「舐めてるよね?俺のこと舐めてるよね???」
「い、いや、そんなことは…!」
場所はカメハウス。
俺が正座するラディッツ君を激詰めしているのを、皆が困惑の様子で眺めている。
隣で天使の輪っかを携えた悟空君が「んー、やっぱあん時こう動けば」と脳内で検討会を開いているようだ。
帰ってきたら悟空君が死んでた件について、俺も経緯はおおむね理解できた。
前に俺が星の制圧参加できなくなって延期になっていた案件があったのだが。
どうやらそれを本格的に侵攻することが決まったらしい。
だが、やはり戦力が足らないのが問題になって。
ラディッツ君がふと「弟がいたから戦力に加えよう!」と思い立ったのが始まりだ。
元々弟の生存は伝えてあったからな。
本人が会うのにあまり気がないならと、ラディッツ君も「生きてるならそれで良い。好きに暴れるだろう」と特にアクションは起こさなかった。
悟空君もそうだけど、サイヤ人ってそっけない態度がデフォなのだろうか。
で、事情が変わって両親の言葉を思い出してこの星に来てみたら。
星の制圧はしてないし悟空君は弱いまま平和に暮らしてるし、ちっともなっちゃいなかった。
それでラディッツ君は頭に来て、戦闘開始となったということらしい。
「だからって俺の家族でもあったのに殺すんか。おおん?トレーニングルーム行くか?」
「あ、お前の子として育てられたならさぞ立派なサイヤ人に育っているだろうと思って…!なのにこの体たらくだったんだぞ!おまけに尻尾まで無くして!」
「地球人の流儀はこれです。大体、今の悟空もサイヤ人達も強さなんて誤差だっつーの」
「ぐっ、ぐう……!」
俺の言葉にラディッツ君はしょぼくれてしまったようだ。
だが、確かにサイヤ人の平均から見れば悟空君はとても弱い。
強さを至上とするサイヤ人ががっかりして俺の教育を疑っても仕方のないことか。
これは確かに俺の責任もありそうだ。
「仕方ない。俺が悟空君と君を責任もって扱き上げます。1年後にベジータ君達が来るんだろ?それに間に合うように仕上げてやろうじゃないか」
「ままままま待ってくれ!扱きってベジータが食らった例の…頼む!勘弁してくれ!!」
『あのさぁ、オラもう死んでんだけんどよ』
困った様子の悟空君がのんびりと手をあげたので、俺はうーんと唸った。
バトルの結果、悟空君は死亡したがラディッツ君がギリ生きていた。
それでアタックボールで逃げ出そうとしたところを宇宙船ごと俺が捕獲したのだ。
もしかしたら、俺が前にちょいと扱いてやったから生き残るコツを掴んでいたのかもしれない。
それで悟空君が負けたと思うと微妙な気分。
「そうだった。肉体を付与してあげたいけど、蘇生は閻魔大王様に止められてるんだよな。1日以上滞在させるなとも言われてるし」
『ドラゴンボールで生き返ってから……は、間に合わねぇなあ』
うーん、と悩んでから、俺はふと思い立ってポンと手を打った。
「なら、界王様のところで修行を見てもらうといいよ。確かあの世から行けたはずだし。詳しくは緑の神格…地球の神様に説明してもらうと良い」
『界王様?強えんか?』
「強いらしいよ。悟空君も強くなれるはず」
『うしっ!もっと強くなるぞ!』
「待て弟よ。もっと粘れ。俺だけ地獄に送るのは薄情ではないか?」
『何言ってんだ。死んでんのはオラの方だぞ。黄衣さんは優しいし』
「優…しい……?」とラディッツ君は宇宙猫になってしまった。
俺が厳しいのはお前らサイヤ人が備品死ぬほど壊してふんぞり返ってるからなんだわ。
ちなみに、ベジータ君の食らったしごきというのは、時が止まった神域で俺が死なない程度にぶっ飛ばし続けるだけのことを指す。
泣いても喚いてもひたすら現実時間で半年ほど、触手で強さの違いを教育してやったわけだ。
その結果、ベジータ君は俺を見るだけで震えが走るようになった。
同時にすんごく恨まれてしまったようだが、仕方あるまい。
文官に死者を出したのは流石に懲戒だからな。
軍の増強にもなるし、一石二鳥である。
なお、その後ベジータ君は俺に対して敬語で喋るようになった。
うむうむ。社会人の基本を身につけてくれたようで何よりである。
クリリン君が恐る恐る、ラディッツ君と悟空君を交互に見ながら口を開いた。
「ところで、黄衣さんってこいつと知り合いなんですか?」
「同じ職場の同僚だよ。部署は違うからそこまで関係はしないけど、前から顔見知りではあったかな」
「職場って、星を占領するとかの……?」
ぎくっ。
俺は身を縮こまらせて、触手をクルンクルンにした。
羽虫だからとその辺気にせず入社したのだが、実は魂は人間と気づいてからはこの辺結構引っかかっていたんだよな。
急に辞めるのは周囲の迷惑になるからずるずるとここまで来てしまった。
ムッとした様子の悟空君は、輪っかの様子を手で整えながら腕を組んで俺に苦言を呈した。
『そういうのはオラ、好きじゃねぇ。黄衣さんにそんなことしてほしくねぇよ』
「うす。会社辞めます。退職届出します」
俺は秒で全面降伏して頭を下げた。
今の職場は福利厚生がしっかりしてて給与もいいから良い場所だったんだが、家族を悲しませてまで働きたいわけでは無い。
沢山の人間も悲しむ悪の企業だし。
きっちり引き継ぎもして、社長にお礼を言って地元で細々と運送業することを伝えることにしよう。
猫もいなくなったことだし、バイトじゃなくて個人で運送業を営むのもいいだろうからな。
話もまとまったところで、俺はふと悟飯君の姿が見えないことに気がついた。
たしか今日は武天老師様のところに顔見せに行くと言っていた気がするのだが。
「そういえば悟飯君は?こんな時間だし、チチちゃんが心配してると思うんだけど」
『ピッコロが連れてった。一年後にそいつの仲間が来るってんで、あいつなら悟飯を強くしてくれっからな!』
「どこから突っ込んで良いかわからない。サイヤ人の子育て大雑把すぎる」
チチちゃんが卒倒するんだわ。
まあ、親子の情を挟まないスパルタで強くなれるのは確かだろう。
「チチちゃんに全部説明してからあの世に戻ろうね悟空君…」と俺は萎れて声をかけた。
俺まで怒られるやつだよこれは。
もうこのむしゃくしゃはラディッツ君を虐めることで晴らすしか無い。
ラディッツ君かブルブル震えて頭を低くした。
そして恐々と俺を見て口を開く。
「……ところで、ドラゴンボールだったか。それの力を使ってお前は強くなったのか?」
「まさか。俺は生まれつき強大な生命だよ。バブーと誕生した頃から星系を消し飛ばすなんて訳ないくらいに」
「………そうか」
夢も希望も失ってしまったらしい。
ラディッツ君が「所詮俺は弱い落ちこぼれのサイヤ人だ…」としょげかえった。
まあ、ドラゴンボールに頼るのは悪い手ではないが。
この星のドラゴンボールでは出力が足りないと思うんだよな。
例えば他のもっと出力のあるドラゴンボールを使って、長命な種族が寿命を消費しながら戦う方式にすれば、結構強くなれる気がする。
俺はパンパンと手を叩いた。
「というわけで、ラディッツ君は鍛え直しでーす。最低限ナッパ君と戦えるようにしてあげるから安心してください。お前は地球を守るんだよ」
「なぜ俺がそんなことを!」
「おう、厳しめに扱くか?向上心があって良いことだ。見直したぞ」
しょぼ………と瞬時にラディッツ君が枯れてしまう。
これでナッパ君あたりなら「上等だクソッタレ!!!」ってかかってくるんだが、ラディッツ君割とおとなしめなんだよな。
「はいはい、強くなってベジータ君たち見返したく無いのか?サイヤ人だろ?」
「だが俺は所詮…弱虫と……出来損ないと言われて」
「それは君が格下とばっか戦ってきたからでしょうが。俺と一年戦えば嫌でも強くなるよ。がんばれがんばれ。弟に負けて良いのか?」
「!!!」
少し目に光が灯ったようだ。
ラディッツ君は真面目な顔をして前を見据えた。
悟空君を殺したのはマジで気に食わないが、兄弟喧嘩にまで俺が口を出すのは越権行為だ。
サイヤ人の感性からすると俺にも非はあったし。
このむしゃくしゃはラディッツ君を虐め抜くことで晴らすとしよう。
あと、この少し大規模なトラブルを社長に報告することも考えたが……。
社員間の私的トラブルを会社に訴えてもなぁ、と思ってやめておいた。
どうせ俺は退職するわけだし、きっちり片付けた上で間接的に関わるのみにしておくことで問題を最小限に抑えよう。
俺は師匠ポジであって直接バトってない、みたいな言い訳である。
念のためマジュニア…ピッコロ…?の方も後で確認しておこう。
悟飯君がどうなっているのか確認せねばならないし。
俺はそのように算段を立てて、うんうんと頷いたのであった。
・ベジータ達
情報がバラバラのまま動いてる。
ラディッツはハスターがカカロットを立派なサイヤ人として教育してると思ってた。
ナッパは鬼怖文官王が息子を溺愛してることしか知らない。小型イカ…?
ベジータはダイオウイカがフリーザの次ぐらいに強いと思っている。
・ラディッツ
別に改心してない。
情けない弟を殺して後悔してないが、イカに怒られて反省した。
・フリーザ
猫を消してくれた上に退職して田舎に引っ込むって聞いて小躍りした。
たくさん退職金出すし社用車として使ってた宇宙船はプレゼントするつもり。
社員が今まさに揉め事起こしてるとは知らない。