殺せんせーの教え子たち   作:宇津木 沙坂

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決着の時間

 生徒会選挙の、最終段階。

 全校生徒への最終演説と、応援演説。

 

「………少し、緊張してきたわね」

「深呼吸ですよ。卜部先輩。何だったら、抱きついてみますか?」

 

 雪村あかりが、両手を広げてそんな冗談を言ったところ。

 凄く素直に、抱き着いた。

 

「わお」

「………ふふっ」

 

 雪村先生とは、かなり違うけれど。

 でも、安心感が、凄い。

 

「ふっふっふっ。お姉ちゃんの代わり、ちゃんと務まってます?」

「────全然違うわ。雪村さん」

 

 お姉さんの代わりに、雪村先生の代わりに、抱きついたんじゃない。

 あなたが、あなただから。

 

「─────だって、雪村先生は、もっと柔らかいもの」

「喧嘩売ってるなら買いますよ同類のくせに」

「私の体は女性らしい可愛らしさの象徴なの」

 

 一瞬だけ火花が散って、すぐに消えた。

 お互いに、笑い合う。

 二人はきっと、同じ人間を思っていた。

 

「さぁ、頑張りましょう。雪村さん」

「そうですね。頑張りましょう。先輩」

 

 生徒会長選挙には、あるルールがある。

 応援演説を担当するのは、他クラスの生徒でなければならない。

 これまでは、基本的に、同学年の別クラスに頼む形だったが。

 今回は、どのクラスも、別学年の別クラスである。

 

 壇上に、一人の一年生が上がる。視線が、自然と惹き寄せられる。

 それまで、細々とした会話が聴こえていたが、彼女が上がっただけで、全ては消えた。

 当然だ。彼女は、嘗て一世を風靡した天才子役。歩き方一つで、観衆の視線を奪うなど、容易いこと。

 元天才子役磨瀬榛名にして、暗殺者の一人。

 雪村あかりの、本領発揮である。

 

「卜部藤乃先輩の応援演説を務めます。一年Cクラスの雪村あかりです」

 

 声の貼り方、姿勢、視線。ありとあらゆる全てが、人を惹き寄せる。

 直接関わることで、多くの人を魅了するのが、一之瀬帆波の才能なら。

 不特定多数の多くの人を、直接関わらず魅了するのが、雪村あかりの才能である。

 

「卜部先輩の掲げる改革は、『より秩序だった試験を』。

 これは、嘗て先輩のクラスで起きた事件を、繰り返さないためのものでもあります」

 

 二年生にとって、こんなにありがたい公約はない。

 南雲の介入があったことは、知られていない。だが、問題行動を起こす生徒がいた、というのは、多くの二年生の認識だ。

 だからこそ、そこを抑えるこの改革を、二年生の多くは待ち望んでいる。

 南雲雅が休学した今、二年生の浮いた票のほとんどは、卜部藤乃に流れるだろう。

 だが、多くの生徒には、懸念がある。

 

「────一年近く、休んでいた卜部先輩に、生徒会長を務めさせて、本当に大丈夫なのか。多くの生徒が、そう思っていることでしょう」

 

 体育館が、一瞬どよめいた。

 それを、あちら側から出すとは、思えなかったから。

 

「確かに、卜部先輩は、心に傷を負って、一年近い療養期間を必要としました。

 そのような人に、この、改革期の生徒会長という大役が務まるのか、疑問に思う人もいるでしょう。

 ───絶対に、何があっても、もう大丈夫だ。…………なんて、言い切ることはできません」

 

 当たり前だ。

 だって、人には必ず限界がある。

 人の心は、絶対に壊れないほど、硬いものではない。

 壊れやすくて、砕けやすい。でも、だと、しても。

 

「私は、この人を信じます。

 心が砕ける程、痛みに敏感な人だから。

 誰かの痛みも、ちゃんと分かるって、そう思うから」

 

 今の卜部は、それが、ちゃんと分かるだろう。

 ちゃんと、弱さに向き合える、と。

 そう、信じてる。

 

「────それに、もし、また、この人の心が砕けそうなことがあったとしても。

 私たちが、支えます」

 

 強さが全て、結果が全て、勝利が全て、それが実力。

 それは、確かに正しくて。でも───。

 

「誰か一人が心が砕ける程、頑張らなきゃいけない、なんて。そんな生徒会じゃあ、改革なんて、為せません」

 

 そう、誰か一人が、死ぬほど頑張って、それで何とかなるのなら、国も社会も世界も全て、もっと楽に、変わっている。

 

「本当に、この学校を変えたいなら‼︎

 この学校を、より秩序だったものにしたいなら‼︎

 強くて弱い卜部藤乃先輩こそ!生徒会長に相応しい‼︎」

 

 強くて、でも、弱いから。

 だから、多くの人が、この人を支える為に、頑張ってきた。

 だから、雪村あかりは、この人こそ、生徒会長に相応しいと、そう考える。

 

「────どうか!卜部先輩に、清き一票を‼︎」

 

 二年Bクラスと、一年Cクラス、それから、二年Aクラスを中心に、大きな拍手が巻き起こる。

 二年Aクラスにとっても、他人事では、いられないから。

 南雲雅が、一人で頑張り続けて、たくさんの傷を負っていたことを、知ったからこそ。

 だからこそ、立ち上がった卜部は、きっと、南雲の、先達だから。

 

 

 

 次は、桃井緋音と、浅野学秀だ。

 

「うーむ。緊張してきたのう」

「先輩。口調、戻ってますよ」

「き、緊張してきましたね」

 

 応援演説に際して、流石にあの話し方は不味いのでは?と、一年Aクラス並びに二年Cクラス総出で矯正したが、うーむ、演説、保つか?

 

「安心して。浅野。後輩の頼みなんだし、ちゃんと、わたしも頑張るから‼︎」

「違和感がすごいですね」

「酷くない⁉︎」

 

 もう、一年近くあののじゃ口調に慣れてきた身としては、とても違和感が強い。

 だが。

 

「頼りにしてますよ。先輩」

「任せて‼︎()()()()‼︎」

 

 後輩に頼りにされたなら、先輩として、全力で挑まなければ。

 

「で、学秀くんは、どれくらい保つと思います?」

「二分保てば上々だ」

「えー、私、一分だと思うんだけど」

「仮にも先輩だろうお前たち」

 

 葛城の言う通り、仮にも先輩に対して、些か、その。

 

「いいんだよ。葛城くん」

「狐判先輩。しかし──」

「緋音ちゃんは、あれでいいの」

 

 そんな桃井緋音だから、狐判稔にとって、親友で、憧れなのだから。

 

 壇上に上がった桃井緋音に、二年Cクラスが声援をあげる。

 釣られて、新しく設立させた、桃井緋音ファンクラブ会員たちもまた、同じように。

 先程の、息を呑むほどの美を演出して、全校生徒を呑み込んだ雪村あかりとは違う。

 スターにしてヒロインにしてアイドル。

 それが、桃井緋音である。

 

「えー、こほん。

 浅野学秀くんの応援演説を務めます。二年Cクラスの桃井緋音です。

 浅野くんの掲げる公約は、『学生の本分を全うする』。ようは、特別試験を減らして、学力を、優先する、訳ですが」

 

 そこで、一旦止まる。

 有栖が用意した原稿を、このまま読み上げていくだけ。

 ……………で、良いのか?

 ─────いや、それは、ダメじゃな。

 

「賭けは私の勝ちね。一分保たなかったわ」

「ふふふ。ですが、それが、緋音先輩です」

 

 どん、と。

 壇上の講演台を、強く叩いた。

 一瞬、体育館が、静まり返る。

 

「────すまんな。やり直させてくれ」

 

 改めて、息を吸う。

 自分の言葉で、自分の心で、向き合わないと。

 それが、礼儀だ。

 

「────妾にとって、浅野学秀がどういう男かといえば、生意気な後輩じゃ。

 まぁ、テーブルゲーム部で生意気じゃない後輩など、佐倉ぐらいじゃがな」

 

 一年Bクラスで、幸村と長谷部は、笑っていた。

 

「言われてるよゆきむー?」

「お前もだろ」

 

 口元を隠して、佐倉もまた、楽しそうに笑っていた。

 

「兎にも角にも、浅野はのう。やれ人のことを厨二病だの、情緒小学生だの、それはまあ酷いことを言ってくるのじゃ」

 

 その口調だと当然じゃないかな。

 聞いてた生徒は全員そう思った。

 

「───じゃが、浅野は、真面目じゃ」

 

 そう。一年生は、全員知っている。

 

「浅野も、たくさん間違えてきたから、もう、間違えないし。

 間違えたやつも、ちゃんと支えることが出来る」

 

 堀北学も、卜部藤乃も、E組も、知っている。

 

「そりゃ、欠点が無いとは言わん。

 例えば、本人のスペックが高すぎて、いつの間にか周りを置いてけぼりにすることもある。

 本人がなまじ何でも出来るから、一人で色々抱え込んで、しかしまぁ、何とか出来てしまうのがタチが悪い」

 

 生徒会は、笑った。

 葛城も、笑った。

 知っている。

 

「まぁ、そんなの、どいつもこいつも持ってるものじゃ。

 みんなが知ってる堀北先輩なぞ、あそこまでお膳立てされて、ようやく橘先輩に告白できたんじゃぞ?

 ヘタレじゃヘタレ」

 

 堀北鈴音は、口元を隠して笑っていた。

 堀北学は、薄ら青筋を立てていた。

 橘茜は、気まずそうに目を逸らして。

 三年Aクラスは、楽しそうに笑っていた。

 

「じゃがそれでも、あの人は、三年間生徒会長を務めた。

 それは、あの人が正しいからか?強いからか?違うはずじゃ。

 あの人が、正しくあろうとする人じゃったから、多くの人が、あの人を選んだんじゃ」

 

 底抜けの善人では、決してない。

 それでも、正しくあろうと、頑張り続ける人だから。

 三年生は、それより上の先輩達は、そして、二年生は。

 堀北学を、選び続けていた。

 

「正しい人よりも、正しくあろうとする人の方が、生徒会長に相応しい。

 そして、この三人の中で、誰よりも、正しくあろうとしているのは、浅野じゃ」

 

 堀北鈴音は、寄り添う強さを持っている。

 卜部藤乃は、支えられる弱さを持っている。

 浅野学秀は、正しくあろうとする、強さを持っている。

 

「───この学校を、変えるなら。

 正しくあろうとする浅野こそが、生徒会長に相応しい」

 

 それこそが、あの一年で、浅野が身につけた強さなのだから。

 

「───どうか、浅野を信じてくれ」

 

 

 

 さて、鈴音の、応援演説を務めるのは。

 

「───まさか、僕に頼むとはな」

「ご不満ですか?」

「不満、というわけではないが」

 

 三年Dクラスのクラスリーダー、風間律。

 

「うーん。何で風間先輩選んだのか、よくわかんないんだよね」

「それ今言うか?」

「いやだって、風間先輩と堀北さん接点ないでしょ。おれ繋がりでやっと話せたぐらいだよ?

 それよか金石先輩とかの方が良くない?」

 

 まぁ、そうなんだが。

 金石先輩なら頼んだらやってくれるだろうし、三年生No.2の実力者だし、票も集められそうなんだが。

 ただ、鈴音が、風間先輩より相応しい人は居ないって、熱弁したんだよな。

 

「どうせ、僕が三年生で一番、退学者を出したからだろう?」

 

 三年Dクラスは四人。

 Cクラスは二人。

 Bクラスが一人。

 Aクラスは、無し。

 

 三年生で、一番退学者を出したのは、風間律だ。

 そんな風間先輩が、鈴音の方針に賛成するなら、それは、確かな説得力になるが。

 

「それもあります」

「おおぅ、言っちゃうんだ」

 

 桔梗も慄いていた。うん。オレも同じ気持ちだな。

 

「もう一度言っておくが、僕は、あいつらを退学させたことを後悔していないぞ」

「それで良いんです。先輩」

「………ふん。可愛げのない。

 兄と似ているようで、似ていないな。お前は」

 

 堀北先輩を超えたい鈴音にとって、最早、褒め言葉だろう。

 

「まぁ、頼まれた仕事は、ちゃんと、こなしてやるさ」

 

 風間先輩は、壇上に上がって行った。

 

「ねぇ、本当に、それだけなの?」

 

 桔梗の言う通り。本当に、それだけなのか?

 

「まぁ、色々理由はあるけれど。

 一番は、あの人なら」

 

 人を、動かせると思ったからよ。

 

 

「さて、堀北鈴音の応援演説を務める、三年Dクラスの風間律だ。

 堀北鈴音の公約は、『やり直す機会を平等に』。

 まぁ、つまり、退学制度を実質的に廃止して、やり直す機会を作る、という改革なわけだが」

 

 生徒の様子を見る。熱心に耳を傾けてはいるが、あの二人ほどの集中ではないな。

 まぁ、うん。僕だとそうなるよな。

 ふむ。この流れだと。

 寧ろ、ぶち壊した方がいいか?

 

「正直に言うが、僕はこの改革に反対だ」

 

 さて、ここからは、アドリブだな。

 

 

「裏切ったよ‼︎ねぇ鈴音!本当に良いの⁉︎あの人堂々と裏切ったよ⁉︎」

 

 うーむ。ぶっちゃけ桔梗に全面的に同意だな。

 いや、うん。堂々と裏切るってのが、その、かなり矛盾しているが。

 

「良いのよ。さぁ、ここからは、ギャンブルよ」

 

 鈴音は、楽しそうに笑っていた。

 

 

 まぁ、この学校は、実力主義だからな。

 実力不足で落ちるやつは、仕方ない。

 それよりも救いがないのは。

 

「───僕はこの三年間で、僕に従わないどころか、僕を裏切ろうとする奴を、四人は退学にして来た。

 まぁ、当たり前のリスクヘッジだ。

 一度裏切ったやつは、救ったところでまた裏切るだろう。

 他の生徒にも、裏切りが波及してしまうかもしれん。安全策を取るなら、退学がベターだ。

 そもそも裏切者を出さないのが、ベストだがな」

 

 さて、そろそろ、話題を変えるか。

 全く、酷いスパルタだな。

 その辺りも、お前の兄にそっくりだ。堀北鈴音。

 

「………だからこそ、この改革が、為されたのなら」

 

 より、クラス間の団結が、必須となる。

 

 

「………なるほど。この政策の危険性も、知らせるつもりか?」

「えぇ。裏切者を退学させる、と言う形で、クラスを纏めて来た、この人なら。

 この危険性を、無視できないわ」

「でも、公約のマイナスまで話すのは、普通に考えて悪手じゃない?」

 

 まぁ、選挙で選ばれることだけを考えるなら、普通にマイナスなんだが。

 ……………だが、そうか。

 

「───この政策は、どの人が会長になっても、形を変えて、実施されるわ。多くの退学者を出した二年生は、特にそれを求めてる。

 だから、予め、みんなは知っておかなくちゃいけないの」

 

 退学制度の持つ、確かな利点も。

 

 

「裏切者を排除出来ない。なら、どうする?

 裏切者を他のクラスに送り付けるか?わざわざ二千万ポイントも使って?

 それとも、裏切者を徹底的に弾圧して、叛逆の意思を削ぐか?そんなことをしたら、『元一年Aクラス女子脅迫事件』の再来も、決してあり得ない話じゃない。

 なら、どのクラスも、裏切者が出ないようにするしかない」

 

 裏切者が出ないクラス運営。

 それは、即ち。

 

「つまり、君たちは、Aクラスで卒業出来る可能性を、常に持ち続けなければならない」

 

 三年生は、もう卒業が目の前だ。

 今更裏切って、全部無駄にするような奴がいるようなクラスでは、三年Aクラスと戦うこともできないから、除外できる。

 だが、この後の二年生、一年生は、違う。

 彼らは、常に、最終的に勝てるかもしれない状況を、作らなければならない。

 そうでなければ、裏切者が、現れるから。

 退学という手段で、排除出来ない、裏切者が。

 

「その上で、裏切るよりは、一緒に戦った方が勝ち目があると、思わせ続けられるように。

 クラスのリーダーは、常に他のクラスメイトに寄り添い続けなければならない。

 暴力で持って、クラスメイトを従えるという手もある。それは、確かに効率的で合理的で効果的だ。

 ────だが、その手段は、その生徒が、圧倒的に最強でなければならない」

 

 暴力で従うような生徒は、より強い方に容易く鞍替えする。

 だから、暴力以外の手段で味方にあり続けてもらわなければならない。

 

「真に圧倒的に最強であるなら、暴力など必要ない。

 即ち、暴力でもって従えることしか出来ないものは、必然的に、排除出来ない裏切者を、数多抱えることとなる。

 それだけではない。

 競争に疲れ、もう辞めたいと、戦いたくないという生徒が出たとしよう。

 それでも、その生徒を退学にすることはできない。

 能力に劣り、足を引っ張る生徒がいたとしよう。

 それでも、その生徒を退学にすることはできない。

 ────故に、この公約が為されたのち、諸君らに残る選択肢は、ただ一つ」

 

 そう、堀北鈴音の作る学校は。

 どこまでも、平等でなければならない。

 

「クラスメイトと隣り合って歩け。

 クラスメイトの声を聞け。

 クラスメイトに手を差し伸べろ。

 見下すな。見上げるな。崇拝するな。盲信するな。されど信じろ。そして対話しろ。

 それこそが、堀北鈴音の掲げる、改革だ」

 

 多くの生徒は息を呑んだ。

 多くの教師も、息を呑んだ。

 

「僕は、諸君らに、これが出来るとは思っていない。

 だから、堀北鈴音の政策は、反対だ」

 

 人を見下さないこと。

 人を見上げないこと。

 人を崇拝しないこと。

 人を盲信しないこと。

 されど人を信じること。

 そして、人と対話すること。

 

 風間律は、凡百の生徒にこれが出来るとは思っていない。

 何せ、堀北学は出来なかった。

 卜部藤乃も出来なかった。

 南雲雅も、二年生の実力者も誰も彼も。

 赤羽業も、龍園翔も。

 

「だが、もし、諸君らが、この改革を選び、乗り越えられたなら。

 それは、諸君らが、真の実力者である証明だ」

 

 即ち。

 堀北鈴音に、投票するということは。

 

「───勝ちたいのなら、覚悟を決めろ。諸君らは、真の実力者となる以外に、選択肢はない」

 

 楽な道など、許されないということだ。

 人と話すのは疲れるだろう。

 特に、愚者と話すときは、時間の無駄だと思ってしまうだろう。

 だが、それを、無駄と切り捨てることはできない。

 それを、して、仕舞えば。

 敗北の可能性が、高まるのだから。

 

「反対でこそあるが、僕は覚悟など、とっくのとうに決めている。

 だから、僕は、堀北鈴音に投票する。

 ────もし、覚悟を、決めたのなら。

 堀北鈴音に、投票すると良い」

 

 

 

 そして、立候補者の、最終演説。

 

「私は、人の悪意を、見せつけられました。

 そして、その悪意は、私自身にも、存在し得るものです。

 だからこそ、少しでも、悪意に傷付けられる生徒が出ないように。

 秩序を、確かにこの学校にもたらせるように。

 私は、『秩序ある実力主義』を、成し遂げます‼︎」

 

「私は、中学時代、たくさん間違えました。

 許されないことをして来ました。取り返しがつかないことにならなかったのは、相手が強かったからです。

 だからこそ、私は、正しくあろうとします。

 私にとって、正しさとは、合理。

 合理が、この学校の、正道となるように。

 私は、『合理的な実力主義』を、成し遂げます!」

 

「私は、人の可能性を信じています。

 変わらない人間なんて居ません。成長できない人間も居ません。

 しかし、もう手遅れとなってしまうことも、確かにある。

 だからこそ、手遅れになってしまう前に、少しでも、人が成長できるように。

 人は、決して平等ではありません。

 それでも、機会(チャンス)は、平等に与えられるべきです。

 私は、『平等な実力主義』を、成し遂げます!」

 

 さぁ、投票、開始だ。

 

 多くの生徒が、投票用紙に、生徒会長に相応しいと思った生徒の名を、書いていく。

 選挙管理委員会が、それを開票し、集計し。

 

 そして。

 

「───結果を発表します。

 卜部藤乃、204票。

 浅野学秀、206票。

 堀北鈴音、206票。

 浅野学秀と、堀北鈴音は、同票なので、決選投票と」

「悪い。追加で一票、良いか?」

 

 体育館の入り口に、休学中の南雲雅が、いた。

 

「………南雲くん」

「………南雲」

 

 卜部藤乃と、桐山生叶は、その男を、見て。

 全校生徒の視線を集めながら、平然と、投票用紙を一枚取る。

 

 そうして、サラサラ、と一人の生徒の名前を書いた。

 

「────なぁ、一つ、聞いていいか?」

 

 投票箱に入れる前に、南雲雅は、壇上に座る生徒会長候補の二人に、視線を向けた。

 

「───構いませんよ」

「───右に同じ、です」

 

 なぁ、お前らは、自分は幸運だと、そう思うか?

 

「………えぇ。僕は、最高に、運が良いです」

「私も、きっと、運が良いです」

 

「「ですが」」

 

 それだけでは、絶対に、ありません。

 

 

 三年生は、運が良かった。

 二年生は、運が悪かった。

 一年生は、運が良かった。

 

 それだけで、全てを片付けるには、南雲も、卜部も、誰も彼も。

 きっと、納得なんて、していなくて。

 

 だから、こそ。

 

「───オレも、覚悟、決めたわ」

 

 変わらないと。

 いや、変わりたい。

 だから。

 

 投票用紙を、箱に入れる。

 

 最後の、一票は。

 

 堀北鈴音。

 

「以上を持ちまして、生徒会長選挙を、終了します」

 

 生徒たちが、体育館を去り。

 生徒会長となった鈴音と、浅野もまた、体育館を去り。

 オレも、体育館を、出た。

  

 体育館には、二人の生徒が、残っていた。

 南雲は、壇上の卜部を、見上げる。

 卜部もまた、真正面から、南雲を見る。

 

「…………今度こそ」

「…………今度こそ」

 

 お前に。

 あなたに。

 

「「勝つ」」

 

 長い長い遠回りの果てに。

 二人はついに、宿敵(ライバル)になった。

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