私は今日、悲壮な覚悟を決めて、真澄さんの部屋に訪れました。
訪れたというか真澄さんに連行されました。
この時ほど私の虚弱体質を呪ったことはないです。
「───待ってましたよ。坂柳さん」
楽しそうな顔で、椎名さんは、両手いっぱいの紙袋を掲げています。あぁ、あなたたち五億取れましたものね。
たくさん衣装買ってきたんですね。
あなたと伊吹さんと奥田さんがいるのは良いでしょう。
森下さんが居るのも認めましょう。
何故。何故!
「どうして佐倉さんまで居るんですか!」
「機材係」
「くぅ」
それを言われてしまうと何も言えません。
いえ、その、彼女が雫として活動していることは、同じ部活に入って暫くして気付いたんです。
でも、その、余り気にすることじゃないしなって、放置していたら、いつの間にか真澄さんも気付いていたそうで、唯一知らなかったの私だけ、みたいな雰囲気出されていて。
『さ、さ、さささささささ坂柳さん!じ、じじじじじじ実はわわわわわ私そののの』
『別に取って食べたりしませんよ。落ち着いてください』
で、私だけ仲間外れにする形は良くないと思ったのか、動揺しながら教えてくれた佐倉さんは、本当に良い子だと思います。思いますので。
「……………か、可愛く撮ってくださいね」
この子には、あまり酷いこと言いたくないんです。
「もっちろんです‼︎‼︎‼︎」
なんて、何て良い子何でしょう。
私を可愛く撮るためだけにここまでやる気になってくれるなんて。
私を辱めることを全力で楽しもうとしている他五人!彼女を少しは見習ってください!全く。
「────よし、じゃあ始めるわよ」
…………あぁ。
もう、どうしようもないんですね。
絶望と共に、私の、屈辱のファッションショーが開幕しました。
最初は、皆さんに着せたチアガールでした。
あれは皆さんが良い感じに胸もあって足も長くてお尻も大きいから似合っていたんです。
私みたいに低身長で胸も小さくてお尻も小さい人が着ても着られてるだけなんです。
言ってて悲しくなってきました。
「可愛いです!可愛いですよ坂柳さん‼︎」
ううう。貴女は何て良い人なんですか佐倉さん。
それだけに、私は何で、この子にこんな写真を撮られているんでしょうか。
こっちの方が罰ゲームです。本当に。
ていうかこのパラソルとかホワイトバックとかいったいどこで買ってきたんですか‼︎
「あ、これ全部私のものです」
佐倉さんのものだったんですね!
まぁ、持ってますよね!
お次に着せられたのは。
「きゃぁぁぁぁぁ‼︎坂柳さん可愛い‼︎可愛い‼︎‼︎童話の中から飛び出てきたみたいです‼︎」
『不思議な国のアリス』を思わせる、可愛さ全振りの衣装です。
青のゴスロリドレスの上に、白のエプロンドレスを着る形の衣装なんですが、こ、これ、自分で着るとこんなに恥ずかしいんですね。
は、恥ずかしいのに。恥ずかしいのにぃ‼︎
「え、えへへへへ」
佐倉さんが可愛いとか全力で褒めるからぁ‼︎
ちょっと、可愛く、ハートマークとか作っちゃうでしょうがぁ‼︎
「何?アンタ凄くノリノリじゃない?」
うるさいです真澄さん‼︎
ち、違うんです‼︎さ、佐倉さんが、凄く褒めてくるから!
か、身体が、勝手に…………‼︎
「坂柳さんっ‼︎もうちょっと、こう、はわわって感じの表情お願いしますっ‼︎」
「は、はわわっ」
自分で言います?これ?
これ本当に可愛いんですか?
「きゃぁぁぁぁぁ‼︎本当に不思議な国に迷い込んだアリスちゃんです‼︎可愛い‼︎可愛い‼︎‼︎」
可愛いんですね。よかったです。
まぁ?私の外見は?普通に可愛い方ですし?
こういうコスプレも似合いますよね。当然ですが。
「中身に目を瞑ればとても可愛いんですがね」
何ですか椎名さん。何が言いたいんですか。
「その、人間を手旗信号に使おうとか考えつく人間とは思えないな、と」
………………その、そんなに、人の心無い作戦、というわけでは無かったと、思うのですが。
い、いや、その、た、確かに、狡い、ところもあった、とは思いますけど。
「まぁ私らDクラス連中よりはマシね」
ですよねっ‼︎
毒盛ったりしてないですからねっ‼︎‼︎
「毒?何の話ですか?」
あぁ、佐倉さんは知らなくて良いんです。
貴女はこんな世界に触れずに生きていてくださいね。
「……………?」
ほら、ちょっとこう、コケティッシュな感じに首を傾げてみました。どうですか?可愛いでしょう?
「あ、その角度良いです!可愛い!」
…………ちょろいですね。
「ブーメラン刺さってますよ坂柳有栖」
うるさいですね………。
「そろそろ別衣装行きましょうか」
…………まぁ、佐倉さんのためのファッションショーだと思えば、多少は。
次に着せられたのは、猫のコスプレというか、着ぐるみでした。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎撫でたいっ‼︎お腹とか背中とか撫で回したいっ‼︎」
えへへへへへへ。
「白なのが良いですねさいっこうに
にゃ、にゃあ?
「はぐぁぁぁぁぁぁ‼︎お持ち帰りしたい‼︎猫吸いしたい‼︎触りすぎって怒られたい‼︎抱っこさせて‼︎引っ掻いて‼︎」
にゃーご。
「何ですか坂柳さん今自分がどれだけ可愛いことしているのか自覚していないんですか人殺せますよ」
ゴロゴロ、にゃぁーん。
「うぎゃぁぁぁぁ‼︎ゴロゴロした後仰向けで両手を丸めちゃダメぇぇぇ‼︎キュン死しゅるぅぅぅ‼︎」
えへへへへへへへへ。
「さ、佐倉さん?」
「か、加速度的に壊れていくわね」
「佐倉さん連れてきてよかったですね」
「そうですね。坂柳有栖もどんどん可愛い衣装着てくれますし」
それは、それとして。
「…………こっちのカチューシャと猫耳と尻尾どうします?黒と白の二種類ありますけど」
使わなかったこの二つは、一旦どうしようか。
五人が悩んでいる背後では、猫よろしく背伸びのポーズを取った坂柳有栖の写真を、大興奮で褒めちぎりながら撮りまくる佐倉がいた。
「………後、その、全力で拒否された、この首輪、どうしますか?」
五人が悩んでいる背後では、拗ねた様にツーンと明後日方向に顔を振る坂柳キャットと、可愛いbotとなり、写真を撮りまくる佐倉がいた。
「す、捨てるのも、勿体無いですし、取り敢えず、ジャンケンで」
「い、行くわよ。ジャンケン」
「「「「「ポン」」」」」
負けたのは、伊吹と椎名である。
猫耳カチューシャと尻尾はまだ許容範囲だが。
「く、首輪は不味いわね………」
「えぇ。誰かに持っていることが知られたら終わります」
ちなみに椎名はこの後、Dクラス女子に自分が首輪持ってることを写真で暴露しちゃいます。
椎名ひよりドM説が、クラスの女子の間で一時期広がっていたのだとか。
根も葉もあるのが手に負えない。
体育祭準備の時も、カルマに倒れてもなお容赦なく扱かれた時に、うっすらと笑っていたし。
「あのー」
一通りのポーズは撮り終わったのか、手持ち無沙汰にしている坂柳が声をかけてきた。
何?そんなにファッションショーがしたいのか?
なら仕方ない。どんどん行こう。
「わぁぁぁぁぁぁぁ‼︎お雛様です‼︎坂柳さんお雛様です‼︎可愛いです‼︎」
お雛様の衣装を着て、柔らかいマットレスの上で正座したり。
「メイドさん‼︎完全に仕事を始めたばかりの見習いメイドさんです坂柳さん‼︎
すごい初々しさです‼︎食べちゃいたい‼︎」
メイド服を着て、モップを両手に抱えて縮こまってみたり。
「食、食べないでください………」
「────はっ?何そんな怯えた感じで上目遣いするんですか?可愛すぎです。もう怒りました。その写真撮りまくっちゃいます‼︎」
涙目で怯えた様に見上げるメイド服の坂柳有栖に、佐倉は凄まじい勢いで暴走していく。
何というか、その。
「…………いつの間にか私たち蚊帳の外ですね」
椎名の言うように、佐倉と坂柳のファッションショーが凄いテンポと熱量で続いていった。
「きゃぁぁぁぁ‼︎ナース服の坂柳さん可愛いっ‼︎お注射して‼︎看病して‼︎」
ナース服の坂柳有栖。
「女教師‼︎宿題忘れて『メッ』されたい‼︎放課後二人きりで怒られたい‼︎」
女教師の坂柳有栖。
「やっっっっっぱり水着は外せません‼︎‼︎‼︎可愛い‼︎‼︎‼︎ビーチのパラソルの下にこんな可愛い子が居たら、その日の主役間違いなしです‼︎‼︎‼︎来年は一緒にプール行きましょう‼︎‼︎‼︎」
「それは嫌です」
「そんなぁ」
白いワンピースタイプの水着姿の坂柳有栖。
しかしまぁ、女性的な魅力は薄い。
可愛らしさは凄まじいが。
まぁ当然だ。雑誌の表紙を飾れるレベルのグラビアアイドルの水着姿と並んで見劣りしない長谷部筆頭のBクラス女子がおかしいだけなのだから。
殆どの女子は公開処刑である。
そうして、坂柳有栖は、椎名たちが買ってきた衣装のほぼ全ての写真を撮り終わった。
「────疲れました」
急にどっと疲れが来たらしく、坂柳はベッドに倒れ込んだ。
「お疲れ。坂柳」
「お疲れ様でした。楽しかったです」
「お疲れ様です」
Dクラス女子三人衆は、坂柳有栖の着せ替え写真片手に、ホクホクとした顔で帰っていった。
…………よくよく考えたら弱みを握られたようなものでは?
「────写真を撮るのもこんなに楽しいんですね‼︎
被写体が坂柳さんなのもありますが‼︎」
良い子だ。
本当に良い子だ。
「…………よくも佐倉さんを巻き込みましたね真澄さん」
ちょっと楽しくなっちゃったじゃないか。
「はいはいごめんなさい」
お詫びとして。
神室真澄は、買ったばかりの新品のチェス盤を取り出した。
坂柳有栖の目が輝く。
何に付き合わされるのか察した佐倉は、そさくさと撮影道具一式をすぐさま片付けて、全力で帰ろうとして。
神室真澄に、ガッチリと肩を掴まれた。
「───逃がさないわよ?」
可愛らしくも恐ろしい笑い声が響く。
坂柳有栖にボードゲームの類を与えてはいけない。
これまでは、ただのお遊びの部類でしかなかったのだが、テーブルゲーム部での活動を通して、坂柳有栖は順調にボドゲオタクになり始めている。
「追加で色々あるわよ」
リバーシ、将棋、囲碁、エトセトラ。
佐倉愛里は絶望した。
坂柳有栖は歓喜した。
「───時間が勿体無いですね。真澄さんはチェスを。佐倉さんはリバーシを」
「はいはい」
「は、はい………」
異種二面打ち。
そして、これだけで終わるはずなどないことぐらい、佐倉はよく分かっている。
故に、緊急SOSを発信したが。
幸村も、長谷部も、浅野も、その連絡を受け取って。
そっと、既読スルーした。
「────一晩コースです。覚悟してくださいね?」
佐倉は、察した。
この為に、自身は呼ばれたのだと。
自分は、生贄なのだと。
「────大丈夫よ佐倉。私もいるわ」
何も大丈夫ではないのだ。
何せ、ボドゲオタクの道に進み始めているのは。
神室真澄も、同じなのだから。
「たくさん買ってきたわ。一晩中遊び尽くしましょう?有栖」
「えぇ、えぇ!今日は本当に素晴らしい一日です!ね!佐倉さん!」
「そ、そう、です、ね…………はは………」
とてもツヤツヤしてて楽しそうな二人と相反するように、凄まじい勢いで、さっきまでツヤツヤしていた佐倉は煤けていく。
椎名さんは、残っていて欲しかったなぁ。
今更になって、Dクラス三人娘を引き留めなかった自分の判断を、佐倉は呪った。
次の日、干からびたミイラのようになった佐倉と、相反するようにツヤツヤしている坂柳有栖と神室真澄が、いた。