魔法少女育成計画ReBirth ―ラ・ピュセル生存記録 2nd Story―   作:神谷萌

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あとがきに設定の件の説明(言い訳)あります


第07話

「よいしょ、よいしょ」

 端川駅前。

 国鉄時代後半の標準的な橋上駅舎の、西口側の階段を降りたところで、ミクセリクサーが、1人の女性と一緒に、地面に屈んでなにかを拾い集めていた。

 ()()の柱の近くに、アプリコット・アプリコットが、腕組みをして立っている。その傍らに未就学の男児が立っていて、ミクセリクサーともう1人の女性を見ている。

 ブロック敷きの地面に、さまざまな色のクーピーペンシルが散らばっている。ミクセリクサーと、男児の母親である女性は、それを拾い集めていた。

「ああ、すいません、ちょっと足元気をつけてください。ご迷惑おかけします」

 クーピーを踏みかけた通行人に、アプリコット・アプリコットがそう声をかける。

 先程、親子連れが駅の階段を降りていた時、男児が袋に入れて持ち歩いていた缶入り30色のクーピーが、袋から飛び出して缶が開き、散らばってしまった。そこへ、ミクセリクサーが通りかかり、拾う手伝いを始めた、というところだ。

 30色のクーピーが、全部ケースに戻った。

「はい! 全部集まりましたー」

 ミクセリクサーは、両手でクーピー缶を持ち上げ、満面の笑顔でそれを男児に差し出す。

「うん!」

 男児は、両手で丁寧にそれを受け取る。

「かってもらったばかりの、たんじょうびプレゼントだったんだ!」

「ほら、庵里(あんり)、お礼」

「あ……ありがとう、お姉ちゃん!」

 母親に促されて、男児はミクセリクサーにそう礼を言った。

「いいえ、これくらいおきになさらずー」

 ニコニコと笑ったまま、ミクセリクサーは片手をあげて、男児と母親にそう言った。

「そちらの方も、ありがとうございます」

「あ、いえ、最近は物騒ですから」

 自分に向かって頭を下げる母親に、アプリコット・アプリコットが、かえって恐縮したようにそう言った。

「それでは、失礼します」

「はい、お気をつけて!」

 腰を低くしたままの母親に、ミクセリクサーはそう(こた)える。

「おねえちゃんたち、ばいばーい」

「はい、バイバイです!」

 ぶんぶんと手を振る男児に、ミクセリクサーは手を振り返しながら言う。

「その調子だとまた落とすぞ」

「あっとっと」

 アプリコット・アプリコットの言葉には、男児は慌てて、クーピー缶の入った袋を大事そうに抱え直した。

「バイバイな」

「うん! ばいばい」

 アプリコット・アプリコットがそう言って、2人は親子連れと別れた。

「ご協力感謝します、アプリコット・アプリコットさん!」

「別に、ほとんど突っ立ってただけだ」

 屈託なく感謝の念を表すミクセリクサーに、アプリコット・アプリコットは、些か決まり悪そうにそう返事をした。

 ミクセリクサーと母親がクーピーを拾い集めているところへ、さらにアプリコット・アプリコットが通りかかった。男児が半ば呆然として立っていたのを見て、アプリコット・アプリコットがその番を買って出た。

「例の連続斬殺犯がまだウロウロしてるかも知れないしな。探すな触れるな言われてたけど、少なくとも一般人のガキ放置しとくよりゃアタシらの方がどうにかなるだろ」

 アプリコット・アプリコットがそう言うと、

「…………」

 と、先程まで明るく常にニコニコとしていたミクセリクサーが、俯き加減になりながら、表情を曇らせた。

「? どした?」

 その様子の変化を見て、アプリコット・アプリコットはミクセリクサーに声をかける。

「あ、大丈夫ですー、なんでもないですー」

 ミクセリクサーは慌てたように顔を上げて、パタパタと手を振りながら、焦ったような笑顔でそう言った。

「…………ま、アタシは深くは詮索しねー主義だし」

 アプリコット・アプリコットはそう言うと、駅前の空を見渡す。

「じゃ、アタシは別のとこ見回りに行くぜ」

「はい、ご協力ありがとうございましたー!」

 手を振るミクセリクサーと別れ、アプリコット・アプリコットは、駅前のコンビニの屋根に飛び乗り、そこからマンション、と、跳躍して去っていった。

「…………」

 

 昨日(さくじつ) ────

 ピッピッピッ

『犯人が確定したぽん』

 北宿駅の待合室で夜を越そうとしていたミクセリクサーの、マジカルフォンの通知音が鳴る。ディスプレイを表示させると、通信アプリが立ち上がり、文字メッセージとともに、画像が表示された。アカネのプロフィール画面だった。

「アカネ……」

 ミクセリクサーが言葉で呟いたところへ、さらにメッセージで、

『一斉通知にあった通り、絶対に近づいちゃダメぽん。見かけたらすぐに逃げるぽん』

 そう伝えられてきたが、それに対して、ミクセリクサーは、

『これ、私となにか関係があるんでしょうか?』

 と、送った。

『可能性は否定できないぽん』

 そう返ってきたのを見て、ミクセリクサーは、表情を曇らせた。

 その反応を見て取ったかのように、その一文は消去された。

『どっちにしても魔法が起動できないミクセリクサーじゃなんにもできないぽん。ぜーったいに近づいちゃダメぽん』

 そう伝えられてくるが、ミクセリクサーは表情を暗くするばかりだった。

 そこへ、もう一文送られてくる。

『ラ・ピュセルは、ミクセリクサーが死んだら他の人と同じように悲しむぽん』

 

 

 ──── 現在。

 時刻は12時30分少し前。

『こんなところ歩いていてもアカネには会えないと思うぽん』

 ネクの声だけが聞こえてくる。

「だからって何もしないわけにもいかないだろ」

『スノーホワイトが()()()をつけてくれないと、ネクの捜索能力だけじゃ、全方位常にスキャンするのはちょっとこころもとないぽんねー』

 北宿地区と中宿地区の境界線付近の県道。

 県道ながら片側二車線の主要道路の歩道を、颯太が歩いていた。

 1件目は市南部の城南中学校、2件目は市北部の宇水也東地区、未遂に終わった3件目は市街地西部、と、規則性がなく、次にどこに現れるかの予想もつかない。

 ただ、まだ起こっていない地域に()()()をつけて、颯太と、ラピス・ラズリーヌII(2)がそれぞれ、市内の別の場所をパトロールしていた。

 はっきり言って気休め以外の意味はない。

 ただ、3件目の未遂でマイカホワイトが接触したことで、加害者がアカネであることが確定し、颯太達はピリピリしていた。

 マイカホワイトには一応注意をしておいたが、結果的に被害を防いだので、そこまで強くも言えなかった。

「結構調子いいからなぁ、マイカホワイト。追い回してたりしてないといいんだけど」

『危なっかしいぽんねー……』

 そう、気休め以外の意味はない、はずだったのだが……────

『ラ・ピュセル、いるぽん!』

「え!?」

『魔法少女の反応、登録されたマジカルフォンの反応がないぽん! アカネの可能性大だぽん』

「まずい!」

 表情が一気に緊張する。

 周囲を見渡す。県道から少し入ると住宅街だ。

「くそっ」

 幸い歩行者はいない。自動車からは見えるかもしれないが、通り過ぎる一瞬だろう。それ以上はこの際構っていられない。

 軽く跳躍して、沿道の中古車販売店の、奥側の塀の裏側に隠れる。そこは反対側を向いている倉庫との隙間で、人の気配はない。

 認識阻害の護符があるから、 “本来変身を解除している状態” と、 “変身中の状態” は、魔法少女か、両親程度に近しい人物にしか同一人物として認識されない。今の超人ジャンプを見られていなければいい。

 颯太の身体が光に包まれ、パンツルックの私服姿から、ラ・ピュセルの衣装に変わる。尻尾が出現し、鞘に入った剣を左手に握る。

 そのまま、飛び越えた中古車販売店の、店舗の上に飛び乗った。

『西南西の方角、道路の反対側、約175m』

 ネクが示した方角へ向かって、跳躍する。

 

 中宿地区、住宅街。

 戸建住宅の並ぶ中にある防火水槽の脇の路地。

「音楽家か?」

「えっ?」

 散歩中の主婦が、声をかけられて、反射的に振り返った。

「!?」

 愛らしい造形だが、能面のように感情のない表情に、主婦は一瞬、立ちすくむ。

 その右手には日本刀が握られている。

「音楽家 ────」

「待て!」

 アカネが主婦に向かって再度問いかけようとしたとき、背後から別の声がかけられた。

 アカネは、柳のようにゆらりとした動きで、身体ごと振り返った。

「話を、話を聞いてくれないか?」

 ラ・ピュセルがそう言うと、アカネは一瞬だけ主婦を振り返る。

「ひ ──── !?」

 主婦は、腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。

 アカネは視線をラ・ピュセルに戻す。

「音楽家か?」

 アカネはラ・ピュセルに問いかける。

「ちがう、でも話したい」

「邪魔するな」

「こんなこと続けてちゃダメだ」

「音楽家」

「君の仇はもういない!」

「そんなはずない」

「とにかく、話を聞いてくれよ!」

「音楽家を殺す」

「君がやってるのは無差別殺人だ!」

「どうでもいい」

「君を助けたいんだ!」

「音楽家を殺す」

 ラ・ピュセルの言葉の意味が通じないまま、アカネは、まだ背後で腰を抜かしたままの主婦に視線を向けた。

 ── まずい!

「ひっ!」

「殺す」

「聞け!!」

 主婦に向かって刀を振り上げたアカネに、ラ・ピュセルが声を上げる。

「ボクは音楽家の後継者だぞ!!」

「!」

『ラ・ピュセル!?』

 アカネの動きが、その身体が硬直したように止まる。ネクが素っ頓狂な声を出した。

 アカネが、刀を振り上げたまま、身体ごとラ・ピュセルの方を向いた。

「こっちだっ!」

 アカネが刀を振り抜こうとした瞬間、ラ・ピュセルはその場から跳び上がる。

『何考えてるぽん!?』

「しょうがないだろ! 今のは!」

 ネクに言い返しつつ、住宅街から離れた雑木林になっている丘陵地帯に向かう。

「追ってきてる?」

『ついてきてるぽん』

 ネクは低い声で返した。

 丘陵地帯の大池のほとりに着地する。西の方角に高速道路が見えるが、周囲に人の気配はない。

 アカネが向かってくるのが見えて ────

「話を ────」

 バキィッ!

 言いかけた一瞬後、振り下ろされてきたアカネの刀を、鞘に入ったままの剣で受け止める。

 ガチガチガチ……

 僅かな間、鍔迫り合いの状態になる。

「音楽家の弟子! 殺す!」

「ボクは君に危害を加えるつもりはない!」

「殺す、殺す!」

「こんなことをやめて、君の未来を取り戻そう!」

「うるさい」

 

「音楽家を殺さなければ、私に未来はない!!」

 

「──── ッ」

 

『これで ────』

 

 幻視する、(クラムベリー)の瞳に映ったあの日の鏡像。

 その狂気。

 

『──── 終わりだ!!』

 

 ドガッ

「がっ!?」

 気が抜けた瞬間、アカネの蹴りがラ・ピュセルの下腹部に刺さる。くぐもった声を上げながら、後ろへ吹っ飛ばされる。

『ラ・ピュセル! 剣を広げるぽん!』

「え!?」

『剣に身体を隠して! 完全に!』

 ネクに言われるまま、剣を巨大化させて、アカネに対して完全にその姿を隠す。

 バキッ!

「──── ぁ、っ」

 ラ・ピュセルの剣が、真っ二つに切断された。

「殺、す」

「チッ ────」

 迫るアカネの姿。

 咄嗟に、アバターに組み込んで縮めて胴前(フロントキュイラス)の裏に隠してあった、かつてスイムスイムが使っていた槍、『ルーラ』を取り出し、瞬時に本来の大きさに戻す。

 バチィンッ

 アカネが直接振り下ろしてきた刀を、槍の穂先で弾き返した。

 刀はそのまま、アカネの手を離れて弾け飛ぶ。

 だが、アカネは刀を握っているかのような手元で、それを振りかぶるようにして、────

 

「死ね」

 

 バッ!

 

 アカネの魔法が発動する半瞬前、ラ・ピュセルの姿がその場から消えた。

「っ ────」

 

「1人で何やってんだバカ!」

 衣装の首根っこを掴まれた状態でぶら下げられながら、怒鳴られる。

「トップスピード!」

「くっ……自分の手で箒に掴まれ!」

 ラピッドスワローで西へ向かって飛びつつ、トップスピードは残っている左腕でラ・ピュセルをぶら下げ、太ももだけで箒を挟んで支えていた。

 ラ・ピュセルは、左手を伸ばして、ラピッドスワローの柄の、トップスピードの尻の後ろあたりを掴む。

「よっと」

 ラ・ピュセルは、左腕だけを使って、うまくラピッドスワローの柄に跨った。トップスピードとタンデム状態になる。

 トップスピードは、左手でラピッドスワローの柄に掴まり直した。

 2人は田園地帯の上空を飛ぶ。

 

「音楽家……」

 アカネは、トップスピードがラ・ピュセルをかっさらって飛び去った、西の空を見上げている。

「音楽家の……弟子……」

 言いつつも、消えた姿をそれ以上追わず、

「音楽家……」

 と、うつろな声で呟きながら、再び正体なく彷徨い始めた。

 

 

 北宿の、とあるマンションの屋上。

「とほほほ……」

 ラ・ピュセルは、右手の中のそれを見る。

 全体で割り箸の、長さを半分にした程度の大きさにした、破壊された剣の残骸だ。

「大丈夫ぽん。初期アバターの部分なら、変身しなおせばまた出現するはずだぽん」

「本当だろうなぁ?」

 出現しているネクに言われて、ラ・ピュセルはなお、情けない表情と泣きそうな声で訊き返すように言う。

「ったく……」

 傍らに立っていたトップスピードが、頃合いを見計らったかのように、ため息まじりに言ってから、1歩、ラ・ピュセルに寄ってくる。ラ・ピュセルはトップスピードの顔に向かって視線を上げた。

「リップルはどうしたんだよ?」

 トップスピードは、苛立った様子で、叱りつけるかのようにラ・ピュセルに言う。

「今日は出勤日で……」

 ラ・ピュセルが答えると、

「バカ……!」

 と言って、無い右手で顔を覆おうとするかのように動いた。

「だったらオレに声ぐらいかけろよ」

「でも、トップスピードは……────」

 まだ幼い子どもがいるから、と、ラ・ピュセルが言いかけると、

「お前にも両親がいるだろが。それにリップルはどうするつもりだったんだよ」

「…………」

 言われて、ラ・ピュセルは、座り込んだ床に向かって視線を伏せる。

 

【挿絵表示】

 

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「……すみません」

「それに、あんなのがウロウロしてたら、それこそ子どもいるオレはほっとけねぇって考えなかったのか?」

「…………そうですね……」

 ラ・ピュセルの答えを聞いて、トップスピードは盛大に溜息を吐いた。

「おいお目付役、しっかり手綱締めとけ」

「申し訳ないぽん。助かったぽん」

 ネクもそう言った。

 





【ラ・ピュセルの魔法について】
 拙作では最初(第1部以来)から拡大解釈をとっており、
 「アバターに組み込んでいる武装の類は同様に拡大縮小できる」
 としています。


具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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