魔法少女育成計画ReBirth ―La Pucelle: Alive Chronicles 2―   作:神谷萌

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第20話 II

「はぁ……はぁ……はぁ…………はぁ……」

 数十分ほど揉めただろうか、あるいは1分と経たなかったかもしれない。

 ラ・ピュセルが気付いた時には、床に落ちた白黒のピエロの衣装の上に、自身はツノのついたようなフードをかぶり、クリーム色と茶色の衣装を着けた、焦げ茶色の長髪の女が倒れていた。

 女の指には、細く束にした、魔法少女らしき鮮やかな色合いの髪が絡んでいる。

 女の傍らには、砕け散った水晶玉の残骸。

 女の身体からは夥しい血が流れ落ち、ピエロの衣装に染み込んでいく。

 おそらく、いや確実に助からない。

「…………また殺してしまった。 …………それだけじゃない。こんなに後味の悪くない殺しは初めてだ。爽快感すらある。もしかして、危ないんじゃないのか、ボク」

 血糊の着いた剣を構えた姿勢で、ラ・ピュセルが荒く息をしながら言う。それに対して、

「今回ばかりはしょうがない気もするぽん」

 と、ネクが気休めを言った。

「リップル! リップルは!?」

 すぐに我に返り、声を上げた。

「無事っす、大丈夫っす」

 ラピス・ラズリーヌII(2)ndが言う。その傍に、リフレッシングブリーズに肩を貸された状態のリップルがいた。

「リップル!!」

 その姿を見た瞬間、ラ・ピュセルは、それまでの緊張が一気に切れ、状況も場所も構わず、飛びつくようにリップルに抱きつき、きつく抱き締めた。

 

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「よかった……本当に……よかった……」

 涙を流しながら、安堵の言葉を繰り返す。

「すまない……う、不覚をとった……」

 リップルは、まだ意識が完全にははっきりとせず、偏頭痛を感じるような状態だったが、震える声ながらもラ・ピュセルに謝罪の言葉を告げた。

「感動の再会の続きはまたあとにやるぽん」

「う、うん……」

 ネクの声で、ラ・ピュセルは我に返るも、名残惜しそうにリップルの身体を離した。

「大丈夫?」

「あ、ああ」

 リップルが自分の脚で立てているのを確認してから、ラ・ピュセルは視線を移す。

 リフレッシングブリーズも被害者だった。リップルより先に(さら)われていたはずだが、心身に別状はないようだ。

「さっさと脱出するぽん。監査部が踏み込んできたら厄介だぽん」

 ネクは脱出を促すが、

「でもこれ流石に、後から調べられたら、ラ・ピュセルさん達もヤバいんじゃありませんか?」

 と、少し不安そうな様子で、リフレッシングブリーズが訊き返す。

「大丈夫だぽん。監査部も外交部にわざわざ借りを作りたくはないはずだぽん。それと、ネクが可能な範囲でログは消しておくぽん」

 ネクがそう答えた。

「…………」

「ラズリーヌ? いつもの『やってることがヒーローじゃないっすねぇ』はどうしたぽん?」

「……………………1人殺して10人救えば、そりゃあ英雄(ヒーロー)以外のなにもんでもないっしょう」

 いつものハイテンションが抑えられた様子で、ラズリーヌIIはそう返した。

「え?」

 ラ・ピュセルは訊き返すが、ラズリーヌIIはすぐにいつものノリの表情に戻った。

「なんでもないっす。跳ぶっすよ!」

 その合図で、全員がラズリーヌIIの腕や胴体にしっかりとつかまる。ラ・ピュセルは、背後から、リップルを挟んだ状態でラズリーヌIIの肩につかまった。

 ラズリーヌIIのテレポートで皆の姿が消えるのとほぼ同時に、倒れている女が、黒髪を後ろでアップにしつつも、特に変哲もない女性の姿に変わった。

 

 ──── ラ・ピュセルが、岸辺颯太として通信制高校・県立左海南高等学校の入学式を迎える直前の春先に発生した、『魔法少女連続失踪事件』は、公式には主犯の事故死というかたちで終わった。

 なお、死亡した女の身元は不明と公表された。ただ、後の界隈の噂では、 “占い師” と呼ばれることが多い。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 Epilogue II

 

 岸辺家からの最寄駅でもある端川駅から東北東の方角、JR線と並走する幹線県道が通る、端川新田(ひな)(おか)地区。

 ミクセリクサーのアパートよりはやや経年が見て取れるアパート。

 間取りは1LDK…………と言うより、10.5畳相当のワンルームに4畳半の和室がくっついた、そんな感じだ。

 そのLDKのフローリングのど真ン中に胡座をかいて座りながら、ラピス・ラズリーヌII(2)ndは、目を軽く閉じた仏頂面で腕組をしていた。

 ピンポーン

 ドアチャイムが鳴る。

「はいはいっす」

 ラズリーヌIIは立ち上がり、玄関へ向かった。

 扉を開けると……────

「こんにちは」

「引越し祝いに来た」

 当然ラ・ピュセルの顔と身体のままの颯太と、華乃が最初に姿を現し、挨拶をしてきた。

「あ、どうぞ上がって……文字通りになんもありませんけど、っす」

 ラズリーヌIIが苦笑しながらそう言うと、

「じゃ、お邪魔します」

「お邪魔します」

 颯太と華乃に続き、

「お邪魔しまーす」

「おじゃましますです、ラズリーヌII世様ー!」

 小雪とミクセリクサーも入ってくる。

 最後に、

「なんだ……随分殺風景だな」

 扉をくぐったところで、つばめがそう言った。

「なんにも考えないで引っ越してきちまったっす」

 ラズリーヌIIが、後頭部を掻くような仕種をしながらそう言って苦笑した。

 すると、

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………?」

 と、本人以外の全員がラズリーヌIIに視線を向ける。ミクセリクサーだけはよくわからずニコニコしているが、それ以外の4人はジーッ、とラズリーヌIIを凝視していた。

「なんすか……」

「いや……」

 ラズリーヌIIがたじろいだような様子で問いかけると、つばめが、少し険しく眉間に皺を寄せつつ、深刻そうな表情で言う。

「魔法少女となんとかは風邪ひかないの()()()()()()じゃないかと思ってな……」

「誰がバカっすか!!」

 至極真剣な表情と口調のつばめに対し、ラズリーヌIIは反射的に抗議の声を上げた。

「けど……玄関先のあのタンク……」

 つばめは、怪訝そうな表情のままでそう言いながら、

「ちっと風呂場覗くぞ」

「どーぞっす」

 と、不貞腐れた仕種をしているラズリーヌIIに断りつつ、洗面所兼脱衣所を覗いた。

「ゲッ! 賃貸アパートなのに給湯器灯油かよ! イロモノ物件だから駅チカでも安かったのか……?」

「それ、なんか問題あるんすか?」

 脱衣場の方で声を上げたつばめに、ラズリーヌIIがよくわかっていない様子でそう言った。

「油入ってるかどうか自分で管理してないと、突然風呂のお湯が出なくなるぞ」

「あ、そういうことっすね」

 つばめが少し厄介そうに言うものの、ラズリーヌIIはあっけらかんとした様子で返した。

 つばめがLDKに戻ってくる。

「とりあえずはガスコンロと電子レンジと冷蔵庫、いやその前に布団か……」

「ガステーブルなら、うちの前の持ってくる」

 華乃が言った。

「あれ、まだ処分してなかったのか」

 つばめが訊き返すと、華乃が頷いた。

 リップルとトップスピードが出会った頃、華乃邸の台所には「とりあえず」使えればいいと、リサイクルショップで¥7,499(税別)で投げ売りされていた、パロマ製の薄型2口ガステーブルが置かれていた。

 それが、颯太が華乃邸の台所に立つようになると、卵料理やらチャーハンやら、岸辺家と同じつもりで作るとうまく行かない、ということが起きるようになって、華乃がつばめに相談し、

『あー、そりゃ多分火力不足だな』

「買い替える」

 と、即断で、今では低年式の中古整備品ながらも、ハーマン製(現ノーリツ)の両面焼グリル付ガステーブルに置き換えられた。

 ──── 閑話休題。

「布団は後で持ってくるとして……あとはぼちぼち揃えていくか」

 つばめが言った。

「とりあえず、引越し祝い代わりってわけじゃないけど、なんか出前(デリバリー)頼もうか」

 颯太が言った。

 つばめが、改めて室内を見回す。

「へんに予め持ってこなくて良かったな……ここまでなんにもないとは流石に想定外だった。やっぱ魔法少女となんとかは……────」

「だから! それやめろっす!!」

 

 

「ブルーベル・キャンディ」

 緩くクセのあるブルーイッシュ・プラチナホワイトの髪を、黒いリボンでポニーテールにまとめた、澄んだ濃紺の提灯袖のドレス、白いフリルスカートの衣装の魔法少女が、告げる。

「これからは、あなたがラピス・ラズリーヌを名乗りなさい」

「はい」

 薄ピンクの髪を纏め、左右で細めのポン・デ・リングにした、バルーンスカート風のベルラインドレスの衣装の魔法少女が、やや険しい表情で、答えつつも、

「ですが、────」

 と、異を唱える言葉を告げかけて、自身でもどう言うべきかわからず、詰まる。

「あの子は聡明ではないわけではないけれど、大局を見る目がない。ラピス・ラズリーヌの名前にふさわしくない」

 見た目に反して、老獪さを備えた魔法少女は、口調のスタッカートを弱めて穏やかにしつつも、断じるようにそう言った。

 ただ、その彼女の老獪さは、若さとも、老練による思考の硬直とも、また別種の危うさを孕んでいるようにも見えた。

「はい。わかりました」

 ブルーベル・キャンディは、その時から、ラピス・ラズリーヌIII(3)rdになった。

 

 

「私は返上しないっすよー」

 デリバリーのチキンを食べながら、ラズリーヌIIはそう言った。

「でも、師匠には幻滅した、みたいなこと言ってなかった?」

 小雪が訊き返した。

 ラズリーヌIIは、その間にかぶりついた分を、咀嚼、嚥下してから、

「だからこそっす」

 と、言う。

「いくら先代、初代でも、名跡を汚す権利はないはずっす」

「その意気はいいねぇ」

 つばめが笑いながら言った。

「ここに引っ越してきたこと、なにか理由ある?」

 華乃が聞いた。

「そうっす。これで私も “名深の4人組” の追加ヒーローってやつっす」

 座ったままながら、腰に拳を当てて、ラズリーヌIIは、得意そうと言うか、どこか陶酔の入った笑顔で言った。

 ──── が、

「ここ名深じゃねぇけどな」

 と、つばめが言うと、ラズリーヌIIは、そのままの表情で固まり、じっとりと汗を浮かばせた。

 ──── 端川駅近辺は、自治体境界線が入り組んでいる。

 端川駅自体は名深市に属しているものの、端川駅東口駅前通りを東に600m強も進むと、信太(しだ)亞ヶ(あが)(うら)村内に入る。

 そこより北側の一部は、JR線の軌道敷地が僅かに亞ヶ浦村側を通っている場所もある。

 そして、端川という地名はこの境界を跨いであり、端川新田雛丘(ひなおか)地区は亞ヶ浦村に属していた。

 クルマ社会なので、義務教育の子どもでもいない限りは、普段は公共サービスの窓口が名深市役所か亞ヶ浦村役場か以外、生活圏としてはほとんど変わらないのだが。

「先生達は市民なんですね!」

 ミクセリクサーが、悪気のない満面の笑顔で言う。

「ミクセリクサーも、一応はね」

 颯太が言うと、ミクセリクサーが更に続ける。

「はい! そして、ラズリーヌII世様は村民ということですね!」

 これがつばめや颯太がからかい混じりに言ったのなら即座に「村民言うなっす!」と言っているところだが、ミクセリクサーには悪気が一切ないのは、ラズリーヌIIもわかっているので、

「あがぁあぁぁぁぁ!!」

 と、頭を掻きむしりながら奇声を上げるしかできなかった。

「ど、どうかしましたか!? ラズリーヌII世様!」

 ミクセリクサーが本気で心配して問いかける一方で、颯太は姿勢を崩しつつ手で口元を押さえ、華乃は下を向いて床に手を突き肩を震わせ、小雪はラズリーヌIIに背中を向けて正座した状態で震え、つばめは片腕で腹を抱えて笑い転げていた。

「笑うなっす! スノスノ、こっち向けっす!!」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 数日後。

「んじゃ、ごちそーさん」

「毎度!」

 高波山麓に近い、名深市()()(すじ)地区。

 つばめが、住宅街の中にあるラーメン屋で食事を終えて出てくると、

「あれ?」

 と、その目の前に、私鉄線の常上子ノ条駅に向かって歩いている瑠璃を見つけた。

 

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「ゲッ……」

 瑠璃の方は通り過ぎかけたところで、その姿に気付いて立ち止まり、振り返った。

「トップスピード……」

 瑠璃は、紺のブレザーに、同じく紺基調で緑と赤のラインの入ったスカート、という、高校の制服を着ていた。この近くにある県立下高波(しもたかなみ)高等学校の制服であり ────

「なんで、お前さん、オレの高校の制服着てるんだよ」

 唖然としたようにしつつ、瑠璃を指差してしまいながら、問い質した。

 

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「えっと、まぁ、その、潜入任務っていうか……」

「任務って、お前さん、研究部とは断絶したんだろ?」

 目を泳がせながらあやふやに言う瑠璃に対し、つばめは重ねて問いかける。

「…………魔法関係以外で、バイトよりはいい収入得ようとしたら、高卒無いのかなりきついんす。今は貯金あるけど、将来詰むっす」

「それで、オレの母校に通い出したと……」

「県立で、今年から入れる学力のところがここしかなかったっす。受験で名前と足し算引き算できれば入れたっす」

 瑠璃はボソボソと言ったが、つばめは、引き攣った笑いを浮かべる。

「言ってくれるな」

「トップスピードこそ、どうしてこんなところにいるっすか?」

「オレ?」

 瑠璃に問い返されて、つばめは、一旦鸚鵡返しにする。

「高校通ってた頃ならともかく、今は北宿から離れすぎっすよね?」

「ああ……同級ン()がやってる車検屋が近くにあるんだよ。そこへ来たついで。高校ン時はよく来た店だし」

 瑠璃が問いの精度を上げると、つばめは私鉄線の線路の向こう側を指すようにしながら、そう言った。

「そう言うことなんすね」

 

 

 ある日の夜。

「…………」

「…………」

 華乃邸、和室。

 すでに折りたたみ脚の卓袱台を片付け、四幅(よの)布団が敷かれている。

 ラ・ピュセル姿の颯太はすでに寝間着用のシャツとジャージのズボン。

 華乃は同じくオーバーサイズのシャツだが、ボトムは、角度によっては “隠す” という機能を放棄するセクシーなシースルーのショーツのみ。

 その姿で、颯太は華乃を膝に乗せて、そうしているだけで心地良いかのように抱きしめていた。華乃の方からも抱きつき返している。

 

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 最初に、

「ごめんなさい」

「ううん、ボクももう少し気をつけておくべきだった」

 と、言葉を交わして、その後はただ、お互いの存在を確かめるように抱き締めあっていた。

「ちゅ……」

「ちゅ、ん……」

 時折、キスを交わす。

 あるいは、この後はより親密な愛の交歓が行われるのかもしれない。

 とにかく、2人はお互いが生きていることを、確かめ、感謝する抱擁と行為を続けた。

 

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具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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