魔法少女育成計画ReBirth ―La Pucelle: Alive Chronicles 2― 作:神谷萌
第20話 I
─☆──☆──☆──☆─
あー、憂鬱だ、憂鬱だ。
魔法の国が雑な処理したもんだから、またボクへの過剰評価が酷くなった。
おかげで全方位からの視線が痛い。
見られてるのが魔法の国だけじゃない気もしてきた。華乃の家の畳剥がしたらCIAとかいないだろーな。エリア51に連れ去られて解剖されるのは勘弁だぞ。
週に3度はボクの知らない魔法少女がエンカウントする。ボクはそんなに強くないってば!
「いや……今のラピュっち、素だけでもちょっと相手したくない……っすよ?」
そんなこと言わないでくれラズリーヌ。今度は胸びれにトサカまでつきそうだ。
クラムベリーと2回タイマンやって生き残って、それも2回目は優勢だったって……
ああ、はい、そんなやつもいましたね。はいたしかに2回目はしばき倒しましたよ認めますよ。だからなんだってんだよ。
あんなやつ最後はスイムスイムとたまに負けた、4クール構成なら1クール目は強力な敵幹部だけど、2クール目以降は急にギャグキャラじみていく程度のやつじゃないか。
あれが魔法の国でも戦闘なら上澄みだったとか言ってるやつはちょっとおかしいよ。パムも含めて。
頼むから受験終わるまでは少し控えててくれ。こちとら立派な高校浪人生なんだ。
母さんが入れあげてるから華乃の家はお目溢ししてくれるが、それ以外は親の視線が痛いんだよ。
お前のこと言ってんだよ擬人化ラフレシア。お前どう見てもポ◯モンのラフレシアに女の頭くっつけただけじゃないか。
アカネも大概だったけどボクの魔法少女ポリシーに違反してんだよ。
あ、いけないいけない、今は集中、勉強に集中…………
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Epilogue I
「クラムベリー、及びクラムベリーの魔法少女選抜試験通過者に対して私怨を持つ魔法少女2名が、クラムベリーの魔法少女選抜試験通過者であるラ・ピュセルの魔法少女選抜試験を襲撃した」
アカネとメルヴィルについては、こう処理された。
しかも、
「その襲撃に対し、選抜試験マスターのラ・ピュセルは、リップル、スノーホワイト、トップスピードの3人の協力者とともに、英雄的活動でこれを排除し、
と、魔法の国、魔法少女部門・監査部は、報告書にそう記載した。
また……──── 罪、とまでは言えなくても、瑕疵を名誉にすりかえられた。むしろ、クラムベリーの悪意が明らかだった “クラムベリー最後の魔法少女選抜試験” 事件のときよりも、今回の “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” 事件の方が、選抜試験全体にかかっている暗部を覆い隠している分、露骨といえた。
監査部の報告書が確定版になる寸前に、下克上羽菜、という監査部所属の魔法少女が、ラ・ピュセルにその下書きをリークしたことが、監査部内部からできるせめてもの反抗だったのかもしれない。
その結果、ただ、『3人の協力者』とされていた記述に、その3人の名前を記述させた。ラ・ピュセルとしても、それができる限界だった。
「私の名前が載ってないっす」
マジカルフォンで公開版を見て、ラピス・ラズリーヌ
華乃邸。
「だって、ラズリーヌは候補生扱いだったからさ」
和室の掃き出しの窓に座っているラズリーヌIIに、その背後から、オーバーサイズTシャツにジャージ姿の颯太が、苦笑しつつそう声をかけた。
「故意にってわけじゃないと思うけど、リフレッシングブリーズの名前も伏せてるんだ。ラズリーヌの場合は研究部門が関わってた証拠になっちゃうから、なおさらだよ」
「初代も変なこと始めてくれたもんっす。そして巻き込んでくれたもんっす」
ラズリーヌIIはため息を吐く。
「尊敬してた師匠なんすけどねぇ」
「複雑?」
颯太が訊き返す。
「そうでもないっす。魔法少女戦の師匠としての初代はまだ尊敬してるっすけど、それ以外のやらかしがひどすぎるっす。それはそれ、これはこれっす」
「ははは……ま、師匠が信用できなくなるっていうのは多少は分かるよ。初代ラピス・ラズリーヌと、本人自身が候補生の段階だったボクの師匠とじゃ月とスッポンだけど」
呆れたように口をへの字にするラズリーヌIIに対して、颯太は苦笑しながらそう言った。
「ラピュっちの師匠?」
興味が湧いたように、ラズリーヌIIは視線を颯太に向ける。
「うん…………」
「なにがあったっすか?」
「戦う魔法少女に憧れてたボクに戦うなと言った。自分は魔法のアイテムまで使って自分の好きな人を魔法少女にした。その人は師匠の為に戦って死んだ。でも
颯太が決まり悪そうに苦笑しつつ、呆れが僅かに混じったような口調でそう説明した。
それを聞いて、ラズリーヌIIが、呆れて軽蔑するように表情を歪める。
「そりゃ……ラピュっちも大概っすね」
「今でもさ、雑談してるときとかに名前が出てくると悪口大会になっちゃうんだ。だから、他の3人も含めてあんまり話さないのが暗黙のルールになってる」
「無理もないっす」
ヘラヘラとしつつもどこか冷ややかな颯太の言葉に、ラズリーヌIIは、そう言って軽くため息を吐いた。
「それより……そうだ、ラズリーヌにはちゃんと、相応の謝礼って言うか、あっただろ?」
「ああ、うん、貰ったっす」
颯太の問いかけるような言葉に、ラズリーヌIIは、そう言いながら、立ち上がって、庭と言うか、セルボの駐車スペースに立つ。
「これ貰えたことの方が、名前が出ることよりありがたいっすかね」
メルヴィルとの戦いで失われたはずのラズリーヌIIの左下腿部に、ダークグレーの、機械じかけの自動義足が着けられていた。
「ちょっとコツが要るんすけどね。それさえ掴めば元の脚より自在に動く感じっす」
自分でもその義足を見るようにしながら、ラズリーヌIIはそう言った。
「それは何より」
颯太は笑顔でそう言った。
─☆──☆──☆──☆─
名深市、北渚地区。
名深駅からは徒歩20分を超えないが、河口近くの桃梅川の橋を渡る必要があって、賃貸住宅の賃料があまり
その一画にある、新築からの総築年数は古いが、小洒落た外観にリフォームされているアパート。
かつて日本全国津々浦々の、工事現場、建築現場を席巻しつつも、流石にそろそろ少数派になり始めたH100系 トヨタ ハイエース バンが駐車している。その車内に、家具や家電類が載せられていた。
つばめの赤いジムニーノマドも
そして ────
「すてきなお部屋ですー!」
ミクセリクサーが、そう声を上げた。
間取りは1DK、DKも部屋も板の間だ。
「電車が見えますー!」
西向きの出窓から、JR線の線路が見える。5両編成、県都・左海市の左海駅のひとつ先、捷州行きの電車が、VVVFインバータの励磁音を立てながら北進していく。
名深駅と、その北側の
ミクセリクサーは好奇心旺盛そうに、部屋のあちこちを見て回っている。
「お風呂がありますー!」
ステンレス浴槽の清潔感のある浴室。ただ、リフォーム費を節約したのか、随分旧型のFE式浴室内風呂釜がついている。
「トイレは別ですー!」
洋式便器にマイナーメーカーの温水洗浄便座がついている。
「台所にはお湯が来てねぇのか……瞬間湯沸器も探さねぇとならないな」
わちゃわちゃと走り回るミクセリクサーを余所に、つばめは、DKのカウンターを見て呟くように言った。
「先輩、運び込んでいいすか?」
ラズリーヌIIではない。若い男性がそう声をかけた。
「ああ」
つばめは、まず肯定の返事をしてから、
「……すまねぇな、手伝えることが少なくてよ」
右腕がない身体を見せるようにしながら、決まり悪そうに苦笑してそう言った。
「いえいえ、先輩にはさんざん世話になりましたから」
男性はそう言って、ハイエースから家具・家電類を運び込むために、一旦出ていく。
入れ替わりに、颯太と華乃が入ってきた。
ハイエースの近くに、セルボ、ではなく、借り物のTV2型 スバル内製最終型 サンバーバンが駐められていた。
「
それに気付いたミクセリクサーが、颯太をそう呼ぶと、駆け寄ってきてじゃれつく。
「素敵なお部屋を探してくれてありがとうございますー!」
「あ、うん、まぁ……探したのは華乃で、お金も外交部から出てるんだけど……」
颯太が、気まずそうな苦笑を浮かべてそう言った。
「そうだったんですね!」
ミクセリクサーはそう言って、視線を華乃の方に向ける。
「ありがとうございます! リップル様!」
そう言われて、華乃は軽く頷いてみせた。
「けど、それってぇと、外交部から厄介事持ち込まれた時、断り辛くならないか?」
つばめが、少し渋い顔をして訊ねるように言う。
「まぁ、それは確かにそうなんですけど……」
颯太は、困惑げに苦笑しながら言う。
「でも、
華乃が言った。
「そうなのか」
「ええ、まぁ、
訊き返すつばめに、颯太は、少し引き攣った表情のままそう答えた。
「冷蔵庫持ってきたっすー。どこ置くっすか?」
今度は、実際にラズリーヌIIが、サンバーから下ろしてきた、アイリスオーヤマ製の少し旧い冷蔵庫を抱えて入ってくる。
「そうだな…………」
つばめが呟いて、颯太、華乃とともにDK内を見回す。ミクセリクサーもキョロキョロとしていたが、なんのためかはあまりわからず颯太を真似ているようだった。
「そこしかないだろな」
奥の部屋につながる引き違い戸の片側を指して、つばめはそう言った。
「ミクセリクサー、それでいい?」
「はい! トップスピード様が言うのでしたら!」
颯太が確認すると、ミクセリクサーは元気よく答えた。
「じゃ、そこ置くっす」
言って、ラズリーヌIIがそこに冷蔵庫を下ろした。
「これ、華乃の家で使ってたやつなんだよね」
颯太が言った。
「そうなんですね!」
ミクセリクサーが反応する。
「颯太が…………というか、つばめや小雪が来るようになって、足りなくなって、買い替えることになった」
「ああ、本来リプっちひとり暮らしにしてはやたら大きい冷蔵庫だなと思ってたら、そういうことだったんすね」
華乃の説明に、ラズリーヌIIは、華乃邸の270lの2ドア冷蔵庫を思い出しつつ、納得したような言葉を出した。
「オレがすき焼きだ焼き肉だ言って肉持ってきたときに足りねぇなとは言ったけど、小雪ちゃんがっていうのは?」
つばめが、不思議そうに訊ねる。
「買い物を頼むと、だいたい自分のスイーツも買ってくる」
「うわ……スノスノ、やらかしてるっすね」
華乃が言うと、ラズリーヌIIが、言いつつ
「それ自体の代金は自分で出してるんですけど……」
「ケーキとかか。確かに冷蔵庫圧迫するわな」
颯太がフォローするように言うものの、つばめも苦笑してそう言った。
「つばめはリサイクルショップ巡りのときの軽トラも探してくれたし、値引き交渉もしてくれたし、この先、颯太がしょっちゅう来ること考えたら、あって困らないから、良かったんだけど」
華乃は纏めるように言った。
「それで、どう処分すっかなって考えたまま、実家が工場やってる後輩ンとこ置いてあったから、丁度いいと思ってな」
つばめは、ニッと笑いながらこの冷蔵庫がどこを経由してここへ来たのか説明する。
「そうだったんですね! 大切に使いますー!」
ミクセリクサーはそう言って、冷蔵庫をまるで愛玩動物かのように撫でた。
「さて、小物だけでも運ぶかね」
つばめはそう言って、ラズリーヌIIとともに引っ越し荷物を運びに出ていく。
「…………先生」
会話が途切れたところで、ミクセリクサーが、それまでのハイテンションが少し落ち着いた様子で、切り出した。
「これから、魔法少女としての勉強をするんですよね、わたし」
「うん、そうだよ」
颯太は、そう言いつつ、笑顔をミクセリクサーに向けた。
「ほんとうのことを言うと、まだ、少しだけこわいです」
ミクセリクサーは、やや視線を這わせるようにしながら、困惑げに言う。
すると、颯太は、一度華乃と目を合わせてから、ミクセリクサーに視線を戻し、
「うん、でも、ミクセリクサーの魔法は、人を傷つける以外にも使えるだろ?」
と、問いかけるように言った。
トランプ兵は槍をもって現れるが、スート(トランプの記号)毎に得意分野が少し異なる。純粋な戦闘要員は攻撃力のスペードと耐久力のハート。それに対して、ダイヤとクラブは、それぞれ少し専門が異なるものの、手先が器用という特性がある。
ハートやスペードも、ミクセリクサーがそう命令すれば、戦闘以外の雑用だって忠実に実行する。
ただ、現状のミクセリクサーは、
「よく、わからないです」
と、答える。
「そこがわからないから、ボク達が教えるんだよ」
颯太は、そう言ってミクセリクサーの頭をポンポンとした。
「それに、…… “あの時、自分が魔法を使えたら”、って思うこと、あるだろ?」
少し声を低くして、颯太は言う。
「…………はい」
ミクセリクサーは思い出す。アプリコット・アプリコットのこと、マイカホワイトのこと。
リフレッシングブリーズは、アプリコット・アプリコットを指して、
「あいつに恥じない魔法少女になる」
と、言って、衣装を引き継いだ。
── わたしも、お2人のような人を
「今度はその時に、力を使えるよう、きちんと調整して使えるよう、
「…………はい!」
颯太の言葉に、ミクセリクサーは視線を上げ直して、
「よろしくお願いします! 先生! リップル様!」
そこへ、
「洗濯機持ってきたっす。洗面所に入れていいっすか?」
と、ラズリーヌIIの声が聞こえてきた。
ミクセリクサーと颯太、華乃がそちらを見る。
「ちょ……二槽式って……」
颯太が思わず声を出す。
『整備済』ステッカーがフタに貼られた、松下 NA-A40X2 『2WAY スピンリンス 愛妻号』。
「つばめさん、どこからこんな、昭和の遺物見つけてくるんだよ……」
片手で顔を覆いながら、颯太が言った。
実際には1994年製だから、平成の製品だが、それは些事である。
─☆──☆──☆──☆─
ひゃっほぅ! とりあえず受験は終わった! 結果はまだだけど受けるところは全部終わった!
「まーりかっさーんっ、あっそびっましょーっ」
小雪が通う私立
それを受けて、真理子はビクッ、と、背中を跳ねさせる。
「ちょ、お前! 時と場合を考えろよ!」
「あ゙? 受験勉強に追われてたりその息抜きにオタ活してたボクがあなたに襲いかかられる度、何度それと同じ言葉言いましたっけねぇ?」
言い返す真理子に対し、ラ・ピュセルは笑顔を引き攣らせながら問い質すように言う。
「たまにはボクのストレス解消に付き合ってくれてもいいでしょう?」
「しかしなぁ ────」
真理子は困惑げに言った。変身中と異なり、真理子の時は戦闘狂の性格が薄れる。
「さもないと、ここにある魔梨華さんが丹精込めて育てた花とかにサンフーロン原液ぶちまけますよ?」
「ちょっと待て! わかった、やる、付き合ってやるから!」
そう言いながら、真理子は袋井
「私は他人にケンカふっかけすぎて嫌われるが、
顔を手で覆いながら言う魔梨華に対し、受験明けの妙なハイテンションにあるラ・ピュセルは、満面で笑ったまま言い返す。
「そりゃぁ、こう見えてもボカぁ “Cranberry children” なんで」
「お? おもしろい。そこまで言うならちっとだけ派手に行くか!」
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