アズール図書館の司書 ― その青年は全ての魔法を発動できる。ただし人生で一度だけ ―   作:藤崎次郎

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覚悟を決める願い

 

 

「やっと自己紹介できた。会えて嬉しいよ、シルディッド」

 

 自らをファリィ・クサリーと言った女性は、心底嬉しそうに破顔する。

 そんな金髪の女性を前にして、照れくさそうにシルドは口を開いた。

 

「夢で何度も会っていましたよ」

「夢だけでしか会えないというのは寂しいものだ。私だって直接シルディッドとお話ししたかった。しかしそれでは意味付けとして薄い。薄すぎる。私はそういうのは嫌いだね」

「希少価値に本質を見出すと?」

「うん、十全にその通りだ、シルディッド。夢でしか会えないからこそ価値がある。希少なものにこそ魅力が宿るものさ。だから私はこの手法をとった。我ながら大正解だと感じている」

「……」

 

 黙し、彼女の真意を探る。寝ている際に見る夢限定なれど、シルドにとって彼女は何度も会っている関係だ。とはいっても油断など到底出来ぬ相手である。

 あのステラが膝をつき頭を下げているのだから。ただ、何故か、彼女は小声で「気持ち悪い……」と言っている。

 

「ステラさん、具合悪いのですか」

「大丈夫だ、青少年。彼女の話し方が気持ち悪いだけだ」

「は?」

 

 こほん、と後ろから声がして。そそくさとステラは移動する。

 眼前にいる金髪麗女はニッコリと微笑んで、シルドの方へグイッと近づいた。

 

「先も言ったが、私の正体についてはその内わかるよ、シルディッド」

「……」

 

 はたして“人”なのか。それとも──?

 ショートの金髪がちらりとシルドの頬をかすめた。ゼロ距離でありながら、麗しい女性でありながら、シルドの心には彼女の姿がいやに鼻についた。人であると思えるのに、そうではないようにも思える。異質。異形。この違和感は……クロネアのときに似ている。初めて鯨に会ったときと同じものだ。

 

「本題に入ろうか」

「はい」

 

 互いに笑う。……忘れてはならない、今から始まるのは最後の試練である。

 ここ魔法の国アズールでは、何が起きても不思議ではない。その国の中でもシルドの前にいる存在は、絶対的な秘密にして秘境ともいえる図書館の主(もしくは別の何か)である。

 敵ではないのであろうが、決して味方ともいえない。これから始まる試練に不合格ならば、彼女からしてみればシルドは落第者と相違ない。ならば必要以上に仲良くする必要はないだろう。シルドも、彼女も。ゆっくりと歩きながら金髪は告げる。

 

「次の試練は今までと趣が違うよ」

「趣……ですか」

「そうとも。第一試練は図書館の地下空間へ移動すること。第二試練は未練のある本の願いを叶えること。どちらもこちらが用意した舞台に、果敢に挑戦するだけのものだった。次の試練もそれは同じなのだが、私は徹頭徹尾こちらが揃えてあげるのは不合理だと考える」

 

 ゆっくり歩いていた彼女に変化があった。足が、少しずつ、宙を踏む。床を歩いているはずなのに、少しずつ上に登っていく。

 見えない階段を登るが如く、空中を緩やかに上がっていく。シルドが見上げ、彼女は見下ろす形となる。実に楽しそうな笑みを浮かべたまま、ファリィ・クサリーは右手を開き、シルドへ突き出した。

 

「受験者に方向性を選ばせてあげるのさ」

「方向性ですか」

「そうだ。方向性──、つまりはどんな種目の試練にして欲しいのか、受験者に選ばせてあげよう。まぁそれ以外でも構わないのだがね、とにかくは『試練を受ける受験者の望みを、合格以外でならば、一つ叶えてあげよう』ということさ」

 

 彼女の言葉を受けて、シルドは目を大にして見開き、固まる。

 その姿を横で静かに見つめるステラ。もう始まっているそれに、いち司書である彼女が何かを述べる権利はない。自然とステラは両手をそっと組んでいた。彼女自身も気づかない、祈りの仕草。

 ステラが第三試練の前に聞いたあの言葉を、まさか第三者側として再び聞くことになろうとは……。自らをファリィという女性はそんな司書を眺めながら、視線を蒼髪の青年へ。

 

「シルディッドの師匠であるステラも同じだった。過去の司書もね。皆、等しく試練の前に要望を聞いてあげるのさ。もちろんその要望に見合ったものが用意される。言いたいことはわかるだろう、シルディッド。『覚悟を決める願い』を言ってほしいのさ」

 

 言い得て妙な言葉であった。数多の本を読んできたシルドでさえ、覚悟を決める願い、という文言は初耳である。

 さて……、しかし、やはり、難題であろうか。次に言う願いが、一人の青年の行く末を決めるのだ。歴代の受験者に共通してきたもの。皆が彼女の言葉を受け、第三試練の前に願いを言うのだ。そしてその願いをもって、覚悟を決めた運命の試練が開かれる。

 

 一つ、シルドは息を吸った。

 それを優しく見つめるファリィ。

 ただ祈り、静観するステラ。

 三者三様の反応なれど、状況は淡々と進行する。

 

「決まったかい?」

「はい」

「では聞こうか、シルディッド・アシュラン。キミは何を願う」

 

 聖母のような瞳をもって見下ろす彼女を見上げたシルドは、無数の本がファリィ・クサリーを囲んでいることに気づく。多種多様な本の数々が、彼女の近くをゆらりふわりと泳いでいる。この状況下でもやはり、シルドは本の方へ意識がいった。

 そんな自分に阿呆だなと自然と笑みを浮かべる。

 ……あぁ、やはり僕は普通ではないのかもしれないと、自嘲気味に顔を少しだけ左右に揺らした。

 そして改めて覚悟を決めて。

 楽しそうな笑みを浮かべるファリィを再度見上げてから、はっきりと口から願いを告げた。

 

 

 覚悟を決める願いを言った。

 

 

「領主との兼業を認めてください」

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 しばし、館内は静寂に包まれる。元々静かであるアズール図書館が、さらに静まり返る。

 三者のうち、口をポカンと開けているのは二者。シルド以外の者は等しく口を開け、状況を理解するのに少しの時間を要した。

 さすがのファリィ・クサリーでさえ、彼の言葉は想定外であったのかもしれない。……と、いう風に装っているだけかもしれないと、密かにシルドは考えていた。彼はあくまでも冷静に物事を見つめている。

 

「へぇ」

 

 金髪の麗女は、初めて、歪な笑みといえよう表情をする。

 目を細め、右の口角を上げ、シルドを値踏みするように見つめる。対するシルドは表情を崩さず、相手の瞳をジッと見つめていた。ステラは口を開けたまま、そんな二人を交互に見て、再度シルドへ視線を移す。未だ理解はしているが納得はできない状況であって。

 

「確か、うん、シルディッドの故郷は田舎で、そんな田舎の次期領主をする予定だったね」

「はい」

「なるほどぉ。ふぅん……へぇ……」

 

 ぅうん、とクルクルと空中を回転し始める。重力とは無縁の間柄であるようだ。

 何故か本たちも追従し、その周りをグルグルと回転している。こらやめろ、と金髪麗女は彼らを諌めながら、考えをまとめたようで、空中回転を止めた。

 そんな素振り一つひとつが、シルドにとって「演技」にも見えた。……最初から、彼女は知っていたのではないかと思っているからだ。田舎貴族が、兼業を口にすることを。

 

「認めよう」

 

 うん、と頷く。

 

「故郷を出発する際、領主である父を説得するため言い放ったのだね? 兼業を認めさせてくると」

「はい」

「よくもまぁ出た言葉だ。普通なら切り捨てられる戯言だよ」

「僕の父ですので」

「素敵な父上だ」

 

 心底羨ましそうに、素敵な父上だと連呼するファリィ。途端、瞬時に声色を変えて。

 

「その願いが何を意味するのか、わかった上での戯言なのだろうね」

「はい」 

 

 切り捨てるように返す。間髪入れず、シルドも肯定する。

 何を意味するとは、もはや戯言の領域を超えた妄言のことである。実際、この覚悟を決める願いを聞かれた受験者は、等しく第三試練の課題をどうするか言ったのだ。

 ステラもまたそれは同じであり、第三試練を前にして願った言葉は、彼女の得意魔法とする「繊維に関する魔法関連」であった。

 

 当たり前だ。

 これで試練が決まるのだ。

 これで合否が決まるといっても過言ではない。否、過言どころではない。

 揺るぎない事実である。だが、シルドは「領主との兼業を認めてください」と言った。

 第三試練を前にして、どういった試練にして欲しいか願う言葉ではなかった……。歴史上初の願い。彼は、自分が次期領主になるその身分と司書との両立を願ったのだ。

 

 本当に理解できているのであろうか。

 理解できた上での発言かもしれないが、他者から見れば狂気である。

 彼は、第三試練に関係する願いを一切言わず、“合格後”の願いを口にしたのだから。つまり──

 

「第三試練は、どんな試練でも構いません。僕はそれ以上に、アズール図書館の司書と、故郷チェンネルの領主をしたいのです」

「傲慢な愚者だよ、シルディッド」

「……」

「だが、願いを認めよう。『覚悟を決める願い』として、これ以上の言葉はないだろうからね」

 

 とても楽しそうにファリィ・クサリーは全身を揺らす。

 嬉しくて愉快で仕方がないようだ。やはり、知った上で聞いてきたのだなとシルドは確信する。彼の確信もさらにわかった上で、今、ファリィは笑うのだ。……こいつ、本当に言いやがった! と。

 

「楽しいな。こんなに楽しいのは数百年ぶりだ」

 

 指を鳴らす。 

 館内にある本が全て──、本棚から出た。

 天を覆う本の絢爛が展開される。

 一歩下がるステラ。

 唖然とするシルド。

 視界に映る全てが本で埋め尽くされる。

 シルドにとって初見の光景。

 シルドにとって最後の試練。

 その最中、シルドは確かに見た。ファリィ・クサリーの笑顔は……口に手を当てているも、ぶら下げた三日月のような笑みを、到底隠しきれていない。極限なる愉悦と呼ぶに相応しい表情を、彼女はしていた。

 

「よいのかな? ぅん? いいのかな?」

「いいですよ。最初からそのつもりなのでしょう?」

「んっふっふ! あぁシルディッド、キミは最高だ。愛しているよ。あぁ、ぅん、やはり、第三試練は“これ”に決まりだね。なぁ、そうだろう……諸君」

 

 本が、書物が、群れが、彼らが、集まり集い集合し、空間を支配していく。

 今ではもう、それ以外ないと言わんとする絶景である。

 そして、かの中心に彼女はいる。

 世の理を掌握しているような立ち姿にして、シルドの試練を宣言する女。

 

「歴史上、初めて聞く願いだった。だからね、私もシルディッドに応えよう」

「……」

「──過去最大にして最難関の第三試練といこうじゃないか」

 

 フッと、一冊の書物が現出する。

 途端に薄く光り、形を無くし、輝く粒子となって空を舞った。

 粒子は文字を形成し始める。

 そして幾つかの文字となり、並び、一つの文章を作り上げて。

 

 

 ファリィ・クサリーが静かに告げた。

 

 

「第三試練は、これだよ」

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 “……。何故、アズール図書館の司書が存在するのか、述べよ”

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

「「…………」」

 

 

 しばしシルドとステラは固まっていた。

 上空に浮かび、第三試練として明かされた文字を見上げたまま、微動だにしない二人。

 実にシンプルな文章で、正直これだけかと言いたくなる短さだ。しかも、内容自体を理解するのもそう時間はかからない。ただ、やはり、何か物足りない気がした。

 

 この時、既にシルドの中で二つの疑問が生まれる。

 

 一つが第三試練の最初にある「……。」という文言である。そしてもう一つが「存在するのか述べよ」という文言。

 後者は現段階では不明であって。何故存在するのかはずっと謎に包まれてきたものだ。ただ、一応、シルドの見える位置にステラという「司書が存在している」ので、彼女のことを考慮すると解答は可能である。

 ステラは門番だ。

 彼女の役目は「アズール図書館の司書」と言わず、図書館地下にある空洞へやって来た部外者を排除すること。つまり、ステラの存在をそのまま第三試練に当てはめるのなら、何故、アズール図書館の司書が存在するのかは、図書館を守る門番だからという解答ができようか。

 

 ──しかし、言うまでもなく。

 その解答は、間違っているのだろうとシルドは思う。となれば、次点で思いつくのは……?

 

 

「待ってください!!」

 

 

 そうシルドが考えた時であった。一人の女性の声で思考は中断する。

 ステラ・マーカーソンの力強い大声であって。思わず顔を彼女へ向けるも、そのままシルドは固まってしまった。

 ……初めて見る、ステラの表情だった。どんなときも余裕のある佇まいに、物腰柔らかな対応をする彼女。綺麗な茶髪を手ぐしですく姿はいつ見ても美しかった。そんな彼女が今、はっきりと怒りの表情でファリィ・クサリーを睨んでいたのだ。

 

 憤怒。

 眉は寄り、目つきは鋭く、口を少し開いている。対し視線の先にいる金髪の女性は、やれやれと軽く息を吐き、少し冷たい目をステラに向けた。落ち着きなさい、というメッセージを送っているとシルドは第三者ながら思った。

 対し、ファリィ・クサリーを見上げながら、ステラは憤怒を治める様子は一切なかった。こんなにも感情をあらわにする彼女は、かつてあっただろうかとシルドは思い、やはり一度もないと結論づける。怒りそのままにステラが言葉を吐く。

 

「この試練、待ってください!」

「ステラ? 感情が噴水のように湧き出ているよ。大人げないね、落ち着きなさい」

「落ち着くことなどできません。これはあまりにも非人道的です!」

「殺戮者にしか使わない言葉を私に使うんじゃないよ、傷つくなぁ。ステラ、それ以上は第三試練に関する領域になる。発言を禁止する」

「納得できません。これは──」

「ステラ」

「第三試練に合格した者のみが教えられることで──!」

 

 言い終わるか否かの狭間であった。ステラ・マーカーソンの言葉は強制的に中断される。

 彼女の動きが時間を区切ったかのようにピタリと止まる。何も言えず、何もできず、ただただそこに留まっている。よく聞けば「ぁ、……ぃっ」と微かに彼女の声が漏れていて。シルドがステラへ駆けよろうと一歩前へ出る直前に、金髪麗女が指を鳴らした。途端にステラの動きは元に戻り、呼吸の荒い司書は思わず膝から崩れ落ちる。

 

「ハァッ、ハァ……!」

「私情を入れては駄目だよ、ステラ・マーカーソン。過去最大にして最難関と言ったはずだ。それに私は、シルディッドの願いに相応しいものを用意しただけ。あくまで公平にしているとも」

「そんな言い訳が……通じるとでも……!」

「通じるとも。それにだステラ。冷静さを失ったキミと違って、彼は大丈夫そうだよ」

 

 え、とする司書は直ぐに弟子を見る。

 視線の先にいた青年は、頷きながら彼女を見つめていた。ファリィ・クサリーは満足そうな笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「シルディッド。私の出した試練……ステラがちょっとネタバレしちゃったけど、その意味を理解したかな」

「はい」

 

 ステラが怒りをあらわにするまで二つの疑問がシルドに浮かんでいた。ヒントはないかと思考を巡らせていた彼であったが、ステラのお陰もあって、二つ目の方は答えを見いだせた。

 第三試練の内容は、本来なら合格した者のみに教えられるものだという。また、自分の願いは領主との兼業を認めて欲しいというもの。この二つを併せて考えると、容易に一つの結論が出る。

 

「どちらも『合格後の話』になります」

「十全に正解だ。シルディッド」

 

 シルドが合格後の話を願いにしたように、相手側も試練の内容を合格後に話すものをもってきた。

 帳尻は合うのだろう。しかし、公平であるかと言われれば、頷けるものではない。

 

「さぁ、これで試練は決まったね」

 

 そんな些細なことはどうでもいいと、ファリィ・クサリーは両手を勢いよく合わせる。小気味よい音が鳴れば、全方位にいた本たちは一斉にシルドを取り囲む展開を開始した。逃げ場などないようにグルグルと周囲を旋回する。

 そのうち数冊の本はステラを抱え、邪魔にならないよう少し離れた場所へ移動させて……。戸惑いつつ、まだ納得できないという顔でステラは口を開く。しかし発言は禁止された。それでも言いたい。葛藤する心が渦を巻く。数回口を開いては閉じを繰り返し、やがて我慢できず……、罰を受ける覚悟で叫んだ。

 

「青少年!」

「大丈夫ですよ、ステラさん」

「しかし!」

「きっと大丈夫。最難関とファリィ・クサリーさんは言ったけれど、解けない試練とは言っていません。だから、これから第三試練に解答できる舞台を用意してくれるはずです」

「もちろんだとも。任せてくれたまえ」

「ありがとうございます」

「照れるなぁ」

 

 本が集まる、集う。書物が論文が絵本が本が、ありとあらゆる彼らが集結する。

 館内にある全ての本が一人の青年のもとへ集まっていく。今や本以外、何も見当たらない空間となっていて、その中にいるのはたった二人だけである。

 一人は見上げ、一人は見下ろす。

 少し頬を掻きながら、彼女はシルドと同じ高さまで降りてきた。

 

「今さらだけど、シルディッド。私のことが嫌いかい?」

「嫌いというより、夢で見たときと少し違うなぁって感じます」

「……」

「どうかしました?」

「……あー、悪かったよ。あのときとは、少し状況が変わってね」

「それも、第三試練に関わりがあるのですね」

「うん。だからそのお詫びとして、私からも一つ助けを出そう」

 

 周囲の本たちは己の役目を果たそうと薄っすらと輝き始めていく。最初は薄くも、徐々に少しずつはっきりと、光の強さは増していく。一冊残らず、光り出していく。

 

「第三試練が終わる際、シルディッドにだけ聞こえる木笛を鳴らそう。ボーン、ボーンという風にね。いつまでも終わりのない試練は精神的にこたえるものだ。私からのささやかな贈り物だよ」

「いいのですか」

「まぁね。これぐらいならいいだろう。木笛が鳴れば、その十分後にシルディッドはここへ帰ってこれる」

「ここへ……? なら、僕は今から別の場所へ連れて行かれるのですね」

「その通り。……さぁ、そろそろだ。木笛の音色が、シルディッドにとって安堵と喜びになることを願っているよ」

「ありがとうございます」

 

 光は勢いを増す。鮮やかに、きらびやかに、ドンドンと濃さを増していく、強くなっていく。激しくなっていく、見えなくなっていく。

 まるで世界を包み込まんとするような錯覚に陥る。

 それほど目の前の景色が、光一色になっていく──。

 

「何度も言うが、いずれ私の正体もわかるだろう。答えは全てそこにある。あとはシルディッド次第だ」

「はい」

「ゆえに私が言うのもなんだけど、どうか──、死にものぐるいで辿り着き、掴んでくるのだ。キミの手で」

「わかりました」

「それでは、始まりの鐘を鳴らそうか」

 

 もはや世界は光だけとなった。

 何も見えない。

 聞こえない。

 唯一聞こえるのは、彼女の声のみ。

 

 常識は反転し、非常識は踊りだす。

 青年は覚悟を決め、かの試練へいざ参る。

 世界の一点に彼はいて、夢を叶えにここまで来た。

 

 覚悟を決める願いを言った。

 それに応える試練が生まれた。

 ならばあとは行くのみで。

 ただただ貫く己が夢を。

 その手で掴み、帰って来よう。

 彼はそのために、アズール王都へ来たのだから。

 

 時刻は夜。

 場所はアズール図書館。

 挑むは蒼髪の青年。

 田舎貴族の一人の若者。

 数多の試練を乗り越えて、ついにここまでやって来た彼は、最後の試練へと挑み行く。その先に掴むは夢か幻想か。わかりし者は、誰もいない。

 

 だから決するのだ。

 全ての決着を付けるのだ。

 覚悟を決めた願いを携え、試練に挑む青年の前で──、試練の鐘が、告げられる。 

 

 

 

「ファリィ・クサリーの名のもとに」

 

 

 

【 アズール図書館の司書 】

 

 

 

「死の絶望と希望をここに宣言する」

 

 

 

【 第三章 】

 

 

 

「私の試練を──、始めよう」

 

 

 

【 アズール図書館編 】

 

 

 

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