まとめて投稿
正直なところ、私は、ちょっと、悲しかったんだ。
皆は、その、『殺せんせーの教え子』って感じだからさ。
だから、ね。
「───放ってなんて、おけません!」
あなたに会えて、私は、嬉しかったんですよ。
卜部藤乃の小さな手を、雪村あかりは、ちゃんと掴んでいた。
「………ねぇ、卜部先輩」
ずっと、疑問に思っていたことがある。
「どうして、そんなに、自分を責めるんですか?」
卜部先輩は、堀北先輩が好きだった。
だから、堀北先輩の為に、沢山のことを頑張って来て。
だから、堀北先輩の為に、頑張れなくなった両親の死を、悲しみきれなかった。
そして、そんな自分を、醜いと思っていた。
「いつか梯子から転びそうになった時も、これで死ねるって、そう思ってたんじゃないですか?」
お姉ちゃんに助けられたあの瞬間。
本当は、醜い自分に絶望していた。
必死に働いていたのは、働いている間は、醜い自分から目を逸らせるから。
だから、この高育で、同じ失敗をした時も、最後には死のうとしていた。
本人は、そのことが記憶にないらしいけど。
「…………そうね。そう思っていたことは、否定しないわ」
じゃあ、どうして。
「椚ヶ丘では、生徒会を止めるっていう決心がついたんですか」
…………そうだ。
どうしてその時は、折れる選択が、取れた。
醜い自分を、直視できた。
「────さぁ。もう、四年は前のことよ」
先輩は、ずっと、逃げている。
きっと、今も逃げている。
逃げているから。
「本当は、南雲先輩を、止めたいと思っているんですよね」
先輩は、露骨に目を逸らした。
「………先輩は、本当は、南雲先輩のことが、嫌いじゃなかったんでしょう」
そうだ。
本当に嫌いだったなら。本当に、どうでもよかったなら。
どうして、
どうして、
「自分と同じように、堀北先輩に憧れていたから」
───本当は、一緒に生徒会に入りたかったんですよね。
「………そう、かもね。
でも、その機会を壊したのは、破綻させたのは、私の選択なの」
………そう、かもしれない。
この人は、意図して、南雲先輩を折ろうとした。
支配しようとした。
「私は、見誤っていた。
私は、見下していた。
私は、見逃していた。
『元一年Aクラス女子脅迫事件』は、全部私のせいなのよ」
「違います」
全部卜部先輩のせいなんて、おかしい。
みんながみんな、少しづつ間違えたから、あんな事が起きた。
…………もしかしたら、私も、そうなっていたのかもしれない。
「卜部先輩。去年の三年E組、『暗殺教室』は、知ってますよね」
「え、えぇ。あれだけの出来事は、高育でも、話題になってたわ」
「私は、そこの卒業生の一人です」
「え、えぇ。それも予想は着いてたけど」
「………えぇ⁉︎」
「いやだって、堀北先輩の妹さんの暴力事件は、私の耳にも入ってきてたし、櫛田さんの『二年C組崩壊事件』も、赤羽くんの停学沙汰も知っていたし。
彼女達はE組に落ちるわけで、そんな彼女達と、中学の頃から親しかった、なんて、同じE組以外にあり得ないでしょ。
だって、あなたが本校舎の生徒だったら、E組の生徒と仲良くなるはずないもの」
「………わ、わぁ………」
あ、この人思ったよりもやばいかも。
じゃなくて‼︎
「そ、それで、その!
殺すか殺さないかでクラスが分裂して!
…………その、原因を作ったのは、私、なんです」
本当は、今でも、後悔してるの。
復讐に突き動かされて、クラスのみんなを巻き込んで、クラスを真っ二つにしちゃって。
「で、でも、その様子だと、それは問題なく解決したのよね?
なんで、あなたは、そんなにそれを───」
「………もしかしたら、私は」
堀北さんと櫛田さんを、殺してしまったのかもしれないんです。
「な、に言って───」
「私は、私の怒りに身を任せて、関係ないクラスのみんなを巻き込んで。
クラスを真っ二つにして、…………何よりも。
誰よりも、殺せんせーが好きだった綾小路くんを、たくさん、傷付けた」
やっと、やっと、
私が、殺せんせーに復讐しようとしたから。
私のせいで、みんなが、殺せんせーの全部を知っちゃったから。
私のせいで、綾小路くんは、
「────私は、運が良かっただけなんです。
たまたま、櫛田さんに、渚に次ぐ才能があったから。
たまたま、堀北さんが、綾小路くんを好きだったから。
だから、二人は、殺されなかっただけで」
もしかしたら、綾小路くんに、クラスメイトを、友達を、殺させていたかもしれないって、そう、思ってしまうんです。
たまに、綾小路くんが、誰かを殺す瞬間を夢に見て、飛び起きることも、あります。
「ゆ、きむら、さん」
…………卜部先輩は、きっと、運が、なかったんです。
「運って………そんな、言葉で」
だってきっと、私と、何も変わらない。
お姉ちゃんが死んで、色んなもの───。
そこで、私は、自分の失敗を悟った。
卜部先輩は、両手を勢いよく机に叩きたげながら、立ち上がって。
悲壮な顔で、私を見ていた。
「───死んだって、どういうこと」
………そうだね。言わないように、してたのに。
「………お姉ちゃん、一昨年の、卒業式の日に、死んじゃい、ました」
卜部先輩の両目から、静かに、涙が、溢れ出る。
座り込んで、泣き出した。
「わた、私、何、も、何も、お礼、でき、て、ない───」
たくさん、助けてくれたのに。
「────でも、私の心の中に、生きてます」
卜部先輩は、私を、眩しそうに見つめた。
…………続けよう。私の想いを、この人に。
「…………お姉ちゃんが、死んじゃって。
色んなものが、どうでも良くなって。殺せんせーをいつか殺すためだけに、私は、あの教室にいて。
そして、あの時、後悔した」
私は、私の為に、動いていました。
私が、少しでも、心の穴を埋めたかったから。
私の心の穴は、色んなものが、入ってきたから。
…………渚が、色んなものを、入れてくれたから。
だから、私は、復讐が為されなくても、生きられて。
でも、綾小路くんは、違ったんです。
自分の手で殺しても、殺さなくても、殺せんせーは死ぬ。
その事実に、芽生えた始めたばかりの心は、耐え切れなくて。
穴を無理やり、好奇心で埋めようとして。
そうして、大切な誰かを、殺すところでした。
私は、友達に、あんな顔をさせたくて、復讐したんじゃなかったのに。
「堀北さん達のお陰で、私は、どうしようもない過ちを、犯さないでいられて。
でもそれは、私が、どうこうできたことじゃなくて。
…………ただ、運が良かっただけなんです」
そうだ。
卜部先輩は、堀北先輩の為に、頑張って来て。
運悪く、ご両親が亡くなって。
運悪く、南雲先輩を壊してしまった。
先輩は、自分なら、どうにか出来たはずなのに、って、そんなことばかり考えているけど。
「先輩は、そんなに自分を責めなくてもいいんです」
…………きっと、反省は、するべきで。
…………後悔も、するべきで。
「でも、
だって、そうしないと、前に進むことは、出来ないから。
「雪村、さん………」
ねぇ、卜部さん。
あの日、お姉ちゃんに、雪村先生に、何を言われたんですか。
きっと、そのお陰で、卜部さんは、たくさん、悲しめたはずです。
「あ、の日、は───」
雪村先生に、怒られちゃったの。
もっと、自分を大事にしなさいって。
もっと、自分を許してあげてって。
でも、私は、全部をぶち撒けて、怒ってしまった。
お父さんとお母さんが、死んだのに。
私は、堀北先輩の理想を、継げなくなることを、何よりも悲しんでいて。
そんな自分が、醜くて、醜くて、どうしても、許せないって。
そしたら、それ、で───。
なんて、言われたの、かしら。
「……………きっと、こんな事を、言ってくれたんじゃないですか」
私は、女優だ。
お姉ちゃんを、一番見て来たのは、私だ。
私なら、お姉ちゃんの演技をすることなんて、造作もない。
「『あなたは、自分を醜いって言うけれど』」
卜部先輩は、目を見開いて、固まっていた。
きっとあの日、泣いている卜部先輩を、お姉ちゃんは、こうしたから。
私はそっと、抱きしめた。
「『頑張り続けているあなたを、醜いなんて、私は思わないわ』」
「─────」
「『堀北くんの為だけに、E組のみんなの勉強を見ていたの?堀北くんの為だけに、学園祭を頑張っていたの?生徒会活動を続けていたの?あなたは、そう言うのでしょうけど、私は、そうは思えないわ』」
「─────」
「『───だって、私の目に映るあなたは、楽しそうに、嬉しそうに、人の笑顔で、笑っていたから』」
「───雪、村、先生……?」
「『あなたがどれだけ、自分を否定しようとしても。
あなたがどれだけ、自分を最低だと言い張っても。
あなたを見てきた人は。あなたの御両親は。
誰かのために頑張り続けるあなたの邪魔をしたくないから、何も言わなくて、謝ったの』」
「で、も、私の、せいで──」
「『辛くて、悲しくて、苦しいなら。
一回、折れちゃいましょう。
そして、たっぷり、休んじゃいましょう』」
「でも、でも!折れちゃったら、私、もう……、もう……」
「『大丈夫。大丈夫よ。だって、』」
きっと、お姉ちゃんなら、こう言うよね。
「『たくさん頑張ってきたあなたなら、何回折れても、何度だって、立ち上がれるわ。
あなたを知る私が、保障してあげる』」
「………あ………」
卜部先輩は、全部を、思い出した。
「………そう、だったわね。
雪村先生は、そう言って、くれたわ」
身内の演技は、ちょっと、恥ずかしいけど。
でもまぁ、いい仕事じゃないかな?
「───どうでした?私の自慢の、お姉ちゃん?」
卜部先輩は、涙で潤んだ目で、それでも、真っ直ぐな目で、私を見つめた。
「───えぇ。今も昔も、最高の、先生だったわ」
うん。きっと、もう、大丈夫、だね。
「………その、これ、今更だけれど、その、御香典として、その」
「三十万⁉︎流石に多いですよ‼︎」
「じゃ、じゃあ、これぐらい、なら?」
「十五万でも高いですって!ていうか、お姉ちゃんの教え子さんから、そんなの貰うのなんて、申し訳ないですよ‼︎」
………この先輩は、変なところで、思い切りがいいのかもしれない。
そんな事を思っていたら、藤乃さんに、電話がかかって来たみたい。
端末に映る名前を見て、涙を拭いながら、少し、訝しむ。
「………浅野?」
なんで、浅野くんが?
「───もしもし、何か──」
『すぐに来てください。南雲先輩が、緋音先輩を訴えて──』
「───場所は生徒会室かしら。すぐに向かうわ」
『場所は第一会議室です。お願いします』
卜部先輩は、纏めてお支払いを済ませて、店を出て行こうとして。
出口で、転んだ。
う、運が無い。
もう、仕方ないなぁ。
卜部先輩を背負って、立ち上がる。
「第一会議室まで、特急雪村あかり号、発進しますよ?」
「───その、おね、がい、するわ」
ふふふふふ。
五秒で着くから、待ってろい‼︎
第一会議室では。
一般生徒達が見守る中で、南雲雅と桃井緋音の審議が始まっていた。
「おいおい桃井。まだ否定すんのか?ここにいるDクラスの六人は、お前に殴られたって言ってるんだぜ?」
「そやつらはすでに、浅野が処分を下しておるじゃろう。坂柳有栖、並びに森下藍への暴行未遂で、な。
妾は正当防衛とされたはずしゃが?」
「その通りです南雲先輩。
僕はそのような判決を下しましたし、議事録も残っています。その件は、すでに解決したはずですが」
何故、今になって、こんな件を蒸し返す。
「おいおい。俺は、その時のことを言ってるんじゃない。
体育祭の後、こいつらは、お前に殴られたって言ってるんだぜ?ほら、ここに証拠もある」
南雲先輩の出して来た診断書。
そこには、過去一週間以内に負ったとされる、殴打について。
「先の暴行未遂は、一ヶ月近く前。
これは一週間以内、つまり体育祭後に負ったとされる怪我についてだ」
緋音先輩は、冷たい目で、南雲先輩を見遣っている。
「───しかし、その怪我を負わせたのが、妾だという証拠は、あるのか?」
「おいおい。こいつらの証言を信用しないのか?」
「物証もなく審議を進めることはできませんよ?」
「物証はここにあるだろう?診断書っていう、確かな物証が」
「そもそも、何故Dクラスの生徒の訴えをAクラスの其方が出しておる」
「お前の身体能力は体育祭で明らかになったからな。もし報復されたらたまったもんじゃないってんで、生徒会の俺が、Dクラスの友人達の代わりに、訴えを出したわけだ」
………だが、これだけの証拠で、緋音先輩を、訴えられるとは。
「あぁ、そうそう。
代理を頼んできた友達の一人が、Cクラスに謝罪したいそうだぜ?
「………当人間の問題じゃ。ほむらも、その女子生徒も既に和解は済んでおる」
「それでも、クラスとして、謝罪したいそうだぜ?」
「………そうか。便宜上、Cクラスを代表して、謝罪を受け入れておこう」
「そうかそうか。つまり、
────まさか⁉︎
「────南雲先輩、あなたは!」
「────それから、うちのクラスの影乃も、お前に謝りたいそうだぜ?
「───っ、それは、証拠不十分につき、推定無罪となったはずです!」
「そうだな。だから、俺たちAクラスは、謝罪しているんだぜ?」
この人の狙いは、緋音先輩ではない!
「そうそうそれから、実は一年前に、なずなにあるメールが送られて来てたんだ。
そのメールには、俺が、『元一年Aクラス女子脅迫事件』の指示を出していたとされる、音声データがあった。勿論、偽物だろうが。
それ以来、なずなは俺と絶交中でさぁ、俺も、それに関係した出来事を聞いただけで、吐くようになっちゃった。
────それで、さぁ。なんか、変な二年生居たよなぁ?俺に棄権しろだとか、私が壊したんだ、とか言ってくる、二年Bクラスの、女子生徒が」
背もたれに勢いよく寄りかかりながら、首を逸らせて、逆さまの視点で、南雲雅は、傍聴席の九重九十九を睨みつける。
「───それってさぁ、お前があの偽物を送りつけて来たって認識で、あってるよなぁ?」
「───いや?私は、アンタの顔色が悪かったから、心配して声を掛けただけだよ?
私のせいで壊れたとかその辺りは、アンタの聞き間違いじゃない?」
「ま、そうだよな‼︎
いずれにしろ、もう一年は前の事だ、殆ど証拠も残っちゃいないんだろう」
不味い。卜部先輩を、呼ぶんじゃなかった!
「だぁがぁ、俺があげた一連の出来事全てに、テーブルゲーム部部員達が関わっている。
なぁ、神田会長代理。
大した実績もなく、問題行動を起こした疑惑を持たれるような生徒が大多数のテーブルゲーム部は、廃部するべきじゃないか?」
最初からずっと、南雲先輩の狙いは、テーブルゲーム部、ひいては───。
「なぁ、そうだろう?
だからさ、話をしようぜ。現部長の、
占藤先輩から、部長を引き継いだ、卜部先輩か!
「それで、私に何かようかしら。南雲くん」
来てしまったのか、卜部先───。
………何故、雪村に背負われている?
「…その、おろして頂戴」
「はい。───頑張ってください」
「───えぇ」
卜部先輩は、階段を降りながら、南雲先輩に、声をかける。
「あなたの言いたいことは分かったわ。南雲くん」
「分かってくれたか、卜部!さぁ、どうする?テーブルゲーム部部員達が、疑惑を持たれるようなことを繰り返している!
これに、部長のお前は、どう責任を持つ!」
卜部先輩は、背筋を整えて、しっかりと、南雲先輩を見てから。
傍聴席の生徒達に振り向いて、頭を下げた。
「────私の部員達が、数多の疑惑を持たせてしまったこと。部長として、謝罪するわ。
────ごめんなさい」
南雲先輩は、青褪めながらも、目を見開いた。
僕も驚いた。だって、謝罪を聞いただけで、吐いていたのに。
「……………少なくとも、現時点で私の取れる責任は、これぐらいよ」
「……………それで、謝って終わりかよ?」
「そうね。あなたの言うそれは、すべてが疑惑止まり。
疑わせてしまったことに謝罪はすれど、それで罰を受ける謂れはないわ」
「──彼女の言う通りだ。南雲。
現時点で、テーブルゲーム部の廃部を、認めることはできない」
そうだ。
証拠も無いのに、疑惑を持たさてしまったから廃部、なんて、認められるはずがない。
「────そうですね。ですが、もし、大多数の生徒が、廃部を求めたとしたら、どうでしょうか?」
そう、か。
この為に、傍聴席のある、第一会議室を───!
「─────この場に集った生徒の皆さんに可否を取る!このような疑惑を持たれるようなテーブルゲーム部の存続に、賛成か反対か!
賛成の生徒は挙手を!」
二年Aクラスの影乃先輩と、朝比奈先輩以外は、全員が挙手して。
二年Bクラスは、誰も手を挙げなくて。
二年Dクラスは、花咲先輩以外が手を挙げて。
二年Cクラスは、
南雲先輩は、目を見開いた。
二年Cクラスは、完全に、掌握出来ていたはずだった、とでも、言いたいのだろうか。
「なら、今度は私ね。
反対の生徒は、挙手を」
卜部先輩の宣言は、静かで。
されど、確かに、会議室中に響いた。
手を挙げたのは、二年Bクラス、二年Cクラス、そして、
『て言うか、美浪狙うとか正気?全校生徒で二百人を超える、金織美浪ファンクラブを敵に回すと思うケド』
そう。南雲先輩の行動は、相当な数の生徒を、敵に回してしまった。
「ぶっちゃけテーブルゲーム部がどうとかはどうでも良いけど、美浪先輩転ばせやがった南雲は敵だ───!」
「そうだそうだ!もし美浪先輩の御尊顔に傷が付いてたら、国家の損失なんだよ──!」
「国宝級爆美女を狙うとか、南雲雅は国賊だ───!」
金織先輩は、死んだ顔で、目を逸らしていた。
耳は、すごく、赤かった。
………常の南雲先輩なら、こんな失敗は、犯さなかった。
だが、学先輩の、生徒会長引退。
そして、Cクラスの、反逆。
これらの想定外が重なって、手を出してはいけない生徒に、手を出してしまった。
「───数えるまでもなく、反対多数。
テーブルゲーム部は、存続ね」
卜部先輩は、南雲先輩を、正面から見据えながら、そう言った。
「………っ、だとしても!お前達テーブルゲーム部が、大した実績も上げていないのは事実だ!」
「そうね。それで?」
「………っ、この場で、俺と勝負しろ!お前らの得意なテーブルゲームとやらで!
もし負ければ、お前らの部活に、存在意義は、ない!」
卜部藤乃は、静かに、その声を、聞いていた。
私は、ずっと。
雪村先生の教えを、忘れていたんじゃない。
確かに、私は、折れて。
そして、休んでいた。
私を休ませてくれたのは、私をテーブルゲーム部に入れてくれた、堀北先輩のお陰。
メメ先輩。
緋音。
稔。
ほむら。
有栖。
真澄。
幸村。
愛里。
波瑠加。
浅野。
何よりも。
傍聴席の、九十九と、目を合わせる。
あなたのお陰なの。九十九。
九十九は、楽しそうに、笑った。
久しぶりに、あんな顔見たな。
「────浅野」
『『例の件』の答えを、そろそろ聞きたいらしいです』
「例の件、答えを出したわ」
私は、もう逃げない。
私は、私の罪と、ちゃんと向き合う。
その為にも。
とても、楽しかったわ。
「私は今日をもって、テーブルゲーム部を退部する」
そうして、私は。
雪村さんを、見る。
雪村さんは、笑いながら、サムズアップして来て。
私はそれに、雪村先生の面影を見た。
ご心配をおかけしました。雪村先生。
私は、もう、大丈夫です。
あなたの言ってくれたように。
何回折れたって、私なら、また、立ち上がれるから。
南雲くんを、真っ直ぐ見る。
今度は、ちゃんと、目を逸らさずに。
「そして!生徒会、会計監査に就任する!」
頑張って、声を張って、宣言する。みんな、何だか、嬉しそうに、笑っていた。
「生徒会長代理として、卜部藤乃の、生徒会就任を、歓迎しよう」
神田先輩は、全部、分かっていた。
そんな顔で、受け入れた。
「…………は?
おい、おいおいおいおいおいふざけんな!
一年前の約束はどうした!」
南雲くんは、荒れていた。血走った目で、心からの恐れを、私に向けながら。
「あれは、期末テストの結果次第で、卜部か南雲のどちらかが入れるというだけ。
入らなかった方は、永遠に入れない、というわけではないよ。
それに、今の生徒会長は、私だ。
その契約を結んだのは、学だろう?
─────私が許可する分には、何の問題もない」
「生徒会と部活動の両立は不可能。
だから、私は、テーブルゲーム部を退部し。
────次の部長を、あなたに託すわ。稔」
「────はい。任せてください。藤乃さん」
傍聴席から、狐判稔が、降りてくる。
南雲くんは、視界にすら入れていなかったその少女を、睨む。
だが、その少女は、睨み返した。
ずっと、後悔していた。
大切な友達に、あんなに、悲しいことを言わせた、私の弱さに。
だから、もう、自分に自信がないとか、そんなこと言ってられない──!
私は、強く、なります!
「───南雲くん!あなたの勝負、私が受けます!
テーブルゲーム部、部長として!」
大勢の生徒が見守る中で、二人のゲームが始まった。
最初の方こそ、片方が有利で。
でも。
「チェスってさ、本当、見落とししないように、集中するのって大変なんだよね」
長谷部は、いつもの部室でのゲームを思い出しながら。
「は、はい。少しでも、気が逸れていると、変な所に、置きそうになります」
佐倉も、たまに、幸村や神室に勝てた瞬間を、思い出す。
五秒、十秒、十五秒、三十秒。
一手にかける、思考時間が、長くなる。
「ま、要はメンタルが直結するゲームなのよね。この手のゲームは。だから、普段だったら、こんなことにはなっていないんでしょうけど」
神室の知るように、狐判稔は、確かに強い。
しかし、これほどまでに、強くはない。
「───今、狐判先輩は、過去最高に絶好調だ。スポーツで言う、ゾーンに入っていると見ていい」
幸村の言うように、今の狐判稔は、過去最高に、絶好調で。
三十秒、十五秒、十秒、五秒、一秒。
一手にかかる、思考時間が、短くなる。
「もし、お二人の調子が、完全に同一であったなら、ここまでの結果にはならなかったでしょうが」
坂柳の分析通りに。
狐判稔は、最後の一手を、打つ。
「───
縋り付くように、齧り付くように、何度も何度も盤面を見て。
しかし、結果は、変わらない。
圧倒的に、完全に、テーブルゲーム部の廃部を賭けた勝負は、文句のつけようもないぐらい、南雲雅の、敗北である。
「俺、が、………負、ける?」
南雲雅は、細く、力の無い言葉を、こぼす。
そして、一礼した狐判が去って行く。
傍聴席からも、生徒達が去って行く。
金織美浪ファンクラブは、南雲の敗北に心から喜びながら。
二年Dクラスは、このまま従い続けていいのか悩みながら。
二年Cクラスは、狐判の勝利に喝采を挙げながら。
二年Bクラスは、卜部の帰還に喜びながら。
二年Aクラスは、南雲を心配しながら。
やがて、テーブルゲーム部部員達と、生徒会会員と、雪村あかりが見守る中で。
卜部藤乃は、南雲雅を見据えながら宣言する。
「───南雲くん、私は、生徒会長選挙に、出馬する」
その、言葉に。
南雲雅は、少しだけ、救われたような顔をした。
卜部ならば、きっと、俺を、敵として、憎むべき仇として、許されざる悪魔として、潰してくれる。
どれだけ無くそうとしても、どれだけ吐いたとしても、無限に湧いてくる罪悪感を、終わらせて───。
「あなたに勝つ。あなたを超える」
あぁ、そうだ。
そうしてくれ。
俺を踏み潰して、噛み壊して、終わらせて、くれ。
「でもそれは、あなたが憎いからじゃない。あなたを許さないからじゃない」
─────なん、で、そんなこと、言うんだよ。
「私はきっと、もっと早くにこうするべきだった」
「私は、ちゃんと、あなたを見る」
「あなたを、敵として、そして!───友達、に、なりたいから」
何を、言っている。
コイツは、何を言っている!
「あなたのことが、嫌いだったわけじゃない。
憎かったわけじゃない。
嫌いだったのも、憎かったのも、全部私だった」
やめろ、やめろ。
「あなたが許せないからじゃない。今!泣いているあなたを、放っておけないって、そう思うから!」
そんなこと言うな。やめてくれよ。
「────今度こそ、ちゃんと!
────あなたを、打ち倒す!」
やめてくれ。
俺を、そんな目で、見ないでくれ。
逃げるように、南雲雅は、会議室を後にした。
その日の、深夜。
九重九十九は飛び上がった。
飛び上がって、喜んだ。
眠り続けていた青井雀が、漸く、目覚めたのだから。
こうしちゃいられないとばかりに、九十九は、隣の部屋の鍵を上げて、部屋に乗り込んだ。
ベッドに横になる卜部に、突撃する。
「藤乃!起きて藤乃!大ニュースだよ!大朗報だよ‼︎」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら、深夜二時の卜部藤乃を布団の上からバシバシ叩く。
流石に鬱陶しい。
布団を跳ね飛ばしながら、九十九を怒鳴りつけた。
「今何時だと思ってんのこのバカ‼︎」
「そんなことよりも!雀起きた‼︎意識を取り戻した‼︎奇跡だよ‼︎こんなの奇跡だ‼︎」
「はぁ?」
「何だよ!もっと喜びなよ‼︎一年近く寝たきりで────」
九重九十九、ここで気付く。
(あ、そういえば、雀の話は、藤乃にしてないんだった)
喜びの余り、完全に忘れていた。
あー不味い。逃げよ。
「…………夜分遅くに失礼しました。さようなら」
「逃がさないわよ」
ですよね〜〜〜。
いつもの如くアイアンクロー。頭割れちゃうって。
絞られた。たっぷりたっぷり絞られた。
全部吐かされたし。
でも。
「そもそも時間帯を考えなさいよ────。何笑ってんのよ」
「いやぁ、なんて言うか、卜部藤乃、大復活って感じでさ」
なんか、すごく嬉しい。
九重九十九と、卜部藤乃は、楽しそうに、笑っていた。
そう。
九重九十九の口にする。
このお話の、タイトルは。
卜部藤乃と、大復活。
では、なくて。
夜。
一年生の女子寮で、雪村あかりは、手紙を書いていた。
『拝啓。お姉ちゃんへ。
どうしても伝えたいことがあったので、お手紙の形で、伝えようと思いました。
私は、もう、高校一年生になりました。
今私の通っている、高度育成高等学校は、色々と、変な学校です。
やっと嘘を付かなくていい、って思っていたのに、偶には嘘もつかないといけない学校なんて、本当に、面倒くさっ!てなることもあって。
誰かを蹴落とすことを強制されるとか、ちょっと、面倒くさいし、嫌だなぁって、思っていたんですけど。
でも、友達が、沢山できました。
帆波ちゃんは、毎日とっても明るくて、みんなを照らす太陽みたいな、とっても良い子です。………まぁ、胸がデカすぎて、ちょっと、アレな時もあるんだけど。
神崎くんは、いつも冷静で、視野が広くて、とても頼りになる、縁の下の力持ちって感じ?凄く良い人だなぁって、そう思うんだ。
柴田くんは、足が速い。それから、サッパリしてて話しやすくて、話してると、楽しい。
白浜ちゃんは、その、帆波ちゃんへの、愛が重いっていうか。たまに、ちょっと、引いちゃう。悪い子じゃ、無いんだけどね。
ユキちゃんは、いつも言いづらいことでもズバズバ言ってくれて、とてもありがたいんだ。これからも、頼りにしています。
網倉さんとは、よくジムに行くんだ。帆波ちゃん達と一緒に競争中。今の所は、私が一番!ま、烏間先生に鍛えられたし。
それから、覚えていますか?潮田渚くん。
その、私の、好きな人。高校でも一緒のクラスで、とても嬉しい。まぁ、その、目標の邪魔にならないように、私の想いは、殺しておこうとか、思っていたんですけど。堀北さん達を見ていると、私も、アレぐらいいってもいいのかなぁ?とか、考えちゃいます。まぁ、アレは綾小路くんだから、あそこまで行く必要があるんだと思うんだけどね。』
「思ったよりも書きたいこと多いなぁ。二枚目行くかー」
『カルマくんと奥田さんとも同じ学校です。あ、でも、お姉ちゃんは、カルマくんとは会ったことは無かったんだっけ。あれ、面談とかしてたっけ?まあいっか。悪戯好き、で済ませていいのかなぁ?まぁ凄く悪戯好きの子でね、でも、話してみると、思ったよりも楽しいんだ。
奥田さんは、その、基本的には良い子だし、友達としても大切なんだけど、その、たまに怖い。いや、性格とかじゃなくてね、一切躊躇なく毒物とか作れちゃうの、ちょっと、ね。それ以外は本当に良い子なんだけどなぁ。
そうそう。この二人について書いたなら、椎名さんについても書いておかないと。凄く可愛い人なんだよ。あ、いや、どちらかというと、綺麗な人かな?まぁ、でも、時々、いや、割と?強かなところもあるんだよね。割とズバズバ言う人でもあるし。でも、カルマくん達にとって、凄く大切な人なんだろうなって。
後は、浅野くんかな。お姉ちゃんは、あんまり会ったことないっけ?何だか、変わったなぁって感じ。前は、もっとこう、ナチュラルに人を見下してる感じしてたんだけどねぇ。今は、すっごくかっこいいリーダーしてる。
浅野くんの前の生徒会は、積極的にE組に関わりに行ってたらしいから、知ってるよね。堀北先輩と、卜部先輩。
堀北先輩とは、あまり話せてないんだけど、卜部先輩とは、沢山お話しできてね。それで、私、本当に、嬉しかったんだ。
E組のみんなは、『殺せんせーの教え子』って感じで、まぁ、ちょっと悲しいんだけど、まぁ、私も、そんな感じだし。
だから、会えないかなって思ってたんだよね。お姉ちゃんの教え子さん。
でも、この学校で会えたんだ!この学校に来てよかったって、そう心から思ったんだよ。きっとこの学校に来なかったら、私は、卜部藤乃さんに会えなかった。』
最後に、雪村あかりが綴る、このお話のタイトルは。
卜部藤乃と。
『雪村先生の教え子に!』
実の妹と、嘗ての教え子を、崩れかけた三日月に腰掛けて、見守っている雪村あぐりは、そっと、赤ペンを取り出して。
二人に、花丸をつけた。
明日からはコメディに振り切ります