生物である限り、体力には限りがある。
悟空君は劣勢の中よく粘っていた。
銀色の燐光を纏い、最適化された動きは美しいまでに洗練されている。
だが限界は近いだろう。
成長を続ける技量に肉体が追いついていないのだ。
疲労を抑えつつ、激闘の中確実にニャルの触手を削っていく。
それでも終わりなき再生に、間違いなく体力は削られていた。
そのあたりで、シュンッと空間が揺らいだ。
上位権能による転移だ。
距離という概念を無視して現れたのは、猫と界王神様、それに天使のウイスさんだ。
界王神の「それは己の管理地内である」とする位置に関する絶対的権能を用いた転移だろう。
だからこそこのニャルの顕現阻害にも対抗できた。
悟空君が俺を転移させたことで、ちょっとニャルの方も繊細になってたんだよな。
もう二度と俺を取られぬようにと転移阻害を展開していたのだ。
それを貫通しての第三者の侵入に、ニャルが不満そうに唸り声を上げた。
猫がポコっと界王神様をぶつ。
「馬鹿!!こんなものが現れたなら何故すぐ僕に言わない!」
「言いましたよ!?『これ以上しつこいと破壊する』って仰ったのはビルス様じゃありませんか!」
「僕に口答えとは生意気だぞ!」
と、実に理不尽な猫節を展開しておられる。
猫は理不尽なものだからね、仕方ないね。
ニャルはしばし観察の姿勢を見せた。
この世界の神格に警戒している……というより、一緒に現れたウイスさんを警戒しているのだろう。
触手をのたのた動かしながら「シィィィ」と歯軋りしながら吐息を漏らした。
流石に、天使を相手にしようとするなら規模が足りない。
猫が悟空君を見て鼻を鳴らした。
「君が孫悟空だね。見ていたよ。単なるサイヤ人がここまでの力を持つとはね。アイツから多少の力は受け取っているみたいだが、微々たるもののようだし」
「ええっと、オメェ誰だ?」
「ふん。態度は気に食わないが今は許そう。ひとまずあの化け物を破壊する。力を貸せ」
猫の言葉に、ウイスさんか予想外の言葉を聞いたという顔でパチクリと瞬いた。
「おや、珍しいですね。黄衣さんに呪いは解除してもらいましたし、もう怪我は治ってらっしゃいますよね?」
「うるさいぞそこ。病み上がりなんだから少しは僕を労われ。最近口うるさいぞ。どれこもこれも全部そこのイカのせいだ、まったく!」
ウイスさんはニコニコ笑ってふふふと口元に手を当てた。
俺はニャルの腐肉に触手を引っ込めて居ないフリをする。
迷惑なイカなんてここには居ませんよー。
猫がため息をついた。
「僕が破壊する。鬱陶しい触手はお前に任せた」
「オラじゃあいつに攻撃が入らねぇしな。わかった!」
「僕が背中を任せるんだ、しくじるんじゃないぞ」
短いやり取りの末、二人が動き出す。
破壊、というのは破壊神の権能にして俺も手を焼いた極大の力だ。
破壊のみに先鋭化された権能は、応用がまるで効かないからこそ介入もしづらい。
俺も当初防ぐ手立てが見つからず、無様にも大怪我を負ったというわけだ。
破壊の権能を受けて、初めてニャルが痛がるそぶりを見せた。
「ギギギギギギ!!」と触手で身を隠して痛みに打ち震えている。
ああっ、ニャルに酷いことしないで!
ニャルは醜悪に顔を歪めて叫んだ。
【ギィィィイィイ!オマエ!オマエ!我ガ夫ヲ傷ツケタ奴!キライキライキライ!!】
「っ、させるか!」
砲台の役割を担った破壊神ビルスに、悟空君がサポートに回って護るように前に立つ。
呪詛を纏った触手を打ち払っていくも、その先から五倍に増殖して猛攻を繰り広げる。
たまらず悟空君が頬に掠らせ、呪詛に顔を顰めながら手のひらを向けて力を込めた。
「こうか……?『破壊!』」
【!?!?】
着弾した光弾が、ニャルの触手の一本をサラサラと砂へと変換した。
これには猫もびっくりしたようで「お前…そこまでできるのか!?」と目を丸くしている。
権能の再現とは、そんなのアリか…いや。
有資格者として権能群を逆算したのかもしれない。
いわば権能の先取りだ。
将来できるのならば、今できていたって構わない。
生物がいずれ神に至れるのなら、今その力を使っていたって支障はない。
凄まじく器用な技であることよ。
ニャルは無茶苦茶に叫んで暴れ始めた。
負けの目が出始めたからだろう。
ニャルはわがままなので負けは認めないからな。
でも飽きっぽいので粘ると折れる。
繊細な生き物なのだ。
戦いの隙間に地球の方を見てみれば、ベジータ君が「俺もあの化け物ところに向かう!」怒っているのが見えた。
悟空君が自分の遥か先をいくのが我慢ならないのだろう。
でも同時に自分の力量を正確に把握する戦闘者としての理性もある。
ブルマちゃんに「勝てるの?」と言われて「グゥ…!」と推し黙るなどしていた。
ううむ、ベジータ君もスペック自体はあるんだよな。
単純に機会というか、天運に恵まれなかっただけで。
これから何年も修行すれば同じだけの高みに登れると思うし。
でもそんなことベジータ君には関係なくて、今この場でライバルに置いていかれることが我慢ならないというアレ。
やはりドラゴンボールでスタートダッシュを決めたのが痛かったのか、伸び悩んでいるようだ。
難しいのお。
天界の方はニャルが消えて一安心だが、予断を許さない状況に悟空君達の戦いを観察しようとしている。
ニャルの阻害があるから干渉できないようだが、なんとか戦況を確認しようと四苦八苦しているようだ。
また、ついでにドラゴンボールの運用についてピッコロ君と緑の神格が協議しているのが見える。
思ったよりマイナスエネルギーが溜まっていたらしい。
今後の使用頻度について厳格にルールを決めるつもりのようだ。
俺が見ていることに気づいたのか、セルがぺこりと会釈した。
と、外を眺めている間にも戦闘は続いている。
既に俺も破壊の権能は解析済み。
中に居ながらぬるぬる干渉先をずらして怪我を負わないように快適に過ごしている。
悟空君はどんどんと破壊が上手くなっているようだ。
二人の猛攻に、ニャルの体がボロボロと崩れていく。
それでも俺を傷つかないように奥へ奥へと抱え込み、「キライキライキライ!!!」と喚いている。
逃げればいいのに、意地を張ってどんどん小さくなる。
でもこれ以上追い詰められると第二形態になるかもしれんし、ストップをかけるべきだろう。
俺はニャルをヨシヨシして優しく声をかけた。
もうプライドが傷ついて涙目だし、今なら話を聞いてくれるはずだ。
『大人しく俺と帰ろう。もうあとちょっとだから。仕方ないから家で外神用カップケーキも作ってやろうな』
【ホント?帰ル?ホント?】
『ほんとほんと。仕方ない、ニャルの触手5本ぐらい貰おうか。そうすれば一日で回復するはず』
【!!!!!】
そう言って、俺は内側に生えたニャルの触手をもぐっと踊り食いした。
浮き上がる恐怖は不意に動くのをやめ、顔を赤面させた。
腐肉まみれの顔が恥じらってもじもじし出す。
でも内側にはたくさんギョロリと目が生えて、俺の食事シーンをガン見している。
まあ、流石に俺もわかってきている。
外なる神や旧支配者において、まぐわいとはお互いを喰らい合い融合することにある。
人間の価値観では意味不明だが、触手踊り食いは旧支配者界隈ではどエロいR-18シーンらしい。
やっぱ意味わからんね。
ニャルの存在規模を取り込み、俺に残っていた最後の傷が癒えていく。
よし、回復。
ちょっとニャルが劣勢で弱気になってきたから、ニャルの説得もできた。
ここから3段変身ぐらいできるだろうが、そこまで暴れさせればマジで宇宙が危ないならよかったよかった。
ぽしゅんとニャルが小さな肩乗り腐肉に変身した。
ついでに俺はドロドロのデロデロな状態で外に放り出される。
「黄衣さん!」と悟空君が俺に駆け寄ったので、俺は人間型に戻って立ち上がった。
「助かったよ悟空君!君らが猛攻してくれたおかげでニャルの説得に成功した!」
「良かった、オラも結構しんどかったからなぁ。婆ちゃんも悪かったな」
【婆チャン違ウ。羽虫キライ。ペッ】
「おい悟空君に失礼だぞ。ごめんね悟空君、こいつ素直じゃなくて」
素直に反吐みたいな顔をしたニャルをポカッと殴って、俺はぺこりと頭を下げた。
猫が油断なく手の中に破壊の権能を込めて凄んだ。
「おい、そいつはまだ生きているだろう。破壊する」
「無理だよ。あと三段階ぐらい強くなるぞ。俺が説得して帰るって言ってくれたからそのまま連れ帰るよ」
「………ふん。まぁいい。破壊するまでもないってことか」
【バーカバーカ毛ナシドブネズミ!】
「なんだとお前!?破壊してやる!!」
「こらニャルっ!痛かったからって当たり散らさない!」
ぎゅむ、と腐肉をつねって短い触手をもぎ取れば、ニャルは「キャッ♡」と恥じらって小さくなった。
なんもわからん。大胆じゃないですけど。
俺は息をついて腐肉ボールのニャルを羽交締めにして、眉をハの字に下げた。
「とりあえずニャルの存在規模を食って補給したから、今日1日休めば帰れるよ。それで厄介ごとは全ておさらばだ」
「………もう会えねぇのか?」
「ああ。少し早い、永遠の別れだ」
言葉が、寒冷なこの地の風に溶けて消える。
なんとも、あっけなくこの日が訪れてしまうことになったものだ。
・悟空の破壊
ドラゴンボール超漫画版で見せた破壊の再現。
本作では「いずれ至る境地の先取り」と定義している。
まだブルーも兆も戦場で偶発的に使えたに過ぎない。
だがゴッドの扱いは原作より上手いかも。
教師としての振る舞いが精神の波を穏やかにしたか。
・ブウ
さりげなくバビディがヨグ=ソトースの拳で死亡しているので快適に過ごしている。
変なの連れてきた娘にエネル顔のミスターサタンがいたとか。