殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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卜部藤乃の時間 二時間目

 ここに入学して、先生の説明を聞いて、率直に疑問だったのは、なんで十万ポイントなのか、ということだった。

 『毎月振り込まれる』とか言っていたから、額が変動するのは確定として。

 入学祝いで十万は流石に多くないかしら?

 だって、高校生なのよ?五万でも十分な大金なのに。

 生徒の理性を試したい、のかしら。

 

 そんなことを思いながら、コンビニの無料商品を見つけて。

 気付く。

 この無料商品には、ポイントでの制限がかけられていない。

 百万ポイントを持っている生徒でも、やろうと思えば一切のポイントを使わない生活ができる。

 そこまですることが認められているという事は、つまり、私の想像以上に、ポイントの重要度は、高い。

 『何にでも使える』は、比喩でもなんでもなく何にでも。多分、権利とか成績とか点数も買えると見て間違いない。

 …………だとしたら、初期十万ポイントには、他にも意味があるのかしら。

 十万でどこまで買えるのかしら。

 取り敢えず、しばらくは無料商品で生活しましょう。

 生きる分には、それで問題ないわ。

 

 次の日、私は、二年生と三年生の教室を見て回った。

 予想通り、椚ヶ丘と同じ成績順。ただ予想外のことは、机が少ない学級があること。

 堀北先輩のあるだろう二年Aクラスは四十個全部揃っていたけれど、他の学級はそうじゃ無い。

 ………成程。退学制度もあるのね。

 

 三年Aクラスの女子の先輩が身に付けているあのアクセサリー。確か、ネクタイピンを調べた時に、まとめて調べておいたものの中にあったわね。相場はおおよそ二十万前後。劣化具合からして、購入から一ヶ月未満かしら。

 ………安いわね。Aクラスなら、毎月振り込まれるのが十万前後。貯金額も相当なはず。相当な浪費家、というわけでもないでしょうね。衝動的に二十万前後のアクセサリーを買うような生徒なら、アクセサリーがひとつとは考えづらい。

 だって、Aクラスの貰えるポイントは、多いもの。

 去年の誕生日に貯めてきたポイントから奮発したって感じかしら。いえ、そこはどうでも良くて。

 大事なのは、月十万前後のポイントを貰える生徒が、それでも、二十万前後のアクセサリーを買う為に、最低でも二年近い貯金期間があったということ。

 …………つまり、あの先輩の貯金額は、現在百数十万ポイントから二百万ポイント程度と考えられる。

 

 …………そこまでの貯金が、必要だと、判断するのね。

 

 三年Aクラスのリーダーには、崇拝に近い感情を向けている生徒が、二人いる。

 …………単純に、崇拝されるぐらいに優れたカリスマ性だとして。

 それほどのカリスマ性の持ち主が、たった二人で済むかしら。

 もう、四、五人はいるはずよね。

 でも、そうはなっていないのなら。

 彼らは、退学の危機を救われた。あるいは、他クラスから引き抜かれた、のかしら。

 いずれにしても、そのポイントは、相当なもののはず。

 

 …………だと、したら。

 

 退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 個人では到底手出し出来ず。

 十人程度が出し合ってもどうしようもなく。

 クラスの半数以上を味方につけて、ようやく払えるであろう額。 

 

 …………やはり、三年Aクラスのリーダーらしい、優秀さ、ね。

 

『あ、あの〜〜』

『ひゃいっ』

 

 話しかけられるとは思わず、飛び上がりそうになった。

 恐る恐る振り返ると、お団子頭の、可愛らしい雰囲気の先輩だった。

 

『一年A()()()()の方ですね。道に迷ったなら、案内しますけど』

『…………いえ、そういうわけではなくて。二、三年生の教室に、興味があったので』 

『────そう、何ですか。どうして、ですか?』

『退学者はどれだけ出ているのか、とか。退学回避には、どれだけのポイントが必要なのか、とかを調べるためです』

『な、成程。こ、この時期に、そこまで考えているなんて、凄いですね』

『こちらからも、質問いいですか』

『はい。構いませんよ』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『────えっ』

 

 この先輩は、私がAクラスだと知っていた。

 椚ヶ丘と同じ、成績順だとして。

 私が成績順で配属された時に、Aクラスになるだろうことを知っているのは、堀北先輩のみ。

 まぁ、もし生徒会が、入試の成績まで、把握できるとかなら、話は別なのだけれど。

 ───でも、先輩のリアクション的に、前者のようね。

 

『───え、えっ、えっと、生徒会室、来ます、か?』

『お願いします』

 

 一年ぶりに、堀北先輩に会えるのが、楽しみだったりする。

 

 そして、生徒会室で。

 

『お久し振りです。堀北先輩』

『あぁ。久しぶりだな。卜部』

 

 より冷たく、より鋭く、より重くなった。

 やっぱり、この人は、凄いわね。

 

『息災か』

『えぇ。滞りなく』

『成程。どこまで把握した』

『成績順、退学制度、二千万。大体こんなところでしょうか』

 

 片目を隠した先輩と、びっくりするぐらい綺麗な先輩は、それぞれ目を見開いていた。

 

『───ふっ、流石だ』

 

 堀北先輩は、薄く笑った。

 

『………やれやれ。椚ヶ丘には化物しかいないのかな?』

『えぇ。流石は、学の後輩ですね』

 

 まぁ、うん。

 怪物の運営する、学校だもの。

 

『それで、学は、彼女をどの職に添えるつもりだい?』

『会計、あるいは副会長でしょうか?』

 

 私を生徒会に入れることに、この二人は、賛成らしいけれど。

 堀北先輩は、違った。

 

『────いや、もう少し時間を置きたい。具体的には、一学期程度だ』

 

 まぁ、そうよね。

 二年生のあの時期の、私の抱え込みっぷりは、よく知ってるでしょうし。

 

『分かりました』

 

 まずは、この学校に慣れないと、というわけですね。

 

 

 さて、生徒会室を出る時に、男子生徒とすれ違った。

 

 そう言えば、今日のご飯はどうしようかな。

 昨日は和食だったし、今日は洋食にしようかな。

 

 一日ずつ、何の問題もなく過ぎていく。

 

 抜き打ちの小テストを解いていくうちに、気付いた。

 この最終3問、私は解けるけど、うちのクラスで解ける生徒はいるのかしら。

 ここだけ難易度おかしいわね。

 …………何かのヒント、だとして。

 …………何のヒント?

 

 考えられる可能性としては、点数の購入?それか、過去問?……どちらも、当たっている気もする。

 もしかして、十万ポイントはこのためのものでもある?

 だとしたら、過去問の相場は十万は超える、ということ?

 それは、点数にも言えること。一点当たりで数万程度の可能性。

 どちらにせよ、聞いておいた方がいいわね。

 

『先生。テストの点数って、一点当たりいくらなんですか?』

『そうですね。基本的に、十五万ポイントです』

 

 ………成程。

 初期に配られる十万ポイントは、生徒の理性を試すためであると同時に、万が一の時の救済のためかしら。

 ………もし、中間テストで毎年同じ問題が出るとしたら。

 ………作れる、かも?

 

 

 その日の夜。

 卜部藤乃は、自室でテストを作っていた。

 今の授業の進行速度を考慮すると、おそらく中間の範囲はこのくらい。

 

(この先生は授業の時の様子からして、この単元が好きそうだったわね)

(この先生は、ほどほどに性格が悪いから、こんな感じの引っ掛け問題とか作りそうね)

(この先生なら、───)

 

 朝、窓の外から日の光が差し込むのに気付いて、ポツリとこぼす。

 

『…………もう、朝なのね』

 

 取り敢えず、自作したテスト科目の小テストを写真に撮って、堀北先輩に送っておいた。

 件名は、『答え合わせをお願いします』、で良いだろう。

 

 その日の昼休み、返信が来る。

 

 件名は『完璧だ』、か。

 うん。中間対策は、これでいけそうね。

 

 …………露骨にみんなにばら撒いたら、あれだし。

 

『…………みんな、少し良いかしら』

 

 そろそろ、クラスのまとめに入るとしましょうか。

 

『四月も半ばを過ぎた頃だし、そろそろ中間テストを見据えて、クラスで勉強会をするのは、どうかしら?』

 

 まぁ、うん。

 一年Aクラスは、癖強めだけど。特に鬼龍院。

 でも、私は、自分で言うのもあれだけど、なんか小さくて可愛らしい、みたいなイメージを持たれているのよね。

 ちょっと複雑だけど、このイメージをうまく使いましょうか。

 

『───うん。私は全然良いよ』

 

 雀は、こう言うのは断らないものね。

 

『うぇー、勉強とかめんどくさい。ていうか対策早すぎでしょ』

 

 うーん。まぁ、九重は、こういう感じよね。

 

『俺も構わない』

 

 桐山は、まぁ、賛成するよね。

 

『ふふふふ。君は何を見つけたのかな?藤乃?』

 

 ………はぁ、こいつは、どこまで見透かしてるのかしら。鬼龍院のやつ。

 

『……………そうね。みんなには、話しておいた方がいいわ。

 私の先輩から聞いた話なんだけど───』

 

 赤点を取ったら退学。

 クラス分けは成績順。

 特典を受けられるのは、Aクラスのみ。

 

『……………俄には、信じ難いね。国立の高校が、そんな詐欺じみたことする?』

『……………だが、そう考えれば、進学率就職率百%にも辻褄が合う』

『えぇー嘘でしょ?桐山納得すんの?税金でこんな詐欺学校が運営されてるとか考えたく無いんだけど』

『ならば聞くぞ。九重。本当に全生徒が進学率就職率百%か、本当は、Aクラスのみがその恩恵を受けられるのか。

 どちらの方が、現実的だ?』

『そりゃ後者だけどさ』

『ならば答えは出ているだろう』

 

 うん。九重と桐山が、代表としてそういうやり取りをしてくれて助かった。

 

『そこは今は置いとこうよ。大事なのは、赤点を取ったら退学ってとこ。だから藤乃さんは、今のうちから対策を始めておきたかったんだね?』

『そうね。みんなの不安を煽りたくはなかったから、話すつまりは無かったのだけれど』

『まぁ、卜部の懸念は分からなくもないし、今のうちから対策するのは、理にかなってるね。

 早速今日の放課後からやる?』

『なんだ。てっきり参加しないのかと思ったぞ』

『うっさい桐山。小テストのあの最終3問。あんなバカみたいな難易度の問題が、中間で山ほど来る可能性もある。

 対策は、取れるだけ取っておかないと』

『………あの3問か。正直、意味すらも分からなかったが。このクラスで、解けたやつはいるのか?』

 

 ………私の予想が正しければ、私以外に、あと二人。

 

『………まぁ、一応解けたよ。答えが合ってるとは、思えないけど』

『あの程度の問題、この私が解けない筈がないだろう?』

『私も解けたわ。まぁ、答え合わせを待ちましょう』

 

 ………やはり、この二人は、解けるのね。

 

『さて、早速、今日の放課後から始めましょう』

 

 そして、放課後。

 

『私が自作した小テストがあるの。これを解いてみて』

 

 まぁ、流石にいきなり全科目は時間がかかるから、まずは、基礎問題から。

 応用問題も、程々に織り交ぜつつ、ね。

 なぜだか参加した鬼龍院は、数問解いたところで、笑い出した。

 

 ────あぁ。気付いたのね。

 

『君は、私の予想以上だな。卜部。

 だが、惜しい。()()()()()()()()

 

 ────成程。そういうことしてくるところなのね。ここは。

 

 その日の夜、私はまた、小テストを作った。

 写真に撮って、もう一度、堀北先輩に。

 件名は、『範囲がずれていたので、改めて』。

 今回はすぐに返信が来た。

 件名は、『完璧以上だ』。

 

 …………ふふ。褒められちゃった。

 

 よし、これで行こう。

 

 次の日の放課後、私はまた、自作した小テストを配っていく。

 鬼龍院は、昨日よりももっと楽しそうに笑った。

 

『────君は、面白いな。卜部』

 

 そして、五月。

 

 本当の意味で、実力主義の学校が、始まった。

 

『ねぇ卜部。この問題ってさ──』

『あぁ、それね。この構文を使って──』

 

 勉強会は、とても順調だ。

 私の作った過去問は、完全に一致しているし、これなら、平均百点も。

 

『あぁー勉強ばかりで飽きてきた』

『分かるー。必要なことでも、疲れるよねー』

 

 ………まぁ、二人とも、順調に進んでいるし。

 

『そうね。残りの時間は遊んじゃう?』

『おっ、いいねいいね!』

『おっ、藤乃さんノリいいね〜。じゃーんトランプ持ってきたの!やらない?』

 

 私たち三人は、大富豪と、それから七並べをやって、次の日。

 

『今度はチェスだよ〜』

『一対一の奴じゃん。余った一人はどうするのさ。…………私も同じの持ってきちゃったんだけど』

『あら、奇遇ね。私もよ』

 

 …………全員、ボードゲームが好きなのね。

 

『じゃあ、二面打ちでやってみない?一回やってみたかったんだよね〜』

 

 呑気ね。雀は。

 

『まぁ、良いわ。やってみましょうか』

『言っとくけど、私ゲーム強いからね?』

 

 数十分後。

 

『───チェック(詰み)よ。九十九』

『ま、負けた。藤乃強すぎっ‼︎』

『いやー二人にボコられるのって、結構精神にくるね〜』

『雀も普通に強かったじゃない』

『うん。普通に強かったよ』

 

 まぁ、私たちは、普通ではないもの。

 そんな時に、桐山が声を掛けてきた。

 

『────少し良いか、卜部』

『何かしら?』

 

 聞くところによると、一人のクラスメイトが、先輩から過去問を買ってきたらしい。

 内容を確認してみると、私の作った自作テストと、一言一句同じ内容、ただし。

 ()()()()()()

 

『……………これ、いくらで買ったのかしら?』

『えっと、七万です』

 

 ……………少ないわね。

 最低でも、十万は超えると思っていたのに。

 

『少し、この問題、預かっても良いかしら』

『まぁ、別に良いけど』

 

 偽物なのは間違い無いわね。

 問題は、どこから流れてきたのか。

 

『………やはり、偽物だったか』

『あなたもそう思ったの?』

『あぁ。小テストに盛り込まれている問題。自作とは言ってたが、それは嘘なんだろう?この過去問から、抜き出した』

『………えっと、その、自作なのは、嘘じゃないの』

『………は?』

 

 まぁ、そう思うわよね。

 証拠として、私の持つプライベートポイントを見せる。

 調理器具やら何やらの必要な道具以外は、基本的に無料のもので済ませているから、今月振り込まれた分も合わせて。

 

『十七万ポイント………、か』

『普通に考えて、過去問を二万ポイント程度で買えるわけないでしょ?』

『いや、待て。なら、お前は……、どうやって、過去問を……?』

『だから言ったでしょう。作ったって』

『作っ、は?』

 

 問題を作るのは先生なわけで。

 先生の好みや癖は、授業聞いていたら分かるし。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『…………ここまで、化物だったか』

『…………年頃の女子に化物は酷くないかしら?』

 

 流石に怒るわよ?

 

 兎に角。

 この過去問、裏からばら撒いてるのはBクラスね。

 過去問の購入には、最低でも十数万ポイントはかかるとみて良い。なのに、たったの七万で他の生徒に回している。

 つまり、利益を度外視して、この偽の過去問を握らせたい奴が、一年生にいるわけで。

 利益を度外視出来るぐらいポイントに余裕があるのは、Bクラスだけ。

 CもDも今月ギリギリだったものね。

 ……………だとしたら。

 まぁ、おそらく、南雲くんね。

 先輩達と仲がいいみたいだし。

 

 一応、牽制も兼ねて。

 中間テストの結果が発表された次の日に、南雲くんに、直接テストを返す。

 僅かにこめかみに皺がよった。

 左唇の端が上がってる。

 左眦が上がっている。

 

 ───確定、ね。

 

『あまり面倒をかけないで頂戴』

 

 こう言っておけば、次は、おそらく。

 私個人を、狙ってくるはず。

 

 敢えて、監視カメラの無い森の道を通学路にして、誘導する。

 南雲くんは、慎重な人でもある。

 だから、三日は様子を見る。三日かけて、私の通学路を把握して。

 二日は、明けてから、来る。

 この木の影なら、監視カメラはない。来るとしたら、ここ。なら。

 

『少し手を貸して頂戴。鬼龍院』

『君の頼みなら、構わんさ』

 

 まぁ、私は、物理的には弱いし。でも、私の予想通り。

 ここに来たわね。南雲くんの手下。

 

『問題なく処理できた。やれやれ。この私に伝言まで頼むとはな』

『礼を言うわ。鬼龍院』

『それで?まだ来ると、君は予想しているんだろう?』

『そうね。南雲くんが、次にやってくるとしたら──、と、ごめんなさい鬼龍院。これから、九十九と買い物に行く約束があるから』

『あぁ。行ってきたまえ』

『今日はありがとう。助かったわ』

 

 鬼龍院楓香は、その背中を見ながら、南雲雅に、思いを馳せる。

 

『…………力の差は、早く受け入れるべきだぞ。南雲』

 

 さて、次に南雲くんが打つ手は、おそらく、精神攻撃ね。

 鬼龍院を通じて、あんな伝言を残しておいたし、躍起になって動くでしょう。

 考えられる手としては、私の悪評を流す、とか。

 二年生はありえない。どのクラスも優秀だし、ポイントに余裕もある。

 一年生はもっとありえない。一年生が同級生の悪評を流したところで、そんなもの、厄介な学生への精神攻撃だとすぐにバレる。

 でも、三年生からなら?

 信ぴょう性が生まれて、その生徒の人間関係に、亀裂が走る可能性も、ある。

 でも、元さえ分かれば、何の問題もない。

 ポイントに余裕が無い三年Dクラスの先輩を利用するでしょうね。他人の

悪評を流すなんて、自身の悪評にもつながりかねないこと、普通の先輩だったらやらないもの。

 でも、どうしてもポイントが欲しいなら、話は別。

 

『こんばんわ。サッカー部の今泉先輩。初めまして。一年Aクラスの、卜部藤乃です』

『………卜部、か』

『………少し、お話があります』

 

 南雲くんと関わりが深い、三年Dクラスのサッカー部の先輩。

 私を知っている様子から見て、恐らくは、この人を起点にばら撒くつもり。

 …………ばら撒く前に堰き止めても良いんだけど。

 でも、どうせ、これだけじゃ諦めないよね。

 

 だから、敢えて。

 

『一日だけ、私の悪評をばら撒いて、次の日には、訂正してください』

『………はっ、それに乗るメリットがあんのかよ?』

『南雲くんは、悪評をばら撒けとしか言って来なかったんでしょう?なら、悪評をばら撒きさえすれば、依頼は達成。ポイントは、問題なく貰えるでしょうし。

 そこに加えて、私からも、追加でポイントをお出し出来ますよ?』

 

 稼ごうと思えば稼げる手段があること。それを知れたのは幸運だった。オンラインでの将棋大会を幾つか荒らして、大体三十万ポイントは稼げたし。

 

『………幾らだ』

『十二万、どうですか?』

『………少ねぇな。十六』

『南雲くんよりは、出したつもりだったんですけどね。十三』

『はっ、どうせ南雲のやつより、お前の方が持ってんだろ?十五』

『まぁ、Aクラスですし。十四で』

『良いぜ。交渉成立だ』

 

 これで良し。

 ……………うーん。この調子だと、南雲くんの相手を続ける度に、ポイントが減ったりしちゃうのね。

 そこは、面倒ね。

 

『…………南雲のやつも運がねぇな。あんなのと、同学年だなんて』

 

 残り十六万は、貯金しておきましょう。

 この後は、クラスの勉強会ね。

 

 さて、これで、私個人を狙うことは難しいって判断するだろうし、次は、より少ないポイントで操れる一年Dクラスを利用した、私たちAクラス女子を狙っての、ストーキング、とか?

 

 まぁ、だとしたら。

 同じDクラスに、仕込んでおけば良い。

 

『来てくれてありがとう。立花くん』

 

 一年Dクラス立花賢人。

 実質的な、リーダー。

 

『………何の用だ。卜部』

『想像はついているでしょう?いくら貰ったのかは知らないけど、あなた達が、私たちをストーキングするよう頼まれていることは、知っているわ』

『………んで、どうするつもりだ?』

『別に、止めるつもりは無いけれど』

『はぁ?』

『たかがDクラスにそんな低俗なことをされた程度で、私たちが傷付くこともない。それだけよ』

『………、っ、舐めてんのか』

『舐めているわよ。一番下だもの』

 

 どれだけ、南雲くんが、証拠を残さないように動かそうとしても。

 どれだけ、南雲くんが、念入りに指示を出していたとしても。

 

 指示を受ける側が、感情的になったら、話は別よね。

 

 歩きながら、自然と、左手に握ったままの端末で、証拠を撮影しておく。

 これだけで、問題なし。

 

 一年Dクラスはストーキングで停学。

 もう、そろそろ諦めてくれないかしら。

 

 まぁ、彼は、執念深いようね。

 

『あの、藤乃さん……実は………』

 

 ポイントと引き換えに、私の私物を盗め、ねぇ。

 うーん、少し余裕がなくなっているのかしら。こんなの、相談されたら終わりじゃない。

 ………そろそろ、良いかもね。

 南雲くんの私に勝とうとするその執念。

 それは尊敬に値するけど、流石に、こういうやり方は、面倒くさいもの。

 椚ヶ丘でも、ここまでしつこいのは居なかったし。

 

『分かったわ。ポイント、私から先輩に返しておくわね』

『う、うん。お願い』

 

 さて。

 

『ねぇ南雲くん。これ、返すわね』

『お、おいおいどうした卜部?返すって、何だって急に、十三万ポイントも……』

『───ねぇ』

 

 私への個人的な物理攻撃は、事前に潰された。

 私への精神的な攻撃は、潰された上で、態々一日だけ見逃された。

 私たちへの嫌がらせは、容易く証拠を掴まれて。

 私たちのクラスを分断しようとして、事前に完全に潰された。

 

『面倒ごとは、もう勘弁して頂戴』

 

 …………本当に、そろそろ辞めてくれないかしら。

 

 そして、そろそろ一学期が終わるし。

 私は再び、生徒会室に訪れて。

 

 そこで、南雲くんに、宣戦布告された。

 

 面倒臭いけど、まぁ、ちょうど良いわね。

 テスト対策を進めて、問題なく、勝てるはず。

 だった、のだけれど。

 

『ごめ、エホっえほっ、』

『ほら、ちゃんと寝ときなさい』

『ついてないねー。期末一週間前に、インフルとか』

『そうね。本当に』

 

 …………不味いわね。

 点数を落とさないと、雀は退学になる。

 でも、そうすると、私は生徒会に入れなくなる。

 

 …………中学で、私は、堀北先輩の理想を、継げなかったから。

 高校では、ちゃんと、堀北先輩の為に、最後まで。

 

 でも、それで雀を見捨てるのは、違うわよね。

 

 …………しょうがない。

 雀には、私が作った自作小テスト、つまり、中間で作った過去問の、期末バージョンを、出来る限り覚えさせて。

 その上で、全科目()()()()()()()()、雀の赤点は、無いわね。

 南雲くんには、申し訳ないけれど。

 

 期末テストを解いている最中、気付いた。

 …………この、最終二問。()()()()()()()()()

 

 問題の癖は、間違いなく先輩のもの。何だって、こんな、()()()()()()()()()

 ………そういうこと。

 欲張りね。堀北先輩。

 私と南雲くんの、両取りを狙うなんて。

 堀北先輩のシナリオが見えた。

 雀が倒れたのを知った堀北先輩は、私が南雲くんに勝ちを譲る形になることを予想して、私が生徒会に入るのに反発を続けるだろう南雲くんに、いずれ私も生徒会に入れることを了承させるつもりだった。

 言葉で納得できるほど容易い人間じゃ無いから、ここで徹底的に力の差を見せつけて、私も生徒会に入ることを、認めさせる。

 ついでに、南雲くんを()()()()()()使()()()()()調()()()()

 まぁ、調教って言い方が、正しいわね。

 …………少し、浅野先生を思い出すようなやり方だけど。

 でもまぁ、堀北先輩がこうしろって指示したってことは、私と同じように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って認識なんでしょうね。

 彼は、やけになって大暴れするような人間じゃ無いし。

 

 ………なら、もっと徹底的に、力の差を見せ付ける方が、良いわよね。

 

 さて、みんなは何点ぐらい取れるかしら。

 この最終二問、鬼龍院と九十九なら、どれだけ解けるかしら。

 雀は、どれだけ覚えたかしら。

 ()()()()()()()()()

 

 テストを解きながら、私は、このクラスの赤点ラインを導き出した。

 そして、最終問題で、点数を調整して。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()

 

 ここまでやれば、流石に、認めざるを得ないでしょう。

  

 

 そして、テスト返却の日。

 多分、堀北先輩が、この点数はわざとか、とか聞いてくるはず、と思ってたら。

 気付いたのは、神田先輩だった。

 ………驚いた。この先輩、そこまで分かるんだ。

 テストを一目見て、南雲くんも、瞬時に理解したみたい。

 やっぱり、能力は、あるのよね。

 

 ……………その、申し訳、ないし。

 

『───ごめんなさい。南雲くん』 

 

 南雲くんは、何も言わずに、生徒会室を出た。

 

『───はぁ、学。これは、少し性格が悪いと思うが』

『………まぁ、そうだが。南雲は、言葉で納得するようなやつじゃないだろう?』

『はぁ、少しは言葉で納得させようとしなよ。君のその合理的なところ、いつか手ひどい失敗しそうだね。

 まぁ、今回は、相手が南雲だし、多分、大丈夫だと思うよ』

 

 …………何だか、嬉しかった。

 椚ヶ丘には居なかった、対等な、堀北先輩の友人。

 

 外が荒れて来たから、少しだけ、南雲くんが心配になった。

 

『ちょっと、失礼しま───』

『やめておけ』

『………でも』

『南雲ならば、問題はないだろう。

 あいつは、強いやつではあるからな』

『おやおや、存外に高評価じゃないか。それだけ、()()しているのかい?』

『…………()()とは、少し違うな』

 

 …………そうだ。

 堀北先輩が、人に期待することは、殆ど無い。

 

『広辞苑がどうかは知らないが、俺にとって期待という言葉は、諦めから出る言葉だ』

『…………南雲は、自分が出来ないことを出来るような類の人間じゃ無いってことかい?』

『そうだな』

 

 きっと、堀北先輩が、ずっと、期待しているのは。

 浅野と、妹さんぐらいでしょうね。

 

 雨は、すぐに止んだ。

 

 まぁ、そうね。

 南雲くんは、少しだけ、浅野に似ている気がする。

 敗北を繰り返したとしても、それで折れるとは、思えない。実際今まで折れなかったし。まぁ、今回の敗北は、効いたでしょうけど。

 

 のに、何でだろう。

 

 何かを、間違えてしまった、ような───?

 

 

 少しだけ、南雲くんへの罪悪感は、持っていた。

 だから、という訳でも無いんだけど、私に友好的に接して来た時。

 でも、私への悪感情が垣間見えていた時。

 ただし、嘘をついているわけでもなく、罪悪感を抱えているわけでも無いから。

 いつかの浅野が、堀北先輩に向けていたものに、似ていたから。

  

 まぁ、大丈夫だろうって、そう思ったの。

 

 ほんと、甘かった。

 見誤った。

 

 ここまでのことをする人だとは、思ってもいなかった。雀を慰めながら、私は、どこか冷静に、南雲を潰そうとしていて。

 

 ……………でも、堀北先輩も、同じことを、考えていたんだよね。

 ……………堀北先輩は、あれだけで、南雲がここまで壊れるとは、思っていなかった。

 ……………多分、神田先輩も。

 ……………じゃあ、どうして、南雲くんは、ここまで壊れたんだろう?

 

 ─────『ごめんなさい。南雲くん』

 

 私の、せい?

 私、が、謝った、から?

 

 私が、南雲くんを、壊した?

 

 じゃあ、じゃあ、雀が、こんなに泣いてるのも。

 Aクラスが負けたのも。

 何より、堀北先輩の理想が───。

 

 試験に集中しようとしても、そんなことばかりが、脳みそを走り回って。

 いつの間にか、Aクラスは負けていた。

 

 雀が、南雲くんのところに行ったのを知って、私は、慌てて止めに行った。

 ……………そこで、南雲くんの叫びを、聞いた。

 

 ─────私のせいだった。

 私が、南雲くんを壊した。

 雀を、壊した。

 

 私は、また、()()()()()()()()()()()

 

 お母さんが、私に話しかけてくる。

 

『やっぱりあなたはそういう子なのね。

 家族よりも、()()()()()()()()()

 そしてその果てで、いろんなものを壊して、後悔する。

 どこまでも自分勝手で、我儘で、傲慢な子』

 

 お父さんが、話しかけてくる。

 

『───藤乃、君は、私たちが死んだ時。

 私たちが死んだことよりも、そうして、()()()()()()()()()()()()()()()を、より悲しんだ』

 

 浅野先生が話しかけてくる。

 

『───あなたは、自分の欲望のために、平然と他者を踏み躙り、それを良しとする、強者の価値観を持っています。

 だから、あなたに、あなたと学くんに、理想を実現することは、出来ない。

 あなたは強者のやり方しか知らない。誰かを支配し、上から押し付けることしかできない。

 それは、あなたが否定したがっていた、私と同じやり方です。そのやり方しか出来ないあなたは、理想を実現することなどできない。

 ────もしあなたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 雀が、私に話しかけてくる。

 

『───ねぇ、藤乃さん。

 どうして、南雲を徹底的に潰さなかったの。

 どうして、南雲を殺そうとしなかったの。

 ───惜しい、と思っていたんでしょう?浅野学秀に似ていたから。

 折って、言う事を聞かせるようにして、堀北先輩に、着いていくように出来たら、堀北先輩の理想に、より近付けると思った。

 来年入ってくる浅野学秀の力もあれば、きっと、理想を叶えられるって。

 中学で出来なかったことが、今度こそ出来るって、そう思った』

 

 九十九が、私に話しかけてくる。

 

『ねぇ。藤乃。私、言ったよね。南雲は、危険だって。

 藤乃はさ、南雲を見下してたんでしょ?こんなこと出来るわけないって。

 それはさ、E組を踏みつけにしていた、本校舎の人達と、何が違うの?』

 

 桐山が、私に話しかけてくる。

 

『────自分よりも凄い奴はいくらでもいる。なんて思っておきながら、南雲はそうじゃ無い、と、そう思い込んでいた。

 お前は、特別な天才なんかじゃない。普通の、愚か者だ』

 

 鬼龍院が、私に話しかけてくる。

 

『何より度し難いのは、こうして、私たちを使って、自分を守ろうとしている事だな。

 ───なぁ、いつまで、私たちにこんな事を言わせるつもりだ?』

 

 頭の中の煙が晴れる。

 目の前に、中学の頃の、私がいる。

 

『───何にも変わってないわね。アンタは。

 ねぇ、────アンタは、いつまで、目を逸らすつもり?』

 

 ………目を、逸らしてなんか。

 

『本当は、お母さん達を恨んだんでしょ?自分が生徒会に居られなくなる理由を作ったあの人たちを。

 堀北先輩が、好きになったから。

 あの人の理想を、一緒に追いたいと、そう思ったから。

 だから、あなたは、()()()()()()()()()()()()

 

 ち、違───わ、ない。

 

 私は、悪意を持って、南雲くんの心を折るんじゃなくて。

 こうして、堀北先輩の為に動くようになることが、良い事だと、思ったから。

 そう、私は、善意で、南雲くんの心を、折ろうとして。

 

 でも、そんなの、そんなやり方、理事長と、変わらない。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 私の、最悪なところは。

 支配する相手を、見誤ったところと、支配の仕方が、中途半端だったこと。

 どうせだったら、あそこで、謝るんじゃなくて。

 

 ────徹底的に、折るべきだった。

 

 だって、私は。

 理事長のやり方で、あんな事をしたんだから。

 最後まで、それを貫くべきだった。

 中途半端に、優しさを、優しく、接しようと、したから………。

 

 私は、また。

 浅野先生なら、全部、抱え込めたから。

 浅野先生なら、一人でも、全部出来たから。

 堀北先輩と、同じように。

 浅野先生を、超えたいなら。

 私も、一人で、全部出来ないと駄目だと、そう、思い込んで。

 ()()()()()()()()()()()()

 誰にも頼らず、全部を抱え込んで。  

 盛大に、失敗して。

 壊れそうに、折れそうに、なって…………。

 

 あれ?何であの時、折れないで、いられたんだっけ。

 何で私、堀北先輩の理想を継がない事を、受け入れられたんだっけ。

 何で私、お母さん達の死を、ちゃんと、悲しめたんだっけ。

 何で?

 

 ────何で、私、大事な事を、忘れていたんだっけ。

 

 いつかのメールを、思い出す。

 件名は、『完璧以上だ』。

 …………そう、だ。

 あの時、このやり方で、堀北先輩に、褒められたから。

 最終二問を、堀北先輩が、仕込んだ時。

 私と、似たようなやり方を、堀北先輩も、選んでいたから。

 

 ()()()()()()()()()

 

 これで間違っていないんだって、そう、嬉しくなって、納得して。

 皆に話す事を放棄した。

 私一人でもどうとでもなると思っていて、実際、途中までは、どうとでもなって。

 ────ずっと、一人で、抱え込んでいた。

 その果てが、これだ。

 

 せめて鬼龍院には話しておくべきだった。

 私と南雲くんの諍いを、鬼龍院は知っていたから。

 私が期末テストで何をしたのか知っていたら、きっと、鬼龍院なら、止められた。

 

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 

 あの時こうしておけばよかった。こう言えばよかった。こう動けばよかった。こうしなければよかった。

 あの時、あの時、あの時、あの時。

 

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 

 私は失敗した。こうすれば失敗しなかったのに。

 私は見過ごした。こうすれば見過ごさなかったのに。

 私は守れなかった。こう話せば守れたのに。

 

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 

 私は、私が、私なら、私のせいで。

 

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 

 色んな感情と、思考と、後悔と、謝罪と、本当に、多種多様なものが、頭の中を、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 

『ごめんなさい。藤乃さん。ごめんなさい』

 

 ───やめて。

 

『───ごめんね。藤乃』

 

 ───やめて。

 

『ごめんな。藤乃。父さん、弱くって』

 

 ───やめて。

 

 船上試験が終わってすぐ。

 私は、堀北先輩に、謝罪した。

 でも、堀北先輩は、私を責めなかった。

 浅野先生を超えたいと思いながら、浅野先生と同じやり方をしてしまった、自分のせいだと、言っていた。

 そして。

 

『───すまなかった。卜部』

 

 ───やめて、下さい。

 

 あなたに、そんな顔をさせたくなかった。

 あなたは、きっと、間違って、いないのに。

 

 私が、余計な事を言ったから。

 私が、南雲くんを、見ていなかったから。

 

 私の、せい、なのに。

 

 何で、皆、謝るの。

 私が、悪いんだよ。

 全部、私が、悪いんだよ‼︎

 

 勝手に、浮かれて、家族を、放ったらかしにして……‼︎

 勝手に、見下して、みんなに、話さなくて………‼︎

 なのに、何で、何で、皆、謝るの………!

 

 部屋の中で、私の頭は、ずぅっーと、ずぅっーと、色んなことが、回っていた。

 

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 

 頭がおかしくなりそうで。

 ううん。もう、おかしくなってた。

 

 そして、いつの間にか。

 私は、部屋中を荒らし回っていて。

 

 ──────そこからは、記憶にない。

 

 

 そして、堀北先輩に、テーブルゲーム部に、放り込まれて。

 みんなと遊んでいるうちに、少しづつ、楽になった気がして。

 

 でも、体育祭で、思い知ったの。

 

 私が南雲くんを壊したから。

 私が、出来もしないのに、浅野先生のやり方を、真似たから。

 

 二年生は、地獄になった。

 

 目を逸らすことなんて、許されない。

 楽になることも、許されない。

 …………それでも、私には、やらなくちゃならないことがある。果たすべき、責任がある。

 どんな手を使っても、私は南雲くんを殺す。

 どんな手を使っても、私は、南雲くんを終わらせる。

 

 …………急に、こんな事を話されても、面倒くさいだけよね。

 

 ごめんなさい。雪村さん。

 

 聞いてくれて、ありがとう。

 

 …………雪村先生にも、よろしくね。

 

「待ってください‼︎」

 

 雪村あかりは、卜部藤乃の手を取った。

 

「───放ってなんて、おけません!」

 

 人の目に付かない喫茶店で、雪村あかりは、彼女のことを、放っておけなかった。

 だって、彼女は、私が、初めて会えた。

 お姉ちゃんの───。

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