魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story― 作:神谷萌
「らん、らん、ら~♪」
上機嫌な様子で、ミクセリクサーが歩いている。
国道とは名ばかりの、辛うじてセンターラインがある狭い道路。左右は擁壁が切り立っている。
交通量がある方ではないが、それでも常にクルマの姿が見える、そんな時間帯だ。
──── ミクセリクサー達がそのことを知る由もないが、ラ・ピュセルにとって、終わり、始まった因縁の場所、その近く。
ガシャン!! ガッ!!
「えっ!?」
ミクセリクサーの目前で、それは起きた。
センターラインを越えてきたミニバンが、2トントラックの右寄り前部に激突した。
ミニバンは勢い負けしてスピンし、後部から反対側の擁壁に激突する。
損傷度合いは、バンパーが千切れてラジエーターまで破損しているミニバンの方が酷いように見えたが ────
ミニバンのドライバーは自力で降りてきた。その右手にスマートフォンを持っているが、立ち上がっている画面は電話発信ではない。
トラックの運転手は降りてこない。一見、
トラックのディーゼルエンジンは、アイドルより僅かに高い回転数で回り続けている。
トラックの運転席ドアのガラスは砕け散っている。ミニバンの後続車だったコンパクトカーから降りてきた、中年女性が、
「大丈夫!? ちょっと!?」
と、ドライバーに声をかけながら、ドアのノブを引っ張るが、キャブ全体が歪んでしまっているのか、開かない。
「
ミクセリクサーが中年女性にそう声をかける。中年女性は言われるままに離れ、手に持っていたスマートフォンで110番にかけ始めた。
「はっ!」
ミクセリクサーが窓枠に手をかけて引っ張る。ドアはまるごと外れて、女性にしてはガッチリした体つきのドライバーが側面から確認できるようになる ──── が。
「脚が……挟まれて……ッ」
衝突によって運転席側にせり出したダッシュボードとシートの間に両脚を挟まれ、動かせなくなっている。
「これっ、どう、すれば……」
ミクセリクサーは、一瞬困惑して、キョロキョロと周囲を見回してしまう。
「いや……先に、エンジン……エンジン」
ドライバーが、呻くような声で言う。
「えっと」
ミクセリクサーが戸惑った瞬間、トラック側の後続車である軽バンから降りてきた中年男性が、ミクセリクサーの右側から運転台に接近して、トラックのイグニッションスイッチを “OFF” にする。エンジンの音が止んだ。
その間に、ミクセリクサーの背後に、リフレッシングブリーズが降り立った。
「どうしたの!?」
リフレッシングブリーズが、身を乗り出すようにしながら、ミクセリクサーに問いかける。
「脚を挟まれて! 動かせないんです!」
ミクセリクサーが言う。
リフレッシングブリーズは、ドライバーの脚が挟まれているあたりを伺ってから、
「アンタ、ここ、押さえてて! 前に引っ張られないように!」
リフレッシングブリーズは、キャブの運転席開口部の後ろ側、シングルキャブトラック以外では “Bピラー” に当たる部分を手で示して、ミクセリクサーにそう言った。
「は、はい!」
「車体壊します! いいですね!?」
ミクセリクサーがそれを理解するのを待ってから、リフレッシングブリーズはドライバーに問いかけるように言う。
ドライバーが頷くのを待って、リフレッシングブリーズは運転席開口部から左手を突っ込み、
「ふんっ!」
と、フロントガラスにパンチを入れる。合わせガラスが前側に脱落して落下した。
それから、リフレッシングブリーズはトラックの前側へ回る。
フロントガラスが脱落した枠に手をかける。
「行くよ!」
「はいっ!」
リフレッシングブリーズの声に、ミクセリクサーが
「よっ、と」
バキッ、バキバキバキバキィッ
トラックの前面部分が引き千切れ、ダッシュボードの前側がむき出しになる。ペダルとドライバーの足元も見えた。
リフレッシングブリーズが、ステアリングの軸を握って、それごとダッシュボードを前側にめくる。
ミクセリクサーが、ドライバーを担ぎ出そうとする。
「シートベルト、シートベルトは外れてるか!?」
先程、エンジンを切った男性が、ミクセリクサーの背後から声をかけた。
「えっと」
「大丈夫だ、外れてる」
ドライバーが言った。ミクセリクサーは、ドライバーの左太腿の上に、外れたシートベルトのバックルを確認してから、ドライバーを外に出した。いったん、路面に下ろす。
「っつう……」
ドライバーは
「大丈夫ですか!?」
「膝……いったかもしんない」
ミクセリクサーが問いかけると、ドライバーはそう言った。
「見せて!」
リフレッシングブリーズが、後続車のドライバーたちを退けて、トラックのドライバーの正面に屈む。
「折れてないなら、多分大丈夫……」
リフレッシングブリーズが、そう呟きながら、両手をドライバーの両膝に軽くあてる。
痛みに歪んでいたドライバーの表情が、緩んでくる。
「よし」
リフレッシングブリーズがそう言った時、
ファオンファオンファオンファオン…………
ピーポーピーポーピーポーピーポー…………
と、緊急車両のサイレンが聞こえてきた。
「あとは警察と救急に任せるよ」
「はい!」
リフレッシングブリーズが言い、ミクセリクサーと ──── マイカホワイトと3人は、高く跳躍してその場を去った。
「お弁当買いに行きますー!」
私鉄線、高波山口駅。
ミクセリクサーが去った後、駅前バス停のベンチに、リフレッシングブリーズとマイカホワイトが並んで座っていた。
「おおっ、今のはかなりもらえたー」
リフレッシングブリーズが、マジカルフォンの選抜試験アプリでマジカルキャンディーの数を確認しながら、はしゃぐように言った。
「って、アンタはなにしてたの?」
思い出したように、リフレッシングブリーズがマイカホワイトに問いかける。
「ミニバンのドライバー、トークアプリの履歴消して証拠隠滅しようとしてたから、"後回し" にさせた」
「ながらスマホで事故ったのか、あんにゃろ」
マイカホワイトに説明されて、リフレッシングブリーズが義憤を口にする。
「いくら貯まったか、アタシにも見せてもらっていい?」
「はいはい、これだけ」
マイカホワイトに言われると、リフレッシングブリーズは、自分のマジカルフォンの画面がマイカホワイトに見えるように、手を伸ばす。
「ふーん…………」
口元で笑みつつ、感心したような声を出したマイカホワイトだったが ────
バッ!
次の瞬間、リフレッシングブリーズから、そのマジカルフォンをひったくった。
「ちょっ、なにすんのよ!」
慌てて身を乗り出し、マイカホワイトの手の中の自分のマジカルフォンに手を伸ばそうとする。
そのリフレッシングブリーズの目に、マイカホワイトは視線を向ける。
「──── あれ? 私なにをやらなきゃいけなかったんだっけ?」
我に返ったかのように、リフレッシングブリーズは、マジカルフォンのことを忘れたかのように周囲をキョロキョロとする。
マイカホワイトは、その場で踵を返して、
「また君か」
と、その目前にラ・ピュセルが立っていた。腕組みをして、呆れたような怒ったような表情をしている。
リップルの姿もあった。
「奪い合いはダメだって言ってるだろ」
「原則スリーアウトだぽん。次やったら脱落させるぽん」
叱るように言うラ・ピュセルに続いて、ネクも出現して、そう言った。
そのラ・ピュセルの目に、マイカホワイトが視線を向ける。
「ラ・ピュセル」
ラ・ピュセルの背後から、リップルが声をかける。
「こいつは後回しでいい」
「ネクもリップルに賛成だぽん。急ぎの用事は他にあるぽん」
だが。
ガッ!
「早くリフレッシングブリーズのマジカルフォンを返せって言ってるんだ!」
ラ・ピュセルはマイカホワイトの胸ぐらを掴み、激しい口調で迫った。
「え? え?」
「ラ・ピュセル、やりすぎ!」
マイカホワイトは目をぱちくりとさせる。リップルが、ラ・ピュセルの背後から、その肩を掴んで制止した。
「あ、あ……えっと……すまない、やりすぎた」
ラ・ピュセルは我に返り、慌ててマイカホワイトを放した。
「でも、不正行為はダメだ」
「……そのとおりだぽん。リフレッシングブリーズのマジカルフォンを返すぽん」
「? ??」
マイカホワイトは、まだ唖然としたまま、リフレッシングブリーズのマジカルフォンをラ・ピュセルに差し出した。
ラ・ピュセルがそれを受け取ると、マイカホワイトはその場から跳躍して去っていった。
「リフレッシングブリーズ……あ」
ラ・ピュセルは先程まで2人が座っていたベンチの方に視線を向けるが、リフレッシングブリーズの姿もなくなっていた。
「…………捜索するぽん」
電波塔のキャットウォーク。
「さっきは一体どうした?」
リップルが、ラ・ピュセルに問いかける。
「ラ・ピュセルらしくなかったぞ」
「あんな態度を取らなきゃならない相手でもなかったぽん」
リップルの言葉に、ネクが同意しつつ付け加える。
「ボクにもよくわからない。急に『これはこの瞬間にも解決しなきゃならない』って、すごく切羽詰まったんだ」
自己嫌悪気味に額に手を当てながら、ラ・ピュセルは、落ち込んだような表情でそう言った。
「マイカホワイトの魔法の影響?」
「ぜんぜん逆の効き方してるぽん」
リップルが疑問に思って声に出すと、ネクも訝しく思うように言った。
「実際、マイカホワイトが念を込めすぎてて、リップルやネクにも効いてたぽん」
「そう、私もあの場は "後回し" でいいって思った」
ネクの言葉に、リップルが付け足す。
「ひょっとしたら、ラ・ピュセルには精神感応系がヘンな効き方するんじゃないかだぽん」
糸目になりながら、ネクはそう言った。
「でも、スノーホワイトには普通に “心の声” が聞こえてるみたいだけど」
ラ・ピュセルが訊き返す。
「現段階では仮説にすぎないケド……スノーホワイトの魔法は単純に聞き取る、完全な
「なぜ?」
リップルが問いかける。
「うーん……思い当たるフシはあるけど、ちょっと仮説すぎて、今回の件が片付いてから調べることにするぽん」
「…………」
ラ・ピュセルの顔がさらに曇る。
「一般のメールアドレスへのメッセージだろ? 迷惑メールじゃないのか?」
リップルが問いかける。
「その可能性もあるけど、企業以外でこのメールアドレス知ってるのは、『マジマジカルカル』のチャットメンバーくらいのはずなんだよなぁ」
「内容と言い、ちょっと今は無視したくない感じぽんね」
「…………」
僅かに沈黙が流れる。
…………ファオンファオンファオンファオン……
「また、パトカーの音」
遠くから響くサイレンの音を聞いて、リップルが呟いた。
ピロン♪
マジカルフォンではない、スマートフォンの通知音が鳴る。
ラ・ピュセルはそれを取り出して、ディスプレイを表示させる ────
「な…………!?」
─☆──☆──☆──☆─
差出人: 漂白者<[email protected]>
宛先: 魔法少女な子<[email protected]>
件名: 弱い者は要らない
本文:
“Cranberry grandchildren” は認めない
逃げ出す者はそれ以上に許さない
─☆──☆──☆──☆─
「なんで、こんな……!!」
普段、待合や雑談の場にしている、通信用の電波塔とは別の送信アンテナ。ローカルラジオ局のワイドFM移行で使用停止されているAM用中継局。
その細く高いアンテナの、尖端から1/4ほどのところに、犠牲者はぶら下がっていた。
首を吊るようにされているが、死因は胸に開いた大きな刺創だろう。
黒ずみ始めた血が滴り落ちている。
警察が封鎖している道路面とは別の、雑木林の中からそれを見上げて、ラ・ピュセルは立ち尽くす。
犠牲者は ──── 先日、アカネの事件の直後に、辞退を申し出て離脱した候補生の1人だ。中学2年生。
「どうして、こんなことになるんだよ! やめろよ、やめろ…………!!!!」
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