魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story― 作:神谷萌
──── 2年前。東北地方某所。
「クラムベリーざ、
マジカルフォンに表示されたメッセージを見て、愕然とする。
憧憬の対象、力の象徴、自身と同系統の外観。そんな相手が、あっさりと亡くなった。それも、正式な魔法少女にもなっていない候補生に殺された。
メッセージとともに、電子マジックスクロールが送られてきた。
「これば……」
何があったのか、脳内が理解を拒んだ。
そのうちに、またメッセージが送られてきた。
クラムベリーを直接殺したスイムスイムとたまはやはり死んだ。
だが、もう1人、クラムベリーの “殺し” から生き残ったやつがいる。
魔法少女名はラ・ピュセル、本名は岸辺颯太。
「こいづぁ、あん時おれが助けだやづだ!」
こいつが歪みとして残ったせいで、クラムベリー最後の “ゲーム” は4人も生き残ることになる。
特にスノーホワイトはほとんど戦ってもいない。
お前は “クラムベリー最後のゲーム” を完遂するべきだ。
ただ、今すぐにはまずい。
クラムベリーが死んだことで、監査部が動く危険性がある。
そこで、まずマジカルフォンからクラムベリーとの連絡の履歴を全部消せ。そのあと、以前に送った電子マジックスクロールを使って、記憶を一時的に封印しろ。監査部の調査をやり過ごせ。その後 ────
──────── クラムベリーの殺しを完遂しろ。
「ラ・ピュセル ──── お前の勝ちじゃないぽん」
─☆──☆──☆──☆─
「今日はご協力、ありがとうございましたー!」
「こちらこそだよ」
ミクセリクサーは、1人の魔法少女候補生と、両手で握手しながら、満面の笑顔で言葉を交わす。
名深市西部総合体育館の裏手、大池を囲む遊歩道。
その柵を越えて、飼い犬が池の淵まで向かっていってしまった。それを追って子どもも柵の内側に入っていった。池の淵で犬が子どもにじゃれついて ──── 2人ともザブン、と池に転落した、そこへミクセリクサーが通りかかった。
ミクセリクサーが助けようと池に飛び込んだ。だがミクセリクサー自身は溺れなくても、ジタバタもがく子どもと犬を、うまく池岸に揚げられない。
そこへもう1人の魔法少女候補生がやってきて、池岸に立って子ども、犬、と、順番に引き上げてくれた、というところだ。
子どもと犬は、しばらくして母親がクルマで迎えにやってきた。母親は2人に恐縮しきりに礼を言って、帰っていった。
まだ陽は残っていたが、ウィークディということもあるのか、他に人気がない。
「それじゃ、私は別の場所、巡回しに行くね」
「はーい! ありがとうございましたー!」
ブンブンと手を振るミクセリクサーと、そう言葉を交わした魔法少女が、踵を返した、その瞬間。
バシャッ
「──────── え」
ミクセリクサーに背中を見せた魔法少女の頭部が、左右の耳を通すかのように貫かれ、脳漿混じりの血飛沫が飛び散った。
その一部が、ミクセリクサーの髪や顔面にもかかる。
「え!? え!?」
唐突に起きたことに、ミクセリクサーは混乱する。
起きた事態そのものも理解できない。だが同時に、それを実行した力の原点が見当たらない。
ミクセリクサーが立ち竦んでいると、
「おめがミ
という声とともに、その姿が現れた。
見た目には、端正麗美な、美少女と言うよりは美女。白磁のような淡い肌、切れ長の耳が覗く、ピンクオレンジがかって見えるブロンド。中世欧風の衣装は、2つに分けた髪に薔薇を絡ませ、外套のように身に着けているように見える。
一見、儚げな雰囲気を漂わせているが、もし、ラ・ピュセルがこの彼女の姿を見たら、それに対して憎悪の混じった警戒の目を向けるだろう。
いや、今なら誰しもが恐怖を感じるはずだ。彼女は槍、というよりは、穂先に大きな返しがついているから銛と言うべきか、長柄の武器を手に持っていた。そして、その先端に血がべっとりとついている。
「は……ぅ……ぁ……」
脚はガクガクと震え、立ち竦んだままのミクセリクサーの表情が、恐怖に染まっていく。眼に涙が浮かぶ。
「おめさ恨みはねぇ。だはんで、ちぃとばし悪ぃな」
そう言いながら、エルフのような外見の女は、手に持っていた銛をミクセリクサーに向け、振り上げる。
「そこまでよ!」
声とともに、銛が弾き飛ばされた。
ザッ、と地面をこするような音が聞こえてきた方に、エルフ姿の女もミクセリクサーも視線を向ける。
手の指に色とりどりの宝石を挟んで持ち、その腕を胸の前で交差させたポーズをとる。
「戦場に舞う青い煌めき! ラピス・ラズリーヌ、今ここに参上!」
突然現れたラピス・ラズリーヌ
ミクセリクサーは、まだ怯えたような目でラズリーヌIIに視線を向けながら、その場でへたり込んでしまった。
「2対1でまともにやったら、分が悪ぃべ」
── この、訛り方!?
「へば、出直す」
エルフ姿の女がそう言うと、まるでその姿が消えていくかのように見えた。
「逃がさんっす!」
ラズリーヌIIは、エルフ姿の女が消えた場所へと、一気に距離を詰める。
せっかく買った
── 気配がある、存在が消えたわけじゃない!
そう思ったときには、身体が動いている。
キラキラ煌めく粉末を投げるように振りまいた。
「!」
粉末が散る空間に、
ヒュッ
ラズリーヌIIの姿が消えた、かと思うと、浮かび上がった人型の上を占める場所に出現する。
振り撒いた粉末は、ラズリーヌIIの宝石をすり潰したものだ。それでも、テレポートのマークとして利用できた。
ガツンッ!
強烈な肘打ちを入れた。思った通りの手応えがあった。
その瞬間、再びラズリーヌIIの姿が消える。
今度は人の背丈ほどの高さのところに姿を表した。
「はっ!」
頭部があるだろうと見られる場所に、膝蹴りを入れる。
ガツッ
「がっ!」
エルフ姿の女の声が聞こえた、が、
「おだづんでねぇ!」
ガシッ
「う!?」
手が出現し、ラズリーヌIIの足首を掴んだ。
ビタン!!
「がぁっ!」
ラズリーヌIIは、ハンマーを振り抜くかのように、強烈に地面に叩きつけられた。
「別に、おめら2人ぐれぇ、やろうと思えばどうにでもなるんだべ」
エルフ姿の女が姿を表した。
「ひっ!?」
ミクセリクサーが恐慌の声を漏らす。
「おれが
そう言いながら、銛をラズリーヌIIに突き立てようとする ────
「だめ、ですっ!」
──────── エルフ姿の女とラズリーヌIIとの間に、光とともにそれが出現した。
まるで童話の『不思議の国のアリス』に出てくるような、トランプカードに手足と頭のついたような兵士が槍を構え、エルフ姿の女に立ちはだかる。
トランプの柄は、スペードの3。
「邪魔だ、どげぇ!!」
出現したトランプの兵士だったが、エルフ姿の女が、一喝とともに振るった銛の穂先で引き裂かれてしまう。
だが ────
「っ……!」
その僅かな隙を突いて、ラズリーヌIIは低い姿勢でミクセリクサーに駆け寄る。その身体に抱きついて抱えると、そこでテレポートして姿を消した。
トントントントントントン……
妙に素早く、まな板の上の大根を包丁でいちょう切りにしていく。
「♪~」
鼻歌交じりに、豚汁の具が鍋の中に入れていく。
「そうちゃんが
華乃邸。
和室の出入口から、通路にもなっている台所で妙に楽しそうに料理する颯太の背中を、小雪が涙目になりながら見ていた。
「邪魔」
引き違い戸の開口部の一部を塞ぐ形になっていた小雪に、食器を和室に運んでいる華乃がそう言った。
華乃は、やれやれと言った様子で、卓袱台の上に食器を並べていきながら、
「手伝わないんなら ────」
と、言いかけたところで、
「ブルーコメットさん!」
そう、外から声が響いてきた。
颯太が、素早く動きつつも豚汁の鍋の火を絞ってから、勝手口から外へ出る。
「ミクセリクサー、それに……」
そのミクセリクサーに抱きついたまま、ぐったりしている。
「ラズリーヌ!」
「おかわりっす!」
そう言って、丼を差し出す。
華乃が、それを受け取り、アナログタイマー付の炊飯ジャーから、ご飯をよそるが、
「ご飯尽きた」
と、ラズリーヌIIの前に丼を差し出しつつ、先程炊きあげたばかりの、1升炊きの炊飯器がほぼカラになったことを告げた。
その最中には、ラズリーヌIIは豚汁のお椀を手に、口につけてかきこんでいた。
「大怪我したばかりでしょ……そんなに食べて大丈夫なの……」
小雪が、心配げに見ながら、呆然としたように言う。
「魔法少女が身体のダメージ回復するには、カロリー摂るのが手っ取り早いっすからねぇ」
そう言いながら、ご飯茶碗じゃ小さいとばかりに使っていた、白飯の盛られた丼を手にする。
「…………なんか、
颯太が苦笑しながらそう言った。
「あの、お風呂いただきました」
その声に、ラズリーヌII以外の3人が、そちらに視線を向ける。
ミクセリクサーがパジャマ姿になっていた。小雪の
── 変身の概念がない……
颯太は観察する。ミクセリクサーは、魔法少女が変身を伴うものだと言うことを知らなかった。普段からずっとこの衣装だと言っていた。
再変身でリフレッシュすることもできない。なので、ミクセリクサーの衣装は、華乃の就職祝いだと、つばめがどこからか拾ってきたトップオープンドラムの洗濯乾燥機で、珍しく乾燥まで使いながら洗濯しているところだった。
「…………」
「それで、容疑者は?」
「多分こいつだぽん、ほい」
ラ・ピュセルのマスター用マジカルフォンから出現していたネクに対して、華乃が促すように言うと、またしてもRF接続で、テレビにプロフィール画面が表示された。
「!」
その姿を見て、颯太の表情が戦慄に染まる。
「クラムベリー……い、いや、違うか……」
「魔法少女メルヴィル。人間としての名前は
ネクがそこまで説明すると、颯太は、
「手に触れられるものの色を変えられる……?」
と、呟いて、小首を
「もちろん自分自身の色も変えられるぽん」
「じゃあ、あのときも!」
ラズリーヌIIが興奮した様子の声を出す。
「周囲の景色に対して保護色になって消えようとしたんだぽん」
「完全に無色透明になるわけじゃないのか」
ネクの説明に、まず颯太が呟くように言うが、
「戦ってる最中にそれやられると、相手は混乱する」
と、華乃が淡白な表情と口調で言った。
「
「私も、
颯太のため息交じりの声に、食事を一段落させたラズリーヌIIが付け加えるように言った。
「視覚以外のものは誤魔化せないぽん」
「と、すると、この中で常にこいつを追えるとしたら……」
ネクの言葉に、颯太が口に出しながら、当の本人以外の全員の視線が向く。
「え!?」
小雪が、驚いたように目をパチクリさせた。
「ムリムリムリムリ! ラズリーヌが苦戦する相手なんか、私戦ったら死んじゃうよ!」
慌てきった小雪が、首を左右に振りながら、切羽詰まったような口調で言う。
「普段何かしら理由つけて鍛えようとしないから……」
颯太が、額に手を当てて、呟くように言った。
「そうなんすか?」
意外そうな表情になって、ラズリーヌIIが訊ねるように言う。
「トップスピードと組手をやって勝ったところを見たことない」
華乃が、小雪にジト目を向けながら、淡々と答えた。
「だって、ここにはそうちゃんもリップルもいるし ────」
「── って思ってるからこういうときに困ったことになるっす」
小雪の言い訳に、ラズリーヌIIまでも呆れたような表情になった。
すると、今度は小雪のほうが、少しムッとしたような表情になった。
「でも、私は、理想の魔法少女でいなきゃいけないし、そうちゃんがそう言ったんだし……」
「いやあれは」
颯太は、決まり悪そうな声を出すものの、そのままその先が詰まってしまう。
「それは、 “小雪の理想の魔法少女”」
「へ?」
華乃が淡々と言うと、小雪は、キョトン、としながら華乃を見る。
「視聴作品傾向的に、 “颯太に刺さる魔法少女” はスノーホワイトよりリップル」
「なっ!?」
華乃の言葉に、小雪は驚いたような声を出しながら顔色を失う。
「痴話喧嘩やってる場合じゃないぽん」
ネクが割って入るが、
「痴話喧嘩じゃない!」
と、華乃と小雪が完全に
「メルヴィルが犯人だとして、動機は?」
処置なしと言った表情になりつつ、颯太はネクに訊ねる。
「メルヴィルは、自身の選抜試験のマスターだったクラムベリーの信奉者だったぽん」
「またあいつの名前かよ」
ネクの説明に、颯太がうんざりしたような表情になる。
「クラムベリーとファヴについての調査で、クラムベリーの選抜試験に、外部から協力してたフシがあるんだケド……」
「なんでそんなのが野放しになってるんだよ!」
颯太が、思わず荒い声を出した。
「本人にまったく覚えがないんだぽん! 監査部が総掛かりで調べたけど、メルヴィルの記憶にまったくそのことが記憶されてないんだぽん!」
ネクも、抗議するかのような口調で言い返す。
「端末にもそんな履歴ないし、通信網にはメルヴィルとクラムベリーがやり取りしてた記録自体は残ってたケド、内容の記録まではないんだぽん! いくらなんでもこれじゃ立件はできないぽん!」
「端末って、じゃあクラムベリー側のは ────」
気がはやったように、颯太はそう言葉にしたものの、
「そうちゃんがファヴごと壊したでしょ」
「そうだった」
と、小雪に言われ、崩れるようなリアクションをした。
「とにかく、メルヴィルにしてもそれ以外の犯人にしても、放ったままにはしておけないぽん」
ネクが言う。颯太は深くため息を吐き出した。
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