魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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第02話

 端川駅行きのバスの車内。

 中乗りの乗車口より後ろ側、2人掛けの座席に、高校の制服姿の2人の少女が座っている。1人はやや栗毛で緩くウェーブのかかったセミロングヘア、もう1人は黒い長髪を1本のサイドポニーテールにしている。また、2人の着ている制服は別々のものだった。

 サイドポニテの少女は、スマートフォンを操作していた。

「なんか、最近また魔法少女の目撃情報が増えてきたわね」

 サイドポニテの少女が、どこか怪訝そうな表情をしつつ、視線はスマートフォンに向けたまま、隣の少女に対して言う。

「ふーん」

 しかし、栗毛の少女はどこか気のない返事をする。

「ちょっとスミ、その反応はなんなのよ!?」

 その反応がちょっと気に触ったのか、サイドポニテの少女は、スミ、と呼んだ栗毛の少女の方を向いて、僅かに憤ったような声を出した。

「え、あ、なに?」

 スミと呼ばれた少女は、はっと我に返ったように、決まり悪そうな笑顔で返した。

 それを聞いて、サイドポニテの少女はさらに表情を引き攣らせる。

「魔法少女がいるって言ってたのはアンタの方でしょうが!」

「ああ、うん、ごめん、ヨシちゃん」

 スミと呼ばれた栗毛の少女は、ヨシちゃん、を押し返すような仕種をしながら苦笑してそう言った。

 その時。

 ガクンッ

 バスが急停車した。

 2人は何事かと、キョロキョロとした後、バスの前の方を見る。

『前方で事故が発生しています。お急ぎのところ申し訳ありません』

 運転手の肉声放送でそう伝えられてくる。

 窓の外を見ると、他の自動車もすし詰めの状態で車道上で停止している。この大通りは交通量が少ない方ではないが、ここまでの詰まり方は珍しい。

「やだなぁ、帰るの遅れそう」

 ヨシちゃん、は、不満気にそう言った。

「あ」

 スミ、は、ふっと思い出したように、声を出した。

「小雪……あの子どうしてるかな」

「今思い出す話?」

 スミの言葉に、ヨシちゃんは呆れたように返した。

「まぁ、でも、なんとなく」

 スミは苦笑してそう返す。

「まぁ確かに、中学卒業の頃、妙にハイテンションな日があったかと思えば逆に沈んだりしてて、ちょっとヘンだったけど」

 ヨシちゃん、は、呆れをスミから小雪に移すようにそう言った。

「それに、途中までヨシちゃんと同じ志望校だったのに、土壇場で変えたしね。偏差値的にはもったいないけど、自宅に近い方がいいからって」

「ちょっと情緒不安定だったのかもね」

 スミ、の言葉に、ヨシちゃん、はそう返した。

 

 片側3車線の大通りの、交差点の直前。

 車道のアスファルトの層が割れ、陥没して穴が空いている。

 大きさは1.5車線分くらいだが、共同溝が崩壊しているのか、深さは大人の男性が背伸びしてさらに手を伸ばしても届かない程あった。

 そしてそこへ、アンダーパス対策なのか、パネルバンに特装されたシングルキャブのLN167型 トヨタ ハイラックスが、その “鼻先” から車体半分ほどを穴につっこんでしまっていた。

 運転手が一旦は後進をかけたが、4WDでもタイヤを削っただけに終わった。それどころか、崩落を加速させそうだった。

 消防への通報はされていたが、交差点へ向かうどの車線も、行く手を阻まれた多くのクルマが塞いでしまっている。

 その危うい状況の中で、それを見ていた人々には、白いふわふわしたなにかと認識できる存在が、穴の中へ飛び込んでいった。

「よーし」

 それは、穴の底へ立つと、ハイラックスのフロントバンパーを押し上げようとする。

 ハイラックスが少しあがりかけた、と、思った時。

 ズブッ

「えっ!?」

 足を踏ん張ったところが局所的に陥没し、白い少女の脚が、泥水に沈み込んでしまった。

 脱出を試みるが、足には水中でふかふかとした正体のない感触が返ってきて、踏ん張りが効かない。

「あわわわ、た、助けてくださいー!」

 

「そうちゃん!」

「うん」

 陥没現場に、2人の魔法少女が降り立った。

「スノーホワイト、悪いけど穴の中の子、任せていいか?」

 中は泥水で、一時的にせよ衣装が汚れそうだと気遣いつつ、ラ・ピュセルはスノーホワイトにそう訊ねる。

「うん、任せて」

「あと、ドライバーさんに窓を開けるように」

「解った」

 ラ・ピュセルとそう言葉を交わすと、スノーホワイトはそう言って、躊躇わずに穴の中へ降りていった。

 ハイラックスの運転席の窓が開いたのを確認して、

「後ろから引っ張ります! 合図したらそっちもバックに入れてください!」

 ラ・ピュセルはそう声を張り上げてから、リアバンパーの下から腕を回して、ラダーフレームの横桁に手をかける。

「いきますよー! いち、にぃーの、さん!!」

 ラ・ピュセルがリアバンパーを引っ張ると同時に、5L型エンジンの爆音が高まる。

 ラ・ピュセルに引き上げられながら、先程は空転するばかりだったタイヤが路面を掴み、車体はゆっくりと穴から上がっていく。

 ある程度上がったところで、ラ・ピュセルがハイラックスの真後ろから左へ跳び退()くと、後は自力で、まだ健全なアスファルト路面に上がってきた。

 カチャッ、と、運転席のドアが開いた。運転手が降りてきて、

「ありがとうございます! 助かりました!」

 と、ボンネット越しに、腰を低くしてラ・ピュセルに言う。

「あ、いいえ、当然のことをしただけですから」

 ラ・ピュセルは、苦笑気味に笑ってそう言ってから、

「では、失礼します」

 と、そう言って、自分も穴の中へ飛び込んでいった。

「こゆ……スノーホワイト?」

 ラ・ピュセルが問いかけるように言いつつ、穴の深部に視線を向ける。

 そこでは、すでにスノーホワイトに引っ張り上げられて、泥水のない場所に立たされた、白い衣装にオッドアイの魔法少女がいた。

「すみませぇん、ご迷惑おかけしてしまいました」

 泣きそうな顔で、小さな白い魔法少女は言う。

「大丈夫だよ、失敗は誰にでもあるから」

 スノーホワイトが、苦笑しながら慰めるように言う。

「えっと、お2人は……」

「うん、候補生じゃない方の魔法少女だよ」

 白い魔法少女とスノーホワイトがそうやり取りしている間、ラ・ピュセルはマスター仕様マジカルフォンを取り出し、フリップを開く。

「君は……」

 ディスプレイを表示させ、候補生リストを開く。

「ミクセリクサー?」

「はい!」

 

 

 私鉄線・新名深駅。

「この置き引き野郎! 待て、待ちやがれ!!」

 背後から響いてくる、発車した下り列車のディーゼルエンジンの爆音に負けないほどの声が響く。

 膨らんだノートパソコンバッグを抱えて小さな駅舎を飛び出してきた男が、旧街道の踏切を越えて走る。そして、別の男性がそれを追って駆ける。

 市民会館やホームセンターのある方へ向かって続く追跡は、追いつけも離されもせず、延々と続くかに見えた。

 置き引き犯が、市民会館通りの歩道へ出た時、その進路上の路面に、どこからともなくオレンジサファイアが転がった、かと思うと、

「!?」

 突然、青い衣装の少女が出現し、置き引き犯の顔面の進路上に右腕を立てた。所謂アックスボンバーに近い構図だが、少女が動いたのではなく、置き引き犯が自ら突っ込んでいったかたちだ。

 置き引き犯が仰け反った瞬間、スッポ抜けるように放り投げてしまったパソコンバッグを、青い衣装の魔法少女が軽い動きでキャッチする。

「名乗りを上げてる暇がなかったっす」

 青い衣装の魔法少女は、気の抜けたような苦い顔をして、そう呟いた。

「あ、えっと、アンタは……」

 追跡してきた方の男性が立ち止まり、身構えるようにしつつ問いかける。

「これ、ひとまず返すっす」

「あ、ああ、すまねぇ」

 青い衣装の魔法少女に差し出されたパソコンバッグを、男性が受け取る。

「礼には及ばない」

 青い衣装の魔法少女は、急に引き締まった声でそう言うと、見た目にはワンアクションで両手の指の間に色とりどりの人造コランダム(サファイア)を挟んで持つ。

「ホムセン前でも舞う青い煌めき! ラピス・r ──── じゃ、なくて、ブルーコメット! この名前、覚えておいて!」

「は、はぁ……」

 ポーズを決めた青い魔法少女、ブルーコメットの前で、男性は戸惑いと呆然が混じった様子で立ち尽くした。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 岸辺家。

「うーん……三条(さんじょう)夏湖(かこ)……三条……どこかで聞いた名前なんだよな……」

 ネクが、選抜試験開始の通告の準備をしている最中、颯太はマスター用マジカルフォンのディスプレイを見ながら、そんなことを呟いていた。

 ピピッ

『そろそろ始めるぽん。チャットルームに入っててほしいぽん』

 通知音とともに、ネクからのダイレクトメッセージが表示された。

『了解』

 颯太 ──── ラ・ピュセルは、まずネクにそう応答してから、マジカルフォンのチャットルームに入った。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「参加必須だって」

「なにかな?」

 噴水のある中世欧風のシンプルな屋内庭園を模したチャットルームの中では、デフォルメされた魔法少女候補生達のチャット用アバターが、なにか呟いている。

 その片隅で、ラ・ピュセルとリップルのチャット用アバターが、向かい合って剣を素振りしたり、クナイを投げるモーションを繰り返したりしている。

 噴水の近くにリフレッシングブリーズとブルーコメットがいた。噴水前のど真ん中にミクセリクサーがいる。ラ・ピュセルとリップルとは別の端に、マイカホワイトがいた。

 噴水の上に、ネクが現れた。

「全員揃ってるぽんね」

 わざわざ、チャットルーム内を見渡すモーションをしてそう言ってから、

「では、発表を始めますぽん」

 と、話を切り出した。

「みなさんが魔法少女候補生になった時に説明しておいた通り、選抜試験を開始しますぽん。まず内容について説明しますぽん ────────

 

 この後、日本標準時(JST)基準で日付が変わった時点から、皆さんのマジカルフォン内のアプリに “マジカルキャンディー” が貯まるようになるぽん。

 これは、他の人に親切にしたり、助けたりして、感謝されると、それに応じて加算されるぽん。その累積で成績を決めるぽん。

 この “マジカルキャンディー” は、成績であると同時に、後々追加される候補生用のアイテムの購入にも使うぽん。その分は消費されることになるぽん。その時もう一度説明するけど、アイテムを購入する時は、効率の向上が出費を上回るか、きちんと考える必要があるぽん。

 1週間毎に、ランキング最下位が1人、脱落となるぽん。以前も説明した通り、脱落になると、魔法と魔法少女に関する記憶を消して、一般市民に戻ってもらうぽん。

 システム上は、命を奪うことは、マスター ラ・ピュセルの名前にかけて()()()()()ぽん。ただし、好成績を稼ごうとして、事故にあったりした場合の安全は、()()()()保証できないぽん。だから、それは各々で気をつけるよう、重々承知して欲しいぽん。

 それと、 “マジカルキャンディー” は各々で融通できるぽん。一時的にチームを組んだりして相手の生存に必要な時には活用するぽん。ただし、合意なしに奪うのは禁止ぽん。自分のもの以外のマジカルフォンを操作することも同じく禁止ぽん。

 このあたりの不正を何度も繰り返したり、魔法少女の力を使って故意に一般人に危害を加えたりした場合は、その場で即時失格・脱落とするぽん。

 

 ──────── と、説明は以上になりますぽん」

「結構シビアかも」

「なんか現実に引き戻された感じ」

「思ってたより難しいかも知れない」

 候補生達は、チャットで口々にそんなことを呟いたり、話していたりする。

「それでは、マスターからもご挨拶をいただきますぽん」

 ネクがそう言うと、チャットルームが一旦、暗転した。

 片隅でワンパターンなモーションを繰り返していたラ・ピュセルとリップルが、チャットルーム内を見て上座に当たる位置に移動してきた。

「えっと」

 改めてこの場になって、ラ・ピュセルは、どう言ったものかと、困惑する。

「私があなた方の魔法少女選抜試験の管理者(マスター)を引き受けたラ・ピュセルです」

 以前の騎士ロールプレイというわけではなく、場に合わせる意味で、 “私” と言った。

「隣にいるのが、いつも一緒に活動しているリップル」

 ラ・ピュセルがそう紹介すると、リップルのアバターが頷いた。

「この他に、今回の試験のエリア内には ────」

 本人が入室しているわけではないが、アバターのみのスノーホワイトが、リップルの隣に表示される。

「スノーホワイトと ────」

 スノーホワイトのアバターが消え、今度は、隻腕で箒にまたがって浮いているトップスピードのアバターが表示された。

「──── トップスピード。この4人がいます。あなた方がヘルプを飛ばした時、この中の誰かが行くことになります」

 トップスピードのアバターが消える。

「ただし、先程もネクからあった通り、皆さんの安全は最終的には皆さん自身で守ってもらうことになります。これは、魔法少女として必要な資質でもあります」

 「なるほど」「それもあるのか」という呟きがあった。

「これは頂点を決める試合(バトルロイヤル)であっても殺し合い(デスゲーム)ではありません。人助けをする魔法少女に相応しいと証明できるよう、頑張ってください」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 私鉄線・北宿駅周囲の住宅街にある経年マンション。

 その屋上。

 構造物に腰掛けながら、マイカホワイトは、チャットルームから退出したマジカルフォンのディスプレイを消した。

 ── あの子に会いたい。

 心の中で呟く。

 ── 本物の魔法少女になれば、きっと。

 冷えた夜風があたる。

 私鉄列車のディーゼルエンジンの爆音とジョイント音が聞こえる。

 ── だから、なにをしてでも。

 





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