準決勝はあっさりと。
魔封破返しによって封印された緑の神格は、瓶ごとマジュニアに飲み込まれて退場となった。
もちろん、残されたガワこと可哀想な男性は俺がフォローをしておいた。
人間の皮被るぐらいなら自分で変化しろってのに、まったく。
武天老師様が緊張した面持ちの選手達の方へ向かうので、俺も慌ててそちらへと向かう。
どうやら武天老師様がピッコロ大魔王もマジュニア、そして緑の神格の関係性を説明しているようだ。
この三者って、結局一つの存在でしかないからな。
わかりやすいように、俺も口を挟むことにした。
「まあ、ようは体を割いて分裂してるだけさ。化身という技術に近い。自分の一部を分離させて、もう一つの自我を作り出すんだ。神格の基本技能だな」
「悟空のお兄さん!し、神格って…」
「そういう意味では、ピッコロ大魔王とは神格だったな。ま、普通はどっちかが死んだら道連れなんて技じゃないぞ?」
俺がパチリとウィンクすると、天津飯君が難しい顔をして俺に問いかけてきた。
「前から気になっていたのですが、あなたはもしや神なのですか?」
「まあ……神格の一種ではあるな。ただ、この地方の神じゃない。来訪神ってやつだ。だから神の詳しい生態は知らないぞ」
というか、俺の常識において神とはあらゆるものから独立した存在だ。
他の神とすら類似点はかけらもなく、あるとするなら「理から超越している」という一点のみ。
理解できない夢の塊を神という名で呼んでいるだけ。
だから神の生態なんて言葉で括るのもおかしいのだがな。
加えて、この世界の割とシステマチックに定められた神のルールはさらによく分からない。
どうも権能の分布から察するに、大まかに創造神系列、破壊神系列、龍神系列に分けられそうだが。
あと彼方に起きてるアザトースみたいなのがいる気配がある。
あまりに怖いので、下手なことはしないでおこうと思う俺である。
などとつらつら話していたら、皆言葉を失ってしまったようだ。
「お、おう」みたいな感じで、話の規模が大きくなったままどっかいってしまったみたいな反応だ。
そりゃそうか。
文字通りの神話なのだから、突然聞かされても困るだろう。
クリリン君がおずおずとこちらに目を向けて眉を下げた
「あのさ、お兄さんって悟空より強いんですよね?その、あいつの討伐とかは…」
「俺は手出ししないよ。こういうのは人間自身が乗り越えてこそだし、かの神格もそれを望まないしな」
正確には緑の神格は「お前は座ってろ」のスタンスである。
俺が何かやろうとするとすぐにストップかけるのよね。
俺の住む地域一帯に加護かけるのも止められたし、最近豪雨が続いてるから全球降雨量調節しようとしたらそっちもダメだって。
うおおおお人間に奉仕してぇんじゃー!!!
じたばた。
俺がバタバタ暴れると、クリリン君はすごく困った顔になってしまった。
「悟空のお兄さんもさ、こう、アクの強い人だよな」「そうね」じゃないんよ。
内緒話聞こえてんぞそこ。
さて、緊迫感と共に始まった決勝戦は悟空君VSマジュニア。
あれってなんて呼べばいいんだろうね。
緑の神格の化身にピッコロ大魔王という名前がついてて、さらにその8割が詰まった分身なわけだが。
マジュニア?でも本人はピッコロ大魔王のつもりだと思うし。
まあどっちにしろ羽虫だし名前なんてなんでもいいか。
白熱の試合は、やはり悟空君は生命力に余裕があることを見せつけている。
人間にはない戦闘民族ならではの体力に、本人の気力と技量が合わさってのタフな技巧派。
フリーザ軍エースたるギニュー特戦隊には全然及ばないが、今に追い越すに違いない。
親の欲目と言ってはいけない。
ちょくちょくエネルギー弾の流れ弾が飛んでくるので、会場周辺に結界を敷設。
安心して戦えるように観客を守っておく。
悟空君が「済まなぇな黄衣さん!」と戦闘中謝るポーズを見せた。
「いいっていいって、それより試合に集中!」
「悪ぃ悪ぃ」
へへっとひょうきんに笑って悟空君が構え直した。
マジュニアが青筋を立ててキレかける。
ふっふっふ、周囲は守ってあげるから思う存分戦ってきな、じゃりんこよ。
お、飛び上がったマジュニアの一撃に合わせて、派手なチャージと共に気のぶつかり合いが始まった。
悟空君のカメハメ波がそれを押し返し、一瞬後、凄まじい爆風が荒れ狂う。
それでも、俺の魔術障壁は小揺るぎもしない。
ふっふっふ。
猫の破壊の権能混じりの一撃を防ぐことすら可能な魔術障壁だ。
こんなのノミが体当たりした程度の話だとも。
爆風でボロボロになったマジュニアは、そのターバンを吹き飛ばされて衆人環視に晒されている。
砂埃が晴れれば、その見た目は明らかだった。
つまり、ピッコロ大魔王そのものというわけだけど。
っつーか肌が緑で耳尖ってる時点で一瞬でバレると思うんだけど、触覚見せるまでみんな気付かないのどういう仕組み?
緑の肌は個人差の範疇とかかな。
羽虫が市民権得過ぎてて全身痒くなってきたんだけど。
まあ、バレれば会場は当然パニックになる。
王城占拠は結構センセーショナルな報道だったしな。
将棋倒しにならないようにさりげなく群衆操作をしつつ、スムーズに人々を会場から遠ざける。
プロ司会者は残って大会の司会を続けるようだ。
カメラも回ってないのに凄いプロ根性である。
「まずは貴様だ、孫悟空!貴様を殺して、次はそこの黄衣ハスタとやらだ!」
「へ、俺?」
燃えるような復讐の瞳で、マジュニアは唸り声と共に大きく大きく体を巨大化させた。
生命力自体は変わらなさそうだから、純粋に質量を気によって増加させる技術だろう。
質量は最も単純かつ使いやすい武器である。
なるほど、と俺は頷いた。
「我が父に忘れ得ぬ屈辱をもたらした男!俺がその屈辱を晴らし、再びこの世に君臨するのだ!」
「へっ、黄衣さんと戦いたきゃまずオラを倒すんだな!」
「ふん、言われずとも貴様はじっくりとなぶり殺してやる!」
おう羽虫、俺の育てた子をなぶり殺すって?
俺が静かに怒りの炎を燃やしていると、武天老師様に「お主挑発に乗りやす過ぎやせんか?」と注意されてしまった。
しょぼんぬ。
大人しく悟空君応援うちわ(手作り)をリング外から振ることしかできない。
今に見てろよ…羽虫め…ぶつぶつ。
と、そうこうしているうちに悟空君が隙をついてマジュニアの体内に入ったようだ。
巨大化の隙をついた形だ。
そうして、神が封印された壺を救出する早技をみせる。
ナイス悟空君!流石!羽虫とは一味違う!!
盛り上がって凄くうちわを振れば、ボスっとブルマちゃんに背中を殴られて注意された。
「静かに!こっちにヘイトが飛んだらどうしてくれんのよ!」
「すんません………」
でも俺が魔術障壁を展開している以上流れ弾はあり得ないわけで…。
しょぼぼぼぼんぬ。
神を取り返されて後がないマジュニアは、最後のパワーを破壊にかけることにしたようだ。
悟空君を葬るついでに結界を消し去り、俺たちを殺るつもりなのだろう。
天津飯君がその規模に驚愕に目を見開いた。
「凄まじいエネルギーだ!俺たちも逃げなければまずい!」
「今からこの規模で逃げてる時間はないぞ!?」
慄くヤムチャ君に、俺はピースサインをして胸を張った。
「大丈夫。この程度の規模のエネルギーで破れるほど俺の障壁はやわじゃない。不安なら地面に穴掘って入ってればいい。まあ、ゆっくりしててくれ」
「で、ですがこれほどの…この街すら吹き飛ばしかねませんよ!」
天津飯君の必死の声に、俺はゆるりと目を細めた。
僅かな覇気と共に言葉を落とす。
「舐めるな、小さきもの。星々を砕く一撃を防いで初めて、神が用いる魔術障壁と呼べる。俺が神の名を騙っていると?」
「………!」
「冗談。ここで超新星爆発が起こっても平気だから安心して」
俺はせめて安心させようとサムズアップした。
みんな良い子だから羽虫も含めて守ってあげようって話よ。
こんな寛大だったこと生まれて初めてぐらいのことだから、感謝してよね!
クリリン君がリング上を見て悲鳴を上げる。
「悟空は!?悟空が危ない!」
「悟空君は自力で堪えてもらうってことで。俺が手を出したら逆に恨まれるよ」
「っ、悟空…無事でいてくれよ!」
悟空自身、ニヤッと笑ってクリリン君に流し目を向けていた。
それで彼が自分を試すつもりなのだとわかったのだろう。
悔しそうに、心配そうに身を縮めたようだった。
充填が終わった。
光が炸裂する。
荒れ狂う破壊のエネルギーが壁に乱反射して暴れ回り、双方を等しく傷つける。
障壁はそよ風でも受けたように揺るぎない。
砂けむりが晴れた時、2人とももうズタボロだった。
だが、余力がほぼない状態で跳ね返った自身の技を受けることになったマジュニアの方がつらそうに見える。
悟空君の拳が突き刺さる、のを、マジュニアがギリギリを擦り絞って横にずれた。
そのままカウンターを決めようとして。
「カメハメ……波ァ!!!」
「な、っ!?!?」
振り向きざまのゼロ距離カメハメ波だ。
吹き飛んだマジュニアが地面へと頭から突っ込んで白目を剥く。
勝負あり、だな。
素早く駆け寄ったプロ司会者が右手を挙げた。
「マジュニア選手場外により!天下一武道会、優勝は孫悟空選手となりますっっ!!!」
「やっ、た…ぞ……!」
ばたり、と悟空君が倒れ伏す。
あの結界内で乱反射したエネルギーは、悟空君としても立っているのが限界ギリギリだったらしい。
すまんな…でも街を破壊させて死傷者を出すわけにもいかないし。
しかし、天下一武道会優勝か。
あくまで試合の形式で終わらせるあたり、なんとなく平和な感じがして素晴らしい。
なお、俺が感慨に浸っている間にボサボサ髪の男の子が仙豆を持ってきてしまったので、その後の俺の出番は無くなった。
俺の治療の腕は世界一なのに。
ぐすん。
念願の天下一武道会優勝にめちゃくちゃ喜んでいる悟空君を尻目に、緑の神格が憂鬱そうに俯いている。
その視線の先にはマジュニアの姿がある。
「ワシなど、とうの昔に神を止めるべきだったんだがな。今の今まで、こんなにも引きずってきてしまった」
「いやいや、それなら俺なんて神失格以前の問題になってしまうでしょ」
「お主は神失格ではある」
しんみりした空気が一瞬でピシャリと説教モードになり、俺は触手をクルクルにした。
なんでそんな酷いこと言うの。
神とはあるだけで神であり、力ある埒外のものをそう呼ぶだけだ。
邪と聖は表裏一体。荒御魂と和御魂。
脅威なるものを祭り上げ、神と敬う。
それが神の本質だと、思っていたのだけれど。
仙豆にて助けられたマジュニアが飛び去っていく。
「今日のところはこのまま引き下がるが、いつの日か世を支配しに戻ってくる!覚えているんだな!」と高らかに笑って。
世は全てこともなし。
緑の神格は大きく息を吐き、その後ろ姿を見送ってから静かに言葉を紡ぎ出す。
「孫よ。やはりお主には跡を継いで神になってもらいたい」
「いいっ!?嫌だぞオラ、あんな退屈なところにいるの!」
「それはそう。あそこはな、娯楽マジで無い。霞食って生きるもの向け施設」
「だよなー。あ、そうだ!黄衣さんか神になれば良いんじゃねぇか?」
「今『あんな退屈なとこ』って自分で言っておきながら!俺をあの施設に封印する気か!」
俺はポコポコと怒ってお互いに神様の座を押し付け合った。
べしって神様の杖が俺の後頭部に直撃する。
そしてその隙を見計らって悟空君がチチちゃんを連れて逃げ出す。
「じゃあな!」と言う声と共に、2人の姿が急速に遠くなる。
ああ、優勝祝いに豪華食事会する予定だったのに!
俺は痛む頭を押さえつつ、皆からのその後の評判が「悟空のお兄さん」で不動のものになるのであった。
悟空を貶しつつ俺を貶す高度な技やめて。
・起きてるアザトースこと全王様
無理解の淵。
むにゃむにゃしたアザトースと目があって困ってる。
なに、きみ。こわい。ここは僕の場所だからこっち来ちゃだめなんだよ。
・寝てる全王様ことアザトース
むにゃ……。
ニャル「バッカ!白痴!今の隙に飛び込んで我が夫ハスターを取り返すんですよ!」
ぐすっ。もごもご……。ぐう。
ニャル「寝た!!!こいつまた寝た!!!」(癇癪)