さて、昨日に続き大ニュースだ。
二年生のスター、桃井パイセンが浅野についた。
これは、かなり痛いぞ。
「で、どうするの鈴音。人気勝負で一番引き込みたかったのが、どっちも取られたわけだけど」
「まぁ、しょうがないわ。出来ることなら、卜部先輩に両方ともついて欲しかったのだけれど」
卜部先輩にいっそのこと桃井パイセンもついてもらって、敢えて卜部先輩にリードしてもらうのもありだった。
一之瀬から味方になってもらったその手腕は見事だが、それでも、一年近く活動していないのは致命的に近い。
逆に言えば、それだけの致命傷を負っていてもなお、勝負の土台に上がっているのが、ちょっと意味わからないが。
「で、鈴音の公約的には、連立政権狙うのも全然アリだし、生徒会役員の制限って公約で、ババ抜きに変えるのもありな訳だけど。
どうするの?」
取れる手が非常に多い。
現状の鈴音の強みは、そこだ。
「連立政権もババ抜きも、どちらも魅力的だけど、それよりも、効果的な手がある」
二年Dクラスを味方につけるの。
何自信満々に胸を張って言ってるんだ。ちょっと可愛いけど。
「いやそれは無理だろう」
「うん。絶対無理だって」
確かに、そこを味方に出来れば、相当に有利になる。
南雲先輩の固定票を相当数奪えるだけでなく、そこから連鎖して、浮いた票も、こちら側に流れてくるだろう。
最大の敵である南雲先輩に致命的と言えるダメージを与えられるのは間違いない。
リレーで吐いたこと、審議で大勢の生徒の前で負けたこと、これらのどデカいマイナスがあって、ようやく勝負が成立している。
もしここで、二年Dクラスを味方につけられれば、南雲先輩への信頼や求心力が凄まじく落ちる。
つまり、二年Dクラスは、南雲先輩につくよりも、鈴音についたほうが勝てる、まぁ平たく言えば、鈴音の方が実力がある、と認めた事になるのだから。
だが。
「今二年Dクラスがなんで呼ばれてるのかは知ってるでしょ?
まぁ、私たちに馴染み深い呼び方だと、エンドのEクラスだよ?
エンドのE組が有名になったから、それにあやかってつけた名前なんだろうけど」
南雲先輩の策略で、二年Dクラスは十二名が退学。
残ったのは二十八名。
退学した十二名の中には、一年時クラスリーダーだった立花も居たので、現状二年Dクラスにはクラスリーダーがいない。
特別試験全敗で、クラスポイントは50以下。
「───だからこそ、彼らは南雲先輩に賭けるしかない。
南雲先輩のAクラスチケットしか、もう望みがないからな」
鈴音は、そこをひっくり返せる一手があると?
とても自慢げに、端末を取り出した。
「───実は、坂柳理事長に、
イヤホンで聞いてみて。万が一にも外に漏れないように。
もし、この提案の内容が、少しでも広まったら。
何提案したんだ怖いぞ。
桔梗も凄く怖がっていた。
イヤホンを繋げて、鈴音と坂柳理事長のやり取りを聞く。
オレが右耳で、桔梗が左耳だ。
『──────』
ふむ。確かに鈴音の言う通りだな。
『──────』
成程、坂柳理事長はそういう対策を。
『──────』
あぁ確かに、そこは問題かもな。
『──────』
…………………えぇ?
まじで言ってるのか鈴音。
『──────』
坂柳理事長引いてる。
まぁ、引くよな。
『──────』
確かに、確かに利点だけど。
それなら確かに、
『───分かりました。堀北さんの提案を受け入れます』
受け入れちゃった。
あーあーどうするんだよ
来年ヤバいぞこれ。
『ただし、これを公約として掲げるのは許しません。
もし、この提案の内容が少しでも広まったら、即刻退学処分とします』
『えぇ。それで構いません』
そこで、音声は終わった。
いや、うん。なんと言うか。
桔梗と目を合わせるが、呆れと感心とその他諸々を抱いているのが、お互いに分かった。
「これはダメでしょ」
「これはダメだろ」
「ダメだから公約には掲げていないのよ。
後これ、契約書ね」
確かに、二年Dクラスは間違いなく味方につくだろうが。
………でも、提案の内容を広げちゃダメなんだよな。
「いやうん。この材料なら、二年Dクラスは間違いなくこっちに着くけどさ。どうやってこの材料を知らせるつもり?」
「噂話として広まるのもダメなんだろう?」
「だから、二年Dクラスで一番の実力者を、味方につけて、動いてもらうの」
となると、テーブルゲーム部の、花咲先輩か。
「よくよく考えるとあの人やばいよね。だって二年Dクラスのクラスポイント五十割ってるんだよ?
月貰えるの5,000ポイント以下だけだよ?
なんでそんなクラスにいるのに五百万も稼げたわけ?」
「色んな大会を荒らし回ってるのと、配信者としての収益があるらしいわ」
「………いや、それ、大丈夫なのか?」
外部との連絡判定にならないのか?
「生徒会役員として、確認の為に見たことがあるのだけれど、現役女子高生であることも高育生であることも一度も漏らしていないの。
それで、配信者としての収益の内、四割を学校に納めているみたいね」
「ふぅん。じゃあ佐倉さんも似たようなことできそうだね。カエデちゃんもだけど」
「出来るでしょうけど、普通やらないわ。
リスクリターンが釣り合ってないもの。もし、うっかり高育生であることを話したりしたら、一発退学よ?
その上で、収益の四割は持っていかれるのよ?
普通やらないし、やってもあんなに稼げないわ」
「でも、あの人稼いでるんだよな」
ちょっと、いや、大分怖い。
でもまぁ、それだけの人なら、クラスを動かせる、のかも?
…………そう言えば、啓誠言ってたな。
『ほむら先輩か?
割と面倒見が良いぞ?ただ、その、煽りカスだし、割と性格は最悪よりだ。
基本的に、自分が面白いと思ったことには全力で動く。
それ以外には、本当に興味が無い人だな。
まぁ、体育祭の時みたいに、割と友達を大事にする人でもあるが』
…………まぁ、この録音聴いたら、絶対全力でやるだろうな。
だって、こんなに、面白そうなものを見過ごすとは、思えない。
「────佐倉さんを通じてアポイントメントは取ってあるわ。今日の放課後、カラオケボックス集合よ」
殆ど勝利が確定しているので、鈴音は、とてもウキウキだった。
まぁ、うん。
この提案が通った時点で、大目標は確実に達成だもんな。
放課後のカラオケボックスで、花咲先輩は、約束の時間から二十分は遅れて来た。
時間に厳しい鈴音なら、本来だったら、もう体感温度が北極か南極にいるのか、と錯覚する程にバチギレしているのだろうが、今回に関しては余裕たっぷりだ。
まぁ、録音データ聞けば、それだけでほぼ確実に味方になってくれるだろうし。
「ごっめんねぇ〜〜ちょっとぉ、ナンパに捕まっちゃったんだよぉ」
「あら、それは大変ですね。
大丈夫でしたか?」
「うん!近くにいた浅野をこの人彼氏〜って嘘ついて追い払ったの〜」
「……………可哀想に。浅野くん」
うん。本当に可哀想に。
小柄で、とても可愛らしいんだが、性格は最悪って啓誠や佐倉や長谷部が言うくらいだもんなぁ。
まぁ、悪い人では無いみたいだが。
「それでぇ?わたしに話があるってぇ?愛里ちゃんの手前、聞くだけ聞くけど、ぶっちゃけウチのクラスそっちに付けるの相当めんどいよ?」
「えぇ。重々承知しています。
それはそれとして、私、坂柳理事長にある提案したんです。
これが、その録音です。あなたたちにとっても、願ってもない話ですよ」
「…………まぁ、聞くだけ聞くけどさ」
イヤホンをつけて、録音を聞く花咲先輩。
「ふんふん。それはそうだね」
「あー成程。坂柳理事長あったま良い〜」
「あー、うん。確かに堀北ちゃんの言う通りだね」
「………………なんて?」
「………………へー、ふーん、ほー」
「………………あ、受け入れちゃった」
「………………マジで?」
うん。そのリアクション、よく分かるぞ、花咲先輩。
オレも桔梗も、似たようなリアクションしていたからな。
「………………これってさ、アリなの?」
「私は、提案しただけですよ?
ですが、既に、坂柳理事長
これが、その契約書です」
受け取った花咲先輩は、頰を引き攣らせながら、目を通していく。
「私が生徒会長にならなくても、この提案は通ります。
────ですが、私が提案しなかったら、これは実現しなかったと言うことは、ご理解ください」
二年Dクラスにとって、こんなにありがたいことはない。
これなら、後一年と少しで、
花咲先輩は、さっきよりも深く、
「────
わかる。
ちょっと、禁じ手過ぎるよな。これ。
「ねぇ、一個聞いていい?
なんで、ここまでするの?」
まぁ、確かに。
内容が外に広まれば、それだけで退学なんて、そんなリスクを負ってまで、二年Dクラスを、エンドのEクラスを味方につけることを選んだ。
そこまでして、勝ちに行く理由は、正直気になる。
「兄を超えたいから、それだけじゃ、納得いきませんか?」
「うん。だって、堀北先輩には、もうそんなに執着してないでしょ。
それも本音だろうけど、その為だけに、ここまでやるとは思えないよ」
そう。
鈴音は、兄を超えたいとは思っている。
思っているが、その執着は、今まででは考えられないほど、薄い。
なのに、どうして、ここまで。
何故だか、桔梗は呆れ果てた目を、オレに向けていた。
花咲先輩は、真面目そうな顔だが、頰をヒクヒク痙攣させていた。
「………………分かってて聞いてますよね?」
「えぇー?なんのことかぁ、ほむらちゃん分かんなーい」
鈴音は、凄く、恥ずかしそうに。
告白した。
「………………その、退学に、なって欲しくない人がいるので」
………………それって、オレ、だよな。
「へぇー、へぇーーーー‼︎つまりぃ、鈴音ちゃんはぁ、好きな人のためにぃ、学校変えようとしてるんだぁ〜〜‼︎
惚れた相手にそこまで尽くすなんて、愛だねぇ‼︎
ねぇねぇ、綾小路くん、今どんな気持ち?
こ〜んなに愛されて、どぉんな気持ち?」
うっっっっぜぇぇぇぇ。
この人ずっと笑い堪えてたのかよ。
めっちゃ笑ってんじゃん。
「あっははははははははははは‼︎
ねぇねぇ、どんな気持ち?どんな気持ち?」
「うざいです。本当にうざいです」
「ふーん?こんなに愛されて、うざいとか思ってるんの〜?ひっどーい」
「うざいのは先輩です。鈴音の気持ちは全然うざくな───」
「てことは嬉しいんだ?嬉しいんだねぇ?」
この人性格悪っ‼︎
うざっ‼︎
啓誠たちが性格悪い言う訳だわ‼︎
「まぁ、その、それ以外にも、理由はあります」
「ふぅん。聞かせてよ。その理由」
「─────、────────────────」
「…………そっか、なら、仕方ないね」
両手を勢いよく打ち合わせて、花咲先輩は、満面の笑みで宣言した。
「わたしの力で、二年Dクラスの票は、全部、鈴音ちゃんに集めるよ。
──────これだけのことをしてもらったんだし、ついでに、南雲に行きそうな浮いた票も、いくつかそっちに持ってくね。
君たちのお陰で、最後の一年と少し、本当に楽しくなりそうだし」
この人は、面白いと思った方につく。
鈴音の禁じ手は、確かに、この人のツボを突いていたらしい。
だって、録音を聴いているときからずっと、────笑っていたのだから。
次の日の、放課後。
二年Dクラス。通称、エンドのEクラスで。
相変わらず沈んだ顔で、二十七人は、帰ろうとして。
スキップしながら机を足場に、教卓の上に飛び乗った花咲ほむらは、大きく両手を広げて、強引に、意識を向けさせた。
「────はいちゅうもぉく‼︎‼︎」
その性格から、クラス中から嫌われている花咲ほむらの奇行に、全員足を止めた。
「────エンドのEクラスとか言われている落ちこぼれの不良品未満の諸君、君たちに、提案が、ありまぁす」
「あぁん?」
クラス一の荒くれ者、
いつのまにか、右手にメガホンを持って、教室中に、宣言する。
「今回の生徒会長選挙、堀北鈴音に投票しようっ!」
クラスメイトたちは全員、呆れ果てていた。
「あのねほむら。うちらがAクラスで卒業するには、もう南雲のAクラスチケットに賭けるしかないんだよ?」
クラス一の優等生の片割れ、
「いいや違うね。後一年あれば巻き返せる」
ほむらは、どこまでも堂々と、そう胸を張る。
「いやいや、そんなん無理だろ」
クラス一の女たらしクソ野郎、
「無理じゃない。賭けてもいい。────もし、卒業までにAクラスになれなかったら、わたしは、卒業証書を受け取らずに退学する」
それが、何を意味するのかなんて、不良品未満の彼らでも分かる。
クラス一の優等生の片割れ、
「根拠は、あるのか」
「ある。───けど、具体的には言えない」
「それに、堀北鈴音が、関係しているのか」
「ある。───けど、具体的には言えない」
「なら、堀北鈴音が生徒会長になれなかったなら、それは、どうなる?」
「変わらない。───堀北鈴音がなってもならなくても、わたしたちには得しかない」
それは、クラス一のクールビューティー、
「何よそれ、そんなの、わざわざ堀北鈴音に投票する理由がないじゃない」
「誠意の話だよ、蘭ちゃん。
堀北鈴音は、わたしたちに
終わりきったこのクラスが、一番上まで上り詰められるかもしれない
後輩がそこまでやってくれたのに、何も返さないなんて、先輩らしくないでしょ?」
「だから、それを具体的に教えなさいよ‼︎堀北鈴音は何をしたの⁉︎私たちに何があるの⁉︎」
「────そ、れ、は、三学期をお楽しみにって感じ」
「ふざけないでっ‼︎そんなのに乗るわけがないっ‼︎」
教卓から飛び降りて、花咲ほむらは、楽しそうにスキップして、水澤の元まで行って、水澤の胸ぐらを掴んだ。
その瞳は、どこまでも鋭くて、水澤は、心臓を貫かれたと錯覚した。
「────乗っても乗らなくてもどっちでもいいよ。でも、乗らなかったら、後悔する。
────わたしたちにここまでしてくれた人に、何も出来ていないことを、心から後悔する。
それは、絶対に言い切れる」
君たちが、本当に、まだ終わっていないなら。
今こそ、勝ちに行くよ。
「…………なぁ、ほむら」
「なぁに、森くん」
「堀北は、どうして、このクラスの為にそこまでした」
落ちこぼれて、終わった私たちにも
「同族意識、ってところかな?」
「エリート中のエリートが、オレらに同族意識?あっほらし」
社は、教室を出ようとして。
「逃げるんだ」
「…………あぁ?」
ほむらは、煽った。
「南雲にめちゃくちゃにされて、十二人も退学者を出して、クラスメイトがとんでもないことをやらかして、もう、落ちぶれるところまで落ちぶれて、他のクラスが復活しても、わたしたちだけ、泥の中」
Dクラスの生徒たちは、一様に、暗い顔をした。
そうだ。こんなはずじゃなかったんだ。
自分たちは、選ばれたエリートのはずだったのに。
いつの間にか、完全に、終わっていた。
「────でも、まだ、終わっていないよ。
ねぇ、社くん。
わたしは、戦うよ。
堀北鈴音は、わたしたちの為に、命を賭けた。
退学になる危険を冒してまで、わたしたちに
ここまで、してくれたのに、南雲から、逃げるの?」
「…………はっ、どうせ、あいつにゃ勝てねぇよ」
「ふぅん。ねぇ、今、どんな気持ち?」
「…………っち、うぜぇな」
「どんな気持ちって聞いてるんだけど。悔しくないの?情けなくないの?ねぇ、わたしたちと同じDクラスだった後輩は、もうBクラスだよ?
わたしたちと同じDクラスだった先輩も、もうBクラスだよ?
どのクラスも、とっくに前に進んでる。
何度負けても、何人減っても、変わらない。
ずっとずっと、前に進み続けてる」
三年生は、ずっと、三年Aクラスに負け続けて。
それでも、誰一人折れなかった。
卜部藤乃は、一度、完膚なきまでに折れて。
でも、立ち上がった。
一年生たちは、
「─────わたしたちの実力は、こんなものじゃないって、言ってやりたくならないの?
もう泥の中で、南雲がくれる糸に縋ればいいやって、本当にそう思えるの?」
「───せぇな」
「そこまで心から思えるぐらい、負け犬になったなら、とっとと出て行きなよ」
「っせぇな‼︎」
「この学校も、この教室も、実力主義。
実力ってなんだと思う?能力?結果?勝利?
────わたしは、その全部にノーを突きつける。
わたしにとって実力は、意思だ。
勝ちたいという意思。楽しみたいという意思。負けたくないという意思。
意思の果てに実力は形を成す。意思なき実力は影もない。
────わたしは、楽しみたい。
この学校を!わたしの人生を!楽しんで楽しんで楽しんで───笑って終わりたい」
君はどう?社くん。
この学校を、この人生を、どう終わらせたい?
「───勝ちてぇに決まってんだろ‼︎
この学校も、この人生も、オレは勝って!終わりたい‼︎」
みんなはどう⁉︎
この学校!この人生!どう終わらせたい⁉︎
────このまま、負け犬の不良品未満で終わりたい⁉︎
「終わりたい訳ないでしょばっかじゃないの⁉︎
終わりたくないから!南雲に縋ってんのよこっちは‼︎」
堀北鈴音は
南雲に縋ることもなく、わたしたちが、勝って終われる
でも、一つだけ忠告。
この
────ここで、南雲に勝とうと思えないやつらが、この
「…………なぁ、ほむら。もし、このクラスが、この、エンドのEクラスが、全員が、その
おれ達は、勝てるのか?」
花咲ほむらは、自信満々に、宣言する。
「ぜぇっっったいに、勝てるよ」
何せ、堀北鈴音の禁じ手は、それほどの、とびっきりだ。
堀北鈴音は、一体何をしたのか。
三学期初めの『答え合わせの時間』をお楽しみに。