魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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第15話

 早朝。

 華乃邸、洋間。

 小雪はふっと目を覚ます。

「…………」

 身を起こす。

 客用の四幅(よの)布団の隣にはミクセリクサーが寝ている。小雪のパジャマを着ている以外は魔法少女姿のままだが、ぐっすりと寝こけている。

 視線を移すと、ラピス・ラズリーヌII(2)ndが、こちらは衣装も魔法少女のもののまま、レイピアを抱いた状態で、座りつつも壁にもたれかかって寝息を立てている。

 ── 本当に変身したまま寝られるんだ。

 小雪は胸中で呟いた。

 変身した姿のまま寝るのは隣にいるミクセリクサー、それと颯太、ラ・ピュセルがそうだが、この2人はそもそも “元の姿なるものがない” という特殊例だ。

 ラズリーヌIIはそうではない。米田瑠璃の姿は小雪も見ている。

「…………」

 少し考えてから、小雪は布団から抜け出した。

 

【挿絵表示】

 

 自分の着替えが入れてある、開き戸の収納を開ける。引き出し式のカラーボックスからオーバーサイズのTシャツと、中学時代のジャージの下を取り出して、ピンク色のパジャマから着替える。

「よいしょっと……」

 脱いだパジャマは、纏めて洗う、という華乃の言葉に甘えることにする。というか、

「小分けにして洗うとかえって電気代と水道代の無駄だから、よっぽどデリケートなもの以外は分けて回すな」

 と、華乃に言われていた。

 部屋を出ようとして、

「どこ行くっすか?」

 と、ラズリーヌIIの声がかけられた。

 小雪が振り返ると、先程とほぼ同じ姿勢のまま、視線を小雪に向けていた。

「あ、起こしちゃった?」

「まぁ、至近距離でゴソゴソやられてりゃあ」

 部屋は面積四畳半相当で、決して広くはない。どれだけ距離をとって着替えようとしても、限界がある。

「で、どこ行こうとしてたっすか?」

「あ、ちょっとコンビニに……」

 ラズリーヌIIが問い質すと、小雪はそう答える。

 すると、ラズリーヌIIは軽くため息を吐きつつ、立ち上がる。

「なら、私も一緒に行くっす」

「えっと」

「現状、メルヴィルのヘイトが一番強く向いているのがスノスノっす。1人で行動させるわけにはいかないっす」

 そう言われて、小雪は僅かに逡巡してから、

「うん、じゃあお願いするね」

 と、やや苦笑気味の笑顔になってそう言った。

 玄関から外に出る。

「スノスノも変身しとくっす」

「え?」

 ラズリーヌIIの言葉に、小雪は反射的に訊き返す。

「魔法少女としてはどうでも、少なくとも生身の姿のままよりはずっと安全っす」

「あ、そっか」

 ラズリーヌIIの言葉に納得して、小雪はスノーホワイトに変身した。

 朝靄がかかっている。光を反射して景色を幻想的に演出していたが、視程はクリアとは言い難い。明るさは充分だったが、通りかかるクルマはヘッドライトを()けていた。

 住宅街の路地を、幹線県道に向かって歩く。

「そう言えば」

 並んで歩きながら、スノーホワイトが切り出した。

「ん?」

「ラズリーヌは、随分鍛錬っていうか、修行? みたいなのしたんだよね?」

「まぁ、他人からは苦行とか言われる程度にはっす」

「苦行…………」

 ラズリーヌIIの答えを聞いて、スノーホワイトは絶句しかける。

 すると、ラズリーヌIIは、後頭部に両手を回して、僅かに苦笑交じりの笑顔になった。

「ま、私にとってはあんまり苦しくないんすけどね。自分でやり始めたことは勢いで乗り切れっちゃうんす」

 あっけらかんと言う。

「そうなんだ」

「私に言わせりゃ、ラピュっちの方がよっぽど無体っすよ」

「え? そうなの?」

 ラズリーヌの言葉に、小雪が意外そうな顔をする。

「スノスノ、最初に変身した時、力加減どうだったっすか?」

「あ……軽くジャンプして、天井にぶつかっちゃった」

「今は加減できてるっすよね?」

「うん」

「でも、気が緩んだらどうなるっすか?」

「多分、なにか壊すとか、踏み抜くとか……────」

 そこまで言いかけて、スノーホワイトも気付いた。

「── あ、じゃあ、今のそうちゃんって」

「スノスノから見てる限りで、生活の中でなにか壊しまくったりしてるっすか?」

 ラズリーヌIIの問いかけに、スノーホワイトは首を左右にふる。

「してない」

「つまりそういうことっす。24時間ずっと制御してるんすよ。しかもあの分だと、無意識に」

「そうちゃんが……」

 いつの間にか、ラズリーヌIIの表情が僅かに険しいものになっていた。

「確か、2年前っしたよね、スノスノ達が魔法少女になったの」

「あ、うん」

 ラズリーヌIIの問いに、スノーホワイトは反射的に肯定の返事をする。

「それから2年間、途切れず常に神経にとんでもない負荷かけて制御してるってことっすからね。どんだけ成長してるのかって話っすよ」

「そんなに……」

「本人謙遜してるっすけど、クラムベリーあたりの相手は、今のラピュっちなら初手ミスったら大事故っすよ」

 そこまで言って、ラズリーヌIIは少し表情を崩した。

 ──── クルマも途切れ、朝靄の中、周囲に2人だけになったかのようになった。

『こっぢさ向ぐな……こっぢさ向ぐな……』

「!」

 スノーホワイトが立ち止まり、 “声” のした方を振り返った。

「どうしたっすか?」

 ラズリーヌIIは表情を険しくし、スノーホワイトに問いかける。

「こっちの方から、 “声” が……」

 バシャン!

 スノーホワイトが示した方向とは反対側から、水音がした。

 背後には、中宿・北宿の境を流れ、市街地を抜けて河口に至る(とう)(ばい)川、それと並走する用水路があった。何かがそこへ落下した音に聞こえた。

 ラズリーヌIIの表情が険しさを増す。睨むような目つきで、振り返った。

「スノスノ、私から離れちゃダメっす!」

 そう言いながら、レイピアを構える。

 だが、返ってくる声はそれを裏切り ────

「は、もがっ!」

「スノスノ!?」

 ガサガサガサガサッ

 返事しかけたスノーホワイトの声が、途中で塞がれたかのようなものになったかと思うと、何かが離れていく音がする。ラズリーヌIIが振り返ったときには、そこにスノーホワイトの姿はなかった。

 

 

「スノーホワイトのマジカルフォン発見。スノーホワイトのバイタル確認したぽん」

 和室の卓袱台に置かれたマスター仕様マジカルフォンから出現しているネクが、そう伝える。

 華乃と、寝泊まりする時の颯太が使う四幅布団は、収納に片付けきらず、()()()にした状態で、部屋に寄せてあった。

「私がついていながらっす」

 ラズリーヌIIは、普段のどんなときでも弾むような口調の軽さが消え、消沈している。

「でも、スノーホワイトを憎んでいたのにすぐに殺していないってことは……」

「罠だろ、どう考えても。わかりやすすぎるぐらいだ」

 颯太の言葉に続いて、()()()()()()()()()()トップスピードが、その姿のまま、険しい表情で言った。

「でも、ミクセリクサーの話じゃ ────」

 颯太は、パジャマ姿のまま割座で座っているミクセリクサーの頭をぽんぽんとしながら、言う。

「── ()()()()()は避けるタイプみたいでしたけど」

「現在地はわかる?」

 華乃が、ネクに訊く。

「地図と照らし合わせると……小型地区、高波山の麓の森林地帯だぽん」

「まずいな、各個撃破できる自信があってフィールド選択してるぞ、これ……」

 卓袱台に頬杖を突いてしまいながら、颯太は苦い顔をした。

 華乃が、「チッ」と舌打ちをしてから、言う。

「いつまでもスノーホワイトを生かしておくかの保証もない」

 ミクセリクサーは、不安そうな表情でオロオロとしている。

「とりあえず、現地の近くに移動しながら考えるか」

 そう言って、颯太が立ち上がる。

「じゃあ、オレは先に」

 トップスピードがそう言い、先んじて玄関の方に移動しようとする。

「トップスピード」

「わーかってる。1人で特攻しねぇから」

 華乃の声に、トップスピードはそう答えた。

「…………あれ?」

 そこで、颯太が気付いた。

「ラズリーヌは!?」

「え?」

 全員で、室内を見渡すようにする。

 トップスピードが、無い右手で顔を覆おうとする動きをした。

「あのバカ…………!」

 

 高波山の麓の森林地帯、小型地区。小型はなにかの大小ではなく、そういう地名だ。

 センターラインのある県道沿いに、今は使われていない、道路工事業者の資材置き場があった。

 プレハブではあるものの、少ししっかりした2階建てのオフィスがある。

 ただし、放擲されてからの時間経過の結果か、ガラス窓はほとんどが割れてしまっている。

 錆の浮かんだパイプ椅子に、スノーホワイトが座らされている。鎖で雁字搦めに縛られていた。ただ、スノーホワイトでもこれを力任せに(ほど)こうとすればできないでもない。

 だが、────

「逃げようとすれば、すぐ殺す。まいねぞ」

 メルヴィルはそう言って、銛の穂先をスノーホワイトに突きつけながら、しきりに外の様子を伺っていた。

 カラン、カラン

「!?」

 何かが床に落下する音が聞こえた、かと思うと、

「ラピス・ラズリーヌ、白い乙女を助けるために只今参上」

 決めポーズとしつつも、レイピアの切っ先を敵に向ける姿勢で、静かに口上した。

 

 キュルル……ヴォン!

 セルモーターの音とともに、F6A型エンジンが目覚める。ブースト計の針が負圧に倒れる。

「途中にネズミ捕りいねぇか、見ながら飛んでくわ!」

 トップスピードはそう言って、ラピッドスワローにまたがり、飛び立つ。

 華乃の左手がギアを1速に入れる。タコメーターの針が起き上がり、ブースト計が正圧に跳ねる。

 助手席に颯太、後部座席にミクセリクサーを乗せて、華乃のセルボは急発進した。

 

『これ、何かあったときのために持っててほしいっす』

 家を出る時、小雪がスノーホワイトに変身した直後、ラズリーヌIIはそう言って、オレンジ色の宝石をスノーホワイトに渡していた。

 スノーホワイトがそれを後ろ手に床に転がした。そこへ、ラズリーヌIIが出現したのだ。

 ── スノスノ抱えて跳ぶつもりっしたけど、室内なら……!

「おだづな、おめから先に殺すべ!」

 メルヴィルが、銛を構えてラズリーヌIIへと向かう。

「ちょっと乱暴にするっす」

 ガンッ

「きゃっ!?」

 ラズリーヌIIは、メルヴィルの初撃をレイピアで受け流して回避しつつ、スノーホワイトが座らせられていた椅子を蹴飛ばし、椅子ごとスノーホワイトを転ばせた。

「そのまま頭低くしてるっす!」

 そう言って、ラズリーヌIIは左手で何か、複数の物体を床に向かって叩きつけるように投擲した。

「な!?」

 メルヴィルが一瞬怯んだ。

 魔法少女の腕力で投げつけられた、自作スーパーボールが無軌道に室内を跳ね回る。

「なんだ、これば!?」

 シュッ

「っづぅ!!」

 メルヴィルの肩が浅く切りつけられた。

 自作スーパーボールに埋められた、ラズリーヌIIの宝石の欠片に向かって、ラズリーヌII自身がテレポートで跳躍する。メルヴィルの直近を掠めたボールに跳躍し、攻撃する。

「ごんの……」

 メルヴィルが保護色になり、室内の景色に溶け込み、姿を消す。

 ── いや!

 ラズリーヌIIは、高速で思考しながらも慌てずに室内を把握する。

 柱も壁も、放置された調度品もない場所で、ボールが跳ね返っているのを捉えた。

「そこっ!」

「ぐっ!?」

 ラズリーヌIIが、鋭くレイピアをひと突きすると、メルヴィルのくぐもった声が聞こえてきた。

「へば、これならどうだべ!?」

「!」

 次に声が聞こえてきたのは、スノーホワイトが倒れ込んでいるあたりだった。

 声とスーパーボールの跳ね返りが示すメルヴィルの位置は、ラズリーヌIIから見てスノーホワイトを挟んで反対側だ。

「動ぐな! 動いだら、こいつ殺すはんでな!」

「…………ッ!」

 ラズリーヌIIの動きが、一瞬怯み、立ち尽くしかける。

 ガシャーンッ!!

 残っていた窓サッシを破壊しながら、黒い影が飛び込んでくる。

「ひゃっ!?」

「腹に力入れろ壁を破る!」

 ラピッドスワローをテールスライドさせて横向きにしながら、トップスピードがそう怒鳴りつつ、スノーホワイトを椅子ごと掻っ攫う。そのまま、────

 バキャアッ!!

 ──── 予告したとおりに反対側の壁を破って、脱出した。

「おだづなァ!!」

 メルヴィルは、ラズリーヌIIに向かって銛の突きを繰り出す。

「くっ!」

 キンッ

 レイピアで銛を流すように弾く。

 メルヴィルの鋭い突きを、2度まで弾いたが、

 ビュッ

「ぐぅっ!」

 メルヴィルが一歩踏み込んで繰り出した一撃が、ラズリーヌIIの利き手を傷つけ、手の平から甲へと貫いた。当然、レイピアを取り落とす。

武器(エモノ)ぁ、付け焼き刃でどうにかなるもんでねぇんだじゃ!」

 そう言いながらも、メルヴィルの気配が離れていくのを感じた。

 

『トップスピードがスノーホワイトを救出したぽん!』

「じゃあ……」

『でも、今度はラズリーヌIIが追い詰められてるぽん!!』

 颯太の言葉とともに安堵しかけた車内の面々に対して、ネクはまだ切羽詰まった声をあげる。

 華乃はセルボを路肩に寄せて停める。

 もう、魔法少女の視力なら現場を直視できる距離だった。

 運転席と助手席から、リップルとラ・ピュセルに変身しながら、車外へ飛び出す。

 

「逃げる ────」

 ラズリーヌIIはそう言いつつ、左の手元にそれを持つ。

「逃しゃあしないっす!」

 宝石の粉末を、メルヴィルに向かって振りかける。

「このっ!」

 極短距離をテレポートしたラズリーヌIIは、傷ついた手の代わりに、フライングレッグシザースの要領で、両脚でメルヴィルにしがみついた。

 

「剣を ────」

 トップスピードが破った窓から、メルヴィルらしき背中が見えた時、ラ・ピュセルがそう言いながら剣を取り出すが、

「ダメだ!」

 揉み合っているらしく、ラズリーヌIIの背中も見えた。

「体勢次第でラズリーヌに当たる!」

 リップルの魔法は、視覚に捉えられている相手に対しどんな距離でも必中だが、今の状況だと、投擲後にラズリーヌIIが手前側になったらもろとも貫いてしまう。

「投げる」

 リップルは言い、ラ・ピュセルに寄る。

「いや、でも」

「構えて」

「え?」

 ブンッ!

 次の瞬間、背負投げでもするかのように、リップルは()()ピュ()()()()()()()

 

【挿絵表示】

 

 

「ごんの!」

 自分に脚でしがみつくラズリーヌIIに向かって、メルヴィルは銛で突こうとする。

 メルヴィルが振りかぶった時、────

 ドガァッ

「なん、ごっ」

 先程トップスピードが破っていった破孔から、白と金と黒と青の物体が高速で飛び込んできて、メルヴィルの顔面にぶつかった。

 メチャクチャになった調度品の中から、ラ・ピュセルが剣を手に立ち上がる。

 メルヴィルも立ち上がろうとするが、ラズリーヌIIが脚でしがみつき続け、遅れる。

「逃したら元も子もないっす、私ごと斬れ!」

 ラ・ピュセルの判断が先だったのか、ラズリーヌIIの叫びが先だったのか ────

 確かなのは、次の瞬間にラ・ピュセルが、両手で握った剣で、メルヴィルを袈裟斬りにしたことだった。

「ぐぁあぁぁっ!」

 メルヴィルは声を上げなかった。

 だが、この鮮血は確かに、深く捉えて斬った。

 響いたのは、ラズリーヌIIの苦悶の声だった。

「ラズリーヌ!」

 体勢を立て直したラ・ピュセルが、それを見る。

「うっ……!」

 ラ・ピュセルが、短く呻くような声を出す。

 ラズリーヌIIは、メルヴィルの胴もろともに左膝を切断され、左下腿部を失った姿になっていた。

 

【挿絵表示】

 

「そんな、ボク、また……」

『しっかりするぽん! ラ・ピュセル!』

 トップスピードが右腕を失った時を思い出し、思考が乱れかけたラ・ピュセルを、声だけのネクが叱咤する。

「そうだ……リフレッシングブリーズ!」

 我に返ったラ・ピュセルが、その名前を出す。

 彼女の魔法なら脚を元通りにできるかもしれないと、考えた。

『捜索、セルボのところまで呼び出すぽん!』

「よし……」

 リフレッシングブリーズ呼出をネクに任せたラ・ピュセルは、ラズリーヌIIの左下腿部を回収し、さらにラズリーヌIIの身体を横抱きに抱え上げた。

「へ、お姫様抱っこは、()()()()だったんすけどね……」

「今は無理して喋らないで!」

 そう言いながら、ラ・ピュセルは、窓の破孔から、飛ばされてきた方へと向かって跳躍した。

 ────……もし、ラズリーヌIIの負傷にラ・ピュセルの意識が奪われていなければ、気付いたかもしれない。

 だが、実際はただ、斬った悪党とだけ記憶に残った。

 久慈真白は、その場でただ、物言わぬ姿へとなっていった。

 





初披露、必殺『そうちゃんスロー』

具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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