殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 分かっちゃったこの二人が異常。


椎名ひよりの戦慄

 二年Dクラスが、堀北さんにつきました。

 これは、余りにもなビッグニュースです。

 

 他のクラスは取り込めるでしょうが、このクラスを取り込むのだけは無理だと思っていました。

 

 一体、堀北さんは、何をしたのでしょう。

 

「カルマくんは、何か知っていますか?」

「知らない。マジで何したら二年Dクラスが堀北さんにつくわけ?」

 

 メインで動いたのは、花咲先輩のようです。

 勢いで押し切ったみたいですが。

 

「でも、具体的なことは、何も話していないんですよね」

 

 奥田さんの言うとおり、堀北さんの打った手は、具体的なことは、何も分かりません。

 ただ、花咲先輩曰く、機会(チャンス)であり、二年Dクラスが、この一年でAクラスに上り詰められるだろうものらしいです。

 それから、ここまでやってくれた人に、何もしていないことを、後悔すると。

 

「具体的な内容知られたら退学なんでしょ?それだけやばいことなんだよね?」

「そうですね。どれだけやばいことなんでしょう」

「…………考えられるものとしては、生徒のシャッフルとか、ですか?」

「いやー、流石にそれはないでしょ」

「ですね。この学校の原則が壊れます」

 

 各クラスで競争して、Aクラスを目指す。

 この学校の基本的な構造は、これです。

 で、まぁ、その過程で色々アレなところもあるので、そのうちのここ、変えて行きますよーっていうのが、今回の生徒会長選挙の目的なんですが。

 

 堀北さんの打った手は、それに関連したもの、つまり、退学制度に関したものなんですよね。

 うーん。分かりません。

 もっと、情報が無いと。

 わたし、気になります。

 

「花咲先輩の演説で、特に気になっているのは、『機会(チャンス)』を掴もうとしなければ意味はないってことですね。

 つまり、生徒が能動的に動く必要があるわけで、あくまで主体は生徒の筈」

「生徒が主体…………。こう、試験で得られる点数の増加、とかですかね。下位クラスが上位クラス倒すとポイント増加‼︎みたいな」

「それって、知られたら退学になるほどのこと?」

「なんか、違う気がしますね」

 

 知られたら退学に、ていうのが、よく分からないです。

 どうして、退学になるんでしょう?

 

「わっかんねぇ〜〜情報少なすぎ〜〜」

 

 カルマくんの言うことも最もです。

 情報が少なすぎます。

 

 まぁ、そうですね。

 

「一旦これは置いといて、選挙を考えると、堀北さんは相当上手い手を打ったと見て良いでしょうね」

「だねぇ。数こそ少ないけど、二年Dクラスが堀北さんについたってのは、相当でかいよ」

 

 南雲先輩への浮いた票は、相当数動くでしょうね。

 …………しかし、ここまでやられたのに。

 

「…………これといった報復とかしていないのが、怖いですね。南雲先輩」

 

 奥田さんの言う通りです。

 ここまでやってきたのなら、とことんまで叩き潰す人だと思っていたのですが。

 

「うーん。いやまぁ、常識と良識の範囲では、戦っているんだけどね」

 

 サッカー部は既にほとんど取り込まれました。

 二年Aクラスの固定票は万全です。

 各クラスに仕込んだ固定票も、動きはしないでしょう。

 問題は、完全に離反した二年Dクラスですね。

 

「ここが特に報復とか受けない限り、幾らでも動くと思うんだけど」

「だからこそ、卜部先輩と浅野くんも、明確に二年Dクラスを守ろうとしているんでしょうね」

 

 頻繁に、卜部先輩は花咲先輩に会いに行っているようですし、浅野くんと一年Aクラスも、それとなく、二年Dクラスの先輩に話しかけてはいます。

 

「………丁度良いし、おれらも覗いてみる?」

 

 そうですね。

 何か、分かるかもしれませんし。

 

 放課後、私たち三人が二年Dクラスの教室を覗き込むと、机を思いっきり叩く音がしました。

 

「────堀北さんは正気なの?こんな手を打つなんて……」

「いやそれよりもさぁ、なんで坂(・)柳(・)理(・)事(・)長(・)と(・)鈴(・)音(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)利(・)害(・)が(・)一(・)致(・)し(・)て(・)た(・)っ(・)て(・)だ(・)け(・)で(・)、そ(・)れ(・)が(・)分(・)か(・)る(・)わ(・)け(・)? 

 普通に怖いよ」

 

 卜部先輩は、どうやら堀北さんの打った手が何か、分かったようですね。

 ふむ。成程。坂(・)柳(・)理(・)事(・)長(・)と(・)堀(・)北(・)さ(・)ん(・)の(・)利(・)害(・)が(・)一(・)致(・)し(・)て(・)い(・)た(・)と(・)。

 これは、結構重要な情報では?

 

「ふふふふふ、早く三学期にならないかなぁー。

 ─────ねぇ藤乃ちゃん。最後の一年、一番の強敵は、わたしたちだよ?」

「……………えぇ、そうね。そうなるでしょうね」

 

 卜部先輩は、諦観すらも滲ませて、深いため息を吐いた。

 

「この選挙の一番の強敵は、堀北さんだったのね」

「だねぇ。鈴音ちゃんは、ヤバヤバのヤバだよ。こんなの思い付いても実行しないもん」

「私たちは、特にそうでしょうね」

 

 思い付いても実行しない。

 私たちは。

 卜部先輩と、誰なんでしょう。

 

「……………堀北さんに伝えておいて。とんでもないことをしてくれたわね。楽(・)し(・)み(・)だ(・)け(・)ど(・)恨(・)む(・)わ(・)って」

「おっけー。あ、他言無用で」

「分かってるわ。そんな勝ち方、望んでいないもの」

 

 そうして、卜部先輩は教室から出て行く時に、カルマくんと奥田さんを、一瞬見ました。

 

 ──────…………………嘘でしょう?

 ………………成程。確かに、これなら利害は一致していますし。

 卜部先輩達は、思い付いても実行しませんね。

 いや、でも。

 ………………正気ですか?

 

「お、一年Dクラスの赤羽くんじゃーん。何か用?」

「いやぁ、堀北さんに何言われたのか、気になってね」

「へー、ふーん、ほー。ま、教えないけどね‼︎三学期初めをお楽しみに〜‼︎」

 

 ………………確かめましょう。

 

「花咲先輩。少し、良いですか?」

「お、なになに、なんか気付いたの?」

「えぇ。少し、耳を貸してください」

 

 わたしの推理を話します。

 花咲先輩は、楽しそうに笑いました。

 …………あっているんですね。あっちゃっているんですね。

 

 本気ですか堀北さん。

 よりにもよって、あなたがこの手を打つなんて。

 

「────君、名前は?」

「椎名ひよりです」

「すっっっっっごいねひよりちゃん‼︎これだけでそこまで辿り着いたの⁉︎」

「えぇ、まぁ、間違っていてほしかったですが」

「あっははははは。藤乃ちゃんも、おんなじ気持ちだろうね〜」

 

 カルマくんと奥田さんも、凄い気になっているみたいです。

 でも、これが外に漏れるのは、本当にまずいですね。

 

「…………その、カラオケ、いきましょうか」

 

 薄暗いカラオケボックスで、わたしたち三人は、まずは飲み物を飲んでいました。

 その、色々と話さなければならないので。

 

「んで、ひよりさんは、どんな推理をしたの?」

「さ、坂柳理事長と、堀北さんの利害が一致していた、っていうのが、大きなヒントだったんですか?」

 

 そこも大きなヒントでしたが、それ以上に大きなヒントがありました。

 『思い付いても実行しない』。特に、卜部先輩達は。

 

「んー、と、それがどう繋がるわけ?」

 

 順を追って、説明しますね。

 

 まず、坂柳理事長と堀北さんの利害が一致した、と言うのは、おそらく、────────────────────────。

 

「えっと、どうして、そうなるんですか?」

「…………あー、確かに。退学制度を無くすっていうか、メスを入れるのは、あ(・)っ(・)ち(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)都(・)合(・)悪(・)い(・)し(・)ね(・)。生徒の質も落ちるかもだし」

「…………確かに、そう考えると、あちら側にとって、退学制度にメスが入るのは、避けたいですね」

 

 ですが坂柳理事長は、そこを変えようとしていた。だからこそ、────────、──────────────。

 

「あぁ、うん。確かにそれは有効かもね」

 

 ですが、それにはある問題があります。

 ───────────────。

 

「………そう、ですね」

 

 えぇ、それは、────────────────────────────。

 

「ちょっと待って。待って。え、嘘でしょ?え、え?」

 

 つまり、堀北さんの打った一手とは、───────────────。

 

「……………えっ?」

「こうすれば、二年生の戦力バランスも、整うでしょう」

「いやいやいやいやいや。マジで言ってんの?」

「た、確かに、卜(・)部(・)先(・)輩(・)た(・)ち(・)は(・)思(・)い(・)付(・)い(・)て(・)も(・)実(・)行(・)し(・)な(・)い(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)け(・)ど(・)」

 

 これならば、全ての辻褄が合うんです。

 堀北さんと、坂柳理事長の利害が一致して。

 卜部先輩達は、思い付いてもやらない手で。

 この話を聞いた二年Dクラスの花咲先輩が言ったように。

 掴(・)も(・)う(・)と(・)し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)意(・)味(・)の(・)な(・)い(・)も(・)の(・)で(・)、こ(・)こ(・)ま(・)で(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)た(・)人(・)に(・)何(・)も(・)出(・)来(・)て(・)い(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)を(・)後(・)悔(・)す(・)る(・)。

 そして、何より。

 A(・)ク(・)ラ(・)ス(・)に(・)上(・)が(・)れ(・)て(・)も(・)、お(・)か(・)し(・)く(・)は(・)な(・)い(・)。

 

「…………確かに、生徒ががっつりそこに手出すのは、ダメだしね」

「な、成程。だから、退学なんですね」

「…………欲を言えば、わたしたちが受けたかったですね」

 

 いえ、まぁ、現状に文句は無いどころか、最高なんですけど。

 

「まぁ、うん。納得はしたよ。理解はまだ出来ないけど」

「…………確かに、退学処分も納得ですし、花咲先輩が堀北さんたちにつくのも納得ですけど」

 

 むしろこれでつかないのがあり得ないまでありますね。

 少し時間をおいて、色々と整理して、落ち着いたカルマくんは。

 凄く、悪い顔をしました。

 

「─────これ、使えるね」

 

 端末を操作して、堀北さんを呼び出します。

 あぁ、なるほど。確かに、これなら。

 

「急に何の用かしら?選挙準備で忙しいのだけれど」

「まぁまぁ、ちょっと椎名さんの話を聞いてってよ」

 

 さて、それでは、名探偵よろしく、推理するとしましょう。

 堀北さんが、どういう目的で、どのように坂柳理事長との利害を一致させ、どんな提案をしたのか。

 その答えが、これです。

 

「──────お見事、という他ないわね」

「ここまで言えば、おれたちのやりたいことも分かるでしょ?」

「えぇ。以前あなたたちと結んだ契約、破棄するわ」

 

 ………まぁ、もう、ああいう妨害作戦をするつもりは無いですが。

 わたしとしても、退学の危機が消えるのは、ありがたいです。

 

「──────その代わり、他言無用で。………全く。卜部先輩といい、あなたといい、なんで分かるのかしらね?」

「まぁ、分かるの、他にはいないと思いますけど」

 

 奥田さんの言う通りです。

 これが分かったわたしと卜部先輩が、ちょっとおかしいんですよね。

 

 

 翌日、龍園くんは、カルマくんに詰め寄ってました。

 まぁ、どうやったのか、分からないのは怖いですよね。

 

「まぁ、三学期初めに答え合わせがあるし、それまで待ってなよ」

「…………ちっ、本当に話す気ないんだな」

「うん。まぁね」

 

 話す訳にはいきません。

 堀北さんのしたことは、とてもシンプルです。

 シンプルだからこそ、そのインパクトは、とんでもないのです。

 

 三学期初めが、今から恐ろしいです。本当に。

 





 藤乃の方は、スペックだけが理由じゃありません。
 藤乃だから気づけました。

 椎名さん?まぁ、椎名さんだし。
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