魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story― 作:神谷萌
「なぜ…………?」
要素は、充分だったはずだ。
突然に
安穏と憧れを奪われた。
理不尽に殺されかけた。暴力で死の淵に立たされた。
人間としての姿を
性の尊厳も歪められた。
一生を苦悶と怨嗟に捧げるには充分だったはずだ。
それでも、 ────────
なんと崇高な魂の持ち主なのだろう。
──── 認め、られない。
そんな事は、認められない。
それなら、ここまで復讐に捧げてきた私の人生はなんだったのか。
認められない。
認められない。断じて。
「そうだというのなら、 ────」
「外からでも、死の香りを与えましょうか」
県立こころの医療センター。
その名前のネガティブなイメージを避けているが、要は精神神経科専門病院。
その、病棟の個室。
その窓が開け放たれ、カーテンが風で揺れている。
ついさっきまで入院患者がいたと思しきベッドは、その痕跡を残しつつも、人の姿はなかった、なくなっていた。
白い車体に薄灰色の裾、黒い窓まわりにその下の赤い帯という塗装。
JR東日本最長特急が、東北本線上を南下していく。
『まもなく、岩沼に到着致します。 ……──── 岩沼の次は、亘理に停車致します』
─☆──☆──☆──☆─
どんな、手を、使ってでも。
あの子は、弱い子だ。
この前も、マスターとその仲間の魔法少女に助けられていた。
だから ────
夜、
地方私鉄駅としては大きな方だったが、今となっては多少大きめのプレハブ駅舎があるものの、簡易自動改札機と券売・ICカードチャージ機が設置された無人駅となっていた。地域的にはJR東日本管内なのにJR西日本テクシア製の機器なのはともかくとして。
かつて木材の鉄道輸送の積出駅だったが、トラック輸送に取って代わられた。複線の更に南側にあった貨物側線はその役目を失い、分岐器以外は未撤去の軌道が錆びるにまかされていた。
駅舎の隣には、立派なエドヒガンの桜の木が植わっていた。シーズンには桜の穴場スポットとして知られていたが、重厚な木造駅舎が撤去され、今のプレハブ駅舎になってからは、些か情緒に乏しくなった。
薄暗い待合室の片隅に、飲料の自動販売機と675P形ピンク電話機が置かれている。
ミクセリクサーはその駅舎でベンチに座っていた。少しボーッとしている。
非電化複線の私鉄線は、すでに帰宅ピーク時間帯を過ぎていたが、それでも0時少し過ぎの終列車まで、1時間に上下3本のペースで列車があった。
跨線橋がなく構内踏切になっていて、列車が接近すると警報機が鳴る。そして列車がディーゼルエンジンを響かせて到着する。その度、ミクセリクサーはそれを好奇心旺盛そうに見ていた。
ピッピッピッ
通知音が鳴る。
「ネクかな……」
ミクセリクサーは我に返って、手元にマジカルフォンを出現させる。
ディスプレイを表示させる。
その時、ちょうどまた、構内踏切の警報機が鳴り始めて ────
ミクセリクサーの注意が構内踏切に逸れた瞬間、自動改札機の、構内側の影に隠れていた、白い人影が飛び出した。
「えっ、あっ!?」
素早くミクセリクサーのマジカルフォンをひったくる。そのまま、駅から飛び出していった。
「だめですっ!」
慌ててミクセリクサーも立ち上がり、夕食などを摂った跡をそのままにして、追って駅舎を飛び出す。
「へへっ、アタシの見立て通りならアイツが2位のハズ」
マイカホワイトは、口元で笑いつつそう呟きながら、路地を駆けていく。
「待て、待ってー!」
背後からミクセリクサーの、必死なはずなのにどこか緊張感に欠ける声が聞こえてくるが、マイカホワイトは構わず走っていく。
「これでアイツは今週末に脱落、アタシは安定上位と……」
逸る気持ちから、手の中にあるミクセリクサーのマジカルフォンに視線を移し、駆けていく前方への注意が疎かになった。
「投げるぞ」
廃止され、打ち捨てられた木材加工工場の屋根から、曲射弾道を描いて、それがマイカホワイトが駆けていく路地の路面に突き刺さった、かと思うと、────
「ぶべっ!?」
幅は人間の肩幅ほど、長さは3mほどになり、路地の真ん中を塞いだそれに、マイカホワイトは顔面からモロに突っ込んだ。
マイカホワイトが跳ね返るようによろめいたところで、出現したその障害物の前に、ラ・ピュセルとリップルが降り立った。
「他人から奪うのは禁止。最初に説明があったと思うけど?」
「ネクは最初に言ったはずぽん」
険しい表情でラ・ピュセルが言うと、それに続けて、マイカホワイトが持っているミクセリクサーのマジカルフォンから、ネクがマイカホワイトの目前に出現し、そう言った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
その間に、ミクセリクサーが追いついてきた。膝に手を突いて、前屈みになりながら息を整えようとしている。
「他人のマジカルフォンを奪って操作するのは不正行為ぽん。もちろん脅して操作させるのもダメぽん」
「ちっ、バレやしないと思ったのに」
「ネクは不正対策も強化されてるぽん。いつでも見張ってるぽん」
悪態をつくマイカホワイトに、ネクはそう言った。
「はい。ミクセリクサーのマジカルフォンを渡して」
「…………」
マイカホワイトはまだ不満がありそうな表情で視線をラ・ピュセルに向けていたが、そうしながらも渋々、といった感じで、手に持っていたマジカルフォンを、ラ・ピュセルが差し出した手に渡した。
そして、そのまま逃げるように駆けていき、少し離れたところで大きく跳躍し、名深駅の方へと去っていった。
「まったく……」
ラ・ピュセルはそう言いつつ、路地の真ん中を塞いでいた剣を、常識的なロングソードのサイズに縮めて、左手に持っていた鞘に収めた。
「はい、これ」
ミクセリクサーに、彼女のマジカルフォンを差し出す。
「あ、ありがとうございます!」
ミクセリクサーは、ラ・ピュセルからそれを受け取ると、少し緊張しつつも、はっきりとした声で礼を言った。
「あ、気にしないでいいよ。これがボクの役割だし」
ラ・ピュセルは苦笑しつつ、手を振りながら言う。
それから、腕組みをし、呆れまじりに困ったような顔をする。
「本当は、そもそもこういうことが起きないようにしなきゃならないのになー」
「全端末に魔力反応の認証を設定するべきだったぽん」
ラ・ピュセルがボヤくように言うと、出現場所をラ・ピュセルのマジカルフォンに移したネクも、それに同意するかのように言う。
「できるの?」
「まぁ、
そんなやり取りをしていると、少し遅れてスノーホワイトが、ラ・ピュセルとリップルの背後に降り立った。
降り立った、が、そのまま、マイカホワイトが去っていった方に視線を向けている。
「どうかした?」
ラ・ピュセルがスノーホワイトに訊くと、スノーホワイトは視線をラ・ピュセルの方に移して、
「ううん。大したことじゃないんだけど、あの
と、言った。
「それ自体はあり得ることだろ」
リップルが言う。
「私も、
そこまで言って、リップルは、スノーホワイトとともに、同じ方向に視線を向ける。
「── 変身中の口調を、人格まで変わってるぐらいに整えるのが得意なやつならいるだろ」
リップルの言葉に、スノーホワイトが直後に苦笑する。
「それもしかしなくてもボクのことだよね? そして褒めてないよね?」
翌朝、華乃の家。
目を覚ますと、
身体を起こすと、少しいい匂いが漂ってきていた。
「しまった ────」
華乃は、不覚、と言った感じで、目元を片手で覆った。チッ、と舌打ちする。
「まだ寝ててもよかったのに。今日は工場休みなんだろ?」
ジャージの上下に、白いエプロンを着けたラ・ピュセル ──── 颯太が、ニコニコ笑顔で朝食の準備をしながら、声をかけてくる。
華乃は一度ため息を吐いてから、
「そういうわけにも行かないでしょ」
と言って、布団から抜け出した。
華乃は高校卒業後、非フルタイムの工場勤務と、デジタル作業の内職で稼いでいる。週5・8時間勤務ではないので、平日が休みのこともある。今日がその日だ。
自身も高校浪人生で時間は持て余している颯太は、前夜はここに泊まった、その朝だ。
華乃が布団を
その卓袱台の上に、小さめのボウル皿に盛られたオープンオムライス。電子レンジ調理の時短メニューだ。
他に、シンプルなコップが2つ。牛乳の1lパックが取り出されてきている。
「いただきます」
準備を終えて、向かい合う位置で座布団の上に座り、そう言って朝食を摂り始めた。
僅かに経って、
「今日はどうする?」
と、華乃が言ったときだった。
ピリリリリリ……
颯太の、スマートフォンの方に着信が入った。発信者は “小雪携帯”。
一旦スプーンを置いて、スマホを手に取り、通話ボタンをタップする。
「もしもし、小雪?」
『そうちゃん! テレビ
電話の向こうの小雪は、息せき切ったような声で言ってきた。
「テレビ?」
颯太が鸚鵡返しにした直後、華乃がテレビのリモコンに手を伸ばした。電源を入れる。液晶テレビの画面が表示される。
「チャンネルは?」
「あ、えっと、何チャン?」
振り返って華乃が訊ねると、それを受けた颯太がさらに、電話口の小雪に訊く。
『どこでもやってる!』
テレビの画面に視線を移すと ────
『──── 県名深市の市立城南中学校の正門付近で、本日早朝、教師の
BLITZ製のブースト計が正圧側に跳ねる。
国道を、華乃が運転するセルボで飛ばしていた。
「布礼舎先生、確か、もうすぐ結婚するって言ってたのに……」
助手席で、颯太が呟く。
社外カーステレオはラジオに、FMローカル局に合わせられている。
『つまり、相当日本刀の扱いに慣れている人物である可能性が高いと』
『ええ、はい、現在発表されている内容からですけれども、不慣れな人間がやってもですね、大抵は骨で止まってしまうんです』
専門家への電話インタビューが流れてきていた。
「なんの教師?」
運転席の華乃が、前方に視線を向けたまま、訊く。
「音楽。英語も受け持つこともあるけど」
颯太が答えた。
歩道橋のある交差点を越える。左側に、中学校の正門が面している路地への入口があるが、国道の路肩まで警察車両と報道の車両が溢れてきていた。
通行止め状態の路地の入り口で、セルボは一旦停車して、颯太が降りた。
「次の信号の交差点で左に入れば、ぐるっと反対側に出られるから」
「解った」
助手席のドアが閉まると、華乃はハザードを消し、右ウィンカを出してセルボを発進させた。
現場の正門前は、まだ警察が立入禁止にしていた。さらにそこへ、警察車両や報道の車両が路肩に駐車し、野次馬まで集まっていて、現場が見えない。
颯太は一旦周囲を見回す。衆目は事件現場に向いていて、誰もこちらを気にしていないようだった。
力加減を調整して軽めに跳躍し、個人経営のクリーニング店の屋根に飛び乗る。
「うわ、ぁ……」
すでに遺体はない。だが、確かに日本刀で人を袈裟斬りにしたかのような、派手な血飛沫が飛び散った、その血痕が大きく残っていた。
「どうして……こんなことに……」
誰がこのままほのぼので終わらせるっつった!?
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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