魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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第13話

 ──── 2年前。東北地方某所。

「クラムベリーざ、()んだ……」

 マジカルフォンに表示されたメッセージを見て、愕然とする。

 憧憬の対象、力の象徴、自身と同系統の外観。そんな相手が、あっさりと亡くなった。それも、正式な魔法少女にもなっていない候補生に殺された。

 メッセージとともに、電子マジックスクロールが送られてきた。

「これば……」

 何があったのか、脳内が理解を拒んだ。

 そのうちに、またメッセージが送られてきた。

 

 クラムベリーを直接殺したスイムスイムとたまはやはり死んだ。

 だが、もう1人、クラムベリーの “殺し” から生き残ったやつがいる。

 魔法少女名はラ・ピュセル、本名は岸辺颯太。

 

「こいづぁ、あん時おれが助けだやづだ!」

 

 こいつが歪みとして残ったせいで、クラムベリー最後の “ゲーム” は4人も生き残ることになる。

 特にスノーホワイトはほとんど戦ってもいない。

 お前は “クラムベリー最後のゲーム” を完遂するべきだ。

 ただ、今すぐにはまずい。

 クラムベリーが死んだことで、監査部が動く危険性がある。

 そこで、まずマジカルフォンからクラムベリーとの連絡の履歴を全部消せ。そのあと、以前に送った電子マジックスクロールを使って、記憶を一時的に封印しろ。監査部の調査をやり過ごせ。その後 ────

 

 ──────── クラムベリーの殺しを完遂しろ。

 

 

「ラ・ピュセル ──── お前の勝ちじゃないぽん」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「今日はご協力、ありがとうございましたー!」

「こちらこそだよ」

 ミクセリクサーは、1人の魔法少女候補生と、両手で握手しながら、満面の笑顔で言葉を交わす。

 名深市西部総合体育館の裏手、大池を囲む遊歩道。

 その柵を越えて、飼い犬が池の淵まで向かっていってしまった。それを追って子どもも柵の内側に入っていった。池の淵で犬が子どもにじゃれついて ──── 2人ともザブン、と池に転落した、そこへミクセリクサーが通りかかった。

 ミクセリクサーが助けようと池に飛び込んだ。だがミクセリクサー自身は溺れなくても、ジタバタもがく子どもと犬を、うまく池岸に揚げられない。

 そこへもう1人の魔法少女候補生がやってきて、池岸に立って子ども、犬、と、順番に引き上げてくれた、というところだ。

 子どもと犬は、しばらくして母親がクルマで迎えにやってきた。母親は2人に恐縮しきりに礼を言って、帰っていった。

 まだ陽は残っていたが、ウィークディということもあるのか、他に人気がない。

「それじゃ、私は別の場所、巡回しに行くね」

「はーい! ありがとうございましたー!」

 ブンブンと手を振るミクセリクサーと、そう言葉を交わした魔法少女が、踵を返した、その瞬間。

 バシャッ

「──────── え」

 ミクセリクサーに背中を見せた魔法少女の頭部が、左右の耳を通すかのように貫かれ、脳漿混じりの血飛沫が飛び散った。

 その一部が、ミクセリクサーの髪や顔面にもかかる。

「え!? え!?」

 唐突に起きたことに、ミクセリクサーは混乱する。

 起きた事態そのものも理解できない。だが同時に、それを実行した力の原点が見当たらない。

 ミクセリクサーが立ち竦んでいると、

「おめがミ()()()()ーか」

 という声とともに、その姿が現れた。

 見た目には、端正麗美な、美少女と言うよりは美女。白磁のような淡い肌、切れ長の耳が覗く、ピンクオレンジがかって見えるブロンド。中世欧風の衣装は、2つに分けた髪に薔薇を絡ませ、外套のように身に着けているように見える。

 一見、儚げな雰囲気を漂わせているが、もし、ラ・ピュセルがこの彼女の姿を見たら、それに対して憎悪の混じった警戒の目を向けるだろう。

 

【挿絵表示】

 

 いや、今なら誰しもが恐怖を感じるはずだ。彼女は槍、というよりは、穂先に大きな返しがついているから銛と言うべきか、長柄の武器を手に持っていた。そして、その先端に血がべっとりとついている。

「は……ぅ……ぁ……」

 脚はガクガクと震え、立ち竦んだままのミクセリクサーの表情が、恐怖に染まっていく。眼に涙が浮かぶ。

「おめさ恨みはねぇ。だはんで、ちぃとばし悪ぃな」

 そう言いながら、エルフのような外見の女は、手に持っていた銛をミクセリクサーに向け、振り上げる。

「そこまでよ!」

 声とともに、銛が弾き飛ばされた。

 ザッ、と地面をこするような音が聞こえてきた方に、エルフ姿の女もミクセリクサーも視線を向ける。

 手の指に色とりどりの宝石を挟んで持ち、その腕を胸の前で交差させたポーズをとる。

「戦場に舞う青い煌めき! ラピス・ラズリーヌ、今ここに参上!」

 突然現れたラピス・ラズリーヌII(2)ndに対し、エルフ姿の女は、訝しむような、睨むような目を向ける。

 ミクセリクサーは、まだ怯えたような目でラズリーヌIIに視線を向けながら、その場でへたり込んでしまった。

 

【挿絵表示】

 

「2対1でまともにやったら、分が悪ぃべ」

 ── この、訛り方!?

「へば、出直す」

 エルフ姿の女がそう言うと、まるでその姿が消えていくかのように見えた。

「逃がさんっす!」

 ラズリーヌIIは、エルフ姿の女が消えた場所へと、一気に距離を詰める。

 せっかく買った(レイピア)だが、今は取り出している暇がない。

 ── 気配がある、存在が消えたわけじゃない!

 そう思ったときには、身体が動いている。

 

【挿絵表示】

 

 キラキラ煌めく粉末を投げるように振りまいた。

「!」

 粉末が散る空間に、人型(ひとがた)に粉末が入り込まない場所が浮かび上がる。

 ヒュッ

 ラズリーヌIIの姿が消えた、かと思うと、浮かび上がった人型の上を占める場所に出現する。

 振り撒いた粉末は、ラズリーヌIIの宝石をすり潰したものだ。それでも、テレポートのマークとして利用できた。

 ガツンッ!

 強烈な肘打ちを入れた。思った通りの手応えがあった。

 その瞬間、再びラズリーヌIIの姿が消える。

 今度は人の背丈ほどの高さのところに姿を表した。

「はっ!」

 頭部があるだろうと見られる場所に、膝蹴りを入れる。

 ガツッ

「がっ!」

 エルフ姿の女の声が聞こえた、が、

「おだづんでねぇ!」

 ガシッ

「う!?」

 手が出現し、ラズリーヌIIの足首を掴んだ。

 ビタン!!

「がぁっ!」

 ラズリーヌIIは、ハンマーを振り抜くかのように、強烈に地面に叩きつけられた。

「別に、おめら2人ぐれぇ、やろうと思えばどうにでもなるんだべ」

 エルフ姿の女が姿を表した。

「ひっ!?」

 ミクセリクサーが恐慌の声を漏らす。

「おれが退()ぐって言ったはんで、深追いしねばよかったんだ」

 そう言いながら、銛をラズリーヌIIに突き立てようとする ────

 

「だめ、ですっ!」

 

 ──────── エルフ姿の女とラズリーヌIIとの間に、光とともにそれが出現した。

 まるで童話の『不思議の国のアリス』に出てくるような、トランプカードに手足と頭のついたような兵士が槍を構え、エルフ姿の女に立ちはだかる。

 トランプの柄は、スペードの3。

「邪魔だ、どげぇ!!」

 出現したトランプの兵士だったが、エルフ姿の女が、一喝とともに振るった銛の穂先で引き裂かれてしまう。

 だが ────

「っ……!」

 その僅かな隙を突いて、ラズリーヌIIは低い姿勢でミクセリクサーに駆け寄る。その身体に抱きついて抱えると、そこでテレポートして姿を消した。

 

 

 トントントントントントン……

 妙に素早く、まな板の上の大根を包丁でいちょう切りにしていく。

「♪~」

 鼻歌交じりに、豚汁の具が鍋の中に入れていく。

「そうちゃんが()()()()私の上位互換になっていく……」

 華乃邸。

 和室の出入口から、通路にもなっている台所で妙に楽しそうに料理する颯太の背中を、小雪が涙目になりながら見ていた。

「邪魔」

 引き違い戸の開口部の一部を塞ぐ形になっていた小雪に、食器を和室に運んでいる華乃がそう言った。

 華乃は、やれやれと言った様子で、卓袱台の上に食器を並べていきながら、

「手伝わないんなら ────」

 と、言いかけたところで、

「ブルーコメットさん!」

 そう、外から声が響いてきた。

 颯太が、素早く動きつつも豚汁の鍋の火を絞ってから、勝手口から外へ出る。

「ミクセリクサー、それに……」

 そのミクセリクサーに抱きついたまま、ぐったりしている。

「ラズリーヌ!」

 

「おかわりっす!」

 そう言って、丼を差し出す。

 華乃が、それを受け取り、アナログタイマー付の炊飯ジャーから、ご飯をよそるが、

「ご飯尽きた」

 と、ラズリーヌIIの前に丼を差し出しつつ、先程炊きあげたばかりの、1升炊きの炊飯器がほぼカラになったことを告げた。

 その最中には、ラズリーヌIIは豚汁のお椀を手に、口につけてかきこんでいた。

「大怪我したばかりでしょ……そんなに食べて大丈夫なの……」

 小雪が、心配げに見ながら、呆然としたように言う。

「魔法少女が身体のダメージ回復するには、カロリー摂るのが手っ取り早いっすからねぇ」

 そう言いながら、ご飯茶碗じゃ小さいとばかりに使っていた、白飯の盛られた丼を手にする。

「…………なんか、出前(デリバリー)頼もうか」

 颯太が苦笑しながらそう言った。

「あの、お風呂いただきました」

 その声に、ラズリーヌII以外の3人が、そちらに視線を向ける。

 ミクセリクサーがパジャマ姿になっていた。小雪の()()()()()だが、丈はなお余っていてぶかぶかだった。

 ── 変身の概念がない……

 颯太は観察する。ミクセリクサーは、魔法少女が変身を伴うものだと言うことを知らなかった。普段からずっとこの衣装だと言っていた。

 再変身でリフレッシュすることもできない。なので、ミクセリクサーの衣装は、華乃の就職祝いだと、つばめがどこからか拾ってきたトップオープンドラムの洗濯乾燥機で、珍しく乾燥まで使いながら洗濯しているところだった。

「…………」

「それで、容疑者は?」

「多分こいつだぽん、ほい」

 ラ・ピュセルのマスター用マジカルフォンから出現していたネクに対して、華乃が促すように言うと、またしてもRF接続で、テレビにプロフィール画面が表示された。

「!」

 その姿を見て、颯太の表情が戦慄に染まる。

「クラムベリー……い、いや、違うか……」

「魔法少女メルヴィル。人間としての名前は久慈(くじ)真白(ましろ)。魔法は “色を自由に変えられるよ”。手に触れられるものの色を好きに変えられるぽん」

 ネクがそこまで説明すると、颯太は、

「手に触れられるものの色を変えられる……?」

 と、呟いて、小首を(かし)げた。

「もちろん自分自身の色も変えられるぽん」

「じゃあ、あのときも!」

 ラズリーヌIIが興奮した様子の声を出す。

「周囲の景色に対して保護色になって消えようとしたんだぽん」

「完全に無色透明になるわけじゃないのか」

 ネクの説明に、まず颯太が呟くように言うが、

「戦ってる最中にそれやられると、相手は混乱する」

 と、華乃が淡白な表情と口調で言った。

ラ・ピュセル(ボク)とリップルにはきつい相手だなぁ……」

「私も、()()気配だけで追えって言われたら難しいっす」

 颯太のため息交じりの声に、食事を一段落させたラズリーヌIIが付け加えるように言った。

「視覚以外のものは誤魔化せないぽん」

「と、すると、この中で常にこいつを追えるとしたら……」

 ネクの言葉に、颯太が口に出しながら、当の本人以外の全員の視線が向く。

「え!?」

 小雪が、驚いたように目をパチクリさせた。

「ムリムリムリムリ! ラズリーヌが苦戦する相手なんか、私戦ったら死んじゃうよ!」

 慌てきった小雪が、首を左右に振りながら、切羽詰まったような口調で言う。

「普段何かしら理由つけて鍛えようとしないから……」

 颯太が、額に手を当てて、呟くように言った。

「そうなんすか?」

 意外そうな表情になって、ラズリーヌIIが訊ねるように言う。

「トップスピードと組手をやって勝ったところを見たことない」

 華乃が、小雪にジト目を向けながら、淡々と答えた。

「だって、ここにはそうちゃんもリップルもいるし ────」

「── って思ってるからこういうときに困ったことになるっす」

 小雪の言い訳に、ラズリーヌIIまでも呆れたような表情になった。

 すると、今度は小雪のほうが、少しムッとしたような表情になった。

「でも、私は、理想の魔法少女でいなきゃいけないし、そうちゃんがそう言ったんだし……」

「いやあれは」

 颯太は、決まり悪そうな声を出すものの、そのままその先が詰まってしまう。

「それは、 “小雪の理想の魔法少女”」

「へ?」

 華乃が淡々と言うと、小雪は、キョトン、としながら華乃を見る。

「視聴作品傾向的に、 “颯太に刺さる魔法少女” はスノーホワイトよりリップル」

「なっ!?」

 華乃の言葉に、小雪は驚いたような声を出しながら顔色を失う。

「痴話喧嘩やってる場合じゃないぽん」

 ネクが割って入るが、

「痴話喧嘩じゃない!」

 と、華乃と小雪が完全に()()()()言い返す。

「メルヴィルが犯人だとして、動機は?」

 処置なしと言った表情になりつつ、颯太はネクに訊ねる。

「メルヴィルは、自身の選抜試験のマスターだったクラムベリーの信奉者だったぽん」

「またあいつの名前かよ」

 ネクの説明に、颯太がうんざりしたような表情になる。

「クラムベリーとファヴについての調査で、クラムベリーの選抜試験に、外部から協力してたフシがあるんだケド……」

「なんでそんなのが野放しになってるんだよ!」

 颯太が、思わず荒い声を出した。

「本人にまったく覚えがないんだぽん! 監査部が総掛かりで調べたけど、メルヴィルの記憶にまったくそのことが記憶されてないんだぽん!」

 ネクも、抗議するかのような口調で言い返す。

「端末にもそんな履歴ないし、通信網にはメルヴィルとクラムベリーがやり取りしてた記録自体は残ってたケド、内容の記録まではないんだぽん! いくらなんでもこれじゃ立件はできないぽん!」

「端末って、じゃあクラムベリー側のは ────」

 気がはやったように、颯太はそう言葉にしたものの、

「そうちゃんがファヴごと壊したでしょ」

「そうだった」

 と、小雪に言われ、崩れるようなリアクションをした。

「とにかく、メルヴィルにしてもそれ以外の犯人にしても、放ったままにはしておけないぽん」

 ネクが言う。颯太は深くため息を吐き出した。

 





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