魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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第03話

 ある日の夕方、名深駅前商店街。

 古い雑居ビルの構造再生(リファイニング)建築が行われていた。

 集中空調廃止の為、屋上の冷却塔(クーリングタワー)の撤去中で、7トン吊のトラッククレーンで降ろす作業の最中。

 バキッ

「うわっ!?」

 トラッククレーンはアウトリガを張り出していたが、その下の、石畳調の歩道のブロックが砕けた。敷板が歪み、アウトリガの脚が路面から沈み込む。クレーンのブームが揺さぶられる。

 あやうく転倒、と思われたところで、アウトリガの腕の部分を、人が支えた。

 一時的に揺れが収まる。

 濃い青紫のドレスに、半透明のマントを着けた魔法少女が、アウトリガを抱えている。

「今のうちに! 早く! そんなに保たない!!」

 魔法少女は、やや乱暴な口調でそう言うが、

「し、しかし!」

 光景が衝撃的すぎたのか、周辺の作業員は固まってしまい、すぐに動かなかった。

「チッ」

 魔法少女は、歯を食いしばる下で舌打ちをした。

 力が抜けないようにしながら、視界の中を意識する。

 その中に、ヘルメットを被った1人の作業員がいた。

 その眼に視線を合わせる。

「…………── 敷板、敷板です、主任! サブロクの!」

 視線を合わせられた作業員が、上司に向かってそう声を上げた。

「よ、よし! 持って来い! ──── お前らも行け!」

 主任、と呼ばれた体格のいい壮年期の男性が言うと、数人の作業員が、そばに停まっている、所謂4トン車、と呼ばれるトラックに走っていった。

 荷台から降ろされた、3×6尺(サブロク)の樹脂製敷板が運ばれてくる。鉄板より軽く、人力で運搬できるが、120トンの荷重に耐えられるというものだ。ただ、本来、アウトリガーの一点荷重を正面から受けるためのものではない。それでも今は、沈みかけた脚の荷重を少しでも広い面に逃がすしかなかった。

 魔法少女が支えているアウトリガの、足元の小さい敷板が引きずり出され、数人がかりで大型の敷板を押し込んだ。

「そっと、下ろしてください」

 作業員の1人にそう言われて、魔法少女は少しずつ自分の力を抜いて、クレーンが揺さぶられないようにしながら、アウトリガの荷重を敷板に移した。

「ふぅ……」

 魔法少女は、ため息を深く吐き出してから、ようやく表情の緊張を解いた。

「助かったぁ!」

 現場主任が言い、その場の作業員達とともに胸を撫で下ろした。

「電線ぶっちぎって車道に倒れてたら、不可抗力でも行政指導不可避だった……助かりま、 …………あれ?」

 

「おっ、流石にあれだけのことをすると、結構貯まるもんだな」

 白い半透明のマント、濃い青紫のドレスは、なんのこだわりなのかフロントオープンのスカートで、その下にハイレグ・ビキニスタイルという扇情的な見せパンを着けていて、 “ヘソを隠して、その下を見せる” 構造。シースルーのサイハイソックスに、つや消し黒のピンヒールブーツ。胸元に色とりどりの宝石の飾りがついている。

 髪型は白い大きな飾りリボンで括った、長いシングルサイドテール。髪色は紫がかった赤毛。

 

【挿絵表示】

 

 魔法少女アプリコット・アプリコット、本名・杏山(きょうやま)梅子(うめこ)は、また別の商業ビルの屋上で、マジカルフォンの選抜試験アプリでマジカルキャンディーの数を確認しながら、妙に嬉しそうな表情で呟く。

 魔法は “相手に「自分の声」を聞かせるよ”。対象の思考の中に、直接言葉を聞かせる。それも、その言葉は対象にとって、対象自身の声で聞こえる。ただし、行使するには対象と視線を完全に合わせる必要があった。その特性上、先天的に視力がない相手には通用しない。

 先程もこれを使った。作業員達がオロオロしていて判断できずにいたので、作業員の1人に「幅の広い板!」と聞かせた。結果、その作業員は「サブロクの敷板」と()()()()()()()()()錯覚したのだ。

 本当なら現場主任に直接聞かせた方が確実だったのだが、あの状況で、視界の中にいなかったのでできなかった。

「ふーん……結構貯まったのねぇ」

「ああ、これなら少なくとも今週末のドンケツにはならないはず……────」

 後ろからかけられた声に、アプリコット・アプリコットは、画面を見ながら口を開けたニヤけヅラのまま、そう言いかけて、

「って、うぉっ!?」

 と、飛び退くようにして後ろを見る。

「リフレッシングブリーズ!」

「はーい」

 アプリコット・アプリコットが叫ぶような声でそう言うと、リフレッシングブリーズは、一見フレンドリーな笑顔をみせて、手を振った。

「ふむ、確かにそこそこの数ではあったみたいだけど」

「てめっ……人のマジカルフォン(マジホ)の画面覗き見してんじゃねぇ!」

 感心したように言うリフレッシングブリーズに対し、アプリコット・アプリコットはぶっきらぼうに声を出す。

「だいたい、他人を値踏みしてるけど、お前はどうなんだよ」

 アプリコット・アプリコットが苛立った中にも挑発するように言うと、

「まぁ、ほんのこんだけ」

 と、リフレッシングブリーズはそう言って、自分のマジカルフォンを取り出し、ディスプレイを表示させる。

 クラムベリーとファヴのときとは違う、新しいUIのアプリに、保有マジカルキャンディー数が大きな文字で表示されるが、

「ぶふぉっ!?」

 と、それを見たアプリコット・アプリコットは、吹き出すような驚愕の声を出した。

「わ……私の10倍近い……だと……」

「にしし」

 リフレッシングブリーズは、悪戯っぽく笑いながら、マジカルフォンを “格納” した。

「まぁ多分、あたしが群を抜いてるんだよ。アンタも結構いい順位にいると思うよ」

「自慢かよ」

 リフレッシングブリーズの言葉に、アプリコット・アプリコットはくぐもった声で返す。

「多少は。まぁほら、あたしの魔法がこういうのに適してるから」

「ケガが治せるんだったな……確かに有利そうだ」

「へっへん」

 アプリコット・アプリコットの低い声での言葉に、リフレッシングブリーズは、得意そうに言って指を振った。

「…………なぁ」

 アプリコット・アプリコットが、口元で歯を剥くような笑みを浮かべながら言う。

「なに?」

 リフレッシングブリーズも、ニコニコという感じの笑みを、どこか鋭さを感じさせるものに変える。

「アンタ、ケンカは得意な方か?」

「それほど慣れてないけど、売られたら買う」

 そのまま、2人は間合いを取って、某格闘冒険マンガのようなポーズをとる。

 空は、すでに()の朱を失いつつあった。

 

『大変だぽん』

 名深駅、駅ビル『busf(バスフ)名深』屋上。

 ラ・ピュセルが、リップル、スノーホワイトと雑談していると、ラ・ピュセルのマスター用マジカルフォンから、警報のような通知音とともに、ネクの声が聞こえてきた。

 ラ・ピュセルがマジカルフォンのフリップを開くと、ネクが出現する。

「リフレッシングブリーズとアプリコット・アプリコットが私闘を始めちゃったぽん」

 その声に、ラ・ピュセルが頭を抱えるようにしてため息を吐き、リップルが舌打ちしながら顔をしかめた。スノーホワイトは困ったように苦笑する。

 

【挿絵表示】

 

「早速キャンディーの奪い合いかよ……」

 ラ・ピュセルは、疲れたように言う。

「あの2人、試験開始前から、意地の張り合いしてるところがあったから……」

 スノーホワイトが、苦笑したまま頬を掻く仕種をしながら言うと、

「チャットログにもそんな感じの会話が残ってたぽん」

 と、ネクが続いて付け加えた。

『同じスリーブレスでマントなのがムカつく』

『あたしはアンタと違って痴女みたいなパンツ見せびらかしてない』

『はっ、この美学がわからないなんてお子ちゃまだな』

『なんだとぅー!?』

 それを思い出して、ラ・ピュセルがもう一度ため息をつく。

「本人達はわからないとは言え、アプリコット・アプリコットは年下相手に何やってんだか……」

「そうなの?」

 ラ・ピュセルのつぶやきに、スノーホワイトが訊き返す。

「確か大学1年生だ」

 リップルが言うと、

「じゃあ、リップルと同じ?」

「そう」

 と、訊き返すスノーホワイトに、リップルは嫌そうな顔をしたまま答えた。

「場所は?」

中城(なかしろ)(ちょう)の方だぽん」

「トップスピードを呼ばなくても大丈夫だな」

 そう言うと、駅の線路に対して西側を向く。

「ちょっと、止めてくる」

「1人で大丈夫?」

 ラ・ピュセルの背中に向かって、リップルが問いかける。

「大丈夫」

 そう言って、ラ・ピュセルは市街地の方へ向かって跳躍していった。

「そう言う時は、黙ってついてっちゃえばいいのに」

 むすっと不機嫌そうな表情のリップルに、スノーホワイトは苦笑したまま言う。

「……余計なお世話」

 リップルは、這わせるように視線を逸しながら、そう言った。

 

 鋭いハイキックを、咄嗟に腕でガードする。

 脚が引き戻されたタイミングで、上段から飛びかかろうとする。

 咄嗟に床を蹴って、間合いを取り直す。

 もう一方も、追わずに姿勢を立て直す。

「やるじゃん」

「アンタもな」

 とは言うものの、両者ともに格闘技の心得はないようだが、リフレッシングブリーズに比べてアプリコット・アプリコットの方がケンカに場馴れしている、という感じだった。

 川というか放水路を挟んで、反対側に私鉄の留置線が見える。私鉄線の列車のジョイント音が聞こえてくる。

「た ────」

「は ────」

「そこまでだ!」

 2人がお互いに向かって飛びかかろうとした時、ほぼ垂直にもう1人降ってきた。

「がっ」

 アプリコット・アプリコットの真正面に、白い棒状に見えるものが出現し、アプリコット・アプリコットはそこへ顔面から突っ込み、ぶつかって跳ね返るように仰け反った。

「はい」

「ぶっ」

 リフレッシングブリーズのおでこの真ん中に、手刀が命中した。それほど重いものではないように見えたが、リフレッシングブリーズは、進む勢いを殺されて顔面から屋上の床に落下した。

 アプリコット・アプリコットを止めた棒 ──── 2.5mほどに伸ばした、鞘に包まれたままの剣を、現在の待機状態の大きさまで戻し、鞘を左手で握って持つ。

「あててて……」

「いちちち……」

 アプリコット・アプリコットとリフレッシングブリーズが起き上がりかけたところへ、

「奪うのは禁止だって言っただろ、なにやってんだよ!」

 と、ラ・ピュセルが険しい顔で声を荒げた。

「別に、ただのケンカだよ、ケンカ。別にキャンディー目当てだけでやってるわけじゃねぇ」

 アプリコット・アプリコットが、悪態をつくような笑みで言う。

 ラ・ピュセルは、アプリコット・アプリコットにジト目を向けてから、そのままリフレッシングブリーズの方を振り返った。

 リフレッシングブリーズが、気まずそうな表情でそっぽを向いた。

アンタ(マスター)やリップルさんの姿を見る限り、戦闘も魔法少女の必須スキルなんだろ?」

 アプリコット・アプリコットが、口元で笑ったまま屁理屈を並べる。

 ラ・ピュセルは、一度アプリコット・アプリコットを見てから、盛大に溜息を吐いた。

 そして、険しい表情のまま、

「それは否定しないけど、今回の試験の内容じゃない。どうしてもやりたいんなら、ボク達4人の誰かを立ち会わせてくれ」

 と、厳しい口調で2人に告げた。

「はい、解散、解散」

「ちぇっ」

 アプリコット・アプリコットがつまらなそうな声を出す。

 リフレッシングブリーズは南々西の方へ、アプリコット・アプリコットは西の方角へ跳躍して去っていった。

「アプリコット・アプリコットは……この方角だと中宿かな」

 その背中を視線で見送りつつ、呟いてから、顔を手で覆った。

「だとすると、華乃の家の近くか……」

 

 

「こちら、温めますか?」

「はい! お願いします!」

 デイリーヤマザキ、名深市民会館前店。

 レジカウンターに、ミクセリクサーがいた。

 ミクセリクサーの答えに応じて、店員は「鶏もも唐揚げ弁当」を、背後の業務用電子レンジに入れて、加熱を始める。

「先にお会計よろしいでしょうか?」

「はい!」

「お支払い方法は?」

「現金で!」

 ミクセリクサーはそう言って、カウンターに500円玉と100円玉を置いた。

「600円からお預かり致します……────」

 会計を終える。ミクセリクサーは、温めが終わって渡された弁当を剥き身のまま両手で持って、店から出ていく。

 市民会館前通りを、新名深駅の方へ向かって小走りに走っていく。

 それを、ホームセンターの建物の上から、1人の魔法少女が見ていた。

「人のことは言えた義理でもないっすけど……コンビニに入るのに変身したままとか、ある意味いい根性してるっすね」

 ブルーコメット ──── ラピス・ラズリーヌII(2)は、道路の歩道上を駆けていくミクセリクサーを追って、建物の屋根伝いに跳躍していく。

「見た感じ、人畜無害そうな候補生っすけどねぇ、どーしてこの娘をマークしろなんて指示が飛んでくるんすかねぇ」

 小声で呟きながら、ミクセリクサーを追跡するラズリーヌIIは、新名深駅の小さな駅舎にミクセリクサーが入っていったのを見ると、その駅舎の上に立つ。

 自分のマジカルフォンを出現させると、レポート記述用のアプリを立ち上げて、文書を打ち込み始めた。

 一方のミクセリクサーは、改札外のベンチに腰掛けて、弁当を開ける。

「美味しそうですー!」

 嬉しそうにそう言ってから、割り箸を手にとる。

 割り箸を割って、

「いただきます」

 と、丁寧に言ってから、唐揚げをひとつ、口に運んだ。

「美味しいですー!」

 




【愚痴】(反転)
おう公式でそうちゃん生存ルートやってくれるんなら吐きながらでも見てやるわ

具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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