悟空君が帰って来た!
結局、あれから悟空君が帰ってきたのは、天下一武道会とやらに出場することの報告があってからだった。
ドラゴンボールはとっくに集め終わって解散し、今は武術の鍛錬をしているらしい。
淡白すぎるんだわ。
一応俺もドラゴンボール起動のことはわかってたから、悟飯さんの形見の四星球だけは確保したけれど。
なにやら旅の途中で知り合った人に稽古をつけてもらっていたらしく、悟空君は随分と強くなったようだ。
これには俺もブーブーとぶすくれるわけである。
俺は会場で彼らの待ち合わせ場所に立ち、果実ジュースを飲んでいる。
「天下一武道会」と彫られた看板の飾られた、えらく立派な中華風の施設だ。
パパイヤ島という南国の島にあり、ついでに俺は観光もして来たところだ。
ジュースについたスプーンで果実の塊を齧る。美味しい。
悟空君達の到着はまだだろうか。
そのあたりで、一台のタクシーが目の前にしゅるりと止まった。
降りてきた一行を見て、俺は久しぶりに見る顔に歓声をあげた。
「悟空君!元気だったか!」
「あ、黄衣さんだ!どうしてこんなとこにいんだ?」
「武天老師様から連絡があったんだよ。君が試合に出るから観に来ないかってさ」
タクシーを降りた……おそらく武天老師様がピースサインをする。
悟飯さんが度々名前を出していたから名前ぐらいは聞いたことがある。
手紙で連絡をもらってはいたが、顔を合わせるのは初めてだ。
武天老師様は「ふぉっふぉっふぉ」と髭を揺らして笑った。
「これはこれは、お会いするのは初めてになるかの。ワシが亀仙人こと武天老師その人じゃ」
「初めまして、黄衣ハスタです。悟空君にご指導をありがとうございます」
「ワシのところに来る前はお主が面倒見ておったと聞いておる」
「ははは。俺は多少の組み手相手になっただけで、大部分は悟飯さんの教えですから。俺は何もしてませんよ」
一応、きっちり謝礼はお支払いしている。
あんな辺鄙なところで現金を渡されても困るし、時々食料や生活用品をどっさりな。
女の子を紹介してくれとも言われたが、俺にそんな伝手はないので丁寧にお断りしている。
あえていうならハス子さんだろうか。
俺が女体化するなら別嬪さんがあっという間に出現するが、流石に身売りするつもりはないのでノーサンキューである。
兄弟弟子と思しき子がおずおずと悟空君に声をかける。
「悟空、誰だこの人?」
「じっちゃんと一緒におらのこと育ててくれた人。んー、兄ちゃんみたいな?」
「へぇ……はじめまして。クリリンです」
ぺこりと礼儀正しく挨拶してくれる。
が、明確に鼻がないのが気になって仕方ない。
この世界流に言えば「人間」の枠内なのでどうしようもないことだが。
うおお…俺の中の人間観がぶっ壊れそう。
俺は精一杯取り繕って「こっちこそよろしくね、クリリン君」と微笑んでおいた。
同年代の友人ができるのは良いことだ。
武天老師様が「では早速受付じゃ!」と言って二人を会場の一角に連れていく。
大きな黒いサングラスは身バレ防止だろう。
武術界では有名人だと言うし、仕方のない変装というやつか。
彼自身何らかのアーティファクトによって人間の寿命を大きく超越していることは俺にもわかる。
なぜこんな長く生きて魂が損傷しないのか不思議で仕方ないが。
そもそもの話、「この宇宙において魂は不滅だから」という身も蓋もない事情がある。
あの世で裁きを終えれば輪廻の輪に戻るのが決まっているのだ。
ある種魂は永遠を生きることがシステムとして決定されている、と言い換えてもいい。
なんというか、羨ましい話である。
俺のような不滅のものでも、「いつかまた生まれ変わった友に会える」と希望を胸に生きられる。
優しい世界だ。
霧散すればそれっきりであるアザトースの夢とは大違いだと、無いものねだりしてしまう。
さて、受付を終えたら彼らは会場入りした。
俺は観客席の方で見守ることにした。
予選が見られないのは残念だが、運営の都合なら仕方ない。
俺は追加で串焼き肉を買って、観光名所を巡って天下一武道会のロゴが入った帽子を買うのみである。
浮かれ切っていると言ってはいけない。
さて、お昼休憩を挟んで、本戦である天下一武道会は夕方になった。
開けた空間に祭り並みに押し合いへし合い。
観戦用の椅子すらないのでまともに試合を見るのは困難だ。
だが、俺も人外なのでそこのところは対策済み。
魔術で彼の勇姿はバッチリ記録する予定である。
悟空君がんばえー!
悟空君もクリリン君もバッチリ本戦出場枠である8人の中に入っていた。
予選の段階では100人以上いたのに、さすが、日々修行を頑張っていたということだろう。
俺は帽子を小さく振って、後ろの人の邪魔にならぬようにした。
俺が人並みをかき分けていくと、「あら、黄衣さん!」と聞き覚えのある声が響いた。
青髪をポニーテールにして、豚と空飛ぶ狐?の怪異を連れている。
うう、ブルマちゃんが羽虫を連れてる。でもこの世界では普通の生き物だ。
我慢しなければ。
俺は歪みそうになる表情を堪えて挨拶した。
ブルマちゃんも誰かの応援かもしれない。
俺にハートアピールしなくなったし、いい人でも見つかったか。
「ブルマちゃんじゃないか。久しぶり。ドラゴンボールの旅はどうだった?」
「孫くんから聞いてないの?もうサイテーよ。あれだけ大騒ぎした挙句が『ギャルのパンツおくれ』だもの。いや、あれ以上のナイスタイミングはなかったからいいんだけど。でも冷静になったら悔しくて」
なにやら複雑な事情あるようだ。
え、ドラゴンボールでギャルのパンツ願った変態がいるの???
なんか子豚君が「いいだろ別に!」と怒っている。
この子豚君が犯人のようだ。
あれほど緻密で芸術的な術式を何に使っとるんや君は。
しばらくすると、第一戦目が始まった。
クリリン君と何やら汚い大男が派手に戦っている。
多少危ないところはあったものの、手堅く勝利を掴んでいた。
二試合目は明らかに武天老師様が出場されていたが、まあ悟空君達に向けた最終試験だろう。
気にしてはいけない。
試合はどれも結構見応えがあった。
俺の肉体規模での再現は難しいが、小粒ながらも武道の技術がみっちり詰まっていて見事だ。
特にこの世界の武術は相手が人型だとは限らないとして、非常に多彩だ。
見ていて面白いというか、理念が俺の触手拳法に似ている。
悟空君の相手は、どう見たって喋る翼竜だった。
みんな反応は「怪獣だ!」「強そう!」なあたり、この地球では一般的な存在なのだろう。
なんでだよ。あんなの出たら普通SAN値減るんだわ。
真面目に人間に化けてる俺がバカみたいだろ!
ちょっと納得いかない気持ちになりつつも、試合は盛り上がっていく。
一試合は短いが非常に濃密だ。
岩を壊すような大技や電気を出したり空飛んだり、派手なものが多い。
なるほど、悪辣な環境でもこれだけの観客が集まるわけだ。
俺もうっかり熱が入り、ペンラとうちわを生成して応援していた。
「え…コンサート……?」と訝しげな顔をするブルマちゃんを添えて。
悟空!優勝して!のうちわをブンブン振る。
なお、決勝は超超超接戦だった。
本気の武天老師様の自爆電気叩きつけで悟空君が場外になった。
あれはどっちが勝ってもおかしくはなくった。
満月を見ないようにしなければならなかった悟空君のことを考えたら、実質悟空君の勝利だったと言っても過言ではない。
つまり悟空君は優勝だった。ブツブツ。
俺は思いっきり口をもごつかせた。
やはり師匠が大会に出るのはズルなのでは。
なら俺が出るのもセーフになってしまうではないか。
ごぼう抜きしたるぞワレ。
俺が内心バタバタ暴れていると、裏から悟空君達が帰ってきて手を振った。
武天老師様がありがたいお言葉を述べながら二人に指導している。
やっぱり試験の一環だったらしい。
うむ、面倒を見ていた子が成長する様を見るのは嬉しいものよ。
手のひらクルックルとか言ってはいけない。
武天老師様が俺を見上げて、静かに口を開く。
「ところで、お主も結構やり手の方じゃろう。どうじゃった、試合の様子は」
「試合は手に汗握りましたよ。ただ、俺は小技を使って悟飯さんの動きをそっくりそのまま真似できるだけで、文字通りコピー品です。ロボットの仕組みの方が近いでしょう」
「じゃが、何年も悟空がお主と戦って鍛えた下地は驚くべきものじゃった」
「そうだったなら、嬉しいけれど」
俺は無難にそのように答えておいた。
俺は確かに長年鍛錬したが、それは俺が人を遥かに超越した時を生きるからである。
肉体性能も彼らの遥か上をいく。
もとより平等な条件では無い以上、そこまで声高に口に出すことはできない。
この後みんなで中華に行くようで、俺もご一緒させてもらうことができた。
彼の生活が充実するなら嬉しい限りだ。
悟空くんにはちょろっと兄の話をしておいたが、別に興味ないのか、「いつか会えたらいいな!」というだけの反応だった。
物質的な触れ合いを求めない子だ。
近しい人が殺されたらすごく怒るし、悲しんでる人がいたら力になるが。
それを他に持ち越さない、引き摺らない淡白さを持っている。
なんともはや、彼はなるべくして英雄になる存在なのだろう。
情に囚われて泥に沈まないのは英雄の条件だ。
同時に、それは日常からいつも浮いてしまう、薄情だと思われてしまうという意味でもあった。
極限の中でしか輝けない才能。
俺は悟空君を思い、少しだけ胸が痛くなったのだった。
・フリーザ様
ラディッツからハスターの報告を聞いて多少の興味を持った。
戦闘力1500前後とはいえ、サイヤ人を軽く撃退するとは。
側近として取り立てるのもいいかもしれない。
・武天老師様
謙遜しとるけどこいつとんでもなく強くね???
同時に、生物として強すぎて悟空の師匠には不適格なのは理解できた。
実際ハス子でもちゃんと喜ぶエロ爺。