著しくキャラ崩壊注意!
四月下旬。
火曜のホームルーム終わり。
「はーい皆ちゅうもーく!」
一之瀬帆波がそう声をかける。
素直に従い、一之瀬に向き直るBクラスの生徒たち。
「これから皆に、配りたいものがあります!あかりちゃんよろしく!」
「はーい。ここからは私の番だよ〜」
茅野は人数分コピーした複数枚のプリントを回していく。
回し切ったのを確認して、話を切り出した。
「皆は、この前やった小テストは覚えているかな?」
つい2日前行われた小テスト。
基礎的な内容ばかりで、平均80点は硬いとBクラス全員が思っていた。ただ、最終3問だけはどうしても無理だった。
渚はこの感覚を、1学期中間テストで味わっていた。
去年もあったとされる抜き打ちの小テストの過去問を見て、なるほど、と渚は納得する。
「前のクラス会でも話したけど、この学校は赤点取ったりすると退学になっちゃいます。なので、そうならない為にも今の段階から対策を始めているわけですが」
そこで。学校の過去問を示す茅野は、話し続ける。
「どうやら、過去問と中間テストの内容は全く一緒のようなので、まぁ、はい。赤点回避のための救済策だと思われます」
「でも、勉強会は辞めないよ。基礎を固めるにはいい機会だからね」
「ただ、安全策はもうあるってことを意識の片隅にでも置いといて。それだけで精神的に楽になるからね」
良くも悪くも、Bクラスは凡人たちの集まりだ。
普通に勉強して、普通に対策して、普通の戦術で戦うクラス。
極まった
少なくとも、烏間先生を一人で殺すのは絶対に無理だ。基礎スペックが違いすぎるので。
基礎スペックに違いがあり過ぎれば、
クラス間の実力差が広がりすぎてないのなら、渚の存在には大きな意味があるが、もし、そうなって仕舞えば。
(
地力ですり潰されないために、万が一を無くすための安全策を取りつつ、クラスそのものの底上げを図る。
(問題は、この過去問がどこから来たものなのかってことなんだけど。他のクラスだったら罠の可能性もあるし、そんなのをあの二人が回すとは思えないから、多分、裏はとってる、はず)
……そう言えば、一之瀬さんは生徒会に入ったって聞いたな。生徒会には堀北会長もいたはずだし、あの人なら渡してくれそうだな。
確か、今年の一年で生徒会に入ったのは、浅野くんと、堀北さんと、一之瀬さんだっけ。
やっぱり一之瀬さんは凄いなぁ。あの2人と同じくらいの評価を受けるなんて。
「それと、この前話してくれた人がいたんだけど、最近Cクラスの人達が付き纏ってくるみたいなんだよね。まぁ実害は一切ないんだけど、不安になる人もいるだろうから、1人での登下校はできる限り避けよう!」
最近、Cクラスのきな臭い動きが増えてきた。
カルマは基本的に邪魔しないって言ってたし、多分、龍園って人が指揮してるんだろうな。でも、カルマがブレーキかけてるみたいだし、これ以上の何かはないだろう。
(……多分。こういう時にどんな動きをしてくるクラスなのかを見極めようとしているってことかな?
AとDにはこんなことしてなかったみたいだし、僕がどのあたりのラインで動くのかを見極めるつもりでもあるのかな。
まぁ、流石にこれだけで動いたりはしないけど。)
と、そこでカルマからメッセージが届く。
『奥田さんから映画に誘われた』
………やっぱりあの子の動きは早いなぁ。
『そう。頑張って』
さて、何時ごろの映画だったっけ。
渚は奥田に送ったチケットの時間を確認する。
………そういえば、綾小路くんはいつも仕返しの機会を探ってたみたいだし、誘っておくか。
『二人きりは正直ハードル高い』
『金出すから付き合って』
『マジで頼む』
『ごめん無理』
『(膝をつき項垂れるスタンプ)』
そこでカルマとのトーク画面を閉じ、綾小路とのトーク画面を開く。
『今週の日曜日、奥田さんとカルマの映画館デートを尾行するつもりだけど、どうする?』
『よし行こう。カメラは任せておけ』
哀れカルマ。
ま、自業自得、因果応報だ。
当日、ケヤキモール近くの、人目につきにくい路地裏にて。
「悪い、待ったか?」
「いいや。時間通りだよ」
「よし。確か映画は14時からだったな。おそらくそれまでにランチも一緒に取るつもりだろう」
「…今日最大のシャッターチャンスだね」
「あぁ、映画館ではカメラを使えないからな」
合流した渚と綾小路は、手早くそこで変装した。
茅野と菅野くんに教わった変装技術がこんなところで使えるとは。
路地裏からでできたのは、どこからどう見ても普通の学生二人組。
さて、
「いたね」
「あぁ。いたな」
割と頑張ったのか、いつもよりも身綺麗なカルマ。ただ、奥田さんが割と抜けた服装で来る可能性も考慮しているのか、決めすぎてはいない服装だ。
………こういうところも、割と面白いかもしれない。
「綾小路くん。取り敢えず一枚」
「OK任せろ」
パシャリ、シャッターチャンスは逃さない。
そわそわして髪の毛をいじり始めていたので、そこも逃さずパシャリ。律のおかげで情報漏洩はあり得ない。その上で、外部とも普通に連絡は取れるので、後で中村に流してやろう。こういう時は、
「あっ、カルマくん!お待たせしました!」
「気にしなくていいよ奥田さん。俺も今来たところだし」
どうだろう。多分、五分ぐらい前からいたと思うのだが。
「綾小路くんはどう思う?僕は五分に1000ポイント」
「なら俺は10分だな。最近金欠だから500で勘弁してくれ」
「よし、律。答え合わせよろしく」
『かしこまりました、渚さん!付近の監視カメラをハッキングして、何分前からいたのかを調べますね!』
端末に送られた映像を確認してみると、カルマが待ち合わせ場所に着いたのは、集合時間7分32秒前。
…………これは、無効でいいのでは。
「賭けを始めたのは渚の方だろう。こっちは誤差148秒。そっちは152秒だ。俺の方が誤差が小さいから俺の勝ちだ」
「はいはい。どれだけ金欠なのさ君は」
「少し、出費が嵩んでな」
「何に使ったのさ」
「……前原と殺せんせーの教えを実践してたらな」
「………そんなにデートするのもどうかと思う」
「もう一度言うが、俺は女好きではないぞ」
「はいはい。分かってるよ」
「いーや分かってない。その返事は絶対分かっていない。もう一度言うぞ、俺は女好きではない」
「だから、分かってるって。…………あの二人にはいいところ見せたいだけだもんね?」
「そう、いや、そうは、そう言う意味ではないんだが、女好きではないという意味でのそうであって、あの二人に良いところを見せたいからとか、そういう意味ではないのであってだな」
「お、動くよ」
「………追うぞ」
渋々、本当に渋々と動き出した綾小路は、赤羽の次のセリフを聞いてやる気を爆発させた。
「あーその、今日の服、すごくかわいいね、奥田さん」
「!ふふふっ、何だかとっても嬉しいです。…………えっと、こういう時は、カルマくんもかっこいいですよ、であってますか?」
「──……うん。それであってるよ」
赤羽業の、奥田を愛おしそうにみるその目といったら、こんなのもう面白すぎるだろう。
渚も全く同じことを思ったのだろう。
さっきよりも二人は尾行のやる気を出した。
後、写真は凄い勢いで増えた。
例えば、二人でちょっとおしゃれなイタリアンを食べに行っているところ。
美味しそうに食べる奥田をこれ以上ないぐらい優しい笑顔で見守るカルマの写真。
特に意識とかせずにあっさりとあーんしてくる奥田に赤くなるカルマの写真。カルマが見てくるのは料理が気になったからだと思ったらしい。
例えば、店から出て、ケヤキモールの中を散歩していたところ。
勇気を出して手を握ってみたら、よく分からないまま指を絡めてくる奥田に顔を真っ赤にするカルマの写真。人が多いから逸れないようにだと思ったのか、指を絡めた方が逸れないのでは?とか考えたのだろう。ここまでくると魔性の女である。
その後、奥田が気になった店に付き合うカルマ。
書店で読んだことのない科学本に目を輝かせる奥田を愛おしそうに見つめるカルマの写真。
ペットショップで犬と戯れる奥田を見守るカルマの写真。
などなどなど。
極め付けは、映画館なので写真は撮れなかったが、まさかのカップルシートに死ぬほど動揺するカルマ。二つの席がくっついており、肘おきも無いのでほぼ密着して映画を見ることになる奥田とカルマ。
そこでようやくカルマは奥田に誰に映画館のチケットを貰ったのかを聞き、それが渚だと知って、ここまでの全てを写真に撮られている可能性に辿り着いたのだろう。
青筋を浮かべながら辺りを見渡していた。が、二人ともかなり完璧な変装だったのでバレるはずはない。
一列後ろに渚と綾小路は座り、映画を見るよりも、暗闇なので時々手が触れ合ったり、化学薬品の匂いがすると思い込んでたのか、普通に女の子らしい甘い匂いがして動揺するカルマを見ることの方が面白いので、そちらに集中していた。
映画も終わり、カルマは女子寮前まで奥田を送る。
「今日はとっても楽しかったです!ありがとうございます、カルマくん!」
「うん。俺も楽しかったよ。ありがとう、奥田さん」
「えっと、こういう時は、また今度も誘いますね!であってますか⁉︎」
「あ、えっと、うん。あってる……よ」
「はい!またお誘いしますね!今日は本当に楽しかったです!」
「うん。ありがとう。また、明日ね」
「はい、また明日、学校で!」
さて、そんな二人を最後まで見送った渚は、ある程度の
しかし、綾小路は一味違った。
「渚、それ、中村に全部送り付けるぞ」
「………まぁ、それも良いかもね」
渚としても、別に異論はなかった。
じゃあ明日また学校で、なんて言いながら解散しようとした次の瞬間。
「ねぇ、そこの少年たち?ちょっとお兄さんとお話ししない?」
いつの間にか後ろにいたカルマに肩を掴まれた。
「………あー、ごめんなさい、急いでますので」
「………うん。ごめんねー、ちょっと急ぎの用事があるからさ」
「はっははーうん。大丈夫大丈夫。……………すぐに終わるから」
二人は逃げようとした。
多分、死ぬよりも酷い目に合いそうだったので。
しかし残念、背後を取られた以上どうしようもない。
首筋に手刀を食らって気絶した。
目が覚めた時、渚は拘束されていた。
隣には綾小路がいる。
「起きたか、渚」
「綾小路くん」
「夏休みのグリップのような目に遭いそうだな、俺たち」
「やめてよ考えないようにしてたのに」
「お、起きたね二人とも」
いつもよりも声のトーンが低い。だいぶキレてるなこれ。
「じゃあ渚、早速これつけて着替えて」
着替えた方が、身の安全は約束されそうだな、と思ったので、渚は素直に着替えた。
体の線が見えづらい白いワンピースと、黒髪ロングのウィッグ。本人の中性的な容姿も相まって、完全に美少女である。
この時点で渚への仕返しは殆ど終わっているが、まだ綾小路が残っている。
「さて、綾小路、これ渚に付けさせて」
渡されたのは首輪である。
首輪である。大事なことなので二回言った。
「…………これは、いろいろダメだろう」
「ふーん。じゃあ
「……すまん、渚」
「まぁ、うん。もう好きにして」
………うん。
色々と、危なすぎる。具体的にはこう、綾小路の性癖が、実はアブノーマルなアレなのでは、と、
そしてカルマはそんな二人の写真を撮ると、これをばら撒かれたくなかったら俺の写真を消すように、と言ってきた。
まぁ、もう既に中村に全て送った後だったのだが。
正直にそのことを話すと、カルマはいい笑顔で先の写真を桔梗と鈴音に送り付けた。
瞬間とてつもない通知音が響き続ける綾小路のスマートフォン。
写真を送られた鈴音と桔梗は、一旦、そう一旦、この学校生活において、清隆へのアプローチを仕掛けるにあたり、ある程度のルールを作ろう、と話し合いをしていた。
そしたら、そこに
桔梗は飲んでいたアイスコーヒーを吹き出し、鈴音はマグカップをひっくり返した。会場であった鈴音の部屋のカーペットは酷いことになった、が。そんなことはどうでもいい。
「ど、どう思うかしら、桔梗さん。この、写真は、その、えっと……」
「き、清隆が
「え、えぇ。も、もし仮に、仮に彼が本当に
「く、くくくく首輪、買って、みる?」
「ペットショップは、まだ、開いてる、わ、ね」
「い、いい一旦、そう一旦、買うだけ買ってみよっか………?」
「そ、うね。買うだけ買ってみましょう」
「と、とりあえず、本当にそうなのかは、今日中に、確認したい、ね」
「な、ら。首輪を買って、その、まま、突撃、してみる……?」
「そ、うだね。うん。………あ、待って
「わ、私も、
「………も、ももももし、だよ?このまま、その、初体験になって、それでその、清隆の
「…………………鞭とか、蝋燭とか、あった方がいいかしら。………何よその目は」
「いや、その、ちゃ、ちゃんとこういうの知ってるんだぁって、ちょっと、引いた」
「あなたもでしょうが!」
「うんそうだねごめん!」
「と、とりあえず……」
「え、えぇ、そうね、とりあえず」
そうして二人は夕暮れの中、ペットショップに向かうのだった。
「なんてことをしてくれたんだカルマ」
「全面的にこっちのセリフなんだけど」
「いやでも普段からいじり倒してくるのが悪いでしょ」
「君らをいじるのは良くても君らがいじるのはダメなの」
「ジャイアンかおのれは」
明日、いや、今日の夜から怖いんだが。
「まぁ、頑張ってね、綾小路くん」
「ひ、他人事だと思って………!」
「いや他人事だし」
さっさと着替えて、渚は帰ろうとするが、カルマがその前に立ち塞がっていた。怖い笑みを浮かべて。
「ば、僕への仕返しは、もう終わったんじゃ?」
「いいや、これからだね。茅野ちゃんにもチケットを送りなよ。二人きりで映画でも見に行きな」
「……?それでいいの?分かった」
「………カルマ、多分これ、どちらかというと茅野に対するアレになるぞ」
「…………まぁ、面白いからよし」
哀れ茅野。役得だと思え。
解放された綾小路は、今晩あなたの部屋に行くわ、といった旨のメッセージが、鈴音と桔梗両方から来ているのを見て、遠い目をした。
その日の夜、真っ赤になりながらも、それが
「ほ、本当に清隆には
「ない!ある訳がないだろう!俺は、普通だ!」
「で、でも、清隆くんは、その、
「ある訳ないだろう!」
「た、試しに、こ、これ付けさせて明日登校してみるのとかは、ど、どう、かな?ほ、ほほほら、何事も体験だし……ね?」
「そ、そそそうね。ほ、ほら、リードも、ある訳だし?こう、私たちを繋いで、引っ張って、その、ほら、こう」
「やる訳がないだろう!?!?」
頑張れ清隆。もし、
翌日、五月一日。
この学校が、本当の意味で始まる。
清隆の学生生活は終わったのかどうなったのか、それは神のみぞ知る。
もうちょっとまともだったのに、なんか、勝手に壊れた。