魔法少女育成計画ReBirth ―La Pucelle: Alive Chronicles 2―   作:神谷萌

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第20話 III

 ラピス・ラズリーヌII(2)nd、米田瑠璃のアパート。

 LDKには、シャープ製のスクエア型13インチ液晶テレビ、2ドアの小型冷蔵庫、その上に乗る単機能電子レンジ、薄型二口のガステーブル、VE魔法瓶、食事時に使う折りたたみ脚の卓袱台と、徐々に調度品が揃ってきている。

 ──── 誰もがおおっぴらには言わないものの、魔法少女界隈の広範囲に、オールド・ブルー、初代ラピス・ラズリーヌが2代目を “事実上の破門” にし、3代目を襲名させた一方、2代目がそれに叛旗を翻した、 “ラピス・ラズリーヌ一門騒動” は知れ渡っていた。

 その、渦中の当人はと言えば……────

 ゴ……ッ

 静かだが、激しい炎の燃える音がする。

 その場所から、スリガラスの嵌った扉の向こう側で、

「……くはぁ……生き返るっす」

 と、緩んだ表情で湯に浸かる瑠璃がいた。

 

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 洗面所兼脱衣所に設置されたノーリツ製FF式石油ふろ給湯機が供給するお湯で、入浴を堪能していた。

「いやーでも、トップスピードいてくれて助かったっす」

 お湯に蕩けるような表情のまま、呟く。

 

「鍋とフライパンひとつずつぐらいないと困るだろ。実家で古くなったやつ持ってきてやったから。お玉とかフライ返しとか、箸とかスプーンとか皿とかはミクセリクサーにやっちまったばかりだから百均で買ってこい」

「まだ冷蔵庫届いてないから食材ないだろ、豚角煮ちっと多く作りすぎたから分けてやっからよ。あ、そのタッパー返さねぇでいいわ」

「このあたりのデカい店は、ゴミ袋はたいていどっちのも売ってるけど間違えんなよ」

「弁当もコンビニだと高価(たけ)ぇだろ、そこのライフでも置いてっけど、市役所ン中のヨークベニマルが下校時間頃に割引き始めるよな。定期で一度改札出られるだろ?」

「黒いホムセン行くから一度ついてこい。あそこは別の地方から来たやつにとっては迷路だ」

 

 等々。他にも、

 

「あー……サイズ的にはその程度でいいんだろーけど、それ手で霜取するやつじゃねーか」

「どういうことっすか?」

「冷蔵庫ン中にちっと硬い霜の塊が付くんだよ」

「そんなの見たことないっす」

「瑠璃は今まで実家のそこそこデカい冷蔵庫しか見たことないだろ?」

「まぁ、そうっすね」

「デカいやつだと大抵は自動なんだよ。だけどちっちぇやつには手で取らなきゃならねぇやつとか、スイッチ押さなきゃならねぇやつとかがある。それは手作業で剥がさないとならねぇやつだ」

「ゲッ! そういうのがあったんすね」

 

 と、いうことがあったりした。

「はぁ……」

 入浴中の瑠璃は、再度声を出しつつまったりしていた。

「まぁこの先いろいろありそうっすけど、なんとかなるっしょう……」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

Epilogue III

 

 私が……────

 私が、弱かったから。

 

 

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 ガッ、ガツッ、バッ、ザッ、ガツッ、ガツッ

 項島台ダム、ダム湖畔公園。夜。

 ラ・ピュセルとリップルが、夜の鍛錬をしている。

 お互いに徒手空拳だ。

 敏捷で勝るリップルがラ・ピュセルの間合いに飛び込む。仰け反りながらも1撃、2撃と躱していって、

「はっ」

 ラ・ピュセルの方から、腕での1撃が繰り出される。リップルがそれを飛び上がって躱す。

「!」

 リップルは、間合いを取り直すのではなく、ラ・ピュセルの背後に降り、そこからラ・ピュセルに向かって一撃出そうとして ────

「この!」

 ラ・ピュセルは、振り向く動作で尻尾を振り、それをリップルに向かって横薙ぎに叩きつけるようにする。

 

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「はっ!」

 リップルは、そこで後ろに下がる動作をしつつ、腕を前でクロスさせてガードの姿勢をとる。

 ガッ

 衝撃はだいぶ殺されていたが、確かに打撃音が聞こえた。

「あっ!」

 ラ・ピュセルが我に返る。

「ごめん、入れちゃった!」

「いや、いい」

 謝るラ・ピュセルに、リップルはそれを制するように声を出す。

「尻尾もだいぶ重い一撃が入るようになってきた」

「うん、この2年鍛えて、ようやく充分思う通りに動かせるようになったよ」

 リップルの褒めているつもりの言葉に、ラ・ピュセルは尻尾を左右に動かしながらそう言った。

 ラ・ピュセルには元々尻尾があったが、最初の頃は飾り同然で、感情にあわせて動くようなものだった。一応、随意運動は不可能ではなかったのだが、「えっと、右側はこっちだから、次に左側はこっちだから……」と、それ自体を意識しながら動かさなければならなかった。

 人間には尻尾は存在しない。なので、両腕・両脚・首のように、意識と無意識を連結してパッと動かす、ということができなかった。

 自分達の選抜試験の時はそれ以外に必死でそれどころではなかったが、リップルと鍛錬を始めてしばらく経った頃、先程と同じように敏捷で勝るリップルに追い詰められかけた時、身体ごと振り回す形で一撃返した事があった。それ以降、意識した随意運動から、半反射的な運動までできるように、訓練を積んできたのだ。

「続き、どうする?」

 リップルが問いかけると、それまで、お尻を突き出した姿勢で、尻尾を振り返るようにしつつ、お尻ごと尻尾を振っていたラ・ピュセルが、身を起こして姿勢を直した。

 

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「もう1本、お願いできる?」

「O.K.」

 そう言って、2人は再び、お互いを正面に見据えて構え直す。

 その様子を、ベンチに座ったスノーホワイトが、ずっと観察していた。

「…………」

 ── あの時……

 あの時、私が戦えるぐらい強かったら。

 私が、メルヴィルに人質にされなかったら。

 少なくとも、ラズリーヌの足手まといにならなかったら。

 そんな思考が止まらないまま、2人を見ている。

 スノーホワイトだけの責任ではない。元々、スノーホワイトを回収してそのままテレポートで逃げる予定が、メルヴィル撃破に色気を出したのはラズリーヌIIの瑕疵ではある。

 ただ、それでも、

 ── 私が弱かったせいで、ラズリーヌは左脚を失った。

 ── それが、そうちゃんの心の(きず)になっている。

 と、スノーホワイトは自責を止められずにいた。

「うーん、やっぱりスピードで追いつけないのはキツいものがあるなぁ」

 一本終えたのか、ラ・ピュセルとリップルが、スノーホワイトの座っているベンチの方に歩いてくる。ラ・ピュセルが、ボヤくように言っていた。

「実戦なら、ラ・ピュセルは剣で間合いが調整できるだろ」

「うん、まぁ……」

 リップルがフォローするものの、ラ・ピュセルは芳しくなさそうな返事をする。

「あの、そうちゃん、リップル!」

 2人が目前まで来た時、それまで俯きがちになっていたスノーホワイトが、2人の顔に向かって視線を上げる。

「え?」

「なに?」

 ラ・ピュセルとリップルが、2人ともキョトン、としつつ、訊き返す。

「あの、次……次からでもいいから、私も、その、鍛えてくれないかな?」

 スノーホワイトは、笑ってもいるように見える引き攣った表情で、そう頼んでくる。

 ラ・ピュセルとリップルは、各々顔を見合わせてから、

「まぁ、別にいいと思うけど」

 と、ラ・ピュセルが、穏やかな表情で受容的に言った。

 一方、リップルは、

「次まで、その意思が残ってたら」

 と、少しキツく感じる口調で言った。

「あ、はは……」

 スノーホワイトは決まり悪そうに笑った。今までは、戦闘はラ・ピュセルとリップルにとても敵わない、と思い込み、そこへ人間関係の微妙さもあって、トップスピードに、

()()()で充分解っただろーが。オレたちもある程度鍛えとかねーとやべーだろ」

 と言われても、不貞腐れてなかなか行動に移さなかった。

 そんな背景があったから、ラ・ピュセルはようやくその気になってくれたか、と思い、リップルは今だけの感情ではないか、と考えた。

「あ……そうだ、そうちゃん」

「え、何?」

 スノーホワイトに呼ばれて、ラ・ピュセルが視線を向け直す。

「候補生用のアイテムに武器があったよね、あれって残ってる?」

「え、えっと」

『残ってるぽん』

 ラ・ピュセルが、一瞬、答えに戸惑うと、それを制して、ネクの声がした。

 ラ・ピュセルがマスター仕様マジカルフォンを取り出し、フリップを開く。ポンッ、と音を立てるかのように、ネクが姿を表した。

「まだロングメイスが残ってるぽん。次に選抜試験をやるのはいつになるかわからないし、スノーホワイトなら貰うのに充分な、普段からの実績の積み上げがあるぽん」

「ロングメイスか……まぁ、振り回せばなんとかなる武器は丁度いいかな」

 ネクの言葉に、ラ・ピュセルは少し考えるようにしながらそう言った。

「それ、どういう意味?」

「あ、いや……」

 スノーホワイトが反応すると、ラ・ピュセルは、ごまかすように笑って、両手で押し返すような仕種をした。

「でも、ネクもちょうどいいと思うぽん。スノーホワイト、どうする? 買っちゃう?」

 ふよふよと左右に身体を振りながら、スノーホワイトにそう問いかけた。

「うーん……」

 スノーホワイトは、左手で右腕の肘を支えつつ右手で顎を支える仕種で、考え込むように唸ってから、

「じゃあ、欲しい!」

 と、言った。

「了解だぽん。今アバターに設定するぽん」

 ネクが言って、しばらくの間視線を下に向けたまま、反応がなくなる。

「そう言えば、もうひとつなにか残ってなかった?」

 リップルが、ラ・ピュセルに訊く。

「あー、あれはボクが使うことにした」

「クロスボウを?」

 ラ・ピュセルの答えに、リップルが意外そうに問い返す。

 ラ・ピュセルは、基本的にクラムベリーとの再戦以来、自分のスタイルに拘らず使える物ならなんでも使うところがあるが、投射に関しては必中を付けられる自分に頼ってくる、と、リップルはそう認識していた。

「あー…………」

 すると、ネクの反応が戻り、糸目になって眉間に皺を寄せて、唸るような声を出した。

「ラズリーヌIIが『そのトリガーに取り付けた丁度良さげなリングはなんっすか!』『なんで脚みたいなもの取り付けてるっすか!』『本当にヒーローの戦い方じゃないっすねぇ!』、これで解るぽん?」

「だいたい」

 ネクの説明を聞いて、リップルは、僅かにだけだがうんざりするような口元になって言った。

 当のラ・ピュセル本人は、誤魔化すかのような笑顔になっていた。

 ネクは、気を取り直したようにしながら、スノーホワイトの方を向き直して、

「で」

 と、言う。

「スノーホワイト、設定完了したぽん。スノーホワイトのマジカルフォンで確認するぽん」

「あ、うん」

 ネクに言われ、スノーホワイトは自分のマジカルフォンを取り出した。

 ディスプレイを表示させると、『新アイテムが追加されました』と、『即時適用する』のボタンが表示されていた。

 スノーホワイトがそれをタップすると、

「わっ、と」

 光の棒として出現したそれが、実体化して倒れかける。そこへスノーホワイトが手を伸ばしてキャッチした。

 しばらく、両手で持ったそれをしげしげと見つめ、そのまま、ラ・ピュセルとリップルから距離をとり、そこでメイスを持ち直して、上から前に、横方向に、振ってみる。そしてそのまま、脚を軽く開いた姿勢で、ファイティングポーズを決めた。

 

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「気に入ったみたい、かな」

 それを見ていたラ・ピュセルが、呟くように言った。

「まぁ、今回は焦げ付かなかったからいいけど、やっぱりこのルールで武器3種類はちょっと多かったかなー。あんまり有り難くないっていうか」

 後頭部に両手を当てつつ、ラ・ピュセルが言う。

 すると、ネクが、

「そんなことないぽん」

 と、ラ・ピュセルの方を向き直して、そう言う。

日本(この国)がどれだけ平和って言っても、社会の中にはしばき倒さなきゃ理解できない悪党なんていくらでもいるぽん。そういう悪党から善良な人を守るのも魔法少女の役目だぽん」

「それはそう」

「ははは……」

 リップルは、ネクに同意するように、目を閉じ、腕を組んでうんうんと頷きながら言ったものの、ラ・ピュセルは、どこか乾いた声を出した。

「よーし、明日からこれで素振りしよっ」

 スノーホワイトの、妙に張り切った声が聞こえてきた。

 何故かハイテンションのスノーホワイトを見て、リップルは、

「…………ラ・ピュセル」

 と、どこか深刻そうな表情で切り出した。

「え?」

「候補生用の武器に『消火器』とかないよな?」

 思いつめたようなリップルの表情に、ラ・ピュセルは驚いたような表情になりつつ、

「す、少なくとも “武器” としては存在しないけど……」

 と、答えた。

「なら、よかった」

 リップルは、なぜか心から安堵したように、胸をなでおろしながらそう言った。

「?」

 

 

 倶辺ヶ台、姫河家前。

 5ドアXの車体を持つセルボの、その後部座席ドアから、すでに変身を解除した小雪が降りる。

「それじゃ、おやすみなさーい!」

 まだすぐには寝れなそうなテンションで、小雪は挨拶する。

「おやすみ」

 助手席から、姿はラ・ピュセルのまま、尻尾と衣装が消えた “本来、変身を解除している” 状態の颯太が、開けた助手席の窓から手を振って返事をする。

 運転席の華乃も、視線で小雪を見送った。

 小雪が自宅の中に入ったのを見届けてから、

「出すぞ」

 と、華乃が言い、ギアを1速に入れて、発進した。

 住宅街の道を縫うようにして、華乃邸のある中宿へ向かう。

「颯太」

 どこか黄昏れている様子で、助手席の窓から外を見ていた颯太に、華乃がそう声をかける。

「今は何?」

「ん」

「何を思い出してた? アカネのこと? それとも、────」

「えっと……」

 深刻さを感じて問いかけた華乃だったが、訊かれた颯太は、突然ひょうきんそうな表情になりつつ、なぜか顔を赤くする。

「ごめん、今日のこの後のこと考えてた」

 その颯太の答えを聞いて、華乃は、呆れたように鼻でため息を吐いてから、口元で薄く笑った。

「今日は何がご希望?」

「えっと、…………その、今日、ボクが “姫” やっていい?」

 華乃は、ちらっと颯太の顔を見てから、

「もちろん」

 と、きっぱりと答えた。

 颯太は、顔を湯気が出そうなほど真っ赤にしつつも、どこか嬉しそうにもしている。

「そ、その、よろしくお願いしマス…………」

 





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