アズール図書館の司書 ― その青年は全ての魔法を発動できる。ただし人生で一度だけ ―   作:藤崎次郎

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十五の誕生日

 

 “15”

 

 数字であり、14の次、16の前。

 8番目の奇数であり、シルドの前世の東洋思想では「完全・完璧」を表す。

 また、青年を年齢で表すなら15〜24歳を指す。時代によっては青年の時に戦へ行く者もいた。これらを統合すると一人の魂は──、15で完成するとも考えられる。

 

 

 およそ二年前。

 シルディッド・アシュランは十五歳の誕生日を迎え、いつものようにチェンネルにある図書館へ向かった時、彼の心境に変化があった。

 誰かに、呼ばれている気がしたのだ。当然ながら今までそんなことはなかった。ただ、不思議なことに強制的に呼んでいる……というわけでもない。

 どこかから呼ばれてはいるけれど、無理はしないで、出来たら来てほしい、という程度のもの。

 

 場所は図書館の地下二階。時刻は日の光も出ていない時間帯だ。

 毎日図書館へ行って本を読んでいたシルドは、いつものようにそこへ行って。まだ読んだことのない本はあるかなと、本棚に触れた時だった。

 まるで意志をもっているかのように本棚は移動し、眼前に高さ五メートル級の扉が出現した。中心には光る球体があって、やや恐怖もあったけれど好奇心が勝り、そろそろとシルドは光を触った。

 

 そして。

 彼の中で、前世の自分と邂逅する。

 

 今のシルドと同じ夢をもっていた。しかし夢半ば、不運にも事故により死亡。地球と呼ばれし星で生きていた自分の前世の衝撃に、しばし青年は呆然としていて。

 ただ、目の前の扉はそんな彼の様子などお構いなしに開く。自然と足が動き、中へ……。

 

 図書館の地下三階。隠された秘密の地下通路の最奥にある部屋でその本はあった。七大魔法の最も難解にして未解明の領域、「古代魔法」を記した魔法書である。

 初見でシルドはそれが魔法書なのかすらわからず、触らないほうがいいのではと思った。

 ただ、自分を朝から呼んでいたのは目の前の書物だと、直感で理解して。やはりここでも好奇心が勝り、恐る恐る……触れる。

 

 すると、どこからか声が聞こえた。

 頭上に疑問符を浮かべながらも、つい声と同じ言葉を……、彼は口にする。

 

 

『“ビブリオテカ”?』

 

 

 名を呼ぶ。魔法名を呼ぶ。

 “ビブリオテカ──一期一会の法魔”を呼び寄せる。

 同時、“ビブリオテカ”の魔法書は光り輝き、ルカの粒子で構成された紐を、シルディッド・アシュランの心臓へと結びつけた。

 おっかなびっくりのシルドはそれを見続けるしかなく、何事もなくルカの紐が消えていくのを確認してホッと胸を撫で下ろした。

 

 しばし呆然として、そろぉ、と古代魔法の書を開く。

 内容は“ビブリオテカ”の概要と使い方、この魔法書を見つけることが許される者が記されていた。

 なんでも探究心と叡智を求める心、そして「前世の自分と邂逅した者」でない限り、この部屋に辿り着くことは叶わないという。

 なんじゃそりゃ、と素直に思いながら、シルドは本をめくっていく。

 

『え、と……。魔法習得には、各々発動条件がある』

 

 魔法習得の発動条件。

 第一は魔法書を読み、それを理解する。発動した際の光色は緑。

 第二は実際に魔法を見て、その魔法名を確認する。発動した際の光色は赤。

 第三は只の本を魔法書として認識し、本から魔法書へと格上げさせ、この世に新たな魔法として誕生させる。発動した際の光色は青。

 ──なお、これらの各条件を満たし発動した際の魔力は、全て“ビブリオテカ”によって肩代わりされる。理由は前世の魂にある。

 

『魂が二つ……』

 

 シルドはクロネアへ行った際、魂を──心髄を見通す女と出会った。

 次期クロネアの女王になるシェリナ・モントール・クローネリの部下であり、第四極長『妃人』、フレイヤ・クラメンヌである。

 

 彼女はシルドに二つの魂があることを知り驚愕した。今までそんな人間を見たことなどなかったからだ。

 シルディッド・アシュランは現在の世界における魂と、前世の魂を共存させている。普段、前世の魂は何もしない。シルドが前世を回想している時に動く程度だ。

 ただし、かの魂は“ビブリオテカ”を発動している時に最大限の威力を発揮する。

 

『根源星層? ……えぇ、そんなのあるの……』

 

 げっそりしながら面倒そうに当時のシルドは言ったものの、あるのだから仕方がない。

 しかも自分の古代魔法を発動する際、密接に関係するものである。朝で眠かったのもあるけれど、やや配慮に欠ける言葉だったかもしれない。

 

 “ビブリオテカ”は習得条件を満たせば、手に入れた魔法を好きに行使できる。

 当たり前のことであるが、魔法発動には魔力を必要とする。その際、必要とされるルカは魔法のレベルによって全く違うだろう。

 すこぶる燃費の悪い魔法もある。数秒で発動した魔法師を病院送りにしたり、最悪死に至らせるものもある。莫大なルカを必要とする魔法は間違いなく存在する。この問題を解消するため、根源星層にあるルカを使用するのだ。

 

『にわかには信じられないけど……。というか、根源星層って何?』

 

 人は、魂からルカを創出する。魂がなければルカを作り出せない。

 では、自然界に広がるルカはどこから創出されているのか。いきなり無から有は生じない。この世界にもまた、自然界のルカを創出している根が存在するはず。

 

 それが「根源星層」である。

 簡単に言えば「星の核」だ。星が生きている限りルカも生まれる。シルドの住まう星の中心にそれはあると古代魔法書には記されていた。そこまで読んで青年は思った。

 

『……うん。作り話としては下手だ』

 

 シルドは全く信じていなかった。

 魔法というファンタジー全開の世界にいる住人の癖に、少しも信じなかった。さすがに飛躍し過ぎだとしか思えなかったのだ。

 

 なお、シルドの住まう世界において、人間もまた、星にとっては自然物と相違ない。ならば、「人から」その根源星層に辿り着ける方法はないのか。

 あった場合、どのようなプロセスを必要とするのか。その答えとして提示されたのが、“ビブリオテカ”であった。

 

『……うーん』

 

 古代魔法はこの根源星層とリンクできる。結びつくことで、かの領域から魔法を発動する際に必要なルカを抽出できる。

 しかしそう簡単にリンクなど出来ようはずもない。普通の人間ならば、まずできない所業である。しかし、シルドには可能なのだ。

 

 彼に、──前世の魂があるから。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

「“ビブリオテカ”を根源星層と結びつける際、前世の魂を『媒介』にしていると書かれていたのだね、蒼くん」

「そうです。知っていたのですね」

「無論だよ。古代魔法など人には過ぎた代物だ。扱うことを可能とする者など断じて普通ではない。それこそ……魂を二つ所有するぐらいの規格外でなければ!」

 

 生まれるは、炎。

 最初は一つ、次に二つ、次第に八つ、二十、六十と……、およそ二千にも及ぶ大軍勢となって、初級・自然魔法“魔炎”が辺り一帯を覆うように展開された。

 ただの初級魔法でここまでの展開を可能とするのはリリィ・サランティスぐらいなものだ。一気に降り注ぐは、瀑布式の炎雨。圧巻たる物量でシルドへ襲いかかった。

 

「“腹減りの山椒魚”」

 

 地中より特大の山椒魚を模した創造物がぬらりと出現。グギュルルルと腹の音が鳴り悲しそうにしているものの、ふと炎雨を見れば、嬉しそうに目を輝かせて空へ向けて大きく開口した。

 途端、“魔炎”は凄まじい勢いで山椒魚の口内へ収まっていく。吸引力もさることながら速さも段違いであり、シルドの視界いっぱいに広がっていた炎の群れは、瞬く間に消えていった。

 

 “魔炎”は古来より存在する魔法である。ゆえに、対策も数多あるものだ。最後の炎も残らずちゅぽん、と飲み干した後、山椒魚は満足げに地へ帰っていった。シルドは笑顔で見送った後、初老に言葉を投げる。

 

「ルカの君よ、貴方は僕が王都へ来た際、『第二発動条件までしか会得していない』と知ったのですね」

「その通りだ。蒼くんに触れた瞬間に把握した。理解できなかったよ、第三の発動条件まで知っているにも関わらず、それをやっていないというのは。宝の持ち腐れだ。ゆえに、強引であろうとも開眼してもらう必要があったのだ。“踵割り”」

 

 コツン、と初老の踵が地面を突く。呼応するように地面が裂け、シルドの足元も即座に崩れる。足場をなくした彼は落下しながら“ビブリオテカ”に何かを発動させるよう魔法名を言う──も、初老は即座に「結合せよ」と差し込んだ。

 

 裂けた大地は無理矢理に元の形へ戻らされる。大きく鈍い音が木霊した。無理矢理であったため、大地は不揃いな形で結合させられている。シルドは中へ入ったままだ。

 数秒後、揺れと一緒に地中から大蛇が現れて。ぶるぶると顔を振り土を落とすと、カパッと口を開けた。口内からシルドがふぅと息を吐きながら出てくる。

 

「酷いじゃないですか」

「蒼くん、真面目にやりたまえ。古代魔法の書には『第三発動条件まで』書かれていた。そして、他にも習得条件はあり、それを満たせば根源星層に辿り着ける、と書いてあったのではないかね」

「その通りです」

 

 やれやれ、とする初老。

 

「つまり、“ビブリオテカ”には『隠された発動条件が存在する』ということに間違いはないか」

「間違いありません。凄い、そこまで知っているのですね」

「おおよそ見当はついていたよ。しかし、蒼くんのことだ。身分不相応だとか言って、条件を満たそうなどとは思わないと私は考えた」

「照れますね」

「褒めていないよ」

 

 シルドは緑色に光る“ビブリオテカ”を左手に、「“触れずの血気衆”」と告げる。

 彼の周囲より半透明な人形の武者が現れて、風のようにルカの君へ疾走した。相手からは触れないのに、こちらから攻撃する時のみ実体化し攻撃できる上級・陣形魔法である。

 

 初老は怪訝そうに相手を見るや、軽く両手を合わせ「“生球”」と口にする。

 太陽の子どものような小さい球体が生まれ、襲いかかる武者を一瞬で蒸発させた。霧となって彼らは消えていく。

 “生球”はそのまま消えることはなく、ギュルギュルと回転し小さくなっていく。ビー玉ほどの小ささとなるや、照準を蒼髪の青年へ向けて。“極輪丸”と呼ばれる、当たれば中から破裂飛散する上級・自然魔法が射出された。

 

「“ドリビア・ダスト──結界たる三角教示”」

 

 十三秒だけ防御となる結界を作り出すことを可能とする中級・陣形魔法を発動。シルドの妹であるイヴキュール・アシュランの十八番の魔法でもあった。

 それを、シルドは自分ではなく、初老に対して発動する。

 ルカの君は三角錐で作らえた結界の中に閉じ込められ、射出した“極輪丸”が眼前の結界に当たり──、破裂飛散……する前に初老は手で掴み、無理矢理に消滅させた。

 

 当然ながら衝撃により、初老の手は跡形もなく無くなる。ただし、直ぐに復元された。

 ルカで作らている以上、再構築など造作もない。軽く手で服を叩きながら、視線をシルドへ向ける初老。

 

「遠い星の記憶を知っているかね」

「星の記憶?」

「なぁに、既に蒼くんも知っていることだよ、ただ、もう一度聞いておくれ」

 

 遥か昔、シルドと同じ二つの魂を持った魔法師がいた。

 

 彼は自分に魂が二つあるとは知らず生きていたが、ある日、彼の心髄を見通す魔物と遭遇する。

 クロネアの第四極長『妃人』、フレイヤ・クラメンヌの祖先であった。遥か昔はまだ大国もなく、魔物はクローデリア大陸へ渡り、そこで生きていた者らと交流することもあった。

 

 その魔法師は、自身に宿るもう一つの魂とは何かを研究する。ルカは人の魂がなければ生まれない。人の生み出すルカの根本は魂にある。

 では、自然界に満ちるルカの根本はどこであろうか。この星には、人でいう魂に類似した存在がどこかに存在しているのではないか。

 

 そこに辿り着ければ、つまり人・自然・全ての根本に辿り着ければ、果たして何があるのか知りたい。

 しかし、ただの人間では到底、辿り着けない。

 そうだ、もう一つ魂がある。一つの魂で無理ならば、もう一つを媒介にすれば……、根源星層に到達できるのではないか。

 人と自然も星の核に大小なり結びついているはずだ。全て繋がっているはずなのだ!

 

 荒唐無稽な発案だった。

 しかし、彼は諦めなかった。

 

 長年の研究の末に魂を二つ使い、根源星層への繋がりをみつけた魔法師は、しかし一度では根源星層に潜れなかった。

 深く、強く、最奥まで潜るためには……より強力な力が必要だ。

 古代魔法を用いて根源星層の最深部に至るには、より古代魔法を限界まで出力させるしかない。

 

「不思議ですね。ルカの君、どうして貴方はそこまで知っているのですか」

「私はルカそのものである。私も自然界の一部で、当然ながら星の核である根源星層と繋がっている。極めて薄かったけども、数百年ほどかけて抽出した『記憶』がそれだよ」

「なら、根源星層に至っているのではないのですか」

「いいや、全くだ。僅かな記憶のみだったよ。今、話しただけの情報量さ」

 

 引きこもり、数百年かけてルカの君が抽出したのは本当に僅かなものだった。

 シルドが古代魔法の書に触れ、既に知っていることと「ほぼ同じ」であったのだ。あれほどの長い年月をかけて得た知識が、目の前にいる青年のもっている知識と同じなのだ。なんと馬鹿げたことかと、ルカの君は憤慨した。

 

 初老は考える。

 ……根源星層に至れたら、この程度の知識など小粒もいい所だ。あそこへ到達できれば、全ての知識が手に入るであろう。計り知れぬ全の知識だ。欲は果てしないもの。永遠に無くならないもの。

 私は自らの知らない世界がたまらなく嫌だ。全ての知がほしい。そんな時に現れたのがキミだ。歓喜した!

 

「蒼くん、古代魔法を使えば根源星層に辿り着けるのだ! “ビブリオテカ”はその切符なのだよ。キミも欲しいはずだ、全ての知が!」

「自分の存在意義とやらはどこにいったのですか」

「そんなものは根源星層に至れば即座に解決する! 蒼くん、キミは十五の時に古代魔法に触れ、根源星層の存在を知ったのだろう? 凄まじい衝撃であったと推察する。是非私もその時の気持ちを共有したい。蒼くん、初めて根源星層を知った時、キミは何を思ったのだね!」

 

 真顔で返答した。

 

「──え? どうでもいいと思いました。難しいし」

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 シルドにより一刀両断されたルカの君は、一時停止していた。完全に固まっており、その様子を見たのは二代目アズール王も初めてであって。

 横でぶふぅ、とステラが笑っている。何故笑っているのです、という顔をしてサイリスはステラを見ると、心底楽しそうに司書は言うのだ。

 

「青少年は本と司書にしか興味がありませんよ。読書の楽しみは何ですか、サイリス様」

「え、と、今までにない知識を得ること?」

「その通りです。根源星層……でしたか? 無駄にダサい名前です。私は青少年と約一年半の付き合いですが、一度たりとも、根源星層なんて言葉は青少年から聞いたことがありません。サイリス様、何故かおわかりですか」

「……シルディッドにとって、どうでもいいから」

「はい。根源星層? 全の知? 下の下ここに極まれりでしょう。青少年が、もしそこに至ってしまったら」

 

 ははん、とステラは蔑むように笑う。

 

「読書の楽しみが無くなってしまうではないですか。本末転倒でしょう」

 

 

 ※ ※ ※

 

 

「何を言っているのだね、蒼くん」

 

 理解しかねるという顔をした初老を前にして、やや申し訳なさそうにシルドは口を開く。

 

「その……普通の人は根源星層とか聞いても興味わきませんよ」

 

 そうだそうだ! と遠くからステラの野次が聞こえ、止めなさいとサイリスから宥められている。対し、ルカの君は聞き耳もたずという体で、なおも食ってかかる。

 

「それはあの娘のような場合だからだ。キミなら違うはずだ、蒼くん。キミは古代魔法の所有者だぞ!」

「え、と、非常に言いづらい話なのですが、僕の前世において、こういう全てが手に入る系ってよくある話だったんですよ」

「よくある話……」

「創造主になれるとか、神様になれるとか、全知全能になれるとか。その、なんと言いますか、大抵の創作作品のオチは大体そこら辺に辿り着いてしまって……。正直、飽きています」

「飽き……」

「はい。だから古代魔法の書に触れて根源星層を知った時、全ての魔法習得発動条件を開眼するつもりは最初からありませんでした。大それたものだし、面倒臭いなって」

 

 シルドの言葉を受けて、完全に理解できぬとするルカの君。

 ひしゃげた顔をして、口や頬に何度も手を当て、激しく左右に顔を振る。 

 

「ありえない、ありえない……! 理解できない、そんなことが──!」

「ルカの君よ。僕はこの魔法を知った時、つまりは前世の自分と会えた時。背中を押してもらった気がしたのです。夢を諦めるなと。勇気を出せと。……一人じゃない、前世の自分もいるのだと。それだけで、ふふっ、僕の古代魔法に対する願いは終わっています」

「終わっ──」

「はい。だってそうでしょう? ここから先は……」

 

 ニッコリと、誇らしく、手を左胸において。

 

「自身の手で夢を掴み取ると、自分の魂に誓ったのです」

「……」

 

 シルドの夢は一貫している。

 アズール図書館の司書になることだ。

 

 無論、その途中で様々な問題があった。何度も挫け、時に泣き、絶望に苛まれた。心が折れそうになることも多々あった。直近では第三試練がそれである。

 ──しかし、それでも折れることはなかった。根幹にあったのは、やはり、古代魔法との邂逅にあったのだ。前世で諦めた自分にも誓った……夢を掴み取るとする想い。心からの願い。そして願いは、叶えるものだ。

 

 激しく顔を振っていた初老が止まる。

 表情も止まる。

 その目は、シルドだけを見据えていた。

 

「残念だ。本当に残念だ。理解に隔たりがある……!」

 

 切り捨てるように言った。

 続けて言葉を紡ぐ。

 

「一ついいかね」

「何でしょうか」

「第四発動条件を開眼し、魔法を習得しただろう」

「えぇ」

 

 禁術・万人滅失式、特級・癒呪魔法“ロマノス・ベィ ── 女神胎堕”。

 初代アズール王とソランドに発動した魔法であり、“ビブリオテカ”魔法習得第四発動条件で習得した。

 

 条件は、一つの魔法書を読み、そこから考察・分析を多角的に行い、別の魔法を記された魔法書へと認識・理解し習得すること。

 第一と第三の習得条件を融合及び改造したものである。発動した際、“ビブリオテカ”の放つ光は水色。

 

 “ビブリオテカ”を記した古代魔法の書は三つの発動条件を記していた。

 そして、他の習得条件もあることを示唆しており、条件を満たせば「根源星層に辿り着ける」とあった。シルドは、第四の条件を開眼している。

 

「何か蒼くんに起こったのではないかね」

「起こっていません」

「……あぁ、起こったのだね……!」

「起こっていません、と言いましたよ」

「──ぉ起こったのだなぁ! シルディッド・アシュラン!!」

 

 

 特級・自然魔法“氷雷の剣明”が発動され、氷と雷で作られた剣の雨が召喚される。

 特級・陣形魔法“万死針”が発動され、一度刺されば万の痛みで死に至る針が現出する。

 特級・創造魔法“リオネス・ゲル──約されし貫砲”が発動され、必ず獲物を貫通する砲撃が生まれる。

 特級・癒呪魔法“聖退転魔”が発動され、触れれば精神崩壊し廃人となる天の使いが降臨する。

 

 

 それらの魔法を静かに見上げる蒼髪の青年。

 途端、彼の蒼髪は鮮やかに光り、風にゆらめく。

 

 

「起こっていませんって言ったのに……。まぁ、やるしかないよね。魅せてやろうじゃないか。今回限りの大盤振る舞いをさ……!」

 

 

 少し嫌そうな顔をするも、直ぐに笑い。

 左手にある、かの魔法を軽く触れ、輝かしいほどの光を放たせてから。

 シルディッド・アシュランは高らかに告げた。

 

 

「“ドリビア・ダスト──結界たる三角教示”、及び、“魔炎”、法魔昇華──」

 

 

 その発する、光の色は

 

 

「“灯火の多重結界”」

 

 

 黄色である。

 発動されし魔法は、アズール図書館内にある全ての魔法を知る初老ですら知らない魔法。

 

 

「さぁ、退屈なおしゃべりは終わりだ。派手にいこう!」

 

 

 ビブリオテカ・魔法習得“第五”発動条件────、開示。

 

 

 

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