本日はミスターサタンに面会の日だ。
怪しい奴と面会なぞ世界的にスターのミスターサタンが承諾するはずもない。
だから「セルゲームの真実を知るものです」と付け加えておいた。
ちょっと脅しだが、こうでもしなければ多忙なミスターサタンとは会えなかったからな。
非礼は後で謝罪するとしよう。
面会室はホテルの一室だった。
撮影のため西の都に滞在していたらしいので、そこに合わせた形だ。
ホテルマンに話しかければ、話は通っていたのか部屋に案内される。
最上階で、カードキーをかざすとエレベーターが止まる仕組みだ。
最上階丸ごと部屋らしく、エレベーターを出てすぐに扉があった。
そのまま部屋をノックすれば、扉が開く。
姿を現したミスターサタンはすごく緊張しているようだった。
「……入れ」
「失礼致します」
ホテルスタッフにお礼を言って、部屋へと入る。
ミスターサタンの緊張は最高潮に達しているようだった。
「……何が目的だ。私の名声を妬んでの犯行か」
ビシィ!と人差し指で指されて俺は首を傾げた。
随分と誤解されているようだ。
まあ、そりゃそうか。状況が状況だし、早めに謝罪して誤解を解かねば。
俺は慌ててパタパタと手を振って愛想笑いをした。
「荒っぽい面会の申し出になってしまってすまなかった。俺はセルの父親なんだ。迷惑をかけたお詫びをしたいと思ってアポイントメントを取らせてもらった」
「バカを言うんじゃない!君のようなモヤシがあの化け物の親なわけがないだろう!」
「化け物というのは酷いぞ。確かに見た目はマダラ模様のセミだけどさぁ」
全く信じていない様子に、俺はポプンとイカ姿に変身した。
びっくりして倒れてもアレなので、マイルドな戯画調かわいこちゃんだ。
ゲッソーみたいな感じ。
ポヨンとしたイカが現れて、ミスターサタンがパチクリと瞬いた。
「おお、巨大イカだ。全然似てない」
【そですね…】
すごく正直な発言に、俺はいきり立って本性を露わにした。
無数にある目をギョロリと剥き出しにして、鋭く尖った杭のような歯が並ぶ口を開く。
雰囲気作りがてらギギギギギ、と鳴いてみる。
ミスターサタンは飛び上がった。
「ギャッ、化け物!!」
【化け物ですよぉ俺は!もう!セルの父親!あーゆーオーケー!?】
「わ、私はミスターサタンだぞ!世界最強の男を食おうと言うのか!」
【ここまでの話の流れリセットするのやめて!】
俺はメソメソと泣いて崩れ落ちた。
俺は人を食ったりしません!!
だから狂信者の皆様は寝てる俺の口に食ってもらおうと突っ込んで来るのはやめましょう!
【ごほん。ともかく、セルは俺に娯楽を提供しようとしてあんなことをしたんだ。それに付き合わせた詫びに、なんでもひとつ願いを叶えるよ】
俺の言葉に、ミスターサタンは困惑の様子を見せた。
どこか遠慮がちに、困ったように口を開く。
「ならば、私への謝罪などより先に子への労りと愛情表現の方を優先してやった方がいいと思う……別に私は美味しい話だったし……」
【ほむ?】
「君を思って犯罪行為に手を出したんだろう。やり方はまずかったからそれは注意するとして、愛には違いないんじゃないか?」
………なるほど。
教育して、愛して、受け入れるのが正しい親の在り方だと。
ミスターサタンはそう言っているのだ。
まったくもって真っ当な人格者だ。
奥に見える写真立てには小さな女の子と一緒に写るミスターサタンの写真が見える。
どうやら彼も一児の父ということらしい。
【あはは、気にしてくれてありがとう。セルも労ったから心配しないでくれ。俺も悪かったし】
「そ、そうか」
挙動不審気味なミスターサタンが、上目遣いで俺を見た。
「なら願いというか、少しばかり力を貸して欲しいと言うか。うむ。次の格闘選手権についてで、詳細は後から連絡したいんだが」
【いいよいいよ。勿論だとも。なんでも協力するからな!】
「よ、よし!頼んだぞ!!」
俺たちはひとまず連絡先を交換して、ひとときの邂逅を終わらせた。
小狡そうな雰囲気はあるものの、根は非常に真っ当な人格者だ。
そこまでやばい悪事は頼むまいよ。
そのように思って、俺はニコニコ人型に戻ってホテルを後にしたのだった。
俺が家に帰ってきたら、なぜかそこで待ち構えたものが二人。
ウイスさんと猫だ。
猫に待つなんてことできるはずもないから、おそらく来たばかりなのだろう。
猫が舌打ちして前へ出た。
「どこへ行っていたんだ。僕を待たせるなんていい度胸だね」
「ビルス様が連絡なんて面倒臭いからいいと仰ったんじゃありませんか」
「別にいいだろ。こっちはようやく体調が良くなったっていうのにそんなアラクみたいな真似してられるか」
猫はイラついているようだ。
俺の書類引き継ぎで随分苦しんだらしいからな。
アラク、というのは別の宇宙の破壊神だろう。
結構各宇宙で破壊神のやり方は異なっているようで、俺のように分析を主としている破壊神もいるらしい。
「こんなところで立ち話も何だし、中で話そう。茶菓子も出すよ」
「本当ですか!いえ、黄衣さんの料理の腕は本当にすごいですからね。地球の食材も素晴らしいですし!」
「そこまでいうほどか、ウイス?」
訝しげな猫の様子に、俺は調理魔術を用いて裏でチャチャっと……と、思ったがキャンセル。
魔術を使うと汚染があることを思い出したのだ。
人向けならともかく、神向けで魔術を使うのは適さないだろう。
手作業でフレンチトーストを作り、紅茶と共に提供することにした。
液に浸す時間は本来は長めがいいのだが、来客を待たせるのも良くないからな。
権能の方でささっと済ませて、フライパンで焼き上げる。
こげたバターと砂糖の絡まる芳醇な匂いに、ネコの鼻がピクピクと動いた。
「いや……まだ食べてみないとわからんからな。第六宇宙のドンドン卵以下と言うことは無いだろうが、うむ」
「どうぞ、できたよー。フレンチトースト。悟空君たちが育てたイチゴと共にどうぞ」
皿を出すと、すかさず猫が一枚丸ごとあんぐと熱々のフレンチトーストを口に放り込んだ。
猫だが猫舌ではないようだ。
そしてカッッッ!と目を見開き、素晴らしく危機感のある顔になる。
そして俺を睨みつけた。
「おいお前!おかわりはあるか!」
「まだ作れるよ。作る?」
「寄越せ。あと5枚」
「すごく甘いし飽きるよ。別のも作れるけど、これがいい?」
「………別のか。同じぐらい美味いのか?」
「個人差はあるけど色々食べたほうがお気に入りは見つけやすいかも?」
もっともなことだと思ったらしい。
猫は丁寧に座りなおして、静かにもう一枚のフレンチトーストを貪り始めた。
イチゴを食べて、またカッッッと目を見開く。
そんなカットインになりそうな顔しなくとも。
そのあとは杏仁豆腐やフルーツ寒天、カップケーキに揚げドーナッツなどを作ってみた。
全てが全てクリティカルのようで、だんだん恐れを孕んだ顔になっていった。
俺の腕じゃなくて明らかに地球環境のせいなんだけどな。
腹が満たされた頃には、猫は結論を出したようだ。
「お前の破壊は無期限延期された。別に料理のせいじゃ無いからな。いいな、帰る時はウイスに作り方教えてから行けよ」
「別に教えずとももっと料理上手が地球にはたくさんいるから心配しないでくれ」
「………穢れた地球の破壊も同じくだ。これは本当に特別なことなんだからな!」
大体俺、猫なんかに負けねぇし。
俺は唇を尖らせて反発心を募らせた。ギロリと猫が俺を睨みつける。
「それより、お前はスーパーサイヤ人ゴッドって知ってるか?」
「なにそれ。サイヤ人の神格?昔いたっぽい、というのは悟空君の様子を見て分かってるけど」
「ゴクウというのは誰だ?」と猫の問いかけに答えたのはウイスさんだった。
「悟空さんは黄衣さんの息子ですよ」と答えたようだ。
猫が小さいイカを想像しているのが丸わかりの訝しげな顔をした。
俺は補足説明した。
「悟空君はサイヤ人でね。俺がわずかな権能を分け与えたら、そこから古代の力を取り戻したんだ。まだ全然使いこなせてないみたいだけど」
「ほー、それは面白そうだ。僕が少し力を見てやるよ」
「!?!?俺の悟空君虐める気!?悟空君死ぬのヤダって言ってたぞ!」
後ろで無言でお菓子類を味わっているウイスさんがあたりまえ体操〜〜みたいな顔をしている。
生物が死を厭うのは普通だって?
そうだね……そんなことも忘れてたダメイカが居たらしいよ……。
「僕に逆らう気かい?」
「おう、受けて立つ。今度は完膚なきまでに滅ぼしてやんよ。封印されたくせに頭高いぞ」
「あ゛ぁ゛???」
バチバチと飛び散る火花に、ウイスさんがため息をついた。
「ビルス様、いい加減黄衣さんの方が実力が上だと認めたらいかがですか」
「はぁ!?!?こんなイカより僕の方が強い!」
「俺が眠り猫に負けるはずないんだよなぁ」
「いい度胸だ表出ろよ」
「喧嘩しないでください、全王様に言いつけますよ」
あっアザトースもどきに言いつけるのやめて…。
俺と猫は瞬時にしゅんとなったのだった。
・猫とイカ
似てる。ダメなところが似てる。
プライド高いところとか、ノリで動くところとか。
・サタン
あのセルとかいうやつも変身解除すると小さいイカだったんかな…と思いを馳せている。
根は人格者。