また悟空君が旅に出ていってしまった。
今度こそドラゴンボールを集めるつもりらしい。
俺の方から四星球だけは渡しておいたからスムーズに進めるだろうが、なんというか独立独歩の気の強い子である。
というか、ブルマちゃんのドラゴンボール探知用レーダー、すごい技術だな。
車が空を飛ぶこの世界の科学技術の水準を考えてなお、明らかに科学の域を超えている。
人類は将来有望だろう。
ゆくゆくは宇宙とかに出るだろうから、その時は凶暴な紫の猫などに注意してほしい気持ちである。
さて。
俺はと言えば、自分の怪我を治すための情報収集に動いている。
この地球の神である緑の神格に話を聞いてみたりもしたのだが、緑の神格の治癒術では全く出力が足りなかった。
俺自身の医療魔術の方が効くぐらいだ。
そこで「仙豆を食べてみてはどうだろうか?」という提案を受けたのが昨日のこと。
なんでも、緑の神格が根城にしている宮殿の下にはカリン塔という塔があって。
そこでどんな傷でもたちまちに治ってしまう仙豆という特別な種子を育てているようなのだ。
ちょっとばかりの興味があって、俺は今、カリンの地に立っている。
そこには聖地を守る民が住んでいるらしい。
俺は周辺の部族から話を聞いて、案内を頼んでから慎重にこの地に入ることにした。
侵入者として変にことを荒立てたく無いからだ。
野生動物保護区に無断で入ったら密猟者だし、多少は気を遣わねばなるまい。
ここの代表のボラさんという方は、快く俺を迎え入れてくれた。
非常に筋骨隆々な男性だ。
一児のパパであるようで、結構子煩悩な印象を受ける。
ボラさんが心配そうに眉を下げた。
「本当に大丈夫なのか?この塔に挑んだものは皆墜落死してしまった。落ちた挑戦者の埋葬はたくさんして来たが、生きて帰って来たものは見たことがない」
「ははは。心配してくれてありがとうございます。こう見えて俺は人間ではないので、人間より体力があるんですよ」
「!なるほど、ここから北には三つ目の種族の集落があると聞いているが、そのようなものか」
ボラさんは納得して頷いてくれた。
やはり人外は当たり前のものとしてこの地球と深く根付いているようだ。
俺は彼と別れて、遥か彼方まで続くカリン塔の前に立った。
どうやらここを登るのは、カリンという怪異への謁見試験も兼ねているらしい。
瞬間移動せず、俺も地道に登っていく。
小ぶりに本性を現し、ヌメヌメと触手を絡み付けるのだ。
魔術的隠蔽を併用した超極小顕現だ。
人間のスベスベ肌で登るより、触手出した方が上るのは楽だからな。
のっそのっそと二日ほどかけて上まで登る。
最上部は入り口が小さかったので、少し体を縮めて中に入り込んだ。
二階建てになっているらしい。
雲の上の居住区は見晴らし満点。
階段を上がって二階では、やんのかステップを決めたモフモフの白い猫さんが全力で構えを取っていた。
【お、おう。あなたがカリン様で間違いないだろうか……?】
「何用じゃお主ッ!その邪悪な気配…超聖水を狙って来たのか!」
【違います失礼な羽虫め。プチッとするぞ】
おっと、口が悪いのはいけないことだ。
いかにも人間に親切そうな生き物だし、俺も大人にならなければ。
じゅるりと人間の姿に戻り、頭を下げる。
「俺は自分の怪我を治すため、仙豆というものを確認しに来たんだ。あらゆるケガが治るって聞いて、一縷の望みをかけに来たってわけさ」
「これほどの存在感を放っていて万全じゃないのか!?……ふむ、怪我を治してから何をするつもりじゃ?」
「家に帰るだけだよ。偶然この世界に迷い込んじゃっただけだからな。早めに帰った方がお互いに不利益も少ないだろ」
ふむ、とモフモフ怪異は考えてから近付いてきた。
「傷の具合を見せてくれぬか?」と言われるので、俺は正直に再び体を本来の姿に戻す。
うにゅうにゅと触手だらけのイカ姿だ。
あちこち焼け爛れていて、ヒリヒリと痛い。
触手もたくさんもげてしまっていて、再生が阻害されてふつふつと表面が沸き立っている。
破壊の権能を喰らってしまったから回復が遅いのだ。
見終わったようなので再び人間形態に戻る。
カリン様とやらは全身の毛を逆立てて慄きつつ、傷の様子に頷いて口を開いた。
「これは通常の傷ではないな。仙豆が効くかどうかはわからんぞ」
「ダメ元さ。もし貴重で替えが効かないようなら、見せてくれるだけでいい。俺が勝手に解析するよ」
「昔作った分があるから一粒ぐらい用立ててやるわい」
ごそごそと巾着から一粒の金平糖サイズのものを取り出した。
まんま豆だ。
複雑な表情でカリン様が俺に仙豆を手渡す。
「お主はみたこともないほど邪悪な存在じゃ。人間を虐げ、弄ぶ脅威。じゃが同時に言葉に嘘はないのはようわかった。食うが良い」
「すごい言われようだなオイ。誹謗中傷だぞそれは。まあありがたくいただくけど」
カリッと噛んで飲み込むと同時に解析をかける。
まじただの硬い生豆だ。
美味いもんではない。
おまけに特殊な薬効のため、火にかけると効力を失う厄介な性質があるようだ。
抽出してサプリにはできそうだが、この特殊な外皮が再現できず、1日も経たず効果を失ってしまいそう。
でも回復の仕組みとしてはこの世界独自の色を感じられて面白かった。
生命力の概念そのものに働きかけて、結果として癒しとして成立するのか。
アプローチとしては結構いいんじゃなかろうか。
一回食べると腹が膨れすぎるのが難点だが、それは生命力の取り込みの副作用だから仕方がない。
カリン様がやや心配そうに声をかけてくれる。
「どうじゃ?」
「自然治癒が促進されたから、気持ち完治までの時間が短くなったかな。あとは俺の権能解除の腕の問題だから、これ以上は短縮されようがない」
「そうか。あまり無理をするでないぞ」
俺を邪悪と断じておきながら、それでも親切に忠告をする。
すごく善性のネコチャンであることよ。
警告もなく全力攻撃してきたあの紫の怖げな猫とはえらい違いだ。
「お主は傷が癒えるまで何をするつもりじゃ?」
「面倒見てる子がいるから、その子の見守りと…人間の保護かな。旅行地で好き放題する気はないから礼儀正しく振る舞うつもりだけど」
「それならばこちらも助かるの。この世界を楽しんでいってくれ。ここがまれびとに喜んでもらえる星ならば、わしも嬉しく思う」
あの緑の神格もそうだが、ほんまできた神様が多いなぁ。
ニャルラトホテプが旅行客なんて面白そうなもの見つけたら、ボロ雑巾になるまで遊び散らかすに決まってるのに。
俺はカリン様にお礼を言って、そそくさと帰ることにした。
心配しているであろう地元住民のボラさんにも挨拶せねばなるまいよ。
俺はバッと空に身を投げ出し、フリーフォールしながらニコニコとやや軽くなった体に満足したのだった。
・仙豆
誤差。「破壊」による概念攻撃を治すには至らなかった。
そもそも解呪であって回復ではない。
同様にビルス様の傷も仙豆では治らない。
回復力に乏しいビルス様の方が結構深刻だが、そこはウイスがカバーしようとしている。
・創造神系列
基本すっごくいい人。清らかというより牧歌的。
ハスターことを瞬時に邪悪判定するが、会話してすぐに普通の常識人だと思って親切に接してくる。
ハスターの滲ませるアザトースの寝息が邪悪な気配なのが一番いけない。
アザトース「むにゃ…?」
ニャル「ね↓むれ↑〜〜良い↑↑子は〜〜」
アザトース「グズッ」