魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story― 作:神谷萌
ある日の夕方、名深駅前商店街。
古い雑居ビルの
集中空調廃止の為、屋上の
バキッ
「うわっ!?」
トラッククレーンはアウトリガを張り出していたが、その下の、石畳調の歩道のブロックが砕けた。敷板が歪み、アウトリガの脚が路面から沈み込む。クレーンのブームが揺さぶられる。
あやうく転倒、と思われたところで、アウトリガの腕の部分を、人が支えた。
一時的に揺れが収まる。
濃い青紫のドレスに、半透明のマントを着けた魔法少女が、アウトリガを抱えている。
「今のうちに! 早く! そんなに保たない!!」
魔法少女は、やや乱暴な口調でそう言うが、
「し、しかし!」
光景が衝撃的すぎたのか、周辺の作業員は固まってしまい、すぐに動かなかった。
「チッ」
魔法少女は、歯を食いしばる下で舌打ちをした。
力が抜けないようにしながら、視界の中を意識する。
その中に、ヘルメットを被った1人の作業員がいた。
その眼に視線を合わせる。
「…………── 敷板、敷板です、主任! サブロクの!」
視線を合わせられた作業員が、上司に向かってそう声を上げた。
「よ、よし! 持って来い! ──── お前らも行け!」
主任、と呼ばれた体格のいい壮年期の男性が言うと、数人の作業員が、そばに停まっている、所謂4トン車、と呼ばれるトラックに走っていった。
荷台から降ろされた、
魔法少女が支えているアウトリガの、足元の小さい敷板が引きずり出され、数人がかりで大型の敷板を押し込んだ。
「そっと、下ろしてください」
作業員の1人にそう言われて、魔法少女は少しずつ自分の力を抜いて、クレーンが揺さぶられないようにしながら、アウトリガの荷重を敷板に移した。
「ふぅ……」
魔法少女は、ため息を深く吐き出してから、ようやく表情の緊張を解いた。
「助かったぁ!」
現場主任が言い、その場の作業員達とともに胸を撫で下ろした。
「電線ぶっちぎって車道に倒れてたら、不可抗力でも行政指導不可避だった……助かりま、 …………あれ?」
「おっ、流石にあれだけのことをすると、結構貯まるもんだな」
白い半透明のマント、濃い青紫のドレスは、なんのこだわりなのかフロントオープンのスカートで、その下にハイレグ・ビキニスタイルという扇情的な見せパンを着けていて、 “ヘソを隠して、その下を見せる” 構造。シースルーのサイハイソックスに、つや消し黒のピンヒールブーツ。胸元に色とりどりの宝石の飾りがついている。
髪型は白い大きな飾りリボンで括った、長いシングルサイドテール。髪色は紫がかった赤毛。
魔法少女アプリコット・アプリコット、本名・
魔法は “相手に「自分の声」を聞かせるよ”。対象の思考の中に、直接言葉を聞かせる。それも、その言葉は対象にとって、対象自身の声で聞こえる。ただし、行使するには対象と視線を完全に合わせる必要があった。その特性上、先天的に視力がない相手には通用しない。
先程もこれを使った。作業員達がオロオロしていて判断できずにいたので、作業員の1人に「幅の広い板!」と聞かせた。結果、その作業員は「サブロクの敷板」と
本当なら現場主任に直接聞かせた方が確実だったのだが、あの状況で、視界の中にいなかったのでできなかった。
「ふーん……結構貯まったのねぇ」
「ああ、これなら少なくとも今週末のドンケツにはならないはず……────」
後ろからかけられた声に、アプリコット・アプリコットは、画面を見ながら口を開けたニヤけヅラのまま、そう言いかけて、
「って、うぉっ!?」
と、飛び退くようにして後ろを見る。
「リフレッシングブリーズ!」
「はーい」
アプリコット・アプリコットが叫ぶような声でそう言うと、リフレッシングブリーズは、一見フレンドリーな笑顔をみせて、手を振った。
「ふむ、確かにそこそこの数ではあったみたいだけど」
「てめっ……人の
感心したように言うリフレッシングブリーズに対し、アプリコット・アプリコットはぶっきらぼうに声を出す。
「だいたい、他人を値踏みしてるけど、お前はどうなんだよ」
アプリコット・アプリコットが苛立った中にも挑発するように言うと、
「まぁ、ほんのこんだけ」
と、リフレッシングブリーズはそう言って、自分のマジカルフォンを取り出し、ディスプレイを表示させる。
クラムベリーとファヴのときとは違う、新しいUIのアプリに、保有マジカルキャンディー数が大きな文字で表示されるが、
「ぶふぉっ!?」
と、それを見たアプリコット・アプリコットは、吹き出すような驚愕の声を出した。
「わ……私の10倍近い……だと……」
「にしし」
リフレッシングブリーズは、悪戯っぽく笑いながら、マジカルフォンを “格納” した。
「まぁ多分、あたしが群を抜いてるんだよ。アンタも結構いい順位にいると思うよ」
「自慢かよ」
リフレッシングブリーズの言葉に、アプリコット・アプリコットはくぐもった声で返す。
「多少は。まぁほら、あたしの魔法がこういうのに適してるから」
「ケガが治せるんだったな……確かに有利そうだ」
「へっへん」
アプリコット・アプリコットの低い声での言葉に、リフレッシングブリーズは、得意そうに言って指を振った。
「…………なぁ」
アプリコット・アプリコットが、口元で歯を剥くような笑みを浮かべながら言う。
「なに?」
リフレッシングブリーズも、ニコニコという感じの笑みを、どこか鋭さを感じさせるものに変える。
「アンタ、ケンカは得意な方か?」
「それほど慣れてないけど、売られたら買う」
そのまま、2人は間合いを取って、某格闘冒険マンガのようなポーズをとる。
空は、すでに
『大変だぽん』
名深駅、駅ビル『
ラ・ピュセルが、リップル、スノーホワイトと雑談していると、ラ・ピュセルのマスター用マジカルフォンから、警報のような通知音とともに、ネクの声が聞こえてきた。
ラ・ピュセルがマジカルフォンのフリップを開くと、ネクが出現する。
「リフレッシングブリーズとアプリコット・アプリコットが私闘を始めちゃったぽん」
その声に、ラ・ピュセルが頭を抱えるようにしてため息を吐き、リップルが舌打ちしながら顔をしかめた。スノーホワイトは困ったように苦笑する。
「早速キャンディーの奪い合いかよ……」
ラ・ピュセルは、疲れたように言う。
「あの2人、試験開始前から、意地の張り合いしてるところがあったから……」
スノーホワイトが、苦笑したまま頬を掻く仕種をしながら言うと、
「チャットログにもそんな感じの会話が残ってたぽん」
と、ネクが続いて付け加えた。
『同じスリーブレスでマントなのがムカつく』
『あたしはアンタと違って痴女みたいなパンツ見せびらかしてない』
『はっ、この美学がわからないなんてお子ちゃまだな』
『なんだとぅー!?』
それを思い出して、ラ・ピュセルがもう一度ため息をつく。
「本人達はわからないとは言え、アプリコット・アプリコットは年下相手に何やってんだか……」
「そうなの?」
ラ・ピュセルのつぶやきに、スノーホワイトが訊き返す。
「確か大学1年生だ」
リップルが言うと、
「じゃあ、リップルと同じ?」
「そう」
と、訊き返すスノーホワイトに、リップルは嫌そうな顔をしたまま答えた。
「場所は?」
「
「トップスピードを呼ばなくても大丈夫だな」
そう言うと、駅の線路に対して西側を向く。
「ちょっと、止めてくる」
「1人で大丈夫?」
ラ・ピュセルの背中に向かって、リップルが問いかける。
「大丈夫」
そう言って、ラ・ピュセルは市街地の方へ向かって跳躍していった。
「そう言う時は、黙ってついてっちゃえばいいのに」
むすっと不機嫌そうな表情のリップルに、スノーホワイトは苦笑したまま言う。
「……余計なお世話」
リップルは、這わせるように視線を逸しながら、そう言った。
鋭いハイキックを、咄嗟に腕でガードする。
脚が引き戻されたタイミングで、上段から飛びかかろうとする。
咄嗟に床を蹴って、間合いを取り直す。
もう一方も、追わずに姿勢を立て直す。
「やるじゃん」
「アンタもな」
とは言うものの、両者ともに格闘技の心得はないようだが、リフレッシングブリーズに比べてアプリコット・アプリコットの方がケンカに場馴れしている、という感じだった。
川というか放水路を挟んで、反対側に私鉄の留置線が見える。私鉄線の列車のジョイント音が聞こえてくる。
「た ────」
「は ────」
「そこまでだ!」
2人がお互いに向かって飛びかかろうとした時、ほぼ垂直にもう1人降ってきた。
「がっ」
アプリコット・アプリコットの真正面に、白い棒状に見えるものが出現し、アプリコット・アプリコットはそこへ顔面から突っ込み、ぶつかって跳ね返るように仰け反った。
「はい」
「ぶっ」
リフレッシングブリーズのおでこの真ん中に、手刀が命中した。それほど重いものではないように見えたが、リフレッシングブリーズは、進む勢いを殺されて顔面から屋上の床に落下した。
アプリコット・アプリコットを止めた棒 ──── 2.5mほどに伸ばした、鞘に包まれたままの剣を、現在の待機状態の大きさまで戻し、鞘を左手で握って持つ。
「あててて……」
「いちちち……」
アプリコット・アプリコットとリフレッシングブリーズが起き上がりかけたところへ、
「奪うのは禁止だって言っただろ、なにやってんだよ!」
と、ラ・ピュセルが険しい顔で声を荒げた。
「別に、ただのケンカだよ、ケンカ。別にキャンディー目当てだけでやってるわけじゃねぇ」
アプリコット・アプリコットが、悪態をつくような笑みで言う。
ラ・ピュセルは、アプリコット・アプリコットにジト目を向けてから、そのままリフレッシングブリーズの方を振り返った。
リフレッシングブリーズが、気まずそうな表情でそっぽを向いた。
「
アプリコット・アプリコットが、口元で笑ったまま屁理屈を並べる。
ラ・ピュセルは、一度アプリコット・アプリコットを見てから、盛大に溜息を吐いた。
そして、険しい表情のまま、
「それは否定しないけど、今回の試験の内容じゃない。どうしてもやりたいんなら、ボク達4人の誰かを立ち会わせてくれ」
と、厳しい口調で2人に告げた。
「はい、解散、解散」
「ちぇっ」
アプリコット・アプリコットがつまらなそうな声を出す。
リフレッシングブリーズは南々西の方へ、アプリコット・アプリコットは西の方角へ跳躍して去っていった。
「アプリコット・アプリコットは……この方角だと中宿かな」
その背中を視線で見送りつつ、呟いてから、顔を手で覆った。
「だとすると、華乃の家の近くか……」
「こちら、温めますか?」
「はい! お願いします!」
デイリーヤマザキ、名深市民会館前店。
レジカウンターに、ミクセリクサーがいた。
ミクセリクサーの答えに応じて、店員は「鶏もも唐揚げ弁当」を、背後の業務用電子レンジに入れて、加熱を始める。
「先にお会計よろしいでしょうか?」
「はい!」
「お支払い方法は?」
「現金で!」
ミクセリクサーはそう言って、カウンターに500円玉と100円玉を置いた。
「600円からお預かり致します……────」
会計を終える。ミクセリクサーは、温めが終わって渡された弁当を剥き身のまま両手で持って、店から出ていく。
市民会館前通りを、新名深駅の方へ向かって小走りに走っていく。
それを、ホームセンターの建物の上から、1人の魔法少女が見ていた。
「人のことは言えた義理でもないっすけど……コンビニに入るのに変身したままとか、ある意味いい根性してるっすね」
ブルーコメット ──── ラピス・ラズリーヌ
「見た感じ、人畜無害そうな候補生っすけどねぇ、どーしてこの娘をマークしろなんて指示が飛んでくるんすかねぇ」
小声で呟きながら、ミクセリクサーを追跡するラズリーヌIIは、新名深駅の小さな駅舎にミクセリクサーが入っていったのを見ると、その駅舎の上に立つ。
自分のマジカルフォンを出現させると、レポート記述用のアプリを立ち上げて、文書を打ち込み始めた。
一方のミクセリクサーは、改札外のベンチに腰掛けて、弁当を開ける。
「美味しそうですー!」
嬉しそうにそう言ってから、割り箸を手にとる。
割り箸を割って、
「いただきます」
と、丁寧に言ってから、唐揚げをひとつ、口に運んだ。
「美味しいですー!」
【愚痴】(反転)
おう公式でそうちゃん生存ルートやってくれるんなら吐きながらでも見てやるわ
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