羽虫三匹をひと睨みする。
それだけで、羽虫共は白目を剥いて倒れ伏した。
権能を込めた視線だ。
「移動」の権能にて気に干渉して、気のみを体から強制的に吸い上げたのだ。
生命力そのものを一瞬で喪失し、羽虫は即死したようだ。
そのまま生命反応を消失させた。
羽虫の気を体内に取り込むのは気持ち悪いので、触手一本に集めて小さな落とし子として切り落とした。
「シャゲェェエエエ…」と変な鳴き声をあげて落とし子が蠢き出す。
吸った生命力に呼応してか、複数の部位が組みあわさったような落とし子になった。
キモっ、やっぱ羽虫の生命力なんて取り込むもんじゃないな。
それを目を細めて、熱線で焼き払う羽虫が一匹。
小さな落とし子はギャアギャア泣きながら黒く炭化していった。
まあ、掃除の手間は省けたか。
降り立ったのはフリーザ社長似の羽虫だった。
彼が社長の兄であるというクウラなのだろう。
濃い紫のような体表が曝け出され、それが事実上全裸なのだと言うことが理解できた。
変身タイプの羽虫によくあることだ。
野蛮なんだよなぁ。
「ほう、貴様が黄衣ハスタとやらか。なかなかの気だが、所詮あの不出来な弟の下僕でしかない。邪魔立てするならば貴様から始末するぞ?」
俺は触手に開いた巨大な口を裂くように歪めて、羽虫の言葉を嘲笑った。
【羽虫如きが大きな口を叩くなぁ。まあ、虫の囀りは大きいものだし、仕方ないか】
「………口の利き方に気をつけろ。それとも、弟に泣きついてなんとかしてもらう気か?」
「俺の戦闘力はフリーザより遥かに上だ。貴様の目論見は無意味だぞ」と勝ち誇ったようにクウラがニタリと笑った。
企業の社長より強いから何って話である。
「父も耄碌したな。この程度の存在を恐れて手を出すななどと。誇りある我が一族の面汚しだ。やはり俺が、俺のみが宇宙の頂点に立つに相応しいのだ」
【うーん。一応目的を聞いておきたいんだけど、どんなご用件で地球に来た感じ?】
「愚問だな。サイヤ人などと言う我らの誇りに泥を塗った猿を全て始末する。そして貴様を潰し、クウラ軍こそが宇宙を支配するのだ」
どうもフリーザ社長の組織も吸収合併するつもりらしい。
「あの愚弟も、俺の下で使ってやろう」と哄笑を響かせている。
そこまで取らぬ狸の皮算用ができたなら立派なものだ。
触手を無造作に殺到させる。まあ、開戦ということだ。
クウラは指だけで止めようとして、直前で気づいて防御体勢を取るも間に合わず。
地面に叩きつけられた。
「な……ぐっ、貴様……!」
【俺は優しいから、軽く嬲ってやろう。努力すれば生き延びられるかもしれないぞ?頑張れ頑張れ】
再び触手3本、恐るべき速度と質量で迫り来る。
なんとかそれを避けたようだが、攻撃はこの程度では終わらない。
触手から細い触手が幾重にも伸び上がり、それはクウラを優に上回る速度で肉薄した。
細い触手に貫かれ穴だらけになったクウラが墜落する。
地面でなんとか体勢を立て直し、触手を引きちぎって距離をとった。
俺を計測したスカウターが爆散する。
「馬鹿な…なんだその戦闘力は!瞬間的に戦闘力を引き上げるタイプだと!?」
【さて。というか、引きちぎったぐらいで触手を無力化できるはずないんだがなぁ】
「!?!?」
千切った触手が手足を縛り、そこから体内に侵入。
内側から杭のように肉を突き破り、術式を展開する。
空中に体を固定されたクウラが身を捩って唸った。
「なめ、る、なァァアアアアア!!!」
【へぇ】
クウラが変形していく。
どうやら社長がそうであるように、変身型の宇宙人のようだ。
そのフルパワーでもって封から逃れようとする。
だが全身の肉がぶちぶち言うばかりで、それはまるで微動だにもしなかった。
当然だ、彼本人の魂を蟲ピンで留めているに等しいのだからな。
絶望に愕然とするクウラが全身を震わせる。
「そん、な」
【変身してもあんまり変わらないな。おっきいムカデか何かぐらいだ。キモ】
内側の触手が育っていく。
それは腕を貫いて、その肉を食らってより強く羽虫を拘束する。
クウラ自身と似たデザインの触手が、ニタニタとクウラを嬲る。
悪い奴を食うと悪い触手になっちゃうのが玉に瑕なんだよな、これ。
「グァアアアアア!?」と上がる悲鳴に、俺はニタニタと三日月の如き笑みをこぼした。
【やっぱり羽虫を潰すのは娯楽にちょうどいいな。俺はニャルラトホテプみたいに凝った催しはしないけど。たまにやるといい気晴らしになる。そぉら】
「ギャッ、グァアア!!」
再び棘を内側から生やしてやる。
俺は100メートルほどのイカの姿に戻って、ゆったりと空を舞った。
漏れ出した権能が空に暗雲を立ち込めさせ、不吉な暴風が吹き荒び始める。
【はハ、ハはハハハははは!!!殺しはしないぞ!いつまで精神が保っているか実験といこう!】
「待て!黄衣さんッ!!!」
【おん?】
そのタイミングで駆けつけたのは悟空君だった。
俺は慌てて触手をワタワタと動かした。
【悟空君は無事だった?この羽虫に何か酷いことされてない?怪我とかない???】
「………オラは無事だ。下で倒れてた悟飯とクリリンも無事を確認してる」
【そっか、よかった】
俺も観測して無事は確認してたが、一撃入れられて失神してたからな。
可哀想なことしてくれる。
改めて怒りがふつふつと湧き上がり、俺は数多ある目を細めてグラグラと煮える激怒を押し隠した。
【悟空君どいてね。いまそこの羽虫を嬲ってバラバラにするから】
「嫌だ。そんなこと黄衣さんにして欲しくねぇ」
【どいてね。あんな奴の命どうだっていいだろ?】
「嫌だ。オラはここを退くつもりはない」
【───どけ。我が道を塞ぐか、矮小なるもの】
俺が声を一段低くしたのに、悟空君はそれでも引かなかった。
暴風と、権能と、俺の気の全てが攻撃的に威嚇しているのに。
冷や汗を流して、だけども眦を強く、悟空君がカッと目を見開いて怒りをあらわにした。
「落ち着け!!オラもそろそろ怒るぞ!!!」
【!?!?】
瞬間、金色の光が俺の気と暴風とを蹴散らした。
瞬く光はどこか幻想的で、ダイヤモンドダストの如くキラキラと輝いている。
これは気だ。気の質が変化して高まっているのだ。
悟空君自身、金色の髪が逆立ち、緑の瞳へと変化している。
変身タイプでもないはずなのに、こんなに劇的な変化をするなんて。
そのまま、悟空君は俺の胴体にパンチを一撃、凄まじい膨大な気でもって叩き込んだ。
それでも、俺に取ってそれはハムスターパンチの域を出ない、可愛いものだ。
だがそれ以上に膨大なショックが俺を襲った。
悟空君に殴られた…本気で殴られた……。
シュルシュルと小さくなって、スーパーマリオに出てくるようなイカの姿で縮こまる。
俺が小さくなったことで権能も解除されたようだ。
立ち込める暗雲も暴風も急速に晴れていく。
しゅんと縮こまったイカ姿で、俺はポテっと倒れ伏した。
クウラも解放と同時に崩れ落ちたようだ。
そんなこと気に留めることもできず、俺はイカのまま震えた。
【ご、悟空君に殴られた……嫌われた……もうおしまいだ……!ごめんなしゃい…!】
「別に嫌っちゃいねぇよ。もうやる気はないんだよな?」
【やる気ないです!!!俺は良いイカです!!良い子にします!!!】
「うし!もうしねぇでくれよ!黄衣さんが普段色々我慢してくれてんのは、オラも分かってるつもりだ。ありがとな、黄衣さん」
【悟空君……!】
キューンキューンと触手を振って俺は媚を売った。
気絶から復活してたらしいクリリン君と悟飯君もこちらにやってくるのが見える。
「黄衣さん!悟空!あの怪しい奴らはどうなった!?」
【俺がやっつけた。親玉だけ生きてるよ】
「よ、良かった……一体なんだったんだ?」
気絶している間にハイヤードラゴンに死ぬほど舐められたのか、デロンデロンの悟飯君が顔を拭って困った顔をした。
「僕も何が何だか。薪集め中に不意を打たれちゃって」
【なんかサイヤ人狩りの怖い人たちらしいよ。フリーザ社長の関係者らしいから俺が返しとく】
キレてたから忘れてたけど、冷静に考えたら殺すのはまずかったんだよな。
社長の言い方だと逆に殺して欲しいくさい気もしないでもないが。
やっぱり家族間の問題はご自身で決着つけてもらうとして。
社長に引き渡しておけば、必要とあればどうとでもするだろう。
社長に電話すると、すぐに通話はつながった。
【あ、フリーザ社長。黄衣です。仰っていた兄君来ました。ボコして確保しましたので、よければ回収お願いします!】
『それはそれは!ありがとうございます!もう近場まで来ているので、すぐに引き取りに行きますね』
【了解ですー】
すんごく上機嫌なウキウキ声だ。
兄弟仲悪いんかな。
いや、社長って自分より優れたものみんな嫌いそうだし、兄とか言う存在が好きなはずもないか。
多分俺もうっすら嫌われてる気がするし。
それでも表に出さず公私を分けるあたりがビジネスマンたる所以だろう。
悟空君にサムズアップして。
「家族に引き渡し連絡しました!」というと、すごく微妙な顔をする。
「ま、いっか。黄衣さんに殺して欲しくねぇだけで、悪い奴を生かしたいわけでもねぇし自業自得とは別の問題だしな」とのこと。
なんというか、非常に淡白だ。
しかし、あの一瞬金色に輝いたのはなんだったのか。
今はもう黒髪に戻ってしまっているが、瞬間的な存在規模は50倍ほどにまで跳ね上がっていた。
最近は悟空君も素でフリーザ社長ぐらいはあるから、その五十倍だとマーモットサイズはありそうだ。
うむうむ、悟空君も強くなれそうで何よりである。
そのように納得しつつ、俺はまだ癒えない悟空君ショックに涙を飲みつつ頷いたのだった。
・破壊神バイト状況
極めて真面目に破壊して回ってる。
破壊の根拠を聞き、その影響に抵触しない限りで権能を用いて住民の避難を行ったり柔軟に対応してる。
破壊基準のまとめや引き継ぎ用資料作成も怠らない。
「猫が帰ってきた時のために」と履歴も取ってる。
猫を思い、落差が切なくてヨヨヨと泣くウイスなり。
次回より人造人間・セル編かな。