スラッグの影
アレからしばらく。
地球に移住したナメック星人達も平和に過ごしている。
最長老の手によって、殺されたポルンガも蘇りドラゴンボールは復活。
無事三つの願いは無事叶えることができた。
強化された地球のドラゴンボールで殺された人々も蘇生できたし、万事解決ということだ。
ただ、失われた街や物は戻ってはこない。
復興には長い時がかかることだろう。
ナメック星人は今後、交易しつつ全員の乗れる宇宙船を建造予定だ。
新天地探しをしながら、地球人と技術交流して建造に必要な資材を集めるらしい。
残り寿命の関係で最長老様が新しい星を踏むことはないだろうが。
引き継ぎはムーリ長老相手に済んでいるそうで、多くの子達に囲まれての最期となるだろう。
というわけで、平和な通常運転の世の中にて、今は気というものについての自由研究中な俺である。
協力してくれたのはブルマちゃんと、その父親であるブリーフ博士だ。
君らホントどんな名前だよ。
被験者はお馴染みベジータ君。
ちょうどエネルギーを抽出できるし、協力報酬で生活費に加えてブリーフ博士お手製の重力トレーニング施設利用権をもらえるらしく。
ベジータ君自身結構協力的だ。
あらゆる観測機材が並ぶ部屋にて、ベジータ君が面倒臭そうな顔で気を練り上げた。
俺も魔術的な情報を取得していく。
ブリーフ博士はホクホク顔で「スカウターというのも面白い発想じゃの。これならばもっと精度を高められるわい」と観測結果をPCで覗きながらうむうむ頷いた。
この人もわけわからんレベルの天才なんだよな。
首輪のままのベジータ君が気を納めて舌打ちした。
「チッ、毎日毎日飽きもせず。迷惑な野郎どもだ」
「でも君が科学の進歩に協力してくれれば、君自身にもメリットがあるだろう?俺も改めて研究してなかなか面白いことが分かったし」
そのように言うと、ベジータ君がそっぽを向いた。
気とは生命力だが、存在規模の影でもある。
己の存在規模を生命力の形で映し取った、万能かつ純粋な力。
俺のいた宇宙には、アザトースのルールにはない力だが、わかってしまえば実にシンプルだ。
これはベジータ君ぐらい大きさがあるから分かったことでもある。
今までは電子顕微鏡で見比べてる気持ちだったから、いまいちよくわからなかったんだよな。
原理さえわかってしまえば干渉も再現も可能だ。
ふむ、と俺は己の存在規模からルールを仮創設。
はじめての気を練り上げた。
「これぐらいでベジータ君と同じぐらいの量の気かな」
「!?!?!?」
ギョッとしたようにベジータ君が後退りした。
ぼしゅん、と隣にあった機材が煙を上げてショートしてしまう。
慌ててブリーフ博士が駆け寄ってあわあわと焦った様子を見せた。
「ああ、これこれ!10億までしかまだ測れんのじゃ!」
「わわわすみません!直します!いやこれ俺が直して良いやつか!?すみませんすみません!」
「これはこれで良いデータだからそのままでな。ふむ、ここに負荷がかかるのか…悩ましいの」
何故かガタガタと震えるベジータ君をよそに、外からブルマちゃんがひょいと顔を覗かせる。
「なんか大きい音したけど、またベジータが暴れたの?」
「いや、俺がミスった!」
「黄衣さんかぁ。……あら?」
すごく残念そうな顔でため息をついたブルマちゃんが、ふと空を見上げた。
舞空術でクリリン君がやってきたようだ。
クリリン君は研究室内にかっ飛んできて叫んだ。
「今ものすごい悍ましい気がしましたが、なにがあったんですか!?今みんなも向かってます!」
「Oh………」
俺は反省した。
急に見知らぬ大きな気が発せられたから戦士達がびっくりしてしまったらしい。
というか悍ましいってなんだよ。
旧支配者の気が悍ましくないはずがない?
そうだね……。
俺は触手をクルンクルンにして小さく縮れた。
「うっす。俺です。悍ましい宇宙大王イカです」
「ええ!?この気黄衣さんのだったんですか!?どんな邪悪なやつが現れたかと思いましたよ!」
俺はさらに触手を縮れさせて小さくしおしおになった。
そんな邪悪な気だったんか。
やっぱ自分で気を放つのはやめることにしよう。
妙な誤解をさせるだけだしな。
別にクリリン君にまで邪悪って言われて落ち込んだわけじゃないです。
みんなもここに向かってるようなので、「誤報です!俺が試しに気を放ってみただけです!」と念話しておく。
ヤムチャ君達は「良かった、地球はもう終わりだと思った」とか「俺ではとても敵わない、強大で邪悪な気でしたが…」とか言っていた。
なお、「人騒がせな野郎だ」とピッコロ君は一蹴した。
泣きイカ一丁上がり。
おう、俺が可哀想じゃないんか。
と、そのあたりで電話がかかってきた。
俺特製のレトロな見た目の携帯電話だ。
魔術的に俺の権能で繋いであって、広い宇宙に関わらず子機同士をノータイムで電話のように繋げることができる。
俺は通話をオンにして電話に出た。
『聞こえますか、黄衣さん』
「あ、社長。アレから体の調子はいかがですか?」
『万全ですよ。まだ私も若いので不老を実感するのは先の話にはなりますが。メディカルチェックで体に異常は見られませんでした』
「そっか。いいですね、ビジネスに体力は必要不可欠と言いますし」
『ええ。ああ、本題なのですが、どうやらそちらにスラッグというナメック星人が向かっているようです』
スラッグ、と言うのは聞いたことのない名前だ。
ナメック星人なら大抵良い人だし、問題になるようには思えない。
俺が先を促すと、フリーザ社長は少し考えるそぶりをしてから言葉を紡いだ。
『問題は、奴が大宇宙の王を名乗って銀河系を荒らしまわっているということです。私や兄の商売領域には来ていないので捨て置いているのですが』
「なるほど」
『どうもそちらに向かっているようなので忠告を、と思いまして』
フリーザ社長はそのまま「ああ、そうそう。そちらのお子さん達の修行用にメディカルポットを一台いかがですか?棚卸しで一台余分が出まして、処分しようか迷っていたのですよ」と猫撫で声を出した。
社長が親切心で俺に忠告するはずがない。
なるほど、スラッグとやらが結構強いし目障りだから潰してくれ、と言う話なのだろう。
最新のメディカルポットを融通するからと。
善い善い。
フリーザ社長には世話になっているし、悪いナメック星人をペンってするお願いくらい聞きましょうね。
「了解。ありがとうフリーザ社長。こちらで片付けとくよ」
『気をつけてくださいね。ああ、それとしばらくしたらそちらに伺います。父があなたに会いたいと言っているので、この間の件のお礼のついでに』
「社長のお父上が!?おお、まともな服用意しないと。わかりました。また日程決まったら教えてください!」
そのようにやり取りして連絡を終える。
ベジータ君はまた重力室に向かったようだ。
悟空君が俺の神域重力トレーニング室をいたく気に入っていたからな。
悟空君を真似て研究中の重力室へ入り浸るようになったのだ。
悟空君は悟空君で俺の神域を便利なトレーニングルーム扱いで、自宅に神域直通の扉まで設置させるし。
日夜トレーニングしては2人でぶつかり合っている。
おう、仕事しろよサイヤ人ども。
ラディッツ君は警備員の仕事真面目にしとるぞ。
まあ、ライバルがいると伸びるのも早いから、良い買い物をした気分というやつだろう。
しかし、気について解析できたのは本当に大きかった。
猫が復活する時に備えて俺も色々試行錯誤していたが、多分これが一番の前進になるだろう。
俺のような不変のものが、いくら鍛えてもさして意味はないしな。
戦いを変えるのは理解と分析、そして詰将棋の如き戦法の妙だ。
んー、と俺は少し悩んでから、神域内で過酷な重力トレーニングに打ち込む悟空君に話しかけた。
「なぁ悟空君。ちょっとさ、俺の訓練に付き合ってくれないか?」
「いいけどオラ黄衣さんに本気でぶん殴られたら死んじまうぞ」
「そんなことしないから。ちょっと新技の組み立てするだけ」
猫に対して封印はもう効かないだろう。
とすると、もっと汎用性のある技術が必要だ。
気を存在規模とするなら、権能とは表裏一体。
内向きの力と外向きの力の違いでしかない。
ならばそれを攻略する術は必ずある。
概念対決であるのなら、それは俺の領分だ。
悟空君が珍しく難しい顔をして腕を組んで唸った。
「オラ死にたくねぇぞ。チチに怒られるし、無意味に痛いし」
「だから酷いことはしないってば」
「黄衣さんにするつもりがねぇのは分かってるけどよ、こう、手が滑ることってあるだろ?」
「俺氏、信用があまりにも無い件」
結局。
悟空君は体から魂が半分はみ出る程度で済んだ。
ごめんよ悟空君!!!!!
・イカの本分
実は格上との戦いが大の得意の、大逆転ジャンプ世界観の旧支配者。
遥か格上のアザトースの使者ニャルラトホテプをケンカで泣かせるぐらい。
周りに気を配る必要がない戦闘なら、この戦闘技巧のみで外なる神とも渡り合える。
・社長
自分を差し置いて大宇宙の帝王とか抜かしてるナメック星人を労力無く消せてニヤリ。
ベジータも首輪でイカに飼われてるし、事業再編も忙しいが順調だし。
ほーっほっほっほ!!!!!!