魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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ラズリーヌが頭脳プレイしてるけど、設定見る限り、ベルみたいな頭脳担当がいない時は、こんな感じにもなるんじゃないかなと。


第06話

「検索完了だぽん!」

 華乃の家。

 卓袱台にマスター用マジカルフォンが置かれていて、そこからネクが出現した。

 ──── が。

「どれだけかかってんすか、もう朝っすよ」

 変身した姿のまま、畳に直接胡座をかいたラズリーヌII(2)が、その組んだ下脚部に手をつく姿勢で、ネクの方を向きながら言う。疲労感の滲む口調と、そこへ更に呆れが加わった表情をしている。

 ラズリーヌIIの言う通り、カーテン越しの掃き出しの窓の外は、すでに薄く明るくなっている。

 室内には宅配ピザのピザ2枚分とサイドメニュー、それぞれの空き箱が転がっている。

 華乃と小雪は、壁際で並んで、毛布をかけて寝息を立てていた。

「仕方ないぽん」

 ネクは言う。眼が横線になりその眉間に皺を寄せる、という、 “FAシリーズ” にはなかった表情の変化を見せる。

「検索エージェントが1つの強力な情報でバイアスがかかって、一番の有力候補を提示したがらなかったぽん」

 そこまで言うと、ネクは、卓袱台に突っ伏して寝落ちている颯太の方を向いた。

「ラ・ピュセル! 寝落ちしてる場合じゃないぽん! 起きるぽん!」

「ふぁ?」

 ネクに怒鳴られて、颯太は、突っ伏したまま寝ぼけ(まなこ)を開いた。

「…………」

 基本的にはラ・ピュセルの姿のまま、尻尾と衣装だけ消えた状態の颯太を見て、ラズリーヌIIは、僅かに逡巡したような表情になった。

「まったく変なところで手抜きされたぽん。権勢欲は一人前どころか5人前以上のくせにキーk……────」

「ああ、愚痴はそのへんにしといて、早く情報を聞かせてほしいっす」

 未だにプリプリと怒った様子のネクに対し、その愚痴が継続しそうなのを、ラズリーヌIIが現在のネクの後ろ側から制し、促した。

「マジカルフォンの画面じゃ小さすぎるぽんね……そこのテレビを()けてほしいぽん」

 ネクは少し悩んでから、22インチのテレビの方を向いてそう言った。

「テレビ」

 ラズリーヌIIはキョトン、とした様子で言ってから、卓袱台の上に乗っていたテレビのリモコンを手にとる。電源ボタンを押す。

「アナログの2chに合わせて欲しいぽん」

 華乃の家の家電類は基本的にリサイクルショップで揃えたものだ。つい最近買い替えた、2ドアながらひとり暮らしにはだいぶ大きい冷蔵庫を除けば、21世紀極初期のものが多い。22インチテレビにも、地上波アナログチューナーが内蔵されていた。

「ほい」

 ネクが短く言うと、砂嵐状態の画面が、マスター用マジカルフォンのセカンドスクリーン表示になった。

「…………なんか大昔のゲーム機みたいっす」

 今度はラズリーヌIIの方が、糸目になって僅かに呆れたようにつぶやいた。

 颯太、それに華乃と小雪も目を覚まして、テレビの画面が見える位置に着いた。それを見計らって、ネクがテレビに、1人の魔法少女のプロフィール画面を表示した。

 その見た目は、魔法少女、というよりは、現在では地上波ではすっかり見なくなった時代劇に出てくる素浪人風の姿をしている。

「まだそうちゃんやリップルの方がアレンジ魔法少女って感じ」

「小雪」

「はい」

 小雪が思わず口に出すと、その隣で()()()()()()()不機嫌そうな表情の華乃が短くはっきりと言い、それに小雪が謝罪するかのような口調の返事をした。

「だいたい、それ言ったらスイムスイムなんかどうするんだよ」

「あー……」

 颯太が、僅かな間振り返って言うと、今度は小雪が、糸目になって唸るような声を出した。

「昨日から思ってたっすけど、話の脱線がそこそこ頻繁に発生するっすね」

 ラズリーヌIIが苦笑しながら言う。

「ここにトップスピードがいたら、名深駅でJR線の特急電車が私鉄線に誤進入してディーゼル機関車で押し返すことになるぐらいポンポン話題が飛ぶぽん」

「どういう例えだよ、それ」

 ネクの例えに、颯太が苦い顔をして言い返す。

「話を戻すぽん」

 そう言って、ネクは画面に視線を向け直す。

「魔法少女アカネ。人間としての本名は不破(ふわ)(あかね)。魔法は “見えているものならなんでも斬れるよ”。視界に捉えられるものならどんなに距離があっても斬り裂けるぽん」

 ネクがそこまで解説すると、それまでどこかおちゃらけていた空気が一瞬に消え、緊張感に包み込まれる。

「今回の事件にドンピシャの相手だな……」

「把握されていた居場所からも、乗り継ぎ待ち時間考えなければ名深駅まで1時間程度ぽん」

 息を呑みかけながら呟いた颯太に、ネクが付け加えた。

「でも、こんな有力な候補がいたのに、なんで検索に今までかかったっすか?」

 ラズリーヌIIが、不思議そうに問い返す。

「本来、普通に考えて活動できる状態じゃなかったからぽん」

「え?」

 4人の視線が、ネクに集まる。

「強烈なPTSD……と言うより、急性と慢性、双方の強烈な心的外傷が原因の精神崩壊状態だぽん。本来なら、普段は精神科病棟に入院したままだぽん」

「精神崩壊、って」

「情緒は不安定というより破壊されているといっていいぽん。言語能力にも重大な損傷があるぽん」

 颯太は、ゴクリ、と喉を鳴らした。

「そこまでのこと、って」

「…………」

 颯太の問いかけに、ネクは、またも糸目になって、眉間に皺を寄せて、少しの間逡巡した。

「……家族を全員殺されたぽん」

「えっ!?」

 ネクが重々しく告げた言葉に、4人が驚いた。

「彼女自身の魔法少女選抜試験の時に、家族全員が魔法少女候補生にされたぽん」

「!?」

 さらに動揺が重なる。

「ちょ、ちょっと待って、それじゃ、この()の魔法少女選抜試験のマスターって……」

 颯太の言葉に、ネクは頷くように一旦下向きになる動きをしてから、抑揚のない声で伝える。

 

「クラムベリーだぽん」

 

 魔法少女が1人選抜された、それ以外が全員死んだ、となれば、当然予期される名前が告げられた。

「で、でも、クラムベリーは自分の選抜試験(デスゲーム)の記憶は、合格者に対しても消してるって、覚えてるのは試験終了前にクラムベリーもファヴもいなくなった私達だけだって ──── !」

 小雪が、切迫したような表情で問い質すように言った。

「強烈過ぎて消しきれない場合があるんだよ」

 颯太が、苦しそうな表情をしながら言う。

「この娘だけじゃないんだ。パムに捕まってた時にもう1人会ったことがある。ぼんやりとだけど明らかにクラムベリーって分かる程度に覚えてた。その娘は、思考は正常だったけど」

「命を代償にした弊害、いや当然の結果っすね」

 ラズリーヌIIが纏めるように言う。

「結局、魔法少女になったはいいけど、状況はさっき説明したとおりだぽん。本来なら、任意の変身すらままならないはずだぽん」

「だから、検索に引っかからなかった……」

「そういうことだぽん。エージェントが強力に除外してたんだぽん」

 ネクの説明に、颯太が訊き返すように言うと、ネクはそれを肯定した。

「でも、そうだとしたら、今回みたいな事件を起こせる状態なの?」

「彼女が唯一反応する単語が、『音楽家』だぽん」

 颯太が問いかけると、ネクがそう答える。

「『森の音楽家クラムベリー』か……」

「ただ、認知能力が壊れてるから、『音楽家』の要素に無条件で反応する感じだぽん」

「だから、被害者が音楽教師と、バンドマン、ってことっすね……」

 颯太の呟きに、ネクが付け加えると、ラズリーヌIIがさらにそう言った。

「そうだぽん。彼女の破壊された情緒の中で、唯一作動しているのが憎悪、だといってもいいと思うぽん」

 ネクがそう言うと、颯太、華乃、ラズリーヌIIが、重々しく息を吐いた。

「で、でも、 …………」

 小雪が、困惑しきった表情で言う。

「ある程度わかる、けど、それだけで、こんなことにまでなっちゃうものかな」

 3人とネクが、小雪に視線を向ける。

「そんなの、私でもわかる」

 視線を伏せるようにして、華乃が言う。

「以前なら理解できなかったかも知れない、でも、今は……颯太が、ラ・ピュセルが突然いなくなってしまったら、なんて考えたら、自分がどうなってしまうのかも予測できないほど怖い」

「で、でも…………そうだ、そうちゃんだって、師匠のシスターナナと、その恋人のウィンタープリズンを殺されてるようなものじゃない」

 小雪がそう言うと、颯太は、

「ボクだって本当の父さん母さんがそうなってたらどうかわからないよ」

 と、言って、前頭部を掻くような仕種をした。

「それに、ボク達はあの時のこと覚えてるだろ。ボクにとってはウィンタープリズンの仇はどっちかって言うとスイムスイム組だし、シスターナナは自殺だから誰かを恨めって言われてもそもそも難しいよ」

「だけど ──── !」

「それにさ」

 どこか縋るような物言いをする小雪の言葉を、颯太は、途中で遮った。冷めたような目を小雪に向ける。

「家族全員が同じ選抜試験の魔法少女にされて、結果自分が合格したってことだろ?」

「うん」

「それってさ、家族を殺した犯人って、クラムベリーとファヴだけじゃないんだよ」

「それって、私達の時のスイムスイム組みたいな、ってこと? でもさっき、そうちゃんはウィンタープリズンのこと……」

「そうじゃなくてさ ────────」

 

 このルールで、誰かを守るってことは……────

 誰かを、殺すことなんだって。

 

「──────── 最大の共犯は、自分自身、なんだよ」

 小雪が絶句した。

「ネク、候補者達には」

「事後になって申し訳ないぽん。もう通達したぽん」

 颯太の言葉に、ネクがそう答えた。

「『犯人は本職の魔法少女の可能性が高い。絶対に近づくな、探そうとするな。万一遭遇したら、自分が「音楽家」であることを絶対に肯定するな。この指示に反した場合、生命の安全は保証できない』。この内容で送ったぽん、けど……」

「ヤバい…………2年前のボクなら逆に探そうとしそうだ」

 颯太は、過去の自分に呆れたような表情をしてそう言って、深くため息を吐いた。

「試験を中止するわけにはいかないの?」

 華乃が訊く。

「同時に上申したけど、すでに却下されたぽん」

 ネクが答える。

「たしかに、人事部長って何考えてるかわからなくて、ちょっと不安になるけど、この事態で……」

 小雪が言うが、

「それがどーも。ネクも却下までがあんまりに早いからちょっと探った感じ、今回の選抜試験に意見できるのが、人事部だけじゃないっぽいんだぽん。むしろ、人事部の実質的な発言力が弱いぐらいなんだぽん」

 と、ネクは難しそうな口調でそう返した。

「…………」

 ラズリーヌIIは、他の3人の注目の外で、少しの間、逡巡する様子を見せてから、

「……っていうか、試験中止してもあまり変わんないっすよ。容疑者が誰であれ、とっ捕まえるまでは、リスクは変わんないっすよ」

 と、言った。

「確かに」

 颯太が短く返す。

「ねぇ、そうちゃん」

 小雪が、颯太に声をかけてくる。颯太は小雪の方に視線を向けた。

「助けてあげられないかな、この人」

「うん……」

 一度、テレビに映されたアカネの情報を見直す。

 クラムベリーの被害者。この中では誰より自分が同情できる。颯太はそう感じていた。

「動きさえ、止めれば、私がどうにかできる気もするの」

「ボクだって、助けてあげたいよ……もとに戻せなくても、未来に生きていけるようにしてあげたいよ」

 

 

 大手楽器メーカー系音楽教室。

 建物が面する県道には、駅前へのバイパスになる高架道が併設されている。

 駅は新名深駅が最寄りだが、徒歩だとキツい距離がある。公共交通機関利用なら名深駅発着のバスのバス停から徒歩1~3分程度で、バスは日中でも1時間に2本以上ある。もっとも地域柄、ここに通う生徒の多くは、親の送迎か自身の自家用車利用だが。

 今日も、駐車場に()めた三菱トッポBJ バンから、生徒か講師か、カジュアルフォーマル姿の若い女性が降りてきて、教室の入口に向かっていく ────

 入り口までもう少し、といったところで、

「音楽家か?」

 と、突然声をかけられた。

「はい?」

 女性は、教室の入口に向かっていた歩みを止め、反射的に振り返った。

「音楽家か?」

「ええ、ピアニストの……────」

 特に考えずに答えかけながら、声をかけてきた相手の姿を確認する。

 旧い時代劇に出てきそうな素浪人風の服に、肩鎧と篭手を追加した姿。

 そして、手には ──── 身の日本刀。

 一般の報道でも、すでに “音楽” が被害者の共通点であること、そして刀術に慣れた人間が日本刀で袈裟斬りにしたような遺体の損傷であることが、連日流れている。

「あなた、まさか……────」

 女性がそう言いかけた時には、アカネは刀を振りかぶる ────

 ドカッ

 女性を斬りつけようとした、そのまさに一瞬手前で、県道のバイパス高架道から飛び降りてきたなにかに、アカネは斜め後ろからタックルで突き飛ばされた。

「逃げて!」

「え?」

「この建物の中はダメ! クルマでここから離れて!!」

 白い衣装の、少年のような姿の少女に言われ、女性は何がなんだかわからなかったが、本能的にそれが生存に正しいと感じ取ったのか、竦みかけた身体をに力を入れて、駐車場の方に走り去ろうとする。

 アカネは、その背中を見たまま、再度斬りつけるモーションをとろうとする。

 だが、その視界を、白い衣装の少女 ──── マイカホワイトが遮った。

「音楽家、殺す」

 アカネは呟き、マイカホワイトに構わず女性を追おうとする。

 マイカホワイトは、そのアカネの眼に視線を向けた。

「…………こいつは、後回しで、いい……」

 アカネはそう言って、踵を返し、ふらりと敷地から出ていき、県道を彷徨い歩いていった。

 ほぼ同時に、トッポBJバンが走り去るエンジン音が聞こえてきた。

「ふぅ」

 マイカホワイトは、緊張状態を緩め、袖で汗を拭うかのような仕種をした。

 マイカホワイトの魔法、 “相手に"後回し"だと思わせるよ”。

 目の前の事象、自分がこなそうとしている行動(タスク)に対して、その優先順位(プライオリティ)を一気に下げる。つまり、『これは、後回しでいい』と思わせる。

 アカネに対してこれは、効果はあるが対症療法に過ぎない。今の標的、この場所について『後回しでいい』と思わせただけで、アカネは次の目標、次の犠牲者を探して、また彷徨っているだけだ。

 ただ、目の前で行われそうだった惨劇を看過はできなかった。

 ── あの子なら……────

 彼女の娘なら、少なくとも、見捨ててはおけなかっただろうから。

 

 





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