殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

95 / 95
復讐の時間

 麗は、私たちが分からなくなっていた。

 私も、博も、玉紀も、珠莉も。

 そして、自分のことすらも。

 

 精神科医が言うには、もう戻ることはないらしい。

 本当、もう、笑うしかない。

 

『麗さん。麗さん。これ、これ見てください。一緒に作った小鳥ですよ。ほら、よくこうやって遊んでいたじゃないですか。ちゅんちゃん、ちゅんちゅんって、だから、………だから、お願い、です、から………』

 

 いつも、微笑みを絶やさないはずの珠莉は、泣きながら、大事に保管していた、白い折り紙の小鳥を見せた。

 珠莉の宝物で、大切な思い出の品のそれ。

 麗は、視界に、その白が入った瞬間、反射的に、動いた。

 

『─────あっ』

 

 麗の右手が、その小鳥を、握り潰していた。

 麗の、表情は、何も、変わっていなかった。

 珠莉と、麗の、大事な思い出の、宝物なのに。

 

 

『麗姉さん!ほら、これ、一緒に食べようよ‼︎初めて麗姉さんと作ったパンケーキ‼︎麗姉さんの好みの味付けにしたんだよ?私、この八年、たくさん料理勉強したんだから‼︎絶対、あの頃よりも美味しいはず‼︎』

 

 一口サイズに切り分けたパンケーキを、麗の口元に運ぶ。

 麗は、それを口に入れて、しばらくした後。

 盛大に、吐いた。

 

『──────えっ』

 

 こうなる前は、焦げたパンケーキも、美味しい美味しいって言って、笑顔で食べていたのに。

 麗は、辛そうな顔を、していたんじゃなくて。

 ただ、反射的に、甘すぎて、受け付けなかったみたいだった。

 麗と玉紀の、思い出の、味なのに。

 

『姉さん。姉さん。これ、父さんたちの写真だよ。姉さん、よく教えてくれたじゃないか。父さんは、優しくてカッコよかった。母さんも、優しくて綺麗だったって。

 僕に、たくさん教えてくれたじゃん。……ねぇ。姉さん』

 

 写真を一瞥しても、麗は、何も反応しなかった。

 そっと、目を逸らして、終わった。

 

『──────姉、さん』

 

 優しかった麗は、もういない。

 私たちの、大切な家族だった麗は、もういない。

 

 八年の歳月で、完膚なきまでに、壊されていた。

 嘗て、輝いていたはずの原石は。

 砕かれて、粉々にされて、すり潰されて、水に溶かされて、かき混ぜられて、地面に打ち捨てられて、火に晒されて。

 残ったのは、容易く砕け散る、薄い板。

 

 

 ………許さない。

 許さない。許さない。許さない。

 

 麗を、隔離病棟に入院させた後、私は、ホワイトルームの本当のカリキュラムと、そこで行われている全てを、調べ上げて。

 

 綾小路篤臣に、直接、突きつけた。

 

『謝罪しろも、麗を返せも、何もかも、意味はない。

 ただ、私の要求は一つだけ。

 これを、私が調べ上げた、ホワイトルームの全てをばら撒かれたくなかったら、この施設を、閉鎖しなさい』

『断る、と言ったら?』

『ばら撒くわ。これを』

 

 終わらせてやる。

 お前たちの全てを、ここで。

 

『別に構わんが、良いのか?』

 

 良いに決まっている。

 ここで全てを終わらせられるなら、それで───。

 

『お前の施設は、すでにオレたちから、援助を受けていたよな?』

 

 いた。過去形だ。

 そう、もう、嘗ての危険な状態からは、完全に脱却した。

 だから、今更───。

 

『世間は、どう思うだろうな。こんな組織から金を受け取った施設のことを。

 そんな施設で育った、子供たちのことを』

 

 ──────この、男はっ‼︎

 強く、拳を、握り締めた。

 あぁ、そうだ。

 くそ、くそ!くそくそくそくそくそくそ‼︎

 なんでコイツを信じた‼︎なんでコイツに借りを作った‼︎なんで、なんで、なんで────。

 

 なんで、あなたは。

 

『麗、は。麗は、金石先輩たちの、子供、なのよ………?』

『あぁ、そうだな』

『沢山、沢山、お世話に、なったじゃない………』

『あぁ。だから、オレなりのやり方で、恩返しをしようとしていたのだがな』

 

 恩返し?

 これが?

 

『────成功していれば、金石麗は非常に優秀な子供に育った。容易く相手の懐に潜り込み、弱みを握り、そこをつける。

 そんな、強い子供に』

 

 ふざけないで。

 そんな、子供。

 

『そんなの、強くなんて、ない………』

 

 ねぇ、綾小路くん。

 なんで、こうなったの?あなたは、どうして───。

 

『そこはどうでも良いが、ばら撒けば、また、施設は追い詰められるぞ?』

『………また?』

 

 あぁ。

 あぁ。

 そう、だった、のね。

 私の勤めていた会社を潰したのも、補助金が出なくなったのも、何もかも、全部。

 私たちの施設を、追い詰めたのも、全部‼︎

 

『あなた………!あなた………が……‼︎』

 

 どこまで、悪辣、な………!

 

『あぁ、()()()()()()()()()?』

 

 ──────何を、言っている。

 

『お前が預かっている、真白珠莉、いるだろう?アイツの母親は、オレの知り合いでな。

 元売り上げNo. 1ホステスで、芸能人顔負けの美貌を誇っていたんだが、同じく元No. 1ホストとの間に、子供ができてしまったらしくてな。

 処分に困っていたらしいから、お前に送りつけておいたんだ。ホワイトルームで育成するよりも、効果的だと思ったからな』

 

 何を、言っている。

 

『お前なら、三人までなら、なんとか養えるだろう。だが、一人増えれば、限界になる』

 

 何を、言っている。

 

『────そうなれば、議員になって、金に余裕がある、オレを頼るだろうと予想…………いや、賭けた』

 

 何を、言っている。

 

『予想通り、お前はオレを頼ってきた。だからあとは、絶対に断れない状況を作って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ───────何を、言っている。

 

『最高傑作を生み出す必要があったからな。まぁ、運良くオレの息子がそうなってくれたが。

 第一候補は、あの二人のどちらかだったんだ。

 才能ある両親の元に生まれた、才能ある姉弟。

 このどちらかなら、ホワイトルームのカリキュラムを合わせれば、最高傑作になれる、と期待していたんだが。

 当てが外れたな』

 

 ────ふざけるな。

 ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな‼︎

 

『お前はっ‼︎子供をなんだと思っているっ‼︎』

『───ただの道具だ』

 

 私が、彼を、あの男を、どんな顔で見ていたのかは、分からない。

 ただ、心から、殺してやりたい、と。

 そう、思っていた。

 

『そうだ。お前には、これを渡しておこう。

 当該個体『1066』。金石麗の、実験記録だ』

 

 私は、失敗した。

 

 絶対に、信じてはいけない人を、信じてしまった。

 その末路が、これだった。

 

『まぁ、期待外れ、とまではいかないが、せめて、十五までは外に出れるぐらいには、堪えて欲しかったんだがな。

 そうなれば、実地テストに送り出せたものを』

『…………実地、テスト……?』

『椚ヶ丘中学校三年E組。

 全てが理想的な環境だ。山奥にあるから、外に漏れる危険は殆どない。必要なこと以外を教える必要もない。

 あそこに、一人放り込むつもりだったんだがな。まぁ、あれが十五になるまでは延期だろう』

 

 頼んでもいないのに、綾小路篤臣は、計画を話していた。

 

『椚ヶ丘での実地テストを終えたら、今度は高育に入れるつもりだった。あそこもまた、理想的な環境だったからな。

 金石麗が堪えていれば、五年は早く、計画の最終段階を始められたんだが』

 

 ────あぁ、そうか。

 私を、操るつもりなんだろう。

 

 この男の計画の最終段階は、後、五年。

 この男の息子にして、最高傑作が、五年後に高育に入学する。

 

 復讐に燃える私なら、その最高傑作を壊すために、五年かけて、高育で生徒を育成するだろうと、そう読んでいる。

 

 ────良いだろう。

 乗ってやる。お前のその計画に。

 そうして、作り上げてやる。

 

 最高傑作すらも打ち倒す、最高傑作を。

 

 お前の計画を、全てぶち壊してやる。

 最高傑作を殺して、お前も殺してやる。

 お前の、日本を変えるほどの人材を作る、その野望を、無駄にしてやる。

 ────お前の全てを、否定してやる。

 

 施設の経営者は、信頼出来る人に、後を託して。───もう、私が、関わるべきじゃないから。

 

 そうして、高育に、教師として赴任した。

 

 あぁ、きっと、ここは私の理想だった。

 

 自由が校風。それは、私たち教師にとっても例外じゃない。

 

 だから、私のやりたいようにやれる。作りたいように作れる。

 

 当該個体『1524』についても、ついでのように書いてあった。

 この資料を元に考えると、最高傑作は、最低でも麗を上回る総合力の持ち主なのは間違いない。

 ………一から育成するんじゃ、とても間に合わない。

 ある程度の基礎スペックの持ち主でないと。

 だから、Aクラスか、Bクラスの担任にならないと。

 

 最初の三年で、Bクラスの担任を任された。

 元々教師を十年近く勤めていたのもあったのだろうけど。

 

『三年間ありがとうございました!翡翠先生!』

『えぇ。あなたたちを教えられた三年は、悪いものじゃなかったわ』

 

 最初に担当したクラスを、ちゃんとAクラスで卒業させた。

 失敗ではない。ただ、成功でもない。

 最高傑作を、当該個体『1524』を殺し得る生徒を作ることは、出来なかった。

 

 だから、次に担当した、一年Bクラスで、南雲雅を、彼を見つけた時。

 

 奇跡だと、そう思えた。

 

 高い基礎スペックの持ち主で、何より、手段を選ばない悪辣さも兼ね備えている。

 当然のことだけど、正面から最高傑作を超える生徒を作るなんて、殆ど不可能だ。

 …………、まぁ、例外は、いたのだけれど。

 堀北学は、入学時点で殆ど完成されていたから手を出さなかった。

 卜部藤乃も、また同様に。

 …………博たちは、巻き込みたくなくて。

 だから、逆に、チャンスだと思った。

 

 事前の練習に丁度いい。クラス間競争にかこつけて、卜部藤乃を、南雲雅に殺させる。

 『1524』を殺す為の、踏み台として。

 

 私の誘導は、完璧だった。

 完璧に、南雲雅は、卜部藤乃を殺してみせた。

 

 懐に潜り込んで、弱点を探って、徹底的にそこを突いて殺す。

 報告書に載っていた、麗と同じ戦い方で。

 だからこそ、心から歓喜した。

 ねぇ、南雲くん。あなたは、麗の代わりに、『1524』を殺すの。麗と同じやり方で、『1524』を上回って、殺して。

 そうすれば、全ての否定になる。

 綾小路篤臣。アンタの全てを否定できる。

 

 だって、あんたが壊した麗の戦い方を猿真似しただけの、麗の下位互換に、最高傑作が殺されたなら。

 

 ───わざわざ麗を壊したアンタは、最高傑作を一度、日本を変えられるだけの天才を、自分の手で壊したんだから。

 

 ───その、つもりだったのに。

 忌まわしい。忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい忌まわしい‼︎

 あの女!九重九十九‼︎

 

 あぁ、お前が南雲くんを壊したことを、初めて知ったあの体育祭の日。

 心から、お前を殺したいと思った。

 よくも、よくもよくもよくもよくもよくも‼︎

 

 お前さえ、お前さえ!

 お前さえ、いなけければ!

 

 だから、選挙で、わざと負けようとしている南雲くんを、誘導して。

 今度は、九重九十九を、殺そうとした時。

 

「…………久しぶり、翡翠先生」

 

 ────なんで、あなたに、見つかってしまうの。

 

 

 …………見られたくないところを、見られた。

 隠しておきたいことを、暴かれた。

 

 翡翠恵先生は、そういう顔をしていた。

 

『────確認だ、金石。お前の施設の経営者は、翡翠というんだな?』

『うんそうだよ。翡翠恵先生。現二年Aクラスの担任。だから正直、南雲のこと、嫌いなところがあるし、違和感も凄いんだよね。

 だって、あの翡翠先生に教わっているのに、あんなことするなんて──』

()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

『───は?』

『…………俺も卜部も、南雲なら壊れないだろうと、そう、見積もっていて。しかし、それは盛大に失敗した。

 見積もりが誤っていた。やり方を間違えた。それが、全てだと、そう思っていたが。

 …………もし、意図して南雲を誘導したものがいるとしたら、それは、──』

 

 堀北先輩の胸倉を掴み上げて、金石先輩は、怒りを露わにしていた。

 

『────、お前に、先生の何が分かる‼︎』

 

 ────きっと、オレにとっての殺せんせーが、この人にとっての翡翠先生で。

 堀北先輩にとっての浅野理事長が、この人にとっての翡翠先生だから。

 分かるんだ。この人が、どれだけ怒っているのかも。

 堀北先輩も、そういう顔をしていた。

 

 ────でも、オレは。

 

『…………確かめましょう。金石先輩』

『綾小路っ!翡翠先生はっ‼︎』

『…………あなた、だって、復讐のために動いている』

『───っ、!』

 

 翡翠恵が、そうでない根拠が、ありますか。

 

 

 もし、この、『元一年Aクラス女子脅迫事件』から始まった、二年生の地獄が。

 もし、ホワイトルームに起因したものだったなら。

 もし、オレが、原因の一つだったなら。

 

 オレは、それを、知らないといけない。

 

「…………オレは、ホワイトルームの最高傑作、当該個体『1524』、綾小路篤臣の息子。

 ────綾小路清隆です」

 

 多分、薄々、そう、予想してはいたのだろう。

 翡翠恵は、とても、心から、嬉しそうに。

 待ち侘びていた人が来た、と、そう思うぐらいに、壊れた笑みで。

 

「─────ようこそ。『1524』。さぁ、始めましょう?」

 

 この、実力主義の教室を。

 

 

「……………いいや、始めさせないよ。翡翠先生」

 

 ごめん。南雲。

 ごめん。卜部。

 ごめん。桃井。

 ごめん。青井。

 

 僕の先生が、君たちに、たくさん、迷惑をかけた。

 だから───。

 

「南雲雅の、休学の権利は、もう買った。

 先生、あなたの、復讐は、ここで終わり」

 

 ────終わり?

 こんな、こんな、中途半端な、ところで───?

 

「先生。そのやり方は、ホワイトルームと、何が違う」

 

 …………分かっている。

 

「心を踏み躙り、人を傷付けて、そうして、勝つ。

 こんなの、ホワイトルームと同じだ」

 

 分かっているわよ。そんなこと。

 

「姉さんを壊されたことを、何よりも憎んで、恨んでいるはずのあなたが、…………同じことを、南雲にするのか?」

 

 分かって、いたのよ。そんなこと。

 でも、だけど───。

 

「じゃあ、じゃあ、あの子は、なんの、為に………」

 

 止められないの。

 認められないの。

 

 麗は、あんな終わり方をしていい子じゃなかった。

 期待外れ?ふざけないで。あなたが悪いのよ。あなたが失敗したのよ。あなたが、あんなことをしなければ、麗は、麗、は。

 

「…………翡翠先生。あなたは、証明するつもりだったんですね。

 綾小路篤臣が、失敗作だとした、金石麗は。

 本当は、最高傑作だったんだと。

 …………綾小路、篤臣は。

 自ら、最高傑作を壊した、愚か者だと」

 

 黙りなさい。堀北学。

 

「…………、その、根底にあるのは、後悔ですね。

 自分が導いていたなら、金石麗は、こんなことには、ならなかったはずだと。

 施設の、そして、彼女自身を思って手放した自身の判断を、後悔していたから」

 

 黙って。

 

「─────、だから、南雲を、狙ったんですね。 

 南雲に、金石麗を、重ねていた。

 そして、きっと南雲は、あなたが望んでいた、金石麗でもあった。

 自分と大切な人のために、誰かを踏みにじれる人間だった」

 

 お願い、黙って。

 

「あなたは、ずっと、いつかの後悔を、拭い去るつもりだった」

 

 反省は続けてきた。でも、だからこそ。

 翡翠恵は、後悔も続いていた。

 後悔に蝕まれて、歪んで、壊れて。

 ───この人は、終わってしまった。

 

 もし、あの日。

 あそこにいたのが、渚だったら。

 あの結末には、至らなかった。

 

 だって、オレと渚が、やり合うということは。

  

 ────どちらかが死ぬということだ。

 

 渚がオレに勝つには、クラップスタナーで動きを止めて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 スタンガン程度で、オレは止まらない。

 

 だから、あの日。

 

 オレは、渚に殺されるか、渚を殺すかの二択を、答えるつもりで。

 

 鈴音と桔梗に、殺された。

 

 

 この人は、きっと、渚を殺してしまった、オレなのかもしれない。

 

 最悪の間違いを、犯してしまった、人なんだ。

 

 

「あなたは、南雲のために、彼を導いたんじゃない。Aクラスに上り詰めることも、卜部に勝つことも、全て、ただの通過点だった。

 全ては、金石麗の下位互換で、ホワイトルームの最高傑作を殺すために」

 

 堀北先輩は、きっと、南雲先輩と翡翠先生を引き離すために、こうも暴き立ててている。

 南雲先輩は、翡翠先生を信頼しているようだったから、そこを、切り離そうとしていて。

 

 耐えきれなくなった翡翠恵は、背を向けて、その場を立ち去った。

 

 金石先輩は、その背を追おうとして、南雲先輩に。

 

「────僕たちの先生が、ごめん」

 

 そう、謝っていた。

 

 壁に寄りかかって俯く南雲先輩に、オレは、何を言えばいいのか、分からなかった。

 この人が、こんなに壊れたのは、きっと、オレのせいだ。

 

 翡翠恵先生の、証明に。

 当該個体『1066』。金石麗こそが、本当の最高傑作だったのだと、証明する。

 その為に、この人は、使われた。

 

 …………もし、オレが、高育に進んでいなければ。

 この人は、壊されることも、無かったのかも、しれない。

 

「──────南雲、俺は、俺の理想の為に………俺が、浅野先生を助ける為に。

 お前を、利用しようとした」

 

 堀北先輩は、懺悔する。

 

「あの最終二問を作ったのは、俺だ。

 俺は、お前と卜部の両取りを狙っていた。

 お前を勝たせた上で、卜部との圧倒的な実力差を思い知らせて、卜部を生徒会に入れることを、認めさせつつ、俺の理想に、使えるようにする為に。

 ────俺は、合理で、こうした方が効率が良いと、そう判断した」

 

 合理的であること、効率的であること。

 

 それは、言い換えれば支配的で。

 

「────俺は、浅野先生を助ける為に、浅野先生のやり方をした。

 そんなことをしていたら、助けられるわけが、無かったのに」

 

 堀北学は、自身の罪を語る。

 

「────俺は、支配することしか知らないのに、それ以外を、学ぼうとしなかったのに。

 寄り添う道を、歩いてしまった」

 

 高育で、堀北先輩は、出会いに恵まれた。

 自身に匹敵する強者が、同じクラスに何人もいて。

 自身に挑み続けるライバルが、大勢いて。

 寄り添ってくれる人がいて。

 導いてくれる先生がいた。

 

 ────だから、寄り添う道を、学ぶ必要が無かった。

 

 だって、堀北先輩が、一番前を走り続ければ。

 周りが勝手に、寄り添ってくれていたから。自然と、そういう形になっていたから。

 

 だから、この人は。

 良くも悪くも、殆ど変わらないままなんだ。

 確かに、強くなった。

 でも、鈴音も、浅野も、変わったとは、言わなかった。

 

 だから、失敗した。

 

 

「…………だから、なんすか。堀北先輩」

 

 南雲先輩は、顔を上げる。

 強い意志のこもった、顔。

 後ろ向きな、意志の。

 

「どんな理由があったとしても、誰に誘導されていたとしても────結局、選んだのは、オレです。

 オレは、誰も彼も傷付ける戦い方を選んだ。───自分すらも。

 だから、卜部が、オレを、罰しない、なら」

 

 きっと、一番、南雲先輩を罰する資格がある、卜部先輩が、罰しないなら。

 

「オレは、責任を、取るしかない」

 

 二年生の地獄を、作ったものとして。

 南雲先輩が、取ろうとしている、責任は。

 

「────堀北先輩、オレは、選挙で、全部をぶち撒けようって、そう思っていたんです。

 オレの悪行を、全部、ぶち撒けて。

 堀北鈴音を、勝たせるつもりだった」

 

 堀北先輩の妹で、強くて、正しくて、───そして。

 

「…………あんたの言う、寄り添う強さを、確かに持っているから」

 

 そう、だな。

 鈴音には、そういう強さがある。

 そういう強さを、あの一年で、磨き上げた。

 

「オレでも、浅野でも、卜部でもなく。

 アイツなら、きっと。きっと───」

 

 討論の時か、或いは、それより前から。

 南雲先輩は、そう決めていた。そうして、その為に、動こうと、して。その為に、自分を、終わらせるつもりで。

 

「────やめろ、南雲」

 

 そう、声を、掛けてきたのは。

 

 ─────桐山先輩、だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【暗殺教室】は終わらない(作者:チキンうまうま)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

▼ 俺たちのいた中学校は95%の勝ち組と5%の負け組に分かれる学校だった。▼ だけど、次に俺の入学した学校は─25%の勝ち組になるべく知恵を巡らせる学校だった。すべての生徒が安泰な自分の将来を勝ち取るためにクラスで行われる対抗戦。騙し、ルールの穴をつき、策謀をめぐらせて勝ち組の座を奪い合う。▼ その中で生き残るべく。蔓延る天才たちを殺す(たおす)べく、俺は1…


総合評価:1334/評価:8.29/連載:4話/更新日時:2026年04月28日(火) 16:21 小説情報

モテたい小路(作者:エゴエロエゾロン)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

 モテて勝ち組になるために、綾小路が頑張るお話。勝つためにしていることなので、綾小路は最初から機械っぽい。機械小路ならこのくらいできるよねって感じで、コミュ力高めになってます。(これを書き始めたのは3年生編4巻時点です)


総合評価:3137/評価:8.61/連載:30話/更新日時:2026年07月09日(木) 21:05 小説情報

ようこそAクラスの教室へ(作者:yadooo)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

最も不良品であるはずの綾小路が、何故だか優秀な生徒達の集まるAクラスに配属されるIFストーリー。▼


総合評価:4143/評価:8.81/連載:39話/更新日時:2026年08月24日(月) 18:34 小説情報

綾小路の友達(作者:初期小路おもろすぎて)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

▼綾小路に心から信用できる友達が居たら。▼ちなみにそいつはホワイトルーム生で四期生の生き残りである。▼


総合評価:1970/評価:7.85/連載:7話/更新日時:2026年05月27日(水) 00:02 小説情報

ようこそ未知を探求する教室へ(作者:叙述トリッピー)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

世界の警察権力の「最後の切り札」である彼が実力至上主義の教室に入る話▼※匿名解除しました。


総合評価:2375/評価:8.62/連載:29話/更新日時:2026年08月24日(月) 23:29 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>