魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story― 作:神谷萌
── ここは……
足元には虹でできた
星空のような、宇宙空間のような、不思議な、暗く、けれど鮮やかな色の空間。
── 死後の世界?
……に、しては、そこから連想する、冷たさ、静かさとは、真逆の雰囲気が漂っていた。
はるかな先に見えるのは、星空に浮かんだテーマパークの島……────
「まさか、お母さんが魔法少女になるとはおもわなかったのさ~」
目の前に現れた、……ちょっとそれらしくない、パジャマのような衣装の魔法少女が立っていた。髪は柔らかなハニーブロンドから、先端へ向かってグラデーションで柔らかい紫へ。長い髪を低い位置でツインテールにまとめるその根本に、顔のある雲のような髪飾りが着いていて、その髪飾りと同じ顔のある雲が、いくつか周囲をふよふよと漂っている。
「……
マイカホワイトは、驚いた顔で問いかける。
「そうだけど、そうじゃないんだよねぇ。私は夢の世界の魔法少女、ねむりんさぁ~」
「……────」
マイカホワイトは、両手で口を押さえ、見開いた目でねむりんを見た。
「お母さん? 泣いてる?」
「…………ッ、 ──── ッ」
マイカホワイトは、その場に崩れかけて、そのまま、目の前のねむりんに抱きついた。
その感覚は、死者や、ただの夢の出来事のようには思えなかった。
「お母さん、いつまでも泣いてちゃダメだよぉ?」
ねむりんはマイカホワイトに抱きつき返し、そう言いながらも、落ち着かせるように背中をぽんぽんと叩く。
「うん、うん、ごめんなさい」
少し経ってから、マイカホワイトはねむりんから離れ、自分の足で虹の路に立ち直した。
「じゃあ、行こうか」
ねむりんが手を差し出す。
「え、ええ」
マイカホワイトはそう言って、ねむりんの手を握る。
並んだ母娘の魔法少女は、虹色の路を、輝く島へ向かって歩いていく。
「そうだ、お母さんならあの子の相手ができるかもしれないねぇ」
「誰か、困った子がいるの?」
「そうなんだよぉ……夢だけが残っている子でねぇ、わたしでもちょっと手に負えないんだなぁ」
「どんな子?」
「ここに自分から来るのには珍しい子でねぇ。男の子で、サッカーが得意なんだよね」
「そうなのね」
「そんで、名前は、岸b ────」
「まったく無傷なのは、びっくりした」
「そういうアイテムだぽん」
華乃邸。
まだ変身したままのリップルが、和室で自身の身体を眺め回して、確かめている。
確かに、グリムローズに胸を刺された。致命傷に近いはずだった。実際に衣装のブラトップは穴が開き、かなりの血液の染みができている。
だが、今の実際のリップルの身体は、そんな負傷など最初からなかったかのようだった。
腰のポンポンに引っかかっていたもの ──── “金竜の鱗” を、手にとる。
「これって確か、マイカホワイトが……」
それを見つめながら、リップルが呟く。
「どうして ────」
──── あの状況で、マイカホワイトはリップルにこれを渡したのか。
可能性は2つ。
ひとつ、偶然。マイカホワイトが飛び込んできて、そのままグリムローズをすり抜けて自分から壁に叩きつけられた時、壁の破孔の
ひとつ、故意。自分をかばって立とうとしたリップルに、マイカホワイトが咄嗟に引っ掛けておいた。
あの時の余裕を考えると、前者の可能性の方が高い。だが、それではマイカホワイトの名誉に
それに、リップルとマイカホワイトが両方助かる選択肢は少し考えにくい。下手にこれを突き詰めると、
「結局また、ボクが強くなかったから」
と、ラ・ピュセルが自責に走りそうだ。
だから、
「死者に要らない不名誉を押し付ける必要はないんじゃないっすかね」
部屋の片隅で、壁に寄りかかって座っているラピス・ラズリーヌ
ピロリン♪
「あ」
通知音に、リップルはスマートフォンの方を取り出した。docomoのロゴが入っているが、Y!mobileのSIMが挿してあった。
「誰からっすか?」
ラズリーヌIIは、興味から、と言うよりは、半ば条件反射的に訊いた。
「ラ・ピュセル。そろそろ着くって」
リップルは答える。
ラズリーヌIIのテレポートで脱出した時、行き着いたのはこの家の裏手だった。ラ・ピュセルは、すぐにミクセリクサー捜索に、宇水成町の工場に戻っていった。
華乃邸の前に、つばめの愛車、赤い、JC74W型 スズキ ジムニーノマドが停車する。つばめが隻腕になって運転免許に条件が付いてからの、ハンドル旋回ノブ(フォークリフトなんかには標準で付いているアレである)、左足シフトペダル、左手用ウィンカ・ライトスイッチなどを装備した運転補助仕様車だ。
助手席から、ラ・ピュセル ──── すでに “本来、変身を解除している状態” で、ラ・ピュセルの姿はそのままながら、着衣はオーバーサイズのTシャツにジャージのパンツという姿になっている、颯太が降りてくる。
そのまま、左後部ドアを開けた。
ミクセリクサーは後部座席の左側に座らされ、シートベルトを着けさせられていたが、意識はない状態だった。右側には小雪が乗っていたが、反対側のドアから自分で降車する。
「大丈夫か?」
ジムニーノマドの前を回ってきているつばめが、ボンネット越しに颯太に問いかける。
「大丈夫です。華乃に比べたら軽いですから」
「ちょ、おま!」
何気なく答えた颯太に、つばめが思わずボンネットに手をついて、驚いたような声を上げた。
「え?」
「そうちゃん、ヘンなところで男の子のままなんだから」
後ろ側から回って颯太の傍らまで来ていた小雪が、「しょうがないなぁ」といった感じで言い、軽くため息を吐く。
「え?」
颯太は、一旦動きを止め、小雪の顔を見つつ、不思議そうに短く声を出した。
「20cm近く小さい相手にそれで妬いたりしない」
家の中から出てきていた、すでに変身を解いた華乃が、腕組みをして立ち、軽くため息を吐いて、そう言った。
「え?」
「いいから」
「あ、うん」
颯太は行動に戻る。ミクセリクサーの身体の上を越えて腕を伸ばし、シートベルトを外す。
「少しのデリカシーを気にするぐらいなら、先にベルトを外しておいてあげればいいのに」
「なっ!?」
少し呆れたような様子の華乃の呟きを聞いて、小雪がギョッとしたような表情で華乃を見た。
ボンネットに手を突いたままのつばめが、盛大にため息を吐いた。
「よいしょっ、と」
颯太は、両腕で横抱きにミクセリクサーを抱え、ジムニーノマドから降ろした。
所謂お姫様抱っこ。
そうするにあたって、『華乃より軽い』、という表現が出てくるということは……────
小雪が、再度華乃の顔を見る。
華乃はその視線に気づくと、口元で僅かに笑んだ。
それを見て、小雪は眉間に皺を寄せた。
「なんだかな……」
つばめは、呆れたようにそう言ってから、
「華乃」
と、声をかける。
「いつもんトコ、
「大丈夫だと思うけど、一応聞いておく」
つばめに問われて、華乃はそう返しつつ、手に持っていたスマートフォンを操作し始めた。
「頼まぁ」
卓袱台を
「それで、この子、どうするの?」
割座で腰をおろした小雪が、問いかける。
「うーん……選抜試験が終わるまでは匿ってても大丈夫だと思うんだけど……」
颯太はそう答える。
「でも、その後、研究部門に戻されるのは避けたいぽん」
胡座をかいて座っている颯太の、脚の上に置かれたマスター仕様マジカルフォンから出現しているネクが、呟くように言った。
「それは……そうなんだけど……」
颯太は、頭部を掻く仕種をしながらそう言う。
言葉が途切れる。重々しい空気の中、数分、沈黙が流れる。
「もうしょうがないな、また
颯太が、すっさまじく苦い顔で乗り気じゃなさそうに言うと、まず華乃が顔を手で覆った。
「顔合わせづらくなるっすか?」
苦笑しつつ、ラズリーヌIIが問いかけるようにしつつ同情の言葉を出した。
「それは実務トップのレディ・プロウドさん。本人はまぁ、なんかボクに恩義感じてるみたいなところがあるんだけど……でもやっぱこっちから負い目作りたくないのは確かか」
苦い顔のまま、颯太はそう返した。
「人事部はほっといていいっすか?」
「人事部とは、あんまり繋がり強くないんだよ、ボク達」
ラズリーヌIIの問いに、颯太が答えると、
「って、選抜試験マスターやっといてっすか?」
と、ラズリーヌIIは重ねて問いかけた。
「あくまで外部協力者
「へーっ……」
「人事部の……特に、
「ああ、それは解る気がするっす」
颯太の説明を聞いて、ラズリーヌIIは表情を苦く崩した。
─☆──☆──☆──☆─
「──── 報告は以上です」
送電鉄塔に書かれているような稲妻形の矢印が中に描かれた、天使の輪を持つ魔法少女が、頭を低くしがちにしたままそう告げた。
「
報告を受け取っただろう相手の声が聞こえてくる。それは、男の声にも聞こえるし、女の声にも聞こえる、しかし中性的というわけではない、という、聴覚よりも認識をはっきりさせない声だった。
「開発データだけをいただかせてもらうとしよう」
そう言いながら、手元の資料から1葉のシートを持ち上げる。
そのタイトルには、こう書かれていた。
『Project:Artificial Magical Girl:Shufflin』
─☆──☆──☆──☆─
「こんなところでいいですかね」
旧いメイド衣装のひとつにあるような、レースの布の頭巾を着け、コルセットそのものがワンピースドレスになったような衣装の魔法少女が、仕上げを終えてそう言った。
「はい、確認して」
黒と白の2トーンの髪を、パッと見はラズリーヌIIにも通じるような髪型にまとめ、フリルを多く使いながらもマイクロミニスカートのワンピースドレスに黒いコルセットを着けた衣装の魔法少女が、姿見を寄せて、相手に自身の姿を確認するように言った。
「あ……す、すごい再現度です。これ……」
相手、リフレッシングブリーズは、その姿を見て、驚いたような、感動したような声を上げた。
Project completed. Order closed.
Final Ranking
1位 リフレッシングブリーズ 150,165個
2位 ミクセリクサー 104,583個
3位 ブルーコメット 78,453個
「もうちょっと田舎のヒーロー活動やればよかったっすー! 候補生相手にケタひとつ少ないのは屈辱っすー!」
「確かに田舎の自覚はあるが、
「Congratulations!! リフレッシングブリーズ、合格だぽん! これで試験を完了したぽん」
風谷ミキが、深夜の自宅マンション、自室で就寝前にまったりしていると、マジカルフォンからネクが出現し、そう告げた。
「私が……」
ミキが軽く唖然としていると、
「最終確認だぽん。魔法少女になりますか?」
と、ネクが訊ねた。
リフレッシングブリーズは、ネクを見つめたまま、しばらく逡巡する。言葉が途切れ、沈黙が流れた。
「……辞退を望むのなら ──」
「あ、いえ! そうじゃないんです! ただ……考えていることがあって」
「考えていることぽん?」
「その、────────」
ネクに聞き返されると、ミキは自分の考えていることをネクに伝えた。
「うーん……ちょっと、難しいリクエストだぽん」
目を糸目にして眉間に皺を寄せつつ、ネクは唸るように言う。
「無理ですか?」
「──── んー、ちょっと相談してみるぽん。実施側にちょっとどころじゃない落ち度があるから、交渉の余地は充分あるぽん」
そして、現在 ────
「ありがとうございます、フィルルゥさん、美々さん!」
リフレッシングブリーズはそう礼を言う。
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
魔法少女フィルルゥは優しそうな笑顔でそう言った。
「フィルルゥさんはすみません、わざわざ非番を潰させてしまったみたいで」
傍らにいたラ・ピュセルが、申し訳無さそうに眉を下げて苦笑気味にしつつ、コルセットそのもののドレスを着た魔法少女に向かって言う。
「たまにのことですから。観光ついでだと思えば」
フィルルゥは、穏やかに笑いつつそう言った。
「私の方にはお礼はなしですか?」
2トーンの髪の魔法少女が、苦笑しながら言う。
「あ、いえいえ。ありがとうございます、スタイラー美々さん」
少し慌てたような感じでラ・ピュセルが言う。その隣で、リフレッシングブリーズも何度も頭を下げた。
「謝礼は精神的にってことなら、うちの馬鹿……私の相方にラ・ピュセルのことを紹介してもいいでしょうか?」
「え? 美々さんの友人に……ってことですか?」
少し意外そうに、ラ・ピュセルは訊き返す。
「そうです」
スタイラー美々は微笑んで言う。
「まぁ別に……紹介されても困りませんが、そんなんでいいんですか?」
「ええ、報酬自体は別に受け取っていますし」
意外そうに訊き返すラ・ピュセルに、スタイラー美々は微笑んだままそう答えた。
「……………………猛烈に嫌な予感しかしないぽん」
ネクが呟いたが、ラ・ピュセルには聞こえていなかった。
「あ、そうか、ネク」
「了解だぽん。リフレッシングブリーズのアバターを再登録するぽん」
ネクが伝える、リフレッシングブリーズの姿は、白い半透明のマント、濃い青紫のドレスはスカートが大きく前が開き、マイクロビキニの “見せパン” を着けている。シースルーのサイハイソックスに、つや消し黒の高いピンヒールブーツ。胸元には青と赤、それぞれの宝石の飾りが着いている、その姿は ────
「登録完了だぽん。リフレッシングブリーズ、キミは今から正式な魔法少女だぽん」
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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