魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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Magical Girl Raising Project "ReBirth"
第01話


 最近、噂になり始めたスマートフォンアプリ、MORPG(Multi-player Online Role-Playing Game)

『魔法少女育成計画ReBirth』。

 架空の都市、 “霞ヶ波(かすみがなみ)市” に住む魔法少女になって、人助けをしたり、エンカウントするエネミーを倒したりする、と、ありきたりなように見えて、アバターの設定の自由度が大きく、更にそれに合わせた変身シーンが生成されるなど、その筋の嗜好のある者の琴線を強く鳴らし、中毒性がある。

 2年前、話題に上り多くの魔法少女ファンを沸かせながら、1年に満たずにサービス終了となった『魔法少女育成計画』のリブート版として、その時ほどのセンセーションはなかったが、その当時を惜しんでいたファンから徐々に評判が広がっていった。

 今日も、自宅マンションの一室で、名深第二高等学校の1年生、風谷(かざたに)ミキがプレイしていた。

 今日は他の魔法少女(プレイヤー)と協力して、発生した駅ビルの外壁崩落事故から一般市民を救出してきた。

 ── あの霞ヶ波駅ビルの構造、名深駅に似てるのは気のせいかな。それともロケ現場だったりするのかな。

 などと思いつつ、今日は切り上げようと、 “自宅” として設定されている拠点に戻ってきて、ゲームのホーム画面を開いたときだった。

「え」

 ホームウィンドウの上に「Congratulations!! あなたは選ばれました」と、表示されたかと思うと、スマートフォンの画面がありえない光を放ち始めた。

 光に眩んだミキの視界が回復してくると、スマートフォンの画面の上に、饅頭に出目金の尾がついたような形状ながら、白黒の2色にその境界に赤い帯の入った、どっかの空港連絡特急を思わせるカラーリングの生物? 物体? が現れた。

「おめでとうございますだぽん。あなたは魔法少女に選ばれましたぽん」

 饅頭がそう言った。

「え? 選ばれた?」

 ミキは、リアクションから仰け反るように立ったまま、要領を得ず訊き返す。

「実はこの『魔法少女育成計画ReBirth』は、魔法少女候補生を探すためのものなんだぽん。あ、申し遅れました、ネクは電脳妖精ネクと申しますぽん。今後ともよろしくお願いしますぽん」

 丁寧に、ネク、と名乗った饅頭、もとい電脳妖精は、お辞儀するかのように一旦下を向き、戻る。

「魔法少女……私が?」

 ミキはそう言って、視線をネクから移し、自分の両手を見る。

「はいですぽん」

「本物の?」

「現状では仮免に近いですけれどもぽん」

「仮免…………」

 一度ネクに視線を戻していたミキは、再び自分の両手を見た。

「辞退することもできますぽん。辞退する場合は、今見聞きした魔法に関する記憶だけ消して、普通の生活に戻れるぽん」

「えっと」

「もし、受けるのなら、最初の変身をやってみるぽん」

「…………」

 ネクの言葉に、ミキは視線を上げて、短く逡巡した後、

「変身!」

 そう告げると、ミキの全身から光が溢れ、放たれた。

 入浴後のパジャマが粒子状の光になって消えたかと思うと、ワインレッドで、チューブトップ構造にミニスカートの衣装が身を包む。短く白いマントに、足元には白のサイハイソックス、ワインレッドのブーツ。

 下ろしてウェーブがかかった、やや茶色がかっているがネィティブジャパニーズの範囲を脱しない色のセミロングヘアは、水色のショートヘアに変わる。同じように、黒い瞳もグラデーションのかかった青い瞳になった。

「ホントに変身した……」

 信じられない、と言った様子で、ミキは自分の姿を見回す。

 

【挿絵表示】

 

「身体能力が上がってるから気をつけるぽん」

「どれくらい?」

「軽自動車持ち上げるぐらいは楽勝のはずぽん」

「ひぇ~……」

 ネクの答えに、ミキは、唖然としつつもどこか緊張感に乏しい声を出した。

「魔法少女としての名前は…… “リフレッシングブリーズ”。魔法は、 “好きな人の怪我を治せるよ” ぽんね」

「好きな人って、私には別に……」

 言葉の意味を取り違えて、ミキ、リフレッシングブリーズは、ヘラっとした苦笑を浮かべる。

「あー……この場合の “好きな人” は、 “任意の相手” って意味ぽん」

「あ、そ、そっちの意味か……」

 ネクが少し気まずそうに言うと、リフレッシングブリーズはきまり悪そうな声を出した。

「もちろん、リフレッシングブリーズ本人も対象になるぽん。ただ、所謂自動(オート)回復(リジェネ)じゃないからそれは気をつけるぽん」

 ネクがそう言った直後、ベッドに置かれていたスマートフォンの上に、またそれに似た情報端末のようなものが出現していた。

「これは?」

 リフレッシングブリーズは、それを手に取りながら問いかける。

「マジカルフォン。魔法少女同士の通信や、ネクやマスターからの通知を受け取るための通信装置だぽん」

 ネクの説明を聞きつつ、ディスプレイを表示させた。

「…………そう言えば、候補生、とか、仮免、とか……」

「そうだぽん。今のリフレッシングブリーズはその状態ぽん。しばらくして、候補生が全員集まったら選抜試験が行われるぽん」

 リフレッシングブリーズの問いに、ネクは答える。

「もし、それに受からないと?」

「脱落者は、魔法と魔法少女に関する記憶を消して、元の普通の人間に戻るぽん」

「ふーん」

 ネクの答えに、リフレッシングブリーズは、少しだけ複雑そうな表情をした。

「でも、魔法少女ってどんなことをすれば? それに、試験の内容は?」

「その答えは同じ内容になるぽん。詳しくはマジカルフォンで『魔法少女の心得』を読んでほしいぽん」

「魔法少女も解説書(マニュアル)の時代か」

 問いに対するネクの答えを聞いて、リフレッシングブリーズは苦笑する。

「困ったことがあったら、マジカルフォンの “マスコットを呼び出す” ボタンをタップするぽん。そうすればネクか、必要があればマスターが答えるぽん」

「マスター?」

 ネクの説明を聞いて、リフレッシングブリーズはその単語を鸚鵡返しに訊き返す。

「選抜試験の管理者(マスター)ぽん」

 ネクがそう答えると、マジカルフォンのディスプレイに、彩度の高くない金髪の、女性と少女の端境に見える人物が表示された。

「ラ・ピュセル。困っている人は見逃せない優しさを持ちつつ、戦えば勇猛、魔法少女の(かがみ)だぽん」

「ふーん……」

 

「どうした? 颯太」

「なんか、背筋がゾクッとした」

 

 

 黎明。

 名深駅前商店街、城址公園近く。

「はれ?」

 小柄な少女は、はっと我に返った。

 商店街を構成している国道の、歩道の上に立っている。

 自動車用ガソリンエンジンにしては低回転型のそれの爆音が、彼女の背後を離れていった。

「私、どうしてこんなところにいるんだろう?」

 少し気の抜けた声を出す。

 白に近いプラチナブロンドのショートヘア。

 ふわっとした白と薄灰色フリルスカートのドレス、黒いリボンタイ。

 片方が白、片方が黒の長手袋とサイハイソックスは、前者と後者の色が交差している。薄灰色のハイトップのスニーカー。

 濃紫のボンネット(カチューシャに似た、柔らかい素材のもの)には、中央より本人から見て右にオフセットして、青いバラの飾りがついている。

 その全体の雰囲気は、どこかの別の魔法少女を思い起こさせる。ただ、だからこそ目立つ違和感もある。

 その目は黒と白のオッドアイ、それも三白眼で、ふんわりとした全体のイメージの中で少しキツい印象を与える。そしてそれ以上に、その瞳孔に、どこか意図したような違和感があった。

 不安そうにあたりをキョロキョロとしていると、手に持っていた通信端末が、ピッピッピッと通知音を鳴らした。

 それを持ち上げてディスプレイを表示させると、トークアプリが起動していた。

『とりあえず寝泊まりできるところを探すぽん』

 指示するかのような言葉が表示されていた。

 ピッピッピッ

『大丈夫、うまくいくぽん。ミクセリクサー』

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「そろそろ蒸すようになってきたなぁ」

 岸辺家、颯太の自室。

 ベッドの上で、大きめの団扇で自分に向かって扇ぎながら、颯太はそう言った。

 窓の外では雨が降っているが、湿度が高くてじっとりと汗ばむ。

 颯太は、オーバーサイズのTシャツにハーフパンツという格好で、ベッドの上で胡座をかいている。

 

【挿絵表示】

 

「流石にちょっと苦言を呈したいぽん」

 そう言う声が聞こえたかと思うと、ベッドの枕元に置かれていたマスター仕様マジカルフォンから、ネクが出現した。

「もう候補生が集まってきているぽん。その格好見られるのはあんまりよろしくないぽん」

「家の中ぐらい大丈夫だよ」

「その格好で外に出てたこともあるぽん。スノーホワイトに目撃されたぽん」

 ネクにそう言われて、颯太は苦い顔をする。

「と……そんなことより、ちょっと報告したいことがあるぽん」

「報告?」

 そこまできて、颯太の視線がネクの方を向く。

「どーも、候補生の中に本職の魔法少女が紛れ込んでるぽん」

「え?」

 短く訊き返すような声を出しつつ、団扇を傍らに置いて、マジカルフォンを手に取る。フリップを開いて、ディスプレイを表示させる。

 すると、すでに登録済みの候補生のリストから、1人の魔法少女が表示された。

 黒いボブカットに、青い衣装、白いマントが特徴の姿。

 名前、魔法少女名は『ブルーコメット』になっているが……────

「別名、『2代目ラピス・ラズリーヌ』」

「見た目はボク達とあまり変わらないみたいだけど、本職って?」

「こう言っては申し訳ないけど、魔法少女としてはラ・ピュセルより歴が長いぽん。それに、先代のラピス・ラズリーヌの教えをもとに、修行を続けた猛者ぽん」

「それ、万一になったらボク、勝てるのか?」

「多分ムリぽん」

 ネクにそう言われ、颯太はガクン、と首を傾けた。

「と言っても、クラムベリーみたいな倫理破綻者じゃないから、多分その心配はしなくていいぽん」

「それならいいけど、でも……」

 颯太は、姿勢を直すと、表情を険しくする。

「そのとおりだぽん。意図がわからないのがちょっと不気味なんだぽん。本人自体の加害性は心配しなくていいけど、全面的に看過もしない方がいいと思うぽん」

「解った。気をつけとくよ」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「おめでとうございますだぽん。あなたは魔法少女に選ばれましたぽん」

 そこから、同じようにやり取りをして、同じように変身をした。

 その白い衣装は、飾りっ気はあるものの、魔法少女と言うより、少し時代がかったような男装に見える。

 その全身も、少年のような見た目になっていた。

 

【挿絵表示】

 

「魔法少女としての名前は、 “マイカホワイト”、魔法は…… “相手に"後回し"だと思わせるよ” ぽんね」

 ネクが伝える。

「これが……魔法少女……」

 魔法少女マイカホワイトは、ネクの説明を聞きつつも、魔法少女になったことそのもの、ではない感慨を表情に讃えていた。

「マイカホワイトの魔法は、他人に知られると効果的に使えなくなるぽん。誰にも知られない方がいいぽん」

「そう……そうなのね……」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「悪いけど、ラズリーヌには目くらましになってもらうぽん」

 

 





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