、数日。
浅野学秀は、九重九十九の部屋に襲撃した。
九重九十九は、口に運んでいたうすしお味のポテトチップスを、落とした。
「いやなんでっ⁉︎もう関わらないでって言ったじゃん⁉︎」
「知りませんよそんなもの。ほら。格ゲー持ってきましたよ」
「それよりもっ!男子のシュウがこんな時間にここに来るのはダメでしょうが‼︎ていうか鍵はどうしたの‼︎」
浅野は、そっと、目を逸らした。
彼のスマホには、律が出張中なので。
九十九はすぐさまキーボードを叩いた。
自身の部屋の鍵の履歴から、電波が浅野の端末から出ていたことを察知して。
浅野の端末に侵入しようとして、咄嗟に、律が防いだ。
「────今の何?」
「知りません」
「どう考えても高育のセキュリティじゃないよこれ‼︎」
継続して、九十九は侵入しようと繰り返して。
律は珍しく、本気で防ぎ続けていた。
「………この感じ、演算速度が尋常じゃない。基本的には総当たり。普通の人間には無理。…………藤乃が組んでたAIに似てる?まさか、これ、……AI?」
何故そこまで分かる。
「何シュウ。AIの嫁でも、スマホの中に飼ってるわけ?」
「嫁とかではないです」
『浅野さん。この人の攻撃を今すぐ辞めさせてください。浅野さんの端末が限界を超えて発火してしまいます』
………道理で。端末がこんなに熱いわけだ。
煙が出そうな端末をそっと掲げて。
九重は、流石に火事を起こすわけにはいかないので、辞めた。
「………で、なんで来たわけ」
「ゲームをしに来ました」
「シュウが好きなのはボードゲームでしょ?格ゲーで私に勝てるわけないじゃん」
「言いましたね。なら賭けましょう。この一戦で、あなたが勝てたら、金輪際、部屋に突入することはないと」
「良いよ。乗った。ボコボコにしてあげる」
で、数分後。
確かに、ボコボコにされた。
ハメ技で一方的に削られて。
起死回生の必殺も、完全に防がれて。
完膚なきまでの、KO負け。
九重が。
「…………なんで?」
震える声で、九重は、コントローラーを落とす。
紙一重だった。
九重と格ゲーでぶちのめされたことのあるテーブルゲーム部部員総員で。(恐ろしいことに占藤もぶちのめされたことがあるらしい)
数日かけて対抗策を編み出した。
初見殺しの戦術勝ち。
もう一回は無理だろう。
悔しさのあまり、地団駄を踏みながら。
「もう一回‼︎もう一回‼︎」
「良いですよ。またぶちのめしてあげます」
それから九重と浅野は、一晩中遊び倒して。
翌朝。
浅野に寄りかかって眠っていた九重は、寝ぼけ眼で、カーテンを開けて、眩しそうに太陽を見つめながら。
「…………やらかした」
異性の後輩を部屋に泊めるはアウトでしょ。
というか寄りかかって眠っていたし。
あ、待って私最近風呂入ってたっけ。
入ってなかったような気もする。
え、待ってだめじゃん。変な匂いしてないよね。
いや、やっぱり入ってたかも。入ってたことにしといてお願い。
「………おはようございます。九十九先輩」
「お、お、お、おはよう、じゃなくて‼︎なんで、異性の部屋に泊まった癖にその反応なのさ‼︎」
「………いや、その、九十九先輩は、殆ど男友達みたいな認識というか」
「は?何それ?幸村みたいなこと言わないで。ていうかさてはアイツ、私への認識がそんな感じだから、あんなこと言ってきたわけ?」
マジで許さん。ぶちのめす。
「さて、それじゃ、映画でも行きましょうか」
まぁ、ここまで来たら、何をしようとしているのかなんて、分かる。
「私を立ち直らせたいの?」
「まぁ、そうですね。でも、それ以上に、先輩と、遊びたいです」
…………やめてよ。
後輩に、そんなこと、言われちゃったらさ。
遊ぶしか、ないじゃん。
「………ほら、とっとと着替えて、あと、シャワー浴びといてください」
「デリカシー‼︎‼︎‼︎」
ほんっとに!
この後輩は‼︎
ケヤキモールには、私の後輩たちが、勢揃いしていた。
「全く。遅いですよ学秀くん。真澄さんなんてソワソワしていましたからね。もしかしたら、お二人が大人の───」
「それ以上ふざけたこと言うようなら有栖の着せ替え写真学年中にばら撒くよいい?」
「大人の、そう、理性的なちゃんとした大人の距離感であることを信じて待っていましたよ真澄さんは」
「取り敢えずこのメイド服のやつばら撒いとくね」
「それは話が違います」
坂柳有栖のファッションショーは後日に。
「佐倉が手伝ってくれて助かったわ。撮影機材に詳しいやつなんて、私ら五人の中にはいなかったもの」
「は、はい!私も、撮影する側に回るのは、初めてだった、ので!」
「私の羞恥心は倍プッシュだったんですけど?」
「取り敢えず写真は私にも頂戴神室ちゃん」
「長谷部さんにだけは渡さないでください。Bクラス中に広まってしまう気がします」
「愛しの清隆の目にも入るかもしれないぞ?断る理由はないんじゃないか?」
「それは最低よ幸村」
「その、それはダメ、だと思います」
「うん。それはダメだよユッキー」
「最低です幸村くん」
「…………すみません」
何故だ。何故私はコントを見せられている。
とにかく。
「後で覚えとけよ幸村」
「俺が何かしましたかっ⁉︎」
「借り物、発言」
「もう既にアッパーかましてきた後じゃないですか‼︎」
「学んでいないみたいだから改めて痛みと共に教え込ませるの」
全く。この後輩共は。
九重は、緩く笑った。
「て言うかみんな、今日は平日だよ?大丈夫なの?」
「何をおっしゃるんですか九十九先輩。この学校で、ポイントで買えないものはないんですよ?」
あぁ、出席買ったわけね。
「ふっ、早速今月ピンチだぜ!」
アンタ何やってんの馬鹿じゃないの波瑠加。
「しばらくは無料商品生活ね」
「山菜定食はとても健康的だぞ?タンパク質が足りないのだけは残念だ」
真澄も幸村も、何だって、こんな馬鹿なこと。
「ふっ、私についてきな。錬金術を見せたげる。───今日も、私の奢りだよ」
たく、しょうがないな。この後輩どもは。
この高育では、割と稼げる手段がある。
まぁ、基本は成績とか試験とかの特別ボーナスなんだけど。
実は、ゲームセンターとかファション店とかでも、ポイントを稼ぐことはできる。
要はモデルとかで給料がわりでもらったり、後は、大会やら、新しいスコアを更新したりして、その報酬として、ポイントを貰ったりもできる。
一年生だと雪村とか一之瀬とかはよくモデルやって稼いでる。まぁ、元天才子役と、一年女子トップの人気者な訳で、相当に稼いでいたわけ。
金織先輩と、後はメメ先輩もモデルで。まぁ、二人はそこに追加で、作った服を売ったり、オンラインでの全国大会とかで優勝したりしているけど。
で、私の稼ぎ場は、基本的にゲームセンター。
ここの最高得点とか諸々は、私が定期的に更新してて、ゲーセン側も、じゃあ私に更新されないように、どんどん最高難易度のレベルは上がっていく。
それで、コンテニューやら何やらで、一般生徒はポイントをどんどん落としていくわけ。
「ふふん。どうよオールパーフェクト」
「くっそ!またやりやがったなこのクソガキ!持ってけドロボー!」
「正当な報酬。感謝するよ」
百ポイントが五千ポイントに。
そんで、後は全部の筐体で、同じことを繰り返しておくだけで。
あっという間に、十万ポイント。
ま、いつもだったらもう数軒はゲーセン回るんだけど、今日は一軒で勘弁したげる。
「どう?これが私流錬金術。みんなも真似してみな」
後輩たちは、一様に微妙そうな顔をしていた。
まぁ、うん、だよね。
「こんなの九十九先輩以外には出来ないでしょう」
「どれだけ荒らし回ってきたんですか」
男子二人は心から呆れてた。
「坂柳さんもこんな感じで稼いでいたんですか……?」
「私の場合はチェスやらリバーシやらのオンラインでの大会を荒らし回っていますね。まぁ、頻繁にメメ先輩と当たるので、ここに比べたら効率が悪いとは思いますが」
「まぁ、つくちゃん先輩と同じことができるぐらいのゲーマーは、高育には居ないよねぇ」
「対抗馬がいなければ、荒らしたい放題ってわけね」
おい波瑠加。つくちゃん先輩ってなんだつくちゃん先輩って。
「さて、軍資金は確保できたみたいですね。つくちゃん先輩」
「早く映画館行きましょうつくちゃん先輩」
「そうね。ポップコーンは塩味でお願いつくちゃん先輩」
このAクラス馬鹿三人衆が‼︎
奢ってもらう後輩の分際で厚かましいぞ‼︎
「いつもありがとうつくちゃん先輩」
「今日もありがとうございますつくちゃん先輩」
「え、え、えと、あ、ありがとう、ご、ございます。つ、つくちゃん先輩」
あぁ、哀れな愛里。
愉快犯二人に付き合わされてるなんて。
「───チケットは買うけど、ポップコーンとドリンクは、愛里の分だけ奢ろっかな〜?」
すぐさま全員は掌を返した。
「つくちゃん先輩は失礼だぞ長谷部」
「そうですよ長谷部さん。先輩への敬意が足りませんね」
「ほんとにね。先輩をなんだと思っているのかしら」
Aクラス馬鹿三人衆は、波瑠加を売り。
「やれやれ。先輩へこう言うのは辞めておけといつも言っているだろう」
「ひ、一言も言ってなかったような……?」
幸村は、過去を捏造した。
「ちょ、酷くない⁉︎私だけ売る気⁉︎」
さて、波瑠加?
「何か言うことは?」
「ご、ごめんなさい………」
まぁ許す。
あっでも、もうちょっとカッコいい感じだったら、全然渾名で呼んでくれても良いかも。
例えば、そう。
「───、『オールナイン』先輩、なら呼んでも良いよ?」
一瞬、ううん。数瞬、沈黙が辺りを支配した。
やがて。
後輩たちを代表して。
シュウが、口を開く。
「───ダサいです」
みんな、頷いた。
嘘でしょ。私のセンス全否定?
「九重九十九だから『オールナイン』とか、安直すぎます」
「感性的には緋音先輩と同レベルですよ?」
「ていうかそれをハッカーとしての名前にしてるのが、ねぇ?」
「そ、その、芸名の決め方とか、教えましょうか?」
「それならつくちゃん先輩の方が百倍マシだね」
「百倍は少ないだろう」
お前ら全員覚えとけよ。
「それで、今日は何を見に行くわけ?」
「名目上は、九十九先輩の慰安なので、最近話題のなんか小さくて可愛いやつの映画にしました」
あぁ、あれね。
「ま、確かにほのぼの系の映画みたいだし、ちょうど良いんじゃない?」
「真澄さんの言う通りです。ほのぼのしに行きましょう」
なんか、うん。
有栖の口から『ほのぼの』とかいう、イメージと隔離した言葉が出てるだけでもう面白い。
いや、ね。外見イメージだけなら普通に言いそうなんだけど。
「島が舞台なんだね」
「な、なんか、夏休みを思い出しますね」
「…………この映画では、パンデミック展開はないよな………?」
いやいや。何言ってんのさ幸村。
こんな小さくて可愛いやつの映画で、そんなシリアスな展開やるわけないじゃん。
やっても、あれじゃない?
なんか、こう、どんどん可愛くなっちゃうウィルスとか、そんな所じゃない?
私たちは、甘かったんだ。
砂糖よりも、メープルシロップよりも甘かった。
全てを見終わった後、私たちは、暗い顔で、映画館を出た。
「………ちいさくて可愛いやつを舐めていました。すいません」
…………いや、これに関しては。
「………全員の責任、と言うしかありませんね」
「………そうね。きっと、全員の責任なのね」
ヤバい。有栖と真澄の会話が、内容についてなのか、それとも今日の選択についてなのか、どっちの話をしているのか分からない‼︎
ていうか、あまり食欲湧かない話だったから、塩味のポップコーンは殆ど残ってる。
………勿体無い。
「おい浅野。どうするんだこの空気。完全に終わりきっているぞ?」
「良いやまだだっ‼︎まだ手はあるっ‼︎」
なんか急にテンション上がったなシュウのやつ。
「流石っ‼︎学年トップの天才っ‼︎同率一位だけど‼︎」
「さ、流石です‼︎同率一位‼︎」
「えぇ。流石は私と同率一位の天才さんですね」
「期末では俺とも同率一位だったな。流石は天才だ」
「今年の一年生同率一位多すぎない?」
うん。私もそう思うよ。真澄。
いつの間にか、その、シュウのテンションがどんどん壊れていってる。
なんだよ『新世界の神になるっ』て。
心なしか窪田正孝に似てきたな。藤原竜也も好きだけどね。
同じジャンプで同じCVだからってこと?道理で宮侑みたいなサーブしてたわけ?
「で、どんな計画なわけ?キ、じゃないやが、じゃないシュウ?」
「───ふっ、僕を舐めるなよエ───九十九先輩」
「今Lって言いそうになったでしょ?」
「気のせいです」
「お、戻った」
「ぼ、『僕のだぞっ‼︎』とか、き、聞きたかったです」
「愛里、それ違うキャラ。雑誌も違うよ」
個人的には愛里の『ヤバいですねっ』とかも聞いておきたいんだけどね。
「とにかく、行きましょう。九十九先輩」
「だから、行くってどこに?」
「───先輩の思い出。『ハッピーパレット』です」
……………そっか。
余り、
「あっ、この前も来てくれた、お人形さんみたいに可愛い子!」
「あらあら。お褒めに預かり恐悦至極、ですね」
あ、メインでお菓子作ってる子犬系のイケメンだ。
「そっちの子も、去年から何回か来てくれるよね。今日は、綺麗な藤色の髪の子は居ないのかな?」
…………そう、だね。
「ごめんね。店員さん。藤乃は、今ちょっと、体調崩しちゃってて」
「あっ、そうなんだ……。ちょっと待っててね」
裏口に消えていった店員さんは、モノの数分で戻ってきて。
私の手に、保冷剤入りの、小型クーラーボックスを渡してきた。
「クーラーボックスは、また来た時に返してね。中身はお見舞いだよ。二人で食べてね」
「ちょっ、これもしかしてアイス⁉︎」
「うん。体調崩してた時とか、よくアイス食べてたから」
「いやそうじゃなくて!なんで私に………!」
「よく来てくれるし、いつも美味しそうに食べてくれるからさ。そのお礼」
「お、お人好し過ぎるでしょ……」
………私は、そんな人間じゃないのに。
「受け取ったらどうですか?クーラーボックスは、また後で、返しに来ましょう」
「…………………分かっ、たよ」
渋々、クーラーボックスを受け取って。
私たちは、店に入る。
「いやー『ハッピーパレット』一回来てみたかったんだよね〜!」
「は、はい!高育どころか、全国随一の、お菓子専門店!」
「グミもあるのか。珍しいな」
「うわぁ、お食事お断りの代名詞使えないじゃない」
「あぁ、あのグミが好き、というやつか」
「まぁ、普通はグミを出すお店なんてありませんしね」
私が一番慣れてるから。
みんなの分を、注文して。
私は、いつも通り、あまり好きじゃないけど、程々に甘くて苦い、チョコレートパフェを頼もうとして。
「───今日は、甘いモノじゃなくても良いんですよ。九十九先輩」
─────ねぇ、シュウ。
君は、いつから、気付いていたの?
私が、
初めて、ずっと食べたいと思っていた、ポテトチップスを食べて。
………なんだか、ずっと、しょっぱい気がした。
「………こういうところに出掛ける時に、九十九先輩はいつも、藤乃先輩の隣に座ります」
ねぇ、有栖。
君も、気付いてたの?
私の、
「藤乃先輩が、別の甘いものを食べたくなった時に、すぐに自分の分も、上げられるように」
違うよ。真澄。
そんなんじゃない。
そんなんじゃ、ない。
「…………別に、藤乃の為とかじゃないよ。
…………私の為。私が、少しでも楽になりたいからして来たことだよ。全部、私の、罪悪感から、目を逸らす為だよ」
そうだよ。
藤乃のために、そんなことするわけない。
だって、私は最低なやつなんだから。
「九十九先輩ってさ、いつも、藤乃先輩の近くにいるよね。基本的に」
「………それは、さ。
少しでも、私の罪悪感を無くすために、藤乃の世話を焼いてただけだよ」
「ち、違います。九十九先輩が、優しいからです」
優しくなんかない。
優しくなんか、ない。
だって、優しい奴は、あんなこと、しない。
今でも、夢に見る。
南雲を壊して、楽しくて、愉しくて、笑って、嗤って。
いつの間にか、私が壊してたのは、藤乃になってた。
私は、考えが足らなかった。
私は、関係ないやつを巻き込んだ。
私は、絶対に、許されないことをした。
だから、私は、優しくなんか、ない。
本当はね。後輩に頼られるたびに、友達に、ありがとうって言われるたびに、思うの。
私は、そんな人間じゃない。
もっと、どうしようもない人間なんだって。
「…………ごめんね。みんなが、私のために、こんなことをしてくれたのは、とても嬉しい。
でも、ずっと、苦しいんだ………。
だから、もう、関わらないで……」
「で、出来ません!」
愛里は、机を叩きながら、全力で立ち上がって、吠えた。
「さ、さっきから何なんですかあなたは!わ、私の、だ、大好きな先輩を、馬鹿にしないでください‼︎」
「は、はぁ、ぁ?」
「わ、私にとって、九十九先輩は、優しくて、頼りになって、尊敬する、大好きな先輩ですっ」
「───っ、やめ、てよ」
「や、やめません‼︎は、初めて、部室に来て、何をすれば良いのか分からなかった私に、チェスを教えてくれたのは、先輩ですっ‼︎」
「…………あ、あれは、そんなんじゃないよ。
せっかく藤乃が誘った後輩なのに、辞めちゃったら、藤乃が、また、悲しむと思ったから。
…………ふ、藤乃を、悲しませたら、私が、また、勝手に辛くなる、から。
あ、愛里を思ってのことじゃない。愛里のためにやったんじゃない」
「だからなんですかっ‼︎」
あ、愛里、こんなに、大きな声出せたんだなぁ。
ちょっと、感動、かも……?
「ねぇ。九十九先輩。
自分を最低だって言うのは、もう辞めて」
なんで、そんなこと言うのさ。
「先輩が、自分で自分を傷付ける度に、私たちも、傷を負うの。無理して笑う度に、私たちも、悲しくなるの」
「………だから、何。
私、が、最低だってことに、変わりはない。
私の罪が、消えてなくなるわけじゃない」
「でも、九十九先輩が傷付くのは、私は嫌なの」
波瑠加、そんな顔、するんだ。
「先輩。俺は、こういう時に、どういう言葉を掛ければいいのか、分からない」
「………あっそ。別に、声なんて、かけなくていいよ」
「でも、今の先輩はめんどくさいって思う」
「はぁ⁉︎」
「だって、先輩は最低なんかじゃないって、そういう人が、ここには六人もいる。
きっと、桃井先輩たちだって、そういうだろう。
なのに、先輩一人だけが、自分は最低だって、言い張っている。
そういうところは、面倒くさいと思う。
とっとと、認めてくれって、思う」
生意気、だね。幸村。
「九十九先輩。貴女は、決して、学校を壊すことはしなかった。
それが出来るだけの力は、あったのに」
「私が弱かっただけだ。臆病だっただけだ。知らないやつの恨み辛みを向けられたくなくて、でも、一時の感情で、全部忘れて、朝比奈を巻き込んで、南雲を壊して、藤乃を殺すところだった」
「そこは今はどうでもいいです」
「良いのかよ……」
「大事なのは、貴女が最後まで、学校を壊す選択は、しなかったことです。───ありがとうございます。九十九先輩。
貴女が、ここを壊さないでいてくれたから、私は、友達に出会えました。………好きな人に、また会えました。
先輩は、どこまでいっても、全てを壊すことは出来なくて。
それは、弱さなんかじゃありません。
それは、先輩の持つ、優しさという、強さです」
お願い………。黙って。有栖。
私は、私を許しても良いのかなって、そう、思っちゃうから。
「この学校で、先輩と出会えたこと。
先輩と、沢山遊んできたこと。
それは、嘘なんかじゃないです」
「もう、辞めてよ………」
「辞めません。最後まで、聞いてください。
ねぇ、先輩。僕も、罪を犯しました。
僕は、親が死んで、辛いだろうに、それでも家族の為に働く少年を、僕の勝利の為に利用して、退学させようとしました。
僕は、憧れの兄に追いつこうと努力する、一人の少女の足を引っ張り続けました。
僕は、運が良かっただけなんです。
二人が、あのクラスが強かったから、致命的な間違いを犯さないでいられただけなんです。
だから、先輩は、そんなに自分を責めなくて良いんです。
先輩は、運が悪かっただけなんですから」
「運が悪かったで、済ませて良いわけがない。
私は、取り返しがつかないことをした‼︎
一人の生徒を壊した‼︎一人の生徒を巻き込んだ‼︎そして、私は、親友を壊した‼︎殺しかけた‼︎
そんな単純な言葉で、済ませて良い訳がない……‼︎」
私が選んだんだ。
私がやったんだ。
私が悪いんだ。
運なんかのせいにしたくない。
だって、そんなの。
そんなの。
誰も、救われない。
運が良ければ、南雲は、あんなことをしなかった。
運が良ければ、朝比奈は、あんなこと知らずに済んだ。
運が良ければ、藤乃は、壊れなくて。
運が良ければ、雀は、今も、寝たままなんかじゃなくて……!
そんなの、認めたく、ない。
誰か、悪い奴がいたんだ。
いたとしたら、それは、私だったんだ。
そう思わないと、やってられない……。
「………ねぇ。先輩。
私、運が良かったよ。
運が良かったから、先輩に会えた。浅野と、有栖と、ちゃんと友達になれた。
全部、貴女に会えたから。
貴女が、私を助けてくれたから」
「わた、し、は………」
「貴女が私を助けてくれたのに、藤乃先輩は、関係があった?
ううん。そんな訳ない。
先輩は、藤乃先輩のためじゃなくても、あんなに、優しかったのよ」
私、は……。
「先輩は、悪い奴なんかじゃない。最低な奴なんかでもない。
ただ、運悪く、色んなものにつまづいて、間違いを犯してしまっただけなの。
忘れろなんて、口が裂けても言えない。
一切何も悪くない、なんていっても、きっと傷付けるだけ。
だから、私たちは、先輩は、運が悪かったんだって、言う。
………だって、先輩が、私のために、やってくれたことも。
藤乃先輩の為に、やって来たことも。
全部、本当のことだから」
………ねぇ。
それで、良いのかなぁ。
「僕たちは、それで良いと思います」
………ほんっと、馬鹿な後輩たち。
………ほら、帰るよ。
………アイス、溶けちゃうから。
合わせて7人分、かぁ。
本当、高いなぁ。
「────やっぱり、君は、優しいね」
…………聞いてたのかよ。さっきの会話。
「…………別に。きっと、あんたほどじゃない」
だって、名前も知らない奴のために、店の商品渡す奴なんて、優しいやつか、よっぽど馬鹿なやつだ。
「────俺は、ね。お菓子で、人を笑顔にしたかったんだ」
だから、一年ちょっと前に、君と、あの綺麗な藤色の髪の子が来た時に作ったケーキはね、すっごく気合い入れてたんだよ?
二人とも、世界の終わりみたいな、そんな顔してたから。少しでも、笑って欲しくって。
でも、君は、無理して甘いもの食べて、無理矢理笑ってて。
もう一人の方は、全然笑えてなくって。
だから、食べ切れなくって帰っちゃうってなった時、ちょっと、寂しくなっちゃったんだ。
それで、君たちを勘違いさせちゃってさ。無理して、全部食べ切っちゃって。
申し訳ないなぁって、思ってたんだけどね。
四苦八苦しながら食べているうちに、藤色の髪の子がさ、ちょっと、笑って。
それを見た君が、とても、嬉しそうに笑ったのを見てさ。
俺まで、嬉しくなったんだ。
「……………っ」
君に、何があったのかは、知らない。
きっと、俺の想像よりも、もっとずっと、辛いことだったんだと思う。
でも、俺は。
苦手な甘い物を、友達のために頑張って食べて。
友達の笑顔に、心から、嬉しそうに笑える君を。
とっても、優しい子だって、思ったんだ。
「………っ、…………っ」
ほら、これ。
試作だけど、後輩達と、分け合って食べてね。
ちょっと濃いめの塩味のポテトチップス。
濃いめだから、多分、思ってるよりも、しょっぱいかもね。
「、うん………。っ、ク、クーラーボックス、ちゃんと、返すね」
うん。また来てよ。
今度は、藤乃ちゃん?も一緒に。
「、………うん。うんっ………!」
ほんっとに、馬鹿な店員。
しょっぱすぎるっての。このポテチ。
………でも、そうだね。
もしかしたら、やっと、私の運ってやつも、良くなってきたのかも。
馬鹿で、でも、大切な後輩達と。
馬鹿で、でも、お人好しな店員と。
馬鹿で、でも、最高の友達と。
ずっとずっと、私たちのことを見守ってくれた、先輩と。
それから。
九重九十九は、隣の部屋の扉を叩いた。
少しだけ、顔色の良くなってきた藤乃に、クーラーボックスを突き出して。
「───『ハッピーパレット』の子犬系イケメン店員から、あんたへのお見舞い。私の分も兼ねて」
「えぇ?あの人に限って、そんな露骨なやり方で、距離詰めてくることは無いと思うけど」
「安心しなよ。アイツ、底抜けのお人好しだから。どうせ、変な下心とか、皆無だよ」
「ま、そういうことなら。…………上がって、く?」
「うん。そーする」
二人は、アイスを食べ合って。
一緒にゲームして、笑って。
一緒に、寝た。
ねぇ。藤乃。
また、一緒に、二人で、ケーキ食べようよ。
今度は、ワンホールじゃなくてさ。
ショートケーキ、三つぐらいで。
甘い物は、ほんとはそんなに好きじゃ無いけど。
藤乃と食べたら、好きになれるからさ。
「…………ねぇ、九十九」
「なぁに?」
床に布団を敷いて横になる九十九に。
藤乃は、ベットから、声を掛けた。
「…………私、
「…………そっか。雪村のお姉さん、藤乃の恩師なんだっけ?」
「…………うん。全部に、向き合わなくちゃいけないから」
…………そっか。
「…………ま、頑張れ。藤乃」
「…………いつもありがとう。九十九」
壊れ掛けの三日月に腰掛ける、雪村あぐりは。
少女達を、穏やかに、見守っていた。
卜部藤乃の中学時代と高校時代やって、雪村あかりとの対話やって、過去編一旦終わりの予定です。