魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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第16話

「…………」

「…………」

 華乃邸。

 居室の中に、悲壮感のある空気が漂っている。

 和室の中には、 “本来、変身を解除している状態” の颯太と、華乃、小雪、それに、変身したままのトップスピード、リフレッシングブリーズ、ラピス・ラズリーヌII(2)ndがいる。

 ミクセリクサーは、洋室ですでに休んでいた。刺激が強くて緊張が続いたためだろうか、ぐっすり寝ている。

「あの、リフリー?」

「は、はい」

 片脚のまま、壁に寄りかかるかたちで座っているラズリーヌIIが、リフレッシングブリーズを呼んだ。

 最初は「ブリっち」と呼ぼうとしたが、リフレッシングブリーズが嫌そうな反応をしたので、思いついた第2案だ。

「ありがとうっす、助かったっす」

「そ、そんな。期待通りのことができなくて、申し訳ないです」

 ラズリーヌIIに言われて、リフレッシングブリーズは、慌てて両手を振りながら、謝罪するように返す。

 

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 リフレッシングブリーズの “好きな人の怪我を治せるよ” でも、出血を止めて傷口を塞ぐことはできても、一度切断された下腿部を再接続することはできなかった。

「…………?」

 華乃は、少し訝しそうにトップスピードの方を見てから、

「……トップスピードの時より出血が激しかった。リフレッシングブリーズが来てくれなかったら危なかったかもしれない」

 と、リフレッシングブリーズにそう言った。

「…………」

「…………さてと、そろそろ帰るが、その前に ────」

 それまで沈黙していたトップスピードが、そう言って動き始め、颯太のところまで歩いてくる。

 颯太は、卓袱台に片手を乗せて、背中を丸めて深く俯いていた。トップスピードは、その屈んでいる胸元に手を突っ込み、胸倉を掴んで引きずり上げる。

「この野郎、オレの時とまったく同じ反応しやがって!!」

「ぐ、ぐぐっ」

 颯太は苦しそうな声を出すが、トップスピードは怒りの形相で言う。

「あの時お前がいなかったらオレはどうなってた!? リップルは!? 今回もだ! お前がいなかったらラズリーヌはどうなってたか考えないのか! メルヴィルを取り逃がしたらどうなってたか考えられないのか!!!?」

「そ……れは……」

 トップスピードが問い質すように怒鳴りつけると、颯太は、苦しそうにしつつもくぐもった声を漏らす。

「救った側にそんなウジウジウジウジされてたら、救われた方はどんな顔すりゃいい!?」

「う…………」

「…………」

 部屋の隅で俯いていた小雪が、ちらりとトップスピード達を見た。

「…………ふん」

 締め上げたまま颯太を睨みつけた後、トップスピードは少し乱暴に颯太を放した。

「じゃ、こんな時で(わり)ぃがオレは一旦帰るぜ。子ども親に預けとくのも限界だからな」

 そう言って、トップスピードは部屋を出て、玄関へ向かっていった。玄関を出る時、少し激しい、叩きつけるような扉の音が響いてきた。

「築年古いんだからやめて欲しい」

 糸目になった華乃が、トップスピードの出ていった方を見送りつつ、呆れたようにそう言った。

「でも、トップスピードの言うとおりっす」

 少し低い声で、ラズリーヌIIが言う。

 颯太が視線を向けると、ラズリーヌIIは少し険し目の表情を向けていた。

「私は斬れと言ったっす。ラピュっちはそのとおりにしただけっす」

「でも……」

 ラズリーヌIIの言葉に、しかし、颯太は視線を床に這わせがちにしてしまう。

「ラピュっちの今の態度は、私が言ったことに責任もてないって言われてるのと同じっす」

「…………ごめん」

 颯太は、そうは言うものの、まだ顔は俯きがちなままだ。

「すぐに割り切れるものでもないだろ」

 華乃が、颯太を擁護するようにそう言った。

「まぁ ────」

 ラズリーヌIIは、表情の険を取り、緩める。

「── それも解るっす。ただ、トップスピードが言ってくれたから、私からも言っておいた方がいいと思っただけっす」

 そう言って、軽くため息を吐いた。

 

「私が、弱かったから」

 

 

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「それより」

 少し表情を引き締め直して、ラズリーヌIIが言う。

「ネク、出てくるっす」

『ラ・ピュセル』

「あ、そうか」

 ネクの声だけが聞こえてくると、ラ・ピュセルはマスター仕様マジカルフォンを取り出し、卓袱台の上に置いた。

 ポンッ、と音を立てるかのように、ネクが出現した。

 そのネクに、ラズリーヌIIが鋭く視線を向ける。

「アカネをここに連れてきたやつと、メルヴィルの言ってた “依頼主” は、同一人物っすね?」

「…………」

 ラズリーヌIIに問い質されて、ネクは、僅かな間、俯くように下に傾いて沈黙するが、やがてボソボソと、

「……断言はできないケド、と言ったところだぽん」

 と、言った。

「え、──…………」

 リフレッシングブリーズが絶句する。

「意図はなんっすか?」

 ラズリーヌIIが問う。

「選抜試験に死の圧力をかけるためだぽん」

「なんだって!?」

 颯太は、それまでの気落ちした様子から一転、目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。

「いったい、誰がそんなこと!?」

「今はネクにもはっきり言えないぽん! 疑わしい人物や組織が複数あって特定できないぽん!! 下手に今どこかに疑いを向けたことが解るとかえって候補生の危険度が跳ね上がるぽん! そういう相手だぽん!」

「落ち着いて」

 颯太の問いに慌てたネクが一気にまくしたてると、華乃がそこへ割って入り、2人を宥めるように言ってから、

「動機は?」

 と、ネクに問いかけた。

「それも……だいたいは、としか……」

 華乃のどこか単調な声での問いかけに、ネクはそう答える。

「話せるところだけ順番に話せ」

「はい。…………そもそもラ・ピュセルがこの選抜試験のマスターに選ばれたところにもう悪意があるぽん」

「どういうことだよ?」

 颯太が訊き返す。

Cranberry(クラムベリーの) children(子どもたち)の中でも、生き残りつつ、2()()()()()()()()だと思われていたからだぽん」

「変身が解けないからって?」

「そうだぽん」

 颯太が確認するように問うと、ネクはそれを肯定した。

「一番酷いのはアカネってことか?」

「多分そうだぽん。でも、アカネは情緒が壊れてしまって制御できないぽん」

 華乃の問いかけに、ネクはそう答えた。

「ああ、もう、どいつもこいつも! 世間一般的な価値観に当てはめてボクを不幸扱いしやがって!」

 頭を両手で掻くようにしながら、颯太は声を荒げる。

「何が腹立つって自分の幸福を不幸だろと上書きしようとされること程頭に来ることってそうそうないんだよな。こうなってからよっく解ったよ!」

「トップスピードの腕のことを未だに引きずってる颯太も大概」

 怪気炎を上げた颯太だったが、華乃にそう言われて固まった。

「実際計画したやつの計算違いだったぽん。ラ・ピュセルはクラムベリーの路線を踏襲しなかったぽん」

「実地調査の不足」

 華乃が、淡々としながらも明らかに呆れたように言った。

「そうだぽん。だから……この先は、さっき言ったとおりネクも推測以上のことは言えないぽん」

「いいから話すっす」

 ラズリーヌIIが促す。

「アカネは多分、市内に死臭を放つと同時に、それがラ・ピュセルとミクセリクサーに紐付いてると思わせるのが目的だぽん」

「そ、そんなことの為に!?」

 ネクの言葉に、リフレッシングブリーズが、驚きつつも憤りの混じった声を上げた。

「そんなことの為に、あいつは殺されたっていうの!?」

 アプリコット・アプリコットのことを思い返しながら、荒い声を出した。

「落ち着いて」

 小雪が寄って、リフレッシングブリーズの背中を擦って落ち着かせようとする。

「……はぁ……はぁ……すみません」

「……続けて」

 リフレッシングブリーズが息を整えたところで、華乃がネクに促す。

「メルヴィルは、もっと直接的にラ・ピュセルとミクセリクサーに死の脅威を向かわせる “第2段階” だと思うぽん」

 ネクはそう言いつつ、俯くように下に傾く。

「…………」

 颯太が絶句している。

「あ、あくまで、これはネクの推理だぽん! 100%正しいわけじゃないぽん!!」

「それで」

 慌てて声を出すネクに、ラズリーヌIIが、彼女にしては低い声を向ける。

「そもそもの根本的な動機はなんなんっすか? アカネやメルヴィルをここに連れてきたやつの」

「それは……」

 問われて、ネクは、ほぼ垂直になるまで下に傾き、まるで苦しそうに、しばらくくるくると左右に回ってから、上向きになる。そして、颯太に視線を向けた。

「ミクセリクサーは人造魔法少女なんだぽん」

「な!?」

 颯太とラズリーヌIIが声を上げ、そして全員が絶句した。

「人造魔法少女……」

 華乃が、ようやく絞り出すように、声を反芻した。

「言葉からすると……つまり、最初から魔法少女の……それも、製作者のデザインした魔法少女を造ったってことですか」

 リフレッシングブリーズが問い返す。

「そのとおりだぽん」

「そんな……酷い……」

 小雪が、口元に手を当てながら言う、が、

「…………」

「…………」

 颯太と華乃が顔を見合わせあってから、颯太が軽くため息を吐く。

「とりあえず酷いかどうかは保留にしておこうか」

「そうちゃん!?」

 指を振りながら言う颯太に、小雪が素っ頓狂な声を上げた。リフレッシングブリーズも軽く驚いたように目を(まる)くして颯太を見る。

「そもそも魔法少女の姿とか身体とか、それ自体、人工的に造ったようなもんだろ」

「それは……確かにそうだぽん。魔法少女になる人間の素養と自身のイメージを反映してつくられた姿だぽん」

 颯太の言葉に、ネクは、どこかおずおずとしながらも、肯定の説明を返した。

「特にボク達と、リフレッシングブリーズ達は、ゲーム内でデザインしたアバターがかなりの部分反映されてるんだ」

「まぁ、……言われてみればそうですね」

 颯太がさらに続けると、今度はリフレッシングブリーズが同意の言葉を出した。

「でも……」

 小雪は、なおも食い下がるような声を出した。

「じゃあボクはなんなんだ?」

「えっ」

「きっかけそのものはクラムベリーだとは言え、ボクだって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。それを()()()()()()で不幸扱いするのか小雪は!?」

「えっ……でも、そういうつもり、じゃ……」

 しどろもどろになる小雪に対して、颯太と華乃が揃ってため息をついた。

「人造かどうか自体は、すごくどうでもいい」

「問題は、どんな存在か、どう扱われてるかっすね」

 華乃の言葉に、ラズリーヌIIが続けた。全員の視線がまた、ネクに集まる。

「…………簡単に言ってしまえば兵器だぽん」

 ネクが答えた。

 全員が息を呑む。

「ミクセリクサーの、本来の魔法は “トランプの兵隊を呼べるよ” だぽん」

「トランプの兵隊……童話の『オズの魔法使い』みたいな?」

 ネクの説明に、小雪がそう聞き返す。

「え……?」

 それに対して、声を漏らして訝しげな表情になりつつ、視線を一度ネクから小雪に向け直して、

「『オズの魔法使い』にそんなのあったっけ?」

 と、問いかける。

「えっ?」

 小雪が、不思議そうな表情で訊き返すような声を出す。

「多分『不思議の国のアリス』の間違いっす」

 ラズリーヌIIがそう言った。小雪が気まずそうな表情になり、全員の視線はネクに戻る。

「そうだぽん。最大同時出現数53体のトランプ兵1デッキを内蔵しているんだぽん」

「そうだ……私一度見たことがあるっす!」

 ネクが説明すると、ラズリーヌIIが声を上げた。

「ホントに?」

 颯太が訊き返すと、ラズリーヌIIは頷いてから、

「1体だけっすけど、ミクセリクサーが大池でメルヴィルに襲われてた時、喚び出して……それが隙をつくった瞬間に、あの子抱えて私が跳んだんっす」

 と、説明した。

「ミクセリクサーの魔法少女体は、指揮官であると同時に、魔力を蓄積する魔力炉。そして、内蔵されたトランプ兵を召喚、つまり、実体化させて使役するんだぽん」

 ネクの説明を聞いて、華乃とラズリーヌIIが、ネクを凝視しつつゴクリ、と喉を鳴らした。

「ま、待ってよ」

 颯太が声を出して割り込む。

「だったら、あの子、どうして? そんな最大同時53体なんだろ? アカネだってメルヴィルだって、自分で戦えるはず……────」

「それができないんだぽん!」

 ネクは、まるで振り切るかのように声を上げた。

「そして、それがこの選抜試験の裏の目的なんだぽん!」

「ど、どういうこと!?」

 颯太が訊き返す。

「ラ・ピュセル、ミクセリクサーをどう見たぽん?」

 逆に、ネクはそう問い返した。

「え? え……っと……────」

 颯太は、視線を軽く上に上げて、思い返す。

「── まぁ……優しい……かな。ちょっとうっかりしてるところもあるみたいだけど……それに、マジカルキャンディー数2位なぐらいだから、困っている人を見かけたら放っておけない性格なんだと思う」

「…………そのとおりだぽん。そして、それがミクセリクサーの魔法励起の枷になってるんだぽん。人を傷つけることを極端に恐れているんだぽん」

 ネクはそう説明した。

「……──── じゃあ、つまり、その、選抜試験の裏の目的って……」

 ラズリーヌIIが、他の面子より一層戦慄した表情になって、問いかける。

 

「ミクセリクサーにプレッシャーをかけて魔法を励起させるためだぽん!」

 

「……──────── !!」

 

「で、でも誓って言うぽん! ネクは誰が何をするのかまでは知らなかったぽん!」

「前も言ってたっすね」

 慌てたように言うネクに対し、ラズリーヌIIが、少し落ち着きを取り戻したようにしつつ言う。

「そうだぽん。魔法少女に本来求め得る程度の、対処能力とストレス耐性をかける程度の話だったら問題ないぽん!」

「でも、候補生には流石に荷が重いんじゃ……」

 ネクの言葉に、ラ・ピュセルが、かるく唖然としたような様子で言い返す。

「だから、ネクもラ・ピュセルだったらその程度から候補生を守れると思ってたんだぽん!」

「買い被りだよ流石に!」

 颯太は苦い顔で言い返す。

「言い直すぽん、()()()4()()()()()()()()()()なんとかできると思ったぽん!」

「────」

「私が太鼓判押すっすか?」

 絶句する3人に、ラズリーヌIIが言った。

「アカネの時もメルヴィルの時も、軽い打ち合わせだけのぶっつけ本番で、あれだけのことができるのは、そうはいないっすよ」

 颯太、華乃、小雪は、それぞれ何度も顔を見合わせあう。

「でも、流石にあんなのは!」

 リフレッシングブリーズが抗議するかのように声を上げると、ネクも興奮したかのようにブンブンと左右に揺れながら言う。

「当たり前だぽん! ネクだって()()()()()()()()までやられるなんて想定外ぽん!! 候補生どころか一般人まで巻き込むなんて考えてなかったぽん!!」

「…………」

「…………」

 全員が、言葉を失った。

 

 

 

 深夜、草木も眠る丑三つ時のあたり。

 むくり、と起き上がる。

 隣を見る。変身を解いた瑠璃と、小雪が寝ている。

 

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 2人を起こさないように、そっと布団から抜け出す。

 洋間を出る。廊下を兼ねる台所の前を歩く。

「…………」

 音を立てないようにして、和室の引き違い戸を開ける。

 折りたたみ脚の卓袱台は片付けられ、四幅(よの)布団が敷かれ、颯太と華乃が寝ている。

「…………」

 

 

 みなさんに これいじょうめいわくはおかけできません

 このまちでのできごとは わたしのいいおもいでになります

 さようなら

 リフレッシングブリーズさん りっぱなまほうしょうじょになってください

 





具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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