蘇生の秘技(秘技ではない)
第22回天下一武道会後、大事件があった。
大会自体はすごい迫力だった。
決勝戦はほぼ人間びっくりショーで、悟空君の相手は三つ目の羽虫だ。
凄い鍛錬を積んでいて、悟空君と互角の戦いを繰り広げていた。
まさに手に汗握る戦いとはこのことだろう。
ギリギリ悟空君は優勝を逃したが、俺としても忘れられない激戦だった。
俺に金があれば大会支援をしてたところだ。
というか、感動をくれたお礼に破壊された会場の復興の手伝いぐらいしようかな。
3年ごとの開催で費用も嵩むだろうし。
これはその価値がある。
とまあ、平和な話はそこまでだ。
問題は大会後の話である。
会場裏手には武天老師様やブルマちゃんなどが集まっていた。
みんなで今後について話しているらしい。
俺もそれを見て、解散していく客達から離れて裏手にやってきていた。
片手を上げて皆に挨拶する。
「大会お疲れ様、みんな凄い戦いだったよ」
「あ、黄衣さん久しぶり。随分買い込んだわね」
「この帽子は21回のやつ。買ったのはTシャツとうちわだけだよ。あれ、クリリン君は?」
「クリリンは今、更衣室にオラの忘れ物取りに行ってくれてんだ!」
悟空君の言葉に、俺はふむと頷いた。
そういえば決勝戦の相手であった三つ目君が一緒にいるようだ。
三つ目君は丁寧に頭を下げて俺に挨拶してくれた。
「お初にお目にかかります。天津飯と申します。貴方も武道家なのですか?」
「俺はぜんぜん。単なる悟空君の家族で、洗練された技とは程遠いよ」
「でもオラまだ黄衣さんに勝ったこと一度もねぇもんなぁ。前飯食いに行った時も全然だったし」
悔しそうな悟空君の言葉に、天津飯君は仰天したようだ。
驚愕の表情で俺と悟空君を交互に見ている。
前に俺の家にみんなが来た時、久しぶりに少し手合わせしたんだったか。
俺が単に悟空君の攻撃をノーダメージで受けて、返す刀で転がしてやっただけとも言う。
見てたヤムチャ君達にはドン引きされてしまった。
俺がデカいイカだったからだろう。
羽虫ばっかのこの星では今更な見た目の生き物だとは思うけど。
でも悟空君は力不足を痛感して非常に悔しそうだ。
旧支配者に肉弾戦で勝てる生命がいたら逆に変なんだがなぁ。
しかも俺は上下格差の激しい旧支配者の中でも、副王ヨグ=ソトースを父に持つ最大規模の神格だ。
生命スペックからして勝てるはずもない。
まあ、俺が肉体スペックだけで戦ってるのは武天老師様もよくわかったのだろう。
あれは怪獣で、武道の教材ではなく体力を養う類のものじゃと言われてしまった。
無限にサンドバッグ俺氏です。
一応孫悟飯さんの動きはコピーできるが、高度過ぎて俺の知識ではそのまま運用するしかないからか。
そうすると今の悟空にはついていけないのだ。
「世界は広く、オレは井の中の蛙でしか無かったということか」などと天津飯君がしみじみとした顔をした。
さて、そのあたりのことである。
「ギャアーーー!」というクリリン君の悲鳴が選手控え室から響いた。
驚いて皆が慌てて部屋へと駆け込む。
扉を開けると、片付け確認をしていた司会者さんとクリリン君が倒れ伏しているのが目に入った。
悟空君が慌ててクリリン君に駆け寄った。
俺も呻く司会者さんに治療を施す。
酷い怪我だ。腹を殴られて肋骨が折れ、臓器も傷んでしまっている
俺の医療魔術によってやや体が軽くなったのか、起き上がった司会者さんが咳と共に血反吐を吐き出した。
「突然化け物が来たんだ!変な球と武道会の参加者名簿を奪って逃げた!!」と必死で俺に言い募る。
変な球とは四星球のことだろう。
だが参加者名簿を奪う意味がわからない。
天津飯君が厳しく三つの目を細めた。
「確か参加には身分証代わりに住所を書き込むことにはなっていたな」
「その程度の個人情報を怪物が奪ってなんになるって話だな。クリリン君を倒すほどの力を持ってるなら、獲物を食いたければ街に出るだけでいい」
疑問に顔を顰めていると、悟空君が小さく震えていることに気がついた。
呆然と、信じられないと言ったように口を開く。
「クリリンが、殺された、殺されてる………!」
「ッ、なんだって!?」
俺も慌てて脈を確認すると、確かにクリリン君にもう息は無かった。
魂は近場には存在しな……いや、あった。
ぶっ飛ばされて遠くに倒れていただけで、こちらも魂の身であるのに気絶しているようだ。
恐らくは呪詛の影響だろう。
魂を苦しめる呪詛となると、話に聞いていたピッコロ大魔王の手のものである可能性が高い。
「ちくしょうっ!筋斗雲!!ブルマ、ドラゴンレーダー借りっぞ!」
「待ちなさい孫君!!!」
止める間も無く悟空君が駆け出した。
いや、止めるタイミングがあったとして、止まる子ではなかった。
淡白だが愛情深い子だ。
親友を殺されて止まれるはずもなかったか。
俺は死体を抱えて途方に暮れる天津飯君に指示を出した。
「クリリン君をここへ、俺が蘇生する!」
「な、何を馬鹿な。もう完全に彼の息は無い!」
「まあ見てなって。俺は確かに地球の神より徳はないが、能力だけは十分にあるんだ」
半信半疑でクリリン君の死体を降ろしてくれた天津飯君に感謝しつつ、術式を敷設する。
手元に引き寄せた気絶した彼の魂はすでに手元にある。
ブルマちゃんが隣に来て「ちょっちょっと!」と俺を制した。
「黄衣さん何するつもり!?」
「死者蘇生だよ。ドラゴンボールで可能なことなんだ。他に方法がないわけでもないだろ?」
「そ、んなの……」
唖然とするブルマちゃんに俺はVサインをした。
普通、人間の魂は脆くできている。
神話的恐怖に遭えばSAN値が減る……すなわち、魂に損傷を受けるのだ。
たとえば死から蘇ったり、人間にありえざる長い時を生きたり、俺の真の姿を見てもそうだろう。
だがこの世界では違う。
魂は強く、幾度も輪廻転生の輪に乗って再誕する。
だから俺は魂という楔を考慮せず、ただ魂を呼び戻すだけで死者蘇生が可能なのだ。
おまけにクリリン君は呪詛によって成仏できず地上に閉じ込められている。
あとは呪詛を解呪して、魂を肉体に戻してやるだけでいい。
ぐるりと大きな魔術式を出現させる。
魔力は十分。光となって術式が顕現する中、俺は詠唱を開始した。
「呪詛検証術式作動。全三層、解呪確認。肉体再構成、健康状態に問題なし。魂との連結補助展開」
光と共に術式が激しく歪んで、ばちばちと火花を散らす。
うげ、魂を肉体に連結するのが凄いエネルギー食う。
なんでこんな所に、いや、俺のいた世界とは機序が違うのか。まいったな。
猫から受けた破壊の権能を抑える分のエネルギーが食われてしまい、俺は全身から血と体液を吹き出した。
呻く俺に武天老師様が駆け寄った。
「なんなんじゃ一体!?」
「ぐえ。イタタタタ……はい、蘇生完了。クリリン君起きて」
血でびしょ濡れになりながら、魔術式の中央で寝こける彼に声をかける。
クリリン君は「ふえ?」とパチクリ瞬いて起き上がった。
「オレ、なんでこんな……って悟空のお兄さんが大変なことに!?!?」
ミッションコンプリート。
俺は唖然とする周囲に再び誇らしげにダブルピースして、そのまま地面に倒れ込んだ。
「ばたんきゅう。もう今日はこれ以上蘇生できぬ。死なないようにね……」
「うわーーー!!!悟空のお兄さん!!」
俺は自らの血溜まりの中でゴロゴロした。
猫に引っ掻かれた傷が痛い…膿んできたかも。泣いていい?
メソメソシクシクしていると、武天老師様が「ほ、本当に生き返らせおった…!」と目ん玉飛び出んばかりに慄いている。
そう、あまり知られてないけど俺は凄いんです。
この世界なら一人生き返らせる程度お茶の子さいさいだ。
ちょっと今回は手違いがあって出血したけど、次回からはもう少し簡単に蘇生できるはず。
猫傷が無ければもっと本気出せるし。
本来は大出血で行動不能になるやわな神格ではないのよ。
ホントホント。
俺は痛みに震えながら仰向けで血を垂らしてブツブツと文句を言った。
そして素早く病院にぶち込まれたのである。
クリリン君からはすんごい謝られた。
まあ悟空君の親友を見捨てるのはありえんからな。
悟空君も戦いにおいて冷静になれるのはメリットだし。
俺はイカ状態のまま病院で寝かせられ、包帯ぐるぐる巻きになるのであった。
・病院
人間に化けてたが、途中で力尽きてイカになった。
人間がイカに変化したぐらいで動揺しないタフさの塊の病院。
手は尽くしてくれた。
・ブルマ達の認識
悟空のお兄さんは不思議な秘技で死者蘇生の大技が使えるけど、たぶん命懸けなんだろうな。
できればドラゴンボール使おうと思いました(こなみかん)