フリーザ様、というと超有名な戦闘力53万の人だ。
ギュピッギュピッと特徴的な足音もする。
戦闘力53万とやらがすごいのかはよく分からんが、怖げな猫よりは弱そうに見える。
序盤の敵役だからだとは思うが、この時点で53万だと数字がインフレしすぎる気がするんだよなぁ。
今回フリーザ様という宇宙企業の社長に会うのは、ラディッツ君の紹介があったからだ。
宇宙的地上げ屋なんてちょっと面倒ごととの接触だからあまり乗り気ではなかったが。
変に喧嘩を売ったことになって軍を差し向けられても面倒だし、なにより提示された雇用条件が結構良かった。
医療ポッド使い放題、気になります。
家族を連れて宇宙中の観光名所に割引で行けるみたいだし。
子育て支援もあるようだ。
一応地球を根城にしていることは隠しているし、何かの拍子にバレることもない。
ちょっとばかし気になって、面接にやってきたというわけだ。
「本当に戦闘力がありませんね。何か特殊な技術で抑えているのですか?」
「俺の出自や種族的な問題だから、技術でなんとかなるものじゃない。ステルスとしては技術提供できそうにはないよ」
大きな宇宙船の中、広い面接室で俺はフリーザ社長と対面していた。
いく人かの部下さんも同席していて部屋は静けさに満ちている。
俺は少しばかり緊張して触手を縮れさせた。
「単刀直入に言いましょう。私の元で働く気はありませんか?」
「不動産屋業務を営んでるんだよな。あまりその手の法律知識は無いんだけど、未経験者は問題ないでしょうか…?」
「もちろん。入隊後きっちりお教えしますので、心配要りませんよ」
フリーザ社長は俺の言葉にニコニコした。
魔術で多少は業務上の手助けはできそうだが、こう言うのは繊細な知識がいるイメージである。
大丈夫だろうか、と俺は尻込みした。
「貴方には実働部隊として働いてもらいたいと思っています。環境を傷つけないよう慎重に星から原住民を追い出し、商品価値を高める繊細かつ高度な柔軟性を求める作業。そのための部隊を我々は常に欲しているのです」
「なるほど、害獣駆除か。そのくらいなら未経験者の俺でも多少は力になれそうだ」
俺は納得した。
でも少し気になるところはあるんだよな。
この宇宙船内も社長自身も羽虫というか、雑多な生命でしかない。
羽虫を駆除して羽虫に売るのは意味不明だと思うのだが。
生物にも階級があるのか、俺には分からない差別被差別構造があるのだろうか。
まあ、どうでもいいしそこまで深く考える必要は無さそうだ。
俺は二つ返事で頷こうとして、ちょっと考えて眉間に皺を寄せた。
「それなら……いや、まずいか。星を派手に行き来する業務は難しいかもしれない」
「というと?」
訝しげなフリーザ社長に、俺は正直に打ち明けた。
「妙な猫みたいな生き物に目をつけられてるんだ。結構強くて、あのラディッツがいた無人の星を破壊したのも奴だ。あまり動き回ると見つかる」
「惑星破壊ができるレベルの強者に、目をつけられていると?」
フリーザ社長が険しい表情になる。
わかる、こういうバックグラウンドに問題のある社員は抱えたくないよな。
「最近一戦交えたんだ。不幸な行き違いだとは思うが、俺がそちらに付くとなるとそっちの資産がな。うっかり戦闘で傷付く可能性があることを思うと、あまり軽々に組織に所属することはできない」
「御社の損失の可能性あり、ということだ」と俺は言葉を締めた。
こう言うのは後々のトラブルを避けるため、なるべく誠実に話した方がいいからな。
バイト先で因縁のヤンキーに絡まれたからって、暴れて商品を傷つけたら迷惑になるし。
考え込んだフリーザ社長は、値踏みするような視線を俺に向けた。
星を破壊するまでの戦闘力の相手と戦えるなら、と色々損得勘定を巡らせているのかもしれない。
企業の社長の採用面談って感じで緊張する。
なんか口頭で聞く限り、結構福利厚生も良くて稼げそうなんだよな。
もし悟空君が学校行ってみたいって言い出した時のために、収入はあって悪いものではない。
しばしの熟考の末、社長は結論を出したようだ。
一言、部下に声をかけた。
「リクームさん、少し相手をしなさい。トレーニングルームは空いていましたね」
「はいっ!!!」
リクームと呼ばれた男は言葉少なに変なポーズをビシッと決めて、そそくさと準備し出した。
その場で施設の予約をとっているのかもしれない。
困った、腕試しで相手をプチッと潰してしまったら大変だ。
男は見るからに弱そうだ。人間っぽいから攻撃しづらい。
全員でゾロゾロと移動したトレーニングルームは、広くてメカメカしくて立派だった。
各種族向けなのか重力が変更できるらしく、面白い構造になっている。
壊したら修理だけで生涯収入が吹っ飛びそう。
俺はますます触手を縮れさせた。
リクームとやらが反対側で構えを取ったので、俺もわかりやすく沢山口と目があるイカの姿に変わる。
こっちの方が手加減しやすいからだ。
もちろん隠蔽魔術は厳重にしてある。
社長が「はじめ!」と簡単に声掛けする。
俺はバリっと沢山の口を開き、一斉に咆哮した。
音圧に含めて、精神を威圧する効果を付与してある。
動きを鈍らせて手加減しやすくするのを狙ったものだ。
リクームが少しだけ怯んでから、果敢に飛び込んでくる。
瞬間移動の如きスピードで距離を詰めてから、俺に凄まじいパワーの攻撃を加えてきた。
ラディッツが細かい羽虫だとしたら、ダンゴムシぐらいの強さだろう。
いや冷静に考えたら全然違いわからんな。
まあいいか。所詮は羽虫だ。
強烈な膝蹴り、連撃、ボディアタックもなんのその。
周囲の静止を振り切って凄まじいエネルギー爆発も起こしていたが、俺の表皮を焦がすことすらできていない。
いや、再生力の方があまりに大幅に上回っているから、ちょっと力を張った俺にはダメージなんて0も同じと言うべきか。
散々攻撃して、肩で息をするリクームをゆっくりと触手で縛ってやる。
驚いてブチリと千切って抜けだそうとするが、力負けしてまったく抜け出せない。
【えー、負けを認めてください。認めないなら】
太い触手が裂けて、ガバリと乱杭歯の並んだ口が開く。
【とっても痛いことになります。まあ、口の中でさっきのエネルギー噴射を試してみてもいいよ。噴射したエネルギーごと食べるからな】
「………ま、まいった」
結構鮮やかな勝利ではなかろうか。
俺は満足して、イカ姿でそりくり返って胸を張った。
トレーニングルームも綺麗だし、プロレスみたいに俺の強さも存分に見せつけられた。
言うことなしだ。
しゅるりと元の姿に戻ると、観戦していたフリーザ社長は上機嫌そうに拍手した。
「我が軍のギニュー特戦隊の一人を余裕を持って打ち破る実力者とは!良いでしょう。あなたのその敵対者、わたしが相手して差し上げましょう」
俺はびっくりしてオロオロと視線を彷徨わせた。
リクームを助け起こしてから、軽く体力回復のため治癒の魔術をかけてやる。
「ええ!?社長自身が!?すごく忙しいだろうし、怪我なんてしたらどれほど業務が滞るか!俺は気が分からないから戦闘力とやらの程は全然分からないけど、そんなことさせられないよ!」
「構いませんとも。実力者は金の鉱脈のようなもの。貴方は特に業務への理解も強く、戦闘一辺倒でもない。そんな人材を逃す手はありませんよ」
有難い話だけど大丈夫かなぁ。
すごく嬉しそうな社長を前に、俺は眉を下げた。
あの猫は凄い強敵だ。
猫ほど強そうには見えないが、俺には気はよくわからない。
それに宇宙企業の社長だし、何かまだ見ぬ軍事技術があるのかもしれない。
こうして、俺は一応の内定を得て、おさんどんから手に職をつけることになるのであった。
・フリーザ様
【悲報】フリーザ様軽率な約束をする【おいおい死んだわアイツ】
戦闘に努力はしないが、会社経営に努力はするタイプ。
部下は常識人ぶった邪神だし、破壊神を敵に回すしいいことが何もない。