魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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【中だるみ回】


第10話

 端末にダウンロードされてきた資料を確認する。

 

『11人の死の上に立っている4人』

 

 ねむりん

 ルーラ

 ハードゴア・アリス

 ユナエル

 ヴェス=ウィンタープリズン

 マジカロイド44

 カラミティ・メアリ

 シスターナナ

 たま

 ミナエル

 スイムスイム

 “名深の4人組” の足下(あしもと)にいる11人。

 

「資料じゃ解っていたつもりっすけど、生々しいところ聞かされると、きついっすね」

 屋根の上に座りつつ、一旦、端末から目を離してため息を()く。

 

『君は、充分強い。強くなるための期間があった』

 

 ラ・ピュセルにそんな時間はなかった。

 鍛える余裕はなく、クラムベリーと戦うしかなかった。

 だから、理想を捨てた。高潔さを捨てた。手段を選ぶことをやめた。『守るためには、勝たなきゃ意味がない』と考えるようになった。

 

「でも」

 

「私はそれも、ヒーローの姿だと思うっすよ」

「ぽん」

 

 

「ラピュっちリプっち、おはよっすー」

 和室の引き違い戸を開けたまま、颯太と華乃が朝食の準備をしていると、そこへ、あっかるい声がかけられてきた。

「ら、ラピュ?」

 キッチンのカウンターに向かって調理していた颯太が、声の方を振り向きつつ、驚きの言葉を出した。

 その視線の先には、見たことのない、栗毛がかった長髪の女性。身長は小雪より少し高いぐらいか。髪はくせっ毛、と言うより、普段纏めている髪を下ろしたときにクセが残っているように見えた。

 

【挿絵表示】

 

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「もしかして……ラズリーヌ?」

「はいっす!」

 颯太が困惑しつつ問いかけるように言うと、ラピス・ラズリーヌII(2)nd、米田瑠璃は、片腕を挙げながら、勢いよく答えた。

「へー、なんか、随分イメージ違うなぁ」

 颯太は苦笑しながらそう言ったが、

「おい」

 と、和室から出てきた華乃が、苦い顔をしながら声を挟んだ。

「え?」

「お前が言うな」

 普段周囲にいる魔法少女の中でも、本来、元の姿と一番落差があると言っていい本人に、華乃がツッコミを入れた。

 それを聞いて、

「え? あ、いや、そうじゃなくて」

 と、颯太が慌てた声を出す。

「ほら、ラズリーヌIIの姿のイメージだと、元の姿の方はもっとおとなしい感じなのかなと」

「あ、もっと大和撫子みたいな感じを想像してたっすか?」

「そうそう」

 瑠璃の言葉に、颯太が同意するような声を返す。

「今のリプっちを身長下げたみたいな?」

「あー……確かに、そんなイメージはあるかも。あとツリ目を少し緩めた感じ」

「おー、なるほどなるほど」

 瑠璃と颯太がそんなやり取りをしていると、

「ところで、リプっちって」

 と、華乃が割り込んだ。

「えっ、ダメっすか?」

 キョトン、としたような表情になって、瑠璃が訊き返す。

「うーん……」

 華乃は、少し考えてから、視線を颯太に向ける。

「颯太?」

「ボクは別に、構わないけど。ラピュっちでも」

 颯太がそう答えると、華乃は視線を瑠璃に戻し、

「それなら、私もそれでいい」

 と、答えた。

「じゃあ、そういうことで改めてよろしくっす! ラピュっち、リプっち」

 

「いただきます」

 シンプルな厚焼き玉子をおかずに、3人は朝食を摂り始める。

 つばめはもちろん、小雪も昨日は自宅に帰った。来客用に使うことが多い洋間に、瑠璃だけが泊まったかたちだ。

「ご飯、昨日のだけど大丈夫?」

「平気っす」

 颯太が訊くと、瑠璃は即答した。

 前日の夕食後に残った炊飯器の中身を、翌日の朝食、必要なら弁当で消費し切る、というありがちなサイクルで回していた。

「んー……」

 半分くらい食事を進めていったところで、颯太がなにか考えるような唸り声を出した。

「ボクがラピュっちで、リップルがリプっち」

「はいっす」

 確認するかのように言うと、瑠璃が気持ちよく即答する。

「じゃあ、スノーホワイトは?」

 颯太がそう訊ねる。

「うーん、スノーさん……じゃちょっと余所余所しいか。スノっち……ちょっとひねりが欲しいっすね…………」

 瑠璃は、そう言いながら逡巡した後、

「スノスノ! これでどうっすか、スノスノ!」

 と、いいのが閃いた、と、颯太と華乃に向かって問いかけるように言った。

「本人次第」

 まず、華乃が端的に答える。

「あ、それはそうっすね」

 瑠璃の笑顔が苦笑になる。

「でも、多分嫌がらないとは思うけど」

「それならいいっすけど、まぁ、確認はとるっす」

 颯太のフォローに、瑠璃はそう返した。

「じゃあ、トップスピードは?」

「トップスピードでいいっす」

 颯太が続けて問いかけると、瑠璃は即答した。

 颯太と華乃が顔を見合わせる。

「トップさんとか、トップっちとか……」

「トップスピードでいいっす」

 颯太が提案するように言うが、瑠璃はまた即答した。

「なんで……」

「あの人は多分本気で怒らせちゃいけないタイプっす。TPOはわきまえないと身を滅ぼすっす」

「トップスピード、特別強いってわけじゃないけど……」

 颯太が苦笑しながら言う。

 もともと戦闘の要素があるラ・ピュセルやリップルに比べると、他の2人、スノーホワイトとトップスピードは、体格といい、魔法少女としては戦いに向いている方ではない。しかも、トップスピードは隻腕だ。

「つっても、自衛できないと詰むってのは身に染みたからな」

 トップスピードはそう言って、ラ・ピュセルとリップルの鍛錬に交じることがあるが、ラ・ピュセルやリップルが指導する側だ。

「ま、鉄火場にゃ慣れてっから。隙を見て逃げ出せるぐらいの腕がありゃいいさ」

 そう、トップスピード自身が苦笑しながら言う程度なのだが。

「わからないっすかね、()()()()()()は必ずしもイコールじゃないんっすよ」

「それはまぁ、わかるような……?」

 真顔で言う瑠璃に、颯太は、苦笑しながら、納得したようなしていないような声を出した。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「じゃあせっかくだからオイルとか見とくか。ボンネット開けてくれ」

 華乃のセルボの前面に向かい合うかたちで立ち、つばめがそう言った。

 ボンネットフードがターボグレード用のインテーク付になっている反面、フロントバンパーはNAグレード用のままで、フロントグリルを加工して小型補助灯を追加しているので、一層キメラ感がある。

 一旦運転席に入った華乃が、右下にあるノブを操作する。

「スノスノは、学校ないんすか? 今日は」

 つばめの隣で、興味があるんだかないんだか、なんとなく見ていた瑠璃だったが、ふっと、小雪に訊ねた。小雪は、掃き出しの窓の際でつばめの娘をあやしていた。

「あったけど、今日は1時間目にLHRあっただけで終わりになっちゃった」

 小雪は、一旦瑠璃の方を見て、苦笑しながらそう答えた。

 音楽学校前の未遂も含めると、5件目の犠牲者が発見された。それも、袈裟斬りにされていたこれまでの犠牲者と異なり、胴が上下に真っ二つになっていた。

 その上、その犠牲者が、県内の『こころの医療センター』に入院していたはずの患者となって、さらに騒ぎが大きくなった。報道機関は無責任に憶測を流し、危機を煽っている。警察も報道も、その最新の犠牲者が4件目までの犯人だとは見抜けていなかった。

 ともあれ、そんな事があったため、社会は、一度危機感が麻痺しかけていたのが、再び緊張していた。

「よっと」

 つばめがセルボのボンネットフードを開ける。

(わり)ぃ、ちょっと代わりに支えててくれ」

「あ、はいはいっす」

 瑠璃にボンネットフードを支えさせて、つばめがそれを支持棒で固定する。

「離していいぞ」

 出てきたのは、ハイブリッドブーム以前のシリンダーヘッドが直接見えるエンジンルーム、だが……────

「私よく知らないんっすけど、クルマのエンジンってこんな派手っしたっけ?」

 瑠璃が、苦笑しながらつばめに訊いた。

 不動車から再生する際、エンジン本体もSRターボのものが使われているが、過給器を機械式スーパーチャージャーにすり替えている。エアクリーナーやインタークーラーコアは純正流用だが、スーパーチャージャーとそれらをつなぐステンレス管や鮮やかな青のシリコンホースが、旧車のエンジンルームの中でやたら目立っている。

「まぁ、普通じゃないわな」

 つばめは、ニヤニヤしながら言いつつ、エンジンルーム内を覗き込む。オイルレベルゲージを抜いて、その先端を瑠璃の方に差し出し、

「いったん、ウェスで拭いてくれっか?」

 と、言うものの、瑠璃は困惑する。

「ウェス?」

「ああ、ゾーキンだよ。ゾーキン。手に持ってるだろ?」

「あ、そういう事っすね」

 瑠璃が、手に持っていた布切れでオイルレベルゲージを拭き取る。

 つばめは、オイルレベルゲージを一旦戻して、再度抜き、ゲージ部分を確認する。

「あれ、オイル汚れてねぇな」

 つばめが、軽く驚いたように言った。

「汚れてないとまずいんすか? きれいなのはいいってことじゃないんすか?」

「ちゃんとしたオイルはエンジンん中の汚れ落とすから汚れるんだよ。逆にしょーもないほど安いオイルはいつまで経っても汚れない」

 意外そうに訊き返す瑠璃に、つばめはそう答えてから、瑠璃のさらに後ろにいる華乃に視線を移して、

「最近オイル換えたか?」

 と、訊ねた。

「換えた。3,000走っちゃったから。つばめが連れて行ってくれてたとこで」

 華乃が答える。

「ああ、じゃあヘンなオイル入れられてるってことはないと思うが……銘柄わかるか?」

 つばめが言う。

 すると、華乃は運転席側から身を乗り出すかたちで、グローブボックスを開けて、1枚の領収書を取り出す。つばめのところへ戻ってきて、手渡した。

「……そこそこのやつか。ならまぁ大丈夫か」

 領収書に書かれていたシェルの部分合成油の銘柄を見て、つばめは呟くようにそう言った。

「魔法少女が自動車っていうのは、どうなんすかねー」

 瑠璃が苦笑しながら言う。つばめと華乃の視線が瑠璃に向いた。

「だって、この前も言ったっすけど、変身すればあっという間に辿り着けるじゃないっすか」

「それはそうなんだが……」

「かさばる荷物を持つのが面倒」

 つばめが少し考えている間に、華乃がそう答える。

「生活用品まとめ買いしたとき、手で持てる量に限界がある」

「あーまぁ、そうかも知れないっすね」

 瑠璃は、そう言って苦笑するものの、いまいちピンと来ていない様子だ。

「華乃は颯太養ってるようなモンだからな」

「養ってない」

 つばめの言葉に、華乃が即座にツッコむ。

「へくしっ!」

 部屋の中、小雪が子どもをあやしているさらに奥から、くしゃみが聞こえてくる。小雪が一瞬振り返った。

「家を回す生活者の感覚だとこうなるんだよ」

「そんなもんっすか」

 つばめが苦笑しながら言うが、まだ瑠璃は完全に納得していない様子だった。

「オレなんか子どもいるからな。それこそクルマないと生活回らん」

 つばめは、そう言いながら、エンジンルーム内の目視できる点、ブレーキリザーブタンク、ラジエターリザーブタンク、エアクリーナーのフィルター、バッテリーの液面、ファンベルトの張りなどを確認していく。

「あれ? そういえば、荷物って言えば ────」

 小雪が思い出したように切り出す。瑠璃と華乃の視線が小雪に向いた。

「カラミティ・メアリが持ってた四次元袋、あれ、どうなりましたっけ?」

 ガンッ

 聞こえてきた衝撃音に、瑠璃が振り向く。つばめがボンネットフードに頭をぶつけた音だった。

「あー、あれな、 ……オレが持ってるわ」

 つばめは、身を起こしつつ、気まずそうに苦笑しながら、そう言った。

「四次元袋って、なんっすか?」

 瑠璃が訊ねる。

「私達の魔法少女選抜試験のときに、ファヴが売ってたアイテムの1つ。とにかくなんでも、いくらでも入る」

 小雪が、視線を瑠璃に向けて答える。

「ドラ◯もんの四次元ポケットみたいにっすか」

「そう。ひみつ道具は入ってないけど」

 瑠璃の例えを、小雪が肯定する。

 瑠璃と華乃が、つばめに呆れたようなジト目を向ける。小雪も視線をつばめに向けた。

「いやだって、アレん中、メアリが加工したヤバい武器が入ってるだろ、人目のあるところであれぶちまけるわけにいかねーから、普段づかいできないんだって」

「まぁ、あの時は最年長だったし、トップスピードが持ってるのが妥当だったんじゃないかな」

 言い訳をするつばめに、小雪がフォローを入れた。

「……って、あれ?」

 ごまかすように苦笑していたつばめだが、ふっと気がついたように、

「槍が颯太、袋がオレ、クスリは消耗品だから使っちまったとして、……────」

 と、指折り数えながら、呟きながら記憶を辿る。

「あと2つあったろ、どうなった?」

「兎の足は、確か、ウィンタープリズンが買ってシスターナナに渡してたはず」

 小雪が答えた。

「あー、じゃあ、あいつが自殺したときに警察に押収されてるかなんかか」

 つばめが表情を歪めながら言う。

「まぁ、あれはちょっと高性能な幸運のお守りだからな。あとひとつ……透明外套か」

「誰が持ってたかわからない」

 華乃が言った。

 つばめが表情を歪める。

「あれ何処に行ってるかわからないのまっずいなぁ……」

 

 

「はぁ……」

 颯太がため息を吐いた。

 卓袱台の上にマスター用マジカルフォンが置かれていて、ネクが出現している。

「4人辞退か……」

「流石に無理ないぽん」

 颯太の呟きに、ネクが言う。

「結局こうなっちゃうのかよ」

 卓袱台に肘を突いて、手を組んで、そこに額を載せ、俯いたまま声を漏らす。

「残念な結果ではあるぽん。でも、まだ終わったわけじゃないってこと忘れちゃダメぽん」

「解ってる」

 ネクに言われて、颯太は顔を起こした。

 全員辞退でもおかしくないところ、元々()()のラズリーヌIIを除いても、残り10人。

「ボク達が言えた義理じゃないかもだけど、いい度胸してるよ」

「元々、アプリゲームでの選別の時点で、そういう候補が集められてるぽん」

 颯太の言葉に、ネクが補足するかのように言う。

「ラ・ピュセル達の時だって、良かれ悪かれ誰も逃げ出さなかったぽん」

「ボク達の時は、離脱するって選択肢が用意されてなかったからね」

「それでも、みんな一度は立ち向かったぽん。1人だけは敗北にしてもいい終わり方じゃなかったケド……」

「だから、今回の残りのメンバーも、手綱握ってないと危ないってことか」

 先程の落ち込みようからは少し心が浮いた気がして、変な苦笑が出た。

「そういうことだぽん」

「やれやれ」

 

 

 私鉄線、常上木挽駅。

「おいしいですー」

 夜の無人駅の待合室。ミクセリクサーが、住宅地内のミニストップ名深木挽店で買ってきた夕食を摂っていた。

 シュウマイ幕の内弁当を食べ終えた後、奮発してデザートとして買ってきた、プリンパフェを食べているところだった。

 まさにほっぺが落ちるかのような表情で、スプーンを口に運んでいたが、────

 強力な光源からの光が、駅舎内にも入り込んでくる。

 排気ブレーキの抜ける音を立てながら、4両編成の気動車が、複線の下りホームに滑り込んでくる。

直浦瀬(なおうらせ)行は最終になります。直浦瀬行、最終です』

 車両側の外部スピーカーから、車掌のアナウンスが流れる。

 1分に満たない停車時間の後、

『発車します』

 と、アナウンスがあり、扉を閉めて、列車は出発していった。

「…………」

 ディーゼルエンジンの轟音が遠ざかっていく。

 ミクセリクサーは、窓から空を見上げた。

 彼女の心とは裏腹に、今日は満天の星空が広がっていた。

 





お忘れの方がおられるかもしれないので今一度説明しておきますと、この世界線ではハードゴア・アリスはラ・ピュセルの代わりに3週目最下位脱落なので、アイテムが売り出される時にはもういないです。

具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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