鈍い光沢の銀髪を靡かせ、薄い黒い肌の上から目を刺すようなギラついた赤い鎧を纏った冷ややかな瞳の女竜騎士が、部下の報告を聞く。
「そう。ダークソードのフレアルが討たれたのね。」
「援軍を送ってください!竜騎士ブラック・マジシャン・ガールのヌゥト様!」
「どうしてこの私が、わざわざ失敗した連中の後始末をしないといけないのかしら。」
か細い腕に、不釣り合いな魔力を迸らせる女竜騎士。
「ひ、ひぃいいい!」
逃げていく部下に、彼女は何の興味も抱かなかった。
「よろしいので?」
「別にいいわ。私が受けた命令は、このオズボルド領の制圧。明日、攻め落とす。それまでは英気を養っておきなさい。」
「念のため、確認ですが…。オズボルド家の者どもは」
「長男のアッシュ以外は好きにしなさい。彼だけは、私が捕まえる。あれは、私の物よ。フフフ、絶対に逃がさない…。ああ、一体どんな顔と声で鳴いてくれるのかしら…。」
そんな女上司を見ながら、部下の男は内心、アッシュという子供に同情する。同性として。
(まぁ、差し入れの一つぐらいはしてやるか…)
翌日。オズボルド領は大混乱に陥っていた。
領主の館では、怒声が飛び交う。
「は、覇王軍だぁ~!!」
「見張りは何をやっていた!籠城を」
「馬鹿っ!古来より、落ちなかった要塞は無い!一戦して敵の鋭鋒をくじき、しかる後に籠城!」
「なるほど、それで誰が覇王軍と戦うので?」
「そ、それは…。当主様に」
「馬鹿者!総大将はどっしりと後ろで構えている物!子供達、出番だ!」
父は6人の子供達に向けて怒鳴ると、5人の子供達が不平不満をぶちまける!
「お、おい!僕は次期当主だ。弟達、兄の為に戦え!」
「何言ってんだ!次期当主だろ、兄さんが戦え!」
「そうだ!姉さんたちが戦った方が」
「どうしてアタシ達が戦わないといけないのよ!」
「そうよ!そうよ!」
責任を押し付けあう子供達。そんな中、一人の少年が口を開く。
「分かりました。この私が、覇王軍を打ち破って見せましょう。」
「「「「「…えっ?」」」」」
一人だけ敢然と立ち向かうと言ったが、発言者を見てそれまで喧嘩していた子供達が顔を見合わせる。
「あ、アンタ?正気なの?」
「誰かが撃退しないといけない。だったら、私が行く。」
「で、でもよ。お前、俺に40連敗しているじゃないか」
「つまり経験豊富って事だ。」
「い、いいか?罠カードを伏せる時は、宣言しなくていいんだぞ?後、先攻はドローフェイズが無いし、バトルフェイズにも入れないんだぞ?分かっている?」
「はいはい、分かった分かった。父上、お任せください。」
家族に見送られる中、彼は覇王軍に向かって歩みを進める。
やった!これで、これでデュエルに勝てば!自分は英雄だ!次期当主だ!
その思惑は、あっという間に打ち砕かれる。
「ど、どうしよう!攻撃力1700のダーク・グレファーが倒せない…!ま、守りを固めてチャンスを待つ!岩石の巨兵、攻撃表示!ターンエンド!」
極寒の眼で、竜騎士ブラック・マジシャン・ガールのヌゥトはガキを見る。
当主の子供が一騎打ちを所望していると聞いて、指揮を部下に投げて駆けつけてみればこれだ。アビリティを使うまでも無い。
E・HEROプリズマーを召喚し、ダーク・グレファー共々攻撃を加える。
「う、うわぁああああ!」
「お前の兄、アッシュの居場所を吐け。そうすれば、カードにするのは見逃してやってもいわ。」
「あ、アッシュ?あ、あ、あのハズレ・アビリティ~!あいつのせいだな、覇王軍が来たのも、私が追い詰められているのも、昨日、腹痛になったのも!」
どうやら知らないようだ。ヌゥトは始末する事にした。
「うぎゃああああ!」
ド素人をカードに封印したヌゥトは、再び愛竜にまたがり、空を駆ける。
「出てこい、アッシュ!さもないと、この街はおしまいだ!」
数時間後。オズボルド当主は、秘密通路を走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ!くそ、どいつもこいつも、役立たずめ!」
妻も子供たちも置いてきた。足手まといにしかならない。
この先に、馬車を用意しておいた。館の宝物を積み込んで、脱出だ。
金さえあれば、またやり直せる。他の有力者に保護してもらうか、傭兵を雇えば。
「よぉ。」
「っつ!だ、誰だ!」
暗がりから現れたのは、子供だった。
人によっては、「遊城十代」を連想するだろう。だが、その髪は銀色であり、青紫色の服を着こなしており、足も長い。
彼は『覇王アカデミー』というデュエリスト養成機関の出身。覇王の為に尽くす文官にして、有事の際には分隊を指揮する。
「ヌゥトめ、遊び過ぎだ。まぁ、注意した所で聞くような奴じゃあないけど。」
「ま、まさか…覇王軍か?と、取引だ!」
「ほぅ?」
「覇王の給料の倍、いや、3倍払う!だから私の護衛になれ!」
「ッハハハハハハ!」
子供は笑う。心底、おかしそうに。
「な、何がおかしい!」
「俺さ、ここに来るまでにお前の家臣とデュエルしたぜ。勝ち目なんざないって事を理解していても、立ち向かってきたぜ。金を受け取った以上、決闘者として責務を全うするってな。」
「当然だ、そのために金を払っているんだ。」
「てめぇは、そんな忠臣を見捨てて逃げ出そうってしているのにな。さぁ、構えな。」
「くっ…。な、舐めるな!私は、このオズボルド領主!」
デュエルディスクを構え、互いに叫ぶ。
『『アビリティ決闘!』』
「私の先攻、さっそくいくぞ!アビリティ発動!起動しろ、VWXYZ!」
その宣言と同時に、当主の場に「VW-タイガー・カタパルト」と「XYZ-ドラゴン・キャノン」が出現する!
「ほぅ、そいつらを出せるのか。」
「合体召喚!現れろ、VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン!さらに、砲撃のカタパルト・タートルを召喚!このカードをリリースする事で、レベル5のドラゴン族を特殊召喚!来い、スレット・アームド・ドラゴン!」
「ここでドラゴン族を出すだと?」
「手札を1枚捨てて効果発動、場の攻撃力2400以下のモンスターを破壊!スレットを破壊!これにより、破壊したモンスターよりレベルが2つ高いドラゴンを特殊召喚!デッキからアームド・ドラゴン・サンダーLv7を特殊召喚!このカードは、カード名をアームド・ドラゴンLv7として扱う!私は、VWXYZとアームド・ドラゴンLv7を除外!アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン!」
現れるのは、異形のモンスター。アームド・ドラゴンが様々な機械を装備している。
「これで勝負は見えたな。ターンエンド!」
盤面を見て、少年は楽し気に笑う。
「こんなカードがあったのか…。俺のターン、ドロー!アビリティ発動!EXデッキの「ダーク・フュージョン」でのみ特殊召喚出来る融合モンスター1体を相手に見せ、見せたモンスターにカード名が記された融合素材モンスターを2体までデッキから手札に加える!スパークマンとクレイマンを手札に加える。」
だが、当主はニヤニヤと笑う。
「私の提案を飲んで居れば助かった物を。」
「それはどうかな?速攻魔法、禁じられた聖杯!これでそいつの効果は無効!」
「ほげぇええええ?!」
「ダーク・フュージョン発動!E・HEROスパークマンとクレイマンを手札融合!E-HEROライトニング・ゴーレムを融合召喚!装備魔法「フュージョン・ウエポン」をライトニング・ゴーレムに装備だ!」
「攻撃力3900だと!」
「ライトニング・ゴーレムの効果発動、アームド・ドラゴンを破壊してやる!」
エースモンスターが蹴散らされ、当主はへたり込む。
「そ、そんな…」
「EーHEROヘルゲイナーを召喚!こいつを除外する事で、悪魔族のライトニング・ゴーレムは二回攻撃出来る。というわけで、くたばれ!」
迫り来る融合HEROの攻撃を前に、当主は走馬灯を見る。
婿養子として、結婚した時の事。政略結婚だったが、互いに心が通じ合うようになり、第一子、アッシュを授かった。
その後、妻が亡くなり、後妻を迎え、子供をさらに授かった。
アッシュのアビリティがハズレだったことで怒り狂って、オズボルド家を名乗る事を禁じて、使用人として他の家へ飛ばした事。
私は、悪くない。物には限りがある。ハズレアビリティを授かるような無能に愛を与え、教育を施すのは無駄。
「ぎゃあああああ~!」ライフ0
当主を仕留めた少年は、落ちたデッキを回収する。
「覇王アカデミーの後輩に、手土産が出来たな。」
そのついでとばかりに、馬車の積み荷を確認する。
「ほぅ、随分とため込んでいるな…。」
そんな彼に声がかけられる。
「こちらでしたか。ヌゥト様が館を制圧しました。」
「そうか。で、俺は何時間後に行けばいい?」
「お目当ての少年は居なかったようです。」
「ふぅん?逃げたか?まぁ、いい。」
オズボルド領、覇王軍により制圧される。
領主及びその家族は全滅。
その知らせは、様々な勢力に伝えられることとなる。
オズボルド領を失った王家は、奪還のために緊急会議を開く。
「シェザール第一王子!即座に奪還作戦を実行するべきです!オズボルド領主は凄腕のデュエリスト。ここは大会を開催し、優勝者には奪還作戦を命じ、奪還した暁にはオズボルド領主の座を与えては?」
「…彼の子供は生き残っていないのか?」
「恐れながら、5人はカード化されたとか。」
「まて、子供は6人いたはず。捜索を開始しろ。それと並行して強力なデュエリストを集める。」
-同時刻-
摩天楼が立ち並び、モーメントにより高度に発展した文明都市。シンクロ・シティ。
そのスタジアムで、一組のデュエリストが向き合う。
「さぁ、いよいよ始まります!コモンズによる行政特別法案の可決を掛けた一戦!」
レア・アビリティを持つ富裕層のトップスと、ハズレ・アビリティとして差別される貧困層のコモンズ。
この対立を是正するべく、持ち込まれた特別法案。その推進派である少女は、反対派の老人と向き合う。
「ボクの先攻!ボクはボク自身、重騎士プリメラを召喚!効果発動、デッキから同名カード以外の「センチュリオン」カードをサーチ!フィールド魔法、スタンドアップ・センチュリオンをサーチして、発動!」
「ほう、これが…」
「フィールド魔法、スタンドアップ・センチュリオン!の効果発動!手札のスキル・サクセサーを墓地へ送り、デッキから「センチュリオン」モンスター1体を永続罠カード扱いでボクの魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。従騎士トゥルーデアをセット!従騎士トゥルーデアの効果発動!メインフェイズ、魔法・罠ゾーンに存在するこのカードを特殊召喚出来る!さらに効果発動!このカードとデッキから同名カード以外の「センチュリオン」モンスター1体を、永続罠カード扱いでボクの魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。重騎兵エメトVIを選択し、従騎士トゥルーデアと共にセットする!」
「ぬぅ、次から次と…」
「重騎兵エメトVIの効果発動!メインフェイズ、魔法・罠ゾーンに存在するこのカードを特殊召喚出来る!ボクはレベル8の重騎兵エメトVIに、レベル4の重騎士プリメラをチューニング!シンクロ召喚!Lv12!騎士皇レガーティア!特殊召喚に成功した事で、カードを1枚ドローする!」
ドローに合わせ、プリメラは手を掲げる!
「アビリティ、発動!『天輪鐘楼』!シンクロ召喚した場合、1枚ドローする!」
引いたカードを一瞥し、即座に行動をとる。
「カードを2枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズ、騎士皇レガーティアの効果発動!墓地の重騎士プリメラを魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。」
「…やはり。ワシの考えは正しい。ハズレ・アビリティは所詮、ハズレ・アビリティでしかない。」
ポツリと、老人が呟く。
「どうして、そこまでコモンズやハズレ・アビリティを差別するの?」
「…希望を、抱かせぬためだ。ハズレ・アビリティはどうあがいても不利。ならば、おとなしく身の程をわきまえるべきだ。にも拘らず、身の丈に合わぬ相手に挑み、命を散らす…。貴女こそ、レア・アビリティを持っているでは無いか!」
「ボクはハズレ・アビリティだったとしても、そのアビリティでテッペンを目指していた!」
「…確かに、貴女はそうなのだろう。強い心をお持ちだ。だが、世の中の全てのデュエリストが、貴女のようになれるわけでは無い…。」
老人は目を見開く。
「行くぞ、アビリティ発動!出撃!グスタフ・マックス!エクストラデッキから、超弩級砲塔列車グスタフ・マックスを特殊召喚し、その後、エクストラデッキのカード2枚をグスタフ・マックスのオーバーレイユニットとする!ナチュル・ビーストとナチュル・パルキオンをオーバーレイユニットに変換!」
「このメインフェイズに、ボクは魔法&罠ゾーンから重騎士プリメラと従騎士トゥルーデアを特殊召喚!重騎士プリメラの効果発動!ウェイクアップ・センチュリオン!を手札に加える。さらに従騎士トゥルーデアの効果発動!レベルを4つ上げる!」
「これで、従騎士トゥルーデアのレベルが8になったか。だが、ワシのターンにS召喚は行えぬはず」
「フィールド魔法、スタンドアップ・センチュリオン!の効果発動!モンスターが特殊召喚された場合に発動できる!」
「なんと?!」
「「センチュリオン」モンスターを含むボクのモンスターを素材としてS召喚を行う!レベル8となった従騎士トゥルーデアに、レベル4の重騎士プリメラをチューニング!シンクロ召喚!Lv12!騎士皇レガーティア!特殊召喚に成功した事で、カゲキを破壊!そしてカードを1枚ドローする!アビリティにより、さらにもう一枚、ドロー!」
「…我が力、及ばぬか…。ターンエンド。」
「ボクのターン、ドロー!速攻魔法、ウェイクアップ・センチュリオン!を発動!ボクの場に、レベル8のセンチュリオントークンを特殊召喚!ここで、重騎士プリメラを召喚!スタンドアップ・センチュリオン!を手札に加える!レベル8のセンチュリオントークンに、レベル4の重騎士プリメラをチューニング!シンクロ召喚!Lv12!騎士皇レガーティア!特殊召喚に成功した事で、カードを1枚ドロー!アビリティにより、さらにもう一枚、ドロー!」
三体の騎士皇レガーティアが、老人を見下ろす!
「…サレンダーして。カード化されるぐらいなら。」
「プリメラ殿。情けをかけるというなら、このままトドメを刺してくだされ。ワシが敗れれば、トップスの者達も諦めざるを得ない。だが、一つだけ良いか?」
「何?」
「そのアビリティなら、別のデッキを使った方が」
「レガーティアでダイレクトアタック!」
次の瞬間、プリメラはトドメを刺した。
その後、コモンズによる特区法案が可決。
「…これで後顧の憂いなく、覇王軍と戦える体制が整う。コモンズとトップスの対立を是正すれば、社会不安も減る。」
プリメラは北を睨む。そこに、倒すべき覇王が居るはずだ。