ゲームで死んだらリアルでも死ぬし、ログアウトは出来ない。なんて急に言われても現実感なんて湧きはしなかった。そんな、死ぬのか死なないのか分からない、ふわふわとした気持ちのまま来てしまった猫1匹のお話。
空から静かに星が降る。
絶え間なく、淡々と流れる姿はどこか儚げで。
「人が死んだら流れるんだっけ」
そんな不謹慎な噂ですら、星の綺麗さに羨ましいと思ってしまう。
ここ、『星見の丘』はそんな流れ星が見られるロマンチックな場所なのだが、何故か周りには誰も居ない。理由は明白。本当に星が降ってくるのだ。
リアルと違いあの勢いのまま降ってくる星は当たれば即死と言われている。ゲームでの死が現実の死に直結する今、そんな危険な場所に来るやつなんて居ない。
……物好き以外は。
「早く星、降らないかなぁ」
ここでしか取れない五つ葉のクローバーを摘みながら、ここでしか取れない星を待つケットシー。そんな物好きが彩音恋葉だった。
そんな危ない星を待っている理由は単純で、次に作る装備の強化のためだ。レベルキャップが外れ、基礎ポイントが増えた後もラックにガン積みした恋葉は、怖いものは無いと言ったように色々な危険地帯に素材を取りに行っては生きて帰っている。
「かれこれ1時間待ってるのに降らない……そもそも降るって噂の方が嘘だったか〜!?」
うがー!と寝転がりじたばたとすれば、こつりと手になにか当たる感覚。不思議に思い見てみれば、タケノコのように小さい、でも星のように美しい宝石が生えていた。
「なにこれー!知らない素材!昔落ちた星とかかな〜」
鑑定にて"星のカケラ"と表示されたものをゲットすべく、ゴソゴソとスコップを取り出し掘ってみる。ザクザクと軽快な音をさせながら順調に掘っていき、本当にタケノコのように生えたそれは自身の身長を超えるくらいになっていた。その頃にはもうコズハの頭の中には流れ星なんて無く、新素材で頭がいっぱいになっていた。
「お、根元かな?」
唐突に、今まで欠片が生えていた地面の素材が変わった。まるで鱗のようなそんな質感で嫌な予感しかしない。
「これ、持ってったらさては襲われるやつでは……?」
危機管理、大事。大事になる前に退散しようと振り向こうとした瞬間。
「ふ……ふわっくちん!!」
顔に土が付くのも気にせず掘っていたせいかくしゃみが出た。
それだけなら良かったが……。
「あ」
さっきまで手に持っていたシャベルがざくりと地面……いや、鱗に刺さる。
途端にグラグラと揺れ出す大地に慌てて離れれば、丘のてっぺんが剥がれたかという程の巨大な龍が地面から這い出てきた。
「やっちゃった」
そう呟いたところで後の祭り。急いでナイフを取りだし構える。
「実は初めての実戦なんだよねこのナイフくん。どれだけ切れるか試させて……ね!」
手を振り下ろしてくるのを勘で避け、そのまま手を繋い登っていく。
「これだけ近ければ私でも!」
肩まで登り詰め目を狙いナイフを投擲すれば、たまたまこっちを見てくれた瞳にクリティカルヒットする。
痛みで暴れる龍に乗っていられる訳もなく飛び降りて猫特有の着地ダメージ無効化の恩寵を得る。すぐさま距離を取れば一通り痛がった龍とやっとしっかり目が合った。
星を喰らう龍 ―ヘスペリオス―
名前なんてついてるくらい強いんだ。
ふと、みんなと攻略していた時を思い出す。緑色のタンクや赤髪青メッシュの獣人、ニヒルな笑いのダークエルフも名前で元ネタが分かったんだろうな。なんて考えている間にも龍は距離を詰め攻撃しようとしてくる。
「リターン!」
途端、龍からこちらに向かって飛んでくる影。タイミングよく掴めば、それは先程投げたナイフだった。
「よし、武器の調子も上々!」
新作武器"スタースレイヴ"はコマンドを唱えると戻ってくる優れものだ。更にクリティカルすると威力が10倍になるという破格仕様。実際、目を切りつけただけで……まあ……一割にも満たないけど目に見えるくらいは減ってるかな……。
元々の攻撃力が低いせいで焼け石に水状態ではあるだろうけれど無いよりはいい。
「この調子で……!」
構えて投げる。投げてる間に距離をとる。武器は運よく鱗の隙間に突き刺さり、クリティカルダメージを与える。
コマンドを唱え、また構えては投げ、逃げる。構えては投げ、逃げる――
ひたすらそれを繰り返して早一時間。龍のHPはやっと8割を切ったころ、状況に変化が生じた。
パキッ……
聞きなれた、嫌な音。武器の耐久値が限界を迎えポリゴン化する。
「しまった……壊れっ」
そちらに気を取られたのがいけなかった。龍の羽ばたきで巻き起こった風にまんまと飛ばされ近くの岩に激突する。
ただそれだけでも見る見るうちにHPバーが減っていき、一気に赤ゾーンに突入する。
「当たったら即死なのは分かってたけどまさかこれだけでもとは……」
衝撃で体に力が入らない。回復薬を飲もうにも動けない。
ゆっくりと近づいてくる龍をただ待つだけになってしまった。
死んでしまう。怖い。けれどどこか清々しいと思ってしまう自分がいる。
精いっぱい戦ったのだ。戦い慣れしてなさは否めないけれど。
「これなら、仕方がない、よなぁ……」
龍の爪が振り上げられる。背後で瞬く星がずっと眩しくてきれいで。
段々、白く眩しくて目が開けられなくなって――――――
キーンと耳鳴りがした。次いでドガーンッと破壊音。
恐る恐る目を開けて見れば、目の前の龍の体が半分消し飛んでいた。
「は……はは……っ降ったんだ。星」
身体のど真ん中をくりぬかれた龍の足元には、きらきらと輝く虹色の宝石。
鑑定で見てみれば、正真正銘の流れ星で。
「今回も、幸運で生き延びたのか……」
そうとしか言いようの無い状況に苦笑いする。
回復薬を飲み、素材を切り分けて一息つく。さすがにこんな大きいもの、一人で運ぶにはインベントリが足りない。
コマンドをタッチしてフレンド欄を呼び出す。
前と比べて少なくなった一覧に少し、手が止まり、上の方のプレイヤーへと通話をつなげる。
「あ、もしもし?私だよ。コズハ!ちょっと星見の丘まで来てくれない?――――あーあれね、大丈夫。
2時間に1回しか流れないからさ――――」