俺の導きに従って、戦士達は無事にセルの乗ってきたタイムマシンを見つけられたようだ。
割れた巨大なたまごの殻と、鬱蒼と茂った森の中で苔むしたタイムマシンを見上げている。
周囲には脱皮…?した跡もあって、皆慄いている。
目的もなく何となく付いて来ていた人造人間17号と18号も、その異様に少しだけワクワクしているらしい。
悟空君が念話で俺に話しかけた。
「なあ黄衣さん、教えてくれよ。今こいつはどこにいるんだ?」
『ダメだ。悟空に分けた権能で遠見もできるはずだ。練習がてらやってみるといい』
「うーん。難しいんだよなぁ」
悟空君はむむむと唸りながら頑張っている。
時間はかかりそうだが、こういうのは実践が第一だからな。
ベジータが不審そうに俺の声を聞いて舌打ちした。
もし被害が出そうになっても、俺が吸収と殺人を阻むから問題ない。
ハッと緑の神格が目を見開いて悟空を見つめた。
「むっ、何かがここへくる!」
「そろそろか。顔を見せると思ったよ」
見事な舞空術で空を飛び、現れたのはセルであった。
ドクターゲロの最高傑作。
セミに似た妙な格好の甲虫を、無理やり人型にしたような姿はマダラカマドウマっぽい。
なんにせよ、まさに羽虫という見た目だった。
俺の細胞が使われているのだろう、どことなく化身に似た雰囲気が漂ってくる。
俺、羽虫になっちゃった……激萎え…。
仰天して構える緑の神格を背に庇い、俺は前へと進み出た。
セルが優美に一礼する。
「我が真なる父よォォ……会いたかったぞ」
「俺の細胞の割合なんてほんの少しだろうに」
「だが分かる。私の全ては父の支配下にあると。私の全てが父のためにあると。繋がりを通してそのように深く理解できる」
へぇ、わずかな繋がりでもよく分かっているようだ。
俺を含むものであるのならば、それ即ち俺でしかない。
いくら休眠状態であれど、俺が少し意識を向けるだけで瞬く間にセルは溶けて消える。
「俺に会いにきた理由は?」
「我が父への敬意と尊敬を示しに来たのだ。命令には従おう。我が力を父の役に立てたい」
「へぇ」
寝首を掻こうという算段だろうか。
気持ちの悪い羽虫だが、その根性は賞賛に値する。
俺はうっそりと笑って命令を下した。
「ならば命じよう。17号と18号を吸収し、より強くなれ。俺の権能の使用も許可する。そして孫悟空を打倒せよ」
「…………」
「どうした、返事はないのか?」
俺がせせら笑って触手を蠢かせると、セルは「承知した」とやはり丁寧に一礼した。
悟空が勝つと思っているのを理解しているのだろうに、なんだかやけに従順だ。
もしや本当に俺に従う気なのだろうか。
そうだとして、俺の指令は変わらないから別に構わないか。
「強くなれ、我が不出来な化身よ。誰よりも強く。強く。強く。そして孫悟空の糧となれ。ああ、倒してしまっても構わないぞ?死を超えて殺しあうがいい」
「………御意」
「一応言っておくが、不要な犠牲者は出さないように。所詮吸収しても誤差レベルの話だし、俺が不愉快だからな」
セルは「我が父よ、その通りに」と頷いて、来たときと同じく呆気なく去っていった。
静寂がこだまする天界にて、ミスターポポが実に正直なコメントを残す。
「お前ラスボスだった。悪の親玉。怖い」
「ウッソでしょ!?人々を巻き込むのを禁止したこんな善良なイカに向かって!?」
俺が触手を振り回してシュプレヒコールをすると、緑の神格がデンデ君を庇いながら咳払いした。
「奴はとてつもなく強大な気を放っておった。万が一にも孫悟空がやられてもしたら…」
「その時は無理を言って俺が悟空君を蘇生して、倒せるまで再戦だな。死んで強くもなれるだろうし、10回も死ねば慣れてくるだろ」
敵体力そのままのコンティニューゾンビ作戦だ。
理論上いずれ削り切れることは間違いない。
神同士の戦いを想定してセルも蘇生するのもありだろう。
お互い死にまくって嫌になったほうが負けという戦いだ。
俺はこれが得意で、何千年も粘れるから旧支配者の間で蛇蝎の如く嫌われていた。
俺と喧嘩したニャルも「粘り強すぎるマジ無理もう飽きた」と相当文句言ってたんだよな。
ストーカーを非難するような目をするんじゃない。正式な喧嘩じゃぞ。
俺の計画に緑の神格はドン引きした。
「……地獄でももう少し刑罰は軽いのだが」
「でも自力蘇生の力を扱うときの基礎だぞ?それの後継として独り立ちするなら最低限身につけておいたほうが本人のためでもあるし」
「まず孫悟空は人間だ。お主の後継になったわけではあるまい」
「!?!?!?」
俺は衝撃を受けた。
でも俺の息子だし…当然跡を継ぐものだと……。
大きな萎れイカになって俺は石造の床にポテリと転がった。
あーもーなんもいいことない。
デンデ君が萎れた触手をヨシヨシしてしてくれる。
本当に優しい子だ。
ただ、少しだけデンデ君は心配そうな顔をして俺を見た。
「あのセルって人、少しだけ寂しそうでした。本当にあなたを父と思っていたのかもしれませんよ」
「マジで?ならちょっと可哀想なことしたかも。でももし息子ならちょうどいい機会だしお互い高め合えていいね」
「お主は人の心が無さすぎる!」
緑の神格にゴンっと木の杖でぶたれ、俺は悶絶した。
何故……息子同士いい練習相手になるじゃんけ……。
さて、そのときである。
バチン、という音と共に到着したのは、彼方より現れた神格二柱。
透明な神の気、神に特徴的な無色透明の存在規模の影がぶわりと天界を満たす。
降り立った片方、破壊神ビルスがギロリと俺を睨みつけた。
おお、激怒猫だ。
猫は厳しい表情で俺を詰問した。
「本当に好き勝手やってくれたね」
「封印は完全にビルス様の油断があったからですね。仕事はバイトでとてもよく尽くしてくださいました」
「そこ。うるさいぞ。僕は封印のせいでずっと寝っぱなしだった!」
「ビルス様はいつも寝ていらっしゃったのであまりお変わりないですけどね」
「なぁ、当たり強くないか」
ウイスさんはつーんとそっぽを向いた。
ついに天使が猫の封印解除の術を手に入れたらしい。
地道に無の空間に回廊を建設。
そこから小規模宇宙に接続して穴を開ける手法を取ったのだろう。
かなりの権能を使ったから、もしかしたら界王神の手伝いもあったのかもしれない。
俺はゆったりと、しかし油断なく構えた。
「地球は巻き込みたくないから、宇宙空間に行かない?」
「そんな事を聞く義理は僕にはないね。……だが、今回は別に破壊しに来たわけじゃない」
「どゆこと?」
俺がパチクリと瞬くと、猫は嫌そうにため息をついた。
「引き継ぎ資料だよ。読み方が分からない。資料多すぎ。何だいあれ?僕の星に書棚まで作って」
「Oh……」
「ウイスがうるさいのなんのって!破壊神のあるべき姿がどうとか。寝てばかりで黄衣さんを見習ってほしいだとかなんとか」
心底辟易とした顔の猫に、プンスカ臍を曲げた天使が知らんぷりをしている。
どうも猫さん、俺の封印域が結構寝心地良かったらしく、そのまま二度寝してしまったらしい。
それがウイスさんの機嫌をひどく損ねてしまったのだとか。
困り切った猫は耳を下げて俺に至極嫌そうな顔で睨みつけた。
「僕のいない間の業務は君がしてたんだろう。教えるぐらいあってもよくないと思わないか?」
「……うす。引き継ぎはきっちりさせてもらうっす」
俺はぺこりと頭を下げた。
申し訳ない、正社員を困らせる気はなかったんだ。
・セル
割と地球人感覚で父思い。
それが父なる神の判断ならば、それに従おう。
もう一人の父たるゲロ様も孫悟空を抹殺しろと仰っていたし。
ドクターゲロの身内思いな悪人なところを継いだ気がする。
・邪悪なイカ
別に酷いことしてるつもりはない。
単に同族(息子含む)の死がひどく軽いだけ。
よくニャルもヨグ=ソトースに爆散させられてるし、ゲンコツ一発ぐらいの気持ち。
河原で殴り合って男は理解し合うもんよ(偏見)
無論、不滅でない人間が羽虫に殺されたら烈火の如く怒り狂う。