魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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第05話

 名深駅から徒歩2分、31階建てタワーマンション『ステーブルレジデンス』。

 その屋上。

 アプリコット・アプリコットは隣接する商業ビルの屋上から大きく跳躍してその屋上に降り立ち、周辺に視線を走らせた。

「ああ、来た来た」

 アプリコット・アプリコットの姿を見つけた相手の方から、そう声をかけられた。

「なンだよ、マジホじゃ言えない用事って」

 アプリコット・アプリコットは、自身を待っていた相手、リフレッシングブリーズに対して、僅かに怪訝そうな表情でそう訊ねつつ、近づいていく。

「このニュース、もう見てるでしょ?」

 リフレッシングブリーズは、普通のスマートフォンの方でその記事を表示させ、アプリコット・アプリコットに見せた。

『名深教師斬殺事件 犯人の手がかり未だなし』

『名深教師斬殺事件の余波大きく 城南中学校授業再開見通しなし 近隣では小中学校の集団登下校や親の送迎も』

「これが……どうしたのか?」

 アプリコット・アプリコットは、いまいち理解していない様子で、スマホの画面からリフレッシングブリーズの顔に視線を移した。

「わっかんないかなぁ、この犯人、うちらで捕まえようって話」

 リフレッシングブリーズは、両腕を拡げながらまずそう言って、そこからは悦に入ったような表情になり、

「こいつのせいでみんな困ってるわけだし、捕まえればキャンディー大量取得間違いなし! うまく立ち回れば警察からも金一封もらえたりして。ぐふふふふふふ……」

 と、言い、下心丸出しの笑い声を上げた。

「……話は解るが、マジホじゃ言えないってのとなんか関係あるのか?」

 アプリコット・アプリコットは眉を(ひそ)めてそう訊ねる。

「だって、これだと通信の内容があの小うるさいマスターに筒抜けになるかも知れないじゃん」

「ああ、そういうことか」

 リフレッシングブリーズの言葉に、アプリコット・アプリコットは、ようやく納得がいった、という表情になった。

 ラ・ピュセル達自身も、魔法の国の上層部に通信内容が筒抜けになるのを嫌って、普段は日本のキャリアのスマートフォンを使っている。

「話は解ったが、探すにしても手がかりはあるのか?」

 アプリコット・アプリコットは、眉の片方をハネさせて訊ねる。

「私の見立てだと……多分、教師ってのがキーワードだと思うのよね」

「まぁ、教師を学校で殺してるわけだからな。単純な推理としちゃありだわな」

 リフレッシングブリーズの得意げな言葉に、アプリコット・アプリコットは、一理はある、といった様子で言うものの、

「けど、それでも市内に学校なんてたくさんあるぜ? それに、個人が目的だったとしたら、もう、市外、県外に逃げちまってるかも知れない」

 アプリコット・アプリコットがそう言うと、リフレッシングブリーズは急にしょげたような表情になって、肩と腕をだらんとさせた。

「まぁでも、一応は気にかけとく価値はあるかも知れないな」

 気を削がれた様子のリフレッシングブリーズに対して、アプリコット・アプリコットは、苦笑しつつ、フォローするようにそう言った。

 ピロン♪

「おっ」

 通知音が鳴った。アプリコット・アプリコットもリフレッシングブリーズも、自身のマジカルフォンを取り出し、ディスプレイを表示させた。

「おーお、言ってるそばからお目付役が釘を刺してきたぞ」

 アプリコット・アプリコットが、どこか呆れたような苦笑でそう言った。

 

『候補生は教師斬殺事件に触れないこと。警察に任せておいて』

 

「一斉通知、送信したぽん」

「はぁ……」

 華乃の家。

 ネクが報告すると、颯太は、優れない表情で重くため息を吐いた。

「なにか関係あると思ってる?」

 小雪が訊ねる。彼女の高校も午前中で授業打ち切りになってしまった。ブレザーの制服がハンガーにかけて部屋の梁に()げられている。この家に小雪が寝泊まりすることもあるため、着替えを置いてあった。

「ない……と、思いたいんだけど」

「タイミングが良すぎるぽん」

 颯太の言葉に、ネクがその心中を代弁するかのように言うと、颯太は気分の重さを隠せないまま、こくん、と頷いて肯定した。

「ちょうど1週目を終えて、候補生達はルールを把握しきったところだぽん」

 最初に脱落した候補生は、友達関係がうまくいかなくて不登校になっていた中学1年生の少女だった。小雪の後輩にあたる。

 彼女は、自分が魔法少女だった記憶は、MORPG『魔法少女育成計画ReBirth』での出来事と錯誤させてあり、現実の魔法の存在の記憶はない。

 ただ、生活状況が放っておけないということで、小雪は改めて先輩後輩として連絡先を交換していた。所謂 “オンライン友達” というやつになっている。

「ここから安定して試験が進むって時点で、エリア内で殺人事件、それもあんな派手なのとか、これでなにもなかったらいくらなんでも話が出来すぎてるぽん」

「……なんだよね」

 ネクの言葉に、颯太が薄く笑ったかのように表情を引き()らせながら同意した。

「でも、実際に偶然の可能性はある」

 華乃が言った。

「それはそうなんだけど」

 颯太は、言いながら、座ったまま腕組みをする。

「2年前の、自分達の時のことがあってから、物事には必ず裏があるって、読むようになっちゃったからなぁ」

「それ自体は悪いことじゃないと思うぽん」

 どこか嫌そうに言う颯太に対して、ネクがフォローを入れた。

 その直後に、

「! 選抜試験アプリにダイレクトメッセージだぽん」

 と、ネクが声を出した。

 颯太が表情を引き締める。華乃、小雪も、視線をネクの方、颯太のマスター用マジカルフォンに向けた。

「発信者は……ブルーコメットだぽん」

 ネクの言葉に、颯太の表情が色めき立つ。

 ネクが少し上昇し、マジカルフォンのフリップを開けるようにする。

 颯太はマジカルフォンを手に取り、フリップを開いて、ディスプレイを表示させた。

 

 

 夜。

 セイコーマート 名深宇水也(うみなり)東店、その裏手の月極駐車場。

 若い男性が、自分のクルマを出すために歩いている。

 セイコーマートのビニール袋を手に提げ、反対側の肩でエレキギター用のギターバッグを背負っていた。

 クルマはホンダのN-VAN。音楽機材を運ぶためだ。

「はー、完全にこれ一本とは言わないまでも、メインの収入になる程度には稼ぎてぇなぁ……」

 男性はそう言いながら、キーレスエントリーでドアロックを外し、先に後ろのスライドドアを開けて、ギターを後部座席に乗せた。

「クルマももちょっとキメたいしなぁ」

 そう言いながら、スライドドアを閉めたときだった。

 そのN-VANの後ろ側から、別の人影が姿を現した。

「?」

 男性は、セイコーマート側の明かりが逆光に照らすその人影に気づく。

「な、なんだよ……そんなところに突っ立って……あ?」

 姿を見る。

 全体的なイメージは、旧い時代劇でよく見るような素浪人。

 ただ、その上から肩鎧と篭手を着けている。

 和装の胸元を(はだ)け、サラシを巻いた胸元が見える。

 その起伏は恵まれているとはお世辞にも言い難かったが、女性の体型であることは見てとれた。

 端正で愛らしい顔立ちといっていいはずだが、まるで能面のように感情を感じさせない表情をしている。

「な、なンだよ、脅かしやがって」

 男性は、浪人姿の女性に対して仰け反るような姿勢になりながら、抗議するような声を出した。

「なんだ、映画かドラマのロケでもやってんのか?」

 男性はそう言って、キョロキョロとあたりを見る。

「音楽家か?」

「は?」

 浪人姿の女性が短く訊ねると、男性はキョロキョロとしていた顔を止めて、女性の方を見る。

「音楽家か?」

 全く変わらない口調で、女性は問いかけの言葉を繰り返した。

「ま、まぁ」

 多少ぎこちなさは残るものの、男性は格好つけるように体勢を整えると、肩を竦めるポーズをした。

「今はまだその端くれってところだけどもね」

「…………」

 男性の言葉を訊くと、女性は黙って、刀を上段に振りかぶった。

 それは、まるで ────────

「お、おい、冗談だろ!?」

 男性はそれに気がついて、女性の方を向きながら、後ろに退()がろうとする。が、踵がつっかかり、尻餅をつくように後ろに転んでしまう。

「やめろ、やめてくれ! 誰か! 助け……────」

 

 

 宇水也(うみなり)(ちょう)

 なにかの理由で稼働を停止したメガソーラー発電所跡。

 その太陽光パネルの大半は撤去されて、コンクリ打ちの空き地と化していたが、片隅にはまだ未回収の太陽光パネルが積まれている。

 コンクリ打ちの地面の、太陽光パネルの固定跡から、雑草が生えてきている。

 裏手には、JR線の線路が走っていた。名深駅からひとつ北側の宇水也駅までは歩いてもせいぜい10分のところだ。

 その、線路際のところに、ラ・ピュセルとリップル、スノーホワイトが降り立った。

「みんなでゾロゾロついて来ちゃってよかったのかなぁ」

 スノーホワイトが言う。

「1人で来いとは言われてないからね」

 ラ・ピュセルが言った。

 リップルは周囲を警戒するように、あたりを見回している。

 すると、

「よく来てくれた!」

 と、声が響いてきたかと思うと、未搬出太陽光パネルの上に光が出現する。

 3人の視線がそっちに向くと、太陽光パネル上からの光源を足元に置き、青い衣装の少女 ──── 魔法少女が立っていた。

 指の間に色とりどりの宝石を挟み、胸の前で腕をクロスさせ、ポーズを決めている。

「陰謀の闇の中に光あり、闇を裂く青き閃光、ラピs ──── じゃなくて、ブルーコメット!」

 通る声でそう口上を上げたブルーコメット ──── ラピス・ラズリーヌII(2)を見ていた3人は、一瞬呆然と立ち尽くす。

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 ヘンな沈黙を破るかのように、3人の背後を、5両編成の下り電車が走り抜けていった。

「ラ・ピュセルになって最初の頃のそうちゃんみたい」

 スノーホワイトが言うと、ラ・ピュセルは前につんのめるようなリアクションをした。

「スノーホワイト!」

 姿勢を直したラ・ピュセルが、スノーホワイトの方を向いて抗議の声を上げる間に、ラズリーヌIIは、

「とぅっ」

 と、声を出しつつ、コンクリ打ちの地面に降り立った。

 ちなみに太陽光パネルの上の光源はそのままだ。魔法ではないようだった。サイリウム棒かなにかだろう。

「用件は何? ラピス・ラズリーヌ」

 リップルが、手裏剣をひとつ手にしたまま、抑揚をおさえつつも問い質すように言う。

「えっ、もうバレちゃってる感じっすか?」

「割と最初からバレバレだったぞ」

『ネクの情報検索能力を舐めるなぽん』

 ラズリーヌIIが軽く驚いたように言うと、リップルが返し、ネクが声だけでそれに続いた。

「じゃあなんで今までほっとかれたんすか」

 まるでそのことに抗議するかのように、ラズリーヌIIは言う。

「とりあえず、害はなさそうだったから?」

「あ、そうっすか」

 ラ・ピュセルの答えに、ラズリーヌIIは、一瞬気の抜けたような表情でそう言ってから、

「──── じゃ、なくて!」

 と、そう言って、表情を一気に引き締めた。

「ラ・ピュセル、選抜試験マスターとして、今朝の事件、どう見てますか?」

 少しだけかしこまった口調になって、ラズリーヌIIは問いかける。

「どうっ、て、今のところは、警察に任せとくしか……」

「言い方変えましょうか」

 困惑した表情で答えるラ・ピュセルに、ラズリーヌIIが言う。

「犯人は魔法少女だと考えてはいないですか?」

「それは考えたけど……今回の候補生に、剣使い、刀使いっていないですから……」

「もう一度言いますね」

 ラズリーヌIIは、目元を更に険しくする。

()()()()だと考えられませんか?」

 言って、ラ・ピュセルに向けていた視線を、一瞬リップルに向け、すぐに戻す。

「うーん、でも、候補生がボクを介さないで魔法の国のアイテムを簡単に手に入れられるとは思えないし、普通の剣とか刀を魔法少女が勢いだけで振るっても、武器の方が壊れちゃうしなぁ」

 ラ・ピュセルは、困った表情と口調で、話すと言うよりは、ボヤく、呟くと言った感じで言うが、その最中に、スノーホワイトがはっとして、

「────……そうじゃないよ! そうちゃん!」

 と、ラ・ピュセル達の方を見て、切迫したように声を上げた。

「え?」

 ラ・ピュセルは、まだ状況を掴みきれていない口調で訊き返す。

「いるじゃない、()()()()使()()()()()()

「え?」

「ここに! 2人も!!」

「…………ボクとリップル!?」

 ラ・ピュセルが驚いたような表情をスノーホワイトに向けて言うと、スノーホワイトは緊張した表情のままでこくこくと頷く。

「昨日の夜は……ずっとk、リップルの家で一緒にいたし……」

「当事者だけじゃアリバイは成立しないっすね」

「それは……」

 ラ・ピュセルとリップルが、言葉を詰まらせかけた時、

「!? な、なにこれっ!?」

 と、スノーホワイトがそう言って、苦しそうに顔を(しか)めて、頭を抱える。

「スノーホワイト!?」

 他の3人が、何事かと視線を向ける。

『殺され ────』

『違う、こいつじゃない』

『でも殺す』

『音楽家はどこ?』

『あいつを殺す』

『家族を返せ』

『音楽家を見つけて、殺す』

「誰かが殺されかけてる、誰かが殺しかけてる!」

 スノーホワイトが悲鳴のような声を上げた。

「方角は!?」

 ラ・ピュセルが問い質すと、スノーホワイトは両側頭部に当てていた手の一方を離し、その震える手で、南の方角を指した。

「多分、そんなに離れてない」

 ラ・ピュセルは視線をリップルに向ける。2人はうなずきあうと、そちらへ向かって高く跳躍した。

「私もっ」

 一瞬だけ遅れて、ラズリーヌIIもそれに続く。

「ネク!」

『直線で約1.7km先、魔法少女がいるぽん! コンビニがあって、こちらから見てその手前だぽん』

「誰だか解る!?」

『今検索中だぽん』

 

「こいつは、違った」

 足元の血溜まりを見ながら、魔法少女アカネはそうつぶやいた。

「音楽家、どこ…………」

 彷徨うように、その場を歩き出す。

 夜風の中、住宅街の方へ消えていく。

「これは…………っ!?」

 入れ違いに、ラ・ピュセルがその場に降り立った。

『現在住所取得。ラ・ピュセル、スマホ借りるぽん。日本国内緊急番号(エマージェンシー・コール)119』

 ネクがそう言ってくるが、上半身を深く袈裟斬りにされた男性の身体は、もう、生きているようには見えなかった。

 





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