魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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第08話

 あれは ────

 

『音楽家を殺さなければ、私に未来はない!!』

 

 あれは、あの日のボクの顔だ。

 ボクの、瞳の色だった。

 

 

 

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「えー……っと……」

 颯太は、緊張したような、微妙に気まずそうな表情で、ほぼ正座の姿勢で座っている。

 そこへ、帰宅後すでに部屋着に着替えた華乃が、横から、ひしっ、と抱きついている。

「お前が悪い」

 三つ編みの髪を垂らした、華乃ほどではないがネィティブジャパニーズとしてはそこそこ長身の女性、トップスピードこと室田つばめが、まだ少し憤っているかのような様子で、そう言った。

「はい」

 颯太は、勢いのない声で返した。

 華乃がぴったりとくっついていて、困惑しているかのような颯太だが、きっちり片腕を華乃の背中に回していたりする。

「なんか流石に私でも口ン中甘ったるくなってくるっす」

「諦めろ」

 ラピス・ラズリーヌII(2)が、苦笑しつつ、口元を押さえるかのように下顎に手を当てながら言うと、つばめが斬って捨てるかのようにそう言った。

「…………で」

 ラズリーヌIIは、視線を、つばめに対して自分の反対側に向ける。

「なんでスノーさんは不機嫌そうにしてるんすか?」

「してない」

 ラズリーヌIIが問いかけるものの、小雪はそう短く答えるだけだった。

「まぁ、その話はいいだろ」

 つばめが言った。

「っていうか、お前さんは変身解かないのか?」

 今度は、つばめがラズリーヌIIに問いかける。

「これも鍛錬のひとつっす。睡眠時も含めて、できる限り変身を維持してるっす。身体(しんたい)の制御能力と精神の研鑽に繋がるっす」

「そういうものなのか」

 つばめが、感心したような、どこか意外そうな表情と口調で、訊き返すように言った。

「ラ・ピュセルだってそうしてるようなもんっすよね?」

 ラズリーヌIIは、そう言いながら颯太に視線を向ける。

「あ、ボクの場合はちょっと特殊で……────」

「颯太」

 颯太が、慌てた様子で手を振りながら言いかけると、抱きついていた華乃がその腕を緩めて、その颯太の目を見つつ、短く声を出した。

「大丈夫」

 颯太は、まず華乃にそう言ってから、視線をラズリーヌIIに戻す。

「戻れないんだよね」

「え?」

「生来の身体の情報が破壊されてるんだよ」

「マジっすか」

 颯太の説明に、ラズリーヌIIは、軽く驚いた様子を見せた。

「どうしてそんなことになってるっすか?」

 ラズリーヌIIが訊ねる。

「えっと、交通事故で……────」

「それはおかしくないっすか?」

 颯太がそう説明するものの、ラズリーヌIIはさらに怪訝そうな表情をする。

「魔法少女はクルマに撥ねられた程度でそんなヘンなダメージ入るようなもんじゃないっす。生身の身体だとしても、そんな妙ちきりんなことになるもんっすか?」

「まぁ…………」

 言われて、颯太は、苦い表情をやや暗いものにする。

「クラムベリーにボロボロにされて、死にかけてる状態だったからね……本当になんかの()()()()()()だったんだよね、再変身がかかって、その真っ最中に、トラックに激突されたんだ」

 それを聞いて、華乃、小雪、つばめは、どこか痛ましそうな表情をした。

 ──── が、ラズリーヌIIは、目と口を開いて、唖然としている。

「……ラズリーヌ?」

 颯太が問うような言葉をかける。

「…………い、今、()()()()()()って言ったっすか?」

「え? だから、クラムベリー」

「“森の音楽家” の?」

「それ以外にいんの?」

「よく生きてるっすね?」

「ああ……うん、なに考えてそうしたのか解らないんだけど、直接トドメを刺さなかったんだよ。それで助かったところはある」

「その後逆に呼び出してボッコボコにしたぽん」

「ネク!」

 卓袱台に置かれたマスター仕様マジカルフォンから、ネクが割り込んできて、颯太はそれを嗜めるように声を上げた。

「ボッコボコって……」

「したぽん」

 唖然とした様子のラズリーヌIIに、ネクがさらに言う。

「いや、廃材とか機材とか放置されてる廃工場に呼び出して、そこに罠とか音楽で挑発とかして、あいつの行動、誘導してなんとかしたの。それでも最後は逃げられてるし」

 颯太がラズリーヌIIにそう説明する。

「ボコボコにしたのは間違いないぽん」

「そこまでやって勝ちきってないのが事実だろ」

 ネクが、自分のことかのように得意気に言うと、颯太はそう嗜める。

「ちょ、ちょっと待つっす」

 ラズリーヌIIが慌てた声で割って入る。

「つまり、クラムベリーと2回タイマンやったっすか?」

「そういうことになるか」

「よく生きてるっすね?」

「だから、ほとんど運に近いんだって」

「候補生相手に逃げるようなやつじゃないっすよ!! あいつが逃げ出すなんて魔王パムとか袋井魔梨華とかそのあたりの話っす! うちの師匠でもどうだか」

「でも、ウィンタープリズンにいい勝負されてたっていうし、最後はスイムスイム組に殺されたんだぞ」

「え…………」

 ラズリーヌIIが絶句する。

「ボクは、スイムスイムがあいつやったって知ったときに、思わず安堵してた情けないやつなんだよ」

 颯太は苦笑しながら言った。

「そ、そのウィンタープリズンってのは」

 どうにか絞り出したような声で、ラズリーヌIIが訊き返す。

「スイムスイム組に殺された」

「クラムベリーも?」

「そう」

「そのスイムスイムってのは」

「リップルが倒した」

 颯太が言うと、華乃がどこか誇らしげに胸を反らした。

「だからあいつ、全体から見たら大したことないんだよ」

「性格はともかく戦闘力なら魔王塾出てる上澄みっすよ!」

「えー……? せいぜい、4クール編成で、1クール目のボス格キャラだけど、2クール目からはギャグ担当になっていくあたりだと思ってたけど」

「そうちゃん」

 アニメの例えが飛び出した颯太の言葉に、小雪が嗜める声を出した。

「いったいどうなってるんすか? こ、ここでいったいなにがあったんすか!?」

 ラズリーヌIIはただただ唖然とするばかりだった。

「で……さ」

 僅かに言葉が途絶えた後、颯太が、トーンを落とした声で会話を再開する。

「そのボクの経験もあってさ、正直、アカネって止められるか自信がない……と言うより、止まらない、寄りに確信しかけてるんだ」

「それは……どういう?」

 つばめが訊き返す。

「ボクが……クラムベリー(音楽家)の後継者だ、って名乗ったボクに対する視線とか態度とか、あれは多分、クラムベリーにボクが向けてたそれそのものだ……」

「ラ・ピュセルは、クラムベリーを殺したいと言っていた」

 颯太の言葉に、華乃が付け加える。

「殺したい……っすか。それは、殺されかけて、元の姿に戻れなくなったからっすか?」

 ラズリーヌIIが訊き返す。

「半分違う」

 華乃が代弁して即答する。

「半分?」

 ラズリーヌIIが訊き返すと、颯太が低い声で言い始める。

「…… “ラ・ピュセル” は誇りだ。喜びだ。ボクにだけ与えられた福音だ! 岸辺颯太が作り出したもので、岸辺颯太そのものだ!」

「ラ・ピュセル……」

「身体が戻れないなんてどうでもいい。でも、その “ラ・ピュセル” を壊しかけたのは許せない! だから、あいつを殺したかったんだよ! ボクの手で!!」

「…………」

 今尚燻る激情を露わにする颯太に、周囲は言葉を途切れさせる。

「颯太」

「ごめん、ちょっと興奮した」

 華乃に声をかけられ、颯太はそう言ってから、息を吸い直して整える。

「だから、結果としてどうなったのか、って訊かれると勝ったとは言えないけど、────

 

『次は……殺してやる……』

 

 ──────── あのときあいつにあの顔させるまで追い込んだって言うのは、今のボクが前を向いていられるのに必要だったのも事実だよ」

「……復讐は何も生まない、なんて綺麗事言うやつがいるが、ありゃウソだ。復讐はヒトの原動力になるし、復讐を遂げなきゃ前に進めないなんてのも珍しい話じゃねぇ」

 颯太の説明に、つばめが付け加えるようにして言う。

「もちろん、復讐に狂って破滅するやつだっている。だから無制限に肯定するわけでもねぇ。颯太の場合は線引きできるところまでやったし、今は……────」

 つばめが、そこまで言って視線を移すと、

「颯太が暴走したら私が止める」

 と、華乃がそう言った。

「それに、ボクは運が良かった。ここまで憎んでも、取り返しのつかないことがなかったから」

「取り返しがつかない……」

 颯太の言葉に、ラズリーヌIIが訊き返す。

「本来、死んだらおしまいだろ。ボクの場合は違った。 “岸辺颯太” の後に “ラ・ピュセル” が続いていた。他の人は失って、取り返しがつかなくなって、その時初めて憎しみで戦うんだ」

「…………憎しみに囚われるのは、よくないとは思うっすけど……」

 ラズリーヌIIはそう言うものの、完全には否定しない、できなかった。

「そしてその後で気付くんだよ。『守るためには、勝たなきゃ意味がない』ってね」

「…………」

「アカネは、復讐の先にしか未来がないんだ。だから、誰が言っても、止まらないんだよ」

「…………」

「でも、クラムベリーは……」

 視線を逸して黙り込んでしまったラズリーヌIIに代わって、小雪が声を出す。

「死んだやつに復讐はできないわな。せいぜい墓暴くぐらいしかできねぇ……いや、そもそもあいつ墓あんのか? 下手したら無縁仏だろ?」

 つばめが言った。

「スイムスイムとリップルのことを説明したら……」

「今度はラ・ピュセル(こいつ)を復讐鬼にする気か?」

 小雪の言葉に、つばめが即座につっこんだ。

「えっと」

「そういうことだぞ」

 つばめの言葉で、小雪は視線を落とす。

「…………あの、ちょっと気になったこと、訊いていいっすか?」

 ラズリーヌIIが、おずおずと出した声に、4人が視線を向ける。

「今訊くことじゃないと思うんすけどね、ラ・ピュセルって本名が “岸辺颯太” って、もしかして、元々は男っすか?」

「あれっ? 言ってなかったっけ?」

 

 

 夜。

 名深市内、水代町のラーメン店。

「おいしかったですー! ごちそうさまですー!」

 シンプルな醤油ラーメンを食べ終えて、ミクセリクサーはそう声をあげる。

 伝票を持って立ち上がる。

「お会計お願いしますー」

「はーい、只今」

 ミクセリクサーがレジカウンターに向かうと、女性従業員が出てきて、ミクセリクサーから伝票を受け取り、レジを操作する。

「ラーメンひとつ……お会計、税込660円です」

「これでお願いしますー!」

 ミクセリクサーは、金銭授受のトレイに、500円玉1つと100円玉2つを置く。

「はい、700円から。40円のお返しになります」

 ミクセリクサーは、女性店員から10円玉4枚とレシートを受け取った。

「ごちそうさまでしたー!」

「またお越しください」

 ラーメン店を出る。

 目の前は、幹線県道に国道が合流してくる三叉路。

 ロードサイド店が並んでいる。

 ミクセリクサーは、幹線県道、国道をキョロキョロと見回した後、幹線県道の方へ小走りに走り出した。

 ロードサイド店が一旦途切れる。歩道の右手は舗装もされていない空き地になっている。

 ミクセリクサーが小走りに走っていると、空き地の方から、ミクセリクサーの行く手を塞ぐかのように、人影が現れた。

「はれ?」

 ミクセリクサーは、何事か、と、足を止める。

「音楽家の弟子か?」

 相手は、そう聞いてきた。

「弟子?」

 ミクセリクサーは、小首をかしげる。

「──── ラ・ピュセルか?」

「あっ、はいー! ラ・ピュセルは私たちの選抜試験のマスターです!」

 半ば反射的に、ミクセリクサーは、手を挙げながら答えた。

 すると、人影 ──── アカネは、その場でミクセリクサーに睨むような視線を向けると、何も握っていない手を振り上げ、まるで刀を握っているかのような手付きで、それを振り下ろそうとする。────

 ドガッ!

 振り抜かれる直前、アカネにドロップキックが刺さり、よろめきながら後ろへ大きく退()がる。

「逃げろ!」

「アプリコット・アプリコットさん!」

 

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 アカネが姿勢を立て直す。

 アプリコット・アプリコットは、アカネの目を見据えながら、

「いいからお前は逃げるんだ!!」

 と、怒鳴る。

「は、はい」

 ミクセリクサーは、アカネが出てきた空き地の方へ逃げていく。

 アカネは一瞬、ミクセリクサーが逃げていった方へ視線を向けるが、

「お前の相手はこっちだ!!」

 と、アプリコット・アプリコットが声をあげると、視線をそちらに向け直す。

 刀を握っているかのような両手を振り上げる。実際に刀はない。だが、斬るという動作だけが、魔法として残っていた。

『あいつは音楽家じゃない』

 アプリコット・アプリコットは、アカネの意識にその声を送る。

「あいつ、は、音楽家、じゃ、ない」

 アカネの動きが一瞬止まる。口からそう呟く言葉が聞こえた。

 ── よし。

 アプリコット・アプリコットの、唇の端が吊り上がる。

 だが ────

「お前、は、邪魔」

 アカネは、そう言うと、アプリコット・アプリコットを見据えたまま、その手を、刀で上段から斬りつけるように振り抜いた。

 ザシュッ…………

「か、はっ…………」

 大量の鮮血が迸る。

「ぐ、ぁ……」

 アプリコット・アプリコットが歩道上に倒れる。

「…………」

 アカネは、トドメを刺そうとするかのようにアプリコット・アプリコットに近寄るが、刀で倒れ込んだアプリコット・アプリコットを斬りつけようとして、その刀がない右手に視線を向けた。

「音楽家、の、弟子……」

 アカネは、またそう呟きながらフラフラと彷徨い始める。

「っ……やっぱ……あぶねーッて言われたもん、触るもんじゃ、ないな……」

 アプリコット・アプリコットが、そう呟いたとき、

「アプリコット!」

 と、声とともに、アプリコット・アプリコットの頭の上の方に、降り立った。

「てめっ……アタシの……略し……てんじゃ……ねぇ……」

「喋らないで!」

 リフレッシングブリーズは、そう言いながら、アプリコット・アプリコットの刀傷に右手をかざす。だが ────

「治癒しない!? なんで!?」

「致命傷……って……コト……だろ……」

 狼狽えるリフレッシングブリーズに、アプリコット・アプリコットはそう返した。

「そんなはずは!」

「お前の……魔法……は……ケガ……を……治……す……、死者……の……蘇生……は……できね……っ」

「アプリコット!」

「お前……おもしれ……っ……やつ…………」

 言葉の途中で、アプリコット・アプリコットの身体の重さが増した。

 

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 その姿が、杏山梅子のものに戻る。

「っ……アプリコット! アプリコット・アプリコット……!」

 もう、(こた)えない。

 ただ。

「!?」

 本来アプリコット・アプリコットの衣装のはずの、胸の宝石飾りのうちのひとつが、なぜか、リフレッシングブリーズの右手の中に残っていた。

 

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