殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 今回はまともにしたい。


Cクラスの非凡たち

 

 五月一日、朝。

 椎名ひよりは、振り込まれたポイントを確認した。

 49000ポイント。半分以下、とは。まぁ、こうなる気はしていたが、他のクラスはどうだろう。

 予想では、Aが98000、Bは79000ぐらいなのだが。

 Dは、まぁ、30000あればいい方では?

 

 いずれにしろ、最終結果は朝のホームルームで分かることだろう。

 

 朝、登校してみると、思ったよりも落ち着いていた。

 この辺りは、龍園くんが上に立って良かったと言えるところだろう。

 

「椎名、ポイントどうだった?」

「49000ポイントでしたよ。おはようございます、伊吹さん」

「あぁうん。おはよう。………はぁ、龍園の言ってたことが、当たってたとはね」

「まぁ、そのようですね」

 

 このクラスにおいて、自力でこの可能性に辿り着いたのは、椎名と龍園と、あと一人。

 その一人が入ってきた瞬間、教室に冷たい空気が張り詰める。

 赤い髪、ぱっと見では、顔のいいだけの優男。しかしどこかに、本能的に逃げたくなるような恐ろしさを覚える、このクラスにおいて、最も得体の知れない少年。赤羽業。

 赤羽は、教室の冷たい空気など気にも止めずに席につく。

 彼にとって、今このクラスで真っ当に見るべき生徒は、龍園、椎名、そして奥田のみ。

 それ以外の生徒は興味を持つに値しない、ということなのだろう。

 些か傲慢なように思えるが、彼にとって正当な評価なのだ。それまでに同じクラスであった人たちが、優秀な人だったので、良い意味でも悪い意味でも非凡でしかないこのクラスの生徒たちは、一段下がる評価を受けている。

 そういった雰囲気が出ている上で、このクラスの実質的な支配者である龍園が、明確に厄介払いしているので、自然と他のクラスメイトたちは関わろうとしない。

 奥田と椎名を除いて。

 

「あ、おはようございます!カルマくん!」

「うん。おはよう奥田さん」

 

 やはり奥田と関わる瞬間のカルマは、嘘のように柔らかくなる。奥田の小動物的な雰囲気がそうさせるのだろう。この瞬間のカルマはイケメンランキング5位も納得だ。

 それ以外ではこれが5位とかそのランキングおかしいだろう?みたいな気分になるが。

 

「あっ、この前の映画、本当に面白かったです!次は自分でチケットも用意しますね!渚くんにも申し訳ないですし……」

「あーうん。そうだね。………渚に任せると、ねぇ。…………その、さ」

「はい!なんでしょう?」

「次も、さ。一緒に行かない?」

「?最初からそのつもりでしたが、カルマくんは違ったんですか?」

「………っ、この子はほんとに………ううん。違わないよ。次も一緒に行こっか」

 

 うん。奥田と関わるときのカルマは可愛さとかっこよさをいい感じに併せ持っている。今の状態なら3位ぐらいに入ってもおかしくはない。そうじゃない時は一旦脇に置いておこう。

 

「………なんかさ。奥田と話してるときの赤羽ってほんとゆるゆるだよね」

「えぇ。ちょっと可愛いですよね」

「……あれが、可愛い?」

「?はい、ちょっと可愛いですよ」

「……まっ、感性は人それぞれだしね」

 

 しかしあの赤羽を可愛いとか、もしかしたら椎名は大物かも知れない。

 

「皆さん、おはようございます。早速ですが、今日は大事な話があります」

 

 教室に入るなり、担任の坂上先生はそういった。

 

(何か、焦っているのでしょうか?)

 

「……どうやら、今年の一年は()()なようですね。ほとんど慌てていないということは、既にこの学校の答えはわかっているようですが、改めて。この学校では、クラス間競争が行われています。今月皆さんに振り込まれたポイントは、クラスが持つクラスポイントに100をかけた分のポイント、つまり、Cクラスのクラスポイントは現在、490ポイントになります」

「……そんで、()()()()()()()1()0()0()%()()()()()()A()()()()()()()()()()()()。んなことは分かってんだよ」

 

 相手が教師であろうと変わらずに、それが龍園翔という人間である。 

 

「このクラス分けが、()()()()()()()()()()()()()()。さぁ、教えやがれ。上との差はどれぐらいで、下との差はどれぐらいだ?」

 

 そんな龍園の言葉を受け止めて、坂上はある数字を示した。

 

(…………おや、これは予想外ですね)

 

 Aクラス1()1()3()0()C()P()

 Bクラス790CP

 Cクラス490CP

 Dクラス4()5()0()C()P()

 

 ()()()()()()

 これは流石に、龍園と椎名も予想外だった。

 ただ、赤羽だけは笑っていた。

 

()()()()()()()()()()

 

 恐らくはAクラスの誰かの名を呼び、悪魔じみた笑みを浮かべていた。

 

 

「見事としか言いようがないな。歴史上この高育で、初月でポイントを減らさないどころか増やして見せたのは、このAクラスが初めてだ。歴代最高と謳われる現3年Aクラスも成し遂げられなかった。担任として誇りに思う」

 

 誇らしげな顔をするクラスメイトの中で、浅野だけが難しい顔をしていた。

 隣の席の有栖は、杖で軽く足を突き、意識をこちらに向けさせた。

 

「もっと素直に喜んだらどうですか?ここまでのリードを稼げたんですよ?私たち、いえ、あなたの作戦勝ちです」

 

 そう、そうだ。

 間違いなくこの瞬間は、自分は堀北学を超えたと言える。

 だが、だが──。

 

C()()()()()()()()

「………なるほど、学秀くんの言っていた、自分に勝った三人の一人ですか」

「……あぁ。奴ならこの一月でBにあげることだって出来たはずだ」

「しかしそれは、Dクラスにも言えますよ?綾小路くんと、実に、腹立たしいですが、堀北さんもいる。Cには上がってくると思っていましたが」

「ならば有栖。君は自分が、敵を大きく見過ぎていただけだと、()()()()()()

「………それは無理ですね」

 

 人を見る目には自信がある。

 自分が優秀だと、時には自分をも上回ると評価を下した相手が、予想よりも低い成果を出してきた時。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「Dクラスは、恐らくクラスメイトの育成にリソースを割り振った結果だと思いますが、Cクラスもそうでしょうか?」

「いや、それはない。赤羽はそこまで他者に関わるやつ(認めていない人間に優しくする)じゃない」

「……なるほど、認めた相手には甘いタイプですか」

 

 認めた相手には甘い。つまり、それは、C()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その生徒の育成にリソースを割り振った結果、だろう。

 

「ふふふふふっ。今年は、本当に楽しめそうですね」

「───……ふっ、確かにな」

 

 リードは広げた。

 スタートダッシュは最高だ。

 例え、Cにどれだけの生徒がいようと、Dに怪物(綾小路)女帝(堀北)がいようと、Bがどれだけ生徒の平均を引き上げようと、それでも勝てないくらいの差をつけてやる。

 理想を言えば、この一年で完全に勝負をつけてしまいたいぐらいだ。

 

「さぁ、これから、楽しくなるぞ、有栖」

「えぇ。楽しみましょう、この、『()()()()()()()()()』を」

 

 

「いやーーうん。今年のAクラスは凄いや。今の3年Aクラスより上は無いと思ってたんだけど、ここは超えるかもね。………でも、勝ち目がないわけじゃないよ。皆も十分以上に優秀だ。これだけのポイントを残したのはBクラスでも歴代最高なんだからね!なんだったら従来のAクラス平均に迫る勢いなんだから!まだ全然勝ち目はある。頑張って!」

 

 担任の星之宮先生の激励を聞いて、やる気を漲らせる一部生徒と違い、一之瀬、茅野、渚、神崎は冷静な思考を回していた。

 

(うわー、嘘でしょ。殆ど減らない可能性は考えてたけどさ、増やすって。………どうやったんだろう?)

 

(ほんとに動く気ないんだカルマくん。Cとのリードは今のうちに広げておきたいなぁ)

 

(まぁ、動かないって言ってたCはそうなるだろうし、浅野くんがいるAなら何もおかしくはないけど。Dが大人しすぎる。………そんなにクラスメイトがあれだったのかな?)

 

(派手なAに目を奪われがちだが、DはCの背中を十分に捉えている。逆転の可能性はいくらでもあるな。AとDが、最優先警戒対象、と言ったところだな)

 

 どこまでも、堅実(凡庸)に。

 

『どっちにしろ、やることは変わらない』

 

 そこで首脳陣(一之瀬、茅野、渚、神崎)の思考は一致した。

 

 B()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「些か、お前たちに期待しすぎていた、とは言わん。今出せる時点で最高の成果、と言っていいだろう。少なくとも、Cの背中はすぐ目の前だ。だが忘れるな、Cの上には歴代でも最もポイントを残したBがいる。従来だったらAに匹敵するポイントだが、今年のAクラスは、歴代最高と謳われる現3年Aクラスを上回りかねない。何せ、ポイントを増やしてくるクラスは、一度も無かったからな」

 

 そこで言葉を切り、生徒たちを見渡す茶柱。

 

「忘れるな。このDクラスは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。Cの背中が目の前にあろうと、決して油断するな。Bも強敵だし、Aは言わずもがな、だ。もう一度言おう、C()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 茶柱の厳しい言葉を確と受け取ったのは、果たして何人いるのだろうか。

 ただ、100,000はあったポイントを、半分以下に減らしてしまったということ、これは、彼らに十分以上の危機感を与えることになっただろう。なったと思いたい。

 

「茶柱先生、少しいいですか」

「なんだ、堀北」

「この後のホームルームと、一限の日本史を、クラス全体での話し合いに使いたいのですが、何ポイント必要ですか?」

「………そうだな、30万ポイントでどうだ?」

「分かりました。払います」

 

 一瞬、クラス中がざわめく。今のDクラスにとって、30万ポイントは相当な大金だ、それを即決で払えるということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということに他ならない。

 言い換えれば、鈴音はこの学校の先輩から、かなりの大金を譲られるぐらいの実力を示したということだ。

 この時点で、鈴音はクラスの()()()()()()の一人から、クラスどころか学年でも有数の実力者だと、クラスメイトから認知された。

 堂々と教卓まで歩き、クラス全体を見渡す鈴音は、強い意志を感じさせる眼光で、会議の開始を宣言する。

 

「ではこれより、()()()()()()()()()()を始めます。議長は、私が務めるわ。異論は無いわね?」

 

 さて、この会議は、どこまで踊らずにいられるか。

 お手並み拝見………とはいかないか。

 

「副議長は、清隆くん、書記は桔梗さん、平田くんにお願いするわ。頼めるかしら」

「うん!任せて、鈴音!」

「分かった。僕としても異論は無いよ」

「……はぁ、了解だ。副議長として、議長のサポートに回らせてもらう」

 

 ま、こういうのも、悪く無いな。

 

 

 

「今年のAクラスは、間違いなく強敵です。Bもまた、従来だったらAに匹敵するでしょう。………下でこそありますが、Dとの差は殆ど誤差です。断言しましょう。この四月において、戦略的に敗北したのは、Cであると」

 

 坂上先生の言葉は、Cクラス中に重苦しく響く。

 ………この五月初め、最も空気が悪いのはCクラスで間違いない。何せ、事実上の敗北スタート。

 最高のロケットスタート(大幅なプラスのAクラス)

 平均以上のスタートダッシュ。(従来のAクラスレベルのBクラス)

 出遅れこそしたが、十分に取り返した(大幅マイナスだがCとの差は誤差のDクラス)

 それに比べて、大きく出遅れ、後続もすぐ後ろにいる。(Bとの差は大きく、Dとの差は小さいCクラス)

 

 分かりやすく、完全敗北だ。

 

(さて、龍園くんは、ここからどうするのでしょう?)

 

 椎名の思考の答えが示されるより先に、坂上がさらなる情報を落とした。

 

「それから、もう一つ。こちらを見てください」

 

 坂上は、ある表をホワイトボードに貼り付けた。

 

「予想通りでしたが、散々でしたね。これが中間テストだったら六人は退学していたところです」

 

 自然に、日常会話の延長線上のように、今日の朝ご飯は和食でした、と、軽い調子で話すように。

 坂上は、最悪のペナルティの存在を告げた。

 

「………は?ちょっと待って、そんなの聞いてない!」

「言う必要がありますか?赤点を取れば補修や課題は当然あります。この学校では、それが退学である、というだけです」

「いや、いくらなんでも退学は──」

「それが嫌なら今からでも対策しなさい。大丈夫です。()()()()()()()()()と確信してます」

 

 思わず立ち上がる真鍋をあしらい、坂上は()()と言った。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 考えられるものとしては過去問か。もし仮に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(あの小テストは、そのためのヒントと考えていいでしょうね)

 

「ふーん、なるほどねぇ。ねぇ坂上せんせー、他のクラスの小テストの結果、見てみたいんだけど」

「それには十五万ポイント必要です」

「おっけ、払うね。じゃ、Aクラスのやつ見せて」

 

 クラス中が、赤羽に視線を向ける。

 おかしいのだ、例え、先月を完全に無料の商品のみで過ごしたとしても、今月振り込まれたのは五万に満たない。

 このCクラスで、それだけのポイントを持っていることは、あり得ない。

 

「おい赤羽、テメェどこでそんだけのポイントを手に入れやがった?」

「教えても意味のないことは教えないよ。この稼ぎ方は、このクラスでは俺にしかできないからね」

「……それは俺が決めることだ」

「契約したじゃん龍園、お前は俺のやることに介入しない、代わりに、俺はお前を害することは無いって。もう忘れちゃった?」

「…………ちっ、なんでAクラスのを見る?」

「……すぐに分かるよ」

 

 坂上がプロジェクターを使って映し出したのは、Aクラスの小テスト結果、それをみて、全員が驚愕した。

 

「嘘でしょ…‥…⁉︎平均100点⁉︎」

「い、いくら成績優秀な生徒が集まるとしても、こんなことはあり得ません!」

 

 一瞬目を見開いた龍園は、しかしすぐにある可能性に辿り着いたのか、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「なるほど、過去問か……!」

「ま、十中八九そうだろうね。小テストがあることまでは知らなかったんだろうけど、()()()()()()()過去問に、小テストの過去問があった」

「それをクラス全体での共有することで、全体で満点を取った。種がわかればなんてことねぇが、一体どこで()()()()()()()()()()()()()()()()

「多分、二、三年の先輩からそれぞれ貰ったんでしょ。それを照らし合わせてるうちに、中間テストと小テストは全く同じ問題が出ていることに気付いた」

「………その理論だと、()()()()()()()()()()()()ってわけじゃないって言ってるみたいだが?」

「どうせ()()()()()()()が目的だったんでしょ。そうしたら、この答えに行き着いた」

「………はっ、運を手繰り寄せたってわけか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 Aクラスへの最大限の賛辞であり、最大限の警戒だ。

 

「気をつけなよ龍園。Aのアイツ(浅野)は、運と実力を併せ持つ男だからね」

 

 龍園は、凄絶な笑みを浮かべ、闘志を燃やした。

 

「は、上等だ。AもBもDもまとめてぶちのめしてやるよ」

 

 赤羽は、冷徹に龍園を見定める。

 

 果たしてこの男が、錆びたナイフを掲げたただのガキ(1学期期末の赤羽業)となるかどうか。

 

 これから(他クラスとの競争)で、見ていくとしよう。





 6月からは頻度落ちるかもしれないです。
 リアルが忙しいので
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