さて、二日目。
日曜日な訳だが。
朝食は王様のように豪華に、なんて諺もあるぐらいだし、これ以上ないくらい丁寧に、オムレツとご飯とお味噌汁を作った。
別に命乞いとかではない。
さて、三人分の朝ご飯を作り終わったので。
まずは、誠心誠意、謝ろう。
「昨日は本当にすまなかった」
「すまなかったで済むわけないでしょ馬鹿じゃないの?」
「ぜったいにゆるさないわ」
うん。そうなるよね。
まずはバニースーツから着替えてもらってから、上記の流れだ。
「ねぇ清隆。確かに、私たちも悪かったとは思うよ。こんな風にバニースーツ着て、グイグイ行くのはやり過ぎたかなって反省してはいるんだけどさぁ」
「仕返しにしてもやり過ぎよ。あ、あんなの。…………あん、なの、ダメ、なのよ?」
「何ちょっと良かったみたいな雰囲気出してんの馬鹿鈴音」
うん。本当にごめんなさい。
「…………や、やっぱり、いつかの本番用に首輪、私たちに、着けてみる?」
「落ち着いて鈴音。もう既に色々手遅れなのにそんなことまでしたら鈴音が本当にダメになっちゃうよ」
「あぁ。辞めておいた方がいいだろう」
切実に。
鈴音が完全にそうなったら、桔梗も引き摺り込まれるし、俺もそうなるだろう。
そうなったら、その。
かなり、ダメな気がする。
「と、とにかく、昨日は晩御飯も食べそびれた事だし、朝ごはんを用意したから、その」
「………その、さ」
「………その、ね」
鈴音と桔梗は、声を揃えて。
「「立てないの」」
本当にごめんなさい。
二人を抱えて、椅子に座らせる。
我ながら、とても美味しくできたとは思う。思うが。
なぜか、二人が作ったものよりは、美味しくない。
なんでだ。
「あ、すごい美味しい」
「えぇ。凄く上手になったわね」
「………そう、か?」
うーん。なんでだ?
とか思っていたら、連絡が来た。
そう言えばそうだ。二日目は何をやらされるのだろうか。
画面を見てみる。────、そう、か。
「………どうかしたの?」
「いや、何でもない」
隠せている気はしない。
だが。
残りを急いで口に運ぶ。
「ごちそうさまでした。すまない。急用が入った。洗い物を頼む」
「あ、ちょっと」
…………その、運が良かったかもしれん。
二人がちょうど、立つのも難しい状態のおかげで、オレ一人で、向かい合える。
制服に着替えて、部屋を出る。
その、二人には、申し訳ないことをしているが。
────やつに向かい合うなら、オレ一人で。
「ありゃ、これ、またアイツが来た感じかねぇ。律。メール見れる?」
『はい!茶柱先生からのようですね!太陽が来た。とのことです』
「ふーん。取り敢えず集合かけといて」
おれは、まずは二人を宥めとかないとね。
全く、よりにもよって日曜に来るのかよ。
少しは曜日感覚を大事にしろよな。
職員室に向かうと、応接室で待機しているらしい、と星穹先生に教えられた。
応接室の扉の前で、茶柱がいた。
瞑目しながら、腕を組んでいる。
「…………来たか。綾小路」
「ええ。それで?」
「今は校長が相手をしている。担任として、私も同席しよう。三者面談だからな」
「…………良いんですか」
「別に良い」
この人も、変わった気がする。
前は、というか、一学期中は、生徒のことを気にするような先生じゃなかったのだが。
「───失礼します」
片肘をつきながら、護衛を二人控えさせている。
相変わらず、偉そうだな。
いや、実際偉いんだが。
「───ふん。ぬるま湯から抜け出たと思えば、また別のぬるま湯に浸かっているとはな」
「流石に前のぬるま湯よりはキツイと思うぞ」
前はぬくぬくできる温泉だったが、今は、割と熱湯よりな気もする。
兎にも角にも。
「───久しぶりだな。調子はどうだ」
「すこぶる順調だ。後は、お前を連れ戻すだけ。───退学しろ」
「それは無理だな」
「本人が意図していないなら、退学は認められませんよ」
「茶、茶柱くん⁉︎失礼の無いように!」
「私はただ、この学校の制度の話をしているだけです。校長」
…………驚いた。本当に。
本当に、変わったな。
茶柱佐枝は、夏休みでのクルーズ船で、星之宮と飲んでいた時のことを、思い出す。
パンデミックの対処のために、クラスの垣根を自分たちの意思で超えて、協力していた。
眩しかった。心からそう思う。それは、チエもきっと、一緒だった。
『────…………ああいうのは見ちゃうとさ、なんでわたしらは、あぁならなかったのかな、とか思っちゃうよね』
『…………そうだな。きっとこの学年は、どのクラスがAクラスになってもおかしく無いし、どのクラスがなったとしても、ハッピーエンドで終わるのだろうよ』
Aクラスになれなかったとしても、間違いなく、彼ら彼女らは、得難い友を、仲間を、思い出を得られるだろう。
それは、自クラスだけの話では無い。
きっと、堀北学が蒔いてきた、『受け皿としての部活動』───、『他クラスとの交流の受け皿としての部活動』も、実を結んで来ているからでもある。
『理想的な、実力主義。
誰かの裏をかいたり、足を引っ張ったりするんじゃなくて、正面から正々堂々と、相手に打ち勝つ為に、努力を重ねて、協力して、知恵を出し合う』
『その中でも、相手の強さをリスペクトするからこそ、いざという時は手を貸すし、試験が終わればノーサイド。
…………現に今日も、Aクラスの神室が、うちの幸村とチェスをしているのを見た。
お前のところの一之瀬も、鬱憤ばらしも兼ねて乱入してきていたぞ?』
『あっはははははは。まぁ今回の試験、帆波ちゃん散々だったからね』
『それを、こういう形で表に出せるのが、こんなにも健全で、眩く映るとはな』
同じ美術部の金田と白浜は、穏やかに談笑していたし、元バスケ部の榎中主催の、バスケットボール大会では、クラス関係なく、楽しそうに試合をしていた。
どうやら須藤は、赤羽はヤベェで、Cクラス、今となってはDクラスか、の男子たちと、意気投合しているらしいな。
────綾小路も、頻繁に浅野とも遊んでいるし、赤羽や潮田も、その二人の輪に入っている。
…………私も、チエも、真嶋も。
この学校のOBOGだった。
私たちの記憶にある限りでは、もっと殺伐としていたはずだ。いや、流石に二年生ほどでは無いのだがな。
三年も一年も、とても穏やかで、だが、実力という意味では、間違いなく最上位は、この二学年のどちらか、何だろうな。
『────……………ほんと、羨ましいなぁ』
『────……………そうだな』
『実は今でも、サエちゃんのやったこと、許してないよ?』
『あぁ、知ってる』
『今でも、あの日の幻影を追っているよね。わたしたちは』
『…………あぁ、そうだな。生徒をAクラスにすることで、私たちは、嘗ての後悔を、拭おうとしている』
…………それが、悪いことだとは、思わない。
誰にだって、過去を乗り越えようとする権利はあるし、資格はいらない。
自分を優先することなんて、当たり前の事で。
でも。
きっと、綾小路を。
…………あの、地獄の中で生まれた、『最高傑作』を。
『人』へと引きずり戻した、あの先生なら。
去年の、三月初めの頃。
茶柱佐枝は、変な教師と飲んでいたことを、思い出す。
『それで、私に何のようですか、烏間先生』
『ヌルフフフフフ。
あなたは、来年度の一年Dクラスの担任となるようですからね。
私の教え子が世話になるようなので、軽くご挨拶をば、と』
『───ふっ、随分と、熱心な教師だな』
変な大男だったな。
関節が曖昧で、多分ヅラを被ってて。
…………いま思い返せば、あいつが、話に聞く殺せんせーというやつだったんだろう。
『坂上先生と星之宮先生には、もうご挨拶しましたので』
『ほう。一人の教師から、複数人の生徒が、この学校に入学するのか。驚いたな』
完全推薦制のこの学校で、そこまで偏りが生まれるとは、とか考えていたな。
それほどに、優秀な教師のようだ、とも。
………………まぁ、マッハ20の教師など、殆ど反則だがな。
『────この学校は、面白い学校ですね』
『…………だが、酷い学校だ』
そんなこと、とっくのとうに分かっている。
分かっていた。
私も、チエも、きっと、真嶋も。
私たちはずっと、檻の中で、そしてずっと、迷宮から抜け出せずにいる。
『教師も学校も、生徒に引っ張られて変わっていくものです。
事実私のいる学校も、どんどん変わってきている』
…………そうだな。
どれほど大人が権力を持とうとも、学校という場は、どこまでも、主役は生徒なんだ。
『────………きっと、あなたにも、良き出会いがあることでしょう。何せ、私の教え子は、…………いえ、私たちの教え子は、皆優秀、この学校風に言えば、実力者ですので。ヌルフフフ』
『………成程。期待しておこう』
………それはそれとして。
あいつ、ずっと私の胸見てたな。
『………しかし、中々に良い胸ですねぇ。星之宮先生も素晴らしかったですが、この胸も中々』
『死ね』
『にゅやっ!……………もしかして、漏れてました?』
『死ね』
うん。これがケイローンとは思いたくないが。
そして、入学してきた一年生が、皆優秀で、なにかが変わるのかもしれないと、期待していたある日。
坂柳理事長から、あの施設についての資料を、渡された。
『────…………、ふざけている。こんな施設など………』
『…………そうですね。本当に、ふざけている。
私が言えた事では、ありませんが』
『何故出資などしたのですか理事長。こんな施設、残すべきじゃないし、そもそも作るべきじゃなかった』
『…………綾小路篤臣という男の野望を、見てみたくなった。
今となっては、後悔しています』
この人は、ずっと後悔している。
ずっと、間違えている。
そう、自分を嘲っていた。
『…………鬼島総理の政策として、この学校は設立された。衰退する日本を変えるほどに、実力のある生徒を、育てる為に』
窓枠から、階下の生徒たちを眺める。
『…………でもね。最近、私は考えるんです。
そもそもの目的を、この学校は間違えているんじゃないかと』
理事長は、誰かを、思い出しているのだと、そう直感的に思った。
『日本を変える、国を変える、社会を変える。
個人でそんなことをするのは土台無理で、高々数十人程度で変えるのも、どうしても無理なんです。
そもそもの社会とは、様々な人が入り混じって有機的に生まれるもの。機械のように、どこまでも合理的に動くものではない』
よく、人は歯車に喩えられる。
社会を回す歯車に。
『────優秀な歯車を作ろうとしたところで、本当に優秀な歯車には、なりません。
だって、歯車は、自分の意思で動きませんから』
どれだけこの学校が工場として、歯車を作り上げようとしても。
自分の意思で動き出した歯車は、多くの生徒を巻き込んで、この工場の形を変えようとして。
一度、それは失敗に終わった。
だが、新しい歯車が、何個も、何個も入ってきた。
新しい歯車たちは、確かに、工場の求めた通りに動きながらも、徐々に徐々に、工場は、薄らと変わっていく。
『────変えようとして変えられるものではなかったんです。国も、社会も。
どんなものにも流れがある。変化の流れが。
堀北学から始まったこの変化の流れは、今、この一年生で大きな唸りとなって、この学校は、いつの間にか変わっていく』
『…………つまり、力任せに実力のある生徒を生み出し続けてきたこの学校は、失敗だったと。
────私たちは失敗だったと、あなたは、そう言うんですね』
私たちの三年間は。
私たちの、泥に塗れた青春は。
─────きっと、失敗だった。
どうしてか、そのことを、あっさりと受け止めている私がいた。
『……………失敗は、成功の母です。
無責任ですが、あなたたちには期待しています。茶柱先生』
『─────そうですね。あなたは無責任だ。
それでも、ご期待に添えるよう、全力は、尽くします。
国の為でも、あなたの為でもなく、無論、私の為でもなく。
生徒の、ために』
私たちは失敗した。
私たちは間違えた。
それでも、なお、私たちが今、教壇に立つ理由が、あるとしたら。
『教師も学校も、生徒に引っ張られて変わっていくものです。
事実私のいる学校も、どんどん変わってきている』
『────変えようとして変えられるものではなかったんです。国も、社会も。
どんなものにも流れがある。変化の流れが。
堀北学から始まったこの変化の流れは、今、この一年生で大きな唸りとなって、この学校は、いつの間にか変わっていく』
きっと、この学校は、変わっていく。
生徒が変われば、学校も変わる。
当然、教師も。
いつかきっと、新しい形のこの学校ができる。そうなった時に。
嘗ての学校を知るものとして。嘗ての過ちを知るものとして。嘗ての失敗を知るものとして。
私は教壇に立ち続ける。同じ失敗はしない、させない。
────翼を与えることは出来なくとも、船の作り方は、もう、生徒から教わったから。
「────お引き取りを、綾小路さん。
進路の相談でもなく、生徒の生活に関してでもなく、生徒の退学を望み、生徒が拒否している以上、これより先は、ただの水掛け論です」
「茶柱くんっ!」
「茶柱、先生」
きっと私は、お前が会ってきたような、かっこいい大人とは、程遠い。
それでも、私はお前の教師なのだから。
胸を張って、前に立とう。
「…………保護者の意向だ。それに逆らうのが、学校か?」
「生徒を優先するのが学校です。生徒が望む進路をこそ、私たちは優先します。
退学もまた、それに含まれるというだけです」
「申し訳ありません綾小路さんっ!茶柱くんっ、君も謝ってくれっ」
「その必要はありませんよ。校長」
やれやれ。
ちゃんと、あなたが責任を果たしてくださいよ。坂柳理事長。
「───坂柳か」
「私から申し上げられることがあるとすれば、それは全て、茶柱先生がおっしゃってくれたことです。
───生徒が望まないならば、退学を許可することは、出来ません」
なんだか、その。
初めて、茶柱先生を、かっこいいと思った。
「…………清隆。覚えているか、松雄のことを」
「覚えているさ。オレにとっては、親みたいなものだからな」
「その松雄は失踪した。お前の脱走に手を貸したからな」
「知っている。そうするだろうと思ったから、息子共々、烏間先生に隠してもらった」
「お前は結局、何も変わっていない。自分の欲望の為に、利益の為に、勝利の為に、誰かを容易く犠牲にして、平然としている」
お前は、一生変われない。
「───いいえ、彼は、もう変わりました」
「あんたの言う『最高傑作』は、もうただの男子高校生だよ」
…………………まぁ、うん。
止まらないよなぁ、みんな。
申し訳ないけど、でも、それ以上に。
嬉しいと、そう思える。
「……………無関係な生徒は、即刻、立ち去れ」
「悪いねおっさん。おれらもう、無関係じゃないからさ」
「ホワイトルームを一度殺したあの日から、もう、覚悟は決まってるので」
「今度は、ちゃんと息の根を止めてあげる。マッハ20の超生物よりは楽だしね」
「はい。人に効く毒なら、幾らでも作れますから」
……………お前も、来てくれたのか。
「僕のことを、覚えておいでですか。綾小路先生」
「…………浅野の、息子か」
「えぇ」
「お前は、このような愚かしい真似はしないと、思っていたんだがな」
「ご期待に添えなくて申し訳ありません。が、───僕もまた、ただの男子高校生。
友達の為なら、喜んで手を貸しましょう」
綾小路篤臣は、肘掛けを人差し指で音を立てて叩いた。
背後に控える護衛二人は、立つのもやっとな鈴音と桔梗を狙おうとして。
…………それは、ダメだろ。
…………、やっちゃった。
盛大に大の字で寝っ転がる護衛を見ながら、オレはやらかしたことを悟った。
「このような暴力沙汰を起こすような生徒など、学校においていいわけがない。即刻───」
「綾小路。反省文三枚と、五万ポイントの没収。これで勘弁してやる」
「…………暴力事件だぞ」
「私の目には、先に殴りかかってきたのは、そちらのお二人のように見えましたが。正当防衛で無罪と判断しても良いんですが、まあ、少しばかり私怨もあるようには見えたので、一定の罰則は下します、が。
退学になるほどのものでは、ありません」
「理事長としても、茶柱先生の方針に、賛成します」
…………ありがとうございます。茶柱先生。
でも、五万ポイントも残ってたかなぁ。
「改めまして、お引き取りを、綾小路さん。
御安心を、担任として、責任を持って、彼を育てます」
────まぁ、私に教えられることなど、もう無いだろうがな。
護衛も付けずに、綾小路篤臣は、高育を去った。
伸びている護衛に悪戯したくてカルマはうずうずしていたが、流石に理事長の手前、遠慮していた。
メールを見たのは、多分律なんだろうが、応接室だと案内したのは。
「要くん。何を考えているのかな要くん」
「すいません成守さん。────ただ、生徒の意思を、優先しただけですので」
星穹先生、本当に、面白い先生だな。
「それよりも、また先走ったわね」
「ほんとにね。柳沢に突っ込んで行ったあの日から変わってなさすぎ」
「…………それよりも、どうして二人は立つのもやっとなんですか?」
それはあんまり疑問に思わないで欲しかったなぁ。
やめて、それは聞かないで奥田。
そっと、オレたち三人は、目を逸らした。
「……………そう言えば、紹介状、貰ったね」
「あぁ、うん。も、もしかして、………ついに、一線超えちゃったの⁉︎」
「いや違うまだ超えていない勘違いしないでくれ茅野っ‼︎」
おい浅野、ゴミを見る目を向けるな。
おい。おい‼︎
「初手でそれは、少々マニアックだろう」
「………浅野くんそういうこと言うんだ」
茅野は純粋に驚いていた。まぁ、うん。
「割と俗物なところあるからね。浅野くん。この学校で知ったことだけど」
「ね。思ったよりも面白いやつだった」
「………はぁ」
割とよく、この四人で遊ぶんだよな。
オレと渚とカルマと浅野で、何回か映画も観に行ったし。
今度はスパイダーマン観るつもりだ。因みにオレと浅野は吹替派。渚とカルマは字幕派なので、恐らく争いが起こる。
「────綾小路くん」
「はい」
坂柳理事長に、声を掛けられた。
「この学校は、君にとって、どんなところかな」
「どんなところ、ですか。そう、ですね。
────思ってるよりも、楽しいです」
「…………そうか、なら、良かった」
応接室を出る前に、オレと鈴音と桔梗は、茶柱先生に、言うべき方があったから。
「ありがとうございました。茶柱先生」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
今まで見せたことないぐらい、綺麗な笑みを浮かべていた。
何か、憑き物が落ちたような、そんな顔だった。
「礼を言われるようなことじゃない。教師として、当たり前のことだ」
応接室を出る前に、言い忘れていたことがあったから。
オレはちゃんと、言っておいた。
「────茶柱先生。…………その、カッコよかったです」
「…………そう、か。ありがとう。綾小路」
「失礼しました。成守さん」
「えぇ。今後は、こう言うのはあまりしないでくださいね。心臓に悪いので」
「善処します」
廊下を歩きながら、(鈴音と桔梗はオレに掴まりながら)カルマは楽しそうな顔で。
「さぁて綾小路。一人で突っ走った罰として、菓子パーティーの主催者やって貰おうっかなぁ〜」
「勘弁してくれ。さっきの五万ですっからかんだ」
「じゃ、立て替えとくよ。来月返してね。綾小路くん」
「会場はどうする?」
「主催者の部屋に決まってるでしょ」
「別に構わな───いや絶対ダメだ」
部屋にはバニースーツが残っているじゃないか‼︎
絶対ダメなやつ‼︎
「残念ながら綾小路に拒否権はなーい」
「うんうん。エロ本なら気にしないでいいよ!」
「もう殺せんせーで慣れましたからね」
それよりもヤバいやつがあるんだよ‼︎
必死に隠そうとしたバニースーツが見つかって、心の底から軽蔑した目を、浅野から向けられたのは、別の話で。
その日の夜。
ちょっとオシャレなバーで、茶柱と星之宮と、それから、学生時代の二人の恩師でもある星穹は、酒を呑んでいた。
「珍しいね。サエちゃんから誘うなんて」
「嬉しいことがあったからな。自慢話に付き合え」
「えーなになに?新しい男でも出来た?」
「そんなことよりももっと嬉しい話だ」
「うっわー気になるー。教えてくださいサエちゃん様!」
「教えてやろう。───生徒にかっこいいって言われた」
「───良いなぁ。それ、教師が生徒に言われたいセリフ第一位ぐらいのやつじゃん」
「だろ?」
そんな二人に静かに付き合いながら、星穹要は、いつかの二人を思い出す。
学生時代の二人から、きっと。
(───良い教師になったな。二人とも)
いつかの生徒を、星穹は、祝福した。
「今日は俺の奢りだ。存分に飲むといい」
「わーいやったー!」
「ありがとうございます」
生徒は教師に引っ張られて。
教師は、生徒に引っ張られる。
良くも悪くも。
きっと、そう言うものなのだ。