戦闘開始して3分。
ニャルはただゆったり遊んでるだけであった。
ギャハギャハと上機嫌そうに嗤い、時折触手をめちゃくちゃに振り回すだけ。
それでも、おおよそ人類種が対抗できるような存在ではなかった。
一撃でミンチになりかねないため、クリリン君や天津飯君、悟飯君達は下がってチマチマ気弾を撃つことに終始した。
もちろん、それは避けるという概念のない浮き上がる恐怖にぶち当たる。
それでも再生力の方が遥かに高いために、それはニャルを喜ばせるだけに終わってしまう。
【キャッキャッ!ギャハハははは!!!】
「あいつ、どんだけ回復しやがるんだ!?」
クリリン君は先ほどから、気円斬で先程から何百という触手をぶった斬って攻撃が他のメンバーに行くのを防いでいる。
おおよそ終わりが見えないと言っていい状態だ。
悟空君がまず真っ先に前に躍り出て、浮き上がる恐怖の注意を惹きつけている。
ベジータ君が「貴様らどけ!!ビック・バン・アターック!!!」と何やら必殺技をぶっ放した。
見たとこ普通の気功波なんだが、なにかあるのだろうか。
大威力の気功波が悟空君を掠めて着弾。
砂煙と光に包まれ、一旦浮き上がる恐怖の姿が見えなくなる。
瞬間、煙の中から伸びた触手がベジータ君を捕らえようとした。
あっ、まずい。
俺は素早く位置を置換して、ベジータ君の代わりに捕らえられた。
やばっ、あと一瞬遅かったらベジータ君が汚染されていたところだ。
死者蘇生不可攻撃を喰らわせるわけにはいかないからな。
俺を捕まえたニャルはさらに上機嫌になった。
【捕マエタ!捕マエタ!大事、大事】
【うおおベトベトにすんなし!ギャッ!おい、触手引っこ抜くな!】
俺から数本触手を引っこ抜くと、ニャルは俺を大事に脇に抱えて肉の中にしまった。
くっさ!腐肉やんけ!!
「黄衣さんッ!!!」と悟飯君の叫びが俺の耳まで届く。
俺は念話で自分の無事を知らせた。
『大丈夫。しまわれただけだから。あ、全然大威力攻撃していいよ。俺は勝手に復活するし』
『おい黄衣、いい加減あれが何か詳細を教えろ。間違いなくこのままだと地球が危ないのは分かるが、一体なんなんだ?』
ピッコロさんの問いかけに、俺はちょっと言いづらくてもごついた。
仕方なく、しおしおと話し出す。
『俺の奥さん。俺がなかなか家に帰ってこなくてキレてる』
『へっ、つまりオラの母ちゃんなんか!?』
『お婆ちゃん…???』
孫一家が困惑している。
ベジータ君が必殺技で傷ひとつない浮き上がる恐怖にショックを受けながら吐き捨てた。
『つまり貴様の痴情のもつれに巻き込まれたということか、俺たちは』
『うす。ついでに宇宙災害も取り込んで大きく成長しました』
『今黄衣を取り込んだだろう。それでおとなしくならないのか』
ピッコロ君は「目的達成して鎮まらないのか」と言いたいらしい。
俺は内側の腐肉をいい感じに整形して部屋の形にしながら、手の中に紅茶の入ったカップを出現させた。
『無理。全てを破壊し尽くすまで止まらないモードになってる。こういう時はその気がなくなるまで殴るしかない』
『い、いいのかそれで。妻だろう』
『消滅させる勢いで俺が殴りつけても0.1秒後には復活してるから大丈夫。妻の心配より宇宙の心配をした方がいいレベル』
前にニャルがこうなった時は、取り敢えず300年ほど殴り合って有耶無耶にしたんだよな。
ニャルは飽きっぽいので、怒りも長くは続かないからな。
せめてもう少し穏やかにしてくれると嬉しいのだが。
よーしよしよしと腐肉を撫でくりまわしてやる。
すると、より荒ぶったニャルがビタンビタンして転がり回った。
ダメみたいですね。
唯一なんとなく戦いが成立しているのは悟空君だけだ。
赤髪となって神性の増した悟空君は、なんとか権能を使って断続的に攻撃。
浮き上がる恐怖をこの場所に押し留めている。
だが、完全に遊び相手だと思われてる感じで、ニャルが喜ぶだけに終わっている。
俺が出てもいいんだが、そうするとニャルは間違いなく逆ギレする。
この地球上でやるべきではない。
というか、普通に腐肉内に目玉たくさんついてて俺の一挙一動を監視してる。
下手に動けん。
界王神様が腰を抜かしたまま叫んだ。
「なんなんですかあなた達は、どうしてそれほどの力を持っているのですか!?」
「成り行きだな。下界の過酷な生存競争というやつだ。お前達の管理がなってないからじゃないか?」
ピッコロ君が皮肉を飛ばしているが、そこまで本気ではないらしい。
半笑いで揶揄うような口ぶりだった。
君たちみたいな生命体がそうゴロゴロいるわけ無いのは確かだもんな。
そしてピッコロ君が念話で俺に話しかける。
『仕方ない。奥の手を使う。巻き添えで消滅しても責任取れんが、いいな』
『あいよ。どんとこい。多分ドラゴンボールにもたくさんマイナスエネルギーが溜まってる頃だし、いい威力になるだろ。じゃ、俺が防壁張っとくよ』
『悪いな』
ピッコロ君が右手を上げる。
空がするりと暗くなる。龍神の権能が破集したのだ。
各地から飛んできたドラゴンボールが、ゆっくりと円を描いて空中に浮かんだ。
それらから、パチリと黒い稲妻が弾けた。
「未来に溜まりし負債を今精算しよう。邪悪龍よ、在れ。ひととき敵を穿つのに力を貸すがいい!」
巨大な黒煙の龍が立ち上り、それが七つの影の如き形となって顕現する。
実態はないのか、影だけが揺らめいている。
だがそこには紛れもない莫大なパワーが宿っていた。
ドラゴンボールから願いの負債のみ抜き取り、エネルギーに形を与えたのだ。
黒い空には暗雲が垂れ込め、その力の負荷にその場から動けなくなったピッコロ君が膝をつく。
俺は同じタイミングでエネルギーの余波が上に逃げるよう地球に防壁を張った。
「っ、やれ!邪悪龍よ!」
指令を受けて、影の龍たちが一斉に浮き上がる恐怖に殺到した。
ニャルは少し不快になったのか、触手をくねらせてうち五体をはたき落とす。
二体がニャルの守りをすり抜けて、懐に到着。
そのまま大爆発を起こした。
推定現在セル並の力の全てが爆発に変換されたのだ。
防壁がなければ間違いなく地球なんて容易に吹っ飛んでいたことだろう。
己の身を守る気のない浮き上がる恐怖が蒸発。
しかし蒸発した先から蘇り、それは悍ましい拮抗を描いていた。
俺もサラッと蒸発したが適当に再生しておく。
浮き上がる恐怖は醜悪に恍惚に微笑んだ。
【アハァ……】
『お、今ちょっとニャルが満足した!これを一週間ぶっ通しで打ちまくれば退散するはず!』
『無茶を言うな!……っ!?』
長く細く伸びた触手が隙をついてクリリン君の気円斬の守りを掻い潜った。
咄嗟にピッコロ君がカッチン鋼の防御で防いだが、浮き上がる恐怖の本領はそこではない。
カッチン鋼に触れた触手が内部に潜り込み、そのまま物質の性質を変質させる。
創造物との繋がりが奪い取られたことを察したピッコロ君が急いでその場を離れる。
侵食を受けて、カッチン鋼の性質を伴う触手がぐにゃりと蠢き、先に生えた口が醜悪に嗤う。
【ギャハ!ギャハ!】
「なんだと!?皆、あの触手には触れるな!おそらく物体を乗っ取るタイプの存在だ!」
「っ、チイッ!!おい、ならカカロットはどう言うことだ!?さっきから攻撃が掠めているぞ!」
『悟空君は自分の権能で身を守ってる。他の人には出力的に真似できないからやらないようにね』
ベジータ君が少し距離をとって舌打ちした。
浮き上がる恐怖とは「取り憑かれて怪物と化したもの」の名前だ。
それは人を乗っ取り、怪物に変化させる。
しかしどうしたもんか、宿主を叩き出すだけ出してみようか。
魔人ブウ、と言ったか。
これだけでも今のセルぐらい強いし、誤差こそが勝敗を分けるかもしれないし。
俺は腐肉の中で触手を蠢かせ、ブウとやらの要素だけを集めて外へ放り出した。
こねこねこね。ていっ。
ずぼっ、ころころころ、と飛び出て行ったのは魔人ブウである。
ピンクでぷよぷよの肥満体型にほんわかした顔は怖そうには見えないが。
ニャルの体から飛び出てきたそれを見て、界王神様がブルブルと震え出した。
完全にトラウマの顔だ。
ブウは目を回して倒れ込んでいるようだ。
戦力は確かにちょっと落ちたが、やはり気のせい程度。
俺は仕方なく界王神様に話しかけた。
『これ以上あなたがここにいると危ない。猫、じゃなくて破壊神ビルスを呼んできてくれ』
「む、無理です…!」
『無理って、どう考えても宇宙滅亡の時だぞこれ』
「無理なんです!前も、500万年前も必死で起こそうとしました!でもダメだったんです!!」
追い詰められた界王神様は、べそべそと泣き出してしまった。
当時のことがどれほどトラウマだったかがそこからは見て取れる。
猫ェ。神格泣かしてんじゃねぇぞ。
「責任取ったらどうだ、昼ドライカ劇場」
『うす』
ピッコロ君の正直な発言が横っ腹に突き刺さり、俺はノックダウンしたのだった。
・邪悪龍アタック
切り札。
ドラゴンボールに溜まったマイナスエネルギーを破壊の権能として放出する。
超大威力技。
・ニャル
大満足。我が夫手に入れた!
この辺にしまっとこ(いそいそ)
上機嫌だが憎悪とは別なので、それはそれとしてこの宇宙全てを滅ぼし尽くすつもり。
夫が実は愛ゆえにあまり動きたがっていないのを理解してデヘデヘ笑ってる。