魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story― 作:神谷萌
『申し訳ないことになったぽん。アプリコット・アプリコットは最悪の事態になったぽん。────
選抜試験は中止することはできないケド、犯人を確保するまで、その工程は中断するぽん。つまり、その間、キャンディー数最下位の脱落はなしってことだぽん。
もう、選抜試験から離脱したいっていう子もいると思うぽん。それは認めるぽん。ただ、今やるとかえってアカネに出くわしたときに逃げることもできなくなって危険だぽん。
だから、アカネの確保後、それを承ることにしますぽん。
その間、引き続き、アカネを「追わない」「触らない」「アカネの質問に肯定しない」「万一出会ったら全力で逃げる」を徹底して欲しいぽん。
──────── 通達は以上だぽん。ラ・ピュセルの名代として、今回の事態をお詫びしますぽん』
華乃邸。
駐車スペースの反対側、家の裏手のプロパンガスボンベの近くに、緑色の宝石が置いてある。
そこへ、
ヒュッ
と、ラピス・ラズリーヌ
手には水性ペンキの赤、0.7l缶が2つ。フタの部分に、市民会館通りのホームセンターのシールが貼ってある。
「ペンキ、買ってきたっすよー」
玄関の扉から家の中に入りつつ、ラズリーヌIIはそう声を上げた。
上がり
室内では、つばめと小雪が、テレビを見ていたが、
「ご苦労さん」
と、つばめが振り返って、ラズリーヌIIに声をかけた。
テレビでは、名深市連続斬殺事件の報道が流れている。
『昨日深夜、水代町で発見された遺体は、杏山梅子さん19歳と判明しました。警察では、遺体の損壊状態から、これまでの連続斬殺事件の新たな被害者であるとの見解を発表しています。では現場から、早乙女さーん!』
流石に魔法少女関連であることは知られていないが、彼女が同一犯の新たな被害者であることは、警察や報道も認識しているようだった。
「つばめさん、お子さんは?」
「恥を忍んで親に預けてある」
小雪の問いに、つばめがそう答えた。
「さて、先に準備だけしとこうか」
つばめが言う。
3人は、折りたたみ脚の卓袱台を片付けると、先程までつばめが立っていた足元に積まれていた、古新聞を広げて、畳の上に敷き始める。
華乃は、学生時代から引き続き新聞はとっていない。一方、室田家は世帯主が公務員ということもあって、この時節でも新聞をとり続けていた。
「ところで、ラズリーヌよ?」
「なんっすか?」
準備しながら、つばめがラズリーヌIIに問いかける。
「お前さん、なんか別件で、ラ・ピュセルの試験に潜り込んだんじゃないのか? オレ達とこんな馴れ合ってていいのか?」
「あー、まぁ、別にラ・ピュセル達と馴れ合っちゃダメとは言われてないっすし」
「そうなのか。でも任務みたいなもんがあるんだろ?」
「そうっすけど、今それどころじゃないっすよね? 連続殺人事件が起きて、犯人は魔法少女。それを放っておいて任務優先なんて、ヒーローがとっていい行動じゃないっすよ」
つばめの問いにラズリーヌIIが答えていると、掃き出しの窓の向こうから、軽自動車のエンジン音とバックギアの唸りが聞こえてきた。
「戻りましたー!」
玄関の扉を開閉する音とともに、颯太の声が聞こえてきた。足音がして、颯太と華乃が和室に入ってくる。
2人が買ってきたものを、古新聞の上の、ラズリーヌIIが買ってきたペンキの傍らに置く。それは業務スーパーで売っていた1kgの一味唐辛子だった。
「なんでわざわざクルマで買いに行ったっすか? 変身すればひとっ飛びっすよ?」
ラズリーヌIIが、不思議そうに問いかけると、颯太は、
「変なとこ見られて、職質されると厄介だから」
と、答えた。
「魔法少女でも、強く意識されると一般人の記憶に正確に残っちゃうのは、知ってるだろ?」
「まぁ、そうっすね」
「ただでさえ今、ピリピリしてるんだ。ラズリーヌみたいに一瞬でテレポートできるならともかく、市内のあちこちパトカー走り回ってるところで、目について疑われたら厄介だろ」
「世知辛いっすねぇ……」
颯太はラズリーヌIIの疑問にそう解説しつつ、華乃とともに、古新聞の上に座ると、ペンキを開封し、そこへ、やはり袋を開けた一味唐辛子を、ほぼ同量ずつペンキの液面に投入する。
「目潰しなんて効くのか?」
つばめが問いかける。
「アカネの魔法は、斬撃のアクションが必要で、その間対象を目で捉えてなければならないんだぽん」
ネクがそう説明した。
「まぁ、魔法少女でも、失明まではいかなくても、一時的に視力を奪うのは可能だと思うっすけど ────」
颯太と華乃が、ヘラで一味をペンキに混ぜているのを見ながら、ラズリーヌIIがボヤくような声を出す。
「── 目潰しなんて、ヒーローの戦い方じゃないっすねぇ」
2代目ラピス・ラズリーヌは、魔法少女、と言うより、ヒーローに憧れていた。特に、幼い頃に母親から聞かされていた『ブルーコメット』というヒーローは彼女の心に深く根ざしていた。『ラピス・ラズリーヌ』を襲名する前は、この『ブルーコメット』を魔法少女の名前にしていた。
常にヒーローを自身に投影し、自身の理想のヒーロー像を追求し、鍛錬と精神修練を欠かさず、初代ラピス・ラズリーヌから教授された技術を身に着け研ぎ澄ましてきていた。
その傍ら、名乗り口上、登場ポーズ、そんなものをしっかりと決められるよう、自らに投影するヒーロー像の研究にも余念がなかった。
ある意味、ラ・ピュセルとは同類とも言える。
ただ違うとすれば、ラ・ピュセルがほとんど魔法少女になっただけでその陶酔の領域に入り込んでしまった点だ。シスターナナの指導はあったが、彼女は非戦主義で、暴力のコントロールを誰かに教えることができなかったし、その期間も、ラズリーヌIIの師事と自己鍛錬のそれに比べたら微々たるものだ。
そのラ・ピュセル、颯太はと言えば、
「ごめん、主義じゃないやり方やらせることになって」
と、そう言いながら、ヘラでペンキをかき混ぜていた。
「これでよしと」
偏りができるだけ出ないようにしっかりとかき混ぜてから、2つのペンキ缶のフタを閉める。
「じゃあ、ラズリーヌ、お願いするね」
「私がやるんすよねぇ……」
立ち上がった颯太にペンキ缶を差し出されて、ラズリーヌIIは、心底嫌そうに引き
「じゃ、でっぱつと行きましょうか」
つばめが言い、小雪、ラズリーヌIIとともに玄関の方へ向かって歩き出す。
最後に残った颯太と華乃が、顔を見合わせる。
「大丈夫、私はラ・ピュセルの共犯者」
華乃がそう言って、2人も歩き出した。
トップスピードが、ラピッドスワローでスノーホワイトとタンデムしながら、市内上空を大きく旋回するように飛行し続ける。
スノーホワイトは、自分のマジカルフォンを手に持ち、そこからネクが姿を出している。
「見つからないかい?」
「まだ……」
トップスピードの声に、スノーホワイトは困惑げな返事をする。
「今までも、割と市内で神出鬼没だったぽん。どういう仕組みなのか断言できないケド、簡単に見つからなくても仕方ないぽん」
ネクが言った。
「…………」
もう20分程、索敵飛行を続けたときだった。
「!」
『音楽家の弟子、どこ』
『終わらせたい』
『殺さないと、終われない』
『私を止めるな』
『音楽家の匂い』
『いや、止めて』
『違う、でもつながっている』
『もう、終わらせたい』
「いる! こっち!」
スノーホワイトは、左を向いて指差しながらそう叫ぶ。
「捜索完了、間違いないぽん! 現在位置マーク!」
「でも、こっちの方角って ────」
颯太と小雪の家がある
「そうちゃんちの近く!」
その時、すでにトップスピードは示し合わせた場所に向かって飛行している。
かつてラ・ピュセルとスノーホワイト、後にはリップルが集合場所として、逢瀬の場所として使っていた電波塔。
そのキャットウォークに、トップスピードは、ラピッドスワローをスピンターンさせて逆向きにしながら横付けする。
スノーホワイトが飛び降り、キャットウォークで待機していたリップルが飛び乗る。
「行くぞ!」
トップスピードが言った瞬間には、ラピッドスワローは倶辺ヶ台の方へ向かって飛び出していた。
右手に私立高校が見える。その路地へ向かって高度を一気に落とし、路地に沿った戸建の屋根ギリギリを飛行する。
「音楽家…………音楽家の弟子……」
そこをフラフラと歩いていたアカネが見つかった。
「おい、こっち向け辻斬り野郎!」
荒々しい声 ──── トップスピードのそれを聞いて、アカネがそちらを振り返りかけるのと同時に、その足元に赤紫色の宝石が転がった。
「こっち来るっす!」
出現したラズリーヌIIが、アカネに組み付き、そのまま再度姿を消す。
2代目ラピス・ラズリーヌの魔法は、 “宝石を使ってテレポートできるよ”。宝石で予めマーキングした場所に、瞬間移動できるというものだ。
買い出しでは、新名深駅の置き引き騒ぎのときに、ホームセンターの前に仕込んでおいた宝石を使ってテレポートした。
今は、トップスピードの箒にタンデムしたリップルが、追い越す間際に宝石をアカネの足元へ投げ、そこへラズリーヌIIがテレポートしてきた。
ラズリーヌIIが、組み付いたアカネとともに、高速道路のインターチェンジ東側の丘陵地帯に出現する。
「邪魔 ────」
アカネが、刀で斬る構えを取りかけるが、
「これでも食らうっす!」
ラズリーヌIIは、ペンキ缶の一味唐辛子入りペンキを、アカネの顔面にぶちまける。
「ぐ、 ── ぁっ!」
一味唐辛子の混ざったペンキが目に入り、アカネが立ったまま悶絶する。
ラズリーヌIIは、再びテレポートしてその場から消えた。
その時、一味入りペンキを顔面にかけられたアカネが放り出された場所を、魔法少女なら裸眼で見ることができる程度に離れた場所へ、トップスピードのラピッドスワローが到着し、リップルが地面に降り立った。
「貸せっ!」
「頼む!」
その場で待っていたラ・ピュセルから、リップルはそれを受け取る。
アカネを視線の先に捉え、リップルはそれを投擲した。
それは、サバイバルナイフ程度に小さくしたラ・ピュセルの剣。
────────
────
──
「華乃」
「うん?」
「あの娘、助けてあげたかったよ」
「うん」
「ボク達と同じ、クラムベリーの被害者だった」
「そうだな」
「でも、あの娘、止まらないよ」
「うん」
「候補生に犠牲も出た。アプリコット・アプリコットが殺されるところ、ミクセリクサーやリフレッシングブリーズにも見られた」
「うん」
「これ以上、犠牲、出せないよ」
「解った」
────
「あ」
リップルが投げたラ・ピュセルの剣は、アカネの、胸郭と腹部の境目あたりに突き刺さった。
アカネが僅かに立ち尽くした直後、
「ごめん!」
剣は拡大し、幅も広がり、アカネの胴を、上下に引き裂いた。
『私で、終わり』
「…………」
電波塔から、スノーホワイトは、アカネの最期の場所の方角を見ていた。
「聞いて、ないっすよ」
ラ・ピュセル達がまだとどまったままのそこへ、ラズリーヌIIが姿を表し、低い声でそう言う。
「とにかく、目を潰せば勝てるって、動きを止められるって意味じゃなかったんすか!?」
「オレもそんな感じで聞いていた」
トップスピードも、乾いた口調で言う。
「スノーホワイトもそうなんだろ」
「そう」
トップスピードの言葉に、リップルが短く答えた。
「目を潰す必要はあった。リップルが投擲するところをあっちから見られたら、先に斬られるからな」
トップスピードはそう言うと、
「悪い、持っててくれ」
と、ラピッドスワローをラズリーヌIIに預けた。
俯きがちにしていたラ・ピュセルの胸ぐらを掴む。
「あくまで殺したのはお前とリップル、そう言いたいんだろ?」
「はい……」
凄みのきいた声で問い質すトップスピードに、ラ・ピュセルは弱々しく答える。
「お前らで決めたことだ。ここまでの状況も解ってる。間違いだと言いきるつもりはねぇ」
「はい……」
「ただな、スノーホワイトは解る、だがオレには黙って協力させようとするんじゃねぇ。お前とリップルの “共犯者” の枠に入れろってんじゃねぇ。でもそのリクツぐらい教えろ」
「はい……」
そこまで言って、トップスピードはラ・ピュセルを離した。
「私にも黙ってて欲しくなかったっす!」
ラズリーヌIIも声を上げる。
「2代目ラピス・ラズリーヌは正義のスーパーヒーローなんだろ」
顔を上げたラ・ピュセルが、ラズリーヌIIに言う。
「それは……」
「君は、ボク達とは違う。11人の死の上に立っている4人とは違う。だから、まだこっちに来ないで欲しい」
「え……」
「君は、充分強い。強くなるための期間があった。だから、憎しみで戦わないでいい。『勝たなきゃ意味がない』なんて、考えないでいい」
「…………」
その日、ボクはリップルの胸の中で泣いた。
憎いわけでもなかった。
それでも、ボクは殺すことを選んだ。
泣きじゃくるボクを胸に抱きながら、リップルも静かに涙を流していた。
“倶辺ヶ台”
自分は本来のロケ地(上越市)疎いんで、市内のディテール確保するのに自分で解る場所(ぶっちゃけ地元)から再脳内ロケで構成してます。
できるだけこじつけられるように努力してたんですが、岸辺家・姫河家の想定位置は沿岸部から離れてしまったので、やむを得ず“倶辺ヶ浜”から改名しました。
申し訳ありません。
想定エリア:土浦市永国(姫河家想定・土浦第四中学校学区)・中村西根(岸辺家想定・土浦第三中学校学区)一帯。小学校はいずれも土浦市立東小学校学区。
他にもここまで「方角おかしいな!?」って思わせたのはだいたいこれです。
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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