殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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 あったかホームドラマ。
 に、なってるといいなぁ。


過去の時間

 『輝ける原石達の家』。

 私が設立した、新しい児童養護施設。

 お金は、そんなになかったから、安い古民家を買って、そこで、四人の子供を引き取った。

 

 裏庭で、幼い少女が、ブルーシートの上に敷かれたスイカを割ろうとしていた。

 あのスイカは、博が懸賞で当てた。

 ハガキをあの子に送らせて良かったかも。

 

『───えいっ!』

『ちがいますよ。たまき。もうちょっとみぎです』

 

 私の隣で、二人を見ていた博は、凄く退屈そうだった。

 

『ぼくがあてたのに、なんでわっちゃだめなんだよ』

『ふふふ。まぁ、いいじゃない』

『よくない!あれはぼくがあてたんだ!だからぼくのなんだ!』

 

 えぇ、そうね。

 あなたが当てた、あなたのもの。

 でもね、博。

 

『もうちょっとひだり、そう、もうすこしみぎで、そこです』

『───えいっ!』

『わぁ!すごいですたまき!すごいです‼︎』

『えへへへっ!ありがとうじゅり‼︎』

 

 二人は、とても楽しそうに、嬉しそうに笑っていた。

 ねぇ、博。

 あの笑顔を見て、あなたは、何を思うかしら。

 博は、独特で不思議で美しい瞳に、笑い合う二人の幼い少女を映して。

 

『………………ねぇ、せんせい』

『ふふふ。どうしたの?』

 

 あなたの問がどんなものなのか、なんとなく想像がついて、私は、嬉しくなった。

 

『………………あのスイカは、ぼくのだ』

『えぇ。そうよ』

 

 あなたが、自身の才能で、勝ち取ったもの。

 

『だから、わるのも、たべるのも、ぼくのもつしかくだ』

『えぇ。そうね』

 

 資格なんて言葉、いつ覚えたのかしら。

 

『でも、なんでだろう。ふたりがたのしそうにしてるのをみると、なんだか、ぽかぽかする』

『それはね、博。

 あなたが、優しいからよ』

 

 誰かが楽しそうだと、自分も楽しい。

 誰かが悲しそうだと、自分も悲しい。

 誰かを思って、自分の感情を動かせる。

 そういうことは、やろうと思って出来ることじゃない。

 やらせようとして、やらせられることじゃない。

 この子が、生まれ持ってきた、確かな力。確かな輝き。

 それを、眩しいと思うの。

 

『………やさしい?ぼくが?』

『そう‼︎ヒロはやさしいんだよ‼︎』

 

 博と同じ蜂蜜色の髪の少女が、勢いよく博に抱きついた。

 

『うわっと、ねぇさん、びっくりしちゃうからやめてよ』

『ううん!やめない‼︎だって、わたし嬉しいから‼︎』

『なにが?』

『ヒロが、タマキたちが嬉しいことを、嬉しいって思えているのが、嬉しい‼︎』

『なんだよそれ。わけわかんない』

 

 誰かが嬉しいと、自分も嬉しくなれる。

 それは、才能なの。輝かしくて、美しい才能。

 

『私も嬉しいわ。博』

『もう、先生まで、姉さんみたいなこと言うつもり?』

『えぇ。私は、博と麗がそう思えるのが、本当に嬉しいのよ』

 

 博も、麗も。

 親を目の前で失うという、あまりにも辛い体験をした。

 博は殆ど覚えていないけれど、いまだに血に怯える時がある。

 麗も、うなされて飛び起きることがある。

 でも、この子達は、幸せそうな人をみても、妬まない。

 親がいる他の子供を見ても、憎まない。

 世界を呪っても、理不尽を恨んでもいいのに、それをしない。

 言葉を知らなくても、感情は芽生える。この子達は、恨みという言葉も憎しみという言葉も知らないけれど、その感情は、芽生えてもおかしくはないけれど。

 でも、芽生えない。

 悪い事ではないけれど、良い事でもないのかも。

 

『────ヒロ〜‼︎レイ姉‼︎一緒に食べよ〜‼︎』

『せんせいもたべましょう?』

 

 両手に割れたスイカを抱えて、二人は走り寄ってきた。

 もう、服が果汁でびちゃびちゃじゃない。

 全く、やんちゃねぇ。

 

『はいヒロ‼︎いっちばんおおきいのあげる‼︎』

『はいはい。ありがとう』

『おしおもふってあげますよ。ヒロがあてたものですからね』

『とうぜんだよ。ぼくのものなんだからね』

 

 でもね。博。

 

『────でもさ、ヒロ。ひとりでぜんぶ食べても、こんなにおいしくないでしょ?』

『…………うん。そうかもね』

 

 ─────ありがとう。麗。

 いつも、あなたには、助けられているわ。

 

『はい!これひすいせんせいのぶん‼︎』

『にばんめにおおきいスイカです』

『…………いいえ、私は、これがいいの』

 

 一番小さいスイカを手に取った。

 一口サイズの、本当に小さいスイカ。

 でも、私、あんまりスイカ好きじゃないもの。

 

『えぇ〜〜、ひすいせんせいにたべてほしいのに〜〜』

『そうです。ひすいせんせいがハガキをもってきてくれたから、こんなにたのしかったんですよ』

『…………まぁ、あてたのはぼくだけど、ひすいせんせいがいなかったら、そもそもあたっていないし』

『わたしもそう思う‼︎あ、でも、ひすいせんせいがスイカきらいなら、しょうがないけど』

 

 みんな、本当に優しいの。

 みんなが優しいのが、本当に嬉しい。

 

『うふふふふふふふふ。いいえ、私、スイカ大好きなの。じゃあ、貰うわね』

 

 スイカは、本当はそんなに好きじゃないけど。

 でも、今まで食べたどんなものよりも、一番美味しかった。

 

 みんなでスイカを食べながら、楽しいひと時を過ごせたこと。

 どこにでもあるような、普通の一日。

 きっと、私の、最高の思い出の一つ。

 

 

 

 よくある家電量販店で買ってきたホットプレートから、白い煙が立ち込めている。

 熱せられた鉄板の上に置かれているのは、美味しそうな、高級肉。

 ……………本当に、博のおかげね。

 博のおかげで、なんとかやりくりしている資金の中で、こういう贅沢が出来るもの。

 

『今回も、ぼくが当てたんだ。かんしゃするように』

『言われなくてもするっての。ほんと、ヒロはうんが良いよね』

『えぇ。うんがかかわるゲームで、ヒロにかてたことがありません』

『ふっふーん‼︎わたしの弟はすごいんだから‼︎』

 

 全く。みんな、すこし前のめりすぎよ。

 

『火傷すると危ないから、ちょっと落ち着きなさい』

『やけどとは、なんですか?ひすい先生』

 

 好奇心旺盛なのが、珠莉の良いところよね。

 うーん。なんて説明しようかしら。辞書で調べるような言葉よりも、分かりやすい言葉で。

 

『そうねぇ。こんな感じで、煙が出ているものに触ると、とても痛いの。だから、触らないようにね』

『………ちょっと、気になります………』

『ちょ、やめときなよじゅり』

『ですが、どれぐらいいたいのでしょう?』

 

 そっと、珠莉はプレートに手を伸ばして。

 私が動くよりも速く、麗が止めた。

 だめね。私は。私が、止めないとダメなのに。

 

『ダメだよ。じゅり』

『れいさん。どうしてだめなんですか?』

『じゅりが痛いと、わたしも痛いから』

『…………?わたしとれいさんは、体がちがいますよ?』

『体じゃなくて、心が痛むの。だから、ダメ』

『私からもお願い。珠莉。こういうのは、辞めて』

 

 珠莉は、なんだかよく分からないけど、でも、これはきっとダメなんだなって、そう納得した。

 今は、それで良いの。

 

『………分かりました。やめておきます』

 

 珠莉は、施設の前に捨てられていた。

 まだ、生後数ヶ月の赤ん坊の頃に。名前だけ書かれた一片の紙切れを残して。

 どう足掻いても、私は、彼女たちの親にはなれないから。もしかしたら、珠莉は、親からの愛情と呼べるものが殆どないから、こういうことをしてしまうのかも。

 

 最近、本を読むようになった。

 親のいない子供に、どう接すれば良いのか。どう育てれば良いのか。

 …………でも、本に書かれていることが、上手くいくようには、思えないのよね。

 …………うーん。一先ず、眠ろう。

 疲れた頭だと、なにも思い浮かばないものね。

 

 色々なものに悩んで、向き合って、話して。

 私は、彼女たちを、ちゃんと育てられているのか、不安になる時もあって。

 

 

 博が当てたチケットのお陰で、私たちは遊園地に行けた。

 本当だったら、こんなに高いチケット、買えないのだけれど。

 

『うわー!すごい!すごい!ねぇせんせい!あれのりたい‼︎あのでっかいやつ‼︎』

『えぇ、そうね。乗りましょうか』

 

 玉紀の指差す先にあったのは、ジェットコースター。

 でも、身長制限にひっかかりそうね。

 

『あれはジェットコースターって言うんだよ。たまきはそんなことも知らないの?』

『────はぁ、なにその言いかた?かんじわるーい』

『へぇ、ぼくにもんく言うんだ。ぼくのおかげでこれたのに』

『辞めなさい。博』

 

 確かに博のお陰なのだけれど。

 でも、そういうことを表に出すのは、良くないから。

 

『何でせんせいはたまきのみかたするの?ぼくはわるくないのに』

『はぁ?どうかんがえてもわるいのはヒロでしょ?』

『ぼくのおかげでこれたのに?』

『それとこれとははなしがべつ』

『二人とも、辞めなさい』

 

 少し、声が低すぎたのかも。

 びしりと固まった二人は、泣きそうな目で、私を見上げた。

 

『…………せんせいは、どっちのみかたなの?』

『だって、わるいの、ヒロじゃん』

 

 二人の目が溶けるように、涙が溢れていく。

 ………あぁ、私、怒ったことなかったわね。

 だって、親のいないこの子達に、どう接したら良いか、分からないもの。

 

『違うの、違うのよ二人とも。そういうんじゃなくて』

『もういい!せんせいもヒロもきらい‼︎』

『あっ、待って玉紀!』

 

 走り去る玉紀を追いかけようとして、止まってしまう。

 だって、博も珠莉も麗もいるのに。

 ここであの子を追いかけたら、三人まで見失いそうで。

 

 そうしたら、蜂蜜色の髪が、目の前に踊り出した。

 

『────たまきはわたしにまかせてよ!せんせい!』

 

 麗の背中を見ながら、私は、泣きそうになった。

 博と珠莉を、椅子に座らせる。何を言えばいいのだろう。この子達に、何を叱れば良いのだろう。

 本で読んだ知識をたどっても、答えなんて見えなくて。

 ……………でも、きっと、私の言葉で、伝えないとダメなんだ。

 

『─────博、よく聞いて』

 

 地面に膝をついて、椅子に座った博の手を取る。

 その、不思議な瞳を、真正面から見つめて。

 

『ねぇ、博。私、あなたにたくさん助けられているわ』

『……………うん』

『いつもありがとう。博』

『いつもありがとうございます。ヒロ』

『うん』

 

 珠莉は、自分も言ったほうがいいのかなって、そう判断したんだろう。

 それでいい。きっと、それでいいのよ。

 

『でもね、博。今日のは、ダメよ』

 

 叱り方は、これで良いのかしら。

 でも、何も分からなくても、向き合わなくちゃ、駄目なのよね。

 

『───あなたに助けられたこと、あなたの力で手に入れたこと、私たちはそのおかげで、こういう場所にこれている。誇っていいの。自慢していいの。だって、あなたのお陰なんだから。

 でも、さっき、あなたは、自慢したんじゃないでしょう?』

『………うん』

『ねぇ、博。きっとあなたには、とてつもない才能がある。それは、あなただけじゃない。珠莉にも、玉紀にも、麗にもある』

『わたしにもあるんですか?』

『えぇ、勿論よ』

 

 この子達は、きっと、凄い子だ。

 でも、みんなまだ、幼い子だ。

 

『でもね、博。あなたの才能は、ああいうところで、ああいう形で、使って欲しくないの。

 自分の為に使ったっていい。

 誰かの為に使ったっていい。

 でも、誰かを傷付ける道具にはして欲しくない』

 

 才能は、生まれ持ったものと、いつの間にか芽生えているもの。大まかにこの二つ。

 博のは、前者。

 前者でも後者でも、どちらにせよ。

 才能を、誰かを傷付ける為に利用したら、そんなの、勿体無い。

 

『…………ぼくのものなのに、つかいかたは、ぼくがきめちゃいけないの?』

『あなたが決めていいのよ。あなたが使いたいように使ったっていい。

 でも、博。

 …………あなたは、何で、あんなこと言ったのか。私から、言ったほうがいいかしら』

『…………たまきに、せんせいをとられたくなかったから』

 

 そんなところだろうと思っていたわ。

 でも、そう思ってもらえるぐらい、この子達の大切な人になれているのね。

 

『ねぇ、博。玉紀に嫌いって言われて、どう思ったのかしら』

『………なんか、かなしくなった』

 

 人に嫌われるのって悲しいことなの。

 どんなに優れた人間でも、そこは全く変わらないのよ。それが、大切にしたい人間なら、尚更。

 

『このまま、玉紀と嫌いあいたい?』 

『……………それは、いや』

『………そう、ですね。わたしも、ふたりがけんかしたままなのは、いやです』

 

 単純な理屈だけど、きっと、これで良い。

 嫌いになりたくないから。嫌になりたくないから一緒にいる。

 きっと、それだけで。

 

『ねぇ、博。一緒に、何に乗りたかったの?』

 

 博は、この遊園地で一番目立っている、観覧車を指差していた。

 

『………じゃあ、その、みんなでのりたいものを、まわっていきませんか?』

『そうね。珠莉の言うように、そうしましょう。最初は、観覧車からで』

『………でも、たまきは、ジェットコースターのりたいって』

『でも、チケットは博が当てたものだから、博の行きたいところからで良いのよ?』

『………ううん。ぼく、たまきによくないこといっちゃったから。しゃざいは、こうどうもまじえて、でしょ?』

 

 …………ありがとう。博。

 ありがとう。珠莉。

 

『よし、それじゃあ、まずは麗と合流するわよ』

『で、でも、ねえさんたちとは、れんらくもとれかいし』

 

 …………そう、だったわね。

 でも、麗なら、玉紀を連れて、迷子センターに行っているはず。

 でも、珠莉は。

 

『いえ、たぶん、れいさんたちは───』

 

 半信半疑で、迷子センターよりも先に、そこに行ってみると。

 玉紀をわしゃわしゃと撫で回す、麗がいた。

 

『あ!先生やっと来た‼︎』

『ね、ねえさん。なんで、ぼくがかんらんしゃのりたいってわかってたの?』

『ふっふーん。おねえちゃんをなめないで』

 

 胸を張る麗を見ていると、なんだか、とても誇らしくなる。

 とても、ありがたく思う。

 

 玉紀は、両手の指をいじりながら、私と博のところまで来て。

 俯いていた顔を上げると、その目には、大粒の涙があった。

 

『ご、ごめんなさい。せんせい。ごめんなさい。ひろ。わたし、きらい、とか、いっちゃって………』

 

 そんなの、気にしていないのに。

 私は、そっと、玉紀の頭を撫でた。

 

『良いのよ。私、気にしていないわ』

『ごめんなざい。ごべんなさぃ〜〜〜』

『もう。そんなに泣かないの』

 

 抱きしめて慰める。

 玉紀がこんなに泣くところを、私は初めて見たかもしれない。

 

 玉紀の親は、私の生徒だった。

 まだ高校生なのに、妊娠して、産んで。

 でも、将来を約束した男に捨てられて、子供を残して自殺した。

 あの子の両親は、放任主義という名のネグレクトで。あの子が妊娠出産するときも、金だけ渡して、何もしなくて。

 だから、あの子にいつも、相談されていたの。早く親元から離れたい。早く、一人になりたい。

 早く、自分の家族が欲しいって。

 子供ができたことを嬉しそうに報告してきたあの子を、叱ったことを覚えている。

 裏切られた、と思ったのか、その後、学校には来なくなって。

 そして、子供を残して自殺した。

 私に何か、出来ることが、他にもあったんじゃないかって、後悔に苛まれている時に知った。

 あの子の両親は、玉紀を捨てようとしていた。

 まだ、生まれたばかりのあの子を。

 児童養護施設『輝ける原石達の家』の始まりはあの子への償いだった。

 あの子を拒絶してしまった、私なりの贖罪として、玉紀を引き取って。

 

 でも、もう、贖罪のためなんかじゃない。

 この子達が、大切だから。

 

『ぼくもごめんね。たまき』

『ゔゔん。びろはわるぐないもん』

『ううん。ぼくもわるかったから』

 

 博は、玉紀の両目を拭っている。

 ハンカチでそっと拭いながら、優しく頭を撫でていて。

 

『ねぇ、たまき。ジェットコースターにのろうか』

『…………えっ‼︎ヒロがゆずった⁉︎』

『なんだよねえさん。そんなにへん?』

『うん。へん』

 

 でも、麗は、楽しそうに笑っていた。

 

『────でも、わたしのすきなへん‼︎』

 

 たくさん、遊び回った。

 玉紀の乗りたいジェットコースターでは、博と玉紀が歓声をあげる横で、麗がびっくりして腰を抜かしちゃった。珠莉は、どうして落ちるとき、体が浮くのか気になっていた。

 

 珠莉の行きたかったお化け屋敷では、博と玉紀は抱き合ってて、麗は私の袖を掴んでて。珠莉は、どこからお化けが出てくるのか気になってて。

 

 麗の行きたかったメリーゴーランドでは、博と玉紀が二人乗りしていた。馬車に座った私の膝の上に、珠莉は座ってて。麗は、とても穏やかな目で、博を見守っていた。

 

 そうして、最後に。夜の遊園地は、きっと綺麗だからって言って、博が1番最後に乗ろうって言った、観覧車に乗った。

 でも、頂点に登る頃には、博と玉紀と珠莉は、寝てしまった。

 私と麗は、三人を起こさないように、静かに、夜の遊園地を眺めていた。

 

『……………ねぇ。麗』

『なぁに、先生?』

『いつもありがとう』

 

 あなたは、博のお姉ちゃんなだけじゃない。

 みんなのお姉ちゃんだったから。いつもみんなをそっと助けて、私のことも、助けてくれていたから。

 

『えっへへ‼︎どういたしまして。

 わたしからも。先生。いつもありがとう‼︎』

『───えぇ、どういたしまして』

 

 観覧車が一周しても、博達は眠ったままだったから、私が、三人を背負って、駐車場まで歩いていた。

 

『先生、一人ぐらいもつよ?じゅりならわたしでもせおえるし!』

『大丈夫よ。麗。三人ぐらい、なんてことないわ』

 

 ……………腰が痛いわ。もう、歳ね。

 三人を車に乗せる。後部座席で、チャイルドシートに座らせる。シートベルトはしっかりと。

 助手席に座った麗は、名残惜しそうに遊園地を見ていた。

 

『楽しかったわね。麗』

『うん。楽しかった………』

 

 流石の麗も疲れたのね。

 眠ってしまいそうだった。

 そういえば、もう。

 

『麗もそろそろ小学生ね。どう?楽しみかしら?』

『楽しみだけど、でも』

 

 ───速く、中学生になりたいなぁ。

 

『あら、どうして?』

『だって、中学生になったら、バイトできるでしょ?新聞配達からはじめて、色々やろうかなって』

 

 いつの間にか、そんなことを考えていたのね。気持ちは嬉しいけれど、でも、少し複雑ね。

 

『もう、お金のことは気にしなくて良いのに』

『私が気にするの‼︎それに────』

 

 みんなが幸せなら、それで良いし。

 

 

 家に着く頃には、麗も疲れで眠っていて。

 私は、みんなを布団に横たわらせた。

 子供四人抱えるのは疲れるわね。歳は取りたくないわ。

 

 麗は、優しい。

 リビングに飾られた、白い折り紙の小鳥を見る。

 

『あの、れいさん。おりかた、よくわからなくて……』

『いいよいいよ‼︎いっしょにつくろっか‼︎』

 

 麗と珠莉の作った、思い出の小鳥。

 

 洗い終わったお皿を見る。

 

『ねぇねぇれいさん!わたしもりょうりしてみたい‼︎』

『お、いいね!先生!いっしょにパンケーキつくろうよ‼︎』

『えぇ。手伝うわ』

 

 最初は私が教えて、そして、今日の朝、麗と玉紀だけで作った、パンケーキ。

 流石に、火を使うのは危ないから、注意はしたのだけれど。

 でも、きっと、二人の大切な思い出で。

 

 そして、写真立てに入れられた、麗と博の両親を見る。

 

 金石先輩達は、高校の頃、生徒会でお世話になった先輩達だった。

 玉紀を引き取った頃に、先輩達も事故にあってしまって。

 先輩達のご両親は、早くに亡くなっていて、どちらも、一人っ子だったから。

 引き取り手は殆どいなかった。

 ちょうど、私も児童養護施設を設立した頃だったし、ちょうどいいから、二人も引き取った。

 

 …………でも、流石に、四人だと、色々足りないのね。

 

 夜のリビングで、帳簿を見ながら、考える。

 麗が小学校に入学するなら、色々と必要なものも増えるし。

 今よりもっと、ギリギリになる。

 

 なりふり構っては、いられないものね。

 

 連絡先から、ある人を辿る。

 私たちは、同じ高校で、同じ生徒会で、同じ先輩に恩があるから。

 多分、手を貸してくれるはず。

 

『なんだ?お前から電話してくるとは、珍しいな』

「最近議員さんになったあなたに、ちょっと助けて欲しいの。その、恥ずかしながら、率直にいうんだけど』

 

 お金、貸してくれないかしら。綾(・)小(・)路(・)く(・)ん(・)。

 

 

 あぁ、私は、なんて間違いを、犯したんだろう。





 次回から鬱展開。
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