ハスターなオリ主とドラゴンボール   作:ラムセス_

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旅の始まり

 

 夜寝るたびに夢を見る。

 ブスくれたニャルラトホテプが出てくる夢だ。

 

 俺とニャルラトホテプとは昔からの付き合いだ。

 夢の中で何か言っているように見えるが、声は聞こえない。

 地団駄を踏んで手招きして、俺がそちらへ行けないこと悟ってまた地団駄。

 連日そんな感じだ。

 

 たぶん早く帰ってこいと言っているのだろう。

 ニャルを暇させてしまっているのは不安だが、こればっかりは頭を下げるしかない。

 向こうでクトゥルフ神話TRPGキャンペーン的な悪さをしていないといいのだが。

 

 元々、俺の中にある転生特典すなわち「光」と俺が呼んでいる巨大な力の実験中にここに飛ばされている。

 つまり創造神アザトースの夢から、別の見知らぬ宇宙への跳躍だ。

 

 それは多次元宇宙の枠すら超えて、あまりに遠くに俺を弾き飛ばした。

 だから流石のニャルといえど干渉ができないらしい。

 こうして夢として干渉するために、もしかしたらアザトースの力を使っているのかもしれない。

 

 日に日にものすごく怒っているので、早く帰りたいところである。

 

 おお、悪いなニャル。

 必ず帰るから、しばらく待っていてくれ。

 

 

 

 さて、朝である。

 少しだけ広くなった家をパパッと片付けてから、朝ごはんの準備に取り掛かる。

 

 昨晩のうちに悟空君が獲ってきてくれた豚みたいな謎生物をソーセージにしてあるから、それを焼いて食べるのだ。

 

 ちょくちょく料理も教え込んでいるので、悟空君もソーセージ作りには参加した。

 もちろん、衛生にはしっかり気をつけて。

 胃の丈夫なサイヤ人は平気でも、人間が死ぬのでは問題だ。

 うっかり手料理を振る舞って悲劇が起きないよう、その辺は教育を欠かしていない。

 

 サイヤ人ならではのとんでもない食欲を考えると、料理はできていて損はないからな。

 悟飯さんはいないから、用意するのは二人分だ。

 

 1年前、急病で悟飯さんはぽっくりと死んでしまった。

 

 朝起きたら昇天してたからめちゃんこびっくりしたものだ。

 慌てて肉体を蘇生して魂に付けたアンカーを手繰り寄せようとしたのだが、本人に拒否された。

 

 あの世で列に並んでるところだし、閻魔様には迷惑をかけたくないとのこと。

 

 ここ、あの世あるんだ……。

 

 あの世の運営はとんでも無くコストがかかるのに、閻魔様というのもなかなかに強力な神らしい。

 もしかしたらあの世システム自体が世界そのものの機構によって維持されていて、比較的簡単に統治できるのかもしれないが。

 

 悟飯さんは間違いなく天国行きだろう。

 最後に交信したあの苦しみのない穏やかな声を聞くに、そう思う。

 

 優しいあの世で、せめて幸せに過ごしていてほしいものである。

 悟空君はわんわんと大声で泣いて、あの世に繋いだ念話で別れを惜しんだ。

 

 

 

 さて、今日も昼は狩りと特訓だ。

 悟空君は外へと意気揚々と出かけていった。

 

 俺はといえば久しぶりに家の大掃除に勤しんでいる最中である。

 

 ここはジャングルに建つ一軒家。

 つまりは虫がとんでもなく良く出るということ。

 俺は虫は嫌いなので虫殺しの魔術を常に使っているが、そんなものでは到底足りない。

 気づくと家の家具の裏とかに虫の死骸がたくさん落ちてるから、掃除するのも俺の仕事だ。

 

 ああいやだ。さっさと片付けよう。

 

 さっさと掃除して虫を消し去る。

 ついでに外壁の塗り直しとキッチン周りのカビ取りをして、魔術で洗った洗濯物を畳んでしまって。

 帰ってきたら悟空君に包丁の手入れの方法を教えねば。

 

 綺麗になった家にふんふんしていると、まだ昼前であるのに悟空君の声が響いた。

 

「帰ったぞー!黄衣さん!」

「おかえり、早かったな……ん?お客さん?」

「まぁ!」

 

 ポニテ三つ編みリボンの女の子だ。

 青髪はさらりとしていて、まだまだ成人まで行かなそうな見た目をしていふ。

 

 女の子は両手を組んで目をハートにしながら俺に擦り寄った。

 

「ブルマって言います!16歳です!」

「そうか、ぶ、ブルマちゃんか。こんな辺鄙なところで大変だったろう。ゆっくりしていくといいよ」

「ありがとうございます!」

 

 この子の両親、子供にすげー名前つけてやがる。

 俺はちょっと戦慄した。

 

 それはそれとして俺相手に目をハートにされても困るので、若干の距離を取る。

 16歳って、まだ高校生やんけ。

 俺では保護者パワーしか発揮させられないので落ち着いてほしいところである。

 

 俺との年齢差考えたら16歳も80歳も誤差だろって言われたら、あまりにその通りすぎて暴れ出すので悪しからず。

 

 ブルマちゃんはふと、俺の背後の棚に飾ってあるドラゴンボールに目が留まったらしく目を見開いた。

 

「四星球だわ!!!」

「へぇ、ドラゴンボールには個別に名前がついているのか、初めて知ったよ」

 

 ブルマちゃんがぎくりと肩をこわばらせた。

 なんとなく卑屈な顔で「ドラゴンボールのこと知ってるの?」とオズオズと問いかけてくる。

 

「ああ。俺はこの手の品には少しだけ詳しいんだ」

「ええと、わたし、ドラゴンボール集めてるんだけど……集めたら返すからちょうだい?」

「ははは!返すと来たか。分散して1年のタイムスパンの後にこの球だけまた集めるのは骨だぞ?」

「ギクギクギクッ!」

 

 愉快な子であることよ。

 悪知恵は働くのに正直というか。

 

 念のためドラゴンボールに叶えてもらう願いを観察したのだが、邪心あるものではなかった。

 というか、「素敵な彼氏が欲しい」ってドラゴンボール使ってまで叶えることか?

 

 ううむ、恋多き乙女はわからんものである。

 ドラゴンボールの構成上架空の人間を出力したりはしないから、もっとも彼氏に適した人間が転移で運ばれてくると思われる。

 結婚相談所・神龍。

 面白いかよ。

 

 ちなみに、解析してはいるけれどドラゴンボールは俺のいうところの魔術でも怪異でもなんでもない。

 この世界独特のルールによって形作られている。

 

 俺のいたクトゥルフ神話の世界において、魔術とはアザトースへの請願そのもの。

 創造神に直接世界を変えてもらう技術である。

 ドラゴンボールはどちらかといえば世界を己の意思で塗りつぶす行為だ。

 なんだっけ、固有結界とかパーソナルリアリティとかそういうアレ。

 漫画界で人気の能力だな。

 

 その思想や設計はさまざまだが、根底に流れる理、創造の理は一緒だ。

 だから俺もある程度この世界の技術を読み解くことができている。

 

 俺はにこりと笑ってドラゴンボールを渡した。

 アンカーはつけてあるし、後から回収すればよかろうよ。

 

「なら、この子をドラゴンボール探しの旅に連れてってやってくれないか?」

「オラか?」

「え、この子を?凄く強いみたいだし構わないけど……お兄さんはどうするの?この辺り危険よ?」

「大丈夫。俺は悟空君より強いからな。この辺の恐竜に負けるわけもない」

 

 俺が軽くピースサインを作る。

 悟空君がむすっとして「いつかオラが勝つ!」とフンスフンスしている。

 

 かわゆいものよ。

 一回「本気でやってくれ」って言われたからイカ姿を見せたけど、果敢に飛びかかってきたし。

 向上心の鬼である。

 

 まあ、バレないよう状態隠匿した状態でもまだ絶対勝てないとわかったのだろう。

 あれからは鍛錬に打ち込むのみで挑みかかってはこないけど。

 ギリ努力と極限の勘で超えるのが戦闘の醍醐味であって、単なるタコ殴りはノーセンキューだもんな。

 それは俺も理解できる部分だからよくわかる。

 

「旅かあ、まあいっか。オラ着替え用意するからちょっくら待ってろ」

「バイクに乗る大きさにしなさいよ!」

 

 ブルマちゃんも、腕利きの護衛を得られて満足しているらしい。

 「そういうことなら…」と納得して外にバイクを出した。

 

 ホイポイカプセルだ。

 この世界独自の空間圧縮技術で、一個でも結構高い。

 俺は近所の農家さんが耕作機械を入れてるのを見たぐらいだ。

 こんなケースにずらりと持つとは、結構なお金持ちだぞこの子。

 

 ブルマちゃんがソワソワとこちらに近づいてくる。

 

「あなたはあの子のお兄さんですか?」

「似たようなものさ。故あって育てている。君も独り身の旅だ。危険な目に遭わないように気をつけなよ」

「はい!」

 

 優しく声をかけてやれば、再び目をハートにしてキャピキャピしたようだ。

 ううむ、うっすら主要キャラっぽいような気がするから任せたが、大丈夫だろうか。

 

 悟空君は特に気負わず、遠足感覚で特に振り返りもせず去っていく。

 

 淡白な子だ。

 あるいは、心に秘めた想いがあれば近くに居らずともいいというタイプなのかもしれない。

 

 本物の女の子相手に失礼なことをしないかちょっとばかり心配だが、多分大丈夫だろう。

 俺が時々劇団ひとりとなって悟空君相手に常識について教育したし、ハス子さんに化けてきっちりその辺は教育した。

 

「じゃ、またな黄衣さん!」

「行ってらっしゃい悟空君、気をつけてね」

 

 

 

 

 二人の姿が遠くなる。

 特徴的な丸っこい形のバイクだ。

 

 部屋が広くなった気がして、俺はソワソワと椅子を立ったり座ったりした。

 

 生命の危機を知らせる魔術はつけた。

 緊急医療魔術もOK。猫に目をつけられないための魔術隠蔽もばっちり。

 カメラ魔術は流石に過保護すぎてキモいかなと思ってやめたが、やっぱつけとくべきだったか。

 

 俺はベッドに転がり、むやみやたらとジタバタした。

 

 寂しくなんてないんだからね!!!!

 

 

 そのあたりでコツコツと扉をノックする音がした。

 今日はなんとも千客万来の日だ。

 こんな山奥に一体誰が来たのやら。

 

 玄関扉を開けると、現れたのは緑色の肌をした老人だった。

 

 頭からはナメクジのような触覚が生えている。

 加えて耳が長く、無毛で、明らかに人類種ではなかった。

 「神」とマークがついた主張の激しい服とマントで示している通り、どうやら神格らしい。

 

 旧神の在り方に似ているが、肉体がある。

 どちらかといえばシュド=メルのような、一生物が神格に位上げされた印象を受けた。

 非常に弱っちいというか、こちらが不安になるくらい弱々しい神格だ。

 

 おそらくドラゴンボールの術式構成はこの神格と繋がっている。

 術式の大元である龍神の眷属か。

 下手に倒せばドラゴンボールが機能を失うことは明白だった。

 

 せっかく悟空君を初めての旅に送り出したのに、そういう無粋なことはしたくない。

 

 俺は硬質な声で対応した。

 

「何用だ。アポイントメントもなく突然に、無礼だと思うが」

「それはすまなかった。だが、わたしも聞きたいことがあったのでな。お邪魔させてもらった」

 

 弱々しい緑の神格は、冷や汗を垂らしながらも俺をまっすぐに見つめ返した。

 なかなかの度胸だ。

 

「お主はこの地球の人間に危害を加えるつもりはあるか」

「………ああ、俺の内心を不躾に見ていたのはお前か。不愉快だな」

 

 俺は目を細めた。

 俺というものの脅威を計るために観察していたのだろうが、勝手に心をのぞくとは不躾極まりない。

 

 ビシ、と苛立ちにより俺の権能が家の壁にひび割れを作った。

 まずいまずい、ニャルじゃないんだからむしゃくしゃしてものに当たるのは良くない。

 

 するりと魔術で修復すれば、緑の神格の顔に僅かに怯えが走った。

 俺は冷たくせせら笑う。

 

「無いな。俺は人間が好きなんだ。それはお前とて分かっているだろう?」

「……それにしては愛のない言動が目立つが」

「???」

 

 俺はぱちくりと瞬いた。

 

 愛がない、というのは流石に偏向報道が過ぎるのではなかろうか。

 悟空君にも愛情深く接しているし。

 ここから離れた場所にある小さな街でも普通に買い物したりしていたが、そこでも行儀良くしていたつもりだ。

 街へのデカい恐竜の襲撃を防いだのも俺である。

 

 街には人間種以外が結構住んでいて気に食わないが、この宇宙の人間はうまく共存している。

 俺も口出しせずきちんと礼儀は弁えている。

 

 でも混血はなぁ、いかんよなぁ。

 純粋な人間がどんどん減ってしまう。

 星の外に追い出したいが、俺は所詮いずれは帰る身。

 そんな責任の持てないことはできないのが歯がゆいところ。

 

 昔の俺なら駆除、本来の世界でなら退去してもらっていただろう。

 

 だが、俺も人生経験を積んで人外への寛容というものを身につけた。

 かなり弁えた対応だと思っていたのだが。

 

 緑の神格が静かに俺に苦言を呈す。

 

「人間に対しての敵意を隠さず、それはあまりにも欺瞞が過ぎるのではないかな?」

「だから、人間は俺も大事にしているだろ???」

 

 話が噛み合わない。

 ふと、俺はピンと来て顔を梅干しのように顰めた。

 

 まさか地球に多数いる変な人外をまとめて「人間」って呼んでるのか、この緑!?

 

 俺は衝撃をうけてしばし固まった。

 許しませんよ!わたくしそんなの認めませんわ!!!

 まさかの呼び分けしないという新概念である。

 あまりのおおらかさに思わず卒倒しそうになる。

 

 ウッソでしょ明確にリカントおったやんけ。

 あれが人間ならイ=ス人も深きものどもも人間なんだわ。

 よくニャルが雑多な生命を「羽虫ども」って読んでるけど、そういうジャンルとして「人間」って使ってた感じか。

 

 俺は自身の無理解を恥じた。

 

「あー、えー、ウン。ソウダネ……ちょっと排外主義が過ぎたかもしれん。反省しました」

「ならばよいが。わたしは地球の神だ。彼我の力の差は理解しているが、この星を守る使命があるのだ。どうか理解してほしい」

「うす。なんか気を遣わせてすまんな。変な手出しは控えるよ」

 

 なんだろう、カブトムシとゴキブリが同じ単語で言い表されていた気分だ。

 文化圏の違いといえばそれだけの話だが。

 あまりに冒涜的でSAN値減った俺である。

 

 神は不安そうな顔でしゅるりと消えていく。

 環境保護系の旧神だったなら、俺が勝手にテラリウムを壊そうとしてたと怒るのも無理はない。

 

 しかし、そうだな。

 

 別に雑多な人外はどうでもいいが、それと仲良くしてる人間たちの心は守ってやらねばなるまい。

 これから破茶滅茶が押し寄せてくる世界なのだから、心は安らかであるべきだ。

 

 なんとか俺も工夫して力になれればなと、思う次第である。

 





・人間という呼称
ドラゴンボール界において人間とは知的生命体を指す言葉である。
種としての人間と呼ぶときは地球人と呼ぶのが一番近いが、それも獣人等と呼び分けるのは困難。
まさかの固有名称無し状態に宇宙ハスターになってしまった。
おおらか……!

・地球の神(神様)
ナメック星人。界王神系列神。
のんびり地上を見守ってたら偶然とんでもないのを見つけて、命捨てるつもりで突貫してきた。
魔術という名の謎の汚染を危惧しているが、具体的な悪影響がわからないため様子見。
地球を滅ぼさないなら黙認するしかないという立場。

・ニャルラトホテプ
突然音信不通で超絶おこ。暴れてやるぞ。
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