魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

1 / 3
Magical Girl Raising Project “ReBirth”:Beginning
第00話


「ダメね」

 無機質な壁、灰白色の空間。

 ピッ、ピッ、と鳴る電子音は、医療用の計測機器のそれを思わせる。だが、それに共通するイメージはあるものの、ここは明らかに病院ではない。

 もっと、より冒涜的ななにかの雰囲気が漂っている。

「自力で励起にすら至れない」

「大掛かりな事になる前に、目標が達成できればと思ったのだけど」

 そんな言葉とともに、ため息が漏れる。

「部門長」

「計画の準備状況はどうなりましたか?」

 苛立った様子はまったくない、棘もない、事務的でもない、どこか優しさすら感じさせる声と口調が、しかし、短く必要最低限の問いかけをする。

「あとは決定が下されれば、いつでも」

「ふむ。 ……オスク師の意見は」

「特に変更の意向はありません」

「解りました」

 そっと、視線を遠くに逸らす。

「憎しみは連鎖する。あなた方も、私の復讐の糧になりなさい」

 PCのものらしきディスプレイでは、人物の情報が(しる)されたファイルの内容を表示しているウィンドウが4つ、開いている。

 最前面に表示されているウィンドウでは、本来、2枚の顔写真が並んで配置される書式の、その片方だけに、彩度の高くない金髪の顔が貼り付けられている。

 そのもう一方には、 ────

 

 “LOST”

 

 

 名深(なぶか)市。

 名深市立城南(じょうなん)中学校。

 卒業式 ──────── の、翌日。

 校長室。

「卒業証書。岸辺(きしべ)颯太(そうた)殿」

 校長が読み上げる。

「右の者は中学校の全課程を修了するに足ると認め、之をここに証する。名深市立城南中学校々長、矢上(やがみ)(はじめ)

 それを受け取る人物はしかし、名前のイメージに反して、明らかに女性の姿をしている。

 あまつさえ、髪色や顔立ちは明らかにネィティブジャパニーズ3民族の特徴ではない。

 その両手が卒業証書を受け取った時、ぱちぱちと、その場に居合わせた、教頭と両親が拍手をする。

「どうも、愚息が大変ご苦労をおかけしました」

 父親が、颯太、の隣から1歩出て、校長と、その隣に控えていた教頭に向かって、そう言って頭を深く下げた。

「いえ、失礼かもしれませんが、我々もこれで一安心と言ったところですので」

 校長が、幾分申し訳無さそうに眉を動かしながら、そう返した。

「岸辺君」

 父親が校長とやりとりを続けている一方で、教頭が颯太に話しかけてくる。

「今後の進路は決めているのですか?」

「はい、えっと」

 颯太は、少し気まずそうに苦笑する。

「一応、高校には行っておきたいんですが」

「それがいいとは思いますが、そうなると浪人……ということに?」

「はい」

 教頭の言葉に、まず颯太が答える。

「去年、一昨年(おととし)はバタバタしてて……願書の提出ができませんでしたから」

 母親が颯太の隣に立ち、そう言った。

「そうですか。1年の遅れは確かにハンデにはなりますが、それも本人の意志と努力次第です。どうか、頑張ってください」

「はい」

 

 かつて、岸辺颯太は普通の少年だった。

 敢えて特筆するとすれば、魔法少女が好きだったこと。

 それが2年前、その運命に転機が訪れた。

 『魔法少女育成計画』。

 ソーシャルゲームを通じて勧誘され、本物の魔法少女、ラ・ピュセルになった。

 ただ、思い描いていた、憧れた世界はすぐに破綻する。

 名深市の16人の魔法少女に突然に告げられたバトルロイヤル、脱落は死を意味するデスゲーム。

 そんな中、ラ・ピュセルは、自身が指導役でもあり、現実社会における幼馴染でもある魔法少女、スノーホワイトを守って立ち回り、戦ったが ────

 その戦いぶりが、加害性の高い戦闘狂であり、実際の黒幕の1人だった、森の音楽家クラムベリーに目をつけられた。

 絶望的に圧倒され、身体のあちこちを破壊され、死の直前の状態で、道路に捨てられた。

 そして、荷物を満載したガソリンエンジンの2t積みトラックに撥ねられ ────

 ──────── なんの奇跡か因果か、そこで尚、一命を取り留めた。

 ただし、 ──── 岸辺颯太、生来の姿の喪失と引き換えに。

 以降、かつて彼と呼ばれた彼女は、魔法少女ラ・ピュセルの姿で生きていくことになった。

 

 昇降口から、両親とともに校舎を出ようとする。

「どうだ、この後どこか食事でも行くか?」

 父親がそう提案するが、

「うん……」

 と、颯太ははっきりしない返事をする。

 ガラス戸の並んだ出入口から出ると、その傍らに、黒い、平成初期の軽自動車が停まっていた。

 その運転席側のドアの傍らに、1人の女性が立っている。女性としてはかなり長身で、(つや)やかな髪を長く伸ばしている。

 見た目は誰もが振り返りそうな美人だが、左眼に深い傷がある。ただそれでも、その見目麗しさは褪せていない。

「えーっと……」

 颯太が、両親を振り返って、気まずそうな声を出す。

 すると、母親が隣の父親を軽く肘でつついてから、

「行ってらっしゃいな」

 と、笑顔でそう言った。

「ま、まぁ、野暮をしても仕方がないというものか」

 父親は微妙な表情で言う。

「うん!」

 颯太はそう言ってから、女性の方へ小走りに駆け出した。

華乃(かの)ー」

 

 本来なら1人だけが生き残るデスゲームと化した、クラムベリーとそのマスコット・電脳妖精ファヴの魔法少女選抜試験を、紆余曲折あって4人が生還した。

 ラ・ピュセル、岸辺颯太。

 リップル、細波(さざなみ)華乃。

 スノーホワイト、姫河(ひめかわ)小雪(こゆき)

 トップスピード、室田(むろた)つばめ。

 黒幕のクラムベリーとファヴが死んだ後、魔法少女の本山、魔法の国は、この2人が野放しになっていた不始末を詫びるため、4人が正式な魔法少女になることを認めた。

 成績上位だったラ・ピュセルとトップスピードには、活動継続に必要な、認識阻害の効果を持つ護符が贈られた。

 また、後に僅かではあるが金銭的な補填も約束された。

 

 助手席に颯太が、運転席に女性が乗り込む。

 キーのささったイグニッションスイッチを “ON” に、さらに “START” へ。軽いセルモーターの音とともに、F6A型エンジンが始動する。

 CP22S型 スズキ セルボ・モード。セルボとして4代目。

 ミッションオイル漏れで不動になった5ドアのX 4WDを、事故廃車のSRターボ 4WDを部品供出車(ドナー)として再生、その時に過給器をターボから機械式スーパーチャージャーに換装した、というシロモノ。ついでにボンネットフードもエアインテーク付きになっている。

 小さな地元車検屋のオモチャになっていたものを、運転席の女性、細波華乃が自動車運転免許を取得した時に、トップスピードこと室田つばめが、自身の高校時代の伝手から譲り受けてきたものだ。

 運転席の女性、ラ・ピュセルの “共犯者”、リップルこと細波華乃は、マニュアルトランスミッションのギアを1速に入れ、発進させる。

「はー、とりあえずこれで一段落かな」

 助手席の颯太は、頭の後ろに手を回しながら、緊張が緩んだ表情でそう言った。

「お疲れ様」

 華乃は前方を向いたまま、運転しながら労うような言葉を言う。

 まだ若葉マークを着けているとは思えないほど、MT車をスムースに走らせる。シフトアップの度に、インパネ右側の空調吹出口上に追加された、48φの、旧いkg/cm²表記のブースト計が負圧と正圧を行ったり来たりしている。

 片側2車線の県道を、生活圏が名深市と一体化している隣接自治体、亞ヶ浦(あがうら)村との境に向かって走る。

 その境のすぐ向こう側に、大型ショッピングモールが見えた。

 華乃の運転するセルボは、その広大な駐車場に入っていく。

 

 ショッピングモール内のアパレル店。

「あっ」

 華乃と連れ立って歩きながら、店内を物色していた颯太が、それに気づいて手をのばす。

 吊るし売りのサマーカーディガンの中から、ピンク色のそれを手にとって、一度引き出す。

「この色いいな」

 そう言いながら、サマーカーディガンを自分の身体の前に出して、

「ボクに似合うと思うか?」

 と、華乃に見せるようにしてそう言った。

「似合う」

 華乃は短く答える。素っ気ない言葉に聞こえるが、決して適当に言っているわけではない。今の颯太はそのことをよく知っている。

 ただ、 ────

「じゃあ買っちゃおうか。値段も高くないし」

 そう言う颯太の視線が自分から逸れたところで、華乃は、妙に疲れたようなため息を吐き出した。

 

 ショッピングモール内の廉価ファミリーレストラン。

「それで」

 チーズにミートソースの乗ったドリアを食べつつ、その合間に華乃が切り出した。

「あの話、どうなった?」

 声をかけられた颯太は、チーズのかかったハンバーグを食べる手を止める。

 華乃は自身が面倒見の良い方だとは()()()()()()思っていない。だが、目の前の、異性と同性が同居している年下の恋人は、どうにも危なっかしく感じる時がある。

「うん、とりあえず引き受けるつもりだけど」

 颯太はそう答えた。

「そう」

「華乃は、リップルはそれでいい?」

 短く言葉を返した華乃に、颯太は訊き返す。

「私はラ・ピュセルがやろうとしていることが、悪いことじゃないのなら支える。行き過ぎたら止める」

「そっか」

 華乃の答えを聞いて、颯太は、返事しつつ妙なくすぐったさを感じた。

「それに」

 華乃が続けて言う。颯太は華乃に視線を向け直した。

「私も、この話が他の変なやつに持っていかれるぐらいだったら、ラ・ピュセルがやった方が安心できる」

「まぁ、ボクもそう考えてた」

 華乃の言葉に、颯太は同意の言葉を返して、鼻から軽く息を吐いた。

「ただ、本当にボクがやっていいのかなーとか、魔法の国から見たら新人もいいところだし」

 颯太がそう言うと、華乃はジト目の視線を颯太に向ける。

「颯太らしくないっていうか、ラ・ピュセルらしくない」

「そう?」

「おほん」

 華乃の言葉に颯太が訊き返すような言葉を出すと、華乃は声色を整えるように咳払いをしてから、

「『身に余る栄誉、このラ・ピュセル、謹んでお請けしよう』」

 と、低めの声で言った。

「やめて!」

 颯太は悶えるような声を出した。

「最近小雪にそれでよく弄られるんだ。華乃までやらないでくれよ」

 華乃がやったのは、クラムベリーとの初戦以前のラ・ピュセルの口調のエミュレートだ。あの頃は魔法少女になれた昂揚と陶酔感から、フィクションにありそうな騎士を()()()()()()していた。特に、幼馴染で恋心を抱いていた、姫河小雪、スノーホワイトが魔法少女になって、その指導役になった頃が一番酷かった。

 その陶酔がそっくり()けて、魔法少女に現実が合流してきた今、颯太自身、その頃の自分の言動を思い出すと、恥ずかしさで顔から火が出そうになる。

「でも、あ、話戻すけどさ」

「うん」

「なんか、一部ですっごく過大評価されてる気がするんだ」

 そう言って、颯太は、苦いと言うか、疲れたと言うか、そんな表情になる。

「『()()クラムベリーと2度タイマンやって生きてる上、2度目は終始ほぼ優勢』?」

「そうそれ」

 華乃が言うと、颯太は脱力した様子のまま、フォークで華乃を指す。

「1度目はクラムベリーが直接トドメ刺さなかったのと偶然で生き残ったようなものだし、2度目は実力で勝ったって言うにはなぁ……」

 (トラップ)と障害物で、相手の行動を自分に有利に誘導した。それでも勝ちきれなくて、逃している。

「でも、それでパムの目に留まったでしょ」

「それもさぁ、余計に噂に尾ひれ背びれがつく原因のような気がするんだ」

 ちょうどほぼ1年前。華乃が高校2年生から3年生になる春休み、ラ・ピュセルは魔王パム、なる魔法少女に呼び出された。呼び出されて、リップルを伴って行ったらちょ()()()酷い目にあった。そんな話だ。

「別に魔王塾に正式に所属しているわけでもないしさぁ」

 付け合せのハッシュポテトをフォークで何度も突き刺しながら、困惑したように言った。

「けど、それでも引き受けるんでしょ?」

「うん」

 華乃が改めて問いかけ直すと、颯太は、そう返事しつつ、姿勢を直した。

「華乃もさっき言ってたけど、変なやつにやられても困るかなって」

「それでいい」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 うーん……うーん……やっと上がった……ドキュメンテーション……こんなもん作業が終わってから作るもんじゃないんですよ!! 眠い……眠い……とりあえずここでいいから寝ます……寝る……クラムベリーの子ども達……? 今はどうでもいいでしょう、そんなの……とにかく寝させてください。起きたら帰ってまた寝させてください。 …………とにかく寝るのです…………

 

 ガチャッ

 

 …………誰か、入って……何か、持ち出していますね……外付けストレージ……あれに入っていたのは、何だったでしょうか……ああ、今はどうでもいいです。とにかく寝るのです。……チェアー……椅子……座るのです……いや、もう寝るのです……寝る……────

 

 ブツッ

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 名深市。岸辺颯太の自宅。

「よし」

 他所行きにも部屋着にもなりそうな私服の姿で、自室の床に立ち、左腕を上に伸ばした姿勢で目を閉じる。

 その全身が光を帯びる。

 それまで着ていた衣服が粒子状の光になって消えていく。少女、と言うには些か艶めかしすぎるボディラインが露わになる。

 尾てい骨の延長上に、金属質にも見える節のある尻尾が出現する。

 白いフリルのドレスが上半身から腰下にかけてを覆う。黒と金の防具が現れ、ドレスの上から装着されていく。

 足元に、膝甲までが一体になった、金色の飾り付きの、少しヒールの高いブーツが現れる。

 伸ばしている左手に、刃渡り1m、刃幅6cmぐらいの剣が、白に金の装飾の施された鞘に包まれた状態で出現する。その鞘を、左手で掴んだ。

「さて、今日も魔法少女、やってきますか」

 光の収まった自室の、その窓を開け、夜空に高く跳び上がった。

 

 





前ストーリーからの継続についての整理】
 時系列は第12話第12話幕間2年後
 - 後日談 その4とは流れが異なっています。
 - 華乃/リップルが免許を取り、つばめ/トップスピードがセルボ・モードを拾ってきたあとになっています。

具体的な感想をいただけると、執筆活動が捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。